[2002年12月]
札幌事務所
江別市で「砂糖と食文化講座」を開催
中出校長の挨拶 |
10月21日(月)、当事業団は江別市の(財)北海道農業協同組合学校(JAカレッジ)の学生を対象とした 「砂糖と食文化講座」 を開催した。
本講座は消費者等に対して甘味資源作物、砂糖及び砂糖制度等についての知識を深めてもらうことを目的とする新規事業である。今回が全国で最初の開催であり、今後各事務所において順次開催される予定となっている。
今回講座が開催された同校は、将来農業協同組合(JA)の幹部職員を目指す人々を養成することを目的として、全道のJAグループの資金拠出により運営されているものである。
開催当日の教室は54名の若い学生たちの熱気に包まれたなか、中出校長の挨拶に続き、当事業団の大澤農産流通部長が 「砂糖制度と砂糖のあれこれ」 と題した講演を行ない、ビデオ上映も織り交ぜながら、砂糖の消費量、砂糖の原料となるてん菜やさとうきびの基本的な知識、砂糖制度、砂糖に対する誤解・効用等を解説した。
さらに、会場でてん菜の模型の展示とてん菜の試食も行ったところ、試食した学生たちの中から 「やっぱり甘いね」、「食べるのは初めて」 といった声が飛び交うなど、彼らにとっててん菜は将来身近な農作物になるものであろうが、農家でも直接食する機会がないものだけに、この体験は新鮮なものであったようである。
講演に聞き入る学生 |
講演の最後に大澤部長は、『これから皆様が北海道の農業関連に携わる中で、「てん菜は安全で素晴らしい食品の原料なんだ」 と胸を張って栽培指導等をしていただきたい。』 と締めくくった。
講演終了後行ったアンケートの結果では、「北海道ではてん菜が栽培され、砂糖を生産している」 についてはという設問に、ほとんどの学生が “以前から知っていた” と回答したのに対して、「砂糖制度に基づく最低生産者価格制度により北海道のてん菜農家の経営安定を図っている」 については、ほとんどの生徒が “初めて知った” と回答した。また、講座の全体を通しての感想としては、「JA職員になる上で大変参考になった」、「砂糖が身体に良いことがわかった」、「てん菜の試食が印象的であった」 など、本講座への評価が寄せられた。さらに、今後講座で取り上げてもらいたいテーマとしては、「てん菜の輪作時の効果」、「さとうきびについて(より詳しく)」 など、これからの参考にとなる回答も寄せられた。
講演中に熱心に受講する学生たちの姿を見て、同校で学んだ彼らが将来農業の分野で広く活躍していく姿を思い描くと共に、大いに期待した次第である。
東京事務所
砂糖科学会議 「アメリカの砂糖事情の現状」
10月15日(火)、東京都千代田区神田の学士会館において、(社) 糖業協会、精糖工業会、砂糖を科学する会の共催により、砂糖科学会議 『アメリカの砂糖事情の現状』 が開催された。
今回の砂糖科学会議は、これまでのように一般消費者への砂糖に関する正確な情報の提供を目的としたものではなく、わが国の糖業に係わる製造事業者・流通業界関係者・関係団体・官公庁等に対して、米国における同業界の現状を紹介し、今後の砂糖業界の参考にしようというものであった。
当日は、各企業及び団体のトップクラス約100名が一堂に会し、農林水産省からは北村副大臣が出席されたこともあって、会場内は賑々しい中にもはりつめた雰囲気が感じられた。
会議は精糖工業会久野会長の 「砂糖に対する消費者の誤解は解消しつつあると感じている。デフレ等で需要は伸びない状況ではあるが、下落は止まってきた。食品の安全・安心が問題視されてきているので、業界を挙げてパーフェクトな対応を目指そう。」 との挨拶で開会し、続いて、米国砂糖協会リチャード・キラー会長が 『アメリカ砂糖事情:変化の多様な波』 と題して講演が行われた。
米国砂糖協会は、さとうきび生産者を主たるメンバーとして1943年に設立され、砂糖と健康との問題に科学的見地から取り組むことにより米国の砂糖消費の安定・拡大を目指している団体である。キラー会長も体育科学並びに体育教育学の博士号を持っており、1997年の会長就任以来、科学者としての知識・経験を基に、砂糖の消費拡大に尽力している。
