[1999年4月]
本稿は、当事業団が平成9年度に行った「海外研究調査事業」の中で海外主要5ヵ国の砂糖産業についてイギリスの調査会社LMC International Ltd.に委託し、報告を受け翻訳したものです。
今月号では、フランス・ドイツに続き、イギリスの砂糖産業についてご紹介します。
― イギリス ―
砂糖産業に関する全般的な情報
1.国内の需給バランス
表:イギリス1が示しているように、イギリスは、構造的に輸入国である。イギリスのビート糖産業は、国内で生産されたビートから、国内の需要の半分以上を供給している。残りは、特恵砂糖若しくは不足が生じた場合に行われる特別特恵砂糖の輸入割当の一部として、ACP 諸国から輸入されている粗糖を精製することによって供給されている。
イギリスはまた、約50万トンの砂糖を輸出している。平均して、輸出される砂糖の半分はC糖であり、残りは輸出払戻金の補助を受けて輸出されているA割当若しくはB割当である。表:イギリス1は、ビート糖の生産量の増加傾向及び砂糖消費量の減少傾向を示しており、いずれも以下の節でより詳細に論じる。
表:イギリス1 砂糖の需給バランス〔1994/95−1996/97〕
| 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
生 産 | 1,371 | 1,322 | 1,605 |
消 費 | 2,384 | 2,310 | 2,313 |
輸 入 粗糖 白糖 合計 |
1,465 83 1,549 |
1,349 109 1,458 |
1,221 131 1,352 |
輸 出 粗糖 白糖 合計 |
10 576 586 |
11 409 420 |
11 438 449 |
在庫変化 | -50 | 50 | 195 |
2.ビート及びビート糖の生産実績
表:イギリス2は、イギリスにおけるビート部門の農業生産量に関するデータを示している。上述のビート糖の生産量の増加は、ビートの栽培面積の拡大によるものではなく(栽培面積は、停滞したままである)、単収及び根中糖分の向上によるものである。
国内ビートの総生産額は、調査されている3年間で増加している。この増加の一部は、ビート価格の上昇によるものであるが、主にビート生産量の増加によるものである。しかし、イギリスの農業総生産額もまた増加しているため、ビートの総生産額の割合は、情報が入手されている2年間において、同じ割合となっている。
イギリスにおける全てのビートは、独立的な農場経営者によって栽培されている。イギリスの平均的な農場の規模は、156haとEUにおいては最大である。そのうち平均約23haは、ビートが栽培されている。
表:イギリス2 ビートの農業生産〔1994/95-1996/97〕
| 単 位 | 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
収穫面積 | 千ha | 170 | 170 | 170 |
ビート生産高 | 千トン | 8,028 | 8,093 | 8,808 |
ビート単収 | トン/ha/年 | 47.0 | 48.0 | 52.0 |
産糖量 | 千トン/粗糖換算 | 1,371 | 1,322 | 1,605 |
原料処理量/産糖量 | トン | 5.9 | 6.1 | 5.5 |
A ビート生産額 | 千US$ | 367,188 | 374,677 | 420,069 |
B 農業生産額 | 千US$ | 20,346,120 | 22,116,440 | ― |
A/B比率 | % | 2.0 | 2.0 | ― |
3.生産量及び消費量の内訳
イギリスにおける砂糖の生産量の内訳は単純である。国内で生産されている全ての砂糖は、国内のビートから製造されるか、若しくは輸入された粗糖から精製される白糖である(表:イギリス3を参照)。原料糖は、国内では全く生産されていない。
表:イギリス3 砂糖生産の内訳〔1994/95−1996/97〕
| 1994/95 | 1995/96 | 1996/97 |
ビート糖から | 1,371 | 1,322 | 1,605 |
輸入粗糖から | 1,465 | 1,349 | 1,221 |
合 計 | 2,836 | 2,671 | 2,826 |
