熱心に耳を傾ける会場の参加者 |
九州では、温暖な気候や多様な地勢を活かした特色のある農業が展開され、地域の特産物を利用した豊かな食文化が形成されている。一方、BSE問題や鳥インフルエンザの発生をはじめ、「食」の安全と安心に対する信頼が大きく揺らいでいる。このような中で、近年、地産地消運動が活発化しているが、九州農政局では従来から、地産地消の理念やその意義について関係者の理解を深めるためにシンポジウムを開催する等によりその啓発を図ってきた。
一方、独立行政法人農畜産業振興機構は、中期目標で食料・農業・農村基本計画に掲げる望ましい食料消費の姿、食品の健康に果たす役割等についての理解を深めるとともにリスクコミュニケーションの充実等に資するよう、情報収集提供業務を実施することとされている。このため、15年度下半期から、地方農政局と連携してフォーラムを開催する等により、「食」や「農」についての各種情報を広く国民の皆様に提供している。
このような中で、九州農政局では、地産地消の先進的な取組みを紹介しその戦略的な展開を図るためシンポジウムの開催を計画されたが、その内容は地域農業の活性化、消費者の食に対する正しい理解の増進等につながるものであり機構としても大変有意義と考えられることから、九州農政局と共催で開催することとなった。
基調講演の木内博一氏 |
シンポジウムは、九州における地産地消の戦略的展開と題して、熊本市のパレアホールで3月11日(木)の午後に行われ、熊本県内だけでなく九州の各県から生産者、消費者、行政関係者等約250人の方々が参加され、熱心な議論が行われた。
シンポジウムでは、まず基調講演で、千葉県の農事組合法人「和郷園」の代表理事の木内博一氏から、「野菜の生産から消費まで 〜戦略的アグリビジネスの展開〜」として、法人経営を始めるに至った経緯、トレーサビリティ、リサイクル、パッケージセンター、冷凍野菜工場の導入、直売所やレストラン等の取組みの内容、野菜のアジアへの輸出を含めた今後の展開方向等について詳しくお話いただいた。的確な方針の下で戦略性を持って進められている取組みは大変参考になり、会場からも大きな反響があった。
引き続き、各地の地産地消の取組みに精通されている平岡豊氏をコーディネーターとして、各地で地産地消を実践されている以下のパネリストの皆さんから提言をしていただき、地産地消の戦略的展開についてパネルディスカッションを行った。
秋永 優子氏
(福岡教育大学助教授)
諫山 尚人氏
(宮崎日日新聞社報道部)
神宮司恒幸氏
(鹿児島県大島農業改良普及センター次長)
中山 敬子氏
(農事組合法人中山牧場販売担当)
宮嵜真里子氏
(熊本市立出水南中学校学校栄養職員)
和田信司氏
(宗政酒造株式会社取締役製造部長)
パネルディスカッション |
提言では、畜産関係では、佐賀県産の稲わらによる牛の肥育と食肉の消費者への直売を行っている中山氏から、自分が1頭1頭の牛の状況を知っているから自信を持って消費者に安全・安心を伝えられる、サトウキビ関係では、大島紬の着物姿で登壇された神宮司氏から、奄美大島宇検村では地元サトウキビの地場黒糖焼酎や菓子の原料への利用を通じて、サトウキビ栽培面積の増加、地域の雇用の増加等につながっている等の報告があった。
パネルディスカッションでは、学校給食への地場産食材の利用について、子供の「食」や「農」への理解の促進といった効果とともに、生産現場と学校給食の現場との連携は必ずしも十分ではないのでは等の意見も出され、会場との間も含め、地産地消の進め方について活発な討議が行われた。
今回のシンポジウムは、地域の声を直接聞くことができ、また、広く様々な角度から地産地消の今後の展開について発信するよい機会となった。機構としても今回のシンポジウムを踏まえ、地産地消の取組みを応援していきたいと考えている。