同氏は講演の中で、「現在の米国では砂糖と肥満の因果関係が焦点となっており、この2つが直接的に結びついているという意見が一般的であるため、市民団体のみならず、政府までもが砂糖の摂取に対して否定的な立場を取っている。これは米国における成人の肥満率が全体の6割にも達していることが背景にあるわけだが、そもそも肥満の原因は糖質の取り過ぎと運動不足であり、言い換えれば本人の不摂生に起因する生活習慣病である。また、現代の先進諸国は高齢化社会へと進んでいるので、運動量が低下する高齢者が必要以上の砂糖を取れば、肥満や糖尿病の人口全体に占める割合が上昇するのは当然のことである。そこで米国砂糖協会では、“スプーン1杯=15キロカロリー” をキャッチフレーズに、マスメディアを使って “砂糖は天然・美味しい・低カロリーの食品である” とのキャンペーンを積極的に行っている。その際協会は、科学的データを基本とした主張を展開し、非科学的な反対意見を否定する手法を取っている。今後は企業経営者だけではなく、生産農家も一丸となってこの活動を推進していく。」 と述べた。
キラー会長の講演の後、壇上に立たれた北村副大臣からは、「砂糖が脳の働きを良くする等の効用を科学的に証明しながら、消費者の誤解を解いていって頂きたい。安価がすべてではない。天然食品の重要性を説きながら、砂糖の良さを長く末代まで正しく伝えることに、官民挙げて努めて欲しい。」 との挨拶があった。
その後、会議は、事前に会場から集められた質問に、砂糖を科学する会メンバーの橋本氏並びに高田氏が本人に代わってキラー会長に質問する形式のディスカッションへと移行し、「日本はどのような消費拡大運動を展開すれば良いとお考えですか?」 との質問に対して、「消費者教育、特にオピニオンリーダーを育成すことが重要だと思います。更に糖尿病患者の団体や体育学の団体への働きかけも効果的でしょう。とにかく積極的に広告キャンペーンを行うことが重要です。」 と回答した。また、「米国砂糖協会では新甘味料に対してどの様な対策をとっていますか?」 との質問には、「新甘味料サイドの科学的に疑わしい主張には、断固たる態度で抗議するとともに、彼らに正しいブランド付けを促しています。」 と答えた。この他にも2、3の質問が時間の許される限り続けられ、同氏はそのひとつひとつに丁寧に返答した。
今回キラー会長が話した米国砂糖協会の諸活動等は、既に日本でも実施しているところではある。しかし、反対勢力の台頭の波、そして政府との対立の波など、米国は我国より高い波に晒されているように感じられた。だからこそ米国の砂糖事情を参考にすることは、今後のわが国糖業界にとって有効な手段となるであろう。
第27回台東区消費生活展
〜台東区婦人団体協議会の取組み〜
会場の模様 |
台東区役所では26年前より、“大切ないのちのために!!” をスローガンに 「消費生活展」 と銘打ったイベントを年1回開催している。本年は10月18日(金)・19日(土)の両日、台東区役所10階のフロアーを会場として、約2,000人の来場者で賑わった。保健所・税務署・食糧事務所等の行政機関を始め、東京ガス等の企業、区内の消費者団体など、計30の組織・団体が参加し、それぞれのブース内で展示会・説明会・相談窓口・即売会等、各々に趣向を凝らした催しを展開した。
この会場の入り口近くの一画で 『砂糖を考える』 をメインテーマとして、パネル展示(自作)・クイズラリー・資料配布を実施したのが台東区婦人団体協議会である。
台東区婦人団体協議会は、台東区内にある9つの消費者団体の中央団体として昭和20年代後半に組織され、現在の加盟員数は約1,000人に上る。“台東区内の婦人にとって有益な生活関連情報を正確かつ迅速に伝達しよう” を活動方針の1つとして、日常生活で生じる様々な問題について取り組んでいる。
当会の中田会長によると、本年 『砂糖』 をテーマとした理由は、「昨年、農林水産省の消費者の部屋を訪れた際、事業団の砂糖に関するパンフレットを目にし、これまで持っていた砂糖に対する認識と異なる情報が出ていたため興味を持ち、その後、約1年にわたって協議会独自に勉強会を重ね、パンフレットに記載されている内容が正しい情報だと納得したので広く皆さんに紹介しようということとなり、今回のテーマとしました。」 ということであった。
