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オーストラリアの砂糖産業の概要〜整理合理化が進むオーストラリア砂糖産業〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2009年12月]

【調査・報告】
調査情報部 調査課

はじめに

 オーストラリアは日本にとってタイに次ぐ砂糖輸入先国で、近年の砂糖生産量は460〜550万トン(粗糖換算。断りのない限り以下同じ。)で推移し、その8割弱が輸出されている。

 砂糖の一大輸出国であるオーストラリアの砂糖産業は、2000年代初めに長期間続いた世界的な砂糖価格の低迷を背景に生産の離脱や、製糖工場の整理統合が進んだ結果、近年、砂糖生産量および輸出量が減少傾向にあるが、最近の世界的な砂糖価格の高騰により、生産がある程度回復することが予想される。

 このようなオーストラリアの砂糖産業について、英国の調査会社LMCからの報告を基に取りまとめたので紹介する。

1.需給状況

(1) 生産・消費・輸出入

 砂糖の生産量は、02/03年度(4月〜3月)は560万トンであった。06/07年度に500万トンを割り込み、07/08年度以降は460万トン台に減少している。輸出も同様に減少傾向で、07/08年度以降は400万トンを割り込んでいる(図1)。

資料:LMC
図1 砂糖の生産量、消費量および輸出量の推移

 一方、国内の消費量は近年、横ばい傾向が続き、09/10年度は約110万トン、総生産量のおよそ25%が国内で消費される見込みである(表1)。

表1 砂糖の需給動向
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:ISO、LMC

 また、オーストラリアでは粗糖が生産量全体の70〜80%を占めている。精糖は主に国内市場向けに生産されるが、精糖工場の処理能力に少し余剰があり、この余剰処理能力で、わずかながら輸出用精製糖が生産されている(表2)。

表2 砂糖の生産の推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:LMC

 輸出される砂糖はほぼすべて粗糖として、東アジアと東南アジアの精糖工場に向けて出荷される。主な輸出先は日本をはじめ韓国、インドネシア、マレーシアの4カ国が挙げられる(表3)。

表3 粗糖および白糖の主な輸出先
(単位:1,000トン、粗糖換算)
資料:ISO、LMC

(2) 用途別消費

 砂糖の用途別消費割合は、ここ数年ほとんど変わっていない。家庭用が全体の約23%を占め、業務用が全体の約77%で、業務用の内訳を見ると、飲料部門(36%)、菓子部門(12%)、パン類部門(9%)の3部門で、消費量全体の約57%を占めている。

 国民一人当たりの消費量を見ると、近年は年間50キログラム前後と安定して推移している(表4)。

表4 砂糖の用途別消費量の推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:LMC

2.生産状況

(1) さとうきび栽培部門

 オーストラリアでは7つある州のうち、クイーンズランド(QLD)、ニューサウスウェールズ(NSW)、西オーストラリア(WA)の3つの州でさとうきびが生産されている。その大半がQLD州北東部からNSW州北部にかけて広がる全長2,100キロの沿岸地帯に集中し、QLD州の収穫量は、オーストラリア全体のおよそ95%にあたる。オーストラリアにおけるさとうきび栽培農家戸数は、2000年代初めに長期間続いた世界的な砂糖価格の低迷を背景に、2000年の6,500戸から2009年9月現在3,800戸まで減少した。ほとんどが自営農家で、作付面積は農家によって40ヘクタールから250ヘクタールと差があるが、平均では110ヘクタールである。また、08/09年度のさとうきびの1戸当たりの収穫量は、8,600トンとなっている。

 なお、QLD州の北部と南部で5つの工場を操業するBundaberg Sugar社は、さとうきびの栽培も手がける唯一の企業で、約1万1000ヘクタールの農地を所有している。

 オーストラリアの気候は、さとうきび生産に適しており、単収は1ヘクタール当たり90トン前後と多い。また、ショ糖の含有率が14.5〜15.0%で、1ヘクタール当たりの産糖量が02/03年度以降、12〜13トンで推移している(表5)(図2)。このように高い生産性となっているのは、さとうきび収穫後12時間以内の処理を可能としている原料輸送体系によるものであり、この結果、ショ糖含有率の低下が抑えられているためである。

表5 さとうきびの生産動向
注1:概算値、2:予測値
※:さとうきびの生産額は、各年の砂糖の生産に使われたさとうきびの数量に、砂糖に加工されたさとうきび1トン当たりの農家受取価格を乗じたものである。
資料:LMC
資料:LMC
図2 1ヘクタール当たり産糖量

