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最終更新日:2010年3月6日
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(1) | 農務長官は2002年農業法により、ローン・プログラム(短期融資制度)下での質流れを防止することによって、ネットの財政負担がかからないよう(at no net cost)、砂糖プログラムを実施することが求められている。2002年農業法では、96年農業法と比べて、ローン・プログラムなどについていくつかの変更が行われたが、概要は表1のとおりである。 |
表1 96年および2002年農業法における砂糖プログラムの主な相違点
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(2) | 砂糖プログラムには、穀物・畜産セクターで採られている直接支払や輸出補助金はない。 | |||||
(3) | 砂糖プログラムの対象は精製糖事業者と生産者であり、基本プログラムは、ローン・プログラム、販売割当と関税割当(TRQ)の3つである。これらによって、適切な国内需給バランスを保ち、国内価格の安定化が図られている。 | |||||
[1] | ローン・プログラム:価格支持と製糖事業者への金融政策 商品金融公社(CCC:Commodity Credit Corporation)が、製糖事業者に対して砂糖を担保に融資する制度で、利用は任意である。砂糖価格が低下する場合には、製糖事業者は現金による返済はせず、担保砂糖の没収(質流れ)によって、返済義務が免除される。融資額(ローンレート)は、農業法で固定されているが、貸出金利(市中金利より1.5〜2.0%有利)は毎月変動する(2004年7月現在3%)。融資は、年度当初から適用となり、ローンが組まれた月の翌月1日から9ヶ月間、又は年度末(9月30日)までのいずれか早い日が融資期限となる。 融資の利用率は、てん菜糖の方が甘しゃ糖より2〜3倍高く、生産量に対する利用率は、てん菜糖が5〜6割、甘しゃ糖が2〜3割となっている。 製糖事業者の受給資格は以下のとおりである。 |
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なお、ローン・プログラムを利用する甘しゃ糖の製糖事業者は、生産者保証価格でさとうきびを買い上げる義務が生じる。てん菜の場合には、多くの製糖事業者が農家所有となっており、生産者としては彼らの支払額に農務省が介入し、調査すること自体快く思っていない。このため、生産者と製糖事業者間で締結される収益販売契約書の中で記載される支払額を、農務省が最低保証価格として使用することになっている。 |
図1 ローン・プログラムの仕組み
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表2 甘しゃ糖のローンレートおよびさとうきびの最低保証価格(生数値)(2003作物年度)
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表3 てん菜糖のローンレート(2003作物年度)
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[2] | 販売割当:間接的な生産制限策 | |
96年農業法で停止されていた制度であるが、2002年農業法で砂糖産業などの要請を受けて再導入された。この制度は、生産段階ではなく、「出口」である製糖事業者の販売数量を法律によって規制して、国内需給のバランスを図ろうとする制度である。 具体的には、農務長官が、推定砂糖消費量と合理的な繰越在庫量(carryover stocks:推定期末在庫)から、約153万ショートトンの砂糖(粗糖換算)とCCCの在庫を含む期初在庫(carry-in-stock)を差し引いて、毎年の作物年度向けの全体の砂糖の割当数量(overall quantity)を決定する。 全体の割当量は、てん菜糖は54.35%、甘しゃ糖は45.65%の割合で、糖種別に分割して、その後、製糖事業者ごとに割当てられる。2003年度の全体の割当量は、8,550千ショートトンで、うちてん菜糖は、4,647千ショートトン、甘しゃ糖は3,903千ショートトンとなっている。甘しゃ糖については、割当数量公表後に生産州にも割り当てられる。また、ハワイとプエルトリコには合わせて325千ショートトンが割り当てられる。 割当数量の公表に当たっては、製糖事業者および生産者からの要求に応じヒアリングが行われるが、割当の実施は、農務長官による数量の公表でもって行われる。個々の製糖事業者への割当は、2002年農業法で定めるフォーミュラーにより決定される。