[2005年1月]
国民の食や健康に対する関心が高まりを見せる中で、身近な食文化や食育、地域で生産されている畜産物や野菜などについて理解を深めるため、石川県金沢市において開催された「ネクストフーズいしかわ2004(国際食品見本市)」の会場内行事として、平成16年10月23日(土)に独立行政法人農畜産業振興機構は農林水産省北陸農政局、社団法人石川県食品協会とともに「石川の食文化・食育セミナー」を開催した。
当日は、消費者、農業生産者、流通関係業者など450名余の方々が参加し、食文化や食育などについて理解を深めた。また、セミナー来場者には食育に関するアンケート調査を実施し、333名の方々にご協力をいただいた。以下、セミナーの概要を紹介する。
第1部(午前の部)
基調講演「食育を進めよう!」
門田正昭氏(北陸農政局長)
[食にかかる諸問題]
「食生活のバランスが崩れ、健康面で大きな問題が生じています。わずか50年くらいの短期間に私たちの食生活は大きく変わり、健康を維持する上でいろいろな影響が出てきています。」
「一方、世界の先進国の中で日本の食料自給率はいちばん低く40%です。食の安全・安心にかかわる問題が発生したときには輸入が困難になります。この自給率40%を少しでも上げていく必要があるのではないか。作るほうと食べるほうが相まっていかないと自給率は上がらないという実態にあります。」
[食育を推進しよう]
「食をめぐるさまざまな問題を解決する1つの方法として、食育に取り組んでいく必要があります。食育は、まずは学校給食を通じて学校でということになりますが、やはり家庭でも大事だし、さらには地域でも取り組む必要があり、この3つが相まって進めていく必要があります。」
[生涯教育としての食育]
「子供を中心に、望ましい食生活ができるような教育を進めなければいけないというのが一番にあります。しかし、食育の対象になるのは子供たちだけではありません。子供たちと成人、それから高齢者、それぞれ世代に応じて、食べるものの違いは当然あるわけです。そういった意味からも、生涯教育として取り組んでいく必要があるわけです。」
「加賀の伝統和菓子の魅力と食文化」
橋爪孝志氏(石川県菓子工業組合常任理事)
[菓子職人の基本]
「私は、菓子職人の仕事というものを皆さんに見ていただきたいので、1つのお菓子をこの場で作ります。これはあんこです。和菓子の基本、職人の基本は、まずあんこの中にあんこを包む。この中にこうやってあんこを包み込んでいくのです。これがすべての職人の基本なのです。
もう1つ赤いあんこを入れます。あんこを包むときに回しながら入れるのです。皮回りよく物を包むこと、それはおまんじゅうであろうが、こういうあんこのお菓子であろうが、お餅だろうが、おはぎだろうが、すべての基本はこう手を回すことなのです。」
「菓子業界も後継者を育成することが大事です。機械も大事、材料吟味も大事です。しかし、職人にとっていちばん大事なのは、この手なのです。手を動かすこと、そして、それができる人間が職人だということです。」
[食文化の継承]
「食文化というものは、今日も明日も徐々に変化し変わっていくと思うのです。それを和菓子の職人として次の和菓子の職人に伝えるのが私たちの仕事なのです。和菓子ができてから数百年の歴史の中で、作るのが職人です。伝えるのも職人ですが、それを育ててきてくれたのは、それを食べてくれるお客さまだと思うのです。」
「私は職人かたぎも大切だと思いますが、今後もお客さまの意見、考えを取り入れて、自分の作るお菓子、みんなの作る、職人たちの作るお菓子を子供たちに伝えていきたい。それと、伝統の和菓子というものをきちんと保存していく。そして、職人の道具も保存していきたいと思います。」
第2部(午後の部)
特別講演「和食の魅力と手軽にできる惣菜」
―心と体を育むやさしい食卓―
野崎洋光氏(「分とく山」総料理長)
[日本料理の決まりごと]
「日本料理というのは決まりごとがあり、陰陽五行説という昔の暦の仕組みのように日本料理も仕組みがあります。食べ物には必ず位があり、身分というものがあるのです。」
