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米国の砂糖需給と政策およびバイオエタノール産業の情勢と今後の見通しについて(2)〜バイオエタノールの最新情勢と需要・利用面からの検証〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から

[2008年1月]

調査情報部 部長 加藤 信夫
調査情報部調査情報第三課 課長代理 天野 寿朗
調査情報部調査情報第三課 係長 菊池 美智子

(5) 米国のバイオエタノール産業の最新情勢
(6) 米国で最大のガソリン消費地であるカリフォルニア州でのバイオ燃料事情
(7) ハワイ州でのバイオ燃料への取組
(8) バイオエタノールの最近の状況と見通し
4.結論と考察



(5) 米国のバイオエタノール産業の最新情勢
①米国のバイオエタノール産業の現状と生産拡大の動向
 米国のバイオエタノールは、①RFS(再生可能燃料基準:燃料販売業者へのエタノール使用量の義務付け。2012年には75億ガロンに拡大)、②ブレンダー(エタノールとガソリンの混合者)、工場建設、エタノール混合ガソリンへの税制上の優遇措置、③さらには安価な輸入エタノールが急増しないための輸入関税(54セント/ガロン)などによる手厚い保護政策により、バイオエタノールの生産量と需要量は着実に増加している。
 具体的には、2006年のエタノール生産量は48.55億ガロンであり、建設中の工場が稼働したことにより、年初の生産能力(43.36億ガロン)を上回った[22]。2007年のエタノール生産量は8月末の段階で前年を32%上回る41億ガロンに達しており、再生可能燃料協会(RFA)の会長は、2007年11月に開催されたリヒト社主催の世界エタノール10周年記念会議において、今年は65億ガロンを超える水準になると発表している[23]。
 また、再生可能燃料協会によると、2007年10月9日現在では131工場が稼働中でその生産能力は年間70.23億ガロンであるが、さらに73工場で新設、10工場で増設が計画されている[24]。これらが予定通りに稼働すると、年間134.75億ガロンの生産体制となる。
 また、2007年の農家所有のエタノール工場は約4割を占めており、製造エタノール1ガロンにつき0.1ドルの所得税控除の対象となる6,000ガロン以下の小規模工場は約6割となっている。ここ数年のエタノール生産の動向をみると、農家所有の工場の生産シェアは減少しており、大規模工場のシェアが拡大している(図9)。小規模エタノール製造者(農家所有の工場が多い)の所得税控除政策は、まさにとうもろこし農家の経営安定対策であるとも言える。
 以上を背景にして、バイオ燃料の生産量は2007/08年度には70億5,700万ガロンの生産になると予測されており、当初の予想を上回る速度で増加し、2008/09年度には4年前倒しで現行のRFSの最終目標である75億ガロンを達成するとみられている(図10)。

出典:RFA, Industry Statistics
注:各数値は、毎年1月時点のもの。
図9 米国のエタノール工場の形態と生産能力の推移

出典:
2006/07年までの実績はRFA, Industry Statistics、
2007/08年以降はFAPRI, Searchable Outlook Databaseによる
予測値折れ線はRFS目標数値
図10 米国でのバイオエタノール生産の推移

②原料とうもろこしの生産動向
 バイオエタノール燃料需要の増加に伴いとうもろこしの作付面積も拡大している。2007/08年度の作付面積は前年比20%増の3,789万haで、生産量は25%増の3億3,448万トンと過去最高の規模になると予測されている(図11)[25][26][27]。とうもろこしの増産の背景は、中西部では新規に開墾することは困難なため、とうもろこしの連作、エタノールの需要拡大により収益性が急速に高まっているとうもろこしへの大豆からの転作、品種改良や密植度の増加などによる単収増が増産に貢献している。
 次に、1980年からのとうもろこしの仕向先の長期トレンドを図12に示した。これについても、バイオエタノール向け需要は長期にわたりゆっくりと増加してきたが、2005年以降急増しており、2007年には、エタノール向けが22%と輸出向けの16%を上回っている[28]。 

出典:
2005/06年度までの生産量はUSDA, Feed Outlook、
作付面積はUSDA, Acreage 2006/07年度以降はUSDA,Crop Production
図11 とうもろこしの生産量及び作付面積の推移
出典:USDA(ERS), Feed Grains Database
図12 米国のとうもろこしの用途別長期トレンド

