砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > 米国ハワイ州の糖業事情について〜砂糖からバイオエタノールへの転換〜

米国ハワイ州の糖業事情について〜砂糖からバイオエタノールへの転換〜

印刷ページ

最終更新日:2010年3月6日



[2009年1月]

【調査・報告】
 
調査情報部情報課課長
大泉 和夫
調査課課長代理
(現鹿児島事務所所長代理)
天野 寿朗

 米国ハワイ州におけるさとうきび生産・製糖は、いままさに、変革の時期を迎えようとしている。米国砂糖連盟主催の第25回国際甘味料シンポジウム(2008年8月3〜7日)に参加した際、ハワイ州の糖業事情に関する現地調査を行ったので、その概要を報告する。

1.ハワイ州の農業概況

(1) 農業総生産額で、さとうきびは第3位
  さとうきびは、現在でもハワイ州の農業における基幹作物であることに変わりはないものの、かつての勢いはない。

 現在、ハワイ州におけるさとうきび生産は、収穫面積は第1位(図1)、農業生産額は種苗、パイナップルに次いで第3位(図2)となっている。農業生産額の推移を見ると、総生産額は変わらないが、さとうきびは年々減少している(図3)。

 なお、米国におけるさとうきび生産は、フロリダ州とルイジアナ州がほとんどを占めており、ハワイ州は全体の5.3%である(図4)。

出典:Hawaii Department of Agriculture“Statistics of Hawaii Agriculture2006”,January2008
図1 ハワイ州の収穫面積(102千エーカー)の農産物別内訳(2006年)
出典:Hawaii Department of Agriculture“Statistics of Hawaii Agriculture2006”,January2008
図2 ハワイ州の農業生産額(582,084千ドル)の農産物別内訳(2006年)
出典:Hawaii Department of Agriculture“Statistics of Hawaii Agriculture2006”,January2008
図3 ハワイ州の農業生産額の推移(1987〜2006年)
出典:USDA(ERS)“Sugar and Sweeteners Yearbook”,September 3,2008
図4 米国のさとうきび生産量(25,649千トン)の州別内訳(2007/08年)

 ところで、図2および図3における「その他」には、パパイヤ、マンゴーなどの熱帯・亜熱帯作物が含まれている。これらの作物は、今後のさらなる伸びが期待されているが、米国本土における植物防疫体制の厳しさが支障となっている。

(2) 農業用水確保とコスト高が問題点
  ハワイ州の農業が直面する問題は、大きく分けて二つある。一つは、農業用水の確保であり、もう一つは、生産資材のコスト高である。

 ハワイ州の各島々には大きな河川が存在しないため、雨水を農業用水として使用している。マウイ島では、山頂に降った雨が流れてふもとにできたため池の水を農業用水として使用している(マウイ島はこの10年間、干ばつが続いており、年間降水量は1,000mm)。

 地下水も存在するが、生活用水に優先されることから、農業用水として容易に使用できない状況にある。

 なお、ハワイ州では、水利権の保有が認められておらず、仮に土地を所有したとしても、農業用水と生活用水や環境保全のための用水が競合するため、水利について調整が必要である。

 また、ハワイ州は島しょ地域のため、機械、肥料、燃料などを島外の遠隔地から調達するため、米国本土内の農業よりも輸送に係るコストが高くなる。このために、生産者は他州の生産者より大きな負担を強いられている。

2.ハワイ州におけるさとうきび生産

(1) さとうきび生産の特徴
  ハワイ州におけるさとうきびの生産量は、過去20〜30年間で減少傾向にある。かつて、ハワイ州のほぼ全島で行われていたさとうきび生産は、現在ではマウイ島、カウアイ島の2島のみで行われているに過ぎない(表、図5)。この背景には、砂糖産業の縮小がある。

 ハワイ州におけるさとうきび生産の特徴は、①プランテーションが中心、②労働力をフィリピンからの出稼ぎ労働者に依存、③作型は2年栽培、④収穫(製糖)期間はクリスマス・シーズンから2月半ばを除く約10カ月間、⑤火入れ収穫―が挙げられる(図6、図7)。

 ⑤の火入れは、延焼を防止するため厳重な管理下で行われている。コスト的にメリットがあるが、ハワイ州は米国内でも特に環境規制が厳しいことから、今後問題となる可能性がある。また、ハワイ州にセルロース系エタノールの製造技術が導入されれば、焼却していた葉なども貴重な原料となるので、回収コストと収益を検討の上、火入れ収穫を続けるかどうか判断されることになるだろう。

