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米国の砂糖需給と政策およびバイオエタノール産業の情勢と今後の見通しについて(1)〜国際甘味料シンポジウムの結果とカリフォルニア州での現地調査結果などを踏まえて〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から

[2007年12月]

調査情報部 部長 加藤 信夫
調査情報部調査情報第三課 課長代理 天野 寿朗
調査情報部調査情報第三課 係長 菊池 美智子

1.調査の目的と意義
2.調査・分析方法
3.調査結果
・米国の最新の砂糖需給と砂糖政策の検討状
・EU砂糖制度改革の実行状況と影響
・米国の砂糖業界のWTO交渉に対する考え方
・メキシコとの砂糖およびHFCSについてのNAFTAの実行問題と2008年からの完全自由化の影響
参考文献


 米国カリフォルニア州にて開催された米国砂糖連盟(ASA : American Sugar Alliance)が主催する第24回国際甘味料シンポジウム(2007年8月4〜8日)に参加し、米国の砂糖需給や政策に関する最新の情報を収集するとともに、米国で最大のエタノール消費地であるカリフォルニア州でバイオエタノールに関する現地調査を行ったので、その内容を2回に分けて報告する。
 まず、今回は米国の現行砂糖政策の効果、最新の需給事情とFTAが進展する中での需給見通し、2007年農業法の下での砂糖政策の検討状況、EUの砂糖制度改革の影響、WTO交渉に対する米国砂糖業界の立場について報告し、次回は、最近の米国でのエタノールの生産・利用状況、大消費地であるカリフォルニア州での生産・利用の特徴や政策および研究活動、甘味資源作物を使ったハワイ州での取組、今後の見通しについて報告する。

1.調査の目的と意義

 わが国は、WTOにおける国際規律の強化、砂糖消費の継続的減少、財政事情(調整金の構造的悪化)等の理由から、昭和40年に発足した砂糖制度の大改革を行った。具体的には、19年産からてん菜およびさとうきびの最低生産者価格の廃止、てん菜については品目横断的経営対策へ移行、さとうきびについては生産者への交付金の直接支払を含めた品目別政策への移行などの政策変更を実施した。
 他方、諸外国の砂糖政策をみると、国際的に多くの国が国内措置、国境措置、輸出補助政策などの保護政策を継続している状況にある[1]。 
 米国の砂糖政策も1981年にローンプログラムを柱とする制度が導入されて以来、政府による需給管理政策を基本とした財政負担を伴わない基本政策は維持されてきている。米国は、以前より砂糖の輸入国であったが、ブッシュ政権下での自由貿易協定(FTA)交渉の推進により、将来、現行の政策の下では需給バランスが崩れ、国内価格の維持が困難となるのではとの懸念が広がっている。
 一方、EUにおいても余剰砂糖の輸出促進効果があったC糖制度などが2005年4月にWTO違反との判決を受け、2006年7月から生産割当枠と域内価格の削減、製糖工場の整理を促進するための施策等により、域内生産を大幅に縮減させ、砂糖輸出から脱却する大改革を実行しており、すでに砂糖の純輸入地域に移行している。
 米国もEUもわが国と同様に砂糖の輸入国および地域であり、FTAが進展している米国の需給事情や2007年農業法の下での砂糖政策の検討状況、並びに改革直後のEUの状況を知ることは、我が国の今後の砂糖政策を考える上で、また国際的な砂糖需給を予測する上で有益である。
 WTO交渉への対応に関しては、WTO交渉の主要プレーヤーであり、農畜産物の輸出国および地域でもある米国とEUにおいて、ともに主要な輸入品目となっているものは砂糖くらいである。このため、米国およびEUの国際交渉における砂糖業界の立場や行動を把握することは、我が国の交渉ポジションを検討する上で参考になると考える。
 また、1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)については、米国はメキシコとの間で砂糖とHFCS(異性化糖)の合意内容について長年論争してきており、ようやく2008年1月からの完全自由化が実現されることになった。現在両国の砂糖および異性化糖関係者は、双方の関係業界が発展するための方策を議論している。FTAは本来の目的はそのようにあるべきであり、両国の関係業界の対応や予想される影響を知ることは、わが国の今後の経済連携協定(EPA)交渉の対応等において参考になる情報であると考える。
 バイオエタノールに対するわが国の関係者の関心は依然として高いものがある。当機構も19年度からでん粉に関する情報収集提供業務を新たに担うことになったが、HFCSをはじめとする糖化製品では、原料であるとうもろこしの価格高騰の影響を受けている。米国のバイオエタノール生産については、主産地である中西部に関する情報は多いが、国内最大のガソリンとエタノールの消費地であるカリフォルニア州の状況はこれまでにあまり知られてはいない。今回のシンポジウム参加の機会を捉えて、カリフォルニア州のエタノール生産と利用状況を調査したが、この調査結果を整理し、米国のバイオエタノール産業の今後について考察することは価値があると考える。