表:イギリス4は、1994年から1996年における消費量の水準及びパターンの変化を示している。この表から、1人当たりの消費量が5%減少し、砂糖の総消費量が3%減少していることが分かる。この消費量の減少は、家庭用、菓子類及び他の用途(食品以外の利用を含む)における砂糖の消費量の減少によるものとされている。
砂糖の総需要量は、今後10年間にわたっていくつかの理由により減少し続けるものと予測されている。第一に、国民が食事の変化に伴い、家庭用の消費を減少させ続けるものと思われること、第二に、砂糖と人工甘味料の混合利用とダイエットを目的とした人工甘味料の増加が飲料及び乳製品部門における砂糖の需要を減少させるものと思われることである。人工甘味料の消費量は、1990年から1996年の期間に4%増加しており、増加は1993年以降に生じている。
表:イギリス4 砂糖消費量の内訳〔1994−1996〕
|
1994年 | 1995年 | 1996年 |
千トン | % | 千トン | % | 千トン | % |
家庭用消費 | 586 | 25 | 566 | 24 | 541 | 23 |
加工用消費 飲 料 パ ン 類 菓 子 類 乳 製 品 缶詰製品とジャム 他の用途(食品外含む) 小 計 |
482 372 467 67 284 123 1,796 |
20 16 20 3 12 5 75 |
482 374 467 67 284 119 1,793 |
20 16 20 3 12 5 76 |
477 372 461 65 281 113 1,770 |
21 16 20 3 12 5 77 |
合 計 | 2,382 | 100 | 2,359 | 100 | 2,311 | 100 |
1人当たりの消費量(kg/1人) | 41.0 | | 40 | | 39.1 | |
また、各種人工甘味料の消費のパターンも変化している。イギリスは、ダイエット飲料において、極めて大量のサッカリンを使用している。これは、戦時中の配給制度の名残りである。しかし、サッカリンのシェアは、1990年の人工甘味料市場の75%から、1996年には57%に減少している。この期間においては、アスパルテームのシェアは23%から35%に増加しており、アセスルファムーKのシェアは2%から8%に増加している。
異性化糖は生産割当のために、生産増はないものと思われ、砂糖需要への異性化糖部門の実質的な影響はない。
4.異性化糖の位置付け
表:イギリス5から、砂糖と比較して、イギリスにおける異性化糖の生産量及び消費量が低いことが分かる。異性化糖は、表に示されている3年間の砂糖及び異性化糖の総生産量及び総消費量の僅かに2%を占めるに過ぎない。これは、主として、異性化糖の生産量が他のEU加盟国と同様にイギリスにおいてもイソグルコース割当によって規制されているためである。
異性化糖については、EUの加盟国と僅かな量の取引きがあるだけであり、小麦からのみ生産されている。
表:イギリス5 異性化糖・砂糖の生産量及び消費量
〔1994/95−1996/97〕
|
1994/95 |
1995/96 |
1996/97 |
生 産 量 |
砂糖 A
異性化糖
%(異/砂) |
1,371
27
2.0 |
1,322
27
2.0 |
1,605
27
2.0 |
消 費 量 |
砂糖 B
異性化糖
%(異/砂) |
2,384
34
1.0 |
2,310
48
2.0 |
2,313
45
2.0 |
輸 入 |
砂糖 C
異性化糖
%(異/砂) |
1,549
7
0.0 |
1,458
21
1.0 |
1,352
17
1.0 |
輸 出 |
砂糖 D
異性化糖
%(異/砂) |
586
―
― |
420
―
― |
449
―
― |
在庫(A-B+C-D) | -50 | 50 | 195 |
注: |
異性化糖の生産量は固形換算で表されているが、砂糖のデータは他の表に合わせるために、粗糖換算で表している。 |
グラフ:イギリス1 砂糖と異性化糖の平均需給バランス
(1994/95-1996/97)
5.砂糖産業の現状
(1) ビート糖
表:イギリス6は、イギリスにおいて現在操業されているビート糖工場を示し、工場を所有している企業を示している。
