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米国の砂糖プログラムに関する情勢〜2005年度米国農業観測会議に参加して〜
最終更新日:2010年3月6日
[2006年4月]
国際情報審査役 補佐 平石 康久
畜産振興第2課 係長 新田 京子 |
2006年2月14日〜19日にかけて米国コロンビア特別区(ワシントン)に隣接するヴァージニア州アーリントンにおいて開催された米国農業観測会議(USDA
Agricultural Outlook Forum)に出席するとともに、関係団体を訪問し、米国の砂糖を巡る政治情勢について調査する機会を得たので、その報告を行う。
1 調査の目的と方法
米国の農産物政策の中で砂糖プログラムは、WTOの中で明確に黄色の政策とされている品目別政策であるが、現在までの度重なる批判の中でも、関係者のプログラム存続のための強い政治力※1とともに、プログラムの持つ一定の利点も相まって現在まで継続されてきた。
米国は砂糖の輸入国であるとともに、砂糖プログラムは他の作物とは違い、納税者の直接的な負担による各種補助金による国内支持政策ではなく、国境措置に類別されるプログラムであることもあり、日本の砂糖・農業政策との類似点がある。このため、今後の米国の農業政策における砂糖プログラムの行方が、国際交渉における日本の砂糖・農業政策へ与える影響について示唆するものがあると思われる。
米国のWTO交渉及び次期農業法の検討の中で、砂糖プログラムがどのような課題を抱えているのか、会議に出席し、各種資料を分析するとともに、関係者へのインタビューを通じて調査を行った。
なお、このレポートの中で利用している重量の単位は特に断りが無い限りメトリック単位に換算してある。
※1 砂糖業界が誇る強い政治力の理由について関係者に聞き取りを行ったところ、
● 砂糖を生産する州が多い上、フロリダ州等大統領選等において大票田かつ接戦になる州が含まれていること
● 生産者や製糖会社の利害が一致しており、票や資金の両方が提供できるとともに、団結した行動がとれること
● 地域経済にとって非常に重要な作物・産業であり、砂糖産業がなくなることが地域にとって死活問題につながりかねないこと
● 砂糖ロビーがロビー業界で評判が高く、優秀なロビイストが集まること
が理由として挙げられるのではないかとのことであった。
2.米国の砂糖概況
米国の砂糖消費量は900万トンを超え、日本の4倍近くを消費している。そのうち年によって変動するが国内産糖が700万トン以上をまかなっており、8割程度の砂糖が国内により供給されている。生産量のうちビート糖が6割、甘しゃ糖が4割である。主産地は北部12州と南部4州であるが、特にビート糖の産地としてはミネソタ州、アイダホ州、ノースダコタ州、ミシガン州、甘しゃ糖の産地としてはフロリダ州、メキシコ州が主要産地である。
輸入数量はWTOの他、各種条約に基づいた関税割当数量を通じた輸入及び再輸出プログラム用の輸入がほとんどであるが、価格状況によってはメキシコより枠外で2次関税を払って輸入されることもある。主な輸入先国はブラジル、ドミニカ、フィリピン、オーストラリア等である。
輸入された砂糖のうち6割が業務用に仕向けられ、その業務用仕向量のうち7割近くが製菓業界により利用されている。
(砂糖類情報2003年6月号及び2004年9月号を参照)
表1 米国砂糖需給状況
資料:USDA Agricultural Outlook Forum 2006 "2006/07
U.S. Sugar Supply
and
Use"
注:2006年2月17日現在のデータ。年度は10月1日から始まる砂糖年度。米国の輸入量
は関税割当数量他、再輸出プログラム用輸入を含む。米国国内仕向量その他の数字は
輸出向製品に利用される砂糖の量。雑は各種統計の残差。
3.米国の砂糖プログラムの概要
砂糖類情報2004年9月号で明らかにされているとおり、米国の砂糖プログラムは主として次の3つの仕組みから成り立っている。
(1)ローン・プログラム(LoanProgram)による価格支持
商品金融公社(CCC:Commodity Credit Corporation)が、製糖事業者に対して砂糖を担保に融資する制度である。砂糖価格がローンレートより低下した場合、担保砂糖の没収(質流れ)によって、返済義務が免除されるため、ローンレートがプログラム利用者にとっての実質上の砂糖の最低価格となる。なお、融資の利用率(生産量に占める割合)は、てん菜糖が5〜6割、甘しゃ糖が2〜3割といわれている。