2.調査・分析方法

 ①第24回国際甘味料シンポジウムの結果、②この機会を利用したASAのJack Roney氏、British Sugar社のSimon Harris氏らの関係者との協議、③カリフォルニア州食料・農業省(CDFA:California Department of Food and Agriculture)、カリフォルニア州立大学(UC)Davis校、サクラメント地域の電力会社であるSMUD(Sacramento Municipal Utility District)、同州のエタノール工場、でん粉・異性化糖工場、とうもろこし農家などへの訪問を通じた現地調査、④関連の文献サーベイにより、本レポートを作成した。

3.調査結果

(1)米国の最新の砂糖需給と砂糖政策の検討状況
①米国の砂糖政策の目的と役割
 米国の砂糖政策は農業法(Farm Bill)によって定められており、現行政策は2002年農業法に基づいている[2][3]。砂糖政策は、主に①製糖事業者への販売割当(Marketing allotments)による流通規制、②関税割当(TRQ:Tariff Rate Quota)を通じた輸入規制による国境措置を通した、補助金に依存しない需給管理政策が特色であり、これにより適正な国内価格を維持し砂糖業界の健全な発展を目指している。1981年に現在の形に近い市場調整による砂糖政策が実施されて以来、その基本形は継続されているが、ここ10年では商品金融公社(CCC)への質流れによる財政支出は3回であり、概ね「No cost(財政負担ゼロ)」が維持され、需給バランスも保たれてきた[4][5]。
 しかしながら、2005年夏のルイジアナ州に未曾有の被害をもたらしたハリケーン・カトリーナの影響を受けて、2005/06年度の砂糖生産量が落ち込んだ。このため、政府によるTRQの追加割当てにより輸入量が増加したが追加割当のタイミングの遅れもあり、結果として供給量が消費量を上回る事態となった(図1)。

出典:USDA(ERS)Sugar and Sweeteners Outlook,June 4, 2007
図1 米国の砂糖の需給バランス

出典:USDA(ERS)Sugar and Sweeteners Outlook,June 4, 2007 ほか
図2 米国砂糖の需給状況
(2006/07 年度(10 〜9月)推定値)


②FTAの進展が砂糖需給に与える影響
 2006/07年度においては、国内生産量と輸入量を加えた供給量が推定需要量に達しておらず3万3,000トンの余裕がある(図2)。しかし、表1のようにNAFTAや中米自由貿易協定(CAFTA)に加え、議会承認待ちや交渉中のFTAを考慮すると、近い将来、輸入量の増加により余剰が生じる可能性が十分にある。特に、NAFTAの下で2008年1月からの砂糖の完全自由化が始まると、メキシコからの砂糖の輸入量は、2010年には70〜120万トン(2006/07年は23万トン)に増加すると予測されており、現在(2006/07年度)の需給事情(3万3,000トン程度の余裕しかない)を考慮すると、現行の財政負担を伴わない需給管理政策のみでは需給バランスを適正に保つことが難しくなる[6]。
 さらに、現在交渉中の世界第3位の砂糖輸出国であるタイや年間140万トンの輸出規模を持つ南アフリカとのFTA交渉の結果次第では、輸入量はさらに増加することとなり、長年継続されてきた米国の砂糖政策は岐路に立たされていると言ってよい。

表1 米国の砂糖輸入の国際的な譲許状況
注1:FTAA はFree Trade Area of the Americas で24 の砂糖輸出国を含む。
注2:NAFTA、CAFTA、ペルー、コロンビア及びパナマの輸入量は、UR のミニマムアクセス数量の外数。
注3:ASA によれば、コロンビアとのFTA は労働問題のため、議会通過は難航が予想されるとのことであった。
資料:ASA のRoney 氏から入手資料を基に作成