イギリスのビート糖業は、全てのビート工場がBritish Sugar社によって専有されていることで、他の国とは異なっている。British Sugarは、よりコスト効率を良くするために、全ての製糖業者を合併する目的で、1930年代にイギリス政府によって設立された。British Sugarは国営化ではなかったが、政府は、British Sugarの株式の一部を保有していた。
1982年に、政府は、British Sugarの親会社であるBerisford International社に残った株式をすべて売却した。その後、Berisfordは、深刻な財政危機に直面した後、1991年に、British Sugarを現在の所有社であるAssociated British Foodsに売却した。
長年にわたって、ビート糖業は合理化され、1960年には、約20ヵ所の工場を抱えていたが、1993年までには徐々に減少し、10工場となった。1980年代初頭に、一部はイギリスの生産割当の削減のために、一部は大規模工場への集約を図るために閉鎖された。
表:イギリス6 ビート糖企業:
現在の工場分布及び1996/97年の生産データ
会 社 | British Sugar (Associated British Foods) |
工場数 | 9工場 |
工場の所在地 |
Allscott, Kidderminster―West Midlands
Bury St.Edmunds, Cantley, Ipswich, Wissington ―East Anglia
Bardney―Lincolnshire
Newark―Nottinghamshire
York―North Yorkshire |
製糖期間 | 9月〜1月 |
稼働日数(注)(日/年) | 127 |
生産量(粗糖換算)(千トン) | 1,605,214 |
原料処理量/産糖量(トン) | 6.0 |
平均根中糖分(%) | 18.0 |
(注) |
稼働日数は、それぞれの工場が平均的な歩留りで操業するものと仮定して、それぞれの年の砂糖の生産量及び年間の加工能力から推定されたものである。稼働日数は、休止期間を差し引いたものである。 |
この合理化のプロセスは、1993年以降は ゆっくりとしたペースで継続されており、1994年にEast AngliaのKing's Lynnの工場が閉鎖されているのみである。Wissington工場が、King's Lynnの工場の閉鎖による生産量の減少を埋め合わせるために拡大された
1996年に、British Sugarは、Allscott及びKidderminsterの2工場を1工場に合理化することを決定した。双方の工場とも、ビートを加工し続けるが、管理コスト及びビート以外の資源は、双方の間で分配されることとしている。
イギリスのビートの平均根中糖分は、1996/97年には、18%を上回っており、1トンの砂糖を生産するために、6トン未満のビートで足りていた。
(2) 精製糖
精製糖産業は、ただ1社によって専有、経営されているという点でビート産業と類以している。表:イギリス7は、昨年、2番目の精製糖工場を閉鎖したことによって唯一の精製糖工場となり、現在の所有者はTate&Lyle社であることを示している。
表が示しているように、精製糖工場は、1工場のみで、Tate&Lyle社によって専有され、経営されている。この会社は、Tate&Lyleファミリーの砂糖販売部門と精製糖部門の合併の結果として、1921年に設立された。この会社は、現在、EUにおける最大の精製糖業者である。
ビート製糖業と同様に、精製糖産業は、大きな合理化の波を受けた。1900年には、イギリスには16工場が存在した。1976年には、Tate&Lyle社が、イギリスの精製糖業者を買収し、唯一の企業となり、操業されていた3工場がその支配下に入った。1980年には、Tate&Lyle社は、EUの他の生産者との競争に入り、イギリスがEUに加盟した後に、設備過剰となった3番目の精製糖工場を閉鎖した。
1997年8月には、Tate&Lyle社は、グリーノックの2番目の精製糖工場を閉鎖し、総能力を維持するために、Themesの精製糖工場を拡大している。Themes精製糖工場の精製能力は、年間13万トン増大し、年間123万トンに達するものと思われる。
表:イギリス7によって明らかにされている興味深い点は、Themes精製糖工場が国の休日の約6日間休業しただけで、年間殆ど操業していることである。
