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ブラジルの砂糖およびエタノール生産状況について(1)

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最終更新日:2010年3月6日




[2008年10月]

【調査・報告】

調査情報部調査課   係長 井上 裕之
係長 菊池美智子

1.はじめに

 ブラジルでは、従来よりさとうきびを原料として砂糖とエタノールの両方を生産しているが、工場の大半が砂糖とエタノールの両製造ラインを併設している。砂糖とエタノールの生産割合は、工場が需要に応じて決定しているが、2001年以降は原料ベースでおよそ半分ずつの割合で推移してきており、2007/08年度では47.0%のさとうきびが砂糖向けに、残り53.0%がエタノール向けにとエタノール向けが砂糖向けをやや上回った1)

 2005/06年度に世界の砂糖在庫が減少した後、しばらくは砂糖需給がひっ迫すると見られたことから、同国ではさとうきびおよび砂糖の生産を増加させてきた2)。その結果、2007年の見込みでは、さとうきび生産量は2003年から32.3%増の5億1,582トンに、また砂糖生産量は同23.4%増の3,079万トンに増加した。

 しかし、2007/08年度はエタノール需要の増加に伴い、砂糖生産量が前年比0.3%増にとどまる一方、エタノール生産量は同51.9%増の222億3,867万リットルへと大幅に増加するとみられており、ブラジルの砂糖・エタノール産業にとっては一つの転機にあるとも言える。

 本稿では、最近のブラジルの砂糖・エタノール需給および情勢について、2008年7〜8月にかけて行った現地調査を基に報告する。


表1 主な調査先


参考1 ブラジルの地図


2.砂糖・エタノールの需給状況および情勢

(1) さとうきびの生産状況
①さとうきび生産地域〜生産の中心は中南部地域のサンパウロ州〜

 さとうきびの生産地域は、主にアラゴアス州、ペルナンブーコ州を中心とした北東部地域とサンパウロ州を中心にパラナ州、ミナスジェライス州、ゴイアス州などに広がる中南部地域とに分かれている。さとうきび生産量では、北東部地域が13.5%、中南部地域が86.5%と、中南部地域での生産が大きく上回っている。中でもサンパウロ州での生産は全体の58.0%に及んでおり同国における生産拠点となっている1)

 北東部地域と中南部地域を比較すると、中南部地域では3月から12月にかけてが収穫時期であるが、北東部地域では9月から2月にかけての収穫が多く、地域によってばらつきがあるがブラジル全体では年間を通して収穫されている3)。また、単収では北東部のほうが低く、規模の小さい生産者が多いことから、中南部に比べて効率が悪くなっている。

 2007/08年度の砂糖・エタノール工場数は343工場で、北東部地域が79工場、中南部地域が264工場となっている。また、104工場がエタノールのみを、14工場が砂糖のみを生産しており、残り225工場が砂糖とエタノールの両方の生産ラインを備えている3)



出典:Conab、プレゼンテーション資料
図1 さとうきび、砂糖・エタノール生産地域の分布


出典: MAPA、Balanco nacional da Cana-de-Acucar e Agroenergia 2007 IBGE、Prognostico da Producao Agricola Nacional
図2 さとうきび収穫面積と生産量の推移




②さとうきびの生産拡大状況〜中南部地域、北東部地域ともに拡大〜

 さとうきびの生産量は、1970年代のプロアルコール政策(表4参照)が開始されて以降、増加傾向で推移してきたが、近年のエタノール需要の拡大から、年10%以上の増加となっている。2007年のさとうきび生産量は前年から12.6%増の5億1,582万トンで、2008年にはさらに14.2%増の5億8,922万トンになると予想されている4)5)

 収穫面積についても生産量と同様に増加傾向で推移しており、2007年は前年から8%増の669万ヘクタールで、2008年にはさらに13.6%増の760万ヘクタールにまで拡大すると予想されている4)5)

