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世界のさとうきび栽培管理技術について〜ISSCTの第8回栽培分野ワークショップにおける現地視察報告

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ


[2009年11月]

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所 飼料作環境研究チーム
安藤 象太郎
近畿中国四国農業研究センター
広域農業水系保全研究チーム
石川 葉子

はじめに

 国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT,International Society of Sugar Cane Technologists)の第8回栽培分野ワークショップが、2009年5月24日から29日までの間、ブラジル中南部に位置するミナスジェライス(Minas Gerais)州のウベルランディア(ウベランジア、Uberlandia)市で開催された。本ワークショップで討議された各国のさとうきび栽培管理技術については、砂糖類情報2009年10月号で紹介した。本稿では、ワークショップのエクスカーション(現地視察)について報告する。エクスカーションの1日目では、サンパウロ(Sao Paulo)州のグアイラ(Guaira)製糖工場とその周辺のさとうきび畑を、2日目には、ウベルランディア市近郊に建設中のエタノール工場とその周辺のさとうきび畑を訪問した。

スケジュール
*新型インフルエンザの影響で講演からエクスカーションに変更。

1.サンパウロ州グアイラ製糖工場とその周辺のさとうきび畑

 ウベルランディア市は、ミナスジェライス州の西部、サンパウロ州の北に位置し、サンパウロとブラジリアのほぼ中間に位置する交通の要所であるため、物流の中心地として栄えている(図1)。早朝にウベルランディア市を出発したバスは、サンパウロ州のグライラ市に向けて一路南下する。車中では、今回のワークショップの総責任者であるコーンドロファ(Korndorfer)ウベルランディア州立大学教授から、セラード地帯の農業開発とブラジルのさとうきび生産に関する説明を受ける。町を抜けるとほとんど人家は見かけず、セラードの灌木林と放牧地が緩やかな起伏の大地に広がる(図2)。途中、パラナ川の支流で州境を流れるリオグランデ川を渡る。穏やかな起伏の土地と、水量が豊かな河川からのかんがいと水力発電によって、この地域の大規模な農業開発が支えられている。サンパウロ州に入ると、広大なさとうきび畑が目につくようになり、約3時間かけてグアイラ製糖工場に到着した。サンパウロ州はブラジルにおけるさとうきび生産の中心地であり、サンパウロ州でブラジル全体の58.0%を、サンパウロを中心とする中南部地域で全体の86.5%を産出している[1]。

図1 ブラジル中南部の州とセラード地帯の分布
図2 ミナスジェライス州西部の放牧地

 1970年代の石油ショックを受けて、1975年にブラジル政府はプロアルコール計画を策定し、さとうきびから生産したエタノール利用によるガソリンの代替を推進した[2]。このプロアルコール計画をきっかけとして、グアイラ製糖工場は建設され、日産12万リットルのエタノール製造工場として1982年に操業を開始した。当時の従業員数は、1100名であった。1993年には製糖工場も加わり、現在では、1日に1万1000トンのさとうきびを圧搾する能力を有する。2007/2008年度の原料さとうきび処理量は251万3000トンであり、砂糖18万3000トンとエタノール9万9000キロリットルを生産した。生産された砂糖は、国内で消費され、さらにヨーロッパ、中国、ロシア、中東などに輸出されている。現在の従業員数は、工場520名、農場1850名の2370名である。

 工場の周囲には約3万ヘクタールの農場が広がり、平均収量はヘクタール当たり約90トンと、ブラジルでも最高の水準である。降水量は約1200ミリで、新植栽培の後、平均して4作の株出し栽培が行われている。株出し栽培の収量がヘクタール当たり80トンを下回ると、新植に切り替えるとのことであった。サンパウロ州では、火入れ収穫を2017年までに段階的に禁止する条例が2002年に策定されているが[3]、グアイラ製糖工場では、ほぼ100%達成されている。さとうきびとの輪作で大豆を栽培しているため、3500ヘクタールの大豆畑があり、さらに約3000頭の牛を飼育している。

 ブラジルで最も先進的な栽培方法の例として、グアイラ製糖工場の栽培技術が、ワークショップ参加者に対して実演展示された。展示は、1)大豆との輪作、2)機械植え付け、3)副産物施用技術、4)精密農業、5)機械収穫の5つのセッションに分けられていたが、その展示方法は壮大で趣向を凝らしたものであり、収穫が終わったさとうきび畑にはセッション毎に巨大なテントを立て(図3)、テントの下と広大なさとうきび畑に点在するテントを結ぶ通路にはバガスが敷き詰められていた(図4)。

