[2001年2月]
札幌事務所
てん菜低糖分解析検討会を設置
1.てん菜糖製造業者の12年産てん菜の買い入れが12月20日に終了したが、収穫量は平年を僅かに下回る367万3千トンとなった。
てん菜糖分については、平成10、11年産と2年連続して低糖分傾向にあり、12年産についても生育後期における高温、登熟期の9月に入ってからの多雨及び褐斑病等の病害の多発等により、糖分の低下が懸念されていた。
社団法人北海道てん菜協会が取りまとめた「平成12年産てん菜の生産と受渡し実績」によると、12年産の全道における平均糖分は15.7度と糖分取引が開始された昭和61年産以降最も低かった平成6年産 (15.6度) に次ぐ2番目の低糖分であり、また、これは基準糖分帯 (16.7〜17.0度) を大きく下回るもので、てん菜生産量の82%がこの基準糖分帯を下回る状況となっている。
2.このような状況を重くみた北海道農政部及び北海道てん菜協会は、4年連続の低糖分回避等に向け、専門技術者による「てん菜低糖分解析検討会」(座長:吉田俊幸北海道立中央農業試験場作物開発部長) を設置して低糖分の原因解明とその対策を検討し、13年産以降のてん菜の安定生産に向けた営農技術のパンフレットを作成の上、てん菜生産者等に配布することとしている。
検討会の構成は、農林水産省北海道農業試験場畑作研究センター、北海道立中央農業試験場・十勝農業試験場・北見農業試験場、北海道農業協同組合中央会、ホクレン農業協同組合連合会、日本甜菜製糖株式会社、北海道糖業株式会社、北海道農政部、北海道てん菜協会となっている。
自然の甘さ「さとうきびと黒砂糖」を都会の小学生が体験
東京の新宿区立四谷第六小学校 (菅野静二校長) に、沖縄のさとうきびと黒砂糖が送られてきた。
これは、沖縄県東京事務所に勤務する中村さんが同校に提供したものである。同校では、4年生 (45人=2クラス) が社会科授業の一環として3学期に「あたたかい土地の暮らし」及び「雪国の暮らし」という内容で学ぶこととしており、今回「あたたかい土地の暮らし」のなかで「沖縄の暮らし」を学習している。
中村さんは子息が同校に通学しており、最近、学校から配布される資料のなかに「砂糖を摂りすぎないように」という趣旨の内容を見て、砂糖に対する誤解や子供の成長に重要な栄養源である砂糖の良い面を知ってもらいたいと思い、「砂糖が畑からできる天然の食品であるということ等を教える機会がないか」と同校の先生に相談し今回の試みが実現した。
昨年の12月18日に送られてきた本島産のさとうきびと黒砂糖は、21日に児童たちに配布された。授業では、始めにさとうきびから黒砂糖ができる工程等をビデオとパンフレット (事業団制作の「砂糖のあれこれ〜お砂糖 Q&A〜」を提供) を用いて学んだ。その後、20cm程度に裁断されたさとうきびを児童に見せたのち、細かくチップ状にしたものが黒砂糖とともに児童たちに配られた。初めてさとうきびや黒砂糖を口にする児童が大半ではあったが、独特の風味に歓声を上げながら児童たちはおいしそうに頬張っていたという。
また、1月に入り沖縄県の石垣島からもさとうきびと黒砂糖が届けられ、同様に4年生に配られたが、地域や工場によって同じ黒砂糖でも色や味に特徴があることを知ったとのこと。 同校の菅野校長は、「このような体験学習を通じ、都会の児童たちが本物のさとうきびに触れられ大変有意義だった」と話されていた。
同校では、1月下旬まで「あたたかい土地の暮らし」の授業の中で、沖縄の気候風土や建物の違いなどを様々な観点から学習することとしている。
さらに、2月上旬に「雪国の暮らし」を学習する予定とのことで、てん菜のレプリカ (模型) を事業団から貸与して、全く反対の地域の作物から同様の砂糖が作られていることを知ってもらうこととしている。
「砂糖シンポジウム〜砂糖は笑顔のエネルギー〜」が金沢で開催
平成12年12月9日(土)、JR金沢駅前にある金沢都ホテルにおいて、糖業協会、精糖工業会、砂糖を科学する会共催 (後援:農林水産省、農畜産業振興事業団等) による「砂糖シンポジウム〜砂糖は笑顔のエネルギー〜」と題した砂糖シンポジウムが開催された。
募集定員は200人であったが、定員の3倍に及ぶ応募があり、抽選によって参加者が選ばれた。
