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EU の農業改革に影響を与えるバイオ燃料の政策と生産状況について(3)〜混合義務導入による農産物需給への影響〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ


[2008年7月]

農林水産省農林水産政策研究所 国際食料情報分析官(前調査情報部長) 加藤 信夫
調査情報部調査課 課長補佐 平石 康久

10.10%混合義務による砂糖、穀物の需給予測と影響
(1) 2020年までの予測〜第二世代の実用化が前提〜

(2) 2014年までの予測〜穀物生産の増加〜

(3) 土地利用などへの影響〜楽観見通しも〜
11.バイオ燃料の生産費(参考)
まとめ


 

10.10%混合義務による砂糖、穀物の需給予測と影響

(1) 2020年までの予測〜第二世代の実用化が前提〜
  欧州委員会による2020年までの予測によれば、2012年頃から利用率が向上する(この頃からワラや木材などを原料とした第二世代のバイオ燃料の商業生産が開始する)と見込んでいるが、一方でバイオ燃料の生産のうち約2割が輸入原料由来(そのうち約半分が油糧種子と植物油)となると予測している。

① 穀物
  2020年には域内利用量の約2割(5,900万トン)がバイオ燃料向けとなり、軟質小麦は域内利用量の約3割(4,300万トン)がバイオ燃料に向けられる。穀物の需要増大は、単収増により3,800万トン(穀物の単収は約1%/年、菜種は2%弱/年、てん菜は約2%強/年の成長率で推移)、休耕地での作付増で1,400万トン(200万ヘクタール)がカバーされる。
  また、バイオ燃料の製造残さの飼料向け利用の増加を受け、飼料用途向けの穀物生産がわずかに減少する一方、エネルギー作物の作付増加が見込まれる。

         出典: 「Impact of a minimum 10% obligation for biofuel use in EU―27 in 2020 on agricultural markets(DG Agri in April 2007)」
図5 バイオエタノールとバイオディーゼルの生産と利用率の見通し

② てん菜(砂糖)
  2020年には域内利用量の約1割(砂糖換算で230万トン)がバイオ燃料向けとなる。

③ 植物油
  2020年には域内利用量の約6割(990万トン)がバイオ燃料向けとなり、特に菜種油のうち、バイオ燃料に向けられる割合は、域内利用量の約9割(710万トン)となる。なおこの推計では、第二世代原料(ワラ、木材)については、5〜10年後に商業利用が可能であり、バイオ燃料利用の約30%に達することとされている。
  また、バイオエタノールの原料については、穀物由来の第一世代原料が3割、輸出向けからの転用が2割、域内の他用途向けからの転用が1割程度と見込んでいる。しかし、いまだ研究開発途上の第二世代燃料の比率を2割と見込んでいるが、この商業ベースの生産が遅れるようなことになれば、第一世代原料を使ったエタノール生産の比率が増えることになり、食料との競合問題が生じる恐れがある。さらには、混合率の引き上げ、フレックス車の開発普及の増進ということになれば、エタノールの海外からの輸入が増加し、価格が軟化する恐れもある。
  バイオディーゼルも同様であるが、より輸入と第二世代原料に依存した需給構造になっている。

表9 10%混合義務によるエネルギー作物の需給見通し(2020年)
単位:百万トン、ユーロ/トン
出典 :  「Impact of a minimum10%obligation for biofuel use in EU―27 in2020on agricultural markets(DG Agri in April 2007)」
注 :  軟質小麦の輸出データは異常値であったため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資料に掲載されているデータによった。

(2) 2014年までの予測〜穀物生産の増加〜
  2014年までのより詳細な需給見通しのグラフを以下に示した。穀物については、2014年にかけて生産量は増加し、飼料用、食用・工業用の供給も確保しながら、バイオエネルギー用向けも供給可能な見通しを立てている。
  増産の手段としては、①原料作物の単収の増加、②休耕地での作付増加(特に油糧種子)、③第ニ世代燃料の生産増(ha当たりのエネルギー収量の増加)、④畜産物の域内消費減による飼料需要の減(→エネルギー作物の作付増加)が挙げられている。
  図9のとおり、域内の穀物需要は政策的な誘導措置に伴うバイオ燃料需要の増加により増加する見込みである。一方で飼料用途については、バイオ燃料生産により発生するたんぱく質飼料による既存飼料の代替により、若干減少傾向で推移することが見込まれている。
  砂糖については、砂糖制度改革の影響を受け、生産削減が進み、輸出を大きく減少させる中、バイオエタノール向けは、ほぼ従来の輸出分に置き換わる形で利用が進むと予測している。

           出典:「Impact of a minimum10% obligation for biofuel use in EU―27 in 2020 on agriculturalmarkets(DG Agri in April 2007)」
           注:第二世代燃料の利用比率を30%、第二世代原料の輸入ゼロの他のシナリオあり。
図6 将来のバイオエタノールの原料(2020年)

