砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > ブラジルの砂糖およびエタノール生産状況について(2) 〜砂糖事情とサンパウロ州での生産状況〜

ブラジルの砂糖およびエタノール生産状況について(2) 〜砂糖事情とサンパウロ州での生産状況〜

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日




[2008年11月]

【調査・報告】

調査情報部調査課   係長 井上 裕之
係長 菊池 美智子

2.砂糖・エタノールの需給状況および情勢

(3)砂糖の需給状況
①砂糖の需給バランス〜生産量は着実に増加〜
  ブラジルの2007/08年度の砂糖生産量は、3,423万トンで、世界の生産量の20.3%を占める最大の生産国である。消費量が1,211万トン、輸出量が1,838万トンとなっており、輸出量においても世界の33.4%を占める第一位の輸出国である14)。このため、ブラジルにおける砂糖の生産状況は、世界市場に大きな影響を与えてきた。
  砂糖の生産量は、1990年頃までは1,000万トンに満たない水準で推移していたが、1990年代から現在に至るまで増加傾向が続いている。2008/09年度には前年度比8.3%増の3,387万トンと、1990/91年度に比べると20年足らずで4.6倍に増加している4)
  輸出量は、ブラジルでの生産の増加に加え、世界での砂糖消費量が増加してきたことから、干ばつにより生産量が落ち込んだ2000年を除くと、増減はあるものの増加傾向で、2006年は前年比4.0%増の1,887万トンとなっている。1990年以降に増加した生産量のうち7割以上が輸出向けとなっており、2006年には生産量の6割以上が輸出に向けられている4)15)

表8 砂糖需給状況(2007/08年度)
(単位:万トン)
出典:F.O.Lichit、World Sugar Balances
出典: MAPA、Balanco nacional da Cana-de-Acucar e Agroenergia2007
Conab、Acompanhamento da Safra Brasikeira Cana-de-Acucar
図14 砂糖生産量の推移

②輸出動向〜ロシア、中東向けが多い〜
  国内消費についてはすでに成熟市場であり、増加は国内の経済成長分に限るとみられており、砂糖生産の関係者の関心は輸出向けに集まっている。
  輸出先国では、ロシアが多く、次いでアラブ首長国連邦、イラン、ナイジェリアなどの中東、アフリカ諸国が多くなっている。ブラジルでは、近年の世界市場は同国に次ぐ砂糖生産国であるインドの影響が大きいとしている。インドは、年による生産量の変動が大きいため、輸出国にも輸入国にもなり得ることから動向が注目されている。また、中東向けでは、ブラジルからの粗糖を精製した後に近隣国へ再輸出している場合もある。今後、この地域ではEUからの輸出が減少するとみられることから、ブラジルからの輸出が補うことも考えられている。

出典:MAPA、Balanco nacional da Cana-de-Acucar e Agroenergia2007
図15 砂糖輸出量の推移
表9 砂糖輸出先国(上位10カ国)
(単位:万トン、%)
出典:UNICA、Ranking de Exportacao de Acucar Brasil

③砂糖の価格〜レアル高により、ブラジルでは現在は安値〜
  砂糖の国際相場は、2006年には月平均で1ポンド当たり18セント近くにまで上昇していたが、2007年には8セント台にまで下降しており、2008年も幾分上昇したものの2006年の水準にまでは回復していない。さらに、ドルに対してレアル高となっていることから、レアルに換算すると、2008年に入ってからの価格は、国際相場が高かった2006年や現在より低い水準であった2003〜2005年に比べても安く、ブラジルにとっては魅力のない状況になっている。
  さとうきび生産者団体によると、近年にさとうきび生産を始めた生産者や規模拡大した生産者では、他の作物への切り替えを検討する者も出ているが、株出しを含めた5年以上のサイクルでの生産体系や、借地や出荷の契約期間が5年である場合が多いことなどから、様子を見ている状況とのことである。

出典: ニューヨーク商品取引所砂糖相場
FX History、historical currency exchange rates
図16 砂糖国際相場と為替の影響