③バイオエタノール政策の特徴
 連邦政府により、表4のように各種の補助および税制優遇措置が行われており、エタノール生産の拡大を支えている。バイオエタノールをガソリンに混合した燃料に対しては、51セント/ガロンの連邦ガソリン税を控除する措置(2010年末まで)が講じられており、バイオエタノールの混合率が高くなるほど税の控除額が大きくなる。シカゴのエタノール先物相場が1.565ドル/ガロン(2007年10月限終値)であるので、連邦ガソリン税の控除額は約1/3に当たり、その需要拡大効果は大きい。
 連邦ガソリン税の控除は、輸入されたバイオエタノールに対しても適用されているが、輸入バイオエタノールに対しては、54セント/ガロンの関税(内国税とほぼ同率)が賦課されている(2008年末まで適用)。このため、国産エタノールの方が有利な扱いを受けているが、輸入関税が2009年以降に延長されない場合には、競争力のあるブラジルからの輸入に圧される可能性が高い。このエタノールに対する輸入関税に対しては、ペトロブラス社(ブラジルの国営石油会社)が、高い輸入関税で保護された状況下で、世界最大のとうもろこし供給国である米国のとうもろこしがエタノール用に仕向けられ、その結果、世界の穀物価格の高騰を引き起こしているとして、引き下げを求めている。
 このほかの支援策としては、E85(ガソリンにエタノールを85%混合した燃料)対応のガソリンスタンド建設に対しては30%の所得税控除もしくは3万ドルを上限とする助成が、また、小規模製造業者(年間生産量6,000万ガロン以下)に対しては、年間150万ガロンを上限として1ガロン当たり10セントの所得税を控除するなど、幾つかの支援策が行われている。これらの措置は期限付きであるが、現在のところ優遇措置期限終了後も延長すると見られている。このように、米国のエタノール生産振興は、川上から川中、川下まで手厚い保護政策が施されているのが特徴である。
 以上の支援策に加えて、2007年9月よりガソリン製造者と輸入者に対して、ガソリン製造量などに一定の割合をかけた数量分の再生可能燃料の利用を義務付けることや、2007年農業法案の中に、セルロース系原料を利用するエタノール製造者に対する0.5ドル/ガロンの所得税控除(2010年12月末まで)が盛り込まれたことなど、新たな対策も順次加えられている。
 ブッシュ大統領の2007年1月の一般教書の中では、2017年までの10年間でガソリン使用量を20%削減するという「Twenty in Ten」を打ち出し、再生可能燃料および代替燃料の使用を同年までに360億ガロン(うち、210億ガロンはセルロース系原料のエタノールなど、とうもろこし以外の原料のものとする。)にすることを目標としている。そのため、RFS目標も2012年に132億ガロン、2022年に360億ガロンにする案が上院で可決後、下院との調整段階にあった[29]。この案は、2007年12月6日に下院を通過しており、今後、上院での再審議に入る予定である。現行のRFSは、ほぼ達成間近であり、エタノールの需要喚起の効果はもはや小さくなっている。このRFSがどの程度引き上げられるかが、今後のエタノール生産・需給事情、高エタノール混合ガソリン(E85)やフレックス車の普及、ひいてはとうもろこしのエタノール仕向量にも大きな影響を与える。
 なお、政策面でブラジルとの違いの一つとして、「エタノールの混合の全国での義務化と混合率の水準」が挙げられる。エタノール混合の義務化はバイオエタノールの普及を大きく拡大させる要因になる。米国でエタノール混合が義務化されている州は図13の通りで、義務付けが立法されていても施行されていない州も半数以上に及んでいる[30]。他方ブラジルでは、全国レベルで混合率を需給状況に合わせて20〜25%の間で調整している。
 米国ではRFSでバイオエタノール全体の使用量をエタノールの価格にかかわらずに義務付けているが、ブラジルでは小売段階でのエタノール混合ガソリンの販売を義務付け、1975年よりプロアルコール政策でエタノールなどの価格統制、エタノール製造者への支援、FFV(フレックス車)の開発への支援など、生産から利用面までの一貫した政策を約25年にわたって進めてきた結果、生産・利用基盤が構築された。これらの支援策は1990年代の規制緩和により徐々に廃止され、現在では、基本的に混合率の規制のみで運用している。
 RFSは確かにエタノールの需要喚起政策としては強力であるが、実際の利用を促進するための施策が遅れている。製造されたエタノールをガソリンと混合し、販売・利用するのは石油業界、自動車業界である上、消費者の混合ガソリンへの理解も進んでいない。
 ブラジルの石油業界としては、国営のペトロブラス社が存在しており、プロアルコール政策の中ではエタノールの販売および一部流通の独占権を得ていた[31]。また、エタノール工場建設の促進や含有エタノール価格の管理も行われていたが、石油価格の急落や同政策による財政負担が重荷になったことから、1990年代に徐々に緩和された。他方で、ブラジル政府はペトロブラス社に対して原油増産を進めさせ、2006年には原油の自給を達成し、近いうちに輸出も予定しているなど、石油業界として重要な原油からの利益の確保にも配慮している。さらに、自動車業界にも古くからエタノール専用車に対して支援が行われ、2003年からFFV車の販売が開始されると、数年間で新車販売の8割強がFFV車で占められるまでに普及した(表5)。
 米国とブラジルは2大エタノール生産国であるが、輸出国はブラジル1カ国であるのは、この政策アプローチの違いが大きな要因の一つとなっている。

表4 米国のバイオエタノールの主な税制等の対策
注1:年間6,000万ガロンを超えない生産能力。上限は1,500万ガロン
注2:2007年9月からガソリン製造者と輸入者に対して、ガソリン製造量等に一定の割合を掛けた数量分の再生可能燃料の利用を義務付け

出典:ACE, STATUS 07
注:アイオワ州、ミズーリ州については施行前であるため、点線で示している。
図13 エタノール混合を義務付けている州

表5 米国とブラジルとのバイオエタノール産業の比較

④バイオエタノールの流通と利用状況
 エタノールの流通経路はどの国も大差なく、製造されたエタノールとガソリンをブレンダー(混合施設)で混合し、給油所に配給する。
 エタノールの生産地(原料の生産地)と給油所(消費地)の距離でガソリンとの価格競争力が大きく異なる。米国ではコーンベルト地帯のとうもろこしを使って、そこでエタノールを生産し、ブレンドして混合ガソリンを地元で利用しているのが実態であり、現時点では広い意味での「地産地消」の状況にある(図14)。他方、ガソリンの大消費地は遠く離れた東と西海岸にあるため、エタノールの利用を大きく拡大するには、これらの大消費地にいかに効率よく輸送するかにかかってくるが、輸送手段は、6割が鉄道であり、残りも3割がトラック、1割が河川輸送と、エタノールの専用パイプラインを計画しているブラジルに比べると輸送インフラが弱点となっている[32]。
 さらにE85の供給に対応可能な給油所は2007年11月時点では全米で1,287か所と全給油所の約0.7%でしかなく、しかも、多くはコーンベルト地帯にとどまっており、ガソリンの主要消費地である東海岸や西海岸ではほとんど整備されていない[33]。ワシントンD.C.で3か所、ニューヨーク州で6カ所、カリフォルニア州で6カ所などとなっており、うち一般に使用できるものは2カ所しかない[34]。
 一方、バイオエタノールの唯一の輸出国といっても過言でないブラジルでは、エタノールの主産地(南東部のサンパウロ州)とガソリンの主な消費地(エタノールの消費地)がほぼ一致しており、かつ、主な輸出港にも近い。今後、産地が中西部に拡大する中、主要輸出港までのエタノール専用パイプラインの建設計画が進められている。
 E85などの高混合率ガソリンを利用するための車の開発・普及も米国とブラジルでは大きな違いがある。米国ではFFV車の普及率も低く、約600万台と自動車普及台数の3%にとどまっている。

