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さとうきび種苗 (側枝苗) 供給安定化対策事業

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

事業団から
[2000年8月]
シリーズ・農畜産業振興事業団助成事業の結果報告
 農畜産業振興事業団の助成事業も3年を経過し、その事業内容及び成果についての広報が各方面から求められています。ついては、助成事業実施主体からの各事業の実施報告をシリーズで掲載することとしています。今月号では、さとうきび種苗供給安定化対策事業について、(社)沖縄県糖業振興協会から報告していただきます。

社団法人 沖縄県糖業振興協会


I. 事業の目的と背景
II. 調査研究項目の設定
III. 調査研究結果の概要
 【側枝苗大量増殖技術の確立】
 【側枝苗育苗技術の確立】
 【側枝苗栽培技術の確立】
IV. 側枝苗の特性を活用した作付体系の展開
 【側枝苗利用による栽培体系の確立】
 【製糖工場の早期操業の可能性】
V. 側枝苗展示ほ設置農家の声
VI. おわりに

I. 事業の目的と背景

 沖縄県におけるさとうきびは、作付延べ面積の約6割、農業粗生産額の約2割を占め、全農家の7割が栽培するなど、地域農業及び地域経済のいずれにおいても基幹をなす重要な地位にある。しかしながら、自然災害 (台風・干ばつ等) や生産農家の高齢化の進行、担い手の不足、農地の流動化及び機械化の遅れ等により作付面積・生産量が減少傾向にあり、極めて厳しい状況下で推移している。このような中、さとうきびの生産性を向上し、生産農家の経営の安定及び農業所得の増大を図るため、生産振興の一環として新技術によるさとうきび苗の生産・供給体制及び栽培技術の確立が急がれていた。その1つの打開策として、平成6年頃石垣島製糖株式会社において開発に先鞭を付けた側枝苗を用いた移植栽培技術の研究が同社において進められていた。
 側枝苗は、(1)さとうきび栽培の省力化 (2)収穫面積の拡大 (3)機械化作業体系の促進 (4)作付体系の多様化等による経営規模の拡大を図る観点から、革新的技術として、関係者の注目を集めていた。側枝苗生産は画期的技術であるものの、種苗供給単価の問題 (増殖率の高位安定化) 及び育苗技術の確立が開発時点からの課題であった。特に、増殖段階における技術向上のため、平成8年度には沖縄県の県単事業で石垣市、東風平町に養液栽培による側枝苗大量増殖施設が整備された。その後、本会では、実現可能な新技術として側枝苗の増殖・育苗の技術開発を推進するため、砂糖類生産流通合理化等助成対象事業を活用し、農林水産省国際農林水産業研究センター、沖縄県糖業農産課、沖縄県農業試験場、株式会社サザンプラント、財団法人石垣市農業開発組合の支援・協力を得て、平成9年度から平成11年度までの3カ年にわたり「さとうきび種苗供給安定化対策事業」を実施した。
 同事業の実施に当たっては次の研究課題を設定し取り組んだ。



II. 調査研究項目の設定

□側枝苗大量増殖技術の確立
 養液栽培やホルモン処理等による発根促進技術の確立(平成9〜11年度)
 時期別側枝苗生産力の比較(平成10〜11年度)
 母茎栽培での最適栽植密度の確立 (平成10〜11年度)
□側枝苗育苗技術の確立(平成9〜11年度)
 側枝の発根促進及び圃場での活着率高位平準化技術確立
□側枝苗栽培管理技術の確立(平成9〜11年度)
 移植機械の適応性と性能の検討
 除草剤の探索と水分管理技術の確立
 側枝苗実証展示ほの設置(平成9〜11年度)
□側枝苗移植システムの確立(平成10〜11年度)
 側枝苗自動選別挿芽装置の評価
 側枝苗移植機の開発・改良