シンポジウムは2部構成で開催され、第1部は女子栄養大学教授 五明紀春氏により「砂糖の生理機能〜砂糖の機能を見つめ直す〜」をテーマに、スライドを使用しながら砂糖についての疑問に答える形式で講演が行われた。
講演では、肥満や生活習慣病などの原因が砂糖摂取によると言われる誤解について丁寧に解説を行った上で、現代の食生活における過度の偏向を正し、砂糖は多様な食品の中の1つで天然の植物成分であるということ、砂糖の持つ機能 (栄養、嗜好、生理、文化) をもう一度見つめ直して、例えば、砂糖の生理機能では、スポーツ時に減少する筋肉・肝臓のグリコーゲンを速やかに補給する等、砂糖の機能、働き、役割を考えてバランスのとれた食生活が大切であるということが理解していただけたら、とのことであった。
また、参加者からの「砂糖は肥満の原因になるのでしょうか」など、質問に対しても、「肥満と原因は過食・運動不足などである」などと分かりやすくユーモアを交えて答えられていたため、砂糖の生理機能等難しい講演内容であったにもかかわらず、会場は終始和やかな空気であった。
第2部は、講師に元卓球世界チャンピオン新井教子氏を迎えて、「頭も体も一生健康でいたい」をテーマに、元卓球選手の立場から、自身の経験と実践を会場の参加者にストレッチ体操を体験してもらいながらの講演となった。
健康についての認識は、常に身体意識 (体の隅々まで自分の意識を行き届かせること) を持つことが大切である。また、スポーツを行う上でも同様に身体意識を持つことが、勝利につながる大切なポイントであるとともに、日常生活においても同じことがいえる。常に、上達し続ける心を持ち、自分自身を鍛えて自分に勝たなければ健康ではいられない。
頭 (心) の健康も体の健康もまず意識をはっきりと持つことが大切であるということ、真の力 (健康) は“体の中心”(丹田=下腹部のあたり) を意識することによって生まれてくる。いつまでも健康でいるために、“体の中心”に力を入れて颯爽さっそうとした姿を見せるように、そして、疲れたときはお砂糖を摂って、これからもすてきに、豊かに過ごしていただきたい、と訴えていた。会場の参加者もうなずく姿勢に健康に対する考え方を見つめ直しているように思われた。
茶の湯と和菓子のかかわりを紹介:特別展「和菓子〜その歴史と洗練」
平成12年10月14日(土)〜12月10日(日)にかけて、京都市北区上賀茂桜井町にある表千家北山会館において、特別展「和菓子〜その歴史と洗練」が開催された。
「表千家十二代惺斎の好みヘギ目朱縁高」で正式な茶事の折、縁高は菓子器として使われる。 |
同会館は、身近に茶道文化に接することができる文化会館として平成5年にオープンし、表千家同門会員の研修や講演用施設として利用されている他、茶の湯の文化に親しんでもらう目的で、毎年秋に一般市民を対象にして、京都府、京都市、府・市の教育委員会、NHK京都放送局の後援を得て、地元京都新聞社との共催にて「茶の湯文化にふれる市民講座」と特別展を2ヵ月にわたり開催している。
今回の企画は、茶の湯と和菓子のかかわりを、千利休の時代以来の様々な菓子器や表千家歴代家元ゆかりの菓子などによって紹介したもので、和菓子の歴史、その材料や作り方、製作道具、工芸菓子などに見られる造形美なども併せた展示には、開催期間中約1万人が観覧に訪れた。
会場には、茶の湯及び和菓子に関連した様々な展示物が「歴史的な展開」、「茶の湯と菓子」、「材料と製作道具」、「季節の菓子と工芸菓子」などのコーナーに分かれて展示されていた。
中でも「歴史的な展開」のコーナーでは、和菓子の起源が木の実や果物と考えられることの紹介から始まり、中国や南蛮など外来文化を取り入れながら発展し、江戸時代に大成した和菓子の歴史が、当時の菓子を再現しながら分かりやすく解説されており、興味深いものであった。
また、「茶の湯と菓子」のコーナーでは、「好み物」(代々の家元、茶人などによって、茶の湯にふさわしく、自らがこれをよしとして選び出された茶の道具、菓子など) という茶の湯独特の世界を解説し、歴代家元の茶会記に登場するゆかりの菓子や、菓子器などの展示を通じて茶の湯と和菓子のかかわりを紹介していた。