 また、⑤の収穫には、レーキを取り付けた改良ブルドーザを使っている。レーキで茎の根元を切断し、倒れたさとうきびを集め、クレーンでさとうきびの塊を運搬用カゴに入れる。

表 ハワイ州のさとうきび生産と製糖(2006年)
出典:Hawaii Department Of Agriculture“Statestics Of Hawaii Agriculture2006”,January2008
図5 ハワイ州のカウアイ島とマウイ島
図6 苗植付け・点滴チューブ敷設機械(カウアイ島のほ場)
図7 火入れしたさとうきびの収穫風景

(2) 研究機関により行われるさとうきびの育種
  ハワイにおけるさとうきびの育種は、ハワイ農業研究センター(Hawaii Agriculture Research Center:HARC)により行われている。

 HARCは、もともとハワイさとうきび生産者協会(Hawaiian Sugar Planters’Association)の研究部門(Hawaii Sugar Plantation Center)であったが、砂糖(さとうきび)に限定せず、林業、コーヒー、飼料、野菜、熱帯果樹など多くの農作物を対象とするため、1996年、組織とともに名称も変更された。

 HARCは、オアフ島に試験ほ場を持ち、さとうきびをはじめとする農作物の研究・品種開発を行っている。さとうきびは、さらにマウイ島の試験ほ場で10年ほどかけて選抜試験が行われている。

 また、ここでは、病理学、微生物学、経営学などのさまざまな分野の研究者を擁し、普及・指導、バイオ燃料のリサーチなど幅広い活動を行っており、民間との共同研究も活発に行っている。

 ところで、HARCの研究者によると、HARCの運営費は、生産者からの資金提供により賄われており、生産者は、研究結果や資金の用途などについて厳しく見ているため、研究者は緊張感を持って研究に取り組んでいるとのことであった。

 さとうきび育種については、これまで、しょ糖含有量や単収の増加を目的として品種開発を行ってきたが、これらの項目の増加の度合いもほぼ飽和状態に達していることから、これ以上の伸びはあまり期待できない。今後は、収量減少のリスクを回避することによって産糖量を確保するため、病害虫抵抗性品種や環境対策上の低農薬栽培に適した品種に重点を置いて開発を行っていくとのことである。

 HARCは、品種開発に当たっては、遺伝子組み換え(GMO)が有効であると考えている。1970年代から基礎研究を積み上げて、現在はGMO品種の開発一歩手前の状態にある。

 なお、米国本土では、既にてん菜のGMO品種は解禁されており、2008年、ミネソタ、アイダホで作付けが始まっている(砂糖での流通はまだである)。さとうきびに関しては現段階では試験ほ場での栽培にとどまっており、作付けにはまだ至っていない。

 ところで、米国でのGMO品種のほ場での試験は、ほとんどハワイ州で行われている。これは、ハワイ州が孤島であることで花粉が広域に飛散しないことから、米国本土で行うよりも周辺の理解が得やすいためである。

3.ハワイ州における製糖業

(1) ハワイ州の製糖業
  ハワイ州の製糖工場は、1800年代には100カ所ほどあったが、1900年代末には十数カ所にまで減少し、現在では、マウイ島のハワイアン・コマーシャル・アンド・シュガー(HC&S)社とカウアイ島のゲイ・アンド・ロビンソン(G&R)社の2島2工場(図8)を残すのみである。現地の関係者によると、製糖業の減少の理由は、人件費などの高コストによる経営圧迫であるが、この2社は、土地所有や海運・輸送業の経営など製糖以外の事業を有し、経営面での体力が強かったため残った、とのことである。

 なお、さとうきび生産・製糖という砂糖産業は、縮小しているものの、地域経済にとっては現在でも重要な産業であることに変わりはない。

 精製糖については、ハワイ州内の砂糖の市場規模はとても小さいため、製造はされていない。州内で製造した粗糖をカリフォルニア州の精製糖工場に移送して精製し、これをハワイの市場に戻している。

 これまで、G&R社によるハワイ州内消費用の精製糖製造の計画もあったが、HC&S社の後述の“Specialty Sugar”と競合してしまうことや、島内消費が限られていることなどの理由により、この計画は断念された。

 なお、かつては、ハワイ州の製糖企業が共同でC&H社(カリフォルニア州の精製糖企業)を所有していたが、現在では、C&H社は独立し別会社となっている。

図8 HC&S 社の製糖工場外観

(2) 高付加価値商品で収益向上を図るHC&S社
  マウイ島のHC&S社は、通常の粗糖・精製糖とは異なる“Specialty Sugar”と呼ばれる高付加価値商品の製造・販売を行うことにより、収益の向上を目指している。

