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てん菜の有効利用−日本甜菜製糖(株)の取組−

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

今月の視点
[2008年3月]

【今月の視点】

日本甜菜製糖株式会社 総合研究所 菊地 裕人


1.はじめに

 わが国におけるてん菜糖業の歴史は明治13年(1880年)の北海道紋鼈(現・伊達市)から始まる。農業近代化、そして北海道の開拓推進という明治政府の方針に基づいて、官営のてん菜糖製造工場が建設されたのである。1日当たりの原料処理能力が120トンというきわめて小さな工場であったにもかかわらず、それでも原料であるてん菜の確保が思うようにいかず、さらには製糖技術も未熟であったため、明治28年には操業を中止することとなってしまう。てん菜糖業が再興されたのはそれから24年後のことであり、第一次世界大戦の影響による世界的砂糖不足がきっかけであった。大正8年(1919年)に北海道製糖(株)が、大正9年には(旧)日本甜菜製糖(株)が設立され、それぞれ大正村(現・帯広市)、人舞村(現・清水町)においててん菜糖の生産を開始した。その後これら2社は統合されて北海道興農工業(株)となり、第二次世界大戦後の昭和22年(1947年)には、日本甜菜製糖(株)と改称されて発足することとなる。
  前身である北海道製糖(株)の創立以来90年をまもなく迎える当社(日本甜菜製糖(株))は、これまで日本に適したてん菜栽培技術やてん菜糖製造技術の開発・改良に努めるとともに、てん菜の新たな有効利用についても研究開発を進めてきた。本稿では、てん菜有効利用の概要について紹介したい。

2.てん菜からの砂糖製造

 最初にてん菜から砂糖を製造する方法について、概略を説明させていただきたい。てん菜の播種は3月中旬から下旬にかけて行われ、紙筒(ペーパーポット)を用いて1ヶ月程度育苗する。苗は4月下旬から5月上旬に畑へ移植され、10月中旬から11月上旬にかけて根部のみを収穫する。てん菜は2年生植物であるため、1年目は根部に糖分(約17%含まれる)を貯え、2年目にはその糖分を分解して種子をつくる。したがって、製糖用としては1年目に収穫することになる。収穫されたてん菜は即製糖されることが理想であるが、製糖工場の処理能力に限界があるため、貯蔵して翌年春まで製糖している。
  製糖工場に運び込まれたてん菜は、洗浄・裁断されてコセット(短冊状切片)となる。コセットは浸出塔に入れられ温水で砂糖が抽出される。抽出液にはタンパク質や還元糖などの不要な成分も含まれているので、それらを分解・除去するために石灰・炭酸処理を行う。処理液にはスケール(カルシウムなどの堆積物)発生の原因となるカルシウムが多く含まれており、イオン交換樹脂によりそれらを除去する(この処理を「軟化」と言う)。この軟化液のその後の処理方法は製糖工場により異なっており、当社美幌製糖所では軟化液を濃縮して砂糖を煎糖結晶化するとともに、分蜜(結晶と糖蜜を分離すること)時に生成する糖蜜からクロマトグラフィー(物質を分離・精製する装置)を用いて砂糖を回収する。一方、芽室製糖所および士別製糖所では軟化液をイオン交換樹脂工程によって脱塩して、その後濃縮して砂糖を煎糖結晶化する。このイオ ン交換樹脂によるてん菜糖液脱塩技術は当社が開発したものであり、塩類やアミノ酸などの不純物を効率的に除去して高品質な砂糖を製造できるというメリットがある。また、本技術を採用した製糖工場ではラフィノースやイノシトールといった有用物質の製造原料として適した糖蜜が産生するという特徴がある。