来場者の反応について説明を担当していた協議会の方に尋ねると、「最も関心が高かったのは “砂糖が脳のエネルギー源” だという点で、若いお母さん方は子供さんの成長、ご高齢の方はボケ防止として興味を持たれたようです。次いで、“持久力を必要とするスポーツには砂糖が効果的である” に関心が高かった。また、卵料理における泡立ちの保持など、料理における砂糖の効用についても足を止めてご覧になる方は多かったようです。全体的には、これまで改まって砂糖を見ることがなかったので、その性質・効能に驚いた。」 との感想が多かったとのことだった。
名古屋事務所
みんなの生活展に事業団から砂糖コーナーを出展
〜愛知県瀬戸市〜
11月2日(土)、瀬戸市及び瀬戸市消費者団体連絡会が主催する 「瀬戸市みんなの生活展」 が瀬戸市文化センターにおいて開催され、地元住民約1,600名の来場者で賑わった。当事業団は今回初めて 「甘味を正しく理解していますか」 というテーマのもと、てん菜、さとうきびの原料作物をはじめ、様々な種類の砂糖のサンプルやパネルの展示、パンフレットの配布を行い、来場者に砂糖に対する正しい知識を呼びかけた。
事業団の展示コーナー |
砂糖に関心を寄せる来場者 |
今年で29回目を迎える同生活展は、消費者団体が日常の生活において調査した研究活動の成果を発表し、市民の消費者意識の高揚と啓発を推進するため行われている。
主催者はラリー形式でクイズを行うなど、いかに来場者に興味を持ってもらえるか工夫を凝らしている。出展者のうち、瀬戸市内の消費者団体の発表作には、食品ロスへの取り組みや生活排水への取り組みの様子を発表するなど、環境保全に対する意識が高く現れていた。その他、食糧事務所、農林水産消費技術センター、税関からはそれぞれ、米の備蓄制度のお知らせ、食品の表示制度の解説、税関の仕事と輸入相談など、暮らしに役立つコーナーを設け来場者に理解を求めていた。
主催者が来場者に行った9問のクイズのうち1問が当事業団コーナーから出題した 「砂糖が白いのはなぜか」 との設問であり、これに対して漂白しているからと誤答する人が予想以上に多く、砂糖と健康についてのパネルや事業団職員の説明によって、透明の結晶が光の乱反射により白く見えることを理解していた。また同コーナーでてん菜を初めて目にした人が多く、しきりに関心を寄せていたことや、さとうきびを懐かしがる年配者が多かったのが印象的であった。来場者は食料としての身近な砂糖に改めて理解を深めていたようだ。
今回の生活展は展示スペースが増えたことにより、より多くの出展者を招致することができ、昨年より充実した内容となり、来場者が体験できるコーナーも設けられた。主催者は来場者に、より関心を持ってもらえたのではと満足している様子であった。また、今回の砂糖コーナーの出展を通して、来場者の砂糖に対する質問等から、正しい知識の普及には今後も地道な活動を続けていく必要性があると考えた次第である。
大阪事務所
関西砂糖特約店協同組合が研修セミナーを開催
11月8日、関西砂糖特約店協同組合による秋季総員懇談会並びに第2回研修セミナーが、大阪市中央区のハートンホテル南船場において、関西地区の特約店、代理店、精製糖企業など、多数の参加のもと開催された。
同セミナーは、関西砂糖特約店協同組合が、加盟特約店社員の砂糖に関する知識の向上を図ることを目的として今年度から実施しているもので、今回行われた第2回目のセミナーでは、農林水産省特産振興課の折原課長補佐と実業通信株式会社中田取締役を講師に招き講演が行われた。
折原氏は、「行政から見た砂糖業界の歴史と今後」 という演題で、戦後におけるわが国の製糖業をめぐる問題や政府の対応、平成12年の糖価安定法改正に至までを解りやすく説明した。
また中田氏の講演は、「業界紙から見た砂糖業界の変遷」 という演題で行われ、粗糖の輸入自由化、オイルショック、日豪砂糖長期協定、などの戦後の砂糖業界における主要な出来事について、記者として長年砂糖業界に携わってきた独自の視点から話をした。
両氏の講演はともに、我が国における戦後の砂糖業界の歴史についての大変興味深い内容であり、参加者達が一様にメモをとったり、うなずいたりと、熱心に耳を傾けていた姿が印象的であった。