(4)生産見通し〜2017/18年度には砂糖で1.4倍、エタノールで2.0倍に〜
  ブラジルの砂糖・エタノールの生産見通しについて、農務省では、ここ5年ほどについては、砂糖が年10%程度の、エタノールが年30%程度の増加になるとみている。2017/18年度には砂糖生産量は2007/08年度に比べ43.8%増の4,321万トンで、うち輸出向けが同60.4%増の3,127万トンに、また、エタノール生産量は同95.4%増の416億3,000万リットルで、うち国内向けが同70.7%増の303億3,000万リットル、輸出向けが同3.2倍の112億9,000万リットルになるとみている16)
  また、各関係機関の見通しを総合すると、全体としては、第一に国内向けのエタノール生産が増加し、その後に輸出向けのエタノール生産、余力次第で輸出向けの砂糖生産が増加するとしている。このことから、当面は、国内のフレックス車で使用する含水エタノールの生産が増加することになるだろう。
  さらに、UNICAの見通しでは、1ヘクタール当たりのさとうきび収量についても、2007/08年度の62.4トンから2020/21年度には74.6トンへと19.6%増加するとしている13)。砂糖およびエタノール生産量は今後著しい増加が見込まれるが、さとうきびの作付面積の拡大のみならず、単収の増加、工場での糖分回収率の向上などにも取り組むとしている。

表10 各関係機関によるさとうきび、砂糖・エタノールの生産見通し
出典: CNA、プレゼンテーション資料
MAPA(AGE)、Projecoes do Agronegocio Mundial e Brasil2006/07a2017/18
UNICA、Sugarcane Industry in Brazil Ethanol Sugar Bioelectricity
MME、Plano Nacional de Energia2030

3.主要生産地サンパウロ州のさとうきび生産状況

(1)サンパウロ州のさとうきび生産状況
①概況〜2000年以降生産が急拡大〜

  前述のとおり、サンパウロ州は、北東部地域とともに従来から主要な生産地域である。2007/08年度の州別さとうきび生産量を見ると、サンパウロ州の収穫面積は368万ヘクタール、さとうきび生産量では3億1,900万トンとそれぞれ、ブラジル全体の53%、58%と過半数以上を占めており、ブラジル最大の生産地域となっている1)。サンパウロ州での近年のさとうきび生産の動向を見ると、ブラジル全体での動向と同じく、1990年代後半に停滞した時期があるものの、全体として増加傾向にあり、2007年は前年比15.1%増の3億2,800万トンとなっている。1990年代には最大でも2億トン程度の生産量であったが、2000年以降は生産の増加が著しく、近年では特にフレックス車の普及によるエタノール向け需要の拡大に伴う成長が見られる。収穫面積は、2007年時点で1997年を59%上回る390万ヘクタールと大幅な増加になっているが、生産量に比べると増加率は低く、この間に単収の増加も進んだことがうかがえる17)

出典: IEA、Area e Producao dos Principais Produtos da Agropecuaria do Estado de Sao Paulo
図17 サンパウロ州におけるさとうきび収穫面積および生産量の推移

②地域別の生産動向〜生産増は州北部地域が中心〜
  IEAによると、州内の生産は増加傾向で推移しているが、その中心は従来から生産が盛んであった州中部から州北部へ向かっており、特に州境付近の地域で収穫面積が増加しているとの見解であった。行政区域別(市別)に2007年と10年前の1997年とのさとうきびの収穫面積を比較してみると、2007年の収穫面積は、Orlandia市が35万ヘクタール(1997年比45%増)で1997年同様に第1位であるが、これに次ぐBarretos市は33万ヘクタール(同95.6%増)とサンパウロ州内では過去10年間で最大の伸びを記録している17)。その他では、Aracatuba市、Sao Jose do Rio Preto市での増加率が大きく、これらの地域は州境付近の北部地域に集中している。
  北部地域と、Ribeirao Preto市および今回訪問したPiracicaba市といった従来からの主要生産地とのさとうきび生産量の推移を比較すると、Orlandia市、Barretos市では、従来からの生産地を上回るまでに成長している。また、Aracatuba市、Sao Jose do Rio Preto市においても、Orlandia市やBarretos市からは遅れているものの、2001年を境に大幅な生産の増加が見られる。

