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タイ砂糖産業の概要
最終更新日:2010年3月6日
[2005年12月]
タイの砂糖産業は、過去20年間に急速な発展を遂げ、粗糖・白糖ともに世界有数の輸出国である。我が国にとっては、オーストラリアに次ぐ主要な粗糖輸入相手国でもある。
このようなタイの砂糖産業について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとに、調査情報部でとりまとめたので紹介する。
生産状況
国内需給バランス
表1は、タイにおける98/99年度から04/
05年度の砂糖の需給状況を示すものである。粗糖と白糖の生産量は、2000/01年度以降増加し続けており、02/03年度には、過去最高の767万トン(粗糖換算)を記録したが、2004/05年度は長期間にわたる干ばつの影響によるさとうきびの不作で、収穫・圧搾ともに、作業が完全に終わる前にシーズンが終了してしまい、さらに、植付け時期に国際砂糖価格が低迷していたことが重なり、同年度の砂糖の生産量は、およそ552万トンにとどまり、5年ぶりの低い水準にとなった。これにともない、輸出量も減少するものと予想される。しかし、こうした状況にもかかわらず、同国が粗糖の世界第4位の輸出国であることには変わらない。
さとうきび生産
タイにおけるさとうきびの生産地は主に3ヶ所ある。中部平野地帯(中・東部地域含む)、北部、北東部の3地域である。砂糖産業がこの20年間で急成長を遂げたため、生産分布に変化が生じ、中部地域低地および東部地域から、開発のあまり進んでいない中部地域高地や北部、北東部地域へと移った。これは、製糖工場がこれらの地域に移転したためである。
さとうきびの収穫面積は98/99年度から03/04年度までの6年間、90万haから120万haの間で推移している。一方、同期間の収穫量は干ばつと病気の影響によって、最低が00/01年度の4,900万トン、最高が02/03年度の7,400万トンと、ばらつきが大きい。
さとうきびの1ha当たりの平均単収は約60トンで、他の主要生産国と比べると低い水準にとどまっているが、さとうきびのしょ糖含有率は約13%で、大半の生産国とほぼ同水準にある。北東部は、世界各国の水準と比較すると単収が低めであるとはいえ、北部および中部平野地帯よりも単収としょ糖含有率が高いなど、地域によってばらつきが見られる。北東部においては、砂質土壌ということが影響し、さとうきびの生産に適しており、早期植付けが可能となるため、栽培期間も長くなっている。
しょ糖歩留まりは、98/99年度以降、つねに1ha当たり6トンを超えており、全般的に上昇傾向であるといえる。
表1 砂糖の需給バランス |
(単位:千トン、粗糖ベース) |
製糖産業
タイには、複数の工場を持つ製糖企業が8社29工場ある。この他に、単独経営の民間工場(1社1工場)が17社あり、合計で25社46工場である。最も多く工場を有する製糖企業はThai
Roong Ruangグループで、
7工場を有している。次いで、5工場を有するMitr Phol、4工場を有するWang KanaiとTamakaとなっている。残り4社が2〜3工場を所有している。
外国資本が参入している工場は、Kaset Phol社およびKumpawapi社であり、日本の三井グループが、これら2工場の経営権を所有している。
タイでは、粗糖と精製糖の両方を生産することが可能であるが、それぞれの比率は、その時点の国際市場価格に応じて変わる。精製糖は全て、製糖工場に併設されている精製糖工場で製造されている。同国内の46の製糖工場のうち、39工場に精製糖工場が併設されている。
精製糖の品質は、工場によって異なる。多くの工場では精製工程においてイオン交換樹脂を導入しており、ICUMUSA(国際砂糖分析法統一委員会)基準の色価が45以下の精製糖が多く生産されている。しかし、実際に生産されている精製糖の生産量のうち、ICUMUSA値100に近いものが約3分の2を占めており、うち約100万トンが高品質の精製糖(ICUMUSA値45以下)である。耕地白糖もあるが、ICUMUSA値200を超えており、それらは国内消費向けである。
出荷形態は大半がばら荷であるが、直接袋売りで輸出されるものもある。通常、輸出用の精製糖については、約25%がICUMUSA値45以下であったが、ここ数年はこの比率が20%以下にまで低下している。これ以外の輸出向けの精製糖はICUMUSA値100以下のものとなっている。これは、プレミアムを払ってまでICUMUSA値45以下の砂糖の輸入を望む国がないからである。