(2) 製糖部門

 オーストラリアでは現在、11社が所有する26の製糖工場が操業しており(うち5社は協同組合)、このうち22工場がQLD州にある。

 製糖会社の合併・買収で、製糖会社の数は05/06年度の13から2009年9月現在で11に、工場も05/06年度の28から26にそれぞれ減少した。

 製糖工場の1日当たりのさとうきび平均処理能力は1万600トン弱で、近年の稼動日数は130日前後、1工場当たり年間平均産糖量は17万トンを越える(表6)。

表6 製糖工場の生産実績
注:稼働日数は、製糖期間の日数から工場の休止日数を差し引いたものである。
資料:LMC

 地域別で見ると、主要生産地の一つであるQLD州中部に位置するバーデキン地域の工場は、1日当たりの平均処理能力が1万6000トン、稼働日数が130〜145日と、全体の平均よりも設備稼働率が高く、単位コストが低い。この地域の1工場当たり年間平均産糖量は、約30万トンである。北部と南部の1工場当たりの平均産糖量は、バーデキン地域より低い。

 また、オーストラリアでは、圧搾の段階のショ糖抽出率が96%と高いことに加え、煎糖工程でも歩留まり率が93%を越える。この率の高さを支えているのは、工場の生産性と、原料となるさとうきびの品質の高さである。

3.製糖および精糖産業の構造

(1) 製糖産業

 オーストラリアの製糖企業のうち、最大規模を誇るのはCSR Limited社で、7工場を所有し、オーストラリア全体の年間産糖量の42%に当たる200万トンを生産している(表7)。

表7 製糖会社工場別生産状況(2008年)(注1)
注:1.製糖工場の所有状況は最新のものだが、所在地、産糖量および能力は2005/06年度のデータである。
2.産糖量を総処理能力で割ったもの(単位はトン/日)。
3.Herbert River工場は、Macknade工場とVictoria工場のデータを合算したものである。
資料:LMC

 年間産糖量第2位のMackay Sugar Ltd.社は、2008年7月に協同組合から非上場会社に組織変更した。ベルギーから進出している唯一の外国企業Finasucre社は、年間産糖量第3位の製糖会社Bundaberg Sugar社を傘下に置き、年間産糖量は合計60万トン強で、オーストラリア全体の14%に相当する。

 保有工場数が2つ以上の会社はほかに、New South Wales Sugar Milling Cooperative社の3工場で年間産糖量が合計22万トン、Maryborough Sugar Factory Ltd.社の2工場で年間産糖量が合計24万トンの2社である。New South Wales Sugar Milling Cooperative社は、2008年にQLD州北部のMulgrave工場を買収し、現在に至っている。

 韓国のCJ Corporation社もオーストラリアに進出していたが、赤字で閉鎖の危機に陥り、2007年6月、所有していたWA州のOrd River工場を、地元の生産者が出資するOrd River Canegrowers Pty.Ltd.社に売却した。Ord River Canegrowers Pty.Ltd.社は、この買収に当たってWA州政府から400万豪ドルの融資を受けている。

(2) 精糖産業

 オーストラリアでは現在、Sugar Australia Pty.Ltd.社、Manildra Harwood Sugars社、Bundaberg Sugar Company Limited社の3社が4つの精糖工場を運営している(表8)。

表8 精糖会社工場別生産状況(2008年)(注)
注:能力および産糖量は2005/06年度のデータである。
資料:LMC

 このうち、Sugar Australia Pty.Ltd.社は、CSR Limited社(75%)とMackay Sugar Limited社(25%)の2社が出資するオーストラリア最大の規模を誇る精糖企業で、国内で生産される精製糖の60%以上を生産している。同社は2つの精糖工場を所有するが、1つはQLD州にあるMackay Sugar Limited社のRacecourse工場に併設され、もう1つはメルボルンのYarravilleに建つ独立型精糖工場である。残りの2社の精糖工場はいずれも製糖工場に併設されている。

4.異性化糖および代替甘味料について

 オーストラリアでは、砂糖が有カロリー甘味料の需要量の大部分を占め、異性化糖(HFS)は少量しか生産されておらず輸出入もごくわずかである(表9)。この背景には、基本的に国内の砂糖市場を保護する施策がとられていないため、国内砂糖価格は、国際価格に基づき決定されており、長く国際価格が低迷していたことから、砂糖価格が低く、砂糖と競合するHFSの生産に経済的なメリットがないことが挙げられる。国内で異性化糖の生産を行っているのは、国産小麦を原料として使うManildra社1社のみである。