図3 グアイラ製糖工場のさとうきび畑における展示風景1
図4 グアイラ製糖工場のさとうきび畑における展示風景2

1)大豆との輪作〜不耕起では種〜

 さとうきびの株出し栽培を止めて新植する前に、1作だけ大豆を栽培する輪作体系が紹介された。機械収穫後、ほ場の表面に多量の残さがある状態で、不耕起で大豆をは種する。不耕起は種機は、円板のディスクが土を切り込んで溝を掘り、は種と同時に施肥を行う(図5)。土壌分析の結果にもよるが、通常は石こうとリン酸肥料として1ヘクタール当たり60〜80キログラムの燐安(リン酸アンモニウム)が施用される。酸性矯正のためには石灰でなく石こうが主に使われている。根粒菌がコーティングされている種子を使用し、カリウムに富むアルコール発酵廃液を散布しているため、大豆作には窒素とカリウム肥料は施用していない。大豆の収量もヘクタール当たり約3000キログラムと高水準である。

図5 不耕起大豆は種機

2)機械植え付け〜切り口コーティング剤を使用〜

 さとうきび収穫作業の機械化は進んでいるのに対して、植え付け作業の機械化は難しく、ほとんど人力で行われている。ブラジルのさとうきび収穫面積は約800万ヘクタールであり、平均4作株出し栽培を行うので、毎年この1/5の面積に新植栽培のための植え付けを行う必要があるが、現状では96%が手植えである。

 そこで、農薬事業分野では世界第2位、種子事業分野では世界第3位にランクされるシンジェンタ(Syngenta)社が、Pleteと言うブランド名の機械植え付け技術体系を開発した。この新技術では、切り口を作物保護材でコーティングした1芽苗(図6)を、世界最大のトラクターメーカーである米国ジョンディア(John Deere)社と共同開発した機械で植え付ける(図7)。南半球に位置するブラジルの季節は日本と反対なので、春植えの時期が8〜10月、夏植えの時期が1〜5月となっており、1芽苗は1メートル当たり7〜8本植え付けられる。シンジェンタ社の資料によると、1ヘクタール当たり約15%の植え付け費用の削減となる。そして、試験研究用の畑ではなく、グアイラ製糖工場の現場ほ場において、今年から初めてこの機械植え付けが導入されることが紹介された。シンジェンタ社では、2015年までに年間3億ドルの市場を見込んでいる。

 従来さとうきびの植え付けには2芽苗を用いているが、2芽苗だと30〜40センチの長さになる。長茎のさとうきびをセットして、切断と植え付けを同時に行う植え付け機はあるが、長茎をセットするため大型の機械になり、あまり普及していない。1芽苗を用いることにより、より軽い植え付け機の使用が可能となるため、生産者は燃料費も節約することができる。しかしながら、1芽苗でなく2芽苗を植え付けに用いてきたのは、1芽苗の発芽が安定しないからであった。シンジェンタ社が新たに開発した切り口をコーティングする薬剤が、切断後の1芽苗の保存性を向上させ、安定した発芽率を保証するものであるのならば、本技術は画期的な植え付け機械化技術となることが予想される。

図6 植え付け機で用いられる1芽苗
図7 植え付け機

3)副産物施用技術〜そのまま、直接施用〜

 製糖工場およびアルコール工場から出る副産物が、肥料として有効に利用されていることが紹介された。

 アルコール発酵廃液であるヴァイナス(vinasse)は、エタノール1リットルに対し、12リットル産出される。成分は1立方メートル当たり、窒素0.4キログラム、カリウム2.0キログラム(酸化カリウム(K2O)換算)、硫黄1.5キログラム、有機物2.6キログラムを含み、C/N比は15である。ヴァイナスはpHが3.5と強い酸性で、ほ場に撒きすぎると糖収量が落ちるため、1ヘクタール当たり150立方メートル程度が投入量の上限となっている。1ヘクタール当たり120立方メートル程度散布した場合、カリウムと硫黄に関しては全て、窒素に関しては4〜5割の化学肥料を代替することができる。ヴァイナスの散布方法は、ヴァイナスを流した水路からポンプでくみ上げる方法と、ヴァイナスを入れた容量56立方メートルのタンクをトラックに乗せてほ場に運ぶ方法(図8)とがあり、グアイラ製糖工場のさとうきび畑では、前者が4200ヘクタール、後者が5800ヘクタールを占める。スプリンクラーを使って、1時間に1ヘクタールのほ場に散布している。

