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南北大東島におけるさとうきびの生産性の向上のための方策について〜機構那覇事務所主催の地域情報交換会とその後のフォローアップを通じての考察〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2006年4月]

那覇事務所長 仁科 俊一
調査情報部長 加藤 信夫


はじめに
「要 約」
1 河脇氏のつぶやき
2 大東島の生産の現状と課題
3.両講師による講演と現場指導
4.講演会を通じた問題点と対応についての考察
5.問題解決のために
6 地域情報交換会開催後の島での動き
おわりに
〔参考文献〕


はじめに

 地域情報交換会は機構の地方事務所(全国7カ所)のイニシアティブにより、毎年、各地域の課題や砂糖を取り巻く情勢などについて、行政、生産者、糖業者、ユーザー、消費者などの参加を募り、課題の内容に応じて意見交換を行う会議である。
 今回は那覇事務所主催により、平成17年12月6日に「さとうきびの生産性の向上にむけて」をテーマとして、南北大東島それぞれに、種子島におけるさとうきび栽培の優良農家である河脇秀二郎氏と、(社)沖縄県糖業振興協会のさとうきび栽培技術アドバイザー島袋正樹氏が基調講演を行い、関係者(生産者、JA、工場関係者など)との間で質疑応答を行った。
 また、北大東島での会議の翌日、両講師は圃場の状況を調査するとともに、役場、JA、工場関係者を訪れ、さとうきび生産性向上の取り組みなどについて意見交換や指導を行った。
 特に今回の講演は、河脇氏の種子島での実践事例に基づくものであり、さとうきびの北限という恵まれない外的条件の下で、技術論だけでなく、キビ生産への極めて前向きな取り組み姿勢や精神論の話を力強く訴えたことは、生産者、指導者などにとって強い刺激となった。
 さらに、この地域情報交換会の効果を検証すべく、那覇事務所が本年1月に南北大東島を訪れフォローアップを行った。
 このレポートでは、南北大東島のさとうきび生産の状況と両講師による指導のポイントと、指導後の農家の変化などを報告するとともに、さとうきびの生産性向上について考察する。

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「要 約」

(1) 南北大東島は、干ばつなどの気象災害と畑の管理不足に起因する低単収の畑→圃場準備の怠り→適期植え付け、管理作業の遅れ→圃場の荒廃→生産意欲の減退→低単収→資金難→管理作業の遅れ→低単収、に陥る「負のスパイラル」を断ち切ることが緊要の課題。

(2) 大型ハーベスターやビィレット・プランターなどの導入は、農家の労働時間の短縮にはつながったが、余った時間を畑での作業に費やすのではなく、上記の負のスパイラルの中、副業をせざるを得ない状況に陥るなどして、単収の向上には貢献していないように思われる。
  島袋アドバイザーは、ハーベスターは大型と小型との併用を提唱している。河脇氏は小型ハーベスターがベストであると言っている。ただし、大型ハーベスターで踏み固められても、その後、管理作業を行えば状況は改善。

(3) 基本はさとうきびの単収を上げて、収入を増やして、経営をうまく回転させることであるが、能力以上の面積を所有している農家は、何を委託し何を自分でやるのかを経営的視点で検討することが必要である。特に昨年、今年と生産が減少している中にあっては、(1)自分でできること、(2)人に頼むこと、(3)地域で協同で行うことの棲み分けが重要。

(4) 今年のような厳しい生産状況の中にあっては、各種対策会議や体制作りも重要であるが、「畑でやるべきことの早期実行」がより重要。講演では、畑の状況をみて、河脇氏は「原料キビとならないキビを直ちに処分し、早期植え付けを行うこと」などを具体的に指導。

(5) 個々の圃場の状況に対応した農家または畑への具体的栽培指導を誰が責任を持ってやるのかが重要と思われるが、狭い島の中で、厳しい指導を行うには難しい面もあると推察。
  指導のポイントとしては、島袋アドバイザーが「人が変わらないと安定的な生産向上はあり得ない」と言っているように、人の行動変容は、自分自身の行動、情緒、認知(考え方)、あるいは環境の変化によって達成される。つまり、他人がいくらとやかく言っても、自分自身が、するべき行動に気づくことでしか変わらないものであり、指導という一方的なものではなく、「どうしたら単収が上がるか」、「なぜ、生産向上ができないのか」など、生産者・指導者が互いに話し合う中から、自らが気づき解決策を見いだすことへの援助・支援をするのが指導者の役目。