精製糖の大半は、Wang Kanai、Mitr Phol、Thai Ekalak、Thai Roong Ruang、Tamaka、Ban Pongの6社で生産されている。
表3 さとうきび生産量等の推移
注:生産額は砂糖に加工されたさとうきびの量に農家が受け取る1トン当たりのさとうきびの価格をかけたもの
資料:さとうきび・砂糖委員会事務局、LMC予想
表4 製糖工場の技術的能力指標
資料:さとうきび・砂糖委員会事務局
表5 タイの砂糖会社一覧(PDF 257KB)
表6 種類別砂糖生産一覧(PDF 240KB)
砂糖の消費
砂糖の消費量は98/99年度以降、年間平均約3%の伸びを示してきた。04/05年度は、家庭向けが約130万トンで全体の約60%を占めており、残りが工業用などとなっている。家庭向けと工業用の消費量の比率は01/02年度以降ほぼ一定の比率を保っている。国民一人当たりの消費量については、98/99年度から15%ほど増えて、04/05年度には33.8kgと増加している。
異性化糖およびその他の甘味料について
タイにおける異性化糖の消費量は、98/99年度の3万7千トンから、04/05年度には7万8千トンへと2倍以上の伸びを見せてきたとはいえ、砂糖と異性化糖合計に占める割合は3%に過ぎない(表8)。ちなみに、同国では異性化糖の輸入・輸出ともになされていない。
人工甘味料の消費量は、98/99年度から04/05年度の間に50%以上増加している。その大半はサッカリンであり、98/99年度から04/05年度の間に70%以上増加しており、人工甘味料全体の4分の3以上を占めている。
表7 砂糖消費内訳の推移 |
(単位:1,000トン、粗糖換算) |
資料:LMC予想
表8 代替甘味料の消費量の推移 |
(単位:1,000トン、白糖換算)
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資料:LMC予想
糖蜜およびエタノール産業
糖蜜の生産は、砂糖産業にとって重要な収入源である。糖蜜の生産量は00/01年度の230万トンから02/03年度には過去最高の350万トンへと増加した。04/05年度にはさとうきびの単収が低かったことが影響し、生産量は減少するものと予想される。タイ国内の糖蜜の消費量は、主に動物用飼料生産業者や工業用アルコール製造業者向けを中心に99/00年度以降増加し続ける一方、輸出量は00/01年度以降減少しつつある。
タイでは、2000年にキャッサバ、さとうきび、米などを原料とした大規模なバイオエタノール産業の構築に向けた取り組みが開始された。これと同時に、石油やディーゼル用ガソリンにエタノールを混合する事業を対象とした国の奨励制度が導入された。この制度によって、混合される燃料の中のエタノール分に対する間接税の免除や、環境保全のための基金に対する賦課金の控除がなされている。
現在、24のエタノール製造工場に対して生産許可が与えられているが、以下のような課題があり、生産はなかなか拡大しないのが現状である。
1)さとうきびを原料とするエタノールの価値をどのように決めるかといった問題が解決されていない。エタノール販売による収入が砂糖のそれを上回ると見られることから、農家はさとうきびの価格にプレミアムを上乗せすることを求め、ブラジルで採用されているさとうきびの総糖分含有率を用いた支払い方式の導入を提案している。これに対して工場側は、輸出用粗糖などと同様に、エタノールの販売によって得たプレミアムでエタノール製造工場に対する投資を回収する必要があると主張している。
2)政府が定めるエタノール価格をめぐっても意見の対立が生じている。タイ政府は2004年10月、原料コストと加工コストを基に、1リットル当たり12.75バーツという価格を設定した。この価格に関して、製油所は輸入メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル(MTBE)の価格に連動させることを望むのに対して、エタノール製造工場は原料価格の動向に応じて変動させたい考えである。
3)エタノールの混合は、タイ政府が奨励し、エタノール製造工場が後押ししているものの、未だに義務化されていない。
表9 糖蜜およびエタノール生産量等の推移
資料:F. O. Licht、LMC予想
砂糖の輸出
表10は、98/99年度以降におけるタイ産粗糖の相手国別の輸出量の推移である。同国で生産される粗糖は全て輸出向けであり、輸出の大部分をアジア市場向けが占め、約70%から95%の間で推移している。アジア向けの輸出のうち、約30%前後が日本向けである。その他のアジアの主要な輸出先としては、中国・台湾・インドネシア・韓国・マレーシア・サウジアラビアなどがあげられる。ヨーロッパ向けはアジア向けに次ぐ2番目の輸出先であるが、同地域でのタイ産砂糖の競争力の変化やアジア地域での市場環境に影響され、全体に占める割合は3%から27%と大きな変動を示している。米国向けの輸出の場合、数量的にはここ数年は1%にも満たないが、特恵価格が適用されている。