 地域別には北東部地域よりも中南部地域で面積が拡大しており、マットグロッソドスル州、ミナスジェライス州、ゴイアス州と従来さとうきび生産の中心であったサンパウロ州との州境付近の三角地帯と呼ばれる地域において新規の作付が進んでいる。これらの州における2007/08年度の収穫面積は、いずれの州においても前年度に比べて20%以上増加している1)。さらに、パラナ州においても前年度比20%以上の増加となっており、生産拠点であったサンパウロ州からその周辺地域へと拡大しているといえる。これまでの生産拠点であったサンパウロ州では、面積も拡大しているが、EMBRAPAの研究者によると、今後は面積の拡大よりもさとうきびの単収増加による生産量拡大に力が注がれるだろうとのことである。

 北東部地域を見ると、従来主要産地ではなかったバイーア州およびセアラ州での収穫面積の拡大が著しく、2007/08年度にはそれぞれ前年度比52.0%、40.0%増加した1)。関係者によると、これまでは海岸沿いが主な生産地域であったが、特にバイーア州においては内陸部のSao Francisco川流域での生産が増加しており、新たな主要生産地域になる可能性が高いとのことである。しかし、この地域では、セラード(潅木地帯)やバイーア州南西部を除いて、干ばつのリスクがあるため、かんがいが必要になるだろうとの意見もあった。

 さとうきびは収穫後、時間の経過とともに品質が落ちるため長距離の輸送には適さず、砂糖・エタノール工場の周囲にほ場が位置する必要がある。工場およびMAPAによると収穫後48時間以内に圧搾することが一つの目安になり、工場規模の制限要因になっているとのことである。ブラジルでの平均輸送距離は22.18キロメートルで、40キロメートルを超えて輸送されているのは全体の12.5%のみである3)

 このため、さとうきびの生産拡大と合わせて新規の砂糖・エタノール工場が必要となる。CNAのさとうきび委員会が把握しているところでは、2007/08年度の343工場から、2008/09年度には21工場が新たに稼働したが、当初予定の33工場すべての稼働には至らなかったとのことである。2008年8月時点では、408工場がMAPAのリストに登記されており、建設準備にある工場が順次稼働するものと考えられる6)。また、既存の工場においても生産拡大、効率化のために増改築を行っているところも多いとのことである。


出典:MAPA プレゼンテーション資料
図3 さとうきび生産拡大地域


出典:CANASAT、Inicializar Mapa
図4 中南部地域におけるさとうきび生産の比較


表2 砂糖・エタノール工場数
出典: Conab、Perfil do Setor do Acucar e do Alcool no Brasil、2008 MAPA、Relacap das Unidades Produtoras Cadastradas no Departamento da Cana-de-acucar e Agroenergia POSICAO 06/08/2008
注  : 登記数は2008年8月時点でのMAPA への登記数である


③さとうきび作付による他作物への影響 〜牧草地からの転換が多い〜

 さとうきびの作付が拡大する中で、その土地の確保に当たっては中南部地域、北東部地域ともに牧草地からの転換が最も多く、2007/08年度の新規作付地では、中南部地域の66.4%、北東部地域の37.3%に及んでいる。MAPAなど政府関係者によると、ブラジルの牧草地には生産性が低く荒廃地に近い場所が半分近くあり、効率的な放牧管理をすることでさとうきびへの転換分は十分に補えるとのことである。また、中南部地域においてはとうもろこし、大豆などの穀物からの転換も一部でみられるが、穀物の主要生産地域である南部地域では霜が降りるなどさとうきび生産には適していない。ブラジル全体での穀物生産量は、2004/05年度以降は年5%以上の割合で増加しており、現在のところさとうきびの生産拡大による影響はほとんど受けていない。

 2006年度のさとうきび作付面積は690万ヘクタールで、8億5,000万ヘクタールに及ぶブラジル国土全体の0.8%を占めている。農地として使用されている2億8,000万ヘクタールに未開発の潜在的農地である1億100万ヘクタールを加えた面積に対しても、1.8%を占めるにすぎない。一方、牧草地は2億1,000万ヘクタールに及ぶ。

 このことから、仮にさとうきびの作付面積が2006年を基準として倍増し、増加分すべてを牧草地からの転換によって確保したとしても、牧草地の面積は2億310万ヘクタールとなり、減少幅は3%にとどまる7)