(6) その意味において、他の島の優良農家である河脇氏が農家の目線で指導したことは効果があった。実際に、1月の訪問時には、(1)高培土を行った農家、(2)植え付けの時にビィレットプランターの苗の量を半分に減らし、その代わり自分の目でみながら手で苗を植えなおすことなどを行っている農家、(3)苗を植え付ける前にその苗を水につける作業の際に、浸け置きするケースに覆いをかぶせ温度を上げ発芽を促進させる試みなど、河脇氏や島袋アドバイザーの指摘や指導を聞きヒントを得て具体的な行動に移す動きもあり、また、「経営的面にもっと関心を持つようになった。」などの「農家の意識」に変化がみられた。

(7) 工場、役場、JAの動きもあり、今やるべきこととして、北大東島は、JA、工場、役場が一体となって、2月中に植え付けを終わらせたいと頑張っていた。また製糖終了後は、工場職員も植え付けを手伝うことになっている。このように工場と役場、JAが一体となった取り組みがみられる。厳しい状況をバネに北大東島は一体感が出てきていると感じた。

(8) 南北大東島の現状打破という観点からは、除草をすること、かん水を行うことなど、基本的な肥培管理をできる範囲で行うこと、など当たり前のことを実行するだけでも随分単収が改善される。

(9) 工場の収益性をも念頭に置きつつ、生産者と工場の共存共栄が基本中の基本。農家と工場それぞれで、やるべきことを実行できなければ、共存共栄は夢物語となり、島の経済は破綻する。

(10) さとうきび栽培にとって、台風、干ばつの気象被害は必須の外的要因となっている。つまり、生産の減少の主な要因は、栽培技術が気象条件を超えられないところにあるが、これまでの毎年の収量や単収の考察は、あまりにも総論的(台風・干ばつ=減収)であり(河脇氏いわく、「収量減を台風・干ばつのせいにするな!」)、個々の農家の努力や技術の普及による収量減の持ち直し効果まで丁寧に評価し、考察することが、周辺農家への波及効果につながる。

(11) 以上のことから、トップダウンよりもボトムアップ、すなわち、生産者サイドによる力強い生産意欲をかき立て、その効果を周辺に波及することが肝要と思われる。そのためには、行政も含め、島ないしは地域への重点的な指導と、その効果の着実なフォロー、並びに結果公表が、幅広い地域でのさとうきびの増産を促す上で効果的と思料。このアプローチはそれぞれの地域や生産組織の置かれている状況などによって異なるので、生産者、JA、工場間での真剣な議論が前提となる。

南大東島の講演会
北大東島の講演会
講演に聴き入る参加者

(参考)各島での現在の取り組み
(南大東島)
 大東糖業を中心に、南大東村役場、JA沖縄南大東支店、さとうきび振興対策協議会の協力の下、「アグリサポート南大東」を昨年4月に設立。土作り事業、優良種苗の配布などを担う。
(北大東島)
 JAを中心に、JA、役場、工場が一体となり、「サトウキビ振興対策室」を設置し、営農パトロールなどを実施。


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1 河脇氏のつぶやき

  大東島は、大規模経営と大型機械化を導入したモデル地区であり、畑の状態も諸外国と引けを取らないものと河脇氏は予想していたが、南大東島空港を降り会場に向かう途中でさとうきび畑を河脇氏が見た途端、「こりゃあかん」とつぶやいた。
 昨年の台風14号、干ばつの影響で、両島とも単収見込みが2トン〜3トン台と最悪な状況であるとのことであったが、まさに「危機的な状態」と感じたようであった。
 北大東島の製糖工場の採算性ギリギリの必要原料キビは3万トンと言われるが、最近はこのラインを大きく下回り、昨年は7,000トン台まで低下し、今年もさらにそれを下回る予想である。まさに工場の危機=島の危機の状況にある。
 しかし、実際に圃場をまわってみると、水源などの同じ条件下であっても、農家が栽培・水管理を的確に行っている畑と、機械と雇用労働に頼って自ら積極的に栽培管理を行っていない畑の差は、単収でいうと2〜3トンの開きがあり、その差は歴然としていた。
 さとうきび栽培にとって、台風、干ばつの気象被害は必須の外的要因となっている。つまり、生産の減少の主な要因は、栽培技術が気象条件を超えられないところにあるが、これまでの毎年の収量や単収の考察は、あまりにも総論的(台風・干ばつ=減収)であり、農家の努力や技術の普及により、外的要因による減収をバックアップする効果の分析が必要である。



