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最終更新日:2010年3月6日
てん菜直播栽培における低収要因として、風害や霜害、ソイルクラスト(土壌表面に形成される固結)の発生、肥料濃度障害などによる初期生育障害があります。このうち、気象災害である風害や霜害およびソイルクラストの発生は、局所的に大きな被害をもたらすことが特徴です。気象災害によって枯死株(欠株)が多発すると、減収するのみならず、再播種や移植苗の補植のために、新たなコストや労力負担を招くことになります。
本稿では、てん菜直播栽培の普及に向け、風害、ソイルクラストの発生を取り上げ、その軽減対策を紹介します。なお、霜害については、これまでに不織布被覆による被害軽減の可能性1)が指摘されていますが、大規模栽培において有効な対策は今のところありません。このため、極端な早播きは避けて、霜害を回避しうる適期播種を行うことが重要です。
(1)発生要因
風害をもたらす土壌の飛散については、風速、土壌水分、土性(黒ボク土や褐色低地土で飛散しやすい)、てん菜ほ場の砕土状態、および防風林からの距離が影響するとされています。
さらに、平成19〜21年に北海道立十勝農業試験場(以下、十勝農試)が実施した風害調査から、次の傾向が認められました。
①ほ場表面が乾燥していて、風速10m/sの風が3時間以上継続、または風速6m/s以上の風が断続的に10時間程度続くと風害が発生しやすい。
②風上側に、地表面を覆う作物(秋まき小麦、牧草)や、建物など風速を弱める障害物があると、てん菜の被害は小さい。これに対して、風上側のほ場がばれいしょ、とうもろこしの播種後、あるいは豆類・緑肥えん麦の播種前の場合、これらのほ場から飛来した土壌によって、てん菜茎葉が損傷を受け、枯死する被害が生じやすい。
③土塊径0.85ミリ未満の飛散しやすい土粒子の割合が高いほ場や、土壌表面の固相率が低く膨軟な状態のときには、飛散土壌によるてん菜茎葉損傷のほか、畦上の土壌が飛散し、てん菜地下部(胚軸や種子)が露出して枯死株が生じやすい。
以上のように、風害の発生には、風速、風上側に位置するほ場の作付状況や建物の配置、土壌の砕土状態などが密接に関連していることを指摘できます。
(2)風害の軽減対策
現在、てん菜直播栽培における風害対策の主力は、防風林や防風ネットの設置です。特に防風林は風速軽減効果や土壌の飛散を遮る働きが大きく、防風林が若年であったり植栽がまばらである事例を除けば、多くの事例でその効果が認められています2)3)4)。しかし、防風林は維持管理や作業機の障害となること、また防風ネットは設置や除去労力の問題などがあります。
これに対し、以下に紹介する被覆作物(麦類)を利用した風害軽減対策は、労力の増加はわずかで、既存の作業機械を用いて実施することが可能です。十勝農試のモデル試験から、てん菜直播ほ場で被覆作物(麦類)を栽培することにより、次のような効果が認められています。
①麦類が障害物となり、地表面の風速が弱まる(図1)。
図1 葉面積と地表面の風速低下 (送風機を風速12.0m/s に設定) |
②ほ場からの土壌飛散量が減少する。飛散量は、麦類の葉面積が100cm2/㎡では麦類がないときの7〜8割、200cm2/㎡では5割程度になる(図2)。
図2 葉面積と、土壌飛散量の減少程度 (十勝農試、黒ボク土) |
③麦類がてん菜を保護し、麦類の葉面積が多いほど、てん菜枯死株の発生が減少する。
これらのことから、被覆作物(麦類)の利用はてん菜直播栽培の風害軽減に有効な方法ということができます。以下に、被覆作物(麦類)について2種類の栽培方法を示します。
①麦類の整地前散播方式