写真 芽室製糖所−冬の製糖風景−
写真 グラニュ糖、上白糖、ポケットシュガー

3.ラフィノース

 ラフィノースは砂糖(グルコースとフルクトースが結合したもの)にガラクトースが結合したオリゴ糖(三糖類)で、豆類などさまざまな植物に含まれていることが知られている。てん菜根部にもラフィノースが含まれており、秋の収穫時期その含量は0.1%以下であるが、冬期の貯蔵中に増加して最大0.3%程度になる。ラフィノースは砂糖の結晶成長速度を低下させてその結晶形を針状化させるとともに、糖蜜の粘度を増大させて分蜜性を悪化させる。そのため、特にステッフェン法と呼ばれる砂糖回収システムを有する製糖所においては、効率的製糖を妨げる有害成分として扱われていた。ラフィノースを砂糖とガラクトースに分解する酵素を製造工程に組み入れて工程改善を図っていた時期もあるが、その後ラフィノースの有用性が明らかとなり、現在当社では糖蜜からラフィノースを分離精製して商品化している。
  てん菜根部中のラフィノースは浸出塔で砂糖とともに抽出され、その後の清浄工程などではほとんど除去されない。そして煎糖結晶化工程で約半量のラフィノースが製品砂糖に取り込まれ、残りは糖蜜に移行する。芽室製糖所および士別製糖所では、塩類やアミノ酸などが除去された特異な組成の糖蜜が産生され、ラフィノース純度は約10%(固形分当たり)に達する。このような糖蜜は、クロマトグラフィーによりラフィノースを分離回収する好適な材料となる。芽室製糖所および士別製糖所には、オルガノ社製の3成分分離疑似移動床クロマトグラフィーが導入され、ラフィノースを回収・結晶化している。また、クロマトグラフィーによって、ラフィノースを含有する液糖を得ることもできる。
  ラフィノースは整腸効果(ビフィズス菌の増殖、便通改善など)を示すことから、特定保健用食品素材として認定されている。また、最近の研究からアトピー性皮膚炎の改善に効果があることも明らかになりつつある。ラフィノースは吸湿性がないため、吸湿を嫌う打錠製品に好適であり、サプリメントへの採用も多い。また、育児用粉ミルクの摂取により乳児の便が緑便化するのを、ラフィノース配合により大幅に改善できるため、大手乳業メーカーの製品に採用されている。食品用途以外では、牛精液の凍結保存剤の成分として、国内で長い利用実績がある。また医療用としても、臓器移植に使われるドナー臓器の冷却保存液に、臓器保存性を向上させる有効成分の一つとして使用されている。現時点でラフィノースを生産しているのは当社のみであり、広く世界中に供給されている。

写真 ラフィノース、ベタイン、スイートオリゴ

4.ベタイン

 ベタインはエビ、カニ、タコ、イカ、貝類などの水産物に多く含まれ、てん菜根部にも0.2〜0.3%含まれているアミノ酸の一種である。当社では芽室製糖所および士別製糖所の糖蜜から、クロマトグラフィーを用いてベタインを分離し結晶化している。
  ベタインはカニ風かまぼこなど水産加工食品の呈味増強剤として広く使用されている。また、塩のからみを和らげる効果が認められており、例えば塩辛の呈味性改善に利用されている。ベタインには有機酸の酸味をマイルドにする効果もあり、pH調整剤として広く利用されている酢酸製剤の酢酸臭改善にも利用されている。ベタインはまた高い保湿性を有しているため、化粧品分野の保湿剤としても用いられている。従来、化粧品分野の保湿剤としてはグリセロール、ソルビトール、ヒアルロン酸ナトリウムなどが用いられてきたが、ベタインはこれらの物質を上回る保湿能力を持っている。
  世界的に見ると、ベタインの最大使用分野は飼料業界である。必須栄養素であるコリンの欠乏は家畜において重要な問題であり、コリン欠乏に伴う脂肪肝や成長阻害を防止する目的でベタインが飼料に添加されている。

5.イノシトール

 イノシトールは動物の発育や成長に必要なビタミンB群の1つとして知られており、医薬系ドリンク(栄養ドリンク)や育児粉乳、養殖魚の飼料などに使用されている。市場に流通するイノシトールの大部分は、米糠やコーンに含まれるフィチンを分解して製造されている。一方、てん菜中のイノシトールは遊離形で存在しており、浸出塔で砂糖とともに抽出され糖蜜に移行する。
  当社では、芽室製糖所の糖蜜から、クロマトグラフィーを用いてベタインを分離する際に得られるイノシトール含有画分を、精製・結晶化して高純度イノシトール結晶を製造している。平成14年(2002年)より本格的に販売を開始し、アレルゲン含有や遺伝子組み換え作物混入の懸念がないイノシトールとしてユーザーに受け入れられている。