III. 調査研究結果の概要

【側枝苗大量増殖技術の確立】

1.母株養成・栽培技術
◇母株養成技術
 母株養成で、1芽苗等から母株を生長させるときは、分けつ数をあまり多くすると1本当たりの側枝発生数が抑えられる傾向が見られ、作業も困難であるので3〜5本に抑えるのが良い。また、全茎苗を挿して母木とする場合は、切断した部分をベンレートで殺菌した後、培地に挿すのが良い。
◇養液栽培技術
 養液栽培における培地選定では、ロックウール、ポリエステル粒状綿、マジックソイル、フィルターケーキ、イソライト、川砂で試験した結果、コストは高いものの繰り返し使用することを考慮すると、イソライトが最も増殖率が高く最適であると推定される。また、これまで取り組んできた養液栽培は養液が循環しないため塩類が集積し、特に同培地での2回目以降の増殖時に根の障害が見られた。そのため、増殖終了後、培地を洗浄する必要がある。あるいは、今後塩類集積を起こさないように養液栽培でなくベッドに土を詰めた簡易な土耕栽培技術を確立する必要があり、現在試験中である。

2.増殖率向上技術
◇増殖率向上・期間短縮技術
 増殖率向上及び増殖期間短縮における試験では、母木として全茎苗を用いて年2回採苗する方が1芽苗等で母木を作り年1回採苗するより増殖率も高く、摘芯作業も容易である。
◇母木の最適地上部節数及び培地中節数
 母木の最適地上部節数は、農林8号、9号とも、地上部の節数が5〜6節前後の場合が増殖率が高い。母木の最適培地中節数では、ベッドに挿し込む節数は2節の方が1節より増殖率が高い。これは、養分や水分の吸収に優れているためと推定される。
◇母木の最適挿込時期
 母木の最適挿込時期については、気温の高い時期では初期段階に途中で枯れてしまう母木が多い傾向が見られるため涼しい時期が適していると推察される。4月〜3月まで毎月母木として全茎苗を挿し込み、約半年間側枝苗を増殖して最適な増殖時期を検討した結果、最も増殖率が高かったのは11月である。
◇母木の裁植密度
 母木の栽植様式は、母木を1カ所に1本ずつ挿し込む方が作業効率が良い。また、栽植密度は、できるだけ増殖率を高く、かつ、大量の側枝苗を採苗し、母木を効率良く用いるために20本/1.2m2 (=0.6m×0.2m)が良いと推定される。
◇母木の上部カバー有無試験
 母木の上部カバー有無試験では、側枝増殖中に母木の最上部から枯れていく現象を防ぐため、上部切り口をビニールテープで覆うと母木の生存率が増し、側枝発生数も増加したが、今後より簡単な方法を検討する必要がある。
◇ホルモン処理技術
 ホルモン処理による増殖率向上試験では、側枝発生数は BA (6-ベンジルアデニン) またはカイネチン+BAで若干多い傾向が見られる。また、母木 (農林8号・9号) の発根を促進させるため根帯付近に発根促進剤 (オキシベロン) を付着させた試験では農林8号が発根初期段階で根長が長い傾向があり、効果があると推定されるが、側枝発生数についてはその効果が見られなかった。
 メリクロン苗で分けつを増やす効果のあるホルモン剤カイネチン(0.01mg/)+BA (0.1mg/) を摘芯後切り口に噴霧し、側枝苗に対しても効果があるか検討した結果、農林8号、9号ともに2次側枝の段階では大きな効果が見られないが、通常順調に増殖しない3次側枝では若干多くなりホルモンの効果が見られる。農林8号では、1節だけであるが通常の側枝発生形態ではない (メリクロン苗の分けつのような) ものが観察されたので今後、更に噴霧量について検討する必要がある。
 露地栽培における各種ホルモン (BA、メネデール、IBA、フジワン、タチガレン、液肥) 施用での増殖率は、BA の2,000倍で対照区 (無処理区) と比べ側枝発生量がやや多い傾向であるが、それ以外では効果が見られない。
◇母木の摘芯技術
 母木の摘芯は1次側枝では6葉以上、2次側枝では5葉以上で一斉に行い、3次側枝をできるだけ同一の大きさの側枝苗になるようにするのが良い。
◇病害虫防除技術
 養液栽培施設内での病害虫では、カイガラ虫や蟻が時々大発生し (特に気温の高い時期)、側枝発生が抑制される。その際には、殺虫剤 (スミチオン等) を散布防除するのが良い。特に農林8号は、カイガラ虫の被害が出やすい傾向がある。
◇養液ベッドにおける施肥技術
 養液栽培における施肥は、水耕栽培用肥料の液肥1号、2号をトン当たり1.5Kg (1号)、1Kg (2号) の基準で溶かして養液として使用する。しかし、気温の高い時期は蒸散や培地中からの蒸発が多くなり塩類濃度が高くなるおそれがあるため、気温によって濃度を調節する必要がある。