表11 地域別さとうきび収穫面積(サンパウロ州)
(単位:ha)
出典: IEA、Area e Producao dos Principais Produtos da Agropecuaria do Estado de Sao Paulo
出典:IEA e Coordenadoria Assistencia Tecnica Integral
図18 サンパウロ州のさとうきび生産増加地域
出典: IEA、Area e Producao dos Principais Produtos da Agropecuaria do Estado de Sao Paulo
図19 サンパウロ州北部地域のさとうきび生産量の推移

③農地価格の推移〜北部地域で特に上昇〜
  さとうきび生産が力強い成長を遂げていることから、農地の引き合いは強まっており、農地価格は上昇傾向を示している。直近10年間の収穫面積の増加率が最大であるBarretos市は、農地価格の推移でもサンパウロ州平均を超え、著しく上昇している18)。IEAでは、この農地価格の上昇は、大豆を中心とした穀物生産の拡大から端を発し、その後さとうきび生産面積の拡大が上昇圧力となったとしており、今後もさとうきびの面積拡大により上昇あるいは現在の高水準を維持すると分析している。また、価格の上昇がさとうきび増産の抑制要因になるのではないかと聞いたところ、現在のさとうきびおよび砂糖・エタノール価格を考慮すると、抑制要因にはならないと楽観的な見方をしていた。

出典: IEA、ANALISE DO MERCADO DE TERRAS AGRICOLAS NAS REGIOES DO ESTADO DE SAO PAURO,1995a2006
図20 サンパウロ州北部地域の農地価格の推移

④さとうきび生産者〜メーカーと供給者の2タイプが存在〜
  ブラジルのさとうきびほ場には、砂糖・エタノールメーカーが生産するほ場とそれ以外の者(さとうきび供給者)が生産するほ場との2種類がある。サンパウロ州では2007/08年度の収穫面積のうち、58.2%に当たる192万ヘクタールがメーカーによる生産で、残り138万ヘクタールがさとうきび供給者による生産となっている3)。ブラジル全体では、メーカーによる生産が400万ヘクタールと全体の66.4%を占めることから、サンパウロ州ではさとうきび供給者による生産が比較的多くなっている。
  サンパウロ州でのさとうきび供給者は1万3,980者であるが、年間のさとうきび収量が1万トン(面積で150ヘクタール)程度までの小規模生産者が9割に及んでいるとのことである19)。さとうきび生産者団体では、所属する生産者の平均規模は80ヘクタールであるのに対し、1割に当たる大規模生産者での平均は416ヘクタールと5倍以上の格差があり、ひとくくりにできないことを指摘している。
  大規模生産者の場合には、さとうきびの栽培管理、収穫などの作業は生産者自身で行うが、小規模生産者の場合には、収穫作業はメーカーが請け負うことが多いとのことである。また、苗の供給や栽培管理、技術の指導についてもメーカーが行っているとのことであった。

表12 さとうきび、砂糖・エタノール生産者
出典: Conab、Perfil do Setor do Acucar e do Alcool no Brasil2008
Orplana、Perfil dos produtores
CNA、プレゼンテーション資料
注: さとうきび供給者数は2006/07年度、それ以外は2007/08年度

⑤さとうきび代金の計算方法〜砂糖・エタノールの販売価格に基づく糖分取引〜
  サンパウロ州では、さとうきび供給者と砂糖・エタノール工場との間でのさとうきび代金の計算方法は、製糖業者団体であるUNICAと生産者団体であるORPLANAで構成するCONSECANA―SPによって管理されている。
  基本的にさとうきび代金は回収糖分(ATR)に応じて決定している。砂糖・エタノール工場に搬入されるさとうきびは、搬入時に全て、目視による病害虫の有無の確認、重量の計測、糖分測定のためのサンプリングをトラック単位で行い、さとうきびの糖度、圧搾量と砂糖・エタノールの生産量などから、さとうきび1トン当たりのATR量(キログラム)を計算する。
  価格は、砂糖およびエタノールの販売収益を工場と生産者の間で6:4の割合で配分することを基本として計算される。具体的にはLuiz de Queiroz農業学校(ESALQ)が発表する、砂糖・エタノールの州平均価格を基に計算している。この価格には①国内向け精製糖、②輸出向け精製糖、③輸出向け粗糖、④国内向け燃料用無水エタノール、⑤国内向け燃料用含水エタノール、⑥国内向け工業用無水エタノール、⑦国内向け工業用含水エタノール、⑧輸出向け工業用無水エタノール、⑨輸出向け工業用含水エタノールの9つがあり、それぞれの製品のみを生産した場合のATR1キログラム当たりの価格が計算される。さらに、各工場は、これらの価格を基準に、おのおのの生産量を勘案して、ATR1キログラム当たりの価格を計算する。工場ごとに生産する品目および量が異なるため、ATR1キログラム当たりの価格は工場ごとに異なることになる。
  最終的に、トラックごとに計算されるさとうきび1トン当たりのATR量(キログラム)に、工場ごとのATR1キログラム当たり単価と、さとうきび搬入量を乗じた額が支払われる。生産者へのさとうきび代金の支払いは、搬入時に月締めで8割を仮払いし、その年の生産が終了した後に残りを精算している。
  このさとうきび代金の計算方法は、パラナ州でも導入されており、マットグロッソドスル州などにおいても導入が検討されている。