出典:RFA, ethanol biorefinery Locations
図14 エタノール工場の分布

⑤原油価格ととうもろこし価格およびエタノール仕向量、エタノール混合ガソリンの利用との関係
 エタノールの供給面に関し、原油価格ととうもろこしの仕向量の長期トレンドは、図15の通りである。以前は、原油価格ととうもろこしのエタノールへの仕向け量、さらにはとうもろこし価格との関係はなかったが、2003年以降は、原油価格の上昇に伴って、仕向け量も価格も上昇傾向にある(図16)。このように近年、とうもろこし価格は原油価格の影響を強く受けていることがわかる。原油価格だけでなく、RFSなどの政策支援により、エタノールの人為的な需要が生まれ、その主原料となるとうもろこしの需給が堅調となっていることもある。
 ただし、ここ1年の状況をみると、原油価格は2007年2月以降、上昇を続けているが、とうもろこし価格は2007年度の生産量が過去最高の水準であったことからも、依然として高水準ではあるが落ち着きをみせている。とうもろこし価格は、原油価格だけで大きく左右されるわけではない(図17)。
 このように、原油価格とエタノール混合ガソリンとの関係は複雑である。
 需要面から考えると、ブラジルでは、すでにE100(含水エタノール100%)が全国で販売されており、かつ「ガソリン」にもすでに25%のエタノールが混合されている。この場合、原油価格が高騰するとガソリンの「代替剤」としてE100の需要は高まる。ただし、ガソリン(E25)については、原油価格の高騰によりE25の価格も上昇するので消費にはマイナスとなる。しかし、前述のようにブラジルは原油増産も推進しており、原油高騰による利益は、国産原油の販売を通じて、エタノールを利用している石油業界を潤している。
 一方、米国の場合にはE85の需要は増えているものの、現状ではE10、またはそれ以下の混合率が主流となっており、現状ではエタノールはガソリンの「添加剤」のレベルにとどまっている。この場合、原油価格の高騰の下では低混合率の混合ガソリンの価格優位性は低くなり、原油価格の作用面のみからすれば、需要も減少することになる。実際に、アジアで唯一、輸出余力があるとみているタイのバイオエタノール混合ガソリン(E10。全ガソリンスタンドの約半数で普及)は、価格が原油価格の高騰を受けて大きく上昇したことなどにより、その消費が減退したことから、今年1月には1リットル当たり1.5バーツであったガソリンとの価格差(政府が統制)を3.5バーツに拡大させ、消費者の利用促進を図っている。
 米国では、RFSなどの政策効果により需要は増加しており、今後、高混合率の混合ガソリンへと移るにつれて、原油価格と混合ガソリンとの関係は、ブラジルのように「代替剤」としての関係になる。
 原油価格とエタノール工場でのとうもろこしの損益分岐価格との関係はより複雑となる。現在の原油価格の下で、いくらのとうもろこし価格なら採算がとれるかということであるが、工場の建設時期(新設工場ほど初期投資が大きく、原料調達も苦労する)、エタノールの製造能力、製造コスト(工場により開きが大きい)などにより異なってくるので分析が大変難く、条件設定等を慎重に見極めないと「実態」を反映していないことになりかねない。

資料:Price of West Texas Intermediate Crude
    USDA(ERS), Feed Grains Database
図15 原油価格(WTI)ととうもろこしのエタノール仕向け量の長期トレンド
資料:West Texas Intermediate Crude、 Chicago Board of Trade
図16 原油価格(WTI)ととうもろこし価格の長期トレンド
資料:West Texas Intermediate Crude、 Chicago Board of Trade
図17 直近1年の原油価格(WTI)ととうもろこし価格の推移

⑥バイオエタノールの生産コストと原料によるエネルギー収支比の比較
 われわれが昨年8月に調査したミネソタ州のドライミルの工場(2006年操業開始)では、総コストに占める原料代が約50%、エネルギー代が約30%であり、コストの最大要因は原料代であった。ブラジルではエネルギーコストが小さいため、原料代のウェイトがこれより高い。米国ではとうもろこしの購入価格がエタノールの生産コストに大きな影響を与え、熱源・電源である天然ガスの変動の影響も強く受ける。したがって、調査時期、工場の規模、立地などによって生産コストも大きく変動する。
 このように国別に生産コストを一本化し比較することは難しいが、参考までに、米国でのとうもろこしを原料とするバイオエタノールの生産コストは0.25ドル/リットルと、ブラジルのさとうきびを原料とする製造コスト0.20ドル/リットルに比べると割高である[35]。
 また、原料作物から製造されたエタノールのエネルギー量と投入エネルギーとの比(産出/投入比:エネルギー収支比)については、米国のとうもろこしを原料とする場合には1.3〜1.8と、てん菜(1.9)や小麦(1.2)を原料とする場合とはほぼ同等であるものの、ブラジルのさとうきびを原料とする場合の8.3に比べると生産効率は大きく劣っている[36]。ブラジルのさとうきびを原料とする場合には、工場の燃料にさとうきびの副産物であるバガスを利用できる点で他の原料よりも有利になっている。米国の新しいエタノール工場の多くは燃料として天然ガスを使用しているが、近年の天然ガス価格の上昇は、生産コスト高の要因の一つとなっている。無論、とうもろこしのようなでん粉質原料とさとうきびのような糖質原料とを比べれば、糖化工程にかかるエネルギーが不要な糖質原料の方が有利であることはいうまでもない。