また、ローン・プログラムを利用する甘しゃ糖の製糖事業者は、生産者保証価格でさとうきびを買い上げる義務が生じる。
(2)製糖事業者への販売割当(Marketing allotments)による流通規制
製糖事業者の販売数量を法律によって規制して、国内需給のバランスを図ろうとする制度である。
(3)関税割当(TRQ:Tariff rate quota)を通じた輸入規制
WTOによる枠とFTAに基づく二国間枠による枠の2つに大別される。ミニマム・アクセス(MA)として、国別の輸入量が上限に達した段階で、輸入者は2次税率でしか輸入できなくなる。
言い換えると、米国の砂糖市場は、国境措置により世界市場より隔離されたうえで、ローン・プログラムによる最低価格をセーフティーネットとして生産者に用意しつつ、販売割当を通じて流通量を規制することによって国内市場価格の下支え(価格支持)を行っていると見ることができる。
ただし、ビート生産者自身が大多数の製糖工場を所有し、工場と生産者の間で利益を配分しているビート糖業界にとっては、ビートに対する最低生産者価格はあまり大きな意味を持たないものである。
4.米国砂糖プログラムの合理性
米国砂糖連盟(American Sugar Alliance,ASA)のホームページ及び農業観測会議で行われた米国さとうきび精糖者協会(American
Cane Sugar Refiners Association)幹部によるプレゼンテーションによると、米国砂糖プログラムは次のような合理性があるとされる。
1)米国経済にとって
諸外国の攻撃的な貿易慣行から米国産業を保護し、211億ドルの価値を米国にもたらしている。また、消費者に対し、低価格で砂糖を安定供給できている。
2)納税者にとって
政府からの補助金を受け取っていないため税金を投入せずに運用されている上、砂糖産業からの税収がある。(No cost operation)
3)消費者にとって
消費者に高品質な砂糖を安定した低価格で供給しており、米国の砂糖価格は先進国の砂糖小売価格と比較して22%も安価である。また、万が一砂糖プログラムがなくなり、ダンピングされた世界市場から低価格の砂糖が入ってきたとしても、主要な砂糖ユーザーの利益につながるだけで、消費者に還元されるとは限らないことにも留意が必要。
4)労働者にとって
直接・間接の雇用を含め42州で37万2千人の雇用を生み出している。
また、米国は既に世界で4番目の砂糖輸入国であり、41カ国から世界市場よりも高い価格で発展途上国から輸入を行っている。また、現在の世界砂糖市場は砂糖輸出国における直接及び間接的な補助金を受け、貿易歪曲的な政策によってダンピング輸出された砂糖でゆがめられており、75%の砂糖が本来の生産コストよりも安い価格で輸出されていると認識している。
このため、自由貿易には賛成であるが、輸出国の不公正な制度が温存され、輸入国の関税のみが引き下げられるFTAではなく、貿易歪曲的な政策全てがとりあげられるWTO交渉によって砂糖制度が議論されるべきであると主張している。また、輸出国の貿易歪曲的な支持が撤廃されれば、米国の砂糖は完全な競争下でも十分な競争力を持っていると主張している。
5.米国砂糖プログラムに対する批判
1)政府サイドからの批判
2006年2月13日に発表された大統領経済レポート(Economic Report of the President,年次報告書)の中で、高関税により消費者に追加的なコストを強いている例として砂糖プログラムが挙げられており、米国の砂糖価格は世界価格の2倍以上の価格であることや、米国消費者は2004年に15億ドルのコストを負担しているとのOECDの分析を例に挙げ非難を行っている。
また、2006年2月14日に商業省国際貿易局(International Trade Administration)が発表したレポートによると、砂糖プログラムによってもたらされる砂糖の高価格のため、菓子工場が海外に移転する等によって、1万人の雇用が失われたと非難している。根拠としては砂糖を扱わない食品会社の雇用が増えている一方、砂糖関連製品を製造する食品会社の雇用が減少していることなどが挙げられている。ただし、砂糖産業はこれに対し、工場移転の主な原因は労賃の違いによるものとして反論している。