 “Specialty Sugar”には、“Natural White Sugar”(図8)と“Premium Maui Gold”(図9)の二つがある。これらは、米国本土の精製糖工場向けにバラ積みで輸送される粗糖とは異なり、より糖度を高め、より清潔な工程で製造された食品用の砂糖である(写真)。

 粗糖の販売価格は、輸送費込みで1トン当たり約375ドルであるのに対して、“Specialty Sugar”の販売価格は、平均1トン当たり約550ドルである。

 “Specialty Sugar”は、差別化による高付加価値商品として、HC&S社の収益向上に大きく寄与している。この商品は、現在、全生産量の30%を占めるが、将来、45%まで拡大する予定である。

図9 Natural White Sugar
図10 Premium Maui Gold

(3) 電力供給で収益向上を図る製糖工場
  マウイ島のHC&S社の製糖工場では、工場内で発生するエネルギーを利用するという、いわゆるコジェネレーションを1800年代から実施している。さとうきびの搾りかすのバガスを燃焼させ、工場内で使用する電力の供給のみならず、余剰電力を外部に供給するという売電も行っており(日中:12メガワット、夜間:8メガワットを工場外に供給)、マウイ島全体の約7%の電力を供給している。

 ハワイ州では、ほぼ周年、さとうきび生産・製糖が可能なため、製糖工場は年間を通じて安定的に電力供給が可能である。このため、電力の供給を受けている電力会社からは信頼を得ている。

 砂糖産業を取り巻く状況が厳しくなり、製糖工場もコスト削減とともに、収益増の必要性が高まっている。このため、より効率的な発電を行って余剰電力から収益を得るための研究が、前述のHARCにより行われている。

4.ハワイ州におけるバイオ燃料事情

 米国においては、バイオエタノール製造に関して、①再生可能燃料基準(燃料販売業者へのエタノール使用量の義務付け。2012年には75億ガロン)、②ブレンダー、工場建設およびエタノール混合ガソリンへの税制上の優遇措置、③輸入エタノールに1ガロン当たり54セントの関税―などの政策により振興が図られ、その結果、生産量と需要量は着実に増加している。ハワイ州においても、バイオエタノール製造振興のための奨励措置が講じられている。

(1) ハワイ州におけるバイオエタノール製造の奨励措置
  現在、ハワイ州においては商用バイオエタノールの製造は行われていないが、バイオエタノール製造奨励の必要性が高まっている。この理由として、①ガソリン価格が全米で最高値であること、②州民の環境に対する意識が高く、また、環境規制が厳しいこと、③州内のさとうきびを原料とするバイオエタノールは、他州から移入されるとうもろこしを原料とするバイオエタノールよりも輸送コスト面で有利、④一方、さとうきびを原料とする粗糖は、カリフォルニア州に輸送し精製しなければならないので、バイオエタノールよりも輸送コスト面で不利、⑤さとうきびからのバイオエタノールは糖みつを原料とするよりも低コストで生産が可能、⑥バイオエタノールの地産地消が可能―などが挙げられる。

 これらを背景に、ハワイ州ではバイオエタノールに関して、①エタノール混合ガソリン1ガロン当たり0.3ドルの生産投資税の控除(8年間有効、年間生産規模は1,500万ガロン以上、控除の最高限度額は1,200万ドル)、②エタノール混合ガソリンにかかる約4%の州税を控除、③E10を義務付け―などの奨励措置がとられている。

(2) バイオエネルギーマスタープラン
  バイオエネルギーマスタープランは、ハワイ州内において、発電や輸送に使われるエネルギー源をバイオ燃料に置き換えることを目指すものである。

 このマスタープランは、2009年12月までにハワイ州議会において審議される予定で、現在は、関係機関による情報収集や資金計画など、さまざまな準備が行われているところである。

 このマスタープランの骨子は、①バイオマス生産や再生可能バイオ燃料の製造技術に関する調査、開発、検査などについて関係機関による連携、②再生可能エネルギー資源としてのバイオ燃料に関する調査、③バイオ燃料製造実証事業(保管、輸送のインフラ整備を含む)、④再生可能バイオ燃料を輸出するための資金調達、⑤商用バイオ燃料開発計画―などである。

(3) 総合的な代替エネルギー開発を計画
  ハワイ州政府産業経済開発観光省の担当官によると、バイオ燃料は石油の代替燃料の一つにすぎない。同省の試算によると、バイオ燃料は、太陽光発電の約38倍の面積の土地が必要である。土地が限られているハワイでは、バイオ燃料よりも太陽光発電が有利であると言える。また、通勤用の自家用車であれば走行距離が短いので、太陽光発電による電気自動車で十分であると考えている、とのことである。