すなわち、てん菜糖の製糖事業者については、過去の生産量(1998〜2000年度)、一方、甘しゃ糖の製糖事業者については、過去の販売量、マーケッティング力、過去の製糖実績に基づき割当量が決定される。製糖事業者から各生産者への割当は、法律上、過去の生産実績に基づくこととされている(精製糖、調製品、再輸出用、アルコール製造向けのものは、当該割当から除外)。 各製糖会社は、割当量を超えた販売は禁止されている。ただし、他の製糖事業者が当該製糖事業者の割当分を代行して製造販売する場合、砂糖を輸出する場合、食用以外の用途で販売する場合には、この限りではない。 農務省は、砂糖の輸入量が約153万2千トンを超えると予測する場合に、当該制度を停止(suspend)することができる。これは、全体の割当数量を削減する効果がある。また、農務長官には、質流れを防止するため、販売割当の実施中に割当量を調整する権限が与えられている。 制度の実効性を担保するため、製糖事業者には生産量、在庫量などの毎月の報告義務、割当量を超過した場合のペナルティ義務(市場価格の3倍)が課せられている。 |
図2 販売割当の仕組み
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表4 2003年度販売割当の推計 | (単位:千STRV) | ||||||
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[3] | 関税割当:輸入管理政策 | |
WTOのミニマム・アクセス枠(グローバル・クォータ)と北米自由貿易協定(NAFTA)などのFTAに基づく二国間枠に大別される。 粗糖については、WTOのミニマム・アクセス(MA)として、過去(1975〜1981年)の輸入実績に基づき、40カ国に割り当てられており(約118万トン(注))、国別の輸入量が上限に達した段階で、輸入者は2次税率でしか輸入できなくなる(日本のように個々の輸入者やユーザーへ関税割当証明書を発行して、個別に輸入量をチェックする仕組みとは異なる)。NAFTAの下ではメキシコへの割当があるが、2008年にかけて2次税率が段階的に削減され、2008年にはTRQが撤廃されることになっている。 精製糖については、WTOのミニマム・アクセス枠として22,000トンの輸入数量が設定されており、その他に特殊糖の枠として17,000トンの関税割当があるが、粗糖と比べ数量も少なく、国内の市況に影響を与える水準ではない。 加糖調製品については、しょ糖含有量に応じて3つに区分されているが、国内砂糖需給に大きな影響を与えるしょ糖含量65%を超える調製品については、関税率表上割当を行わないことになっている(ただし、枠外税率での輸入は可能)。 その他、砂糖菓子などの砂糖を含む最終製品(小売製品)の税率は無税から5.6%となっており、前述のように近年(1995/96年以降)、生産工場の海外進出を背景として輸入が増加している。 |
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(注)2004/05年度の実績として、ドミニカ共和国185,335トン、ブラジル152,691トン、フィリピン142,160トンなどを割り当てした。 |
表5 米国の砂糖の関税割当計画 | (単位:トン、粗糖換算) | ||||||
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(4) | 精製糖事業者へのプログラムは、再輸出プログラムのみがある。 これは、国内の精製糖事業者などが、粗糖を輸入して一定期間内に精製糖や調製品を製造し、再輸出される場合に適用される加工貿易プログラムであり、輸入量を関税割当によって制限されてきた精製糖企業にとって、工場の稼働率の低下を防ぐ唯一の救済的プログラムといえる。 輸入粗糖(原料糖)は通常関税割当の対象となるが、当該プログラムで輸入される場合は関税割当の適用外となり、供給国が特恵対象国にかかわらず無税で輸入できる。本プログラムの利用者は、農務長官が発行する許可証(license)が必要となり、許可を受けた精製糖会社は、(1) 精製糖などを90日以内に再輸出する、(2) 5万トン/日以上の許可在庫を持たないなどの条件が課せられる。また、この制度の運用に当たっては、精製糖企業に対する監査も行い、違法行為などがあれば罰金を課すこととしている。 近年、この制度によって30〜40万トンの粗糖の輸入がなされているが、2002年度は40万トンの粗糖が輸入され、うち15万トンは精製糖、25万トンは調製品として輸出された。 なお、このプログラムを利用して精製糖などを再輸出する際には、輸出信用プログラムが制度上利用可能であり、実際利用されていると思われる。 |