2)砂糖需要者からの批判
観測会議での砂糖需要者協会(Sweetener Users Association)の講演によると、国内産地に砂糖生産を大きく依存している現状について、国内の不作時の材料手当ての心配、競争の欠如が生じているとしている。更に国境措置に頼る現在の砂糖制度では、WTOへの適合性に問題がある上、米国が他国に市場アクセスの改善を求める際の足かせになると指摘している。
ただし次期農業法の制定に向けては、需要者は生産者が砂糖政策を必要としていることを理解しており、既存の政策では将来破綻する可能性を指摘しつつ、生産者からユーザーを含めた砂糖産業一体として働きかけを行いたいことを表明している。
3)異性化糖業界からの批判
異性化糖業界を代表するとうもろこし精製者協会(Corn Refiners Association)は、2005年5月付で出された2007年農業法に対する意見表明の中で、砂糖の販売割当制度(関税割当制度を含む)について、NAFTA条約下でのメキシコとの双方向の貿易を妨げているとともに、メキシコにおける異性化糖への差別的な取り扱いにつながっていると非難している。
農業観測会議での米国農務省海外農業サービスの専門家による異性化糖に関する講演においても、米国の砂糖産業保護と引き換えに、メキシコでの異性化糖及びとうもろこしの多額な販売機会が失われているとの発表が行われた。
以上のように、従来からの製菓業界等の砂糖需要者からの批判だけでなく、政府関係者からの砂糖プログラムに対しての批判が近年、特に強まっている情勢にある。その背景としては砂糖業界が昨年、ブッシュ大統領が推進していたCAFTAに対して強力な反対運動を繰り広げたことによって政府から不快感を持たれているとともに、ピーナッツや綿花においても一定の政策変更が行われる中、以前と同じ枠組みを維持した砂糖プログラムがWTO交渉において、他国に市場アクセスの改善を求める際の足かせになるとの認識があると見られている。
また、米国の砂糖プログラムにより間接的な恩恵を受けている※2ともいわれている異性化糖業界も、メキシコが行っている異性化糖に対しての課税問題※3の不満や、他国の市場開放要求への足かせになると見ていることから砂糖プログラムへの不満を強めている。
※2 米国の砂糖プログラムにより国内の砂糖価格が高値で維持されることによって、異性化糖の価格も同様に高値で推移し、恩恵をこうむっているとする関係者もいる。ただし、農業観測会議での米国農務省海外農業サービスの専門家は、砂糖価格の推移と異性化糖の価格の推移は独立して推移しており、そういった事実がないと反論している。
※3 NAFTAのサイドレターの記述によってメキシコが米国に砂糖を輸出できるのはメキシコ国内の砂糖の生産量が国内の砂糖の消費量+異性化糖の消費量を上回ったときに限るとされている。それによりメキシコからの砂糖輸出が制限されていることに対抗措置して、メキシコ国内での異性化糖を利用した飲料に対して特別の税金を賦課している問題。
6.WTOやFTAでの貿易交渉上での砂糖の扱い
米国が現在交渉を行っているWTO提案やFTA交渉の現状について、米国砂糖連盟より砂糖業界としての立場を聞き取り及び資料により整理したので報告する。
表2 LDC砂糖需給の状況(2003/04-05/06年度の3ヶ年平均)
資料 :米国砂糖連盟"Least Developed Country
Sugar Producers"
原資料:USDA FAS 2005年11月23日付資料他
注 :太字は純輸出国。
機構注:ISOによる統計等、他統計と比べてデータの食い違いが見られることに注意が必要。
1)WTOにおける砂糖業界の意見
米国の提案は重荷であり、重要品目に分類される品目の45%の関税削減や消費量の7.5%を占める70万tの輸入拡大義務は砂糖業界としては受け入れがたい提案である。また1%のタリフラインは少なすぎるとの認識を持っている。
LDCに対する無税無枠の供与に関しては、砂糖が無税務枠の対象となる97%のタリフライン以外の重要品目になることには疑いを持っていないが、将来的に3%の幅が縮小され、例外品目の数が少なくなっていくことが心配である。
また50のLDCの諸国があるが、半分が砂糖の輸出国であり年間98万トンの輸出がある。さらにそのうち net exporter の国の輸出量は約78万トンと非常に多く、これらの諸国から今後米国に輸出が行われることを心配している。
