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北海道における担い手問題の現況と課題

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最終更新日:2010年3月6日

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[2009年11月]

【生産地から】
社団法人 北海道地域農業研究所 特別参与 黒澤不二男

はじめに

 北海道は、その農業産出額が全国の12%を占めるとともに、国産供給熱量の約2割を供給するなど、我が国における食料の安定供給に大きく貢献しています。一方北海道の農家戸数は減少が続いて65歳以上の比率は増加傾向にあり、近年3割を超えて推移しています。また、耕地面積は平成2年をピークに減少しているのに対し、耕作放棄地は増加傾向であることなどから、担い手の育成・確保が重要な課題となっています。

 筆者は、農業が直面しているあらゆる問題の行き着くところは、すべて「担い手問題」になると考えており、本稿では北海道農業の展開に即して、いわゆる「担い手問題」の一端について、紹介してみたいと思います。

1 農家戸数の推移と新規就農の動向

(1) 就農パターン別動向

 本道では、全国の約4分の1の耕地面積により、稲作、畑作、酪農などの土地利用型農業を中心とした生産性の高い農業を展開し、平成19年の総産出額、9809億円(対全国比12%)をあげております。農家1戸あたり耕地面積は都府県の14倍の20.1ヘクタールで主業農家(注)率も74%を数えています。しかし後継者不在や高齢化の進行により、農家戸数は年々減少しており、平成17年の総農家戸数(農林業センサス)は6万戸を割り込み、約5万9000戸となっています。このような趨勢(すうせい)の中で、北海道農政部は平成20年の新規就農者に関する調査結果を発表しました(表1)。新規就農者数は平成13年度に700人を越えて以来、おおむね700人前後で推移してきましたが、平成20年には599人(対前年51人減)となりました。この調査では、就農のパターンを、(1)学卒後、間をおかず就農する新規学卒就農(2)いったん他産業等に就業後、親の営農を後継するため帰郷して就農するUターン就農(3)まったく農業・農村との関わりがなかったのに農業・農村の魅力に惹かれ、その夢を農場運営に託す新規参入−という3つに区分しています。このパターンでみると従来は、新規就農は(1)の新規学卒者が中心でしたが、近年では(2)のUターンが増加の傾向で、平成20年では新規学卒とUターンがほぼ同数となっています。表1によりますと、新規就農者の絶対数では、十勝(畑作地帯)、網走(畑作地帯)と上川(稲作・畑作地帯)が多くなっていますが、就農比率(販売農家に対する比率)では、根室(酪農地帯)(3.36%)、十勝(2.05%)、宗谷(酪農地帯)(1.86%)、網走(1.83%)で全道平均の1.25%を上回っているのが注目されます。

注:農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得)で、1年間に60日以上農業に従事している65歳未満の者がいる農家

表1 平成20年新規就農者の状況
(単位:人、%)
注)就農比率=就農者数÷販売農家数×100
資料:北海道農政部

(2) 経営形態別動向

 経営形態別新規就農者数では表2で示したように畑作が首位で酪農、稲作、野菜作と続き、この4形態で90%を超えています。

 就農パターン別の特色で見ると、新規学卒では畑作、酪農で75%を超え、農外からの新規参入者では野菜が首位、次いで酪農、畑作への就農が多くなっています。これに対してUターンは畑作が首位ですが、稲作もほぼ同水準に達しているのが目立ちます。これは稲作をめぐる近年の収益性低下から新規学卒者や新規参入者にとっては魅力が乏しいのですが、Uターンの場合は農業の魅力という要素だけではなく高齢両親の扶養というような家族関係が反映していると考えられます。

 いずれにせよ、一定程度の参入はあるのですが、年々の減少戸数を充足するほどの就農者数ではありません。したがって「担い手確保対策」は、現下の本道農業にとって最重要課題で、関係者あげて魅力ある農村、やりがいのある農業経営を実現するための環境整備に取り組むことが求められているのです。

表2 経営形態別新規就農者
(単位:人、%)
資料:北海道農政部

2 北海道における就農支援システム

(1) 北海道農業担い手育成センター

 そこで就農を志す者に対する北海道総体での支援システム(相談対応、種々の研修・実習などのあっせん、就農に関わる資金助成など)のフロー(流れ)を整理して図1に示しました。

 このシステムの中心である「北海道農業担い手育成センター」は平成7年に設立され、就農支援を行う公益法人の社団法人として北海道の担い手育成活動の司令塔としての性格をもっています。

 正会員は、北海道および174市町村、JA北海道中央会、北海道信連、ホクレン、その他で183団体となっています。

 「市町村段階の担い手育成センター(=地域センター)」と連携しながら、就農希望者のさまざまな相談に対し、専任の相談員が対応するほか、農村での研修や体験実習の紹介、研修などに必要な資金の貸付けなど、就農を志す者への総合的な支援を行っています。

