ホーム > 砂糖 > 生産現場の優良事例など てん菜生産関係 > てん菜新品種「リッカ」「レミエル」の特性について
最終更新日:2010年3月6日
日本の砂糖自給率は約4割で、その約8割が北海道のてん菜から作られている。てん菜は北海道畑作の輪作作物として安定生産に欠かせない品目であるとともに、地元で精製糖まで加工されることから、地域経済に与える影響も大きい作物である。しかし、砂糖需要の低迷に加え、最低生産者価格が撤廃されるなど、てん菜を取り巻く状況は厳しさを増しているため、生産者は低コスト安定生産に、製糖事業者は製造コストの削減に、各々が今まで以上に努める必要がある。
このような情勢下で、糖量をアップさせると同時に、耐病性、品質面でそれぞれ改良が進んだてん菜新品種「リッカ」「レミエル」は、てん菜の安定生産に寄与すると判断され、平成20年2月に北海道の優良品種に認定されたので以下に紹介する。
「リッカ*」旧系統名「HT28」(写真1)は、スウェーデンのシンジェンタ種子会社が育成した二倍体単胚のそう根病抵抗性一代雑種である。平成16年に北海道糖業株式会社が輸入し、平成17年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施した。
写真1 「リッカ」の草姿 |
*:スウェーデン語でLycka“幸福”の意味 |
「レミエル**」旧系統名「H135」(写真2)は、ベルギーのセスバンデルハーベ社が育成した三倍体単胚の一代雑種である。平成15年にホクレン農業協同組合連合会が輸入し、平成16年から道立農試、北農研センター、北海道てん菜協会が各種試験を実施した。
写真2 「レミエル」の草姿 |
**:フランス語でmiel“蜂蜜”の意味 |
なお、「リッカ」の主な置き換え対象は、同じそう根病抵抗性品種である「モリーノ」のすべてと、一般品種「クローナ」の一部であり、「レミエル」の主な置き換え対象は、一般品種「アセンド」のすべてである(表1)。
表1 近年のてん菜品種の特性と栽培実績 |
注1:根重、根中糖分、糖量の「モノホマレ」対比は優良品種認定時のもの。 2:各種病害抵抗性は優良品種認定時の判定に加え、その後の試験で修正されたものも含む。 3:「モリーノ」の黒根病抵抗性は単年度評価。 |
(1) 「リッカ」
ほ場での外観は、葉柄がやや長い点以外は「モリーノ」並であり、「クローナ」と比べると直立気味でやや小振りである。根形は「モリーノ」、「クローナ」よりやや細長く、“円錐”に分類される。
(2) 「レミエル」
ほ場での外観は「アセンド」と比べて大きな差異はないが、葉面縮は「アセンド」より多くなっている。根部の形態も冠部(クラウン)がやや大きいことを除けば、ほぼ「アセンド」並みである。
道内で最も多く作付けされている品種「アセンド」の収量特性を100として、「きたさやか」、「モリーノ」、「クローナ」、「えとぴりか」と比較したのが、図1、図2である。
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図1 「リッカ」の収量特性(平成17〜19年の3カ年平均) |
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図2 「レミエル」の収量特性(平成16〜19年の4カ年平均) |
(1) 「リッカ」
根重は「クローナ」よりかなり多く、「アセンド」、「モリーノ」より多く、同じ抵抗性品種の「きたさやか」並み、根中糖分は「きたさやか」よりかなり高く、「モリーノ」より高く、「アセンド」並みで、「クローナ」よりやや低い。糖量は「モリーノ」よりかなり多く、「アセンド」、「クローナ」、「きたさやか」より多い(図1)。
従来のそう根病抵抗性品種は、収量特性(根重および糖量、もしくは根中糖分)が一般品種に劣るために、利用場面が限定されていた。しかし、本品種はそう根病抵抗性を有するだけでなく、収量特性も一般品種と比較して何ら
(2) 「レミエル」
根重は高品質な品種である「えとぴりか」より多く、「アセンド」並み、根中糖分は「アセンド」、「えとぴりか」並みである。糖量は「えとぴりか」より多く、「アセンド」よりやや多い。品質の指標となる不純物価は「アセンド」より低く、「えとぴりか」並みで、高品質である(図2)。
(1) そう根病抵抗性
「リッカ」はそう根病抵抗性を有しているが、「レミエル」は有していない。
(2) 褐斑病抵抗性
「リッカ」は他のそう根病抵抗性品種と同様に“やや強”であり、防除時期を逸した際に被害軽減を期待できる。「レミエル」は現在作付けされている大半の品種と同様に“弱”であり、適切な防除に留意する必要がある。
(3) 黒根病抵抗性
両品種共に、現在作付けされている大半の品種と同様の“中”である。
(4) 根腐病抵抗性
両品種共に抵抗性は“やや弱”である。
両品種共に普及対象地域は全道一円である。「リッカ」の普及見込み面積は平成20年には5千ヘクタール、平成21年以降は8千ヘクタール以上であり、栽培上の注意として、多湿ほ場で黒根病が多発した試験例があるため、適切な排水対策に努めることが挙げられる。「レミエル」の普及見込み面積は平成20年には30ヘクタール、平成22年以降は1万5千ヘクタールであり、栽培上の注意として、①褐斑病抵抗性が“弱”なので適切な防除に努める。②そう根病抵抗性を持たないので、発病ほ場では栽培しない。―の2点が挙げられる。
(1)てん菜の品種について
北海道で栽培されている品種は、現時点ではすべて欧州系の輸入品種である。近年は品種がめまぐるしく入れ替わり、デビューから5〜6年で作付けされなくなる品種が大半である。生産者からは名前が覚えられないとの苦情をしばしば聞くが、てん菜の生産性に及ぼす新品種の効果は大きく、面積の減少をカバーしつつ、生産量を底上げしている(図3、4)。
図3 てん菜作付け面積と生産量の推移 |
注:優良品種認定時の成績と作付け面積に基づき、加重平均して算出。 |
図4 作付け品種の推定能力の推移 |
(2)病気について
① そう根病
土壌中のかび(Polymyxa)によって媒介されるウイルス病。化学的防除が難しく、生存期間が長いうえ、軽症でも根中糖分が大きく低下する。実用的な唯一の対策は、抵抗性品種の作付けしかない。
② 褐斑病
糸状菌(Cercospora)が原因で高温多湿条件で多発し、葉の養分を吸収するため、軽症でも根重・糖分の低下を伴う。防除回数、防除面積ともに一番多い病害である。
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