⑥焼畑禁止の条例〜サンパウロ州では2031年までに全廃、前倒しの動きも〜
  サンパウロ州では農地と都市部とが混在していることから、さとうきび収穫時の焼畑(梢頭部および葉を焼却した後に茎を刈り取る)による大気汚染を理由に、州政府が焼畑を禁止する条例を2002年に制定した。この条例では、こう配が12%までのほ場は2021年から、12%以上のこう配または150ヘクタール未満のほ場は2031年から禁止するとしている。
  IEAによると、砂糖・エタノールメーカーの理解もあり同州での進捗状況は良好としており、2007/08年度には33.0%のほ場での収穫が機械化されている3)。その理由として、ブラジルにおける環境問題への意識の高まりを挙げているが、メーカーは、砂糖・エタノール生産が低賃金で労働環境の悪い条件での手刈り収穫によるものであるとする海外からの批判をかわし、機械収穫をセールスプロモーションの一つにしたいという意図もあるとみている。このような背景から、条例を前倒しするかたちで、州政府と砂糖・エタノールメーカーおよびさとうきび生産者団体とが2007年に協定を結び、12%までのこう配地については2014年までに全廃し、12%以上のこう配地または150ヘクタール未満のほ場についても2017年までに全廃するとしている20)。また、全廃までの段階的廃止の目標も定めている。なお、機械収穫の推進には、連邦政府および州政府からの補助はなく、政府系金融機関からの融資があるのみである。
  機械収穫ではハーベスタ1台で手刈り収穫80人分の仕事量に相当するとのことであり、短期的に雇用が減少することが懸念されるが、ブラジル全体では果樹などほかの品目や建設現場などで人手が不足していることなどを理由に中期的には問題にならないとの見方をしている。さらに、メーカーや地元自治体は、これまで収穫作業に従事していた者に対して、砂糖製造関連やその他の職種に必要な各種職能トレーニングを実施しており、より高度な技術を習得するための体制が用意されている。
  また、焼畑には害虫駆除の効果もあるため、これを停止したことにより、害虫の発生の増加が確認されている。現在、IAC(Instituto Agronomico、サンパウロ州政府農業研究所)およびCTC(Centro de Tecnologia Canavieira、さとうきび技術研究所)などで対策を検討中とのことであり、新たな課題となっている。

表13 サンパウロ州における焼畑の廃止期限および段階的目標
出典:IEA、Analises e Indecadores do Agroegoio

(2)さとうきび栽培の事例
①COSAN社Costa Pinto工場概要〜砂糖生産が中心、エタノールの原料は糖みつのみ〜

  COSAN社は、1935年創業の大手国内砂糖・エタノールメーカーの一つで、サンパウロ州内を中心に17工場を有している。
  Costa Pinto工場は、サンパウロ市から北へ約180キロメートルに位置する州中部のPiracicaba市にあり、同社の創業と同時に建設され、本社機能も有している21)。工場設備は、砂糖生産を主目的とした旧型のものであり、エタノールの生産は、近年主流となっているケーンジュース(さとうきび圧搾汁)を直接利用するエタノール生産ではなく、モラセス(糖みつ)のみを利用している。また、製糖期間は例年4月〜11月の8ヵ月間となっている。