3.側枝苗増殖技術の現状と課題
(1) 側枝苗普及の必須条件である低価格種苗供給実現のため、増殖率目標を100倍以上に設定し、また、気象災害に左右されない安定的増殖のため、施設での養液栽培を実施したが、現時点での増殖率は50〜60倍であり、気象変動 (日照等) の影響を受けやすい状況である。現時点での側枝苗増殖コストは目標増殖率によるコストをやや上回る状況となっているが、今後は増殖率の向上に伴って、低コスト化が図られるものと思われる。
(2) 増殖率向上技術を確立する中で、a.養液栽培培地におけるイソライト選定効果、b.全茎苗利用による2回増殖効果、c.母木栽培における、地上部6節前後、培地中2節、20本前後/1.2m2 (=0.6m×0.2m) 挿込等の技術が効率的である等を明らかにしてきたことは成果である。
(3) 今後は、増殖率の向上に効果が期待されるホルモン処理技術、塩類集積回避技術の確立等が必要である。



【側枝苗育苗技術の確立】

1.育苗培地の混合割合
 育苗培地は土とフィルターケーキ (1:1) 混合培地が良い。ペーパーポット用の育苗培地は川砂、土、フィルターケーキ、堆肥、ロックウール等の単独培地及びそれらの混合物の中では、土とフィルターケーキ (1:1) の混合培地の発根率が良く、安価である。また、培地粒径は1〜2mm、水分含量は30〜40%が最適である。

2.育苗用資材の選定
 育苗用資材の深さは、ペーパーポットで10cmが最適である。セル成形苗では、分けつ数や資材コストを検討した結果、持ち運びの機動性や資材再利用等の面から深さ6cmが最適である。さらに、セル成形苗でのペーパーポット用移植機による移植では、多少の機械の調整は必要であるが、ペーパーポット用の植付機械で十分可能である。
 以上のことから、育苗資材の深さは深いほど分けつが多く仮茎長も長い傾向があるが、ペーパーポットでは深さは深くできるものの持ち運びや再利用できない欠点があり、セルトレイでは深くするとコストがかかる等一長一短がある。

3.側枝選別作業及び挿芽作業の省力化・機械化
 発生した側枝(挿穂)を選別する装置とそれをペーパーポットに挿芽する装置が開発されており、これらの装置は育苗コストの大幅な低減につながるものと大きな期待が寄せられている。そこで、開発機の作業能率、作業精度並びに側枝苗育苗移植システムの確立に向けた試験を実施した。
 開発プラントによる作業と慣行人力作業における、採苗から挿芽までの一連の作業比較では、側枝苗1本当たりの時間で慣行体系 7.95秒、プラント体系 8.31秒となった。プラント導入による作業能率の向上は、挿芽作業でのセッターの搬送・収納等課題を残した機能の改良や作業ラインの増設などにより実現できる可能性があるが、大きなコスト負担を伴うと考えられる。しかしながら、挿穂の選別精度など飛躍的に改善された部分もあることから、これを慣行作業体系に組み入れ、プラントを部分的に活用することで、慣行の作業体系を改善できると考えられる。

4.発根促進技術
 通常、側枝苗の発根率は高いので特に問題ないが、低温期においては発根促進剤が有効である。各種ホルモン (オキシベロン、タチガレン、メネデール) と対照 (水) を用いて、根部を4時間浸せきして側枝苗の発根状況を調査した結果、各区とも90%以上の高い発根率であり、ホルモン使用による大きな効果は見られなかった。  しかし、低温期の12〜2月では若干発根率が低くなる (80〜90%) が、発根促進剤 (オキシベロン) の使用で90%以上になるため、この時期のホルモン使用は有効である。
 また、側枝苗を大苗 (葉数5枚、長さ12.5cm)、中苗 (葉数4枚、長さ7cm)、小苗 (葉数3枚、長さ5cm) に分けて発根状況を調査したところ、大苗ほど枯死が少なく、発根率は高く、根長も長い。