表11は、98/99年度以降におけるタイ産白糖の相手国別の輸出量の推移である。この数年間で4倍近い伸びを示しており、輸出先としては粗糖と同様にアジア向けが最も多く、約85%から97%の間で推移している。なお、タイ産粗糖では最大の輸出相手国である日本へは白糖の輸出は行われていない。
表10 粗糖輸出量の推移
資料:ISO
表11 白糖輸出量の推移
資料:ISO
砂糖制度の概要
砂糖制度の現状
タイの砂糖政策は1984年以来、ほとんど変わっておらず、生産者、工場、政府関係者で構成される「さとうきび・砂糖委員会」という監督機関によって、国内販売、輸出の規制管理および生産者・工場の収益配分が行われている。
タイでは、さとうきび・砂糖ともに生産量に制限を設けていない。一方で、砂糖の販売量については工場別販売割当制度によって管理されている。これは、各工場が生産した砂糖のうち、国内販売量(A割当)と輸出量(B・C割当)を義務付けている。
A割当
国内市場への砂糖の安定供給および価格安定を目的としているもので、さとうきび・砂糖委員会による政策方針の1つである。各収穫年度の初めに、同委員会が、総割当量を公表するとともに、当該年度に予想される生産量に応じて、各工場別に割当量を比例配分して決定している。この総割当量および工場別配分については、年度途中で見直しが行われ、各工場の生産量と実際の消費量に合わせて割当量を再調整している。
B割当
砂糖の基準輸出価格を定めるために設定される。この基準輸出価格を算定することにより、砂糖産業全体の総収入を算出して、工場と生産者の収入配分を行う。現在、B割当は、粗糖で80万トンである。
C割当
砂糖生産の余剰分であり、この割当相当分は輸出しなければならない。ただし、生産した年度中に輸出する必要はない。
販売割当制度
A割当の国内販売については、販売割当制度により、工場ごとに販売可能数量が決められており、政府が国内価格を設定している。工場は全て、A割当の国内向け砂糖の30%にあたる量を生産・確保しなければ輸出することができない。
B割当については、さとうきび・砂糖委員会の輸出部門であるタイさとうきび・砂糖公社(TCSC:Thai Caneand Sugar Corporation)が輸出を行っている。しかし、実際にTCSCが販売しているのは、B割当の50%に過ぎず、残りの50%は工場が買い取り、余剰生産分(C割当)と共に販売しているのが現状である。B割当は通常、各生産年度の開始時に入札で販売される。
生産した年度中にC割当を販売する場合、B割当の価格で販売されるものとされる。少量ではあるが、米国が協定輸入数量内で、タイから輸出される分については、C割当となる。ただし、この砂糖については、民間企業に代わって、TCSCが毎年入札方式で販売している。
国内価格制度
価格政策については、さとうきび・砂糖委員会が策定しているが、必ずしも同委員会によって提言された政策が政府の承認を得られるとは限らない。
さとうきびの国内価格については、各年度の初めに、予想される国際価格をもとに、暫定価格が設定され、生産者に提示される。最終的な価格は、年度の終わりに砂糖産業全体の総収入が明らかになった時点で決定される。
一方、砂糖の卸売価格は、1980代以降の水準に固定されているが、2000年までは、卸売価格に付加価値税が含まれており、各工場は、その支払いを義務付けられていた。その後、政府の決定した価格に7%の付加価値税が上乗せされる外税方式になった。これにより、工場の国内販売による収益は増加した。
従来、タイで生産される砂糖の約30%しか政府が決定した国内価格で販売されておらず、残りは国際市場価格で販売されていた。ただし、関税割当の対象となる米国向けに輸出される砂糖は例外で、特恵価格の適用を受けている。04/05年度のこの割当数量は1万4,743トンである。
表12 99/00〜03/04年度のさとうきびおよび砂糖の平均価格 |
(単位:US$/トン)
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資料:さとうきび・砂糖委員会
生産者と製糖業者の関係
生産者と製糖業者は、粗糖・精製糖・糖蜜の売り上げの合計から、それぞれの取り分を分け合っている。バガスは製糖業者の所有物として扱われる。生産者全体へ配分されるのは、砂糖および糖蜜の売上高の70%である。一方、各生産者への支払額は、1992/93年度に導入された品質に基づいて算出される方法によって決められている。
