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宮古島におけるバガス、牛ふんなどを利用したバイオマス関連プロジェクトについて

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2005年5月]

那覇事務所長 仁科 俊一
調査情報部長 加藤 信夫

はじめに

 バイオマスの利活用については、2002年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定され、地球温暖化の防止、循環型社会の形成、農山漁村の活性化、戦略的産業の育成の観点から、その有効利用について国家プロジェクトとして取り組みを開始し、全国各地でさまざまな取り組みが進められている。
 本稿では、本年3月に宮古島において耕畜連携事情調査を行った際に、上野村に新設された「バイオ・エコシステム研究センター」を訪れ見聞した結果を基に、さとうきびの副産物であるバガス・糖蜜、牛の副産物である牛ふんに焦点を当てて、宮古島におけるバイオマス利活用の現状と今後について紹介する。
 なお、バイオマス利用の意義やメカニズム、バガスの炭化固定のプロセスなどについては、砂糖類情報(2004年11月)に既報のとおりであるので、これを参照願いたい。



図1 宮古島の位置

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1 宮古島の農業

 宮古島の農業は、温暖な亜熱帯気候と平たんからなる農地を有し、耕地率は約54%と高く農耕上恵まれた条件ではあるものの、毎年のように来襲する台風、干ばつ、病害虫の発生など自然災害のほか、河川がなく水利条件に恵まれないことや、土壌のほとんどが島尻マージと呼ばれる琉球石灰岩土壌で土層が浅く保水力が乏しく干ばつを受けやすいなど、農業をとりまく自然環境には厳しいものがある。また、沖縄本島から300キロ近く離れた島しょであるため農産物資の輸送面での負担が大きくなっている。
 現在、宮古島の農業産出額(平成14年)は、137億4千万円となっており、そのうち、さとうきび44.7%、肉用牛21.5%と、さとうきびと肉用牛生産が約65%を占めている。(残り約35%のうち葉たばこ19.3%)
 このように宮古島の農業は、さとうきびを基幹作物とし、肉用牛との複合経営を展開し、葉たばこなどの他作物の生産にも積極的に取り組んでいる。
 しかし、基幹作物であるさとうきび生産は、度重なる台風、干ばつの被害により、低単収傾向が続いている。
 この低単収の原因は自然災害が大きな要因であるが、農家の高齢化と後継者不足問題は、労働力の低下を招き粗放的栽培になりがちであり、農家の土作りを含む肥培管理などの基本栽培技術の実行が行われていないことも大きな要因であるとも言われている。
 一方、宮古島の肉用牛農家の牛ふんは牧草地のたい肥として利用されているものの、平成16年11月1日から家畜排せつ物法に基づく管理基準が完全施行されたことにより、牛ふんの処理問題に頭を痛めている。
 肉用牛農家の産物である牛ふんと、さとうきび生成過程で生じるバガスなどを牧草地やさとうきび畑へ還元することは、単なる土壌改良による生産性向上だけでなく、化学肥料の使用を軽減し地下水の保全(バガスによる硝酸態窒素の吸着)などの環境面でも寄与する。このように亜熱帯気候と平たんな地形を生かした、さとうきびと畜産を中心とする農業が展開される宮古島で、農畜産業から発生するバイオマスを有効に活用し、環境面にも配慮した耕畜連携の進展を図ることは、宮古島のバイオマスタウンの構築を含む沖縄の農畜産業が生き残る上で極めて重要であると考える。


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2 宮古島におけるバイオマス関連プロジェクトの概略

(1) 背景
 1997年12月 京都会議開催
    京都議定書の発効によって、日本は温暖化ガス排出量を1990年(基準年)から2010年までに6%削減(温暖化ガスのうち93%が二酸化炭素=CO2)、2008年から2012年までが評価期間。
 2002年12月 バイオマス・ニッポン総合戦略の策定
    CO2の排出源である化石資源由来のエネルギーや製品を、カーボンニュートラル(CO2の増減に関与しない)という特性を持つバイオマスで代替することで、地球温暖化防止や循環型社会の構築などに向け、バイオマスをエネルギーや製品として総合的に最大限利活用し、持続的に発展可能な社会「バイオマス・ニッポン」を実現する。このため、全国500カ所にバイオマスタウンの実現を図り、2010年までに廃棄物系バイオマス全体の80%、未利用バイオマス全体の25%以上の利用を目指す。
(2) 宮古島でのバイオマス関連プロジェクト
 (1) たい肥センターの建設
   牛ふん、さとうきびの副産物であるバガスなど、さらには生ゴミなどを利用したたい肥生成。
 (2) 独立行政法人農業工学研究所における「バイオリサイクル研究」(農林水産省委託事業)
   ア.バガスの炭化による炭の生成
   イ.牛ふんなどのメタン化・ガス発電
 (3) 糖蜜からエタノール化:E3*プロジェクト(環境省委託事業)
  ※エタノール混合率3%のガソリンを「E3」という。
 (4) バイオ・リン*の開発と地下水保全への取り組み(宮古農林高校)
 これらが主な柱として展開されようとしている。
  ※バイオ・リンとは土壌中より分離・選抜したリン溶解菌に有機酸を生成させるためのエサとしてバガスや糖蜜に添加、混合、熟成した有機肥料の商品名をバイオ・リン(BiO-P)という。