⑦バイオ燃料および穀物と食品価格の高騰、開発途上国への影響を懸念
 2007年7月4日に発刊されたOECD(経済開発協力機構)およびFAO(国連食糧農業機関)の「農業アウトルック2007―2016」によると、バイオ燃料向け原料需要の増加が、今後、多くの農産物の国際価格を引き上げるとしている[37]。余剰農産物や輸出補助金の減少も価格を引き上げる要因であるが、それ以上にバイオ燃料生産のための農産物需要の増加が大きな要因になるとしている。さらに、飼料穀物価格の上昇に伴い、飼料を通じて、間接的に畜産物の価格上昇にもつながるとしている[37]。
 また、同年11月7日のFAOの「Food Outlook Report」によると、2007年の食料輸入額は21%増加しているが、そのうち開発途上国のみをみると25%の増加とさらに大きくなっており、食料価格の上昇は、特に途上国に大きな影響を及ぼし、多くの低所得食料不足国(LIFDC)での食料の輸入と消費を減退させるとしている[38]。
 主要農作物の生産地での干ばつや在庫の減少などは一時的な価格上昇の要因であるが、バイオ燃料の生産によるとうもろこしをはじめとする穀物やさとうきび、菜種などの利用増加による上昇は長期的に影響するものと考えられている。主要農産物の輸入コストは、FAOによると乳製品で最も高騰しており2007年には前年に比べ約65%の上昇で、その他、穀物や植物油では約40%の上昇となっているが、砂糖では価格が落ち着いたことから約35%下降している[38]。

⑧とうもろこし以外のセルロース系原料の利用可能性
 上記のように、米国のとうもろこし・エタノールを取り巻く情勢は、食料vs燃料、さらには開発途上国の食料問題の観点からも厳しさを増している。米国内でも今年に入り、畜産関係団体が反対運動を強化している。
 このような中、米国では、とうもろこしをはじめ、スイッチグラス、セルロースなどからのバイオ燃料の生産などに関する調査・開発計画に対して資金が提供されており、商業市場におけるバイオ燃料の価格競争力を高めることを目的とした製造技術の開発に充てられている。具体的には、USDAからは、バイオ燃料の供給原料の生産および製品の多様化に関する調査研究に対して2006年度に1,280万ドルが、また、DOE(米国エネルギー省)からは、バイオエネルギー原料としてのセルロースの開発に対して2006〜2008年度にかけて470万ドルが提供されている[39]。
 スイッチグラスなどのセルロース系原料は、とうもろこしを原料とする場合のようには食料や飼料と競合しないことから注目されているが、商業ベースでの生産の実現までは時間がかかり、その後も、とうもろこしのエタノール向け数量を大きく減らすまでは、生産が拡大しないと予測されている(図18)。セルロース系原料は産出エネルギー量が小さいとも言われており、また他の作物との競合があるなどの課題がある。

資料:West Texas Intermediate Crude、 Chicago Board of Trade
図14 エタノール工場の分布

  • 別名Tall Panic Grass
  • 北米大陸土着植物
  • C4植物、多年生
  • 高さ1.8〜2.2m程度
  • 成長早い、肥料わずか、耐干性、病害虫抵抗性
  • 飼料、cover crop
  • 400リットル/トンのエタノール生産が期待
  • 高エネルギー効率:とうもろこしの20倍とも言われている。
  • 写真1 スイッチグラス

    (6) 米国で最大のガソリン消費地であるカリフォルニア州でのバイオ燃料事情
    ①バイオ燃料政策
     カリフォルニア州は全米で最大のガソリン消費州であり、年間約160億ガロンを消費している。また、環境に対する規制が非常に厳しく、代替燃料に関しても、連邦政府が化石燃料の使用量の削減を目指しているのに対して、州政府は大気汚染防止などの環境面での取り組みとして普及を推進している。
     エタノールについては、2004年にガソリン添加剤(含酸素剤)であるMTBE(メチル・ターシャリー・ブチルエーテル)の使用がいち早く禁止されたため、代替としてエタノールが使用されたことを受けて、ガソリン同様、最大の消費州となっており、2005年には全米での生産量の25%に当たる9億ガロン以上を消費している[40][41]。
     バイオ燃料の普及に向けて、同州では特段の補助金や税制措置は採っておらず、「規制と目標」によって推進している。具体的には同州の州知事が先頭を切って「2025年までにエネルギーの25%を再生燃料で賄う」との目標を掲げており、全米25の州知事が同意し、ハワイ州では「2020年までに20%」、モンタナ州では「2015年までに15%」などと目標を定めて共に推進されている。この目標を達成するために、州の大気資源局ではLow Carbon Standardを作成中で2010年までの施行を予定している。また、RPS(Renewable Portfolio Standard)として「2010年までに全エネルギーの20%を再生可能エネルギーで賄う」との目標を掲げて、電力会社に酪農家で発生するメタンガスから作った電力の購入を義務付けるなどの取組を行っている[42]。
     カリフォルニア州で使用されるガソリンへのエタノール混合率は義務化されていないが、ほぼ全域で5.7%を上限(窒素酸化物の規制がない北部の一部地域では7.7%を上限)とされている。現在販売されているガソリンは、全て添加剤としてエタノールが6%程度に混合されている。2009年12月31日以降には、この上限を10%に引き上げる予定になっており、ガソリン販売会社は10%まで任意の割合で混合することが可能になる。CDFA(California Department of Food and Agriculture)では、エタノール供給が十分であることと、オクタン価引き上げの観点から、多くのガソリン販売会社は現行の5.7%を超えた、6%以上の混合を実施すると見ている。