同会館の広報担当者によれば、「お茶の道具は、絵画や彫刻などと異なり、『展示しておくだけのもの』ではなく、あくまでも『使うもの』であると認識しています。」ということで、「お茶を味わうための茶道具や菓子器がどのようなものなのか、あまり形式にとらわれず、素直に感じてもらいたいと思います。そのために、一般の人たちにも分かりやすい展示を心がけています。」ということであった。
常盤(ときわ)饅頭を盛った「朱アミ絵食籠」。この常盤饅頭は表千家の初釜の時にだけ出される虎屋製の上用饅頭である。 |
また、「今回の展示では、茶の湯の美意識とともに和菓子の美意識を感じてもらいたいと思います。ギフト用のお菓子では、保存性の面から洋菓子が選ばれるケースがよく見られたり、料理教室も洋菓子をテーマとしたものが多いことなど、和菓子は日常生活において私たちからやや遠い存在になりがちですが、人々の暮しの中にある歳時や季節感を微妙に表現した、感性のあるデザインを持つ和菓子の美を見つめ直すことによって、普段とは違った次元での和菓子の魅力を発見できるはずです。私どもとしてはそういったことを含め、広い意味で茶道文化に親しんでいただきたいと考えています。」とも話されていた。
同会館では、今後も一般の人が茶の湯と触れ合う機会を提供して、茶道文化の普及を図っていく方針で、本年秋に予定されている次回の一般向け展示が期待される。
21世紀、日本人の心の中にある和の文化を見つめ直すなかで、茶の湯の文化が広く親しまれ、それとともに茶道と深いかかわりのある和菓子文化もより多くの人に理解され、発展していくことを願いたい。
「砂糖シンポジウム〜砂糖は笑顔のエネルギー〜」が岡山で開催
会場入口 |
平成12年11月7日(火)、岡山市のアークホテル岡山において、「砂糖シンポジウム〜砂糖は笑顔のエネルギー〜」(主催:糖業協会、精糖工業会、砂糖を科学する会 後援:農林水産省、農畜産業振興事業団等) が開催され、関係者によると応募者636名の中から抽選により240名の参加者が選ばれた。
このシンポジウムは、当事業団助成事業の1つで砂糖の需要増進を目的としたもので、「生活に欠かせないお砂糖のこと、もっと知りたい」をテーマとし、2部構成で開催され、その講演中、熱心にメモをとる主婦や OL 等の姿が多くみられ、消費者の砂糖と食生活や健康とのかかわりに対する関心の高さがうかがえた。
第1部では、山梨医科大学教授佐藤章夫氏がスライドを用いて「私たちの体と、糖質の意味」と題して話され、食品において、戦後の栄養摂取量をみてみると動物性脂肪が激増し、一方で糖質の摂取量は減少傾向にあるという。
いわゆる「メシ」という言葉には米のメシと食事という意味があるが、最近は前者の意味を忘れて米抜きの食事が多くなっている。簡単な食事では、人間が必要とするエネルギーを作ることはできない。内臓や筋肉、脳を活発に活動させるためには、糖質であるブドウ糖を適切に補給することが必要となる。
このため、空腹時やアルコールを飲むときに、低糖質のものばかり摂ると肝機能障害を起こす可能性が高まる。健康を気遣うなら、飲食の時は砂糖を含む糖質を摂ることが大切であるなどと興味深い講演であった。
シンポジウムに参集した人々 |
第2部では普通の主婦からハーブ&アロマセラピーコーディネーターとなった高松雅子氏が「ハーブとお砂糖とリラックス」と題して話され、主婦の時には砂糖の白さは漂白しているためと誤解していたが、現在は、「砂糖を上手に生活に取り入れています」と説明しながらハーブティーのおいしい入れ方を実演した。
まず、アップルミントとレモングラスの葉をちぎってボウルに移し、グラニュー糖を入れて手で揉み、次にこれに熱い湯を入れるだけで完成する。ハーブに砂糖が入ることで、疲れもとれて脳もリフレッシュすることなどハーブと砂糖を毎日の生活の中に上手に利用することをアドバイスされた。
“砂糖”は、甘くておいしいだけでなく、人間にとって大切なエネルギー源になっていること、また上手に活用することによって精神を安定させリラックスさせる効果があることを改めて認識させてくれたお2人のお話でした。
鹿児島県南西諸島における黒砂糖を中心とした特産品