表:イギリス7 精製糖企業:
現在の工場分布及び1996/97年の生産データ
会 社 |
Tate&Lyle Sugars (Tate&Lyle) |
工場数 | 1工場 |
工場の所在地 |
Themes Refinery−London |
精糖期間 | 1年間 |
稼働日数(日/年) | 359 |
生産量(千トン) | 1,205 |
砂糖の流通
Tate&Lyle社もBritish Sugar社もともに、実需者向け及び小売向けの顧客に直接的に、または卸売業者を通して間接的に販売している。卸売業者は、概ね実需者へ供給しているが、最大の卸売業者は、砂糖を包装して、独自のブランド名で小売向けに直接販売している。
国内の砂糖の約26%は、小売用の包装で、イギリスの砂糖生産者によって直接販売されている。17%は袋で実需者向若しくは卸売業者に販売され、39%はバラ荷で販売されており、16%は液糖として販売されている。また、これらの数字は白糖の販売に基づいているが、ブラウン・シュガー、氷砂糖及びキャスター・シュガーなどの特殊な砂糖も含まれている。これらの特殊な砂糖の販売高は、総販売高の8%を占めている。
砂糖産業の現在の問題
イギリスの砂糖産業が現在直面している大きな問題は存在しない。Tate&Lyle社は、コストを削減し、効率を高める目的で、産業を再編成するために、できる限りのことを実施した結果、最終的にはスコットランドのグリーノック精製糖工場を閉鎖している。一方、British Sugar社は、EUの中でも最も能力の高いビート製糖会社の1つである。
原料へのアクセスの確保及び他の企業、若しくは砂糖産業との競争など、その他の懸念は、EU の砂糖制度によって2000年までは現在の形で実施されるものと思われる。
したがって、砂糖産業が直面している課題は、EU全体の将来の政策の変化によって提起されている。EUの農業部門全体における価格及び所得に対する支持を削減させようとする国際的な圧力の下で、EUは、砂糖産業に対する価格支持を削減することを検討している。国内価格及び輸入関税によってEUの生産者に与えられている保護は、ガット農業合意による実質的な影響は受けていないが、砂糖に関する輸出補助金を削減するというEUの約定は、輸出払戻金の補助によって輸出されている砂糖の数量を減少させるものと思われる。さらに、将来を見てみると、WTO交渉の次のラウンドにおいては国内砂糖価格を下げるようEUに対してさらに大きな圧力がかかるものと思われる。しかし、このことは、輸入された原料糖の精製糖業者よりも、むしろ国内のビート糖の生産者に、より大きな影響を与えるものと思われる。白糖介入価格の引き下げは、ビートの生産者及び製糖業者の収益に直接的な影響を与えるが、それが精製糖業者のマージンへの影響は、原料糖介入価格の引き下げにつながるものの間接的であるために影響は小さい。
しかし、EUの精製マージンが低下したとしても、イギリスの精製糖産業(Tate&Lyle社)は、EUの中でも精製コストが一番低いため、EUの他の精製糖産業より、生き残るために有利な立場にある。さらに、イギリスの精製コストは、世界の平均を下回っており、これはイギリスがEUの外部の精製糖業者とも競争できる位置にあることを意味している。
さらに、イギリスの砂糖産業全体が直面している長期的な問題は、砂糖市場の縮小である。既に「I.3.生産量及び消費量の内訳」において述べたように、主に人工甘味料による砂糖への侵蝕のために、砂糖の1人当たりの需要及び全体的な需要は低下している。砂糖産業は、1990年代初頭にこの問題への取り組みに着手し、イギリスの砂糖業界全体で宣伝キャンペーンを開始した。このキャンペーンは、Tate&Lyle社及びBritish Sugar社によって共同で資金を供給されており、「自然の日光」からの砂糖に焦点が当てられた。このキャンペーンは1991年には、低い水準から消費量を高めることに成功した。しかし、全体的消費量及び1人当たりの消費量は、1993年には再び減少した。1995年には、Tate&Lyle社は、スーパー・マーケット・ブランドの砂糖と競争して、自社の砂糖を販売促進するために宣伝キャンペーンを行った。これは、イギリスの砂糖市場におけるTate&Lyle社のシェアを維持するのに役立ったようである。