 このセンターは平成20年には農地保有合理化事業の一環として農地流動化や農地の開発・整備、農村施設の整備等を行う「(財)北海道農業開発公社」に統合されました。

 充実したスタッフと総合性という組織機能の長所を生かした事業展開が一層期待されています。

図1 北海道立農業大学校全景

(2) 北海道立農業大学校

 次に北海道全域で就農希望者を支援する組織としての「北海道立農業大学校」の機能と性格について紹介します。

 北海道立農業大学校は、十勝管内本別町に広大な用地と近代的な施設をもって農家子弟主体の教育機関、農業専門学校として開学。開校以来述べ4000名を超える卒業者を送り出してきました。

 卒業生の自家農業への後継就農率は全国首位となっています。昭和54年には修業年限を1年制から2年制に、60年には養成部門を2学科4専攻コ−スに拡充、研修部門に「稲作経営専攻コ−ス」を新設しました。さらに農業経営研究科を、平成18年には、「農業改良助長法」に基づく農業者研修教育施設としての位置づけから、「学校教育法」に基づく専修学校となり、卒業者には「専門士」という称号が与えられ、4年制大学への編入が可能となる教育機関となりました。

 指導教育体制については、専任の指導職員のほか、農業試験場研究員、普及指導員、家畜保健衛生所獣医師、農協営農指導員などが、学生の指導にあたっており、まさに実践技能センターの機能を持つ教育研修システムを展開しています。また近年では特別研修カリキュラムにより、道内の新規就農者や中堅農業者に対するスキルアップのための多彩な講座でニーズに応える体制をとっています。

図2 新規参入希望者の就農までのフロー

3 畑作中核地帯の農業者意向に見る就農問題

 本稿で先に述べた就農実態において畑作経営では、他の経営形態に比べて就農のインセンテイイブ(就農意向の強さ)が相対的に高い結果を示していますが、それでは畑作中核地帯の現場の声はどうなのかを、筆者の勤務する研究所の調査データの一部を引用して検証してみたいと思います。対象である町村は畑作が主体で、一部に酪農経営が点在しています(表3)。1戸平均の経営規模が比較的大きく、現況の農業所得も約半数が1000万円を超えているなど、経営環境は比較的恵まれた条件にあります。調査は平成19年度で、アンケートによる意向調査(回収210戸)を関係機関と共同で実施しました。後継・就農に関連の深い設問に限定して調査結果を紹介してみましょう。

表3 経営形態別戸数比
資料:「地域農業研究所」部内報告書(2007年)

 まず、対象地域内の個別農家に対する聞きとりによれば地域内では複数戸法人はなく、1戸1法人も10戸未満で、将来の法人化を考えている経営者も全体の1割に過ぎず、家族経営継続を志向する農家が多くなっています。この理由としては、大型投資が必要な個別機械装備の更新期を迎えても、当面は地域のコントラクター利用の作業外部化などで乗り切れると言う見通しを持つ経営者が多いことと後継者充足率が高いことが大きな要素と考えられます。その後継者の状況を見たのが表4です。地域全体で後継者が存在する農家が39%、基幹の畑作経営では42%と高率となっています。北海道総体が20%台であることからも確保率の高さが際だっています。次にこの地域の経営者が、後継者確保にはなにが必要かという設問に答えたのが表5です。

表4 後継者の状況
資料:「地域農業研究所」部内報告書(2007年)
表5 後継者確保の方策
資料:「地域農業研究所」部内報告書(2007年)

 これによれば、自分の経営の将来が展望できて、後継者(候補)に「跡を継げ」と言いきれる営農が後継者対策の基本であると主張していることが読み取れます。さらに休日の確保や、給料制の導入が具体策としてあげられています。また、表6に見られるとおり就農してからの支援策として、後継者の経営管理能力向上と資金的な支援を求めています。なお、地域に農外からの新規参入を迎え入れることに関しては、離農の顕在化やそれに伴う耕作放棄地が少ない現況から、切実感はやや希薄ですが、新規参入希望者の実習生受入に関しては、約1/3の経営者が対応したいと応えています。

表6 後継者支援策
資料:「地域農業研究所」部内報告書(2007年)

むすびにかえて

 北海道における就農支援の基幹組織としての「道担い手育成センター」と、実践的農業者教育の中心機関としての「道立農業大学校」の活動と畑作地帯の事例を紹介しました。担い手確保のニーズとそれを支援するシステムが行政や農業関係機関によって精力的に展開されており、それ自体大いに評価しうるものですが、惜しむらくはそのシステムの機能が必ずしも十分に道内外の関係者に周知されていないきらいがあります。農業・農村を取り巻く情勢が厳しさを増している今こそ、その人的資源、物的資源、その機能を徹底利用するというスタンスが必要だと考えられます。環境重視の社会風潮のうねりを追い風として、「我こそ農業の担い手」という人材が続々と現れることを期待して、この小稿を終えます。

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