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さとうきび生産の安定化に向けて

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最終更新日:2010年3月6日

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事業団から
[2000年10月]
シリーズ・農畜産業振興事業団助成事業の結果報告

 農畜産業振興事業団の助成事業も3年を経過し、その事業内容及び成果についての広報が各方面から求められています。そこで、助成事業実施主体からの各事業の実施報告をシリーズで掲載しています。今月号では、さとうきび安定生産推進事業について、(社)鹿児島県糖業振興協会の松元事務局長から報告していただきます。
 さとうきび生産においては、近年、単収が低水準で推移しており、これは、かん水に必要な水資源の確保が不十分、さとうきび農家の方々のかん水に対する意識の低さなどにより、かん水作業が十分に行われていないことも一因であると考えられることから、さとうきび安定生産推進事業を創設し、かん水チューブ等の整備を中心とした事業を平成9年度から3ヵ年を目途に実施しております。
 この事業を契機として、さとうきび農家の方々のかん水に対する意識が喚起され、限られた水資源を有効に活用したかん水チューブ等の整備が行われ、かん水ほ場面積が拡大され、さとうきびの増収が図られることを期待します。

社団法人鹿児島県糖業振興協会 事務局長 松元 幸男


はじめに
1.奄美地域における干ばつ被害の特徴
2. 事業実施地区の概要
3. 事業の概要
 (1) 安定生産条件整備事業   (2) 安定生産推進指導事業
4. 畑地かんがいを基幹技術とするさとうきび作りの展開に向けて


はじめに

 奄美地域のさとうきび作は、台風、干ばつ等の気象災害によって収量が不安定となることは良く知られており、なかでも干ばつの影響が最も大きいと言われている。
 このようなことから、奄美地域においては、畑地かんがいを基幹とする土地基盤の整備に着手し、国営のダム建設は、徳之島の母間ダムを皮切りに、大島本島で2ヵ所、徳之島で6ヵ所が既に完成し、県営畑地帯総合土地改良事業等に引き継がれ、区画整理、畑地かんがい、農道整備等が総合的に進められている。
 これらの他に、喜界島では地下ダム工事が平成4年度から、徳之島では、これまでにない大型ダムの建設が平成9年度から着手され、各々平成13年、18年度完成を目指して工事が進められている。
 奄美地域の畑地かんがいの整備状況は、県本土に比べて進捗率が低く、県全体の31.2%に対して、奄美全体で15.6%、当該事業を実施する徳之島は13.0%となっている。
 これらの事業は、事業着手から完成まで長い期間を要し、奄美地域の畑地かんがい計画面積12,160ha全体の完成を見るまでは、かなりの年月を要することとなる。
 鹿児島県における当該事業(さとうきび安定生産推進事業)の取り組みは、将来奄美地域において計画されている「大規模畑かん営農」の実践に先だって、小規模の畑地かんがいを実施し、さとうきびに対する畑地かんがいの効果の確認と当該地区の営農活動の推進を図ることを目的に大島郡伊仙町面縄阿木野地区を対象とし実施したものである。
 事業は平成11年度の単年度であったが、事業の成果と今後の課題について紹介する。

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1.奄美地域における干ばつ被害の特徴

 奄美地域のさとうきびは、本来6月から9月期の伸長量が全伸長量の概ね80%を占め、収量に最も大きな影響を及ぼす時期である。
 一方、年間の降水分布は、通常3〜4月が多く、5〜6月上旬までが梅雨の期間で最大となり、7〜10月は台風の影響以外にまとまった雨を得ることはほとんどなく干ばつになることが多い。
 表1は、奄美地域において、近年記録的な干ばつ年となった昭和56、61年のさとうきびの月別の伸長量と収量を平年値と比較したものである。

表1 干ばつ年におけるさとうきびの月別伸長量と収量

資料:鹿児島県農業試験場徳之島支場
作 型 年 産 月別伸長量 収 穫 時
6月 7月 8月 9月 茎 長 一茎重 茎 数 収 量
春 植 56
61
平年
78%
56%
18cm
33%
56%
63cm
40%
51%
55cm
47%
132%
34cm
48%
71%
191cm
48%
72%
671g
90%
99%
1,013本/a
43%
71%
681kg/a
株 出 56
61
平年
58%
39%
64cm
26%
80%
50cm
36%
45%
47cm
66%
109%
32cm
51%
60%
228cm
54%
57%
866g
84%
101%
1,011本/a
44%
55%
901kg/a
夏 植 56
61
平年
54%
41%
63cm
30%
80%
44cm
45%
76%
42cm
68%
118%
28cm
55%
91%
229cm
57%
85%
891g
99%
101%
1,008本/a
55%
84%
923kg/a
注1)昭56、61年産の数値単位は平年の伸長量に対する割合、平年数値は実測値である。
注2)平年数値は昭55〜61年産のうち昭56、61年産を除く5年間の平均値である。