6.アミノ酸

 昆布のうまみ成分がグルタミン酸ソーダであることを発見したのは、東京大学教授であった池田菊苗博士であり、定年後もグルタミン酸ソーダの製造技術の完成に熱意を注ぎ、特にてん菜糖の廃液を原料とした製造法の研究に従事したと言われている。当社では、ステッフェン工程の廃液を原料として、昭和27年(1952年)よりグルタミン酸ソーダの製造を開始し、商品名「日甜の味」として販売された。しかしながら、その後発酵法による安価な製品が出回るようになって、昭和39年に生産を中止している。
  てん菜に含まれるグルタミン酸を起源とするピロリドンカルボン酸(PCA)は、イオン交換樹脂工程のアニオン交換樹脂に吸着され、最終的にアニオン交換樹脂の排液に移行する。このアニオン排液に水酸化ナトリウムを添加してPCAをグルタミン酸に加水分解し、さまざまな処理を加えることによって調味液を作ることができる。この調味液は缶詰などの調味料として広く使用されている。
  てん菜にはグルタミン酸以外のアミノ酸も多く含まれており、それらアミノ酸はイオン交換樹脂工程のカチオン交換樹脂に吸着され、カチオン交換樹脂の排液に移行する。排液中にはバリン、ロイシン、イソロイシンなどの有用アミノ酸が含まれており、これら排液中のアミノ酸をいかにして回収し、有効利用するかが今後の課題である。

7.糖蜜と酵母

 てん菜糖の副産物である糖蜜の有効利用を主な目的として、当社では昭和13年(1938年)よりパン用酵母(イースト)の生産を開始している。現在も国内唯一のてん菜糖蜜を主原料としたパン用酵母として製造・販売している。また、近年は清酒用酵母もてん菜糖蜜を主原料として製造している。

写真 各種イースト製品

8.ビートパルプと飼料

 てん菜根部の砂糖抽出後の残渣であるビートパルプは重要な副産物であり、圧搾・乾燥されて主に乳牛用の飼料として利用されている。当社では昭和37年(1962年)よりビートパルプ、てん菜糖蜜に尿素などの栄養素を添加した乳牛用配合飼料も生産している。最近ではビートパルプあるいはてん菜糖蜜にカルシウム吸収を促進する素材であるDFAVを添加した飼料を開発・発売するなど、新たな市場の開拓も積極的に進めている。

9.ビートファイバー

 ビートファイバーは、ビートパルプを衛生的に洗浄・脱水・乾燥・粉砕して得られる、水不溶性の食物繊維素材であり、当社が昭和55年(1980年)より製造を開始したものである。ビートファイバーの繊維質は、ペクチン19%、ヘミセルロース36%、セルロース23%、リグニン3%程度より構成され、大腸内での発酵性に富み、整腸作用のある食物繊維として特定保健用食品の素材に認定されている。ビートファイバーには多くの有用な生理機能があり、血糖値上昇を穏やかにしてインシュリン分泌の節約を促す血糖値調整作用、コレステロールや中性脂肪などの血中脂質を改善する作用などが確認されている。ビートファイバーは有用な生理機能だけではなく、食品の物性を改善する機能も持っており、各種食品の物性改良剤(油揚げ食品の油分低下、パンの老化防止、畜肉加工食品のドリップ防止など)として使用することができる。近年、ビートファイバーを物性改善目的に使用するケースが増えてきており、今後の需要拡大が期待されている。

写真 ビートファイバー粉末

10.セラミド

  セラミドは皮膚の角質細胞間脂質の主成分で、塗布、摂取による皮膚のバリアー機能改善、保湿、美白効果等が認められている。従来のセラミド供給源は牛脳や合成品であったが、牛海綿状脳症(BSE)問題や天然由来原料指向の高まりにより、植物起源セラミドへとシフトしている。米、小麦、コンニャク芋などを原料としたセラミドが、現在数社より販売されているが、最近になってビートパルプ(ビートファイバー)中にもセラミドが含まれていることが確認され、その含量が他の農産物・農産加工副産物に比べて比較的多いことも明らかとなった。当社ではセラミドを商品化するべく研究・市場調査を進めており、てん菜由来の新規素材として今後が期待されている。

11.おわりに

 これまで述べてきたように、我々はてん菜に含まれる有用物質の抽出・精製、てん菜糖蜜を使った酵母の製造、あるいはビートパルプを原料とした飼料や食物繊維素材の開発・製造など、てん菜の有効利用を積極的に進めてきた。しかし、てん菜には未だ有効利用されていない有用物質が多く含まれており、砂糖の原料としてだけではなく食品素材等の原料としてもてん菜は大きな可能性を秘めた作物であると言える。WTO・EPA等の世界的な国際規律強化への動きの中で、北海道農業は厳しい状況を迎えつつあるが、てん菜は豆、馬鈴薯、とうもろこし、小麦などとともに北海道農業の輪作体系を成す重要な作物である。我々は、てん菜の可能性を100%引き出すべく今後も研究を進め、てん菜の有効利用を通して北海道農業に貢献したいと考えている。


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