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てん菜直播栽培の普及状況について(2)〜本別町の事例〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類情報ホームページ

[2008年9月]

【調査・報告】

札幌事務所 所長 武居 正和
所長代理 戸田 義久

 前回(6月号)の報告では、てん菜の直播栽培について、北海道内各地域別の普及状況を紹介した。本稿では、十勝支庁管内本別町における農家の事例を紹介する。

1 本別町の概要

 本別町は十勝支庁管内の東北部に位置し、利別川とその支流である美里別川、美蘭別川に挟まれた沖積〜高台の洪積、火山灰土壌が広がる平野部と中山間の間に位置し、人口は1万人弱(平成20年4月末)、農家戸数384戸の農業を中心とした地帯である。
  耕地面積は12,500ヘクタール、主な家畜飼養頭数は表2のとおりである。生産額割合は農産と畜産とそれぞれおよそ50%と農産・畜産の混在および複合経営が営まれている(表3)。


表1 平成19年の作付面積
資料:JA 本別町

表2 主要な家畜飼養頭数
(頭)
注:平成19年12月末時点
JA 本別町調べ

表3 平成19年農産物取扱高(JA 本別町)
資料:JA 本別町


2 本別町のてん菜の作付け

(1) 本別町のてん菜作付農家戸数と1戸当たり作付面積の推移
  本別町における平成10年から平成19年までのてん菜の栽培農家数は、平成10年の333戸から平成19年は27%減の244戸となった。一方、1戸当たりの作付面積は、平成10年の5.06ヘクタールから平成19年の6.39ヘクタールとなり、1.33ヘクタール(26%)の増加となっている。

(2) 本別町のてん菜直播栽培の推移
  本別町におけるてん菜の作付面積は、平成10年の1,684ヘクタールから平成14年は1,470ヘクタールと減少したものの、平成15年以降は1,550ヘクタール前後を推移している。
  てん菜の作付面積は、11年は根腐病、12年は褐斑病の発生があり、13年、14年の作付面積が減少した。しかし、てん菜の作付面積を確保するため、作業集団の導入、直播栽培の推進により、その後てん菜の作付面積が1,550ヘクタール前後まで回復した。
  直播栽培面積は、平成10年には177.72ヘクタールであったが作付面積の減少に伴い平成14年には131ヘクタールまで減少した。その後徐々に増加に転じ、平成19年は307ヘクタールとなり、平成14年の約2.3倍となった。また、直播比率も14年の8.9%から19年は19.7%と10.8ポイントの伸びを示している。


出典:てん菜糖業年鑑、北海道農産振興課
図1 本別町の農家戸数の1戸当たり面積の推移

出典:てん菜糖業年鑑、北海道農産振興課
図2 本別町の直播栽培の推移



3 てん菜作付直播栽培の事例

 次に本別町においててん菜作付に直播栽培を採用している農家の経営状況などを紹介する。


国土地理院地形図帯広6号―3より作成(縮尺1:25000)
本別町直播栽培事例農家の周辺地図



(1) 本別町勇足(ゆうたり)東のA氏の事例

①地勢
  勇足東地区の土壌は河岸段丘の最下段の層で、表土は砂地が主体の沖積土で、粘土層の上が砂地になっている。中粗粒褐色低地土であるので、砂地ではあるが土が重いので風に吹き飛ばされにくい。
  20年産のてん菜栽培畑の土壌は、砂地が多い粘度土壌である。8ヘクタールのうち、3.5ヘクタールが黒色火山灰土、4.5ヘクタールが砂地である。

②てん菜の栽培
  てん菜栽培の過去5ヵ年の生産実績および20年産てん菜作付の概要は表4、表5のとおりで、直播栽培を導入して2年目である。


表4 過去5ヵ年生産実績

表5 20年産てん菜の作付の概要


③耕作
  20年産の作付は、44ヘクタールを耕作し、てん菜8ヘクタール、大豆4ヘクタール、小豆1ヘクタール、ばれいしょ9ヘクタール、スイートコーン4.5ヘクタール、大正金時3.5ヘクタール、小麦14ヘクタールで、6年輪作を目指している。
  なお、労働力は、夫婦2人である。