出典:Conab、Perfil do Setor do Acucar e do Alcool no Brasil、April 2008
図5 新規さとうきび作付地の内訳(2007/08年度)


出典:Conab、プレゼンテーション資料
図6 穀物生産量の推移(参考)


表3 国土全体に占めるさとうきび作付面積および割合(2006年)
出典:MAPA、プレゼンテーション資料を基に作成


④さとうきび栽培推進地域の設定〜他作物や環境への影響を懸念して導入を検討〜

 ブラジル連邦政府では、上記のようにさとうきびの拡大は他の作物などへほとんど影響していないが、将来的に他作物の生産が減少したり環境へ負荷を与えることを防止する目的で、作付地域の指針としてZAE-Cana(Zoneamento Agroecologico da Cana-de-Acucar)を設定することを検討している8)。検討に当たっては、農務省だけでなく、鉱山エネルギー省、環境省、大統領府など砂糖およびエタノール生産に関係する複数機関が連携して取り組んでいる。

 作付推進地域の設定は、さとうきび栽培に適した土壌、気候で持続的な生産が可能であることや、機械収穫が可能であるかなどの地理的条件に加え、生物および環境の保護に関しても考慮したうえで、①さとうきび作付推進地域、②作付制限地域、③政府が関与しない地域(①、②以外の地域)に分類するとしている。特に、ブラジル連邦政府が法定保護区と定めたアマゾン地帯(法定アマゾン)や湿地帯のパンタナール、森林などはさとうきびの作付を制限することで、環境に負荷がかからないための対策が検討されている。

 作付地域の指針が設定されると、砂糖・エタノール工場建設時に必要な環境認証や政府系金融機関からの融資などにおいて、一つの参考基準として用いられることになり、作付推進地域以外の地域(政府が関与しない地域)での生産では推進地域での生産に比べて不利になることになるだろうとのことであった。

(2) エタノールの需給状況
①燃料としてのエタノール利用の経過〜長年の経験があり、現在はほぼ自由市場〜

 ブラジルでは以前からエタノールの生産が行われているが、1970年代に石油ショックにより石油価格が高騰したことから、プロアルコール政策を実施し、ガソリンの代替としてさとうきびからのエタノールの生産およびその利用を推進した。ガソリンへのエタノールの混合はそれより以前の1931年より義務化されている。当初5%であったエタノール混合率は、現在では25%を上限に需給状況や価格を考慮して設定されており、2008年8月現在では25%となっている。

 また、エタノールを燃料とするアルコール車も1979年より販売されるなど、ブラジルにおいては燃料としてのエタノールの利用には長年の経験がある。

 プロアルコール政策下では、以前より設定されていた砂糖およびエタノールの生産割当に加えて、エタノールには保証価格を導入したりペトロブラス社に対して販売独占権を与えるなどが行われていた。これらの措置は、1990年代に規制緩和され、砂糖・エタノール産業への政府の介入はガソリンへのエタノールの混合義務などに限られており、ほぼ自由市場となっている。



表4 エタノール政策の推移の概要


②エタノールの需給状況〜近年は著しい生産増、国内での消費増が背景〜

 エタノール生産量は、砂糖、エタノールの生産割当が順次、撤廃されるに従い1990年代後半に減少したが、2000年以降は一転して増加傾向となっている。特に2007年には前年比27.0%増の225億5,700万リットルと、それまでの年10%程度の増加率に比べると著しい増加となっている9)10)

 2006年のエタノール需給状況をみると、177億6,400万リットルの生産量のうち、75.6%に当たる134億3,500万リットルを国内で消費しており、残りの19.5%に当たる34億6,000万リットルを輸出している。このように、生産量の大半を国内で消費しているが、そのうち9割以上の123億リットルを自動車燃料としてエネルギー向けに利用している。

 地域別には、さとうきびの生産が多い中南部地域で90%以上を生産している。エタノール生産に向けられるさとうきびの割合は、2007/08年度は北東部地域で41.4%、中南部地域で54.7%となっており、中南部地域のほうがより多くエタノールを生産する傾向にあるといえる1)