福岡事務所
平成14年産さとうきび生産見込み(14年10月1日現在)
台風15号の強風で乱倒伏した さとうきび畑(徳之島) |
鹿児島県農政部は、鹿児島県南西諸島における平成14年産さとうきび及び甘しゃ糖生産見込み(14年10月1日現在)を発表した。これによると、今年産のさとうきび予想収穫面積は9,906haで、前年産に比べて、530ha(5.7%)の増加が見込まれる。
一方、予想収穫量は569,460トンで、前年産に比べて、68,833トン(10.8%)の減少が見込まれる。
これは、収穫面積の増加が見込まれるものの、7月に台風が集中的に襲来し、その後、7月中旬から8月下旬にかけて雨量が少なく干ばつ気味となり、さとうきびの生育が停滞していたところに、8月下旬の台風15号、9月上旬の台風16号が相次いで襲来し、さとうきびの倒伏、茎の折損、葉の裂傷及び塩害による被害のため、10a当たり予想収量が、5,749kgと前年産に比べて1,059kg(15.6%)下回ることが見込まれるためである。
|
表1 平成14年産鹿児島県南西諸島さとうきび生産見込み (10月1日現在) |
単位/予想収穫面積:ha 10a当たり予想収量:kg 予想収穫量:t |
項目
島別
|
予 想 収穫面積 |
10a当たり 予想収量 |
予 想 収穫量 |
前年産との比較 |
予想収穫面積 |
10a当たり 予想収量 |
予想収穫量 |
対 差 |
対 比 |
対 比 |
対 差 |
対 比 |
種子島
奄美大島
喜界島
徳之島
沖永良部島
与論島
|
2,612
614
1,131
4,059
907
583
|
6,830
5,612
6,176
5,095
5,753
4,758
|
178,410
34,455
69,831
206,839
52,192
27,733
|
111
23
▲3
382
37
▲20
|
%
104.4
103.9
99.7
110.4
104.3
96.7
|
%
88.7
89.5
81.4
78.6
96.9
87.7
|
▲14,133
▲2,583
▲16,252
▲31,409
512
▲4,968
|
%
92.7
93.0
81.1
86.8
101.0
84.8
|
鹿児島県計 |
9,906 |
5,749 |
569,460 |
530 |
105.7 |
84.4 |
▲68,833 |
89.2 |
注:鹿児島県農政部発表の数値に基づく。
|
表2 鹿児島県南西諸島さとうきび生産量の推移 |
|
単位:トン |
年産
島別 |
10年産 |
11年産 |
12年産 |
13年産 |
14年産 (見込み) |
種子島
奄美大島
喜界島
徳之島
沖永良部島
与論島
|
194,155
37,591
90,690
244,974
70,293
41,031
|
162,104
30,237
76,765
235,479
63,216
43,605
|
195,254
30,744
77,503
207,400
44,075
34,020
|
192,543
37,038
86,083
238,248
51,680
32,701
|
178,410
34,455
69,831
206,839
52,192
27,733
|
鹿児島県計 |
678,734 |
611,406 |
588,996 |
638,293 |
569,460 |
注:鹿児島県農政部発表の数値に基づく。なお、14年産については、10月1日現在の見込みである。
|
さとうきび優良農家の紹介 〜種子島から〜
先月号に引き続き種子島で意欲的にさとうきび作に取り組んでいる鹿児島県熊毛郡西之表市西之表の優良農家、小川正美氏(48歳)を紹介する。
小川氏の経営は、農業部門、農作業受託部門(さとうきび機械収穫作業)及び運送部門(さとうきび及びかんしょ)の3部門から成り立っている。農業部門はさとうきび作を中心としたかんしょ(でんぷん原料用及びアルコール用)等との複合経営であり、農業従事者は、本人、奥さん、二人の息子さん及び実母の5人の3世代専業農家である。
家族内で役割分担を明確化