図7 将来のバイオディーゼルの原料(2020年)

資料:欧州委員会、Prospects for Agricultural Markets and Income in EU(2007―2014),July 2007
図9 穀物の需給バランスシート(2014年)

(3) 土地利用などへの影響〜楽観見通しも〜
  2020年見通しの中で、土地への影響については、約15%の耕地、すなわち1,750万ヘクタールの土地が第一世代と第二世代の原料の栽培に利用され、第一世代のバイオ燃料用に利用される土地は、第二世代のバイオ燃料の利用状況によるが、約500〜700万ヘクタールの土地が転換される程度にとどまるとみている(全耕地の6%程度)。また、休耕義務の廃止(作付け自由化)の中では、競争力のある油糧種子の作付けが増加すると予測している。
  このように10%の混合義務化は土地利用を大きく圧迫するものではなく、義務的休耕地(新規加盟国など)での追加的な増産の可能性を示唆している(欧州委員会)。
  バイオ燃料が食料価格に与える影響について、欧州委員会のバイオ燃料の担当官によれば、バイオ燃料は、GHG(温室効果ガス)の削減約束のひとつの手段であり、生産振興することが必要であると考えているということであった。バイオ燃料の需要拡大による食料価格への影響は、少なくともEUの需要については域内生産でかなりの割合がまかなわれるため限定的なものであると考えており、むしろ多くの貧しい開発途上国にとっては、地球温暖化に起因する気候変動による悪影響の方が大きいとしている。
  また、EUはバイオ燃料の輸入に対してはオープンであり、世界の貧しい農村地帯は、EUのバイオ燃料の需要増大による原料向け農産物の需要拡大により、利益を受ける側面があると考えている。
  EU域内のバイオ燃料によるエネルギーと農業セクターへの影響にも楽観的な見方をしており、バイオ燃料への取り組みはリスクを超えた新しい挑戦であり、大きな市場機会をもたらすという観測であった。


資料:欧州委員会、Prospects for Agricultural Markets and Income in EU(2007―2014),July 2007
図10 砂糖の需給バランスシート(2014年)

           出典:「Impact of a minimum 10% obligation for biofueluse in EU―27 in 2020 on agricultural markets(DG Agri in April 2007)」
図11 土地への影響(2006年と2020年の比較)

表10 種類別原料の土地利用の予測
(単位:百万ha)
出典: 「Impact of a minimum 10% obligation for biofueluse in EU―27 in 2020 on agricultural mar-kets(DG Agri in April2007)」

11.バイオ燃料の生産費(参考)

 EU委員会の共同研究組織によるバイオ燃料の生産費の推定(プレゼンテーション資料による)を、表11に示した。現段階では第二世代バイオ燃料の原料として期待されているリグノセルロースや木質からの生産コストについては、3割から6割コスト高となっている。
  また、蒸留かすをエネルギー利用した場合、小麦の場合はかえってコスト高になっている。現在(2007年末)のように飼料価格が高騰している時期では、さらに蒸留かすをエネルギー利用することはコスト的に不利となっているものと思われる。
  また、蒸留かすをエネルギー利用しない場合、小麦がてん菜より生産コストが安くなっているのは、図12や図13のそれぞれの原料からのバイオ燃料の生産効率を見て推測される通り、1トンのバイオ燃料を製造するためには、小麦よりてん菜を原料とするほうが大量の原料が必要とされるためと見られる。

表11 バイオ燃料の生産費
出典 : Tobias Wiesenthal,Institute for Prospective Technological Studies(IPTS),European Commission DG JRC,Analysis of Biofuel Support policies,15 th European Biomass Conference,2007年5月11日
注 :

※は蒸留かすをエネルギー利用する場合
バイオエタノール1トン=0.64toe
バイオディーゼル1トン=0.86toe

資料:European Union of Ethanol Producers(UEPA)資料
図12 バイオ燃料1トンまたはTEP(石油換算トン)の生産に必要な原料の量