出典:MME(EPE)、Brazilian energy balance 2007、2008
図7 エタノール生産量の推移


表5 エタノール需給状況(2006年)
(単位:百万リットル)
出典:MME(EPE)、Brazilian energy balance 2007


③ブラジル国内でのエタノール利用状況〜フレックス車普及により国内消費が増加〜

 国内におけるエタノールの消費量は、生産量の動向と同様に1990年代の終わりから2000年代初めにかけて減少していたが、近年になって再び増加し、2007年には前年比23.5%増の165億9,300万リットルとなっている9)10)

 これまでもエタノールはガソリンに混合して利用されていたが、近年の急激な増加の背景には2003年に販売を開始したフレックス車の普及が挙げられる。ブラジルで販売されているフレックス車は、エンジンにあるエタノールセンサーがエタノールの混合割合を感知し、それに応じてエンジンを稼働させるため、ガソリンへのエタノール混合割合を問わずに燃料として利用できる。1970年代に販売されたアルコール車ではエタノールのみを原料としたため、ガソリン価格が高い時には有利であったが、一転してガソリン価格が低い場合には魅力がなくなる。フレックス車の場合には、ガソリンもエタノールを混合したガソリンも100%エタノールも利用できる点が、ガソリンおよびアルコール価格を比較しながら燃料を購入できることから評価され、急速に普及している。

 また、フレックス車の販売価格がガソリン車と同等であることも普及を後押ししており、2007年には乗用車の新車販売台数の86.0%がフレックス車であった。2007年末でのフレックス車の販売台数は460万台で、国内で使用されている乗用車の19.5%にまで及んでいる11)


出典:MME(EPE)、Brazilian energy balance 2007、2008
図8 エタノール消費量の推移


写真1 リオデジャネイロ市内のフレックス車


注: A Comum はエタノール100%、
G Comum はガソリン(エタノール25%混合)
写真2 ガソリンおよびエタノールを販売するスタンド


出典:ANFAVEA、Anuario da Industria Automobilistica Brasileira 2008
図9 乗用車の新車販売動向


④エタノール価格の動向〜砂糖価格に連動、販売価格はガソリンより安価〜

 エタノールは、さとうきびの生産状況や砂糖の需給状況によって生産やガソリンへの混合率が調整されてきたこと、市場がほぼ国内市場に限られていたことなどから、砂糖の価格に連動して推移してきた。砂糖の国際相場が高騰した2006年には、ブラジル国内でのエタノール価格(サンパウロ州、工場出荷価格、税抜き)も高値となっており、無水アルコールでは1リットル当たり1.21レアル(64.58円:1レアル=53.37円)まで上昇した。2008年では7月末までは、同0.76から0.89レアル(47.42〜55.53円:1レアル=62.39円)で推移しているが、例年、中南部地域でのさとうきび収穫時期が始まる直前に価格が上昇し、収穫が始まると下降する傾向にある12)

 エタノール価格はガソリンに比べて安価であるが、同熱量における価格を見ると1990年代にはガソリンのほうが有利であったが、2000年以降はエタノールのほうが有利な状況にある9)。エタノールを燃料とした場合の1リットル当たりの走行距離はガソリン(エタノール混合)の70〜75%程度であることから、エタノール価格がガソリン(エタノール混合)価格よりも70%以下であれば燃料として有利であり、消費者にとって使用動機となる。今回の調査では、サンパウロにおけるエタノールの店頭販売価格はガソリン(エタノール混合)の54.1%であり、十分に魅力的といえる。

 エタノールの価格は生産地に近いほど低い傾向があるとのことであり、実際に主要生産地に近いサンパウロでの1リットル当たり1.299レアルに比べて、生産地から比較的離れたリオデジャネイロおよびブラジリアでの価格はそれぞれ1.799レアル、1.860レアルと高くなっている。このように、ブラジル国内においてもエタノールの優位性には地域差があり、国内の各消費地への輸送力の向上も消費の拡大において課題となるだろう。


出典:CEPEA、Indicador Alcool CEPEA/ESALQ-Sao Paulo
図10 エタノールと砂糖価格の推移


出典:MME(EPE)、Brazilian energy balance 2007
図11 エタノールとガソリンの価格の比較


写真3 スタンドでの価格表示
(リオデジャネイロ市)


