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甘しゃ糖低コスト製造技術開発事業実施報告

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報


事業団から
[2000年7月]

 農畜産業振興事業団の助成事業も3年を経過し、その事業内容及び成果についての広報が各方面から求められています。ついては、助成事業実施主体からの各事業の実施報告をシリーズで掲載することとし、今回で3回目となりました。今月号では、甘しゃ糖低コスト製造技術開発事業について、(財)亜熱帯総合研究所から報告していただきます。
財団法人亜熱帯総合研究所


はじめに
1 島間輸送
2 シロップ貯蔵試験
3 3種類の分業方式
 (1)同時進行型   (2)分みつ化シフト型   (3)短期サイクル分みつ化シフト型
4 モデルによる経済性の検討
5 まとめ

はじめに

 沖縄県の基幹作物であるさとうきびは、平成元/2年期の収穫面積2万ha、生産量150万トンをピークとして、近年、収穫面積、生産量ともに減少傾向にあり、そのことを背景として、甘しゃ糖工場の操業率が低下し、特に生産量の減少が著しい沖縄本島では、工場の合併による合理化が進んでいる。そのため、さとうきびの島間輸送及び製糖工場間における製糖工程分業方式の経済性の検討並びに技術的な開発を行うことにより、甘しゃ糖の製造コストの低減等に資することを目的として「製糖工程分業方式の経済性の検討」と「製糖工程分業方式技術開発」を実施した。
「製糖工程分業方式の経済性の検討」では、さとうきびの島間輸送及び製糖工場間における製糖工程分業方式について、製糖コスト試算等の経済性の検討を行った。さとうきびの島間輸送については、現在も船舶による海上輸送を行っている今帰仁村古宇利島の状況をみた。併せて、かつては海上輸送を実施していたが、架橋により、現在は通常の陸上輸送に替わった平良市池間島及び下地町来間島の状況を調査し、島間輸送の適用可能性について検討した。製糖工場間における製糖工程分業方式の製糖コストの経済性試算については、シロップ輸送による分業方式を想定し、沖縄本島周辺離島の3工場と沖縄本島の2工場の実際データをもとに、シミュレーションモデルを作成し、分業方式の経済的な成立の可能性について検討した。
「製糖工程分業方式技術開発」では製糖工程分業方式の実施に当たって必要となるシロップの製造、貯蔵及び輸送等各段階における技術的な開発を行った。シロップの製造について、品質劣化を起こさない適正なシロップのブリックス濃度及び貯蔵温度の検討を行い、併せて、窒素・油封入等輸送技術の確認試験も実施した。
 なお、「製糖工程分業方式技術開発」は株式会社トロピカルテクノセンターに委託した。
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1 島間輸送

 さとうきび原料の島間輸送について、現在も船舶による海上輸送を行っている今帰仁村古宇利島及びかつて海上輸送を実施していたが、架橋により現在は通常の陸上輸送に替わった平良市ひら ら し 池間島及び下地町来間島の状況を調査した結果、海上輸送を実施できる条件は極めて限定されることが分かった。その条件は、
a.原料用搬入トラックによるフェリー輸送ができること
b.海上輸送に要する時間が比較的短いこと
c.海上輸送原料に対し工場側で優先的配慮がされること
d.原料輸送を最優先とした輸送契約がされること
 以上の条件を満たす可能性がある離島として、沖縄本島北部国頭くにがみ郡の伊江 い え 島及び宮古郡の伊良部 い ら ぶ 島がある。本調査では近年さとうきび生産量の減少が著しい伊江島を例にとり、島間輸送の可能性を探った。その結果、沖縄県内でも条件が整っていると考えられる伊江島であっても、現状では、さとうきび原料の海上輸送を実施できる可能性は低いことが分かった。
 その理由として、製糖期間中の定期航路フェリーによる輸送能力が約5,000〜7,000トン程度であり、伊江島の生産量のおよそ半分しかないことや、定期航路以外の輸送体系を組み入れたときに、輸送コストが高くなったり、欠航率が上がり安定性に欠けることがあげられる。ただし、以上の議論は海上輸送に関する諸条件が変化しないという前提に立ったものである。
 さとうきび作の地域に及ぼす影響を考慮した場合、さとうきび原料の海上輸送は、単に輸送手段や輸送経費の問題だけにとどまらず、地元自治体が積極的に関与する必要があるだろう。例えば、製糖期間だけはさとうきび優先の輸送体系を組むなどの措置があっても良いと考える。
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2 シロップ貯蔵試験