整地作業の前にブロードキャスタで麦類を散播するのが特徴です(図3)。麦類はてん菜より早く出芽するので、てん菜出芽揃以降(5月上〜中旬)の風害軽減に効果的です。生育の進んだ麦類は、風害の危険性が小さくなったころ(てん菜本葉2〜4葉期頃)、除草剤散布により枯死させます。麦類が枯死するころには、てん菜は本葉5〜7葉期になっており、風害を受けやすい時期は過ぎています。
(実線内が慣行栽培と比べて新たに加わる作業) |
図3 てん菜直播栽培における麦類の利用方法 |
麦の種類は、大麦、えん麦が適し、播種量は5kg/10aが標準です。麦類の葉面積はてん菜出芽揃に100cm2/㎡程度、てん菜本葉抽出始に200cm2/㎡以上を確保することができます(図4・5、表1)。秋まき小麦は、これらの麦類と比べて初期生育が劣ります。
(てん菜は本葉抽出始) |
図4 えん麦の整地前散播(ほ場の右側)を実施したてん菜直播栽培ほ場 |
(てん菜は本葉抽出始、えん麦の草丈は7センチ。) |
図5 整地前散播方式のてん菜 |
表1 てん菜ほ場における麦類の生育 |
注)施肥法は全層施肥である。十勝農試および十勝管内農家ほ場にて調査した |
②麦類の畦間条播方式
てん菜の播種作業直後の畦間に麦類を広幅条播するのが特徴です(図3)。ここでは、畦間条播方式に用いる麦類の播種機として、池田町の生産者が利用している施肥カルチベータ(ADKS―5)を改良した麦類播種機(図6)による方式を紹介します。
図6 麦類播種機(改良した施肥カルチベータ) |
施肥カルチベータの改良は、①施肥タンクに入れた麦類が畦間(カルチ爪前)に落下するよう施肥パイプのホース位置を調整し②施肥パイプから排出した麦類と土壌を混和するため、S字タイン型株間除草機のレーキ(HM―8)をカルチ爪後方に1畦間につき2ユニットを装着しました(図7)。
図7 改良した施肥カルチベータの麦類播種部分 |
麦の種類は、大麦、えん麦(播種量:5kg/10a)、および秋まき小麦(播種量:7kg/10a)が適します。これらの麦類の出芽はてん菜と同等か早く(図8)、本葉抽出始には整地前散播方式と同等か上回る葉面積を確保できます(表1)。
(てん菜は出芽揃、小麦は5センチ) |
図8 畦間条播方式のてん菜ほ場 |
(3)被覆作物(麦類)の利用上の留意点
いずれの麦類の利用方式においても、生育の進んだ麦類は、イネ科用除草剤(展着剤を加用)を散布し枯死させます。畦間条播方式では、除草剤散布の数日後にロータリカルチを施工すると、短期間で確実な殺草が可能となります(図9)。なお、一部の麦類と薬剤の組み合わせ(えん麦とキザロホップエチルフロアブル、秋まき小麦とセトキシジム乳剤)では、殺草効果が劣る場合があります。麦類が再生すると、再び除草剤散布が必要となりコストが増えるので、薬剤の選択と散布時期に注意が必要です。
図9 ロータリカルチで殺草処理 |
2つの栽培法を表2にまとめました。コストの点では、被覆作物(麦類)の利用によってそれにかかわる種苗費や薬剤費が加わるため、生産費は3〜6%の増加となります。播種量を多くすると、麦類の葉面積が増加しますが、麦類の種苗費が増えるため、初期生育の良い麦類を使うのが効果的です。麦類は、風害軽減の面から、ほ場一面に栽培することが望ましいですが、整地前散播方式では、ほ場周辺の状況や風向を考慮して、土壌飛散しやすい部分を中心に麦類を播種することがコスト削減に有効です。畦間条播方式は、麦類を播種するための施肥カルチベータの改良が必要ですが、土壌の飛散しやすいてん菜畦間を重点的に被覆することができ、麦類の葉面積は整地前散播方式と同等か多いのが長所です。
表2 風害軽減のための被覆作物(麦類)の栽培法 |