小川氏の経営の特徴は、法人経営を将来の目標として、家族内で給料制度を設け役割分担について表1のとおり明確に定めて実践している点である。これにより、家計と経営が分離され、就業時間や役割が決められているため、家族それぞれが自分の仕事に対して責任感が生まれ、農業経営の安定に寄与している。また、収穫期間に雇用する従業員に対しては労災保険や雇用保険に加入し、労働環境の整備を日頃から心掛けている。
表1 小川家の仕事の役割分担 |
区分 |
期間 |
役割 |
本人 |
12〜4月 |
さとうきびの運搬 |
妻 |
12〜4月 |
ハーベスタ補助員 |
長男 |
12〜4月 |
ハーベスタオペレーター |
次男 |
12〜4月 |
ハーベスタオペレーター |
母 |
12〜4月 |
軽作業 |
従業員 (7名) |
12〜4月 |
さとうきび梢頭部除去、ハーベスタ補助員 |
5月 |
管理作業、ほ場の環境整備 |
注)上記期間以外は、家族皆で農業経営に従事している。
労働時間は朝7時から夕方5時まで。
|
パソコンを活用し農業経営
さらに、小川家は※ネットワークファーマーズ定着化事業により導入したパソコンを積極的に活用し、経営面においては、毎年、部門毎に収支決算を行い、どの部門が収益を上げて、損失を出しているのか経営全体を把握・分析し、来期の事業計画に反映させるなど経営の近代化に努めている。また、営農面においても積極的にパソコンを活用しており、ほ場毎の面積、植付日、肥培管理作業日等データを入力・管理し、日々の営農活動に役立てている。小川氏のこれらの取り組みは農業を事業として位置づけて実践している証といえる。
※ 注) 西之表市の単独事業で、パソコンを新規就農者に対して助成し、農業簿記会計やインターネットを利用した農業関連情報の収集等に活用し、農業経営能力の向上を図ることを目的に創設され、平成9年度より実施している。 |
今後の経営目標
ここ数年のうちには、10haまでは経営規模を拡大したいとしている。さらに、経営を法人化し、二人の息子さんも結婚し、3家族で仲良く25ha程度自作をして収穫をするのが小川氏の夢である。それまでに息子さんと共に栽培基本技術を忠実に励行し、規模拡大を図りながら、単収を下げない技術を身につけたいとしている。最後に、積極的に農業経営にパソコンを活用したり、家族内での役割分担を明確にする理由を伺ったところ、西之表市認定農業者連絡協議会(長田実美会長、会員125名)の副会長として、率先して新しいことに取り組み、地域農業の発展に寄与したいと述べられた。
種子島の糖業関係者によると、これから大規模化を目指す農家の農業経営は、農業を事業として位置づけて、栽培計画、資産運用、労務管理等すべて自ら実践していく必要があるという。そういう意味ではこれからの地域の担い手農家は、しっかりした能力と行動力が要求されるので、小川氏のような先進的な取り組みは、地域の若い農家にいい意味での刺激になっているはずであり、今後とも種子島のさとうきび農業をリードしていってもらいたいとのことであった。
小川さんのほ場 |
小川さんのほ場前にて |
表2 小川家の経営規模の推移 |
(1) さとうきび
|
10年産 |
11年産 |
12年産 |
13年産 |
14年産 見込み |
収穫面積合計 (a) |
520 |
525 |
719 |
632 |
662 |
内訳 |
夏植え (a) |
0 |
20 |
30 |
0 |
0 |
春植え (a) |
122 |
95 |
(秋) 35 105 |
(秋) 25 250 |
(秋) 50 125 |
株出し (a) |
398 |
410 |
549 |
357 |
487 |
生産量合計 (トン) |
416 |
320 |
423 |
455 |
|
10a平均収量 (トン) |
8.004 |
6.101 |
5.879 |
7.199 |
|
平均甘しゃ糖度 (度) |
12.71 |
13.97 |
12.88 |
13.06 |
|
|
(2) その他農作物
作物品目 |
10年産 |
11年産 |
12年産 |
13年産 |
14年産 見込み |
かんしょ でんぷん原料用 |
作付面積 (a) |