 実験室内で調製したシロップ(ラボシロップ)と、実際の製糖工場の効用缶で濃縮されサンプリングしたシロップ(製糖工場シロップ)について、いくつかの条件を与え貯蔵試験を行った。現在までラボシロップについての貯蔵試験は何回か実施されていたが、実際の製糖プロセス中のシロップに関して試験が行われたのは初めてであり、それにより、これまでにない知見が得られた。
 これまでの実験結果は、実験室レベルのみであり、調製法はいずれもエバポレータによる減圧濃縮で、シロップ調製過程の最高温度は65〜80℃だった。この温度条件では搾汁液中の微生物は死滅せず、還元酵素の活性も完全に失われてはいないものと考えられる。そのため、今回の試験結果でも明らかなように、ブリックス65度でも品質の劣化が見られた。しかし、今回行った製糖工場から入手したサンプルの貯蔵試験では、常温でも1ヵ月程度は品質保持が可能という結果が得られた。これは、製造プロセスにおける基本的条件、特にシロップ製造過程での温度制御が影響を与えていると思われる。つまり、実際のプロセスでは、原料を圧搾後、搾汁液に石灰乳を投入する前に、ジュースヒーターで100℃以上に温度を上昇させている。その時点で、微生物は死滅し、還元酵素は活性を失い、その結果、シロップの品質は安定する(劣化が少ない)ものと考えられた。
 また、試験の結果、pHを調整すると貯蔵性が高くなることが分かった。通常の製糖プロセスでは効用缶と結晶缶は直結しているので、できるだけ中性に近い状態に保つことが必要である。だが、県内のある製糖工場では、搬入量を調整するために、週末に圧搾処理を停止させている。その際に、濃縮汁を効用缶内に滞留させておく必要が生じ、品質の劣化を防ぐために投入する石灰乳の量を多くしてpHを高めておくという処理が、実際に行われている。そのため、分業化を実施するに当たっては、そのpH調整処理も併せて検討する必要性があることが分かった。
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3 3種類の分業方式

 シロップ貯蔵・輸送による分業体制を沖縄で実施するとした場合に、3種類の異なる方式を想定して、問題点等を探った。
 ここではシロップを海上輸送することを想定して、仮に、シロップ製造を行う製糖工場を「離島工場」、通常の製糖を行いながら、かつ、シロップを受け入れ、分みつ化を行う工場を「本島工場」と呼ぶ。
(1)同時進行型
 製糖期間中、常時、離島工場から本島工場にシロップを輸送し分みつ化を行う。
(2)分みつ化シフト型
 てん菜糖で行われている、いわゆる「シロップ・キャンペーン」方式。離島工場で製造されたシロップを、本島工場での操業終了後にシロップを結晶缶に投入し、分みつ化を行う。
 2000/01年度の砂糖輸出量は、99/2000年度から13%増加して、350万トンになるものと予測される。キューバ砂糖省(Sugar Ministry)は、世界の砂糖価格の低迷、旧式の設備、不十分な栽培方法及び財源の不足にもかかわらず、生産量は増加するであろうと楽観的である。
(3)短期サイクル分みつ化シフト型
 同時進行型の変形。(2)の方式を1週間サイクルで行う。すなわち、月曜から金曜まで離島工場ではシロップを製造し、本島工場へ移送しておく。本島工場ではその間、通常の製糖工程を実施しておき、週末に、搬入されたシロップを結晶缶に投入し分みつ化を行う。このサイクルを製糖期間通じて行う。
 下表に、それぞれの分業方式のメリットとデメリットを整理した。なお「短期サイクル分みつ化シフト型」については、条件が同時進行型とほぼ同じなので、省略した。
 分業方式において、最も問題となると思われる点は、シロップを製造する離島工場と、原料糖を製造する本島工場の経営体が違う場合の、シロップの取扱いであろう。経営体が違う場合、受入れ価格の決定や、それに伴うシロップの品質査定、原料糖製造委託の問題等、その取扱いが繁雑となり、実際の運用は極めて困難になることが予想される。

方 式 メリット デメリット




○常時輸送を行うので、 貯蔵関係の設備投資が少ない
○シロップ製造から分みつ化までの貯蔵期間が短いので、品質の劣化が少ない
○定時・定量の輸送体制を整備しなければならない
○離島工場と本島工場の経費負担が不明確
○本島工場の圧搾能力が低下する
○離島工場の操業期間が本島工場に規定される







○離島工場と本島工場の経費負担が明確
○輸送体制を柔軟に計画できる
○離島工場の操業期間が柔軟に設定できる
○シロップ・キャンペーン中の燃料の負担
  (場合により小規模ボイラーの設置)
○シロップ貯蔵施設に対する投資
○シロップの品質管理を厳しく行う