なお、平成21年の風害調査では、被覆作物(麦類)利用による被害軽減効果が確認できたものの、再播種しなければならないほどの被害を受けた事例もありました。このようなほ場では、被覆作物の利用に加えて、防風林や防風ネットの利用、砕土整地法の改善を組み合わせた総合的な対策が必要といえます。
(1)発生要因
ソイルクラストの形成は、直播栽培の出芽障害の一因となっています。ソイルクラストの形成には土壌の種類(粘質系の低地土:道央の転換畑のみならず、十勝管内や網走管内のてん菜栽培地帯にも存在します)、降水量や降水強度(降雨による雨滴の衝撃)、地表面の湛水などが影響しますが、これらは予測できないものであり、被害を未然に防ぐことは容易ではありません。
また、ソイルクラスト発生後の対策についても明らかにされたものはなく、風害同様、再播種もしくは廃耕を余儀なくされ、新たなコストや労力負担が必要になったり、低収の原因となります。ここでは、てん菜播種後の対策として、ソイルクラストを破砕するソイルクラストクラッシャの効果と利用上の留意点について紹介します。
(2)ソイルクラストクラッシャの効果と利用上の留意点
ソイルクラストクラッシャ(本体重量:117キログラム、図10)はトラクタ直装式で、4畦用です。破砕輪を固定するフレームは独立懸架となっており各畦に追従することが可能です。
注)試験中の写真のため破砕部は畦毎に替えてある。 |
図10 ソイルクラストクラッシャ |
破砕部の形状はワイヤーツース型(図11)で、試作した3種類のうち出芽率の向上効果が最も高く、種子の露出や畦形状の変化が少なかったタイプです。
(ワイヤーツース型、幅250ミリ、突起部の高さ25ミリ) |
図11 ソイルクラストクラッシャの破砕部 |
ソイルクラストクラッシャの効果をあげるためには、施工のタイミングが最も重要です。すなわち、高硬度(足跡が残らないような固土)のソイルクラストが完全に形成される前に施工するのが望ましく、施工時期が遅れててん菜が本葉抽出始以降になると、本葉が損傷しやすくなるので注意が必要です。
図12に、異なる砕土条件で形成されたソイルクラストに対する、ソイルクラストクラッシャの出芽率向上効果を示しました。砕土状態が「細」および「中」の土壌では施工区の出芽率は無施工区を上回りましたが、無施工区についてみると、砕土状態が「細」の土壌において出芽率が劣りました。これは、砕土が細かいほど硬いソイルクラストが形成されやすいことを示すもので、ソイルクラストによる出芽率低減の被害を回避するためには、砕土を細かくし過ぎないことが一つの方策といえます。以上のことをまとめて、表3にソイルクラストクラッシャの利用法を示しました。
注)細粒質灰色低地土ほ場。播種直後に14ミリの降水があり、播種後7日目に施工。 砕土性:細は、砕土率87%、同:中は砕土率71%。なお、砕土率とは、20mm未満の土塊径割合(整地作業後・播種作業時)。 |
図12 ソイルクラストクラッシャによる出芽率向上効果 |
表3 ソイルクラストクラッシャの利用法 |
現在のところ、ソイルクラストを抜本的かつ効果的に破砕する破砕部の形状は存在しません。また前述の通り、ソイルクラストクラッシャには施工限界があることから、ソイルクラストクラッシャによる出芽率向上対策はあらゆる事態に対応できるわけではありません。したがって、ソイルクラストについては発生を予防することが重要となります。そのためには、土壌中の有機物含量を高めること、すなわち細粒質灰色低地土やそれに準じる粘質系土壌に対して、有機物を継続的に施用して土づくりを行うこと、さらに既往の砕土整地法も再検討の余地があると考えられます。
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