表9 異性化糖の需給動向
(単位:1,000トン、粗糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:ISO、LMC

 高甘味度甘味料を種類別に見ると、サッカリンの消費量が最も多くなっている。主に歯磨き粉やマウスウォッシュなどの非食用に使われるが、家庭用や飲料用原料としても用いられている。次に多いアスパルテームは、アセスルファムKと混合されることが多く、いわゆるダイエット飲料の甘味成分として人気が高い(表10)。

表10 甘味料消費の推移
(単位:1,000トン、白糖換算)
注1:概算値、2:予測値
資料:LMC

 高度に精製されたステビアからの抽出物であるレバウディオサイドAが、2008年10月に規制当局から認可を受けた。これは、主に飲料用に使用されている。

 

5.砂糖制度の主な特徴

 オーストラリアの砂糖市場は、1989年から砂糖部門を対象とした規制措置の撤廃が段階的に進められ、1997年7月に粗糖と白糖の関税が全面的に撤廃された。

 その一方で、国とQLD州政府は砂糖産業の再編支援策として2004年3月、砂糖産業改革法案に基づき4億4400万豪ドル(3億2000万米ドル)の資金援助措置を承認した。この措置は、産業復興の手助けと離農を望むさとうきび栽培農家の統廃合援助などの支援を目的としたもので、03/04年度から07/08年度の5年間に渡って実行された。

 本項では、QLD州の砂糖制度を規定する「砂糖産業法」(1999年制定)に焦点を当て、国内砂糖産業に対する規制措置に関して説明する。

(1) さとうきび生産に関する政策

 1989年までは、QLD州政府によってさとうきびの作付面積と収穫量が厳しく管理され、生産者は指定された工場にしか納入できず、契約の内容は生産者と工場の団体交渉で決められていた。

 現在では、生産者は納入先である工場の選択が可能となり、契約についても自らが選んだ工場と個別に交渉して決めることとなった。

 さとうきび生産に対する規制が廃止された当初は、産業の規模が大幅に拡大し、オーストラリア全体の産糖量が1990年代初めの350万トン前後から、97/98年度には600万トン近くにまで増加した。

 しかし、1990年代後半から2000年代半ばまで長期間続いた価格低迷の影響で、さとうきびの作付面積が03/04年度の43万ヘクタールから06/07年度以降40万ヘクタールへ減少するとともに、産糖量も04/05年度の550万トンをピークに減少し、06/07年度以降500万トンを下回っている。

(2) 国内価格

 04/05年度〜08/09年度におけるさとうきびおよび砂糖の国内平均価格を表11に示した。

表11 さとうきびおよび砂糖の国内平均価格(04/05年度〜08/09年度)
(単位:米ドル/トン)
注:粗糖価格はすべて工場渡し価格
資料:LMC

(3) 販売制度

 QLD州では、2005年まで、生産された粗糖はすべて業界が運営する組織であるクイーンズランド砂糖公社(QSL)に販売することが法令で義務づけられ、QSLが粗糖の国内販売および輸出についての唯一の販売窓口となっていたが、2006年に砂糖産業改革の一環として法令が改正され、それまでQSLが握っていた国内市場における粗糖の売買の独占権を取り消した。これにより粗糖の国内販売に関しては、製糖工場と精糖工場の間での個別交渉が可能となった。

 しかし、QLD州から輸出される粗糖は、現在でも実質的にほぼすべてQSLに販売されている。製糖会社は、QSLを介さずに砂糖を販売、輸出することもできるが、2009年9月現在、生産した粗糖を自ら販売および輸出することを選んだMossman社の1社を除いた全工場がQSLを介することを選択している。

 このような一元的販売および輸出体制が続く背景には、QSLが国内市場で粗糖を販売する際には輸出基準価格を適用し、粗糖の国内販売価格は国際価格とほぼ同水準であるが、輸出に関しては、輸送費込みのCIF価格で販売する方針を取っていることが挙げられる。このことによってある程度の間接的な価格支持の効果がもたらされ、規制緩和後も、QSLによるほぼ独占的な販売および輸出が続いている。