    ②代替燃料への取組事例
     同州でのFFV車は約30万台にまで普及が進んでいるが、E85対応の給油所は州内に6か所と少なく、一般の消費者が利用できるものは1か所のみであり、残りは利用が関係者のみに限られている[34]。
     その利用者が限定されている5カ所のうち一つは、サクラメントにある非営利の電力会社SMUD(Sacramento Municipal Utility Districts)が所有している。SMUDでは、州政府の掲げる大気汚染規制の目標を達成するために、1991年から代替燃料の利用に取り組んでいる。各家庭など顧客の電力使用量の確認や電線などのメンテナンスに使う車として、電気自動車、ハイブリッド車、プロパン・ガソリン車、FFV車、B20(石油系ディーゼル燃料にバイオディーゼルを20%混合した燃料)大型トラック、水素燃料車など様々な代替燃料車を所有している。
     同社は自社が持つ54台のFFV車への供給用としてE85の給油所も所有している。以前はE85燃料が販売されていなかったため、100%エタノールを購入し自社でE75相当にブレンドしていたが、現在では月500ガロン程度のE85を購入している。E85の使用量が増加してきているため、現在の1,000ガロン規模のタンクを5,000ガロンにまで拡張したい意向を持っている。
     価格面では、E85には連邦政府から51セント/ガロンのガソリン税の控除があるため、ガソリンと同程度の価格になっており、FFV車の価格も現在のところ補助金を考慮すると普通車と同程度であるとのことであった。

    写真2 SMUD 敷地内にあるE85給油所
    写真3 E85対応車

    ③カリフォルニア州でのバイオマスの研究活動
     カリフォルニア州では、エネルギー委員会からの資金を元に、PIER(Public Interest Energy Research)の一部としてバイオマスの研究が行われている。具体的には消費者から電気代の一部として年6千万ドルを徴収し、エネルギー委員会を通じて、エネルギーの節約や再生可能燃料などの研究を行うPIERに使っている[43]。
     研究体制は、図19のように知事が指名し、州議会で承認されたメンバーによるCBC(California Biomass Collaborative)を中心として、その下に州政府をはじめ、業界、環境団体、カリフォルニア大学(UC)などの研究機関が位置することで構成されている[44]。具体的な研究事例としては、民間企業(Chevron社)からの支援を受けて、UC Davis校がエタノール発酵過程、リグニンの抽出、関連政策の分析、環境・土壌保全などに関する研究を行っている。
     UC Davis校の研究者によると、エタノール原料としてはそれぞれの地域における条件に合った原料の開発を行うことが商業ベースでの普及のためには重要である。カリフォルニア州の場合には、都市部が近く、土地や水、労働力にかかるコストが高いため、増産や新規の作付を必要とせず、現状では廃棄されているアーモンドの殻、果樹園での木くず、稲わらなどの農業廃棄物や、工業用のてん菜をUC Davis校では候補として考えているとのことである。これらの原料を用いるためには、技術面での開発に加え、集荷のための労働力とコストの問題を解決することが必要となる。
     セルロース系原料に関して、CDFAではバイオエタノール原料は将来的にはとうもろこしからセルロース系原料に置き換わるだろうと楽観的に見ている。一方、UC Davis校では、現状においてはセルロース系原料が将来、技術的に利用可能になっても、とうもろこしと比べてコストが見合わないとの意見であった。
     サンホアキン郡の普及員によれば、カリフォルニア州は土地や水の値段が高いため、痩せ地で水利用が限定的な所でも生産できる作物(バイオディーゼルであれば、菜種、紅花)の利用が望ましいとしていた。特に、全米で注目されているスイッチグラスはエネルギー収支が低いことに加え、同州ではとうもろこしなどの他の作物と競合するので、現時点でその利用可能性は低いとのことであった。
     米国のバイオエタノールは中西部のとうもろこしを原料として製造することが主流であり、また、新たな原料としては食料と競合しない点などでセルロース系原料が期待されている。しかし、カリフォルニア州のように、とうもろこしの主産地ではない地域では、とうもろこしに限定せず、その地域での生産が可能なものを原料とすることや、後述のDG(蒸留穀物、Distillers Grains)を乾燥しないWDG(Wet DG)のように副産物生産でのコスト削減などの工夫が求められる。

    資料:UC Davis校での聞き取り調査を基に作成
    図19 カリフォルニア州でのバイオマス研究体制

    ④カリフォルニア州でのエタノール生産
     現時点において同州内で操業しているエタノール工場は5か所で、とうもろこしを原料とする工場が3か所、ホエイ及び飲料残さを使用する工場がそれぞれ1か所ずつとなっており、1億2,000万がロンの生産能力を持っている[45]。
     エタノールの最大消費州であることに加え、酪農が盛んな同州ではエタノール生産の副産物であり飼料として供給されるDGも消費している。中西部の畜産農家では、DGを乾燥させたDDG(Dry DG)を多く利用している。カリフォルニア州でも中西部からDDGを購入している農家もあるが、高い乾燥コストに、さらに高い輸送費が加算され割高となる。
     そこで、中西部からとうもろこしを輸送して、州内の工場でエタノールを生産し、その副産物であるDGを乾燥しない状態(WDG、水分は70%程度)で酪農家に配布している事例も見られる。訪問したバイオエタノール工場によれば、工場での乾燥工程を省略すると約30%のエネルギーを節約できる。
     したがって、州政府では州内のエタノールの生産量は、酪農家によるWDGの使用量に左右されるとしており、副産物の利用限度量から試算すると4〜5億ガロンが上限としている。

    ⑤バイオエタノール工場の概要
     訪問したバイオエタノール工場の概要は表6の通りであり、米国の平均的な工場に比べると規模はやや小さいが、中西部から鉄道で輸送したとうもろこしを原料に、ドライミル方式で製造している。カリフォルニア州で生産する理由としては、①大消費地に近い、②全米で最もクリーンガス規制が厳しく今後の需要を見込める、③州内の酪農家に副産物をWDGの状態で出荷できる点を挙げており、同州はこれまでとうもろこし(とうもろこしの大部分はサイレージ用)の産地ではなかったが、今後はとうもろこし(グレイン用)の生産が増加すると見ている。
     製造工程は図20に示しているが、蒸留によって得たエタノールは、省エネ無水化技術の一つであるMolecular Sieve方式によってアルコール含量99.8%にまで無水化し、非飲料用として区分するためにガソリンを2〜5%添加して各社のガソリンターミナルへ出荷している。特に、この工場では環境に配慮して、水蒸気、シロップ、WDGに含まれる水分以外には廃水を出さない構造をとっており、各工程で回収した水は再利用施設で浄化し、発酵過程に加えることで再利用している。
     工場では、最終製品であるエタノールの販売による収入に加え、副産物による収入も大きく、総収入の約25%を占めている。副産物には、WDG、シロップ、ケイ酸、炭酸ガスがあるが、そのうちWDGとシロップが主な収入源となっており、USトン当たりそれぞれ40〜45ドル、40ドル程度で主に酪農家に販売している。その他、地下水の精製工程で得られるケイ酸はシロップに添加しており、炭酸ガスについても将来的には圧縮して飲料メーカーに販売するなどの利用法を検討している。