北東部を中心とする生産者からの強い要望により、砂糖産業は、96/97年度にさとうきびの地域別価格制度を導入した。これは、砂糖の価格が地域によって異なることや、TC:TS比率(さとうきびの品質や工場の生産効率によって生じる)の地域間格差を勘案して、さとうきびの価格を地域ごとに設定するというものである。工場と生産者による話し合いに基づいて、全国を12の価格適用地帯に区分けし、工場を地域別にグループ分けすることとなった。北東部と東部はそれぞれ1つの区域とし、北部と中部はそれぞれ5つの区域に分けられている。一方、生産者は所属する区域に関係なく、近隣区域の工場にさとうきびを出荷することが認められている。
輸出向け砂糖
輸出向け砂糖の価格は、さとうきび・砂糖委員会が販売するB割当(粗糖)の価格に基づいて一律に設定されている。粗糖を輸出する場合には、すべてこの価格が適用される。一方、精製糖および白糖については、国際市場における実際のプレミアムの水準に関係なく、B割当の価格に12.32%のプレミアムを上乗せした価格が適用される。
国内向け砂糖
砂糖の国内価格は政府によって決められているが、精製糖および白糖の市場価格は、政府が決定する価格とは若干異なっている。白糖の販売価格は、1トン当たり1万1,000バーツ、精製糖は同じく1万2,000バーツとなっている。ただし、実際には白糖は政府決定価格よりも若干高く、精製糖は政府決定価格よりも安い国内市場価格で取引されることが多い。その結果、工場の実際の販売価格は、白糖はみなし価格より若干高く、精製糖は若干低いことが多い。
表13 さとうきび生産農家への補助金
糖蜜
現在、生産者には現在、糖蜜の販売収入の70%が支払われている。その販売収入は、糖蜜の生産量×(当該年度の糖蜜の平均価格−82/83年度の糖蜜の価格)によって算出される。したがって、82/83年度以降に糖蜜の価格上昇により生じた収益増加分は生産者へ配分されている。
生産者への補助金
1998年から砂糖の国際価格低迷などにより、政府は、さとうきびの生産コストと次年度の暫定価格との差額(生産者の赤字)を補てんする目的で、何度か生産者を対象とする補助金の支給(実際には融資)を行っている。
この6年度のうち、1年度を除く5年度で補助金の支給(融資)がなされたために、生産者は多額の借金を抱え込む結果となったため、支給額の上限設定が検討されたが、さとうきびを原料とするエタノールの生産を奨励する政府の方針に矛盾するとの懸念もある。
貿易政策
タイでは、1995年にそれまでの砂糖輸入禁止措置が撤廃され、1万3,000トン強の最低輸入割当量(関税率適用量)を設けた。この割当量を超える輸入量については、高率の関税が課せられる。最低輸入割当の範囲内で輸入される砂糖については、関税減免措置の対象となり、関税率は65%となる。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国から輸入される砂糖については、ASEAN自由貿易協定(AFTA)により、現行の関税率は5%となっているが、今後数年間で段階的に関税率が引き下げられ、将来は無税となる予定である。
砂糖の輸入を行う場合には、事前にさとうきび・砂糖委員会に申請をし、承認を受けなければならない。ただし、現在までのところ、砂糖の輸入はまったく行われていない。
表14 輸出入関税
注:1.1995年まで輸入は禁止されていたが、WTOのもと、最低輸入量が設定された。割当内64%、割当外93%
資料:LMC;WTO;ISO
砂糖産業の現在の問題
タイでは、90年代中頃に工場の生産能力が急激に拡大したことにより、生産能力過剰や低稼働率という問題を抱えることとなった。このため、タイは世界の砂糖主要輸出国であるにもかかわらず、生産性については、他の主要生産国に遅れをとっているのが実情である。こうした状況の中で、さとうきび・砂糖委員会は、砂糖産業の競争力の強化策を打ち出している。具体的には、生産者や農地面積の登録や、土地利用および生産過剰に対する管理の充実、工場生産能力拡大の禁止、砂糖および副産物を対象とした研究開発の拡充、輸出市場開拓による販売の拡大などである。
さらに、さとうきびを主原料としたエタノールに対する今後の対応も、砂糖産業における大きな検討課題の一つとなっている。エタノールの価格設定に加えて、工場と生産者との間で収入を分配するシステムに、エタノールをどのように組み込むか、その方法がまだ決まっていない。また、収入の分配にあたって、エタノールの価値をどのように決めるのかも争点となる。