 これにより、QSLは、輸出先の仕向地を自ら選択・決定でき、製糖会社は販売コストの削減につなげている。

 また、生産者と製糖会社は、QSLを介する場合、3年度先までのさとうきびと砂糖の取引価格について、独自に設定することも、あるいは、QSLに委ねることのいずれも選択できる。

 オーストラリアでは1989年まで、砂糖の輸入が禁止されていたが、数次の改革により、輸入障壁がすべて撤廃された。現在では輸入数量制限や関税、輸入税も課せられていない。なお、02/03年度から09/10年度の砂糖の年間平均輸入量は1万トン弱となっている。

 QLD州から輸出されるすべての粗糖は、ケアンズ、モーリリアン、リシンダ、タウンズビル、マッカイ、バンダバーグ、ブリスベーンの各港湾のシュガーターミナル(粗糖積み出し施設)から船積みされる。これらのターミナルは、生産者と製糖工場が出資する上場企業Sugar Terminals Limited社が所有、運営している。

6.生産者と製糖業者の関係

 QLD州では生産者と製糖業者が収益分配協定(revenue―sharing agreement)を結んでいる。この協定では、さとうきび価格は、さとうきびの質と製糖工場の生産性に基づき設定される。さとうきびの評価基準となる回収可能な糖分は、CCS(Commercial Cane Sugar)と呼ばれ、ショ糖含有率、繊維含有率および搾汁液の純度によって決まる。

 この結果、生産者の収益分配率は固定されていないが、最近は平均66%前後で推移している。さとうきびの運搬費用は、収益分配金のなかから製糖業者が支払わなければならない。

 1989年以降、製糖業者と生産者が受け取る収入は、粗糖の販売による収益であり、糖みつとバガスも製糖業者だけの資産となる。精製糖の製造および販売から生じる利益は精糖業者が100%を得る。

 生産者は、さとうきびの収穫に責任を負うが、収穫手当という形で、製糖業者から何らかの資金援助を受けることができる。この手当は、工場が週7日休まずに操業を続けるために、生産者に負担を強いた追加の人件費を補償する目的で支払われる。

 また、生産者は、収穫したさとうきびに関しても、製糖工場と合意した受渡し地点、もしくは製糖工場のいずれかの地点まで運搬する責任を負う。前者の場合、受渡し地点から工場までの運搬費は工場の所有者が負担する。工場によっては、生産者に、運搬手当を別途支払うところもある。この手当の金額などについては、生産者と製糖工場の間の地元レベルによる話し合いにより決められている。例えば、合意された受渡し地点からある程度距離が離れた場所に新たな栽培割当地を設ける場合、その支援策として、さとうきび運搬距離を延長する代わりに、このような手当が支払われることもある。後者の生産者がさとうきびを直接工場に運搬する場合は、工場はこの見返りとしても運搬手当を支払う。

7.砂糖産業をとりまく課題

 オーストラリアのさとうきび栽培部門は、2000年代初めに長期間続いた世界的な砂糖価格の低迷を背景に、近年、生産者数、収穫面積、収穫量が共に減少している。

 このため、製糖部門では、工場の合理化と整理統合による効率化とコスト抑制が最大の課題となっている。QLD州中部では、Mackay Sugar Limited社がPleystowe工場を2008/09年度に閉鎖し、同社のほかの工場も整理統合される可能性が高くなっている。

 また、製糖企業の合併も進み、Maryborough Sugar社が2008年にMulgrave Sugar社を買収したのに続き、2009年9月現在でTully Sugar社に買収を打診している。

 最近の世界的な砂糖価格の高騰により、さとうきびの作付面積がある程度拡大して、さとうきびの収穫量と産糖量が増加する可能性が高い。しかし、現在のところ、これによって合併などの整理統合にブレーキがかかるかどうかは不透明である。

 オーストラリアの砂糖産業は現在のところ、諸外国と比べバイオ燃料やコジェネレーションの導入にさほど熱心ではなく、エタノールについても糖みつを原料としたエタノール製造施設がQLD州に1カ所あるのみである。

 一方、QLD州政府は、州内でガソリンへのエタノール混合率を2010年末から5%に義務づけると発表した。砂糖産業では、連邦政府が定める再生可能エネルギー義務目標の順守を奨励する適切な対策を講じれば、バガスを原料とした再生可能な電力を電力会社へ供給する優位な立場にあるとみている。業界の試算では、投資の増加により、圧搾シーズン中に約250メガワットの電力が供給可能と見込んでいる。

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