 春植、株出、夏植の各作型とも、例年6月初旬までは茎長にそれほどの較差は見られないが、干ばつ年の昭和56、61年は、その後の茎の伸長が極端に悪くなってくる。
 それに比べて茎数は、干ばつ年でも変動が小さく、昭和56年の株出、春植栽培で1割程度減少しているが、これが干ばつの影響によるものかどうか判然としない。
 干ばつ年となった昭和56、61年は、6月〜9月の降水量が平年の23%、42%となり、この時期の茎の伸長量が抑制され、原料茎長が短くなっている。
 干ばつ年におけるさとうきび生育の大きな特徴は、茎の伸長が極端に抑制され、茎重が軽くなり減収することである。
 さらに干ばつは、バッタ、メイチュウ、カンシャワタアブラムシ等の発生を助長し、単収と品質低下等の複合的な被害発生も報告されている。

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2.事業実施地区の概要

 当該事業を実施した伊仙町阿木野地区は、徳之島の南東部に位置し、農業条件は平坦部が多く、地形的には恵まれているが、夏季は干ばつの常襲地帯となっている。
 徳之島においては、前述の国営、県営の土地基盤整備、土地改良事業を実施中であるが、当該地区は徳之島東部畑かん地区並びに中部畑かん地区の峡間にあり、両畑かん地区の対象外となっている。
 その理由は、当該地区は平坦で地形的に恵まれていたことから、古くから農家個々のほ場整備への投資が進み、30〜50a区画ほ場に整備されていることから、畑地かんがい事業導入のために、ほ場の区画整理への再投資に難色を示したことによる。
 そのため、簡易な畑地かんがいの実施の要望が強く、当該事業を導入することとなった。
 水利用組織の結成は、地域の専業農家3戸が中核となり、阿木野地区水利用組合を結成し運営している。これら中核農家3戸の営農類型は、「さとうきび+肉用牛(生産牛)」、「さとうきび+野菜(バレイショ)」、「さとうきび+花き(ソリダゴ、キク)」であり、その他は「さとうきび専作」、「さとうきび+野菜」、「さとうきび+肉用牛(生産牛)」の複合経営であり、今回の畑地かんがい面積は普通畑の約8haである。

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3.事業成果の概要

 この事業は、「条件整備事業」と「推進指導事業」に区分され、事業実施に当たり水資源確保のために、別途事業で2基の井戸を採掘している。また、推進指導事業では、畑かん営農の推進のための営農志向調査、実証ほの設置、研修会等を実施した。

かん水状況(レインガン方式)
さとうきびへのかん水状況(レインガン)
(1) 安定生産条件整備事業

 地区の中核農家3戸を中心に「阿木野地区水利用組合」を結成し、畑かん受益面積約8haを対象とした水利用計画であり、総予算950万で補助率を50%としている。
 かん水はレインガン方式として、別途事業で設置した井戸から取水した後、簡易ファームポンド(簡易貯水槽)に貯水し、レインガンに接続する仕組みとなる。
 取水からかん水までの一連の行程を図1に示した。
 今年から春植、夏植の新植栽培並びに株出栽培への本格的ブロックローテーションによるかん水が計画されている。

図1 阿木野地区における畑地かんがいの行程
阿木野地区における畑地かんがいの行程図

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(2) 安定生産推進指導事業

1) 畑地かんがい営農検討会の開催
 「さとうきび作における水利用の効果」をメインテーマとして、平成12年3月10日に伊仙町阿木野地区において現地検討会、引き続き伊仙町面縄公民館において室内検討会を開催した。
 現地検討では、かんがい施設設置の経過並びに今後の水利用計画等について、阿木野地区水利組合長並びに伊仙町役場から報告を受けた。
 室内検討では、当協会が調査した対象地区農家13戸の畑地かんがい実施後の営農志向、畑地かんがいへの期待等についてヒヤリング調査結果の報告を行った。
 その後、農業試験場徳之島支場土壌肥料研究室長から、畑地かんがいに係る既住の試験研究成果をもとに「さとうきびに対する水利用の効果」について講演をうけた。
 その要旨は、奄美地域に広く分布している琉球石灰岩土壌へのかん水の必要性に始まり、さとうきびに対する畑地かんがい効果について、かん水法の違いとかん水効果(表2)、スプリンクラーかん水におけるかん水量の効果比較等が主な内容であった。
 現在、徳之島で畑地かんがいを実施している地区の工事費の受益者負担金は、ほ場区画や耕土条件等によって多少異なるが、10a当たり30,000〜50,000円(補助率95%)、水利用料金は、年間約2,000円程度である。

表2 かん水法の違いとかん水効果

資料:鹿児島県農業試験場徳之島支場
かん水の方法 原料茎重
(kg/a)
糖  度
(%)
可製糖量
(kg/a)
無かん水
点滴かん水
スプリンクラーかん水
545 (100)
813 (149)
832 (153)
16.8 (100)
17.2 (103)
17.5 (104)
70.6 (100)
109 (154)
113 (160)
注1)かん水量:点滴 2.5mm、 スプリンクラー 5.0mm
注2)品種:NCo 310 (昭56〜59年産)