③2007年農業法での砂糖政策の検討状況
 現行の2002年農業法が2007年9月末までの期限付きであったため、現在、2007年農業法が検討されているところである。下院では、法案の審議が2007年5月から行われており、シンポジウム開催直前の7月27日に通過したところであった。下院通過案では、砂糖政策に関しては、現行の基本政策を維持した上で、予想される輸入量の増加に備えて、砂糖・エタノールプログラム(Sucrose―Ethanol Program)を新たに加えている。
 下院案の主な内容は、以下のとおりであり、①現行の需給管理アプローチの維持、②新しい市場調整メカニズム(砂糖・エタノールプログラム)の導入、③全体の販売割当量(Overall Allotment Quantity)の設定、④輸入管理(TRQ)の存続、⑤ローンレートの引き上げ、となっている。
  現在、上院農業委員会で農業法案が審議されているが、委員長案では砂糖・エタノールプログラムの導入も含めた下院案に類似した内容となっている[7]。上院での審議も下院と同様に財源問題が議論の中心になる可能性が高い。
 この下院案に対しての業界関係者の意見は表2のとおりだが、砂糖業界は、現行の基本政策の存続を評価している。また、輸入量の増加に備えた砂糖・エタノールプログラムが盛り込まれたことについては、高く評価され、大きな期待が寄せられている。
 一方、ユーザー団体である甘味料利用協会(Sweetener Users Association)は、シンポジウムにおいて、現行の砂糖政策が砂糖の価格を押し上げており、またハリケーン・カトリーナの被害対応の遅れから、国産の砂糖を安価で安定的に供給する必要性を指摘し、市場を歪曲しない直接支払などの政策によって生産者所得支持を求め、下院通過案に対して否定的な意見を表明した。

〜2007年農業法下院案の概要〜

①需給管理アプローチ
 従来と同様に、補助金に依存せず、製糖事業者への販売割当やTRQにより国内流通量を調整し、USDA(米国農務省)の推定国内需要量を超えるものは生産者負担により国内市場に流通できない在庫(Blocked stocks)とする。また、引き続きTRQにより輸入量を調整する。

②砂糖・エタノールプログラム
 国内需要を超える輸入が生じた場合には、エタノール生産向けに利用することとし、USDAが毎年9〜10月に輸入量のうち余剰分を推定する。この余剰輸入分についてはUSDAが入札を実施し、最も低い売渡価格を提示した製糖工場と、最も高い買入価格を提示したエタノール工場の間で取引が行われ、その差額をUSDAが補てんする(図3)。入札により落札数量が全量に満たなかった場合には、残りの分について適当な時期に再度入札が実施される。
 ローン・プログラム(Loan Program)で質流れが生じた場合には全額が商品金融公社(CCC:Commodity Credit Corporation)を通じてUSDAの負担となるが、砂糖・エタノールプログラムではUSDAの負担は売渡価格と買入価格の差額のみに抑えられる。
 なお、この仕組みは、輸入糖での余剰分にのみ適応され、国内産の在庫を解消するためには用いない。

資料:ASA のJack Roney 氏から入手資料を基に作成
図3 砂糖・エタノールプログラムの仕組み

③全体の販売割当量
 砂糖消費量の85%程度を国産の砂糖で賄うこととし、USDAは毎年夏に次年度の消費量を推定して全体の販売割当量を定める。一方で、現行の農業法で定められている、輸入量が139万トンを超えると予想される場合に発動できる販売割当の停止措置は廃止される。

④輸入管理
 年度当初にはWTOおよび中米自由貿易協定(CAFTA)による関税割当分を割り当て、緊急事態を除いては原則として4月1日まで追加の割当を行わない。割当の追加は、国内生産量、当初のTRQ、メキシコからの輸入量の合計が国内需要に満たない場合にのみ行う。

⑤ローンレートの引き上げ
 従来、製糖事業者に対するローン・プログラムによる価格支持が行われているが、さとうきび粗糖では1ポンド当たり0.5セント引き上げて18.5セントに、ビート精製糖では0.6セント引き上げて23.5セントとする。