④輪作体系
  輪作体系は、2つの体系を組んでいる。

①てん菜→スイートコーン→小麦(後作に緑肥(ヒマワリ))→小麦(後作に緑肥(ヒマワリ))→てん菜
②豆→ばれいしょ(加工用)→てん菜→豆

⑤土壌の管理と肥培
  土壌分析を行い、肥料養分の少ない所または、肥効の悪い所を探し、作物に応じて窒素肥料の投入を調整している。また、輪作体系を考慮し、ばれいしょ、豆の作付時には、肥料を投入しないで、肥料代の節約に努めている。
  通常、要素量(10アール当たりのキログラム数)で20の窒素量を投入するが、土壌診断を行い、作物別に窒素量を決めている。豆は根粒菌を育成し、土壌中の窒素量を15以上とする。ばれいしょは6〜7、てん菜は24〜5を畑に投入する。なお、てん菜の茎葉のすき込みによる緑肥のNスコア(有機物などの窒素供給量)は、25のN量として換算している。
  てん菜の直播栽培における肥料の過剰投入は、てん菜の発芽時に肥料やけを起こすことがある。てん菜の直播栽培を行う前に20の炭酸カルシウムを入れ、酸性土壌の矯正を行っている。は種を行う際には、表土を起耕しない。畑の表面に前作の残さ(茎葉、麦稈(ばっかん)、豆殻)を置いておき、すき込むだけにする。この方法は、減肥対策にもよい。ばれいしょの後の場合は、サブソイラ(耕盤層(トラクタ走行やプラウ(耕起用具)耕下にできる硬い層)を破砕して水はけをよくする機械)だけを掛け、耕起は行わない。
  ばれいしょを収穫した後にほ場に残留したいも(野良いも)はそのままほ場においておく。野良いも対策として、ばれいしょの収穫の後は、畑を起こさないで、野良いもを冬の寒気で凍結させ、ばれいしょの芽が出ないようにしている。前作の後にたい肥を撒いても融雪時までそのままにしておく。ばれいしょは畑に残留しているカリをよく吸収してくれる。
  畑の表土は、4メートルあるので、耕盤層が形成されないように耕起は行わない。耕盤層が形成されにくくなるので水はけがよくなり、根腐病の発生の予防にもなる。6年に1回畑を起こす計画である。

 (注)トラクターなど大型機械の踏圧による耕盤層が形成されると、作物の根の伸長は抑制され、養分吸収効率の低下や水はけの悪化による水分過剰になりやすくなるので、深耕アッパーロータリの施工により耕盤層を破砕する。そうすると根域層は拡大し、土塊は細かくなる。

 たい肥は、畜産農家と麦稈との交換を行っているが、購入も行っている。たい肥の施肥は、てん菜を作付する予定ほ場の前年作物の収穫後に10アール当たり3トンのたい肥を投入している。たい肥の投入量は、3年に1回で、総窒素量は10アール当たり13〜14キログラム、リン8キログラム、カリ3キログラムを目処としている。
  緑肥は、小麦の後作にひまわりを作付し、すき込んでいる。
  肥料代を節約する目的で、苦土(酸化マグネシウム)を単肥で別に投入するようにしている。国内では配合肥料が一般的であり、単肥は入手が難しいので、商系を通じてヨーロッパから購入している。
  てん菜直播のほ場のpHは、6.5を目標にしている。6.5であると、てん菜に酸性障害が起こりにくい。7.0以上になると豆の収量が悪くなり、ばれいしょにもよくない。pHが低いと、微生物活性が低下する。そうか病の発生は、微生物の繁殖が少ないときに起こる。微生物の繁殖がよくなるpHの環境が重要である。畑では、6.5が中性と見ている。リンが多いと土壌が酸性になるので、リンが少なくなるように努力している。
  最近、畑にリン成分が多く残留している。リンは、殺菌力が強いので豆の根粒菌が増加しにくくなるので、リンを減らす傾向の土壌改良と施肥を行っている。そのため、施肥は、窒素(N):リン酸(P):カリウム(K)=10:20:7の比率がよい。てん菜は肥料を多く必要とするので、土壌診断の新しい方法として、てん菜畑に模型飛行機を飛ばし、上空からてん菜畑の写真を撮り、葉の色から土壌診断のサンプリングの場所が決められるように試みている。