表14 COSAN 社CostaPinto 工場の概要
資料: COSAN、relatorio anual exericio social2007
UNICA、Uniao da Industria de Cana-de-acucar
写真4 Costa Pinto 工場エタノール製造施設および貯蔵施設
火気厳禁のため工場から離れた場所に貯蔵

②さとうきび栽培の状況〜Costa Pinto工場ほ場から〜
  Costa Pinto工場では、約2万5,000ヘクタールのさとうきびほ場から原料を受け入れており、そのうち4割程度が自社生産である。周辺のほ場は広大な農地を利用したプランテーション型のさとうきび栽培が中心であり、見渡す限りさとうきびほ場の風景を見ることができる。
  同工場が管理するほ場では、現在15品種程度のさとうきびを栽培しており、気候、土壌の条件を分析して、ほ場ごとの品種を決定している。複数の品種を導入することで、病害虫被害のリスクを分散しているとのことである。
  栽培管理は、同工場では5名程度の専門家が担当しており、自社生産ほ場のみならず同工場へ搬入する周辺の小規模生産者への指導や助言も行っている。また、同社では、栽培面積が広大なことから、さとうきびの生育状況の把握には衛星も利用して管理している。
  さとうきびの生産サイクルは、苗の植え付けから始まり、収穫、株出を約5回行い、その後新たに苗を植え付ける前に、大豆や落花生の豆類、または緑肥植物を4ヵ月程度で栽培している。さとうきび栽培の間に特に豆類を栽培することで、窒素固定作用に加え、根、葉などを土壌にすきこむことで有機質の投入にもなり、地力の回復に効果がある。さらに、収穫物を販売することで収入の増加にもなっている。わが国においても、新植前の緑肥作物の栽培などが推進されているが、ブラジルにおいてはこの生産サイクルが一般的である。豆類をサイクルに加えることで肥料代の削減と販売収入がもたらされ、コスト削減になっているとのことであった。

写真5 一面のさとうきび畑
写真6 さとうきび
プランテーション型の栽培
気候条件から日本のものに比べまっすぐである

③機械収穫の状況〜ハーベスタによる収穫が増加、一方で課題も〜
  同工場でも、州政府による焼畑禁止条例の制定を受け、ハーベスタによる収穫が主流になりつつある。収穫面積約2万5,000ヘクタールのうち約7割を7台のハーベスタで収穫し、残りを約900名によって手刈り収穫している。
  面積が一定以上でこう配が小さいほ場では、大型のハーベスタと並走する運搬車により機械収穫は容易に行えるが、狭小のほ場やこう配が大きいほ場には大型のハーベスタが利用できないため、従来通り焼畑での手刈り収穫を行わざるを得ない。このため、現在、小型のハーベスタの開発が進められているとのことであり、生産者団体では、わが国で利用されている小・中型のハーベスタに強い関心を示していた。機械化の一層の進展には、この点が今後の課題になるとみられる。
  機械収穫の効果としては、従来は焼却されていた梢頭部や葉の利用が可能となり、土壌へ有機質として還元することが可能となったことが挙げられる。さらに、今回調査したほ場では、収穫後の株の上に梢頭部や葉を集めて覆うことで株周辺の水分の蒸発を防いでいた。この作業により、株出しでの萌芽が良くなるとのことであり、雨季と乾季が明瞭で特に収穫期が乾季に当たるブラジルでは有効な栽培管理であろう。
  コスト面では、機械収穫により収穫作業の人件費は削減できるものの、燃料費やメンテナンス費での増加が大きいということであった。

写真7 ハーベスタによる収穫
写真8 ハーベスタ並走用運搬車
米国系メーカーの機種、製造はブラジル国内
ほ場を鎮圧しないように、太いタイヤを装備
写真9 さとうきび運搬トラック
ほ場を鎮圧しないよう、ほ場の脇で待機し、並走車からさとうきびを積み替えて運搬
写真10 収穫後の株の管理
レーキで梢頭部、枯葉を株の上に集め乾燥を防止