「必ず陽が主役に対して陰が脇役ということが決まっているのです。」「ただ、物を作ればいいということではなくて、そのように作ることによってそれが食い物か料理かの違いが出てくるのです。風合い、色合いなどを含めて日本料理というものを作っていくのです。」
「陰と陽の仕組みは、バランスよく食べなさいということです。お肉を食べたら必ず野菜を食べなさい、魚を食べたら野菜を食べなさい、というバランスをうたっているわけです。何かが整わないと食文化にならないということが医学的に解明されていなくても、きちっとできていたのが日本の素晴らしいところなのです。」
[食育で大事なこと]
「体に良い悪いという食事の判定は、やはり若い時は分からないのです。あれは食べてはいけなかったとか、こういうものを食べていかなければというのは、40、50を過ぎて初めて分かるのです。」
「ということは、おじいちゃん、おばあちゃんがいないとだめなのだ、ということをまず根本に持っていなければいけません。」
「まず家庭においておじいちゃん、おばあちゃんがお孫さんに教えて、そのお孫さんが大人になったときに、初めて子供に伝えることができるのです。」
「お父さん、お母さんが20代、30代ですと、やはり教えることができません。そういう大事なことをいちばん教えてくれるのは年を重ねた人たちです。」
「日本における心を養うには、やはり日本の良い物を食べていかなければいけません。地元の物を食べて、地元の民俗性を培うことが必要なのです。」
[日本料理は素材を食べる]
「どうすればおいしい料理ができるのかといったら、素材だけです。豆腐はどういう味がするのか、野菜はどういう味がするのかということが大事なのです。本当は家庭においしさがあるのです。」
「例えばほうれん草をゆでた時に、ゆでたてと、ゆでておいたものとで、どちらがおいしいかということです。やはり、ほうれん草のゆでたての風合いというのがありますね。」
「よく味をつけるときに、芯まで味をつけるといいますが、例えば、「里芋を芯まで味をしみ込ませましょう」と本に出ていますが、本当に芯まで味をしみ込ませるとまずいのです。なぜかというと、調味料が芯までしみ込んでしまうからです。周りの3〜4割ほどに味をしみ込ませればいいのです。」
「里芋が真に里芋の味がすれば、これがおいしい煮物なのです。その素材がおいしいのです。必ず素材の味がしなければいけないのです。」
「日本料理は素材を食べるのです。素材を食べるときに、その素材をじゃましない味として物を食べていくわけですから、素材の味を極限に出す方法が日本料理なのです。」
(野崎講師からは、加賀野菜、能登牛の肉の調理などについてもご紹介いただきました。)
「加賀野菜の健康増進機能と食べ方」
松下良氏(加賀野菜保存懇話会代表)
[金時草について]
金時草 |
「代表的な金時草(きんじそう)について紹介します。金時草のふるさとは熊本です。南の国の植物は寒さに弱いです。金時草はご存じのように種が採れません。繁殖は挿し木です。それがどうして金沢へ来たかといいますと、北前船が運んできたのです。北前船の船乗りが、船の中のビタミンといいますか、野菜として、これをおけに挿し込んできたのです。」
「荷役に来たおばさんに、この軸だけのものを置いていったのです。そして、そのおばさんが砂地のところにこれを挿しておいたら、まさにこの脇芽から根が出た。」
「そして、青々とした葉っぱが出てきた。しかも、船乗りが翌年来たら、びっくり仰天したのは葉っぱの裏が紫色。『何と鮮やかな紫色だ。何の肥料をやったか。どうしたのだ』と聞いたけれども、『いや、別に何もしない。』ということは、まさに熊本から金沢へはるばる来た野菜がここの気候風土によって紫色に変身したのですね。」
[加賀野菜のブランド化]
「金沢の産物としての加賀野菜をブランド化して、ブランド協会が認定した野菜が現在15種類あります。認定の根源は昭和20年以前から金沢で栽培されていた野菜であること、生産量が地元で消費してなおかつ余裕があること、この2つが大体柱となり認定されています。今後の課題は、生産農家の後継者の育成です。」
(注)石川の食文化・食育セミナーのアンケート調査結果などについては、機構のホームページ(
http://www.alic.go.jp)に掲載している。