図8 ヴァイナス(アルコール発酵廃液)の散布

 フィルターケーキは製糖工場のろ過機から排出される残りかすであり、1トンの茎から35キログラム産出される。水分含量は62%であり、乾物当たり窒素0.9%、リン3.0%(酸化リン(P2O5)換算)を含み、C/N比は28である。有機物、リン酸、カルシウム、窒素の供給源として、トラックを使ってほ場に還元されている(図9右)。しかしながらフィルターケーキは、全てのさとうきび畑に還元する十分な量はなく、グアイラ製糖工場のさとうきび畑では、毎年2600ヘクタールに投入されている。

 工場の圧搾機から出るさとうきびの搾りかすであるバガスをボイラーで燃やした後の灰も、トラックを使ってほ場に戻されている(図9左)。バガス灰の水分含量は65%であり、乾物当たり窒素2.0%、リン0.7%(酸化リン(P2O5)換算)、カリウム0.5%(酸化カリウム(K2O)換算)を含む。バガス灰を施用する場合は、ヘクタール当たり約40トンを年1回施用するが、バガス灰も全てのさとうきび畑に還元する十分な量はない。

図9 フィルターケーキ(右)とバガス灰(左)の施用

 このように、工場の副産物をほ場に還元することによって、化学肥料施用量を減らすとともに、有機物を土壌に供給することができる。3つの副産物はいずれもたい肥化などをせずに、そのままの形で直接ほ場に施用されており、経費は低く抑えられている。グアイラ製糖工場のさとうきび畑では、化学肥料を全く使わず有機質肥料を連用した畑の収量が最も高い。そうした畑の土壌炭素量は、一般的な畑の1.6%から2.5%に増加していた。化学肥料を全く使わない有機農業による砂糖の価格は、通常のものの3倍である。

4)精密農業〜GPSを利用してほ場を管理〜

 グアイラ製糖工場のさとうきび畑は、ブラジルで最も早く精密農業の技術が導入された畑の一つであり、そのシステムが紹介された。

 工場では、全地球測位システム(GPS,global positioning system)を利用してほ場を測量し、定期的に採取した土壌の分析結果から土壌肥よく度と土壌酸度の地図を作製している。土壌肥よく度と土壌酸度に応じて、段階的に異なる量の化学肥料と酸性矯正資材を投入することによって、資材投入量とそのコストを削減することができる。

 化学肥料施用基準量は、新植と株出し栽培、土壌分析の結果の土壌肥よく度のレベル、予想収量によって分けられている(表1、表2)。例えば新植栽培で、ヘクタール当たりの予想収量が100トン未満の場合、ヘクタール当たりの窒素施肥量は30キログラムにすぎない。予想収量が100トンから140トンの場合、窒素施肥量は60キログラムである。株出し栽培では、予想収量が60トンから80トンの場合、窒素施肥量は80キログラムであり、予想収量が80トンから100トンの場合、窒素施肥量は100キログラムとなっている。日本の施肥基準と比べると、窒素施肥量はほぼ半分である。新植栽培でのリン酸施肥量は、日本の施肥基準とほぼ同程度であるが、株出し栽培ではヘクタール当たり30キログラム以下(酸化リン(P2O5)換算)と、日本の施肥基準と比べて少ない。カリウム施肥量は、土壌中の交換性カリウム量に従って、大きく異なる様に設定されている。

表1 さとうきび新植栽培における施肥基準
グアイラ製糖工場の資料
表2 さとうきび株出し栽培における施肥基準
グアイラ製糖工場の資料

 グアイラ製糖工場のさとうきび畑では、2000年から土壌酸性の矯正にケイ酸資材も使用するようになった。ケイ酸施用によって、さとうきびの耐病性、虫害抵抗性、耐乾性が向上すると言われている。Agrosilicioと言う商品名のケイ酸資材は、ケイ素11%、カルシウム42%(酸化カルシウム(CaO)換算)、マグネシウム11―12%(酸化マグネシウム(MgO)換算)を含み、ケイ素濃度が低い土壌に施用されている。

 また、数センチの誤差で位置を決めることができる、動的干渉測位GPS(RTK GPS,real―time kinematic GPS)を使って農業機械を自動制御することによって、さらに精密な農業が可能になる。まず、各種農業機械の走行距離を短くし、作業時間と燃料代を減らすことができる。さらに、より正確に植え付けることにより、植え付けの株数が増加し、収量が増加する。図9はフィルターケーキとバガス灰を株の上に筋状に施用しているところの写真であるが、このような施肥時に、トラックや農業機械が株の上を走って株が損傷を受けないようにすることで収量の増加を図る。より正確に植え付けることにより、通常より6〜8%多く植え付けることができ、ヘクタール当たりの収量が5トン増えた事例と、自動制御で株の上を走らないようにすることにより、ヘクタール当たりの収量が2トン増えた事例が紹介された。一筆が大きく、起伏がなだらかで機械化に向いているブラジルのさとうきび栽培では、精密農業を導入するメリットが大きい。