100 |
95 |
31 |
89 |
95 |
生産量 (トン) |
34 |
30.4 |
11.1 |
24.9 |
28.5 |
かんしょ アルコール用 |
作付面積 (a) |
|
|
70 |
39 |
27 |
生産量 (トン) |
|
|
14 |
8 |
6 |
|
那覇事務所
「第29回サトウキビ試験成績発表会」
10月15日(火)に那覇市内において、沖縄蔗作研究協会が主催する 「第29回サトウキビ試験成績発表会」 が開催された。内閣府沖縄総合事務局、県、県農業試験場、市町村役場、製糖企業、農協、農家、大学等という行政から生産現場、学術機関までさとうきび関係者約160人が一堂に会した。
まず、主催者等の挨拶に続き、前半は一般発表としてさとうきび関係団体等による16件の研究成果が発表された。病害虫の生態や、サトウキビ奨励品種候補の概要、新型機械の性能、新栽培法の実証等、広い分野にわたり発表が行われ、それぞれ質疑応答がなされた。
後半は 「サトウキビ増産に向けて!〜サトウキビ生産量100万トン回復への取り組み〜」 と題したシンポジウムが行われ、次のような話題提供があり、活発な討議が展開された。
シンポジウム
1.増産に向けて生産者側の課題と取り組み
(1) 中部地区管内における、さとうきび増産対策の取り組み
中部キビ対策協議会事務局長 金城 静光
<要旨>
年々減少し続ける管内のさとうきび原料を、いかに歯止めをかけ増産の方向に導くことができるのか、国、県、市町村及び関係機関と日々情報を交えるなか、一年間、黒穂病対策のための緊急増殖種苗の設置、中国産の土壌改良剤を用いた単収向上試験の実施、密植栽培による種苗増殖試験等の事業に取り組み、成果をあげた。
今後は生産農家に対し、関係市町村、JA、製糖企業、中部地区農業改良普及センターと協力してその普及に努めていきたい。
(2) 増産に向けて生産者側の課題と取り組み
よみたんドリームファーマー 代表 具志堅 工
<要旨>
よみたんドリームファーマーの設立は平成12年6月23日でその年の経営面積は3ha、収穫量は145トン、役場や農協からの作業受託面積は110haとなっている。平成14年度の経営面積は10ha、収穫量は300トン、作業受託面積は170haを見込んでいる。
現在の取り組みは、受託作業、自家経営ほ場の農作業との効率的な管理運営、効率的な農作業体系に必要な機械化、経営管理、単収の向上や病害虫の適期防除及び高糖度品種の生産等の生産技術向上を推進している。
また土づくりと地力の維持増進対策として、緑肥作物の栽培及びすき込み、ススキや枯葉等の有機質資材の利用、捕植による栽培管理の徹底、深耕による茎長の伸長促進等、増産に取り組んでいる。
当面の目標は経営改善計画を達成することであり、経営理念であるところの品質向上、増産、目標単収に確実に近づける事であると考えている。そのためにも省力化と労働配分を考慮し一層低コスト化を図るとともに集積を強力に推進し、数年後には目標を実現したい。
(3) 分蜜糖地域におけるさとうきび生産振興について
日本分蜜糖工業会農務委員長 平田 清信
<要旨>
収穫面積は多少の増減があるものの全県的に下げ止まりの状況にあり、特に離島地域では安定した感があり、生産法人の設立や助成事業等の効果で一部地域では遊休地解消が大幅になされ、やや明るい兆しもあり全般的に現状維持が続きそうである。
単収、生産量が不安定な最大の要因は台風、干ばつ等の気象条件によるものであるが、特に収穫面積の67%を占める離島地域の作柄や、自然災害による影響が県全体の生産実績に大きく影響しており、生産者の努力以外の要素が非常に大きいのが実態である。
平成12/13年度では平均収穫面積は64a、生産量が38トン、生産額が74万円と南北大東島を除けばきわめて零細で、特に本島地区ではその傾向が強く、蔗作従事者の高齢化、兼業化が進み専業農家の減少が見られる。
今後のさとうきび増産に向け、台風や干ばつ等の自然災害対策、低単収農家への営農指導、欠株及び除草対策等の株出し栽培の改善、各地域におけるさとうきびの役割や重要性の確認と役割分担等の具体策が必要である。
2.増産に向け生産者を支援する具体的取り組み