鹿児島県南西諸島と砂糖とのかかわりは古く、今から約400年近く前に奄美大島においてさとうきびから黒砂糖が作られたのが最初であると言われている。その後、鹿児島県南西諸島や琉球 (沖縄県) などで盛んに作られるようになり、続いて、和糖 (含みつ糖) が、阿波、土佐、和泉、駿河など各地でも作られるようになった。
しかし、幕末の開港以降、海外から白砂糖がたくさん輸入されるようになると鹿児島県南西諸島と琉球の黒砂糖を除いて徐々に衰退していき、今では阿波 (徳島県) の和三盆などを残すのみとなった。
その後、鹿児島県南西諸島の砂糖の生産は、昭和37年産以降、黒砂糖から甘しゃ分みつ糖への生産が急速に進み、昭和37年産以降は黒砂糖の生産を上回っている (表参照)。
鹿児島県南西諸島における黒砂糖及び
甘しゃ分みつ糖の生産の推移
単位:トン |
年産 |
黒砂糖 |
甘しゃ分みつ糖 |
昭和35年 |
34,746 |
3,765 |
36年 |
20,987 |
17,291 |
37年 |
17,645 |
32,076 |
38年 |
22,986 |
55,340 |
39年 |
11,818 |
87,204 |
40年 |
7,303 |
87,419 |
45年 |
3,555 |
77,526 |
50年 |
2,098 |
80,862 |
55年 |
598 |
90,286 |
60年 |
631 |
109,248 |
平成元年 |
552 |
114,368 |
5年 |
612 |
66,535 |
8年 |
682 |
62,563 |
9年 |
1,293 |
64,057 |
10年 |
1,230 |
79,817 |
11年 |
594 |
77,597 |
|
資料:鹿児島県農政部 |
ここでは、最近、自然志向や健康志向などで多くの消費者の支持を得ている鹿児島県南西諸島における黒砂糖を中心とした特産品について紹介する。
1. 黒砂糖
(1) 生産
鹿児島県南西諸島における黒砂糖は、沖永良部島と与論島を除く各島で生産され、その生産量は、昭和35年産の34,746トンをピークに次第に減少し、昭和55年産から平成8年産まではおおよそ500〜600トン台で推移してきたが、9、10年産は、黒糖焼酎製造向けが生産されたことにより増産となっている。
(2) 製造方法
さとうきびを圧搾機で搾り、汁を鍋に移し、加熱してかき混ぜ、石灰を加え、不純物を沈殿させ除去し、沈殿物をろ過した後の液を煮詰めることによって濃縮して完成する。
(3) 特徴と用途先
鹿児島県産の黒砂糖は小さい釜でじっくり作る小量生産であるため、沖縄県産や輸入品と比較して、味や品質に違いがある。沖縄県産の黒砂糖は、多少塩味とにがみがあり、輸入品は、国内産より味や品質が落ちると言われている。
用途は、空港などで小袋売りのお土産用がほとんどで、残りは黒糖焼酎用に消費されている。
ちなみに、沖縄県産は、約6割が本土へ出荷され、そのうち3〜4割が小袋売り、残りが菓子などの業務用になる。さらに、沖縄県産のうち約1割弱が奄美諸島へ黒糖焼酎用として出荷され、残り約3割は県内で消費されている。
2. 黒糖焼酎
(1) その歴史
焼酎は古代ギリシャから中国 (または、東南アジアという説もある)、沖縄を経由し、奄美諸島へ伝来したとされ、最初は泡盛の製法で作られていたが、明治11年に旧薩摩藩の統治から離れて黒砂糖が自由に売買されるようになり、何時からとなく、黒砂糖を原料として使用したのが始まりとされている。昭和28年に、奄美諸島がアメリカから返還されて以降は、黒砂糖を原料とした酒類製造は、酒税法で奄美諸島だけに認められ、黒糖焼酎が現在の奄美諸島における特産品となっている。
(2) 製造方法とその特徴など
原料となるうるち米で米こうじを作り、次に、米こうじに良質の水を入れもろみを作り発酵させる (1次仕込み)。そのもろみに黒砂糖を溶かした液を加えてさらに発酵させる (2次仕込み)。これを蒸留し、貯蔵、熟成してできあがる。
黒糖焼酎の味の特徴は、かすかな甘さと黒糖の香りがあることで、販売先は、鹿児島県内が7割 (その9割が奄美諸島で消費される)、残り3割は関西、関東などへ出荷される。
3. その他の特産品