5)機械収穫〜植物残さの還元向上〜

 ジョンディア社の大型ハーベスター(図10)による収穫が実演された。手刈りによる収穫の場合、葉を茎からはぎ取る手間を省き、刈り取りを容易にし、潜んでいる毒蛇にかまれないようにするため、収穫前に梢頭部や葉を燃やす火入れ収穫が広く行われていた。しかし、火入れ収穫によって梢頭部と葉を燃やすと、煤などによる大気汚染を引き起こすことになる。そのため、火入れ収穫は段階的に禁止されることになった。大面積で火入れをしない収穫をするため、機械収穫へ切り替えられたが、機械収穫により、多量の植物残さがほ場に還元される。機械収穫は、ほ場からの二酸化炭素発生量を削減し、地力を維持するために重要な有機物を土壌に供給することができる。ブラジルのさとうきび栽培において、比較的少ない窒素施肥量で十分な収量が得られている理由として、植物残さの分解によって少なからぬ量の窒素が供給されていることが考えられる。

 なお、実演の様子を撮影したビデオを、ブラジルMarcase Máquinas社のホームページhttp://www.marcasemaquinas.com.br/の記事“John Deere promove dia de campo para discutir sobre a producao canavieira.”で見ることができる。

図10 大型ハーベスター

2.ウベルランディア市近郊に建設中のエタノール製造工場とその周辺のさとうきび畑

 ブラジルのさとうきび生産は年々増加しており、2020/2021年度には2007/2008年度と比べて、収量で約2倍、砂糖生産量は約1.5倍、エタノール生産量は約3倍になると予想されている[4]。特に生産の拡大が著しい地域は、従来さとうきび生産の中心であったサンパウロ州の周辺のマッドグロッソドスル州、ミナスジェライス州、ゴイアス州であり、さとうきび畑の拡大と工場の新設が進んでいる[2]。エクスカーションの2日目には、さとうきび生産が拡大している地域であるミナスジェライス州の、ウベルランディア市近郊に建設中であるエタノール製造工場とその周辺のさとうきび畑を訪問した。

 訪問した工場は、来年の4月から操業を開始する予定である(図11)。そのために現在、1万1000ヘクタールの面積でさとうきび栽培を始めている(図12)。将来的には、4万2000ヘクタールまで栽培面積を増やし、それを新設する3つの工場によって処理する計画である。全ての工場は、製糖用でなくエタノール生産用であり、コジェネレーションシステムにより発電を行う。さとうきびの収穫期間である4月から11月の間だけ、操業する予定になっている。

図11 建設中のエタノール工場
図12 ウベルランディア市近郊のさとうきび畑

 工場の周辺のさとうきび畑では、新植栽培に続いて5作の株出し栽培を行う予定であり、収穫は100%火入れをしない機械収穫で行う。植え付けの80%は手植えであるが、20%の土地に今年から機械による植え付けを行った。

3.セラード地帯で拡大するエタノール用さとうきび生産

 ブラジル中西部に広がる半乾燥地帯セラードは、約2億400万ヘクタールの面積を占める。セラードの土壌は、コーンドロファ教授の言を借りると「世界で最も古い土壌」であり、長期間の風化によって養分が溶脱してしまった極めて生産性の低い土壌である。陽イオン交換容量(CEC,cation exchange capacity)とその塩基飽和度は極めて低く、植物にアルミニウムの害を引き起こす酸性土壌であり、有効態リン酸も少ない[5]。

 セラードは作物生産に向かない灌木林が広がるだけの不毛の大地として残されてきたが、1970年代の終わりから開発が始まり、それには政府開発援助(ODA)による日伯セラード農業開発協力事業が大きく貢献した[6]。セラード土壌は、石灰などの投入によって土壌酸性が矯正され、リン酸をはじめとする不足養分を肥料で補い改良された。さらに、緑肥と作物残さをすき込み、土壌有機物を維持することによって、その持続的利用が図られている[5]。