(1) 平成14/15年期さとうきび生産振興計画と主な増産対策
沖縄県 農林水産部 糖業農産課課長 宮平 良廣
<要旨>
さとうきび作については、ここ数年来、天候不良の影響を強く被り、生産量は低迷している。このため、前年期(平成13/14)生産量実績859,137tに対し、今年期は単年度目標を92万トンに設定し、その達成に向けて、耕種部門及び畜産部門の連携強化のもとでの施設及び機械等の整備、病害虫におかされていない優良健全な種苗の増殖及び各農家への安定供給、簡易かん水施設導入等の各種振興策を積極的に推進する。
(2) 南部農業改良普及センターにおけるさとうきび増産に向けた取り組み
南部農業改良普及センター
作物・畜産普及課長 上原 藤盛
<要旨>
本土復帰後、南部地区のさとうきび生産動向をみると、平成13年度の県全体に占める収穫面積は県全体の34%にあたる4,452haである。収穫面積は減少の一途にあるものの、この割合は復帰後ほとんど変化がなく、本県さとうきびの生産の中核をなしている。
しかし、収穫面積の推移をみると、昭和47年度の7,767haから比較して3,315ha減少している。平成2年度の6,723haから比較すると2,271ha減少し、平成年代に入ってから急激に減少しているが、平成7年度の5,043ha、平成12年度の4,502haと近年、この傾向は小康状態にある。
単位収量の推移を見ると、年によって台風、干ばつ等の影響を受け増減があるが右肩下がりの傾向を示している。
また、農家戸数を見ると、収穫面積と同様の減少の傾向にある。
このような状況を受けて、土作りの推進や栽培管理技術の向上等によるさとうきび生産農家の経営安定、農業機械化の推進を基本課題として取り組んでいる。
また、さとうきび農家の大部分が60歳以上の高齢農家で占められ、近い将来彼らが引退を余儀なくされ、その後継者は不足している。このため、農地の利用集積を図りつつ、徹底した低コスト高能率生産システムを確立検証し、地域に即した担い手組織や借地型大規模経営体等の農業生産法人を育成し、併せて地域への波及効果を図る。
(3) 新さとうきび・糖業再活性化事業の概要
沖縄県糖業振興協会 事務局長 諸見里 安勝
<要旨>
さとうきびの安定生産の確保及び生産性の向上並びに甘しゃ糖企業のコスト削減に向けて、地域における生産者、製糖企業、県、市町村等の関係者が一体となった取り組みを推進し、さとうきびの生産拡大と製糖企業経営の健全な発展に資する。
助成対象事業として、さとうきびの生産拡大、農作業受託組織の育成・強化、機械化の推進、優良品種の育成、土作りの推進、病害虫防除の徹底、干ばつ対策の推進、栽培基準や新技術普及等の啓発及び広報活動の強化、生産法人の育成・強化等、多岐に渡っている。
今年度もこの事業をフルに活用する中で、さとうきびの生産振興のため各地域の生産振興協議会を支援していきたい。
(4) さとうきび生産部会の組織化
JAおきなわ 加工部部長 金城 榮
<要旨>
さとうきび生産部会を市町村単位で組織して、部会活動を行う。事例として多収量生産者の事例調査や現地検討会を実施。
また、生産法人の支援対策として、関係者との連携により、土地集積の支援、沖縄県農業試験場との連携による生産法人経営安定化モデルの策定、かぼちゃや島にんじんなどの園芸品目との輪作及び間作への取り組み等、増産に向けた具体的取り組みを図る。
15万トンをめざすシンポジウム
「これからのさとうきび作を考える」
河脇秀二郎氏 |
10月28日(月)にJAおきなわ南風原(はえばる)町ホールにおいて、「15万トンをめざすシンポジウム〜これからのさとうきび作を考える〜」 が翔南製糖 (株) の主催で開催された。
まず、鹿児島県南種子町(種子島)の河脇秀二郎氏による 「儲かるさとうきび作りの実践」 と題した講演があった。
<講演要旨>
さとうきびは南西諸島の生命線である。さとうきび以外に儲かる仕事は他にない。自信を持って言える。やり方によっては儲かるものである。私の畑は総面積で30ha。収穫面積で16ha、そのほかに行政から預かった種苗用農地が3.3ha。私が作るさとうきびのトラッシュは2%台。製糖工場が生き残るにはトラッシュの低減はなくてはならない。南種子町は収穫時、70%が機械刈りで、残り30%が手刈りである。その機械化が進む中でトラッシュの削減は重要課題であると常に認識を持っている。製糖工場と農家は両輪のごとく共存共栄であり、われわれは団結して自分たちの産業を守っていかなければならない。