(3)収益増加に向けた新たな取り組み〜バガスなどによる電力供給が本格化〜
  砂糖・エタノール工場では、主にさとうきび圧搾汁から砂糖およびエタノールを製造しているが、現在、さとうきびの搾りかすであるバガスや梢頭部および枯葉などのセルロース系のエタノール生産の研究が進められている。一方、同じバガス、枯葉を利用した電力供給についても注目されている。砂糖・エタノール工場では、従来よりバガスを燃焼し、工場で必要な熱や蒸気、電力を供給してきており、一部の電力は売電も行ってきた。しかし、砂糖・エタノールの販売に比べると収益はわずかであり、自家発電の域にとどまっていた。
  今回訪問したCosta Pinto工場では、現在、発電力強化のためボイラーの入れ替え工事中であり、発電施設も増築していた。従来9基のボイラーで自社利用向けに9.5メガワットの発電が可能であったが、新しいボイラー2基に入れ換えることで60メガワットの発電が可能となるため、自社で15メガワットを利用し、残りを売電することを計画している。
  バガスなどを利用した発電は、機械収穫により梢頭部や葉の利用が可能になったことやボイラーの能力が向上したことを背景に注目されており、今後、供給能力が増大する可能性が高いとみられる。UNICAでは、2007/08年度の平均1,800メガワット(ブラジルの必要電力の3%に相当)の供給能力が、2010/11年度には80%以上増の3,300メガワットに、さらに2020/21年度には約8倍の1万4,400メガワットにまで拡大すると予測している13)。2020/21年度の予測では、梢頭部および葉のうち、半分は有機質として畑へ還元し、残りを電力供給に利用すると想定している。
  送電線などのインフラ網の整備や、水力などの一般的な発電設備による供給との競合が課題として考えられるが、主要生産地での収穫期は乾季であり、水力発電による電量供給量が低下する時期であることから、不足分を補う有望な電力供給源となるとの見方がされている。

出典:MME,Plano Nacional de Energia2030
図21 さとうきびの利用(モデル)
出典:UNICA、Sugarcane Industry in Brazil
図22 砂糖・エタノール工場での電力供給量の見通し

4.おわりに

〜自由市場下での砂糖・エタノール生産〜
  国内外でのエタノール需要の高まりを背景に、ブラジルの砂糖・エタノール関係者は、行政、業界団体、製造業者、流通業者ともに、今後10年以上はさとうきびおよび砂糖・エタノールの増産が続くとの見方であった。砂糖の生産が基幹ではあるものの、これまで以上にエタノール生産に注力していくというスタンスが印象的であった。砂糖は、すでに成熟した市場であり、現在はブラジルと並ぶ生産国であるインドの動向に左右されるもののその需給はおおむね安定していることから、ブラジルにとっては大きな成長が期待できる市場とは見ていない。これに対して、エタノールは、フレックス車の増加による内需の拡大とともに、各国における再生利用可能エネルギーの利用拡大を背景に、潜在的な輸出需要も期待できることから、同国の関係者はエタノール生産に軸足を移しつつある。実際に、新規にエタノール生産に参入している企業がある一方、これまで、砂糖・エタノールを生産していた企業でも、既存工場の設備の増強や新規工場の建設を行っており、生産体制は急速に成長している。
 米国をはじめとするとうもろこし由来のエタノール生産が食料需給に大きな影響を与え、食料問題を拡大させたとする批判について、ブラジルの関係者も意識しており、あくまで現在の砂糖生産量を維持し、緩やかな増産を図りながらも、原料であるさとうきびの面積拡大や単収の増加、生産性の向上などによりエタノール生産を拡大するとしている。
  しかし、さとうきびおよびエタノール生産の増加見通しについては、次の不確定要素も考慮する必要があると考える。1つ目は、ブラジルではこの部門には政府による補助や価格統制などの政策誘導はなく完全な自由生産、自由市場であるために、価格次第でさとうきびから他品目(例えば、大豆、肉牛・牧草)などにシフトする可能性である。関係者によると、牛肉価格が世界的に高騰しているため、一部の地域ではさとうきびから肉牛生産への転換が見られているという。2つ目は、国内でのフレックス車が急増する中、エタノール輸出が本格化した場合に国内需要への安定した供給ができなくなる可能性である。3つ目は、さとうきびの砂糖およびエタノール向けの割合を決定するのは、砂糖・エタノール工場の経営判断であることから、価格次第では砂糖の生産割合が増加し、エタノール需要へ対応できなくなるのではという不透明感である。新規に参入している企業では、エタノールの生産を主にする場合が多いが、エタノールに魅力がなくなると判断した場合には砂糖の製造ラインを増設し、シフトすることも十分にあり得るとの見方もされている。4つ目は、エタノール需要を牽引しているフレックス車の販売増や砂糖・エタノール工場への投資は、好調なブラジル経済を背景としていることである。経済成長が減速した場合には、見通しが変わる可能性も否定できない。
  輸出向けにおいては、ブラジルは国際規格の策定に賛成の姿勢を示し、国際的に主導権を取りたいとしている。規格の設定には、名称、使用する単位、基準になる相場、検査方法、含水率など、各国で異なる条件が多く、調整には課題も多いとしているが、ブラジルとしてはガソリンに混合できる無水エタノールを基準にしたいとの考えである。

