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十勝地域におけるバイオエタノール事業の取り組み〜高濃度バイオエタノール混合燃料対応車両を用いた実証事業〜

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最終更新日:2010年3月6日

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[2009年8月]

【調査・報告】
財団法人十勝圏振興機構 研究開発課 課長 大庭 潔

はじめに

 北海道の十勝地域は国内でも有数の大規模畑作地帯であり、特に、小麦、ばれいしょ、豆類、てん菜については、国内でも最大規模の生産量を誇っている。しかし、現在、北海道農業は、貿易自由化の進展と国内需要の変化の中で、米・畑作物の生産調整など、それぞれ計画生産の課題を抱えている。また、各地域では、担い手の減少と高齢化、農地の荒廃と遊休化、農村地域の衰退と過疎化など、これまで国内の食料を供給してきた農業生産基盤そのものを衰退させる現象が起きている。このような状況の中で、生産者自ら需給バランスを踏まえ、消費者ニーズに応えた取り組みを行うことが求められてきている。

 このような新しい取り組みの一つとして、農業バイオマス資源からのバイオエタノールの生産に焦点を当て、北海道十勝地域における燃料用バイオエタノール事業が行われることとなった。

 平成21年5月24日、国内最大規模の生産量を誇る燃料用バイオエタノール生産工場が北海道十勝管内の清水町に竣工した。同工場は、平成19年度に採択された国の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」の一環として建設された、年間1万5000キロリットルの生産規模を誇る生産工場であり、原料としては、交付金対象外てん菜、規格外小麦などを使用する。事業主体は、JAグループ北海道が中心となり設立した北海道バイオエタノール株式会社である。

 バイオエタノールの燃料としての利用は、現在、ブラジルや北米に加え、近年では中南米、欧州、アジア、オセアニアでも生産、利用のための政策が進められており、それらのうちの多くの国では、ガソリンに対し10%以上の混合率が検討されている。一方、日本では高濃度アルコール含有燃料使用による車両事故の多発を受けた「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(以下、「揮発油品確法」)の改正(平成15年8月施行)により、エタノール混合ガソリンにおけるエタノール濃度が3%以下に制限されたため、各種実証試験も混合率3%のバイオエタノール混合燃料(E3燃料)に関するものが主体となっている。

 本稿では、日本における高濃度(10%)のバイオエタノール混合燃料(E10燃料)の導入環境を早期に普及・整備することを目的に、自動車対応技術と流通過程に関する技術開発について検討を行い、知見を蓄積してきたので、その概要をご紹介する。

1.E10燃料の仕様

 本試験では、E10燃料を製造する場合の燃料混合品質についての知見を蓄積することを目的として、E10燃料の製造と分析を実施した。なお、本試験で使用したガソリンはレギュラーガソリンを蒸留して軽質成分の一部を除去するという方法で製造した低蒸気圧ガソリンである。これにより、エタノール混合後の蒸気圧と蒸留特性が市販のレギュラーガソリン相当となる性状とした。

 E10燃料は、当初エタノール濃度の目標値を9.5%として、ベースとなるガソリンを体積で計量、かくはんする方法で製造したが、エタノール濃度の分析結果にばらつきが生じたため、ベースとなるガソリンを重量で計量、かくはんする方法により、エタノール濃度のばらつきが少なくなり、安定した混合品質のE10燃料が製造できていることを確認した。

 なお、現在のE10燃料の製造については、平成21年2月より完全施行された改正「揮発油品確法」にのっとり実施している。

2.流通段階でのE10燃料の組成変化に関する試験

 燃料貯蔵タンク中の燃料は、外気温上昇により気化し体積が膨張する。通常貯蔵タンクには通気管が設けられており、膨張過程で大気中に燃料が蒸散してしまう。また、外気温下降によりタンク内気体体積は減少し、外気中の水分を引き込んでしまうという課題がある。そこで、このような温冷サイクル環境下での貯蔵がE10燃料品質に与える影響を評価する目的で、燃料貯蔵タンク内E10燃料吸湿、組成変化試験をレギュラーガソリンと比較しながら実施した。

 試験は、組成変化の傾向把握のための環境試験室における試験と、北海道帯広市における組成変化実測のための屋外貯蔵における試験の二通りを実施した。

(1)環境試験室における試験

 試験方法は、大型の恒温恒湿槽内に試験用の小型タンクを設置し、温冷サイクル環境下においた(図1)。今回実施した温冷サイクルパターンは、中部地区の夏期相当の環境と、十勝地方の冬期相当の環境を想定した2種類で、それぞれの高温多湿の環境と、寒冷乾燥の環境を代表するものと位置づけている。成分分析項目は、蒸気圧、水分量、エタノール含有率の3点とし、おおむねサイクル毎に燃料サンプリングと成分分析を実施した。

図1 地下タンクを模擬した試験用小型タンク

 結果は表1のとおりで、夏期を想定した環境での含水率を除き、燃料間の差異はなかった。

表1 環境試験室における試験結果

 今回の試験では、使用する試験装置の制約により低温高湿の環境を実現できなかったが、エタノール混合燃料は同一含水率の条件下では低温時の方がより相分離を生じやすい性質を持つため、低温高湿の状態でも試験を実施することが今後必要と考える。

(2)危険物屋外貯蔵タンクによる試験

 試験方法は、北海道帯広市の屋外に試験用の少量危険物屋外貯蔵タンクを設置し、夏期から冬期8カ月間の長期保存、夏期3カ月間の短期保存、冬期3カ月間の短期保存の3通りの貯蔵パターンによりE10燃料貯蔵試験を実施した(図2)。成分分析項目は、含水率他とし、含水率についてはおおむね1週間毎に燃料サンプリングと成分分析を実施した。