2)米国と各国とのFTAの状況
多くの他国間のFTA交渉において、砂糖は例外扱いとなっており、米国も砂糖をFTAの対象品目にすることはおかしいと主張している。しかし、実際問題としては砂糖のFTA条約からの完全例外扱いは昨今の情勢から難しいことも事実であり、関税割当数量の拡大の幅について、現行の割当数量よりどの程度拡大されるかが大きな問題である。
なお、砂糖に関連する米国と各国のFTA交渉の進捗状況は下記の通りであるが、豪州とのFTAを除いて近年のFTAについては全て砂糖が関税割当数量拡大の対象となっている。
表3 米国の砂糖産業に影響を及ぼすと思われる主なFTA交渉進捗状況
資料:外務省ホームページ及び米国農務省ホームページ、聞き取り結果により機構が作成
a)NAFTA
NAFTAについては2008年に砂糖の貿易が自由化される予定だが、サイドレターの計算方法があるため、砂糖が輸入されることはないと見込んでいる。
メキシコ政府も製糖工場の半数を国営化しているところに、逆に米国から砂糖が輸出されるかもしれないという懸念があり、砂糖貿易の自由化には慎重になっているとの印象を持っている。2008年の自由化の前に産業間の話し合いによって安定化を図れるような措置を確立できるという見通しを持っている。
b)CAFTA
CAFTAについては初年度に従来認められている関税割当数量に加えさらに約10万トンの増加となり、15年後には枠は15万トンまで拡大される。この枠の拡大幅は大きく、砂糖の関税割当数量が大幅に増やされることは非常に残念である(通常20万トン→15年後35万トン)。この措置が今後のFTA交渉の前例になってしまうことを非常に懸念している。
c)ペルーとのFTA
昨年12月に合意したペルーとのFTAについては、米国の砂糖業界は特に反対をしなかった。
これはペルー国内の砂糖の生産量が少なく、ほとんど自国で消費されている輸入国であるため、関税割当数量も1万トンしか増加(従来の枠の2割程度。合計5万9千トン)していないためである。また米国に輸出するには国内の砂糖生産量―砂糖の消費量の計算を行った時、余剰砂糖が生じる年に限るという純輸出国(net
exporter)の条件が付されているからである。
なお、上記の計算にはNAFTAにおけるメキシコの余剰砂糖の計算方法と違って異性化糖は含まれていない。例えnet exporterになりえたとしても、関税割当数量が小さいので問題はないとしている。
これらのことから砂糖業界としては今後締結されるFTAについては、CAFTAのような砂糖の取り扱いではなく、ペルーの方式に従って行われることを希望している。
ただし、ペルーが他国の砂糖を輸入して米国に輸出する迂回貿易の懸念については十分理解しており、ペルー政府の統計の精度向上等を求めているところである。
d)豪州とのFTA
豪州とのFTAでの砂糖の例外扱いについて、2006年3月に行われる両国間の話し合いで再検討したいと豪州が示唆していることは把握している。
しかし、米国政府の中では相手方の要求に応じるような動きはまったくない。また、(1)砂糖は各国FTAで例外扱いになっていること、(2)豪州FTAでは99%の品目が無関税にされており、これ以上の自由化は譲りすぎであることから、砂糖を再び含めることはありえないと考えている。
注):3月上旬に行われた両国間の話合いで砂糖の例外取扱いについて検討されたが、例外扱いは継続することとなった。
e)コロンビアとのFTA
今年2月27日、米国政府はコロンビアとのFTAに合意したことを発表した。砂糖については1年目に5万トンの関税割当数量を増加させるとともに、毎年枠が1.5%ずつ拡大され、15年目には6万トン以上に拡大されることとなっている。
この決定について米国砂糖連盟は、当初コロンビアから行われていた提案(米国砂糖消費量3.5%を要求していたと言われている)より大幅に抑えられた合意内容に理解を示しつつも、既存の割当数量を大幅に増加させることに疑問を呈している。また、行政当局が将来にわたってno-costの砂糖プログラムを維持していく意図や能力に対して疑義を表明している。
f)FTAまとめ
米国砂糖産業の現在のFTA交渉に対するポジションとして、純輸出国の概念、原産地ルール等の厳しい制限をつけつつ既存の関税割当数量からの増加を最小限に抑えるペルー方式の合意を目標として活動を行っている。
