[2004年4月]
EUにおける砂糖普及促進活動について
調査情報部
はじめに
EUにおいて砂糖を普及させようとする活動は、全国規模で組織されており、主として各加盟国の砂糖産業(栽培農家、加工業者、食品製造業者)から資金の提供がなされている。EU の砂糖産業は、伝統的に大きな広告主は存在せず、ここ数年、普及促進活動の経費はわずかとなっている。EUの砂糖産業の将来の見通しが不確定なため、砂糖産業全体は現在の砂糖普及活動に対して慎重である。普及活動の主な目的は、砂糖の消費拡大よりも現在の消費レベルを維持することにある。具体的には、砂糖の消費を健康的なライフスタイルの一環とするという提案や砂糖を食品成分のひとつとして捉え、砂糖の持つプラスイメージを強調することによって、砂糖に対する肯定的なイメージを作り上げるといった活動である。
フランス、ドイツ、スペイン、イギリスには、砂糖の普及促進活動を行っている機関がある。これらの国では、砂糖産業がそれぞれの機関に資金を提供している。その他のEU加盟国については、特定の精製糖企業が普及促進活動を行う機関に対し、資金を提供している。これに該当するのが、オーストリア、フィンランド、スウェーデン、デンマークである。
1.フランス
砂糖調査情報センター(CEDUS)は、1932年フランスで砂糖を普及促進させるために設立された。この機関は、学校や学会と協力し、砂糖の様々な面を取り上げた教材を提供している。その教材は、ビートとさとうきびの栽培、原料作物から原料糖への製造工程、国際砂糖市場について、砂糖と健康についての関係等が取り上げられている。
CEDUSは、栄養の分野に取り組んでいる組織や機関と密接な関係を保持しているとともに、内分泌学、社会学、食品心理学、その他栄養学のあらゆる側面の専門家と協力関係にある。また、栄養学の調査を奨励し、調査結果を医師や医療専門家に広める活動を行っている。
砂糖広告キャンペーンは、食品調査情報センター(CEDAL)によって行われている。CEDUSとCEDALはポスターや新聞、テレビCMを通じてバランスのとれた食生活の一環として砂糖の消費拡大を目指している。1990年以降、CEDUSはフランスで毎年10月に行われる味覚週間において砂糖の普及促進活動を行ってきた。この時の活動内容は、CEDUSは食品成分としての砂糖のプラスイメージを強調し、砂糖は食生活を豊かにするものであり、砂糖を摂ればバランスのよい食生活をおくれるとアピールした。さらに、我々が甘い食品を好むのは、生まれながらのものであり、砂糖を摂取することは、砂糖が「脳のエネルギー」と呼ばれるように、心と精神に良い影響をもたらすことを意味しているとも示唆している。
2.ドイツ
ドイツの一般的な砂糖消費促進活動は、農産物の消費促進活動とマーケティングを国内外へ向けて行っている中央マーケティング局(CMA)が担当している。CMAは1969年に設立された。CMAは、EUからの寄付とともにドイツの農産業から主に資金提供を受けている。砂糖と食生活についての教材、砂糖と健康及び栄養について議論された議事録のデータベース、砂糖の調理文化への貢献の評価等の提供を行っている。
3.イギリス
イギリスで砂糖普及活動を行っているThe Sugar Bureauは、精製糖企業であるTate & Lyleとビート糖企業であるBritish Sugarから資金の提供を受けている。また、Irish Sugarとイギリス商業組合からは、わずかではあるが寄付を受け、活動資金にしている。1990年以降、The Sugar Bureauは、栄養調査の普及と食生活での正しい砂糖の役割を研究者、医療専門家、マスコミ、一般消費者に対し普及啓発を図るべく活動を展開している。
The Sugar Bureauでは、世界的規模の科学雑誌に掲載された栄養科学の動向を注視し、歯科衛生、ウェイトコントロール、食事のガイドラインに至るまで、砂糖に関する様々な情報をデータベースとして保存している。また、イギリス中の学術機関が行っている科学調査に対する資金提供を行っている。