表2 2007 年農業法下院案に対する関係者の意見
資料:ASA シンポジウム講演内容より作成

④2007年農業法下院案(特に砂糖・エタノールプログラム)の実行性について
 2007年農業法案の中に盛り込まれた、砂糖・エタノールプログラムが機能した場合には、輸入量の増加に伴う供給過剰分を消費する手段として有効である。しかし、砂糖・エタノールプログラムに関して、訪問先のエタノール製造工場に尋ねたところ、2007年農業法案に盛り込まれていることは認知されていなかった。とうもろこしを原料にしたエタノール生産の発酵促進のために砂糖を加えることは技術的には可能であり、とうもろこしの使用量が節約できるメリットも考えられる。しかし、当該工場収入の約25%を占める副産物(蒸留粕など)が減少するかどうかが気がかりであるとの意見であった。
 最近のように、とうもろこし価格が高騰する一方で、エタノール価格が下落傾向にあり工場の利益が小さくなっている場合には、砂糖の落札価格次第ではエタノール工場にとって魅力的であるかもしれない。
 いずれにしても、当該プログラムが機能するかどうかは、砂糖価格、エタノール工場で生産される副産物への影響、さらには必要な砂糖の確保が課題となろう。また、このプログラムは入札の結果によってはUSDAによる補てん額が相当の額になる可能性もあり、これまでの米国の砂糖政策の根幹であった「No Cost」政策が崩れることになる。
 また、ローンレートが引き上げられると、粗糖のローンレートは1985年以降の引き上げとなるが、砂糖生産者にとっては最近の原油高などによる製造コスト上昇分をいくらか補えることになる[8]。一方、砂糖の質流れが生じる可能性が高くなることから、CCCでは負担するリスクが大きくなる。砂糖・エタノールプログラムの実行においても、砂糖製造者の入札価格が高くなることが考えられ、USDAによる補てん額も大きくなる可能性がある。