⑥てん菜の直播栽培
  てん菜の直播栽培導入の目的は、てん菜の育苗に係る経費の削減や労働時間の短縮を行うためである。
  は種は、種が地表から隠れていればよいので、浅めで地表から1センチメートルの所にまくようにしている。天候を見ながら、明後日(2〜3日後)に雨が降る予報が出ると、は種の時期としている。は種と同時に豆よりも細いウイングタイプの鎮圧輪で鎮圧する。土寄せが不要なので手間が省ける。この方法は、スイートコーン、豆に応用できる。てん菜ほ場の枕地にてん菜を植えると根腐病が発生することがあるので、枕地に豆を植え、病気対策を試みている。

てん菜の直播栽培の長所は、

1) 表土が深いので、毎年畑を起こさないことにより、肥料の節約とトラクタなど大型機械の踏圧による耕盤層の形成を防いでいる。結果的に根腐病の予防、肥料代、トラクタの燃料代と作業量の軽減が図れること
2) 直播栽培は、移植栽培と比較すると、育苗過程が省略でき、は種が1日半で終わり、経済的、時間的効率が良いこと
3) てん菜の直播栽培に風害、霜害などの障害があっても、は種時期の遅い豆の栽培ができること

  などが挙げられ、直播栽培でも、生育期間が長いので、収穫量や糖分を見ても移植栽培に比べ遜色なく、作業効率がよく、は種時期が適正であれば、効率的な栽培方法であると考えられる。

(2) 本別町勇足西のB氏の事例

①地勢
  勇足西地区は、3段ある利別川の河岸段丘の下から2段目である。土壌の表土は、黒色火山灰で、30〜40センチメートルのところが多く、1メートルの所もある。表土の下は粘土である。起耕は25センチメートルの深さで行っている。土壌のpHは中性(5.5〜6)である。毎年、石灰を投入し、pHを5.8に維持している。てん菜は、pHが6.5になってもよいが、豆にはよくない。


②てん菜の栽培
  てん菜栽培の過去5ヵ年の生産実績及び20年産てん菜作付の概要は表6、表7のとおりで、直播栽培を導入して6年目である。


表6 過去5ヵ年生産実績
20年産作付面積は、5.10ha である。

表7 20年産てん菜の作付の概要


③耕作
  25ヘクタールを耕作している。平成20年は、てん菜5ヘクタール、ばれいしょ5ヘクタール、麦7〜8ヘクタール、豆3ヘクタール、デントコーン(4〜5ヘクタール)を耕作している。デントコーンは、養牛農家からの委託であり、種代は同農家が負担し、反当り3万円の委託料で行っている。
  土壌にリン酸が残留するので、ばれいしょを輪作体系に入れている。豆(大正金時、小豆、大豆)は、てん菜に比べて肥料・農薬代などの経費が掛からないが、連作を行うと連作障害が発生する。そのため、豆の作付周期の理想は6〜8年であるが、豆を中心とした5〜6年の輪作体系を組んでいる。

④輪作体系
  輪作体系は、ほ場の特徴により、豆を中心に5年で循環させる計画で2つの体系を組んでいる。

①豆(大正金時)→デントコーン→てん菜→ばれいしょ(でん粉原料用)→小麦→豆
②豆(大正金時)→デントコーン→小麦→てん菜→ばれいしょ(でん粉原料用)→豆

⑤直播栽培を始めて6年
  平成14年から直播栽培を導入している。
  直播栽培は、雪で春にてん菜育苗ハウスが倒壊したので、苗を買わずに直播栽培を導入することとした。近隣の農家で直播栽培をしていたことも、直播を導入の理由である。当初は、1年目が駄目なら、移植栽培に戻すことも考えていた。
  当時、直播栽培は、発芽時のテンサイトビハムシ(ジノミ)対策が必要であった。今は、ジノミ対策として薬剤入りのペレット種子を使っている。は種は、ペレットで単胚なので、まきやすく、防除の必要もなくなった。てん菜のペレット種子は、豆よりも粒が小さいので、豆と同じは種機が使用できるので、てん菜用は種機の新たな導入は必要としなかった。