しかしそれにもかかわらず2月に合意されたコロンビアとのFTA交渉については、既存の枠の3倍の大幅な関税割当数量を認めざるを得なかった。NAFTA締結時におけるサイドレターの定義による砂糖輸入の厳しい制限条件の付帯や、豪州とのFTA交渉のように砂糖を例外扱いにしてしまうほどの成果は望めなくなっている。
ただし一方ではCAFTAにおいては、関税割当数量の拡大幅が米国消費量に占める割合は僅かである上、法案成立の引き換えに砂糖関係州の一部議員に賛成に回らせるため各種の政治取引を行わざるを得なかったことから、多額のコストが生じたといわれている。
また、コロンビアとのFTAでも当初コロンビアが求めていた消費量に応じた関税割当数量ではなく、固定的な数量にとどめたことや、砂糖を含めた少数の農産物の扱いを決定するためだけに、FTA合意が2週間以上伸びたとも言われており、引き続き強い影響力を発揮している。
砂糖業界に対する厳しい情勢の中で、今後とも今までのような政治力を発揮できるか、砂糖業界の政治力のバロメーターとして、今後の米国FTAでの砂糖についての取り扱いに注目していく必要があると思われる。
表4 米国のFTA交渉相手国の砂糖生産・貿易状況
3)EU砂糖制度改革について
貿易歪曲的な補助金付輸出が是正されることを歓迎している。ただし、改革案では全ての輸出補助金を撤廃するわけではなく、改革が完全に履行されてもEUの砂糖価格は米国と同じレベルにしか下がらない。また、直接支払いという形で補助金が引き続き農家に支払われること等から不十分な改革であると見ている。このEUの砂糖制度改革による米国の砂糖プログラムへの影響はほとんどないと米国砂糖連盟は考えている。
7.砂糖からのエタノール生産の可能性
米国砂糖連盟によると、10年間でエタノール使用量を2倍にするという政府目標を考えると、とうもろこしだけでは足りないため、砂糖が原料として使用されることを希望しており、米国のエネルギー法にも砂糖原料用作物からのエタノール製造についても言及されている。
現在のところ具体的な米国国内での砂糖からエタノールを製造する工場の建設等の話は聞いていないが、今後砂糖からエタノール製造を行うことについて、米国政府から何らかの提案が示されると思う。
また必要以上の砂糖がFTAにより輸入された際に、市場に流通させずエタノール原料とする措置を期待している。
なお、メキシコも砂糖からエタノールを生産するためのプログラムを検討中である。メキシコの下院では圧倒的な支持を受けて通過し、上院でも通過するとされている。メキシコの年間600万トンの生産量から、このプログラムから100万トン程度が利用されることになるかもしれない。それほど大掛かりなプロジェクトである。
CAFTA成立前、砂糖からのエタノール製造について1$/ガロンの補助(Tax Credit)を上乗せするという提案があったが、これは財政的な裏づけがないままされた提案であり、立ち消えになった。ただし、昨今のエタノールをめぐる情勢を考えると、こういった提案がまた行われることに期待したいと思う。
8.まとめ
米国の砂糖プログラムについては、ブラジル等の砂糖輸出国からの批判とともに、米国国内、特に最近では政府サイドからの批判も行われている。そのような厳しい情勢の中で、一時期のようなFTAの交渉から砂糖を完全に除外させるような極端な政治力を発揮することはないが、輸出志向的な米国の農産物業界の中で輸入サイドに立った主張を各種貿易交渉に反映させてきており、今のところ砂糖業界の意向を無視した米国政府による農業政策の立案や貿易交渉は考えづらい状況にある。
農業観測会議のForum Dinnerにおいてスピーチを行ったCalDooley氏(カリフォルニア州出身の元上院議員で農業政策に大きな影響を持っていた人物)が述べたように、現在の農業政策(プログラムクロップと呼ばれる穀物を始めとする農作物や大規模農家に集中的に補助金が流れるプログラム。スピーチの中では砂糖政策も名指しで非難)が、米国農業がセーフネットを備えつつ、環境にやさしく、より輸出志向にシフトするために適したプログラム(収入保険や、環境負荷を軽減する代替燃料への転換促進、輸出競争力を高め市場アクセスを改善する政策)に変化していくと仮定すると、砂糖プログラムが現在の形で生き残れるかは不明である。
しかし、少なくともその時までは現在の砂糖産業の影響力は発揮され続けるとともに、今後の日本の砂糖・農業政策にとって注目すべき産業・プログラムであるのではないかと思われる。