(2)EU砂糖制度改革の実行状況と影響
 EUの砂糖制度についても、1968年の制度発足以来、長年にわたり、生産割当(クォータ制)、介入制度(価格支持)、C糖制度などの基本政策はCAP改革の影響を受けずに維持されてきた。
 しかしながら、C糖の輸出およびACP諸国からの砂糖の再輸出が2005年4月にWTOで違反判決を受けたことから、2006年7月より、輸出に頼らないで域内で需給バランスを保つことを目指した制度改革が実行されている。改革では、改革前のEU生産量約1,900万トン、輸入量約200万トン、消費量約1,600万トン、輸出量約500万トンの需給状況から、輸出量を当面100万トンに抑え、最終的にはゼロとすることを目標に、域内供給量を消費量に見合う量に調整することが主眼となる(図4)。そのためには、生産量の削減が最大の課題となり、改革が進められてきた結果、2007/08年度にはこれまでの世界第2位の砂糖の輸出地域から純輸入地域へと転換した[9]。
 EUでは、生産量を4年間で600万トン削減するとの目標を示しており、生産割当の削減に関しては、強制的な削減ではなく、製糖工場の廃業を促すために一定の条件を満たす製糖工場に再構築資金(Restructuring Fund)を支給して、自主的に生産放棄させる方法を取っている(表3)。しかしながら、工場閉鎖を決断するには生産者との協議が必要であり、調整協議が難航していることや工場閉鎖に伴う失業者の雇用確保(再構築資金を受ける条件の一つ)の問題により、実際には2年間で220万トンの削減に留まっており、現段階では順調に廃業(生産割当の返還)が進んでいるとは言えない。そこで、再構築資金をはじめとする砂糖制度改革プログラムの見直し案が検討され、2007年9月にEU農相理事会で承認された[10]。
 見直し案の内容は、①てん菜生産者等に支払われる再構築資金は、これまで10%以上支払われていたものを10%に固定する。これに伴い、生産割当を放棄したてん菜生産者には、2008/09年度にはトン当たり237.5ユーロが追加支給される。②てん菜生産者は、工場の持つ生産割当枠の10%までの範囲内で自由に割当の放棄(=再構築資金)を直接申請できる。③製糖工場に対して、2008/09年度に一定の割合の割当を放棄する場合には、前年度に放棄した割当分に対する再構築課徴金の支払いが免除される、としている[10]。
 以上のEUの砂糖政策の大改革により、国際市場に約500万トンの供給不足が生じることになり、その影響は大きい。世界最大の砂糖生産・輸出国であるブラジルが、この減少分の6割程度を賄うとの見方もある[11]。また、EU域内価格が36%削減されたことにより、これまで優遇されたEUの域内価格で砂糖を輸出可能であったACP諸国への影響も大きい。さらに、EUは1975年のロメ協定、2002年のコトヌー協定による優遇措置を含む条約の廃止を決め、経済連携協定(EPA)に移行するとしている[12]。これにより、ロメ協定など下での優遇措置は2008年1月から撤廃され、その他のLDC諸国(後開発途上国)と同じ扱いを受けることになる。すなわち、ACP諸国から輸出される砂糖については移行期間が設けられるが、LDCと同様に、2015年にはEUに無税無枠で輸出できることになる[13]。
 英国のBritish Sugar社の政策アドバイザーのSimon Harris氏によれば、ACP諸国の中には、すでにEUの砂糖改革により砂糖生産を停止せざるを得ない国とEUへの輸出の増加を見込んで生産を拡大している国との二極化が見られている。具体的には、トリニダード・トバゴではすでに生産を停止しており、ジャマイカ、バルバドスでも停止する見込みである。一方、モザンビーク、マラウイ、タンザニア、スワジランド、ザンビアといった南部アフリカ諸国では生産が拡大しており、モーリシャス、ガイアナ、フィジーでは構造改革が必要ではあるが生産の維持は可能だろうとのことであった。
 シンポジウムにおいても、EUのACP諸国に対する思い切った政策変更により、ACP諸国を含む開発途上国にとっては、米国の砂糖制度、すなわち、40カ国にわたる国別TRQ(9割以上がLDCを含む途上国向け)の重要性がこれまでにも増して高まるとの発言もあった。
 EU域内への影響については、英国ではBritish Sugar社の2工場が閉鎖され、失業者問題が課題となっている。しかし、英国経済にとっては砂糖産業の占めるウェイトが小さいため、工場閉鎖による影響は甚大ではないが、砂糖産業の依存度が高いイタリア、スペイン、ポーランドなどでは工場閉鎖の影響は大きいとのことであった。
 また、EUの製糖企業の中には、域内での生産割当の減少に伴って予想される輸入量の増加を見込み、無税無枠でEUに輸出入できるLDC諸国へ進出する動きがある。例えばBritish Sugar社は南部アフリカのIllovo Sugar社をグループ傘下に置いたほか、中国にすでに所有している甘しゃ糖工場に加え、てん菜糖工場との提携も発表している[14][15]。

出典:British Sutar社 Simon Harris 氏
注1:EU25 加盟国ベース
注2:改革政策では、工業用は消費量(食用)から除外。工業用の消費量は約80万トン
図4 EU 砂糖政策改革前後の砂糖需給の変化