5.育苗方法
 ペーパーポットでは、地床育苗がベンチ育苗に比べ根長や根毛の発達が早い。しかし、発根率には大きな差がない。セルトレイにおいては、ベンチ育苗が高層ベンチ特有のエアープルニングによりセルトレイから根が出て、根張りが良く最適である。地床育苗では発根後、地中に根が張るためセルトレイ内での根張りが悪く移植後の活着も悪い。

6.育苗時の補光技術
 冬期は必要であると推定されるが、今後、詳細に調査する必要がある。冬期 (12〜2月) の育苗は日照時間が短く、育苗時間が長くなっている。このため、挿芽後発根までの積算日照時間・温度等の調査をし、計画的出荷体系が可能となる補光技術について試験する必要がある。

7.側枝苗の保存技術
 増殖率の高い時期に採苗した側枝苗を計画的に集荷するためには、採苗した苗を保存する技術を確立する必要があり、エチレン除去装置付き冷蔵庫で集合体や苗選別後3葉束苗を8〜10℃で保存可能な期間を検討した。苗の変化状況は集合体も3葉束苗も同様で20日後までは特に変化は見られないが、35日後から葉片に少々のカビが観察され、60日後では全体的にかなりのカビが観察される。35日前後の保存は可能であるが、それ以降の保存技術については今後とも研究する必要がある。

8.側枝苗育苗技術の現状と課題
 側枝苗育苗用資材は、ペーパーポット及びセルトレイの2方式で概ね決定し、育苗後の発根率及び植え付け後の活着率も高位平準化しており、育苗に関する技術はほぼ確立されたものと思慮する。今後の課題は、育苗時における日照時間・温度と発根の関係解明、計画的出荷を前提として、側枝採穂後2〜3カ月間の保存技術の確立及び採穂苗の選別及び挿芽作業の機械化の実用化等があげられる。

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【側枝苗栽培技術の確立】

1.移植栽植密度
 現在、畝幅1.4m、株間35cm (2,400本/10a) が最適な移植栽植密度であるが、農林9号で株間25cmと50cmで分けつ数を調査したところ、途中段階ではあるが50cm区の方が分けつ数が多い傾向にあり、10aに換算した茎数でも50cm区の方が多い傾向である。よって株間を広げることであまり収量を減らさず面積当たりの苗代をより軽減させることができる可能性がある。

2.かん水方法
 活着率の向上を図るためには、移植後のかん水が特に重要であり、遅くとも移植後翌日までにかん水するのが良い。ペーパーポット苗における移植後かん水時期では、ロール化現象が国頭マージで移植して2日後、ジャーガルと島尻マージでは翌日から観察され、枯死は国頭マージでは移植して3日後、ジャーガルと島尻マージでは2日後から観察される。このことから、いずれの土壌でも移植後翌日までには、かん水が必要と思われる。次に、セル成形苗の移植後のかん水時期は、移植当日遅くとも翌日までに行うことが必要である。ジャーガルと島尻マージでは移植後翌日からはロール化現象が、3日後からは枯死も観察される。また、植付位置が浅いほどロール化現象が早い傾向が見られるので、セル成形苗は移植後はペーパーポット苗より早くかん水する必要があると推察され、気象や圃場条件によるが移植直後の早いかん水が必要である。

3.雑草防除
◇除草剤利用による雑草防除
 分けつ数を確保するためには、移植後初期段階での雑草防除が必要で、省力化の面から除草剤による防除が良い。国頭マージ、ジャーガル、島尻マージの3土壌において農林8号をペーパーポット苗で移植直後(移植後翌日散布)、DCMU 単用とDCMU+アージラン併用の2処理と無処理区と手取り区の計4処理区で試験した。薬量は DCMU100g、アージラン500ml、水量200リットル/10aである。各土壌への除草剤散布は単用区、併用区とも顕著な抑草効果が見られ、手取り区と比べても仮茎長や分けつ数で差が見られず、薬害のような影響はないと思われる。また、無処理区では分けつ数が抑制されるため、雑草防除は必要である。また、ジャーガルで上記と同様の4処理で移植後約1カ月後除草剤散布を行った。雑草発生時の除草剤散布も単用区で少し残草量もあるが、両区とも大きな効果が見られる。生育への影響も移植直後処理と同様で無処理で分けつ数が抑制される以外は仮茎長にも差が見られず、薬害の影響はないと思われる。
◇液状マルチ散布による雑草防除
 移植後の初期作業に有効な雑草対策として、さとうきびの枯葉、バガス、古紙、製糖工場からの糖みつ等の有機質を利用した圃場への被覆処理技術について試験した結果、土壌水分の蒸散防止、土壌流出防止、雑草抑制さらに有機質堆肥の役目を果たす等の効果が得られた。