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2 大東島の生産の現状と課題

南北大東島の栽培の特徴

1.土壌硬化
 南大東島と北大東島では気象条件には大きな違いはないが、島尻マージ土壌で土層も浅く島の外周にあり干ばつや潮風害を受けやすい幕上と呼ばれる場所と中央に位置する幕下と呼ばれる比較的条件のよい場所に分かれる。
 南北大東島は、さとうきびの大規模な機械化栽培体系地域であり、全量を大型ハーベスターで収穫しているため、土壌踏圧の影響は大きく、収穫の際は大型ハーベスターに原料キビを積むトラックが併走して収穫を行うことに加え、肥培管理の時も大型トラクターが入ることから、踏圧され土壌は硬化しており保水力も弱い。

2.品種の偏り
 現在、育種委員会などによる大東島に適した品種の開発が現地で行われ、品種の見直しも進められており農林15号などが増えつつあるが、品種は、南北大東島とも70%〜80%をF161が占めている。発芽がよくビィレット・プランターでの植え付けなど機械化体系にあった品種として導入されたが、一方、根の張りが浅く台風・干ばつの常襲地域であり機械収穫ではかえって、折損や株上がりなどにより、株が収穫の時に抜けてしまいトラッシュの原因となってしまうなどの問題があり、F161は今となっては機械化にあった品種とは言い難い。

3.作型の見直し
夏植、春植、株出
(単位:ha)




 現在、南北大東島は、春植・株出し栽培が中心で、理想的な作型バランスに思えるが、南北大東島のように、台風・干ばつの常襲地帯にあって、昨年のような度重なる台風の被害を考えれば、台風・干ばつに強い夏植栽培を安定的な収量確保の観点から考える必要がある。夏植は、(1)収穫と植え付けに時間があり、植え付けや管理作業の準備に時間がとれるので労働の分散化ができる。(2)緑肥の栽培が可能となるので、土作りの観点からも有効と思われる。
 夏植を増やすなど作型を見直して、さらに「夏植型1年栽培」や「秋植秋収穫」など作型の検討も必要ではないだろうか。
大東島の植え付け時期


4.肥培管理
 1戸当たりの栽培面積は、平均で南大東島が8ha、北大東島で5haと広く大規模さとうきび農業のモデルとも言われてきたが、高齢化による労働力不足のため充分な肥培管理ができていない畑もみられ、能力以上の栽培面積となっているケースもある。
 栽培の基本は、適期に植え付け、灌水、土作り、培土、施肥を行うことだが、大型機械であるがために収穫時期の降雨などにより畑に入れずに収穫が遅れ、植え付けが収穫と同時期になるため労働力不足などが問題とされる。
 品種の偏りを改め、早期高糖性品種の導入による操業開始時期の早期化、雨にも強い小型ハーベスターの導入など、作業の分散化を行い余裕を持って適期に植え付けが可能になる条件整備を検討することが必要と思われる。

5.大型機械
 南北大東島は、大型ハーベスターの稼働条件が整っていることから、ハーベスターの大部分が大型であり、ハーベスターでの収穫率もほぼ100%となっている。
 作業効率を考えて圃場から伴走車での原料の搬出となっており、大型ハーベスターやトラック、トラクターが圃場を動き回るため土壌踏圧による土壌の硬化の問題がある。
 植え付けなども大型のトラクターを使いビィレット・プランターで行っている。
 従ってすべての作業が大型機械で行われるため、作業効率から畝幅も150〜160cmと広い。
 収量増加のカギは茎数の確保あるいは、1茎重の増加であるが、小型・中型の120〜140cmの圃場とは違い畝幅は県下最大で150cm前後と最も広く、栽培密度が少収の要因にもなっている。
 また、ビィレット・プランターでの植え付けは、通常の2倍近く苗が必要であることも収穫量の減の要因になっている。
 大型機械は、面積が拡大できるなら作業効率の上で大きな役割を果たすが、小さい島でかつ面積の拡大がこれ以上望めない中にあっては、単収増、増収には貢献しずらい。