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3 宮古島におけるバイオマス・ニッポン総合戦略の展開

 上記バイオマス・ニッポン総合戦略などを受けて、産官学レベルでさまざまな取り組みがなされており、実験室から実証レベルへの移行が進められている。独立行政法人農業工学研究所では、16〜18年度にかけて「農林水産バイオリサイクル研究」(農林水産省委託)を進め、北海道、東北、千葉、九州、沖縄(宮古)の5カ所でモデル事業を開始し、16年度は千葉県と沖縄県(宮古島)では「宮古島ユニット」として、17年度は残りの3地域をモデル事業として展開する計画となっている。
 バイオマスをさまざまな形で効率的に利用する多段階利用型のモデルとして、宮古島においてバイオマスを原料に多種多様な有用物質や燃料を体系的に生産・利用するバイオマスの多段階利用システムを構築し実証するものである。



図2 宮古島におけるバイオマス循環システムの構築および実証に関する研究


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4 「宮古島バイオ・エコシステム研究センター」の概要

 独立行政法人農業工学研究所は、これまで「農林水産バイオリサイクル研究」の中で、バガス、牛ふんなどのバイオマスを対象とした炭化技術の開発と、炭化を機軸とした物質循環の技術開発を推進してきており、バガスなどの炭化技術、牛ふんなどのメタンガス利用による発電開発(農林水産省委託)に取り組んできた。さらに平成16年度からは3カ年計画で、同じく農水省の委託を受けて、これまでの農業工学研究所での研究成果を宮古島に導入し、宮古島の上野村に、(1)炭化プラント、(2)メタン発酵プラント、その他高速たい肥化プラントなどから成る「宮古島バイオ・エコシステム研究センター」を設立し、琉球大学農学部、プラント建設協議会(民間)、プラント利用研究会(民間)との産官学レベルで実証を行うこととなっている。この事業の目的は次のとおりである。

 ・CO2排出量の削減とCO2の永久固形化
 ・バイオマスエネルギーの効率的利用
 ・地下水の保全および土壌環境の保全
 ・農作物の増産・高品質化による農業振興・地域振興
 ・新たな事業の創出
 ・環境問題への意識の高揚を図る

 本実証事業で利用するバイオマスは、さとうきび由来のバガス、糖蜜、ケーキ、畜産由来の牛ふん、その他炭化過程で排出される酢液(ウージ酢)、メタン発酵で排出される牛ふんの搾りかす、消化液などの有機性資源である。
 これらの有機性資源のリサイクル施設を建設し、炭化、ガス化、メタン発酵、たい肥化の技術を導入することにより、炭化物やたい肥などの製造と発電を行うとともに、これら再資源物を適切に農地に還元し、資源の再利用と物質循環を試みようとするものである。
 同研究センターは、炭化プラントとメタン発酵プラントにその他のバイオマス・プラントも加えた、バイオマス循環の複合システムのセンターを目指したいとしている。


図3 宮古島バイオ・エコシステム研究センター


バイオ・エコシステム研究センターの外観

 なお、同研究センターの隣地には、地域資源リサイクルセンター(たい肥センター)を建設中で、同研究センターでの研究成果をたい肥センターにおいて活用する計画も検討されている。

<各プラントの紹介>
 (1) バガス炭化プラント(バガスを利用し土壌改良材、たい肥などの生成)
   同研究センター内に設置されたバガス装置は連続式でバガスを炭化する。処理能力は時間あたり200キログラム。バガスは乾燥、炭化のプロセスを経て、その2割が炭となり(10時間運転で2トンの炭ができる)、その時に発生する乾留ガスを冷却すると酢液(ウージ液)も生成される。
  バガス炭の特徴は、pH9.8と木炭と比べてアルカリ度が高く、ミネラル成分のカリや他の成分も含むことと、木炭と比べて含水比が高く、バガス炭は約500%の水を保持することができることである。このため、バガスをさとうきび畑に散布すると、さとうきびの生育を促進し、糖度や茎重も高まるとの試験データもある。また、バガスは硝酸を相当に吸収することが実験室で確認されており、宮古島の地下ダムに含まれる硝酸態窒素量の軽減にも利用できる可能性がある。
  一方、酢液は、さとうきびの品質向上が期待される。宮古島の島尻マージ土壌は化学肥料を施肥すると、リンは土壌のカルシウムと結合し、植物が利用できない難溶性リンの状態となる。この土壌に酢液を100倍に希釈して散布すると、難溶性リンが可溶化し、さとうきびのリン利用率が高まり、生育促進および茎の糖度が高まるという試験成績がある。