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4 モデルによる経済性の検討

 シロップ輸送による分業方式の経済性を検討するために、沖縄本島周辺離島の3工場と沖縄本島2工場の実際データをもとに、シミュレーションモデルを作成し、分業方式の成立条件を探った。
 その結果、本島工場の収支がゼロ(製造経費=販売金額)の条件下では、離島工場の製造単価がある水準(およそ45万円/トン)を上回ると分業体制へ移行する方が経済的に優位であるということが分かった。ただし、離島工場と本島工場の合計の収支はマイナス(赤字)であり、現状維持もしくは若干の改善が図られるにすぎず、単に離島工場の製造単価の高さだけではなく、本島工場の経営の健全性が、分業体制の成立可能性により大きく影響するということが分かった。本島工場の経営が健全であればそれだけ分業が成立する条件が緩和され、逆に本島工場の経営が悪化すると、分業の成立はより困難になり、総製造経費も拡大することになる。すなわち、分業体制の成立は、本島工場の経営の健全性が前提条件であるといえよう。本島工場が赤字だと、分業体制は現状の根本的な解決策とはならないので、本島工場はより大規模化し、スケールメリットを生かしコストの低減を徹底的に行う必要がある。
 そこで、分業体制が本来の意味で経済的な優位性を持ち得る状態、すなわち、2つの工場の合計収支が、分業前は赤字だが分業後は黒字となるそれぞれの工場の製造単価の限界値を求めた。今回のモデルでは、離島工場の製造単価が424,827円/トン以上で、かつ、本島工場の製造単価が247,004円/トン以下という結果が得られた。
 今回のモデルの現場への適用に当たっては、用いた各係数の精緻化を図りモデルの精度を高める必要がある。特に離島工場におけるシロップの製造単価及び本島工場におけるシロップの分みつ化コストについては、工場の熱収支・物質収支に基づいて算出したものではなく、成立条件を探るために単純化しており、今後、製造プロセスに関する専門機関により正確な数値を導き出す必要があろう。また、今回は輸送条件によるシロップの質的及び量的損失は考慮していないので、実態に応じたパラメータを加える必要がある。



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5 まとめ

 さとうきび原料の島間輸送やシロップ輸送による製糖分業体制の可能性について経済性の面からの議論をしてきたが、沖縄の離島における製糖業の置かれた状況を見る限りでは、分業体制への移行は、島間輸送の項でも述べたように経済性の尺度だけで判断することは極めて困難であると考える。
 環境保全的な視点で見ると、さとうきび原料を島間輸送する場合、トラッシュ、フィルターケーキ、バガス等の、製糖工場で発生し本来地域の土壌へ還元されるべき有機物が、島の外に持ち出され物質循環のサイクルが絶たれてしまうことになる。
 また、地域経済的には離島における製糖工場の雇用の問題がある。離島、特に小規模離島であるほど、製糖業関連で生活している人の割合が高い。製糖期における工場の季節雇用、原料運搬に携わる運送業者、飲食業等々。新しい体制(島間輸送、分業)への移行はその連関の構造を変化させることであり、結果として地域への負の影響が大きく作用する恐れもある。
 新しい体制に移行したときに、操業期間がそれ以前より長くならないと、離島(特にさとうきび作農家)にとってメリットはない。なぜなら近年、離島の製糖工場では、さとうきび収穫量の減少により、操業期間を短縮せざるを得ないために、農家の収穫作業に余裕がなくなり、その結果、収穫量の減少に結び付くという悪循環がみられるからである。この連鎖を断ち切るためには、新しい体制の下で、トータルの収穫量はたとえ減少したとしても、収穫期間は短縮されないような配慮が必要であろう。このように新しい体制の適用に当たっては、単に工場経営的な指標だけでなくさとうきび作の持つ地域社会への影響を考慮し総合的な判断を行うことが必要である。
 シロップ貯蔵試験の結果から、シロップの品質は当初想定されていたよりも安定性が高いことが分かった。そのため、輸送形態(容器)については、実際に分業が行われる現地の実態に応じて検討すれば良いと思われる。ただし、その際には、単に輸送経費が安いということではなく、輸送形態によって離島工場では貯蔵施設、本島工場では受け入れ施設等の設備のあり方が変わってくるので、総合的な評価が必要であろう。また、工場現場でのハンドリングの問題も無視できない要素である。例えば、輸送容器としてドラム缶を選択した場合は、シロップの充填及び輸送作業は比較的容易であるが、本島工場での受入作業は繁雑になることが考えられる。今後は、モデルとなる離島を選択し、輸送の形態及び方法に関する実験事業等を実施する必要があるだろう。
 同時に、新しい体制への移行に要する経費の公的支援のあり方も併せて検討する必要がある。設備投資、特にハード整備への助成や、借入金に対する金利優遇措置、あるいは輸送経費に対する助成等についても対象とすべきだろう。
 しかし、近年の財政の逼迫や主体となる工場の経営基盤がぜい弱なことを考慮して、新たな設備投資金額が、できるだけ大きくならないような方法、例えば離島工場においてシロップを貯蔵する場合でも、貯蔵施設の新設ではなく、既存の結晶缶や糖蜜タンクを貯蔵タンクに流用するなどの工夫が必要であろうと考える。
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