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(1) | 商品金融公社(CCC)への質流れが起こった1999年度の砂糖生産量は8,194千トンであった。その後減少傾向が続き、2003年度(推定値)では、1999年度と同水準の8,131千トンまで上昇した。 |
(2) | この間、食品・飲料向け需要は、1999年度の9,065千トンから2003年度には8,772千トンまで減少した。砂糖の消費動向については、1980年代半ばに米国の飲料メーカーが異性化糖の利用にシフトしたため、砂糖の消費は停滞することとなった。この「代用品」の勢いは1987年まで続いたが、その後、砂糖需要は顕著な回復傾向に転じた。 しかし、2001年以降、砂糖消費は再び減少傾向に転じた。これは、砂糖製品の輸入と低炭水化物ダイエット(low-carbohydrate diet)などが原因とみられている。 |
(3) | 輸入量は、1,500千トン程度で安定的に推移している一方、輸出は再輸出プログラムによるもののみで、100千トン強と少量で安定している。 |
(4) | この結果、期末在庫(政府と民間双方)は、1999年度の2,010千トンから、一時期は1,386千トンまで減少したが、2003年度には、1999年度と同水準の2,018千トンまで上昇した。 |
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(1) | 米国の砂糖産業は、地域または一部都市の経済上、重要な役割を果たしている。これは、砂糖産業が19州において146,000人の雇用と、年間10億ドル規模の収益を創出していることによるものである。 |
(2) | 米国は、世界で5番目の砂糖生産国であり、4番目の消費国で砂糖の純輸入国でもある。 |
(3) | 生産地は主に北部12州と南部4州で、てん菜とさとうきびをそれぞれ生産している。 |
(4) | さとうきびの生産はフロリダ州で拡大し、ルイジアナ州がそれに次ぐ。ハワイは近年横ばいであるが、過去20年間で半分以下に減少している。 |
(5) | てん菜糖と甘しゃ糖の単収は、1980年代と比べてそれぞれ35%、38%増加しており、生産費は、てん菜で42の生産国中2番目、さとうきびは64カ国中27番目である。 |
(6) | 1999年から2003年にかけて、生産者が所有する製糖事業者の生産シェアは約2倍に増加(36%→73%)し、てん菜糖で約1.4倍(65%→90%)、甘しゃ糖で約4倍(14%→65%)となっている。 |
表6 米国の砂糖事情 | (単位:千トン、粗糖換算) | ||
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(7) | 甘しゃ糖工場 | |
[1] | 17社25工場が稼動しており、協同組合方式によって農家が所有する工場または企業が農地も含めて所有する企業が主である。1工場あたりの原料処理能力は、2,880トン〜24,000トン/日である。 | |
[2] | 州別の状況は以下のとおり。 ハワイ州:企業が農地を所有しており、生産された原料糖はカリフォルニア州のC&H社に搬送し精製糖を製造している。 ルイジアナ州:工場の多くがミシシッピ川沿いにあり、そのほとんどが農家または農家が共同で経営する協同組合方式によって所有される工場である。 フロリダ州:企業がほ場全体の3分の2を所有し、そのうちの2工場は精製糖も含めた一貫工場である。 |
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(8) | てん菜糖工場 | |
[1] | てん菜糖工場は10社25工場あり、生産者が協同組合方式によって所有する形態が主で、1工場あたりの原料処理能力は、3,500トン〜14,000トン/日となっている。 | |
[2] | 最近、てん菜の生産者組合が製糖工場を買収し、生産と製造を統合する動きがあり、2000年以降13製糖工場が買収された。 | |
[3] | 製糖工場は操業期間が長いことが特徴的である。気候は寒冷であり、てん菜を冷凍または冷蔵した状態で保存可能なため、冬中圧搾作業が可能となっている。 | |
(9) | 精製糖工場 | |
[1] | 2003年現在、5社の精製糖会社が存在し、8工場が稼動している。そのうち甘しゃ糖工場との一貫工場が2工場と、精製糖工場単独工場が6工場(うち1工場は液糖工場)が稼動している。各工場とも、年間280日程度操業しているとみられ、全体で約5,370千トン/年の溶糖実績となっている。 | |