図2 屋外貯蔵地下タンクを想定した試験用小型タンク

 結果は表2のとおりで、帯広市の冬期間は大気中の水蒸気量が大変少なく、乾燥した状態であるため、吸湿がほとんど進行しないことが確認された。

表2 危険物屋外貯蔵タンクによる試験結果

3.自動車の排出ガス、燃料蒸発ガスに関する評価、始動性に関する評価試験

 燃料へのエタノール混合が自動車に及ぼす影響を確認するため、排出ガス、燃料蒸発ガス、低温環境課におけるエンジン始動時間、運転操作性についてそれぞれ評価試験を実施した。

 すべての試験における試験車両には、E10燃料対応車として日本国内で初めて国土交通大臣の認定を取得したムラーノを1台供試した。試験車両の仕様を図3に示した。

図3 E10燃料用供試車両

(1)E10技術指針の規定に従った排出ガスの試験

 エタノール混合燃料が排出ガスに及ぼす影響を確認するため、国土交通省が策定した技術指針(注)に規定された方法でE10燃料の排出ガスの評価試験をレギュラーガソリンと比較しながら行った。

 試験は、後述する公道走行試験の前後に各1回ずつ実施した。排出ガス成分として、規制物質である一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOX)、それ以外にアルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド)について測定を行った。その結果、公道走行試験後の値を試験前と比較すると、規制物質については、平成17年度排出ガス50%低減レベルの低い値を維持しており、E10燃料とレギュラーガソリンはほぼ変わらないレベルであると考えられる。アルデヒド類については、公道走行試験の前後とも、レギュラーガソリン使用時に比べE10燃料使用時にアセトアルデヒドの増加が確認された。国内外における他の同様な調査においても、E10燃料の使用によりアセトアルデヒドの排出量が数倍程度に増加する試験結果が報告されており、妥当な試験結果と考えられる。

 また、CO、アルデヒド類共に、公道走行試験前に比べ試験後の排出量が増加する傾向にあるが、これは触媒がやや劣化してきているためと考えられる。ただ、両者ともかなり低いレベルの排出量であり、問題となる値ではないと考えられる。

(注)「道路運送車両の保安基準第56条4項の規定に基づき認定を行うE10対応車両の安全の確保及び環境の保全に関する技術指針」

(2)E10技術指針の規定に従った燃料蒸発ガスの試験

 エタノールをガソリンに混合した場合、燃料系材料の透過性が変化する可能性がある。そこで、エタノール混合燃料が燃料蒸発ガスに及ぼす影響を確認するため、E10技術指針に規定された方法で蒸発ガス試験を行った。試験は公道走行試験の前後に各1回ずつ実施した。公道走行試験前後におけるE10燃料蒸発ガス試験の結果は、数度の測定を実施した中で、ほとんどレギュラーガソリンと同等の値を示しており、公道試験走行後の値についてもほぼ同様の値を示していることから、E10燃料の使用が燃料蒸発ガスに与える悪影響は無いものと考えられる。

(3)低温始動性試験

 低温環境室内で、試験車両の周囲温度−25〜+25℃の範囲における始動時間の測定を実施した。低温始動性の結果は、−25℃、−10℃、25℃の3通りの周囲温度下で評価を実施したが、E10燃料とレギュラーガソリンの間には顕著な差異はみられなかった。−25℃の試験において、E10燃料の方が若干短い始動時間との結果が得られたが、これは測定のばらつきの範囲であって、E10燃料の使用が有利に働いているためではないと思われる。

(4)運転性(公道走行)試験

 E10燃料の使用が運転性に与える影響を評価するため、平成20年4月〜12月にかけて公道走行試験を実施した。試験車両にはムラーノを1台供試し、長距離連続走行や市街地走行などを含む日常業務で使用した際の運転性について、運転者が評価を行った。評価は官能試験によるものとし、始動性、加速性、アイドル安定性、走行中のエンジンの息つきの4項目について評価を行った。

 公道走行試験の実施概要については、総走行距離1万2979kmの公道走行試験中、のべ249回の官能評価試験を実施し、運転性と始動性に関する評価を実施したが、いずれも良好な結果であり、特に問題となるような現象は確認されなかった。

おわりに

 我々は、これまでに十勝地域という限られた地域内で、燃料用バイオエタノールに関して製造から利用(技術開発)、さらには一般市民に対する普及、広報活動というように、一貫した取り組みを約6年間実施してきた。しかしながら、現段階(平成21年)で燃料用バイオエタノールが普及しているかというと、目標には程遠いと言わざるを得ない。現在、燃料用バイオエタノールについては、我々の事業所内にE3燃料およびE10燃料を供給するための自家用給油施設を設置(図4)、さらにはバイオ燃料混合施設を設置し、6台のE3燃料車両及び1台のE10燃料車両を走行させている。今後、この北海道十勝地域での燃料用バイオエタノールのさらなる普及への取り組みの中で、バイオエタノール車両の増車が図られることにより、環境対策さらには日本の農業対策という大きな課題の解決につながっていくと考えている。

図4 自家用給油施設(財団法人十勝圏振興機構敷地内)

謝辞

 本稿で紹介した内容は、平成19年〜20年度に環境省地球温暖化対策技術開発事業(寒冷地におけるバイオエタノール混合自動車燃料需要拡大のための自動車対応と流通に関する技術開発)において実施してきたものである。

 また、自動車の供給、さらには車両における各種試験データの取得に際しては日産自動車株式会社から全面的にご協力をいただいた。この紙面を借りてあらためてお礼を申し上げる。

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