4.側枝苗機械化移植技術の確立
◇側枝苗移植機の開発・改良
 側枝苗移植は、苗生産から圃場移植までの機械化システムを前提としているため移植機の性能は側枝苗による蔗苗生産体系を確立するための重要なポイントである。
 移植機の開発・改良における目的は、土性を問わない沖縄全域対応の側枝苗移植機の開発である。作業性能の向上と作業可能地域の拡大を図るためには、トラクタ牽引方式植付機の性質上、沖縄本島の重粘土 (国頭マ−ジ、ジャ−ガル) の特性を考慮する必要がある。こうした劣悪な作業条件下での適応性を高めるために、移植機への深耕ロータリーの設置、作溝機 (リジャー) の改良等を試みた結果、十分な作業能率、精度が確保され、作業性能の向上が確認できた。
 一方、沖縄本島の側枝苗生産体系は、ペーパーポット使用からセル成形苗へ移行され、移植機も後者に対応した改良が要求されるようになった。当初、当機種の植付方式はペーパーポット対応であった。そのため、セル成形苗対応の移植機機構改良が必要になった。改良により、重粘土壌地域への適応性の拡大、安定した作業速度と作業精度の確保といった課題は克服され、沖縄全地域での移植作業に対応可能となった。現在、側枝苗移植機は2条植用、3連式タイプを含め、計5タイプ (1つは試験段階) が存在し、沖縄本島、宮古、八重山地域で使用されている。
 今後は作業コストの低減を図るとともに、移植機の普及を検討していかなければならない。
◇小型側枝苗移植機の開発・改良
 側枝苗移植機の開発として、トラクタ牽引式側枝苗移植機の開発・改良を行ってきたが、側枝苗の移植作業においては、克服すべき課題がまだ残されている。
 大型機械を利用するに当たり、沖縄独特の気候条件が重要なポイントとなる。沖縄は多雨地域であり、重粘質土壌地域でもある。そのため、重量となる当機種での植付作業は、降雨が続く場合において非常に困難である。また、沖縄本島におけるさとうきび畑は、一筆当たり10a前後の小規模畑地が多く、小規模畑での大型機械の利用は、大規模面積に比べ、圃場作業効率が低下する。さらに、移植作業は、機械銀行等への作業委託がほとんどであるため、側枝苗利用を農家へ促すには、農家が独自で利用できる作業機も必要と考えられる。これらの課題を解決するため、小型移植機の開発に取り組んだ。側枝苗小型移植機における試験では、1時間当たり5〜6a (1日/30a) の作業効率があり、上記の課題を克服できるものとして期待される。

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IV.側枝苗の特性を活用した作付体系の展開

【側枝苗利用による栽培体系の確立】

 側枝苗の夏植栽培では、平均約9.5トン/10aの単収が期待でき、茎節苗の平均7.5トン/10aに比べ約2トンの増収が見込める。増収の要因は側枝苗の方が活着率が高く、欠株がほとんど見られないためであると判断される。側枝苗と茎節苗で農林9号を用いた植付時期試験 (12、2、4月植え付け) では、側枝苗はいずれの時期でも90%以上の高い活着率であるが、茎節苗では発芽率が悪く60%以下である。
 以上のことから12月〜1月は低温期のため、2節苗は、発芽が遅く、発芽率が悪くなる危険性が高いのに対し、側枝苗は、その危険性も少なく、その時期に移植することで在圃期間も長くなり、収量も増加する。しかも、この時期は、比較的降水量も少ないことから、機械植付けがスムーズに行える可能性もあり、在圃期間調整で春植えの振興促進や作型または作付体系の多様化 (輪作・間作など) が図れる可能性がある。さらに、側枝苗は、植付段階で苗が揃っているため、生育も揃い肥培管理が容易となるため、間作に適している。輪・間作体系の実施により、環境保全型の高収益作物生産が可能になるとともにさとうきびの増収が期待できる。今後の課題としては、側枝苗の特徴を活用した多収栽培法 (適正な株間、施肥法等) の確立が必要である。