表6 ガソリン、エタノール価格の比
(単位:レアル/リットル)
注:現地調査により作成


⑤無水エタノールと含水エタノール〜国内向けの含水エタノールが増加〜

 エタノールには、蒸留により得られたままの水分を5%ほど含む含水エタノールと、含水エタノールから水分を除去した無水エタノールとがある。ガソリンに混合する場合には、水分をほとんど含まない無水エタノールが使われるが、エタノールのみで燃料として使用する場合には含水エタノールを使用することが多い。

 含水エタノールの国内消費量は、アルコール車およびフレックス車の普及の動向の影響を受けて推移しており、アルコール車の減少とともに1990年代後半に減少した後、2003年のフレックス車の販売開始を境に増加傾向に転じている。一方、無水エタノールの消費量は一貫して増加傾向にあり、特にアルコール車の減少時には、ガソリン車が増加したことによるガソリンの消費量の増加に伴って生産量が増加した。

 近年ではフレックス車の増加による含水エタノールの増加が著しい反面、無水エタノールの消費は停滞しており、ガソリンからエタノールへの燃料の切り替えが進んでいることがうかがえる。鉱山エネルギー省など関係者によると、エタノールの消費は2008年になってからも急増を続けており、2008年3月には無水エタノールと含水エタノールの販売量がガソリン(エタノールを含まない)の販売量を上回ったとのことである。

 UNICAでは、2015年には乗用車全体で3,000万台となり、そのうち65%がフレックス車になるとみている13)。これによると、フレックス車は2007年の462万台から4.2倍に増加することとなり、含水エタノールの消費量が同様に増加するならば、2015年には435億リットルの消費が見込まれる。また、無水エタノールはガソリン車の減少により、2015年には2007年の55%に当たる34億2,000万リットルになると仮定できる。このように、ブラジルでは国内消費のみで約470億リットルの需要の潜在があることになる。 

⑥エタノールの輸出状況 〜無水エタノールでの増加が見込まれる〜

 輸出されるエタノールは、2006年時点では生産量の19.5%に当たる34億6,000万リットルと国内消費に比べると少ないが、2000年以降着実に増加してきている9)10)。種類別には、以前より輸出されていた含水エタノールの輸出量も増加しているが、以前には輸出されていなかった無水エタノールが2002年より輸出され、ガソリンに直接混合できることから急速に増加している。

 輸出先国における、ガソリンへの混合率、税率などのバイオエタノール政策の動向が輸出量に影響することもあり、輸出相手国、数量ともに年によって変動がみられる。特にインド向けでは、エタノール政策が積極的に取り組まれた2004年から2005年にかけて輸出量は大きく伸び、2005年においては最大の輸出相手国であったが、2006年以降は一転して激減している。また、2006年から米国への輸出が大幅に拡大しており、鉱山エネルギー省によるとカリブ海諸国や中東向けに増加しているものも、無水化などの加工を行った上で米国に再輸出されているとのことであった。

 関係者の間では、輸出相手国として、既にエタノールを燃料として導入している米国およびスウェーデンに加え、その他のEU諸国、インドに注目しており、南アフリカ、日本については政策などの動向次第であるとの考えであった。

 エタノール輸出を戦略として、各国での需要に対して安定して供給できる体制を整えようと、エネルギー関係企業が新たに砂糖・エタノール工場を建設し始めている。この場合には、価格暴落時などのリスク分散を考えて砂糖とエタノールの両方を生産する場合もあるが、エタノールの製造ラインのみを設備することが多い。エタノールのみを製造することで、相場によって供給体制が変化せず、安定した供給が可能であることをアピールできるとの考えでもあった。

 エタノール燃料の利用については、ブラジル国内においては長年の経験があり世界をリードしているともいえる。しかし、その他の国での取り組みは近年に始まったところであり、ブラジルにとってもこれらの国へのエタノールの輸出はまだ試行段階の状態である。しかし、各国で燃料としての利用が取り組まれており、世界的にエタノールの需要が拡大していることから、輸出向けは特に無水エタノールで確実に増加するとみられている。