ハーベスター保有台数


さとうきび収穫期の分類

*粗選式と選別式の違いはトラッシュの除去機能の違い


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3.両講師による講演と現場指導

(1) 河脇氏:儲かるさとうきび作り
(1) 精神論
・生産者と糖業(工場)は「共存共栄」であるべきであり、工場あっての生産者である。農家も工場の収益性限界(利益を上げるためには最低、年間○○トンの良質なキビ(=「商品」)が必要)を知り、協力すべき。
 注:種子島では、トラッシュ率は10%以下でないと買入れ対象外であり、平均トラッシュ率は3%台と低位。一方、大東島では20〜30%が通常という。
・台風・干ばつは必ず来る。減収の原因を自然災害のせいにしない。
・さとうきび栽培と糖業は島の存続を左右する基幹産業。行政、JA、糖業、農家が一体となって取り組むだけでなく、農家同士の真剣な議論と作業上の協力または分業が必要。
・「大農は、草を見ずして草をとる」(草は小さいうちにとることが大事であり、草だらけの畑は、生産意欲を減退させるし病害虫の巣となり減収となる)
・大東島は機械に依存しすぎており、農家は汗をかいていない。さとうきびは子供を育てるように毎日観察する(作物に愛情を注ぎ毎日観察していると、作物から話しかけてくる。水がほしい、栄養がほしいなど)
・読み書きそろばんが重要。(農家は社長でたし算引き算、経営者としての感覚を持ち、農協任せにしない。肥料・農薬などコスト意識を持つこと。)

(2) 技術論
・優良苗の確保に努めること。毎年、種苗管理センターから購入。
・株出管理と収穫は並行して行うこと。個々の農家対応では難しいので管理組合を作り協力して作業を行う。
・ハーベスターは小型に限る。畝間150センチ(大型ハーベスター対応)を120センチ(小型ハーベスター対応)に切り替えれば、土壌硬化の軽減、単位畝数の2割増(単位収量の増大)。大東島については、結果をみれば大型ハーベスターだけに頼るのは問題。小型で充分可能ではないか。
・圃場の機械回しの部分や管理上、キビが植え付けされてない場所についても、枕畝を仕立て、畑を極限まで有効活用し、収量増大に努めること。
・欠株対策(補植)をせよ。欠株の多さが目立ち、早期の補植(植え付け後、1〜2週間が勝負)が必要。補植には初期生育旺盛な品種を植え、先植えの株に負けないように工夫。
・マルチによる初期成育の活性化。種子島の普及率は春植でほぼ100%、株出で35〜40%。コストは4,000円/10a、これにより単収で1.5〜2トンアップ。←農家の関心を呼んだ。
・畜産との連携は土作りやさとうきび副産物の有効利用上で不可欠。
・私がみたところ、大東島で単収10トンは取れる可能性がある。

参考)河脇氏の経営概況
(1) 栽培実績


(2) 組合(西部管理組合)による作業分担
イ、ハーベスター収穫後の単収が落ちてきたことから、収穫後の株出し管理をするための管理機の導入が種子島の各組合でも行われたが、導入してみるとどこの組合も収穫作業に追われて管理機が有効に使われていない実態が明らかになってきた。
ロ、そこで、親しい生産組合に声をかけ4組合を1つの組織とし、その組合で株出し管理機を購入して収穫・管理作業などを協同で行う管理組合(西部管理組合)を設立した。
ハ、1つの組合が収穫時期に株出し管理を一手に行い(40ha)、他の組合が株出し管理を行う組合の収穫を行うことで、管理機を有効に活用して適期に管理を行うことで単収向上に効果が出ている。

(3) 「南種子精脱葉利用組合」の設立
イ、南種子島の新光糖業は、トラッシュ10%以上は引き取らない(10%以下に落として再度搬入)。従って、これまで8名程度の女性により鎌でトップ(鞘頭部)を落としてから、ハーベスターで刈っていたが、高齢化により作業ができなくなってきた。そこで、(西部管理組合)と他の組合にも呼びかけ、合計9組合で出資をして精脱装置を作り「南種子精脱葉利用組合」を設立した。このことにより人件費の削減と収穫の効率性が向上した。ロ、また、収穫班、株だし管理班(早期株出し管理)、畜産班(バカス、トラッシュの提供による堆肥の土壌還元、糞尿問題の解決(耕畜連携))と作業の相互支援なども行い地域のリーダーとして活躍。
河脇氏の熱のこもった講演(南大東島)
島袋アドバイザーの講演(南大東島)

(2) 島袋アドバイザーの講演要旨
「今やれること、今やらなければならないことについて」
・夏植は8月9月、春植は1月2月が適期である。
・夏植の苗用は1月2月に植え8月に植え付ける。
・台風・干ばつの常襲地の大東島では、今より夏植を増やす取り組みが必要。
・2月までに80%植え付けを終了し、3月には植え付けを終了させる。
・平均培土は4〜5本の分けつ後に行う。
・培土は20cmかぶることが必要である。また、深植を行うことでも培土の効果がある。
・人間が変わっていかないと畑も変わらない。
・安い肥料でよい
・高糖性の品種の導入など品種の見直し。
・以上できなければ担い手に土地を貸して貰いたい。