奄美群島の加計呂麻島、喜界島で作られ、さとうきびを原料とした「きび酢」。その他各島においても、黒砂糖を使ったお菓子として、ピーナツに黒糖をまぶした「がじゃ豆」、かりんとう、せんべいなどがある。また、さとうきびを原料とするきび飴とさとうきびジュースやさとうきびのバガス (さとうきびの搾りかす) を利用した和紙などがある。
このように、さとうきびを原料としたものが、島の特産品として島の人々の生活に欠かせないものとなっている。
沖縄の節分:ムーチー
沖縄の伝統的な年中行事の1つに、旧暦の12月8日 (今年は、1月2日) に各家庭で厄除けとして、ムーチーを作って食べる習慣がある。
ムーチーとは、もち米の粉と砂糖を主に原料とした粽(ちまき)菓子に似たものであり、1年間の厄払いを行う行事でもある。特に厄年に当たる人がいる家庭ではムーチーを作り、仏壇にお供えして家族の健康と厄払いを祈願する。
また、子供のいる家庭では、子供の年齢と同数のムーチーをひもで連ねて縛り、天井や軒下からつるす。特に、赤ちゃんが誕生して最初に迎えるムーチーの日をハチムーチー (初餅) ともいい、その年に赤ちゃんが誕生した家は、7つむち (鬼むち6つと力むち1つを縄ではしご形に結んだもの) をたくさん作って親戚や近所の家などに配る習慣がある。これらは子供の健やかな成長と無病息災を願った風習で、沖縄では今も行われている冬の年中行事の1つである。
ムーチーの材料は、一般的にはもち米の粉と三温糖や黒砂糖などの砂糖が主である。もち米の粉に適量の水を加えて手でよくこね、さらに溶かした三温糖や黒砂糖を入れてよく混ぜ、長さ12〜13cm、幅4〜5cm程度の大きさに形を整えて、月桃 (げっとう)(注1)やびろう(注2)の葉に包み、ひもで結わえる。これを中火の蒸し器で20分程度蒸してムーチーができあがる。中のもちの色づけとして、ウコンや紅いもの粉を加えることもあるが、外見は端午の節句に食べられる粽(ちまき)のようにも見える。
ムーチーの由来は、その昔、首里金城村で暮らしていた気立ての良い娘の兄が鬼と化し、家畜を食らって村人に迷惑をかけるばかりか、最後には人まで襲うようになってしまったため、兄を愛する心の優しい妹は、悲しみをこらえながらも兄に鉄の入ったもちを食べさせて、崖から突き落として退治したという昔話に由来し、鬼退治をした日が旧暦の12月8日に当たることから、この日にムーチーの行事が行われるようになったとの言い伝えである。
人々にとって忌み嫌うものを鬼に形容して、これらを退治する類似の行事は全国各地で行われており、最もポピュラーなものとして2月の節分に行われる豆まきが挙げられる。
また、中国においても古来からの年中行事として沖縄におけるムーチーの日と同じ日に、これに似た厄払いの行事が行われているそうである。
21世紀のムーチーの日を控えた12月は、ここ3〜4年における沖縄県内製糖企業の三温糖の出荷量が、月平均に比べて4割程度も多く、増加量のほとんどが家庭用小袋であるということから、沖縄では今もムーチーが広く一般の家庭で作られ、食べられていることがうかがい知ることができる。
この時期に子供たちがもち米や砂糖を多く含んだ、栄養価の高いおいしいムーチーをたくさん食べる習慣は、厄除けの意味の他に、沖縄にムーチービーサ (ムーチーの日を境に寒さが一段と増す様子) のいわれがあるように、これから到来する冬に備えて健康を増進し、体調を整えておくといった生活の知恵もあるのではないかと感じられる。
(注1) 別名サンニン:ショウガ科の多年生常緑草本で、高さは2〜3m。葉は薄くだ円形で表面は光沢がある。種子には健胃薬や消化剤の薬効がある。
(注2) 別名クバ:ヤシ科の常緑高木で、高さは5〜10m。葉は扇形をした円形で堅く光沢がある。葉には解熱薬の薬効がある。
(1) 月桃 (げっとう) |
(2) 月桃の茎でムーチーを 結ぶひもを作る |
(3) もち米の粉をこねる |
(4) ムーチーを月桃の葉で包む (その1) |
(5) ムーチーを月桃の葉で包む (その2) |
(6) ムーチーを月桃の葉で包む (その3) |
(7) ひもで結ぶ |
(8) 蒸し器で蒸す |
(9) ムーチーの完成 右はひもをほどいた様子 |
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