出典: MME(EPE)、Brazilian energy balance 2007、2008
注  : 2007年の輸出量は無水エタノールと含水エタノールの合計である。
図12 エタノール輸出量の推移


表7 エタノール輸出先国(上位10カ国)
(単位:万リットル、%)
出典:UNICA、Ranking de Exportacao de Alcool Brasil por Pais


出典:Petrobras プレゼンテーション資料
図13 中南部地域でのパイプラインの設備状況


⑦エタノール輸送 〜輸出用パイプラインの敷設を計画〜

 ブラジルでは全国でガソリンへのエタノールの混合が義務付けられているため、全国各地へエタノールを輸送する必要がある。輸送方法としては、ローリ車などによる陸上輸送が6割、パイプラインによる輸送が3割、河川を利用した水上輸送が1割で、陸上輸送が主要となっている。北部地域では、道路の整備も不十分であることから、河川での輸送が多いとのことである。

 一部ではあるが、パイプラインによる輸送が行われていることがブラジルの特徴であり、国土が広く、道路の整備が不十分な状況での長距離輸送において貴重な手段となっている。ブラジルでは、既に石油などを運搬するためのパイプラインが、各地の製油所と貯蔵設備を結ぶ形で設備されており、エタノールについてもこれらのパイプラインを併用して国内消費地へ輸送されている。

 輸出用には、エタノールの輸出力の強化を目的として、エタノール生産地と輸出港をつなぐパイプラインが計画されている。現在のところ、①ゴイアス州Senador Canedo市のターミナルからサンパウロ州Paulinia市の製油所を通りサンパウロ州Sao Sebastiao市のターミナルに至るルートと、②Tiete川を使った河川ルートからPaulinia市の製油所までをつないでSao Sebastiao市へのルートに合流するルート、③マットグロッソドスル州のCampo Grande市からパラナ州のParanagua市の港までをつなぐルートが検討されている。

 鉱山エネルギー省などの関係者によると、①のルートは、検討も進んでおり近いうちに着工される見込みとのことである。このルートについては、以前はPaulinia市からブラジリアなどの内陸部に向けてエタノールを輸送していたが、最近では内陸部での生産も拡大したことから輸送は行っておらず、現在、内陸部から沿岸部に向けた逆ルートのパイプラインが検討されるまでになっている。パイプラインの使用料次第では工場および販売業者にとって有効な輸送手段にならない可能性があると懸念されてはいるが、強力なロジステックになるため、このライン沿いでのさとうきび作付は有利であるとみられている。

 一方、Campo Grande市からParanagua市の港までのルートについては、着工までにしばらく時間が必要であるとしており、実現に対して疑問視する見方もあった。 


参考2 各関係機関によるさとうきび、砂糖・エタノールの生産見通し
出典:CNA、プレゼンテーション資料


【参考資料】
1) Conab, Acompanhamento da Safra Brasileira Cana-de-Acucar Safra 2007/2008 Terceiro Levantamento, 2007
2) 砂糖類情報 2006年6月号「ブラジルにおける砂糖およびエタノール関連調査結果」
3) Conab, Perfil do Setor do Acucar e do Alcool no Brasil, 2008
4) MAPA, Balanco Nacional da Cana-de-Acucar e Agroenergia 2007
5) IBGE, Prognostico da Producao Agricola Nacional
6) MAPA, Relacap das Unidades Produtoras Cadastradas no Departamento da Cana-de-acucar e Agroenergia POSICAO 06/08/2008
7) Embrapa, Agricultura Brasileira:Alimentos e Energia para mundo sustentavel
8) Embrapa, Avancam os estudos de zoneamento da cana-de-acucar
9) EPE, Brazilian Energy Balance 2007
10) EPE, Resultados Preliminares Balanco Energetico Nacional 2008
11) ANFAVEA, Anuario da Industria Automobilistica Brasileira 2008
12) CEPEA, Indicador Alcool CEPEA/ESALQ-Sao Paulo
13) UNICA, Sugarcane Industry in Brazil Ethanol Sugar Bioelectoricity

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