⑥てん菜の直播栽培
  毎年、4月20〜25日には種を行い、収穫は10月中旬から11月上旬に行う。風害も発生するが、2年に1回は、5月5日〜10日ごろに霜が降りる。
  20年産は、4月23日には種し、5月3〜4日に発芽した。5月10日に霜害が発生したが、発芽直後でなかったため、被害は少なかった。畦間66センチメートル×株間18.8センチメートル(株立本数7,253本/10アール)では種を行い、品種はフルーデンRを使用した。は種は、通常地表から1.5センチメートル下にまくが、干ばつ時は2センチメートル下を目安としている。
  直播栽培は、新葉が出揃い、除草剤を撒くタイミングを計ることが重要である。除草剤も使用するが、中耕を1〜2回行い、除草効果を高め、病気の防除を行う。
  てん菜を作付する畑には、前年の収穫後にたい肥を入れ、融雪後に整地を行っている。

⑦施肥の経費軽減
  たい肥は、近くの肉牛農家と連携し麦稈との交換を行い、さらにバーク(木くず)たい肥を購入している。畑へのたい肥の投入は、1回に5トン/10アールを3年か2年に1回入れることを目処に、5年に2回は入れている。
  肥料は、経費節減のため、配合肥料をBB肥料(単肥を混ぜたもの)に切り替え、窒素:リン酸:カリウムの成分が10:20:8の肥料を使用している。畑は、カリウムが過剰であるので調整している。

4 まとめ

 本別町の気象は、降雪量が少なく、融雪時期が北海道の中でも早いので、春先の土壌の乾きが早く、春作業が早くからできる。また、降雪時期が遅いので、てん菜の生育期間を長くすることができる。地形が河岸段丘で土壌は砂地質が多く、クラスト(土壌表面に形成される固結)の発生が少ない。水田を行っていたところもあり、肥料の流亡が少なく、土壌が肥沃である。霜害、風害があるが、2年に1度の程度で、霜害の時期(経験で5月5日〜10日の間)とてん菜直播栽培の発芽時期を考慮すれば、霜害の心配は少ない。本別町の河岸段丘の上部地域は、畜産が多く経営されており、河岸段丘の下部地域の畑作と一体となっているので、耕畜連携が推進され、畑作農家にとってたい肥の入手がしやすい環境となっている。畑作経営を維持するために輪作体系(いも、まめ、てん菜、小麦)が必要であり、この地域ではてん菜の栽培省力化のための直播栽培の広がりが進んでいる。また、土壌診断を行い作物に適した単肥の投入により、施肥量を軽減している。輪作体系の作物は、個々の作物の能力を取り入れ、ばれいしょ作付けにより過剰リン酸の吸収に、てん菜は茎葉のすき込みにより有機質の投入(麦の後作に緑肥作物を植えすき込んでいる)と窒素肥料の節約に、豆類は根粒菌を多く育成することによる窒素肥料分の節約に役立っていることが分かり、4輪作体系が連作障害を避けることのほか、肥料の節約、土壌の維持管理に必要なことが分かった。
  てん菜の直播栽培導入の背景の一つとして、雪による育苗ハウスの倒壊が発端であったが、てん菜の育苗に係る経費の削減や土壌診断による肥料の節約、労働時間の短縮につながっている。てん菜の直播栽培のメリットとして、コーティング種子で発芽率向上し、殺虫剤の粉衣により省力化が図れている。また、豆と同じは種機が使用できるため、新たにてん菜用のは種機を購入する必要がなく、導入経費の負担にはならなかったことが挙げられる。

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