    資料:バイオエタノール工場から入手資料を基に作成
    図20 エタノール製造工程

    表6 カリフォルニア州のバイオエタノール工場の概要
    資料:バイオエタノール工場での聞き取り調査を基に作成

    写真4 バイオエタノール工場

    ⑥原料とうもろこし生産
     カリフォルニア州は全米でも有数の農業生産州である一方、都市と農地とが近接しており、州内総生産に占める農業の比率も1%程度と小さく、農家人口も2%程度しかない。そのため、都市住民の生活環境に配慮した農業が求められており、農業用水の利用制限や砂埃防止のためのあぜ道への散水義務などが課させている。同州では土地、水、労働力にかかるコストが高いため、条件不利地であっても低コストで生育できる作物、コストをかけても付加価値の高い農産品が栽培されている。主要産品としては、乳製品が最も多く、次いで、ワイン向けを含めたブドウ、苗木類、アーモンドと続き、特にアーモンドは最大の輸出農産品である[46]。
     同州のとうもろこしの生産量は、サイレージ用が1,002万トンに対して、グレイン用が48万トンと少なく、大規模な酪農家での飼料穀物需要を賄いきれないため、多くを中西部などの他州から「輸入(import)」している[46]。
     サンホアキン郡の普及員によると、とうもろこし価格がトン当たり150ドルと高値であることから、同郡の2007年のとうもろこし作付面積は2006年の3万3,000ha(グレイン用が1万7,300ha、サイレージ用が1万5,600ha)に比べて30%増加しているとのことである[47]。とうもろこしは土壌からの栄養分の略奪や病気も少なく、栽培が容易な作物であり、小麦やトマト、乾燥豆から転作されて面積が拡大している。夏作にとうもろこしを栽培し、冬作として飼料用のオーツや大麦、小麦を挟んだ輪作としている。
     訪問したLodi近郊のデルタ地帯のとうもろこし農家の話によると、作付時のうね幅は90cmで、栽培密度は従来の6,920本/10aから8,400本/10aへと密植して増収を図ってきた。単収はこの農家では乾燥重量で1,010〜1,120kg/10aであるが、サクラメントの北部など肥沃な地域では水や肥料への投資が必要ではあるが1,570〜1,680kg/10aも可能であるとのことであった。
     とうもろこしの販売価格は、近年のバイオエタノールでの需要により3年前の1トン当たり77ドルから今年の同168ドルへと2倍以上に上昇している。訪問した農家では、すでに2009年の生産分まで先物として、2007年は同124ドル、2008年は同138ドル、2009年は同145ドルで契約済みであるとのことであった。

    写真5 Lodi 近郊のデルタ地帯でのとうもろこし生産

    ⑦酪農家でのDDGの使用ととうもろこし高騰への対応
     カリフォルニア農業において第1位の生産高である酪農は、乳牛のタンパク質源として重要なとうもろこしがエタノール製造での需要と競合する一方で、副産物(DGなど)の需要先であるなど、バイオエタノール産業と密接な関係にある。
     今回、訪問した酪農家は3,000頭規模(うち経産牛が1,600頭)で、1頭1日当たりの平均乳量が39kg、年間乳量が11.8トンと、カリフォルニア州平均の年間乳量10トンと比べると高く、生産した生乳はすべてチーズ向けとして販売している。飼料については、アルファルファ、サイレージ用とうもろこし、ライグラスを自給し、小麦サイレージ、DDG、綿実、ウエットコーングルテン、アルファルファサイレージ、大豆ミールなどを購入している。
     バイオエタノール製造での副産物であるDDGは大豆ミール(タンパク質源)の代替として利用しており、DDG25%、大豆ミール75%の割合で混合し給与している。また、DDGの最大使用量は1頭当たり2.7〜3.6kg/日が適当であると酪農栄養士から指導されているとのことであった。この農家が利用しているDDGはタンパク質含量が30%と一定に調製した特別規格品を、ブローカーを通さずにエタノール工場から直接購入している。この特別規格のDDGを訪問した酪農家では、157ドル/USトン(定価は175ドル/USトン)で購入しており、一般的なDDGの価格の約130ドル/USトンと比べる割高である[48]。DDGは公的な品質基準が未整備であり、生産される工場によって品質(乾燥度合など)が異なっているが、多少割高でも品質が安定しているものを購入することは、意識が高い酪農家だと言える[49]。
      なお、訪問先の酪農の購入飼料価格は、とうもろこしは2006年の1USトン当たり118ドルから2007年の同118ドル、2008年の同175ドルに、綿実は2007年の同2.15〜2.20ドルから2008年の同2.50ドルにと上昇しており、どうしても購入しなければならない飼料を除いて、できるだけ自給できる飼料は自給していく方針である。自ら配合飼料を生産するために移動式の自家配合機を所持しており、またUSDAの補助を受けてサイレージバーンを建設中であった。