ホームページ上では、砂糖と健康に関する情報を提供しており、医療専門家向けのNutrition in PracticeとDental Digestという2つのレポートを発行し、年3回無料で配布されている。この他にもGrowing up with Healthy Teeth、Losing Weight and Keeping it Off、Looking Good、Feeling Great、Looking After Your Babys Teethなどの患者用パンフレットもイギリスの医療専門家へ配布されている。
The Sugar Bureauは、最近砂糖摂取に関する健康問題のレポートをイギリス政府に提出した。このレポートは、政府の食品における医学的見地と栄養政策委員会(COMA)が1991年に発表した「イギリスのための食物エネルギーと栄養素の基準値」というレポートを受けて作成されたものである。
The Sugar Bureauのキャンペーンメッセージには「砂糖は自然のものである」「砂糖は人々がやせる食生活を手助けをする」「砂糖は食品をおいしくする」「活動的な人には砂糖が必要である」などがある。
4.スペイン
スペインの主要な砂糖普及活動機関は、1986年にスペインの砂糖産業によって設立されたスペイン砂糖ビート研究機関(IEDAR)である。この機関は食生活と健康についての調査や健全な食習慣に関する情報を一般の人々に普及することを目的としている。IEDARは、食生活と健康に関する情報を一般の人々に提供するために医療機関、科学組織、教育機関と協力し、食生活と健康、特に砂糖と健康に関する資料を発行している。また、IEDARは、FAOやWHO等の国際的機関とも連携を図っている。
スペインでは、砂糖は天然かつ高いエネルギーを持つ食品であり、料理に砂糖を利用すると質感、色、風味、香りを添えてくれる素材として高く評価されていることから、他の食品には類をみない特徴を持っている食品として普及促進の対象となっている。
IEDARは、1986年から1998年の間に多くの砂糖普及活動促進キャンペーンを行っていたが、EU砂糖制度の先行きが不透明であることや宣伝費用の見直しを理由に同機関が行っているキャンペーンを縮小し、ここ数年テレビキャンペーンを休止している。
5.オーストリア
Agranaは、オーストリアで唯一砂糖を生産し普及促進に努めている機関である。Agranaの関心事項は、ブランドキャンペーンである。Agrana Marketing und Vertriebsservice Ges.m.b.HはWiener Zuckerというブランドのマーケティングと広告を担当している。このブランドは「人生の甘い側面」という方針に基づいて市場に出回っており、「砂糖は人生において良い、美しい、楽しい、甘いという言葉と同義語である」としている。Wiener Zuckerは、大切なものであり、人生を楽しむために自然なことであるということが消費者へのメッセージである。
6.フィンランド・スウェーデン・デンマーク
この3カ国にとっては、Danisco Sugarが唯一の精製糖企業でもあるとともに、砂糖の普及促進活動も行っている。その活動内容は、健康、安全性、環境、品質、倫理といった概念を踏まえて活動しており、その目的は、砂糖に対する消費者の高い信頼を得ることであるとし、さらに「砂糖はバランスのとれた食生活と健全なライフスタイルの一部である」と訴え、理解を求めている。
Danisco社は、顧客とのコミュニケーションの重要性を認識していることから、最近Sweet Dialogue for IndustryとSweet News for Retailersというレポートを発行した。企業と顧客が対話できるように、スウェーデンとデンマークの工場で顧客向けのセミナーを開催している。Danisco社は最近の砂糖と健康に関するマスメディアとの討論内容を受け、生産業を営んでいる顧客向けに砂糖の正しい知識の資料を作成した。
Danisco社は、2003年に、太りすぎ、食生活、運動等の問題を扱ったPhysical activity and weightと題した若者向けパンフレットを作成した。また、ホームページ上でも砂糖と栄養に関する最新の科学的情報を提供するために、砂糖の問題に関する議論に対し、本格的に貢献すべく尽力している。