 セラード開発の最大の制限要因は問題土壌であったため、その制約要因を克服することができれば、年降水量が1200〜1700ミリあり、緩やかな傾斜の土地が広がるセラード地帯は、農業機械を導入した大規模農業開発に適した土地であった。現在セラード地帯に造成された耕地面積は、非かんがい畑地面積1000万ヘクタールとかんがい畑地面積300万ヘクタールであり、大豆、とうもろこし、コーヒー、綿花の一大生産地となっている[7]。

 セラード農牧研究所(CPAC)は、セラードの潜在的農耕可能地面積を1億2700万ヘクタールと見積もっており、その内訳として、放牧地5500万ヘクタール、果樹園700万ヘクタール、非かんがい畑地面積5500万ヘクタール、かんがい畑地面積1000万ヘクタールがそれぞれ開発可能であるとしている[7]。さらに、集約的な牧畜を導入すれば、放牧地に割り振られた面積の何割かは、非かんがい畑地に振り替えることも可能だと考えられている。

 ウベルランディア市があるミナスジェライス州と、ミナスジェライス州と同様にサンパウロ州の北部に位置し、さとうきび生産が拡大しているマッドグロッソドスル州とゴイアス州は、いずれもセラード地帯に位置する(図1)。すなわち、現在ブラジルにおいてさとうきび生産が拡大しているのはセラード地域であり、そこは5500万ヘクタール以上の耕地が新しく開発可能と見積もられている。

 日本国内のガソリン使用量の1割をエタノールに代替しようとすると、年間約600万キロリットルのエタノールが必要となる。1トンのさとうきびの茎から80リットルのエタノールが生産でき、1ヘクタールの農地から75トンのさとうきびの茎が生産できると仮定すると、1ヘクタールの農地からは6キロリットルのエタノールが生産できることになる。すなわち、600万キロリットルのエタノールを、すべてさとうきびの糖から生産しようとすると、必要なさとうきび畑の面積は100万ヘクタールとなる。セラードで開発可能な耕地面積と比較すると、セラード地域における今後の農業開発のインパクトの大きさが理解できる。

 ウベルランディア市郊外で、クロタラリア(Crotalaria)が一面に植えられているところを訪れた(図13)。クロタラリアは窒素固定を行うマメ科の緑肥作物であり、新しくさとうきびを植える畑でさとうきびの前作として栽培されていた。クロタラリアを土壌にすき込んでから、さとうきびは植え付けられる。土壌の肥よく度が低いセラード地域にさとうきび生産を拡大していく場合、こうした緑肥作物の利用や本稿で紹介した副産物の積極的な土壌への還元が、持続的にさとうきびを生産していく上で重要だと考えられる。

図13 緑肥作物クロタラリア

追記

 2009年9月17日にブラジルのルーラ大統領は、国土の92.5%を新規のさとうきび植え付け禁止地域に指定する法案を提出した。ブラジルで最大のさとうきび農工業協会であるサンパウロ州さとうきび農工業協会(UNICA)は、さとうきび生産の持続的拡大のため、この提案を支持している。本法案は、さとうきびの全国アグロエコロジー・ゾーニング研究に基づいて、自然生態系の保護が必要なアマゾン、パンタナール湿地、パラグアイ川上流域における開発を禁止し、かんがいが必要でない土地と機械収穫が可能な傾斜度が12%未満の土地だけに開発を許可するものであり、十分に利用されていない放牧地や劣化した放牧地が、新規開発の望ましい対象地域とされている。さとうきび生産が今後とも可能とされた国土の7.5%の面積は、6400万ヘクタールに相当し、上記で議論した面積とほぼ一致する。

参考文献

[1]Conab,Acompanhamento da Safra Brasileira Cana―de―Acucar Safra 2007/2008 Terceiro Levanramento,2007

[2]井上裕之,菊池美智子.2008.ブラジルの砂糖およびエタノール生産状況について(1)〜さとうきびの生産拡大状況とエタノール需要による市場の拡大について〜.砂糖類情報.

[3]井上裕之,菊池美智子.2008.ブラジルの砂糖およびエタノール生産状況について(2)〜砂糖事情とサンパウロ州での生産状況〜.砂糖類情報.

[4]サンパウロ製糖業者協会(UNICA)Sugarcane Industry in Brazil Ethanol Sugar Bioelectricity.

[5]Wenceslau J.Goedert編 1989.セラードの土壌―管理技術と方法―.国際協力事業団

[6]青木公.1995.甦る大地セラード:日本とブラジルの国際協力.国際協力出版会

[7]本郷豊.2002.ブラジル・セラード農業開発―日伯セラード農業開発協力事業と今後の展望及び課題―.熱帯農業46,364―372


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