(3) 生産向上に向けた南北大東島での取り組み
 原料生産の減少が続く原因の一つに、収穫作業のみに追われ、収穫後の植え付け・株出し管理が労働力不足のために適期にできていないことがあげられる。収穫後早期の植え付け、株出し管理の一貫した機械化作業体系の確立が急務となっているが、このような状況などに対応するため、南北大東島では新たな取り組みが始まっている。
(南大東島)
 南大東島では大東糖業を中心に、南大東村役場、JA沖縄南大東支店、さとうきび振興対策協議会の協力のもと、「アグリサポート南大東」を昨年4月に設立した。事業内容は、(1)土作り事業、(バガス、ケーキ、糖蜜、タンカルなどを原料に堆肥、土壌改良材を製造(2)優良品種の優良種苗の配布、(優良品種の展示ほの設置、新植用苗の確保)(3)農作業の受委託事業(農作業の全面委託・部分委託、圃場の借り受け)となっている。
 このほか農家が日頃困っていることなどさとうきびに関するあらゆる相談に応じ、島一体となって増産に向け農家を支援する取り組みを始めている。
(北大東島)
 北大東島では、JAを中心に、役場、工場が一体となり、「サトウキビ振興対策室」が設置され、新たな生産体制を確立し農家を支援する体制が構築された。
 推進室の担当者が(1)「営農パトロール」を行い、管理の遅れや栽培の相談など農家を積極的に指導・助言を行うという取り組みや、(2)防風・防潮林の整備、(3)地形栽培環境に合った品種の調査、(4)畜産のない北大東島において地力向上対策として緑肥の導入、優良種苗の供給などの取り組みが始まっている。


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4.講演会を通じた問題点と対応についての考察

1.今やるべきこと
 河脇氏の話は、農家の目線に立って、しかも強い口調で、基本的な技術のみならず、農家経営感覚の重要性にまで及び、農家、役場、JA、工場関係者も真剣に聞き入っていた。
 河脇さんがさとうきびを栽培しているさとうきびの北限と言われる種子島においては、生産法人による栽培管理の努力が徹底されており、通常なら7トンの(平年作を7トンと認識)単収は確保できる。一方、大東島は、種子島とは違った厳しい気象条件ではあるものの一枚の面積(畝長180メートル)に恵まれている。機械化一貫体系の先進的モデル地域であるが、大規模経営であるがゆえに、きめ細やかな栽培管理がおろそかになっていると感じる。
 種子島というキビ作北限の地で培った、キビ作りの栽培技術や経営感覚が大東島に浸透し、種子島より恵まれた生産基盤の整った大東島で生かされれば、収量増大は間違いないであろう。
 特に、地域間の生産者による技術交流は相互に良い刺激となり、相乗効果を生み出すと感じた。
 南北大東島に限らず、沖縄のさとうきびの現状の危機的な単収水準を上げるためには、2人の講師が力説しているように、「検討や会議」や「しくみ作り」も大事であるが、島の現状はそれに多くの時間をかけている状況になく、まずはやるべきことの「実行」である。
 さとうきびは、手をかければかけるほど成長に敏感に反応する作物であり、逆に言えば圃場管理を怠れば、直ちに雑草と見間違えるほどの悲惨な状態になる。
 今の大東島の危機的な状況の対処方は、河脇氏いわく、「原料キビとならないさとうきびを直ちに処分して、次年度につなげる畑の準備をすること」であり、これを一刻も早く実施することである。今やらなければならないこと、今できることを今やる。「手間を惜しまず、思い立ったら即実行」が増産のカギである。