[2] | 1982年に需給調整のためにTRQ(関税割当制度)が始まったが、その影響をまともに受けたのが精製糖会社で、これまでの間に輸入量が70%減少した。過去5年間で精製糖事業に特化している事業者の多くが倒産し、精製糖会社の5社中上位3社が、甘しゃ糖企業(さとうきび生産農家が出資)の出資によって所有されている。 | |
[3] | 精製糖会社の利ざやは非常に薄く、3セント/ポンド(7円/kg)から5セント/ポンド(14.6円/kg)程度となっている。2000年から2001年にかけての市況の下落によって産業の垂直統合が一気に進展した。 | |
[4] | てん菜糖との販売競合の程度は地域によって異なる(例えばフロリダ州にはてん菜糖は出荷されておらず、カリフォルニアも精製糖会社の独占的な市場であり、ニューヨークも精製糖会社が強い)。 |
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(1) | 砂糖事情 | |
[1] | 米国の方がさとうきび生産に適していることから、収穫面積は日本の15.7倍、生産量は21.2倍、単収は1.3倍となっている。一方、てん菜の収穫面積は8倍、生産量6.7倍、単収0.8倍となっており、日本の単収を下回っているが、これは米国ではてん菜が直播栽培により栽培されているためである。 | |
[2] | 米国の砂糖の輸入量は、1,505千トン(需要量の2割程度)と日本とほとんど変わらないが、日本の輸入依存度は約6割となっている。 | |
[3] | 価格面では、卸売価格、小売価格ともに日本の半分の水準となっている。最低生産者価格については、さとうきびが日本の10分の1の水準である2,648円/トンとなっている。 | |
[4] | 甘しゃ糖工場は、日本は離島地域に甘しゃ糖工場があることから日米ほぼ同数の工場数となっている。しかし、生産能力については、日本の9.2〜20倍と大きな差がある。てん菜糖工場の数は27工場と日本の3.4倍で、生産能力も1.3〜4.8倍となっている。 | |
[5] | 精製糖工場は日本よりも少ない8工場である(日本は14工場)。各工場の溶糖能力から推定される生産量は252〜924千トン/年(溶糖能力/日×280日)であり、最も生産能力の高い工場では日本の最大級工場の3倍程度の能力がある。 |
表7 日米間の砂糖事情の比較(2003年度)
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(2) | 政策 | |
[1] | 生産者に対する支援は、日米ともに最低生産者価格を設定し、再生産が図られるよう措置されているが、米国では生産者や製糖事業者などへの直接的な補助金は供与されていない。 | |
[2] | 国内産糖製造事業者への支援は、日本が政府交付金、輸入指定糖および異性化糖(HFCS)からの調整金を財源に国内産糖交付金を交付している。一方、米国はローン・プログラムによって、生産した砂糖を担保にCCCから融資を受ける制度となっており、企業に対する資金繰りを支援している。 | |
[3] | 精製糖事業者への支援は、日本が時限的(2年間)に砂糖生産振興資金による精製糖企業合理化促進緊急対策事業を行い、販売・流通も含めたコスト低減・合理化に資する事業に助成している。一方、米国では、精製糖事業者に対する直接的な補助はなく、再輸出プログラムにより、一定の稼働率が保てる措置を講じている。 | |
[4] | 生産調整については、日本がてん菜について、農業者団体が自主的に作付指標面積を設定して生産調整を行っているだけであり、政府による調整は行われていない。一方米国では、生産量を直接コントロールする制度はなく、需給面から法律によって強制的に販売規制を行うことにより間接的に生産調整を実施しているが、実際の生産量は予想を上回っている。 | |
[5] | 日本においては、いわゆる引き算方式により全体の需要量から国内産糖生産量を差し引いた数量を輸入糖で調整することにより需給を調整している。 輸入調整措置については、米国が粗糖、精製糖、特殊糖、糖蜜および加糖調製品について関税割当を実施しており、特に加糖調製品のしょ糖含有量が65%以上のものについては割当を行っていない(輸入者は枠外税率を支払って輸入するしかない)。 一方、日本の砂糖は自由化品目であり、関税割当や輸入時期の調整は行われないが、粗糖、特殊糖、精製糖などを輸入指定糖としている。これらを輸入する際には、国内産糖との価格調整を図るため、農畜産業振興機構による瞬間タッチの売買を通じて輸入者に対し調整金を課している。加糖調整品は調整金徴収の対象外品目であり、輸入指定糖と比べて低関税による輸入が可能となっている。 |
日本と米国の砂糖政策の比較
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