〜売電が新たな収益源に〜
  ブラジルの砂糖・エタノール生産は、需要の増加に対応し得るさとうきびの作付を確保できる上、工場規模においてもスケールメリットがある。特にエタノールでは、投入/産出エネルギー比においては、てん菜の1.9、小麦の1.2、米国のとうもろこしの1.3〜1.8などのバイオエタノール原料に比べて、ブラジルのさとうきびは8.3と効率的である上、UNICAではさらに上回る9.3とのデータもあるとするなど好条件となっている22)23)
  砂糖・エタノール工場では、研究段階にある梢頭部や枯葉およびバガスを利用したセルロース系のエタノール生産や発電能力の拡充など新たな取り組みも進んでおり、これらの動向も今後注目されるとみられる。特に、発電・売電についてはすでに実行されており、さとうきび由来の製品の柱が一つ増え、工場の収益につながることが期待されている。

〜わが国のエタノール利用への影響〜
  最後に、わが国との関係を考えると、粗糖については2007年の同国からの輸入は38トンにすぎず、その全量が含みつ糖となっており直接的な影響は少ない。しかし、同国の輸出量は世界最大であることから、粗糖の国際価格の主要指標となっているニューヨーク商品取引所の相場への影響は大きく、砂糖需要量の6割以上を輸入しているわが国にとっても価格面で大きな影響がある。
  また、エタノールについては、わが国でも環境対策などの観点からガソリンへの混合が検討されているが、これまでわが国のエタノール輸入量のうち、工業用、飲料用原料が8割程度を占めており、自動車燃料向けの占める割合はほとんどない。日本国内で販売されている600億リットルのガソリンに3%のエタノール混合を行うとすると、18億リットルのエタノールが必要となる24)。日本国内でのバイオエタノール生産量は2005年時点で約3万リットルであることからも、そのほとんどを輸入に頼らざるを得ず、仮にブラジルから全量を輸入しようとすると、同国からの最大の輸出先である米国への輸出量に匹敵する量を確保しなければならないことになる。ガソリンへのエタノール混合が直接混合方式ではなく、ETBE(Ethyl Tertiary Butyl Ether)方式注)となった場合でもETBEの原料となるエタノールが必要である。
  ブラジルの砂糖・エタノール生産は、これまでの「砂糖・エタノール」から「エタノール・砂糖・電力など」への転機にあることから、今後の動きに、また各機関による見通しのようにこれらの生産が拡大するかに注目していきたいと考える。

注:エタノールとイソブチレンを合成して生産されるETBEを添加剤としてガソリンに混合する方式

【参考資料】

14  F.O.Licht, World sugar Balances
15 Conab, Acompanhamento da Safra Brasileira Cana-de-Acucar Safra2008Primeiro Levantamento
16 MAPA(AGE),Projecoes do Agronegocio Mundial e Brasil2006/07a2017/18
17 IEA, Area e Producao dos Principais Produtos da Agropecuaria do Estado de Sao Paulo
18 IEA, Analise do Mercado de Terras Agricolas Nas Regioes do Estado de Sao Pauro
19 Orplana, Perfil dos produtores
20 IEA, Analises e Indicadores do Agronegocio
21 COSAN, Annual Report Fiscal Year2007
22 UNICA, Overview on Fuel Ethanol Production in Brazil : lesson & perspectives
23 UNICA, Frequently Asked Questions About The Brazilian Sugarcane Industry
24 経済産業省, 生産動態統計


ページのトップへ