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2) 農家の意向調査
 平成11年12月1日から3日間、阿木野地区の畑地かんがい計画農家の営農志向について聞き取り調査を行った。
 調査戸数13戸のうち、代表的な10戸について概要を表3に示す。
 調査農家のほとんどがさとうきびを主軸に、バレイショ、肉用牛(生産牛)、花き等と組み合わせた複合経営である。
 さとうきびを主軸とする土地利用体系は、さとうきび(春植−株1(株出1年目)−株2(株出2年目)) −バレイショ、さとうきび(夏植−株1)−バレイショ−緑肥(または飼料作物)である。
 干ばつの発生状況については、葉のロール化現象、茎の伸長抑制、枯死、茎の海綿化、台風被害の助長等が挙げられた。
 畑かんに期待する事項としては、さとうきびでは単収と品質向上、夏植栽培の計画的植付、畑かん効果の高い品種への更新、計画的土地利用体系の確保が挙げられた。
 その他では花き作への水利用の利便性、また一方では、水利用の平等性の指摘もあった。
 畑かんを前提とした営農志向では、さとうきびを主幹として野菜(バレイショ)、花き(キク、ソリダゴ)、肉用牛(生産牛)等を組み合わせたもので従来と変わらないが、一層の規模拡大や計画的な作付け体系による所得向上への意欲がみられた。

表3 畑地かんがい農家の営農志向 表3 畑地かんがい農家の営農志向

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3) 栽培管理指導
 平成12年2月29日、阿木野地区に設置した畑地かんがい実証ほ場植付けを行った。
 植付け時に、対象農家、農業改良普及所、町役場、JA徳之島、同天城、製糖会社等の参集のもと、ケーンハーベスタ収穫に適応する作式、植付け、管理法の他に、畑かん用機器(レインガン)の解説並びにかん水方法指導、さとうきびの輪作効果、堆肥や緑肥の効用等についての実地指導検討を行った。

4) 指導研修会の開催
 平成12年12月20日、東面縄公民館において生産者等15名参集のもと研修会を開催した。
 研修の内容は、さとうきびの主要品種の解説、さとうきびへの畑地かんがい効果、さとうきびの損益分岐点について研修を行った。
 さとうきびの主要品種については、奄美地域の主要品種NiF8及びF177について、品種の来歴、収量、品質、その他の特徴、栽培上の注意事項等について解説した。
 さとうきびへの畑地かんがいの効果については、かん水方法、かん水量、干ばつ年におけるかん水効果について解説した。
 さとうきびの損益分岐点については、鹿児島県農政部で毎年作成されている「作目別収益性標準」資料から算出した作型別の損益分岐点について解説した。
 さとうきび作型別の損益分岐点は、春植栽培5.7トン(114,000円)、夏植栽培8トン(160,000円)、株出栽培5.1トン(102,000円)となることから、現在当該地域の春植、夏植栽培の単収は、損益分岐点上かまたはそれに満たないところにあること、さとうきび作りは株出栽培が有利で重要であることを強調した。

5) 実証ほの設置
 阿木野地区において、小規模畑地かんがい事業を開始するに当たり、さとうきびに対する畑地かんがい効果の実証と展示を目的として、地区の中心部に春植栽培で30aの実証ほを設置し実施中である。
 実証内容は、品種F177、かん水方式はレインガン方式、かん水区と無かん水区を設け生育や単収品質等の比較を行うこととしている。

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4.畑地かんがいを基幹技術とするさとうきび作りの展開に向けて

 奄美地域のさとうきび作りは、気象との戦いとも言われ、過去の災害事例から見ても干ばつが最も大きな被害を与えている。
 かつて、リービッヒが指摘した「最小律の原理」に見られるように、奄美地域のさとうきび作りは、水がネックになって、その他の技術的な対策をどんなに講じても無駄になるとの感情が、単収向上意欲を大きく阻害してきた経緯がある。
 新しい技術で農家が関心を示すものは「品種」の導入等、支払いコストを伴わない技術で、それ以外の技術にはあまり関心を示していなかった。
 水が収量構成の最小律となっている以上、支払いコストを伴う技術は、収益性向上技術として確実なものでなければ、現金収入に乏しい農家にとって、導入を躊躇するのは至極当然のことである。
 水利用という新たな基幹技術の導入は、これまで有用とされながらも、その導入を躊躇してきた技術の導入をも可能とし、収益性向上の意欲高揚を図る相乗効果としても期待できるところである。
 水利用を可能とした農家の今後の課題は、技術問題としては、限られた水資源活用の面から節水栽培技術の確立、台風後の塩害対策、薬剤散布等の多目的水利用技術の確立等であり、また、水利用組織の運営上の課題として、「水利用の平等性確保」が重要となろう。

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