資料:European Union of Ethanol Producers(UEPA)資料
図13 1トンの原料から製造できるバイオ燃料

まとめ

(1) 第二世代の商業利用がカギ
  砂糖制度改革により余剰砂糖の国際市場への放出が困難になったことやWTOでの輸出補助金廃止の合意(2005年12月)などを受け、EUのバイオ燃料政策は農産物の余剰対策(需給調整)とも密接に関連している。EUの砂糖、穀物の輸出市場におけるプレゼンスは低下するが、EUのバイオ燃料の利用義務化政策の推進、特に主たるバイオ燃料であるバイオディーゼルの利用促進は、大豆などの植物油の相場への一定の影響を与えるであろう。
  バイオ燃料利用10%混合の義務化による砂糖・穀物生産、土地への影響は限定的なものであるというのが欧州委員会の見方である。しかしながら、第二世代のバイオ燃料の商業利用を相当程度見込んだ予測であり、この開発普及が遅れることになれば、第一世代バイオ燃料(小麦、てん菜、油糧種子などを原料とするバイオ燃料)の利用を増やさなければならないことになる。セルロース系原料は生産コストや輸送費高騰(回収コストに影響)の問題があり、試行段階であるとの見方が示された。また、輸出分や他用途利用からの転用を見込んでいる点も留意する必要がある。
  フィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は2008年1月18日の講演において、バイオ燃料に係る2020年の10%目標を達成するためには、耕地面積の15%をバイオ燃料生産用作物の栽培に当てなければならないとし、食料・飼料と燃料原料の間で競合が起こることは明らかとしている。このため、バイオ燃料の輸入や第二世代燃料の研究・開発を促進する必要があると述べている。
  今後、穀物利用のエタノール生産の増加が見込まれる中、最近の穀物価格の高騰は工場経営にとって悪影響を与えており、実際に工場の建設延期や操業停止の事例も現れている。植物油の価格の高騰によるバイオディーゼルの生産への影響も現れている。原料価格の変動は、生産者との長期契約により緩和するなどの対策が必要であろう。また、工場側が原料を安定確保するには、てん菜や小麦等の原料に対して食用と比べて魅力的な価格を提示できるかにもかかっている。

(2) 10%混合達成の遅延の可能性
  税制優遇措置からバイオ燃料の混合の義務化への政策が転換される傾向が強まっていることも、工場経営者にとっては、収益の悪化につながる可能性が強いことから不安材料となっている。EUでのバイオ燃料の需要(特に高混合率のバイオ燃料の需要)が拡大する中にあって、域内で競争力のあるバイオ燃料の生産が困難となる場合には、さらにバイオ燃料の輸入が拡大し(特に安価なブラジル産のバイオエタノール、米国産のバイオディーゼル)、価格にも影響を与える恐れがある。(ただし、EU委員会は2007年7月のレポート内において、バイオ燃料生産が拡大するためには、収益に重大な影響を与える副産物を販売できる市場の存在が大きいとし、その点においてEUでのバイオ燃料の生産は、他国で製造されたバイオ燃料の輸入よりも競争力があると想定している。)
  以上のことをかんがみると、バイオ燃料の10%義務化達成は遅延する可能性がある。穀物や植物油の価格高騰、税制優遇措置の縮小化、B99などの貿易問題により、現時点のバイオ燃料製造工場の経営は厳しいものがある。

(3) EUの政策が他国に与える影響
  EUのバイオ燃料生産の根幹となる持続可能性基準(sustainability criteria)の設定は、当面は域内のバイオ燃料生産への影響にとどまるが、中期的には今後の世界的なバイオ燃料の生産・貿易に影響を与える可能性がある。EUのバイオ燃料政策の特徴は、EU条約の中の環境条項を受け、バイオ燃料の生産により、既存の森林や自然草地などの炭素固定能力や生物多様性が低下することを規制し、バイオ燃料の生産によりGHG(温室効果ガス)が一定量削減しなければならないとしている点である。バイオ燃料の生産過程だけに注目するのではなく、バイオ燃料の需要増大に鑑み、生産基盤である土地条件まで規定する試みは、環境政策上、大きな意義を持つものである。
  この持続可能性基準の具体的な内容や適用方法の検討はこれからであるが、今回の新しいEUのバイオ燃料政策は、バイオ燃料の主要生産国であるブラジル、米国、東南アジアの諸国などへ影響が及ぶ可能性がある。

(主な調査先)

  • European Commission,DG-Agri
  • フランス農業水産省
  • International Grain Council
  • UEPA(European Union of Ethanol Producers)
  • EBB(European Biodiesel Board)
  • EBIO(European Bioethanol Fuel Association)
  • FEDIOL(EU Oil and Protein meal Industry)
  • CEFS(Comite Europeen des Fabricants de Sucre)

(主な参考文献)

  • European Commission(DG Agri),”Impact of a minimum 10% obligation for biofuel use in EU-27 in 2020 on agricultural markets in April 2007”
  • European Commission,”Proposal for a Directive of European Parliament and of Council on the promotion of the use of energy from renewable sources",23/1/2008
  • European Commission,”Prospects for Agricultural Markets and Income in EU(2007〜2014)”,July2007
  • FAO,”A review of the current state of Bioenergy Development in G8+5Countries,2007”
  • USDA,GAIN Report,”EU-27Bio-Fuels Annual2007”,4/6/2007
  • バイオ燃料の利用実績に関するEU各加盟国からの報告書
  • 和田剛、小林奈穂美、EUにおけるバイオ燃料生産・利用の現状について、畜産の情報(海外編)、2007年6月

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