 ハワイ州には、二つの製油所があり、ここで精製される石油の需要は航空機燃料用が一番多いが、石油に替えてバイオ燃料をジェット燃料に使う研究がいくつか進んでいる。また、国防総省の計画では、藻(Algae)からジェット燃料を開発する予定である。

 バイオ燃料製造の推進に当たっては、土地・水の競合を起こさないことを考慮する必要があり、多くの水を必要とするさとうきびを原料とするエタノールだけでなく、多くの水を必要としないAlgaeから製造されるバイオ燃料も視野に入れたエネルギー開発も行うとのことである。また、Solazyme社(カリフォルニア州サンフランシスコ)は、原料として砂糖、ケーンジュース(さとうきびの絞り汁)などとAlgaeをミックスしたジェット燃料製造の研究もされており、現在、商用化間近とのことである。

 また、発電エネルギー源については、バイオ燃料のみならず、太陽光、風力、地熱などいくつかを整備し、補完し合うよう総合的に運用するとの計画である。

5.さとうきびを原料とするエタノール製造の可能性

 米国本土では、さとうきびを原料とするエタノール製造は経済的に成り立たないが、唯一、ハワイ州は経済的に成り立つと言われている。

 しかし、ハワイ州では、さとうきびを原料とするエタノール製造が確立しないうちに、先にエタノール混合を義務付ける法律だけが成立してしまったため、とうもろこし由来のエタノールを本土から輸送しているという状況が続いている。

 このような環境下において、今年(2008年)9月、カウアイ島のG&R社は、2010年に製糖業から完全に撤退し、さとうきびを原料とするバイオエタノール製造に特化することを表明した。

(1) 製糖からエタノール製造への転換を決定したG&R社
  G&R社は、製糖からエタノール製造へと事業を大きく転換するに当たって、投資家の了承を得るために奔走し、2008年9月に今回の決定に至った。

 この決定に対してハワイ州知事は、「新たな経済効果と、クリーンなエネルギー確保に期待する」とコメントしており、州政府も支援する意向である。

 具体的には、エネルギー開発会社(Pacific West Energy社)が、G&R社から施設やほ場などのリースを受けて、さとうきびを原料とするエタノール製造を行うという方法である。現在、両者間で、リース条件、原料確保などについて交渉中であるが、従来の製糖用さとうきびのほ場は維持され、また、従業員の雇用も確保されるとのことである。

 ブレンドされたエタノール混合ガソリン(E10)の1,500万ガロンのうち、300万ガロンはカウアイ島内で、1,200万ガロンはオアフ島へ船で運搬され、その後の流通設備は既存のインフラを利用する予定である。

 さとうきびを原料とするエタノール製造は、そのエネルギーをバガスによって賄うため、石油や天然ガスなどの外部からの燃料を使用するより効率がよい。また、G&R社は、ケーンジュースから直接エタノールを製造するので、これは、糖みつから製造するよりコストが低い(糖みつを製造するためには、当然のことながら大きな製糖施設を必要とする)。

 さらにG&R社は、水蒸気でセルロースを分解するという新技術(Clear Fuels Energy LLC(ハワイ州)が開発)によるバガスからエタノールを製造する構想も持っている。

 なお、エタノール製造に伴い発生する余剰電力は、製糖と同様、州内の電力会社に販売される予定である。

 また、これとは別に、G&R社は、新たに水力発電施設の拡大も予定しており、カウアイ内島に5〜10メガワットの電力を供給するとしている。

(2) 残さの処理
  さとうきびを原料としてエタノールを製造する場合、ネックになるのが残さ(Vinasse)の処理である。

 G&R社では、Vinasseを燃焼しエネルギーとして利用したり、また、肥料の原料にも使用する計画である。具体的には、Vinasseを濃縮・凝固させ、ブリックスを65程度にしてボイラーに入れると、1ポンド当たり3,500BTUのエネルギーが発生するので、これを工場の熱源に利用する。燃焼後の灰はカリウムに富んでいるので、これを肥料として販売するというものである。

 また、もう一つ、Vinasseの嫌気性発酵によりメタンガスを発生させ、これを工場内で使用するエネルギーとして利用することも計画されている。これらの取り組みにより、エタノール製造に伴い発生するVinnaseを無駄なく有効利用することが可能となる。

 ほかにもG&R社は、エタノール製造の蒸留過程で多量に発生する二酸化炭素をAlgaeに吸収させ、Algaeからバイオ燃料を製造するといった総合的なエネルギー開発構想を持っている。

 製糖からバイオ燃料製造に大きく転換を図るG&R社の取り組みに期待するとともに、今後もその動向に注目していきたい。

ページのトップへ