表3 Rrstructuring Fund の支払単価
資料:EU Press Releases IP/05/1473, November 24,2005

(3)米国の砂糖業界のWTO交渉に対する考え方
 米国では表1に挙げるように、二国間の貿易交渉(FTA交渉)が進展している。世界の砂糖生産の約3/4が甘しゃ糖由来のものであり、その多くが開発途上国で生産されている。しかも開発途上国も含めほとんどの砂糖生産国で様々な補助金や国境措置などが導入されているが、FTA交渉では市場アクセス(関税、関税割当など)の約束に限定される。このためASAをはじめとする米国の砂糖業界は、FTA交渉のような二国間交渉よりも、貿易障壁を含め多くの国で砂糖に講じられている多種多様な補助金をグローバルに捕捉できるWTO交渉を重視してきた[16]。
 しかし、ASAでは、現在協議が行われているドーハラウンドでは、開発途上国の利益がより尊重され、これらの国にはよりゆるやかな約束を課し、先進国のみに相当厳しい約束を課す方向に協議が進んでいると認識しており、WTO交渉への期待度は大きく低下している。
 砂糖については、開発途上国も様々な保護措置を講じており、国際需給にも大きな影響力を持つので、ある程度厳格な保護水準の引き下げを行わないと、米国の砂糖産業の競争力が相対的に低下するとの考え方が底流にある。
 今回のシンポジウムでは、ASAを含めた多くの農業団体の代表者が、開発途上国の労働、環境および安全性基準と言った不平等な交易条件を指摘していたのが特徴であった。すなわち開発途上国製品の低コストの要因は、これら基本的な条件が不適切な水準にあることが原因の一つであり、このような土俵(playing field)が異なる状況下でグローバルな貿易交渉が進められている現状に不満が増幅している感じを受けた。
 この他、NAFTAなどのFTAの結果、貿易赤字の拡大していることや適切な協議システムの欠如などを理由に米国の議会でのFTAに対する支持が低下している。特に、コロンビアとのFTAはすでに交渉は終わっており議会の承認を待つ段階にあるが、同国における労働問題により議会の通過は難航するだろうとの見解がシンポジウムで提示された。
 米国については、以上のこともあり、前回のUR交渉時と比べて、「内向き」になってきているとの印象を持っている。国際市場よりも国内市場重視の傾向は、米国のみならず、EU(27加盟国の巨大市場)などいくつかの農産物輸出国でもみられる傾向であると感じているところである。

(4)メキシコとの砂糖およびHFCSについてのNAFTAの実行問題と2008年からの完全自由化の影響
 NAFTAは、1992年に両国で合意したが、両国間で1993年に締結している「サイドレター」の内容の解釈をめぐって論争が行われてきた。このような中、メキシコ側がHFCSを使用した清涼飲料水に20%の飲料税と流通税を課税したことに対して、米国がWTOに提訴するなどの問題が生じていた[16]。メキシコの清涼飲料水への課税は、2006年3月にWTOのルールに違反すると判決され、両国間の協議により、2006年7月に清涼飲料水への課税の撤廃が約束され、砂糖及びHFCSの市場アクセス権についても合意した[17][18]。
 メキシコからの米国への砂糖輸入については、NAFTAにより2次税率が1994年から段階的に削減されてきたが、この合意によって、両国間での砂糖およびHFCSの貿易は、2008年1月から無税無枠の完全自由化となる。これにより、米国産HFCSのメキシコへのアクセス、メキシコ産砂糖の米国へのアクセスが大きく改善され、まさに甘味料全体の二国間統合が実現することになる。すなわち、メキシコでは米国産HFCSの輸入量が増加するのに伴い、国内でのHFCS消費量が増加し、その分、砂糖消費量が減少し、砂糖の輸出可能量が増加する可能性がある。このように、メキシコからの砂糖の輸出可能量(余剰分)は、今後のメキシコのHFCSの需給状況などにより影響を受けることになる。
 米国での砂糖需給については先に述べたとおりであるが、米国内のHFCSの価格は年々上昇する傾向にあり、それに伴い消費量が減少している(図5)[19][20]。特に2006年には、バイオエタノールの需要増により原料とうもろこしの価格が高騰し、HFCSの価格も大幅に上昇した。このように、米国のHFCSは価格競争力が低下している。
 一方、メキシコでは、2001/02〜2003/04年度にはHFCSを使用した清涼飲料水への課税により砂糖の需要が高まったことや、2004/05年度には米国でのハリケーン・カトリーナの被害により、米国向けの砂糖輸出が増加するなど、年による変動があるが、砂糖需給は豊作であった2004/05年を除くと、消費量の増加による不足分を輸入している状況である(図6)。

出典:USDA(EUS)Suger and Sweeteners Outlook,June 4, 2007 , Suger and Sweeteners Yearbook
注:価格は42%ものの価格
図5 米国のHFCSの消費・価格動向