図4 炭化装置の主要構

バガス炭化プラント
バガス炭

 (2) メタン発酵プラント(牛ふんを利用しメタンガスを発生させ、それを利用した発電、液肥、たい肥の生成)
 バイオマスである牛ふん1.5トンと水1.5トンをかくはんし、37℃で発酵させてメタンガスを発生させ、そのガス(バイオガス)を使って発電機を稼働させるしくみ。発電力は1時間あたり6kwで1戸分の電力としては十分とのことであった。
 その際に生成される消化液(窒素、リン酸も適量含まれているが、塩素が多い)は臭いもないため、液肥としてそのまま畑に還元し、固形分(搾りかす)はたい肥や炭として利用する。また、これまでの調査では、牛ふんにバガスを混ぜると完全に臭いが消えるとのことであった。


図5 メタン発酵プラント

<参考>

 メタン発酵により得られるガスを「バイオガス」と呼び、バイオガスにはメタン60%、二酸化炭素40%、硫化水素10,000ppmが含まれる。メタンガスはプロパンガスとほぼ同じ組成のためエネルギーとして利用できる。


メタン発酵プラント
メタン発酵発電機

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5 沖縄産糖蜜から燃料用エタノール生産(エタノールの自動車用燃料E3)

 (株)りゅうせきは沖縄県などの支援体制の基、環境省の委託(提案型公募事業、100%国費)を受けて、宮古島産((株)沖縄製糖)の糖蜜を原料として、高収率でバイオエタノールを生産し、自動車燃料E3の供給を行うまでの一貫した技術開発および実証事業を行っている。平成16〜19年度まで4カ年計画(総事業費約12億円を想定)で、平成20年度(2008年度)までにE3の普及を目指している。
 計画では、エタノール製造プラントを(株)沖縄製糖の構内に建設し、糖蜜を発酵・蒸留してバイオエタノールを製造し貯留する。さらに製造されたバイオエタノールは(株)りゅうせき宮古油槽所で受け入れられ、これをガソリンに3%混入させた「E3」を製造し、自動車に利用する。エタノールの製造量は年間90トンを見込でいる。
 平成17年度は、エタノールを外部調達して宮古支庁の公用車50台で実験し(6月頃を予定)、18年度は、エタノール製造プラントで製造された「宮古産バイオエタノール」を利用した実車実証試験に拡大し、市内2カ所の給油所も想定した給油体制を整備する。
 19年度は、「宮古産E3バイオエタノール」モデルの確立と普及を図り、500台〜1,000台の供給を目指すこととしている。


図6 E3燃料製造供給設備イメージ(油槽所構内

 また、沖縄県では車の台数増により、CO2などの温室効果ガスが1990年度から10年間で31.4%増え、全国平均の8%を大きく上回っている。CO2のうち、約6割が自家用自動車から排出されていることから、沖縄県では2010年までの目標として低公害車を48%普及することや、自家用自動車をバス、モノレールなどの公共交通機関へ6.6%転換することで、現状の8%削減を目標としていることから、「宮古産E3バイオエタノール」モデルの確立と普及に大いに期待している。

<参考>
 ガソリンへのアルコールなどの混合許容値を検討していた資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会燃料政策小委員会は、平成15年6月25日に「エタノールは混合率3%まで、含酸素化合物は含酸素率1.3%までなら自動車に使っても安全」という結論をまとめた。



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6 おわりに

 製糖工場での製糖工程から生成されるバイオマスの原料としてのバガスや糖蜜は、台風などの自然災害により今期のように生産量が減少した場合、安定した原料の確保(バガスの余剰化)ができるか。また、牛ふんの確保(肉用牛農家の牧草地還元との競合など)についても、畜産農家ではおおむね自家で処理しているケースも多く、原料の確保が課題といえる。
 また、エタノールE3事業については、国内の製糖から出る糖蜜は、外国の1〜2回の砂糖の回収に対して3回行うため、エタノール原料としての品質は低く、外国産と比べ、エタノール生産にコストがかかり、いかに収率向上や有価成分の総合利用などの低コスト化を図るかが課題となっている。
 宮古島の地域に合ったバイオマス循環システムを基本とするバイオマスタウンの構築には、まだいくつかの課題はあるが、行政をはじめ、関連企業、農家などの地域の人びとが一体となった取り組みが望まれる。
 去る3月29日京都議定書達成計画が発表されたところであるが、バイオマスの利活用については、地球温暖化の防止、循環型社会の形成、農山漁村の活性化、戦略的産業の育成の観点から、国家プロジェクトとして取り組みが行われている。
 宮古島においてバイオマス関連のプロジェクトが数多く進められていることを契機に、市町村をはじめ地域の関連機関が連携してさまざまな課題を乗り越え「バイオマスタウン」の構築を図り、「バイオマス・ニッポン総合戦略」の実現に向けて積極的に推進していくことが宮古島の活性化のみならず沖縄の発展を考える上で重要である。今後の各プロジェクトの研究成果に大いに期待したい。

<参考文献>
・「バイオ・エコアイランド構想」
 琉球大学農学部 上野正実
・「宮古島におけるバイオマス循環システムの実現に向けて」
 琉球大学農学部教授 上野正実
・「さとうきび増産と地球環境調整」
 琉球大学農学部助教授 川満芳信
・「沖縄産糖蜜から燃料用エタノール生産」
 (株)りゅうせき、バイオエタノールプロジェクト推進室


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