儲かるさとうきびづくりには、苗の重要性を認識、欠株に対する捕植等、常に努力を惜しまない。また、雑草が生える前に除草処理すること。雑草に肥料を取られたらもったいないし、経費削減のためにも草は絶対に生えさせない。
これがプロであり、絶対に儲かるきびづくりである。経営者として、収支決算や農地の規模拡大も重要である。自分たちの仲間を大事にし、目標を掲げ将来を見据えて糖業の火を消さず常に燃やしつづける。鹿児島県産、沖縄県産、北海道産の甘味資源作物の大切さを国民にわかってもらえるよう、お互いに知恵を出し合ってこの糖業を守っていこうと、締めくくった。
次に九州沖縄農業研究センターさとうきび育種研究室長杉本明氏のよる 「夢のあるサトウキビ作り」 と題した講演が行われた。
杉本明氏 |
<講演要旨>
都会におけるさとうきびづくりとは何か。産業のネットワークの中心になるさとうきびづくりとは何か。ひとつは 「隣の人の役に立つさとうきびづくり」 であり、製糖工場が町づくりの中心になり、さとうきびがさとうきび以外の産業に資材を提供していることや、さとうきび畑が風景として観光に役立つなど、多面的機能を発揮する。もうひとつは、「隣の人の邪魔をしないさとうきびづくり」 であり、環境に配慮しながらのさとうきびづくりをすること。
さらに、「楽しいきびづくりが都会のきびづくり」 として農作業のつらさの排除としての機械化を挙げた。さとうきびに有利な条件を作るため、生育の初期によく世話すると結果として省ける仕事が増えてくるとし、体を辛くさせないようにするには、作業を集中させず、できるだけ一年中に分散させ、無理なくさとうきびを作ることが大切であり、省力のコツはよい生育環境づくりと適期作業である。
また、さとうきびが甘くなるには4つの条件がある。世界的に共通した条件として、「寒くなると甘くなる」、「土が乾くと甘くなる」、「畑の中の窒素がなくなると甘くなる」、「年をとったら甘くなる」 の条件があり、いつ、どのように収穫したらいいかと決めることができれば、こんなに都会的なさとうきびづくりはないだろう。
また、台風や干ばつへの対策、株出しの安定性、土地、施設、機械、労働力が高度利用できる秋植秋収穫や連年株出多収栽培などの可能性についても触れた。
続いて鹿児島県種子島の河脇秀二郎氏と九州沖縄農業研究センターの杉本明氏、佐敷町の農業生産法人 (有) サンファーム代表新垣恒明氏、中城村の (有) 結農産代表比嘉徳仁氏、平成10/11年沖縄県競作会総合第1位の久保田光男氏(玉城村)、翔南製糖 (株) 取締役会長宮城貞夫氏によるパネルディスカッションに入り、以下の発言、発表があった。
新垣恒明氏 「無脱葉原料搬入の利点について」
無脱葉用搬入の利点は、農家における収穫作業の労力が大幅に軽減、時間短縮ができ、製糖工場にとっても原料を新鮮なうちに搬入することが可能となる方法である。
比嘉徳仁氏 「さとうきび畝間(間作)栽培について」
間作はキャベツと大根を栽培。昨年はキャベツを10月12日、1,700坪に6,000本植付け、大根を10月20日、600坪に1,000本植付けた。栽培日数は75日から80日で、農薬散布は5回、肥料は5袋使用した。収量はキャベツが658ケース、大根が139ケースとなった。平成14年1月15日までに出荷が終了した。
今年は大根を1,100本、キャベツを6,000本植付けた。経営安定のためにも実りある間作を薦めたい。
久保田光男氏 「さとうきび単収の引き上げについて」
病害虫に強い植付け方法として、苗の植付け時に池をつくり二節苗を半日から1日水につけておく。そうすると目に見えないメイチュウ類などの害虫が窒息して駆除でき、その苗を植付けた。その後、植えたさとうきびの発芽状況を見た結果、メイチュウ類の発生が一本も出なかった。
その後、参加者からは活発な質疑応答がなされ、盛況のうちにシンポジウムは終了した。