【製糖工場の早期操業の可能性】

 側枝苗は、これまでの春植え (2〜4月) と夏植え (8〜10月) 以外の作付け (11〜1月の冬植) が可能であり、側枝苗の特性を活かす方法の1つである。製糖工場の操業時期も現行 (1〜3月) より早めることが可能になれば、収穫後の更新新植時に側枝苗を用いて同時に移植でき、土地利用の高度化と収穫面積の安定的な確保の可能性がある。
 工場の操業時期を早めることは(とりあえず12〜2月)、降雨等の影響で稼働率が低いハーベスタ収穫や葉タバコ等の輪作体系にとっても良い影響を及ぼすと推定される。
 しかし、製糖工場の操業の時期を早めることの最大の問題は糖度がまだピークに達していないということであると思われる。しかし、最近では農林8号のような早期高糖性の品種が増えてきており、今後もそのような早期高糖性の品種の育成・普及により、ある程度解決できると推察される。
 以上のことから、側枝苗の特性を活かし普及を図るため、製糖時期を若干早くシフトするのは機械の効率的な利用の面からも (降水量の少ない時期において好条件での機械化収穫や植付け)、栽培的な面からも (側枝苗を利用した早植えや株出圃場の増加、輪・間作の推進)、育種的な面からも (早期高糖性品種の普及)、良い結果につながり、さとうきび生産量が増加するのではないかと思われる。

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V.側枝苗展示ほ設置農家の声

 本事業では平成9年度〜11年度の間、側枝苗の実証展示ほを県下各地区に設置したが、実際に側枝苗を栽培管理した農家の感想・意見を要約すると以下のとおりである。
●植え付け後の活着率が高い (欠株が少ない)。……補植の手間が省ける。
●分けつが多い。(株揃いが良い。) ……管理作業がし易い。適期管理ができるため単収が上がる。また、株出地域では株出体系に向いている苗である。
●植付けが計画的にできる。(天候に左右されない。)……数週間の保管も可能である。
●茎節苗のように調苗の必要がない。(移植苗収穫→調苗→植え付け等、人力に頼る一連の作業から解放される。) ……夏植時期の炎天下労働や収穫作業と重複する春植えとの競合が避けられる。
●植付け後かん水が必要であることや除草剤に弱いという特徴があるが、これも適期管理をすれば解決できる。
 このような中、一部では展示ほ農家からの要望で行政をあげて側枝苗の普及に取り組むところが出てきた。また、個人で側枝苗を導入する農家も現れるなど僅かであるが普及に弾みがついている。一方で、側枝苗栽培は生産農家の肥培管理技術の優劣により収量・品質に格差が現れるなど技術の平準化が課題である。

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VI.おわりに

 さとうきび側枝苗増殖・育苗技術及び栽培管理技術は、まだこれから開発・改良されていく分野も残されているが、今後、試験研究等の進展に伴い逐次改善されていくものと思慮される。また、側枝苗は茎節苗の欠株対策 (補植用) はもちろんのこと、優良種苗の効率的生産・普及や経営規模拡大にもその可能性が残されている。

側枝苗のメリットとデメリット
メリット デメリット
  • 小面積で多量の苗生産が可能 (その分収穫面積が増加する)
  • 活着率が高い (補植がほとんど不必要) ため、単収が高い。
  • 苗揃いがよく肥培管理が容易である。
  • 種苗が軽量で移植機の軽量化も図れる。
  • 機械植に適している。(重労働からの解放)
  • 慣行植付けに比べ在圃期間が調整できる。
  • 優良種苗の普及に効果的である。
  • 新植や株出の補植として利用できる。
  • 輪・間作に向いている。
  • 植付け後活着までの初期にかん水が必要である。(必ずしもデメリットとはいえない。)
  • 種苗コストがかかる。
  • 1本からの分けつが多い。
  • 安定的種苗生産に施設が必要である。
  • 種苗コストがかかる。

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