出典:USDA(ERS)Sugar and Sweeteners Yearbook,June 4, 2007
図6 メキシコの砂糖需給

HFCSの需要は、砂糖需要との相関性が高く、清涼飲料水への課税や米国への砂糖輸出に伴う代替需要の影響を受けており、変動が大きい(図7)。しかしながら、清涼飲料水への課税は2007年1月に撤廃され、2008年からは完全自由化が実行されることから、今後は、HFCSの消費量が増加するとみられる。
 USDAが行った、メキシコでの飲料・甘味料におけるHFCSの使用される割合が75%になると仮定した場合のシミュレーションを図8に示した。この条件の下では、HFCSの需要は2006/07年度の65万トンから10年後には178万トンへと2.7倍に大きく拡大する。甘味料全体の需要の中でのHFCSの割合が高まることにより、砂糖の輸出余力も一時的には大きく増加(153万トン)するが、国内での砂糖消費量の増加に伴って次第に減少し、輸出量は2016年度には104万トンになると見通している[5]。
 ポンドあたりの2006年の平均価格を比較すると、米国の粗糖価格は22.14セント、メキシコのestandar(粗糖に相当)価格は28.69セントとなっている。精製糖の卸売価格もメキシコの方が高値であり、メキシコの砂糖業界にとって米国市場は必ずしも魅力的であるとは言えない[21]。
 2008年からの完全自由化を控え、米国の砂糖業界の中には砂糖の輸入量の増加に対して懸念する声も聞かれるが、一方、メキシコの砂糖業界にとっても価格面において米国市場が魅力的ではないことに加え、HFCSの輸入により国内シェアの減少が予想されるなど手放しで歓迎できる状況ではない。現在のUSDAの予想では、メキシコから米国への砂糖輸出が増加するとされている。余剰分の砂糖を輸出できることはメキシコにとっては有利ではあるが、そのことにより、米国内の砂糖価格が現在以上に低下した場合には、米国市場はさらに魅力を失うことにもなる。
 それゆえ、両国の砂糖とHFCSの需給状況や価格動向などの透明性を高める声が関係者から上がっており、両国の甘味料産業が発展するためにもお互いの状況を十分に知ることが前提となるのは言うまでもない。

出典:
USDA(ERS)Suger and Sweeteners Outlook,February 5, 2007
USDA(ERS)Suger and Sweeteners Outlook,June 4, 2007
図7 メキシコのHFCS 消費量および米国からの輸入量

出典:USDA(ERS)Sugar and Sweeteners Outlook, February 5, 2007
図8 メキシコの砂糖の輸出余力に関する シミュレーション
(HFCS の飲料・甘 味料のシェアを75%とした場合)

(参考文献)
[1] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Outlook,January31,2003,pp13―24
[2] 加藤信夫ほか、「米国の砂糖政策をめぐる情勢と砂糖需給」『砂糖類情報』 2006年11月号、2006年、pp35―45
[3] 加藤信夫ほか、「米国の砂糖政策と砂糖産業について」『砂糖類情報』 2004年9月号、2004年、pp27―40
[4] USDA(ERS),Sugar Background for1995Farm Legislation,April1,1995,pp23―25
[5] USDA(ERS),The2002Farm Bill : Background Publications CCC Net Outlays by Commodity and Function,Home Page
[6] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Outlook,February5,2007,pp2,21―25
[7] US Senate Committee on Agriculture,2007Farm Bill Producer Income Protection Title,Home Page
[8] ASA,Sugar Issue Brief,August2007,pp2
[9] 平石康久ほか、「EUの新砂糖制度の内容と利害関係者の動向」『砂糖類情報』2006年6月号、2006年、pp27―41
[10] EU,Press Releases IP/07/1401,September26,2007
[11] 加藤信夫ほか、「ブラジルにおける砂糖およびエタノール関連調査結果」『砂糖類情報』2006年6月号、2006年、pp1―20
[12] EU,Press Releases PRES/07/213,September28,2007
[13] EU,Press Releases IP/07/476,April4,2007
[14] British Sugar,Associated British Foods plc announces a recommended offer to acquire51%of Illovo Africa's largest sugar producer,May19,2006,Home Page
[15] Associated British Foods plc,Investment in China's beet sugar industry,August24,2007,Home Page
[16] 加藤信夫ほか、「第22回国際甘味料シンポジウムの概要について」『砂糖類情報』2005年11月号、2005年、pp17―32
[17] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Outlook,May30,2006,pp23
[18] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Outlook,September21,2006,pp15
[19] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Outlook,June4,2007,pp18
[20] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Yearbook,October18,2007,table9
[21] USDA(ERS),Sugar and Sweeteners Outlook,February5,2007,pp26―30,35―42

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