    写真6 酪農家の倉庫内に保管される特別規格のDDG


    (7) ハワイ州でのバイオ燃料への取組
     ハワイ州は、甘味資源を使ったエタノール生産では、国内で唯一、商業ベースでの生産が可能であると期待される地域である。
     同州では、製糖会社が2社にまで減少するなど砂糖産業は衰退してきている。しかし、米国本土から離れておりガソリン価格が全米で最高であること、観光産業が重要であるため環境規制が厳しいことなどの特有の背景が後押しとなって、バイオ燃料への取り組みが行われている。製糖業者であるGay & Robinson社は、約3,000haのさとうきび畑を所有しており、5万トンのさとうきびを生産しているが、Pacific West Energy LLC社と提携してGay & Robinson Ag―Energy LLC社を設立し、バイオエタノール工場およびバイオディーゼル工場の操業に向けて準備を進めている。
     同社のバイオエタノール工場は2009年に建設を開始し、同年内中に操業することを予定している。エタノール生産能力は約4,500万リットルで、原料にはさとうきびを使い、エタノール向けに約1,600haを新たに作付けすることとしている。
     一方、バイオディーゼル工場は2008年中の操業を予定しており、約7,600万リットルの生産能力を見込んでいる。原料としては海藻(Algae)が①非常に生産性が高い、②屋内でも屋外でも生産可能でスペースおよび労働力を削減できる、③培養の失敗を除くと長期にわたって生産量を調整できる、④培養や輸送にかかる時間も短いことなどから、最も有望視されており、2008年にはテスト生産を予定している。他にも、乾燥に強く、砂地や砂利地、塩分を含んだ土地でも栽培できるJatrophaも、小規模に利用するとしている。Jatrophaは、肥料などの投入や管理が少なくて済むことや成長が早い特徴に加えて、Gay & Robinson社では葉や樹皮を薬品などバイオディーゼル以外の産業にも利用できるとしている。
     このように、地域で生産利用可能な原料をテストし、商業生産に移行しつつある。

    写真7 ハワイ州のバイオディーゼル原料になるAlgae

    写真8 ハワイ州でバイオディーゼル原料になるJetropha

    (8) バイオエタノールの最近の状況と見通し
     2007年農業法の検討状況をみても、現行の各種政策の継続または拡大が見込まれる中、投資ファンドによる影響も加わり、とうもろこしを原料とするエタノールの市場は今後も拡大すると考える。USDAの長期予測においても、図21のようにとうもろこしのエタノール向け需要は、2009/10年度まで急速に増加した後も継続して増加するとみられている[50]。
     また、エタノールの生産量は、図10に示すようにFAPRI(食料・農業政策研究所)では、とうもろこしのエタノール向け需要と同様に2009/10年までは急速に増加し、その後伸びは鈍化するものの増加を続け、2012/13年度には120億ガロンになると予想している。USDAによる予測もFAPRIと同じく2009/10年までの増加が著しいとしているが、生産量は2016/17年度にも120億ガロンを超える程度であるとしている[50]。
     ちなみに、CDFAでは飼料向けなど他用途への供給に支障をきたさない範囲での、とうもろこしを原料としたエタノール生産量は、全米で140億ガロン程度とみている。
     とうもろこし価格は高値で推移しており、2007年9月には3.5ドル/ブッシェルとなっている。価格についても、2009/10年度まではエタノール向け需要の増加により3.75ドル/ブッシェルまで上昇するが、その後は、エタノール需要の伸びが鈍化し、とうもろこし生産量が追いつくことで需給バランスが図られ、価格も下落すると予測されている。[50]。
     最近ではとうもろこし価格の高騰、エタノール価格の下落により、新しく建設された比較的小規模な工場(工場建設費も高騰)の利益が減少していると言われているが、他方、大規模な工場はエタノールの生産を順調に増加させている。
     一方、エタノールの利用面は、前述の事情(輸送インフラ課題、E85のガソリンスタンドの整備やFFV車の普及の遅れなど)から不安がある。
     カリフォルニア州にある調査先のでん粉・糖化製品工場では、①石油価格が下がる可能性、②原料とうもろこし価格の上昇、③新しい工場の燃料である天然ガス価格の上昇、④税金の優遇措置の期限、⑤工場建設ラッシュによる生産能力超過をバイオエタノールの不安定要因として挙げ、エタノール生産での利益は原油、とうもろこし、天然ガスの価格次第であるとしている。また、エタノールの原料としては、ブラジルでの普及を例にさとうきびが最適であるとの考えを示している。
     世界の燃料向けエタノールの生産量は2006年には397億リットルで、ガソリン需要の3%である[51]。仮に、このエタノールをすべてさとうきびから生産した場合には、世界の砂糖総需要の約28%に当たる約4,060万トンの砂糖がエタノールに置き換わることになる。シンポジウムで講演したブラジルの市場アナリストは、現在の燃料向けエタノールの生産量はガソリン需要の3%に当たるが、ガソリン需要は2020年までに40%拡大すると予想している。
     以上のように、各種支援策を受け、エタノールの生産は今後も増加すると考えるが、最近のとうもろこし価格の高騰、エタノール価格の下落傾向、原油価格がどうなるのか(特に小規模な工場の収益性問題)、天然ガス価格の動向、輸送インフラや給油所の整備状況によっては、供給過剰の状況も起こり得るのではないかと考える。
     生産コストの最大要因であるとうもろこしの生産動向は、エタノール生産に直接的な影響を与える。とうもろこし相場については、以前は生産見通しなどを反映していたが、今はコモディティ・ファンドの介入が相場に大きな影響を及ぼしている。供給量が増加してもなかなか相場が冷えないのは、このためである。とうもろこしは、好調なエタノール需要を反映して、大豆からの転作などにより作付面積を増加しているが、最近のEUのバイオ燃料(バイオディーゼルが主)の混合の義務化の決定などを受け、大豆油の価格が高騰しており、ファンドが米国の大豆市場にも介入しつつある。まさに、限定された土地内でのとうもろこしと大豆との競合が起こりつつあり、工場によってはとうもろこしの確保に苦慮するところも現れるだろう。

    資料:バイオエタノール工場から入手資料を基に作成
    図20 エタノール製造工程


    4.結論と考察

    (1) 最新の砂糖需給と見通し、砂糖政策の検討状況
    米国においては、砂糖の輸入量の増加に備えた新たな市場調整メカニズムとして、2007年農業法案(下院)に砂糖・エタノールプログラムの導入が含まれたことが、砂糖業界にとって大きな動きとなっている。過去の需給状況を見ると、ハリケーン・カトリーナによる影響を除くと需給調整はうまく機能しているように見えるが、同時にこれ以上の大きな消費の拡大が見込めない以上、現行の需給管理を基本とするNo Cost政策では、今後のFTAなどの国際協約の結果次第で、市場アクセスが許容範囲を超える事態が想定される。
    このような中、目前に迫っているNAFTAによるメキシコ産砂糖の完全自由化を前に、この新たな余剰対策案が下院で可決されたことは、関係者の意見にもあるように一定の評価ができると考える。しかし、実行性については、エタノール製造事業者での認知度が高くないことや、エタノール製造者側からは収入の約25%を占める副産物(DGなど)への影響が懸念されることから、砂糖・エタノールプログラムが軌道に乗るまでには多少時間がかかると思われる。また、エタノール製造者側の入札価格によっては、USDAによる補てん額が大きくなる可能性もあり、必ずしも「No Cost」による政策であるとは言えなくなるだろう。
    この新たな市場調整メカニズムである砂糖・エタノールプログラムの有効性については、今後、副産物への影響、エタノール製造原料としての砂糖の適正価格なども踏まえた上で検討する必要がある。わが国でも、てん菜などを利用した実証レベルのエタノール製造計画が進められているが、甘味資源作物の生産を維持しつつ、新たな工場設備も必要とせず初期投資が抑えられる点では参考にもできる事例であるだろう。

    (2) EUの砂糖政策変更の影響
     EUの政策変更はEU域内のみならず、世界規模での砂糖の需給構造や貿易に影響を与えることは必須であり、今後も動向を注視する必要がある。中でも、工場閉鎖が地域や国の経済に与える影響、域内価格の削減によるACP諸国への影響などは興味深い。
     EUはすでに純輸入国に転換しているが、改革後2年を経過した現段階では順調に生産量の削減が進んでいるとは言えない。すでに、砂糖産業の占めるウェイトの小さい英国では工場が閉鎖されるなどの動きもあるが、ウェイトの大きな国ほど生産割当の減少による影響も大きいことから、抵抗も大きいと考えられる。今後、砂糖産業が地域経済にとって重要な国や地域での影響や、てん菜を使用したバイオエタノールの生産の状況、EBA(Everything But Arms)の原則を利用した域外での砂糖生産の動向などについて、調査を行いたい。

    (3) WTO交渉の方針およびメキシコとの関係
     ASAをはじめとする米国の砂糖業界が、WTO交渉重視の姿勢から、その期待度を大きく下げたことは、印象的であった。FAOの見通しでは、砂糖の生産量は特に開発途上国での増加によって2007/08年度には過去最高になるとしている。砂糖需要でも、先進国での消費量は大きく変化しないとしているのに対し、中国やインドをはじめとする開発途上国での増加が著しいと見ている[38]。開発途上国においても砂糖については様々な保護政策をとっており、さらに途上国の占めるウェイトはより大きくなっているにも関わらず、ドーハラウンドではこれらの国の利益がより尊重される方向で交渉が進められていることが、WTO交渉への期待度を低下させている。
     他方、NAFTAによるメキシコとの砂糖の自由化が開始されるに当り、米国の砂糖業界では砂糖の輸入量の増加に対して非常に懸念しているが、一方、メキシコの砂糖業界も価格面において米国市場が魅力的ではないことに加え、HFCSの輸入により国内シェアの減少が予想されるなど打撃を受けることになりかねない。国際甘味料シンポジウムでUSDAが、これまでのように両国が互いの需給状況に応じて補い合える関係を築いてもらいたいと発言していたように、両国がともに発展できることがFTAの本来の目的でもある。2008年以降、両国の砂糖産業と糖化製品業界がどのような影響を受けるか、また対処するのかについて注視していきたい。

    (4) 米国でのエタノール事情、特に利用面と見通しについて
     とうもろこし農家によると、とうもろこしの主産地である中西部では、収穫後、カントリーエレベーターに貯蔵しておき1、2年後に販売されることが多いとのことである。そのため、2007年の作付面積は拡大が予測されているものの、生産されたとうもろこしが市場に出回るまでは高値傾向が続くと考えられる。実際に、シカゴ先物相場(期近)でブッシェル当たり400セントを超えていた今年の初めに比べると価格もいくらか安定してきているが、エタノール生産によるとうもろこし需要の動向は今後も継続的に見ていく必要があるだろう。
     また、ブラジルと並んで世界のエタノール生産大国の米国は、ブラジルとは、政策アプローチも、生産構造、利用状況も随分異なっている。米国のエタノール産業の発展は、天候、原油価格などの外部要因を除けば、RFSがさらにどの程度引き上げられるか、その実効性をどう高めていくかによって大きく左右される。混合ガソリン(特にE85)の利用を推進する施策も必要となろう。
     一方で国内外(とうもろこしの最大の顧客である畜産農家、OECDなどの国際機関、環境グループなど)から逆風も受けているのも事実である。バイオ燃料は、化石燃料に比べると温暖化ガスの排出を15〜26%削減できる(米国エネルギー省)として、地球環境への配慮を理由にその利用が進められてきたが、環境団体などからは、米国のとうもろこしは本当にカーボンニュートラルかとの疑問も出されている。
     米国は世界最大のエネルギー消費国であり、経済発展に伴いその消費量は拡大を続けている。USDAでは、2009/10年度には米国産とうもろこしの30%以上がエタノール生産に供給されると見ている。さらに、2016/17年度には31%のとうもろこしがエタノール生産に向けられ、120億ガロン以上のエタノールが生産されるものの、その量は米国全体でのガソリン消費量の8%にも満たないとしている[50]。地球温暖化ガス削減のためには、バイオ燃料だけでなく、省エネや自動車利用の抑制などガソリン消費量自体を抑制する施策と同時並行で行う必要があろう。

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