河脇氏による現場指導


2.さとうきび栽培のプロ意識
 さとうきびの低単収については、台風や干ばつなどの自然災害の影響が指摘されるのが常であり、毎年のように、「今年も厳しい年であった」との単純な結果考察の話を聞く。
 しかし、地域や個々の農家それぞれに複雑な状況があるはずであるが、このような「単純な結論」で「納得や安心」を得ようとしているとも言える。
 現実的には、同じ条件の下でも「個々の農家の努力」は単収の差となって歴然と現れており、マイナスの外的要因の中でも実を結んでいる農家も存在するのである。もっと、同じ条件下での単収の増減について研究・指導機関も含めて比較検証をするべきである。
 地域のリーダーを中心に、各生産者、生産法人などへの個別指導・相談を「重点的」に島のイニシアティブを基本として行い、その成果を着実にモニターするとともに、生産者が互いに栽培について話し合うことにより最善策が見い出せると思料する。
 改善が図られた農家または畑が少しずつでも増えれば、その波及効果が期待できるであろう。このような「ボトムアップ方式」でないと持続発展性がないのではないかと考える。
 河脇氏が指摘するように、「台風や干ばつを言い訳にしていてはいけない。プロとして、自信と自覚を持って栽培を行わないといけない。」というように、優良な農家は、河脇氏のようにたばこ農家であった経歴や野菜農家出身の農家に多いように見受けられるが、単収の増減は、気象、圃場などの外的要因の他、「農家意識」にも大きく左右されるのは事実であろう。

3.問題の所在(問題点をまずは整理すること!)
 さとうきび低単収の問題を大まかに分析し、それに呼応した形で目的分析(=対策)すると、以下のようになるのではと考える。
 島袋アドバイザーによれば、基本管理技術の実行だけでなく、やはり防風林などの必要最小限のインフラ整備は必要とのことである(ただし過剰な投資は論外)。
 自然災害の問題については、現行の栽培技術を上回る自然災害は必ず起きるものであり、これを前提としてこの外的要因による減収をいかに以下の対応によって被害を最小限に抑え、単収減を緩和するかである。今年の南北大東島においても実際に、平均単収が2トン程度と見込まれる中にあっても、圃場に行けば生育状況が良好なさとうきび畑も見られた。
 具体的には機械で耕起する際に出てくる石灰岩の石ころを奥さんが手で丁寧に拾って袋詰めして圃場整備している農家の畑が見られた。一方で、水源近くにある全く同条件と思われるいくつかの畑において明らかに生育や圃場の清潔度に差が見られた。
 技術については、大東島の現状打破という観点からは、除草をすること、かん水を行うことなど、基本的な肥培管理をできる範囲で行うこと、など「当たり前のこと」を実行するだけでも随分単収が改善される。また要因を探り支援する体制(指導者)が必要である。


さとうきびの低単収問題の問題分析と目的分析



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5.問題解決のために

1.指導体制と農家の意識改革
 指導については、個々の異なる圃場の状況に対応したきめの細かい技術的指導を誰が責任をもって行うかが重要であるが、狭い島の中で、効率よく行うのは難しい面もあると推察される。
 指導のポイントとしては、島袋アドバイザーが「人が変わらないと安定的な生産向上はあり得ない」と言っているように、人の行動変容は、自分自身の行動、情緒、認知(考え方)、あるいは環境の変化によって達成される。つまり、他人がいくらとやかく言っても、自分自身が、やるべき行動に気づくことでしか変わらないものであり、指導という一方的なものではなく、「どうしたら単収が上がるか」、「なぜ、生産向上ができないのか」など、生産者・指導者が互いに話し合う中から、自らが気づき解決策を見いだすことへの援助・支援をするのが指導者の役目である。
 今回のように、同じ立場の(優良)農家が農家にカンフル剤を与えて、自ら真剣に考え行動させる方法もある。やる気のある農家や地域を重点的に指導して効果を発現させ、波及効果を狙う方法もある。これらの方法は筆者としては効果が高く、速効性がある方法と思料する。
 トップダウン方式の指導や支援一辺倒では、効果の発現が遅れたり、農家の意識が変わらない状況下での一時的な増収に終わる可能性がある。安定的な収量を上げるには、ボトムアップ方式が望ましい。

2.大型機械の問題と栽培管理体系の構築
 大型ハーベスターやプランターなどの導入は、皮肉なことに農家の労働時間の短縮には貢献したが、現実的に単収の向上にはつながっていない。
 島袋アドバイザーは、ハーベスターは大型と小型との併用を提唱している。河脇氏は小型ハーベスターがベストであると言っている。ただし、大型ハーベスターで踏み固められても、その後プラウなどで土を柔らかくする努力を惜しまなければ、状況は改善されるのであるが、このような手間のかかる作業はあまりやられていないようである。
 基本はさとうきびの単収を上げて、収入を増やして、経営をうまく回転させることであるが、何を委託し何を自分でやるのかを経営的視点で検討することが必要である。特に昨年、今年と生産が減少している中にあっては、(1)自分でできること、(2)人に頼むこと、(3)地域で協同で行うことの棲み分けが重要と思われる。
 北大東島は、機械の進展の中で8割の農家が他業種(役場、土建業、電力会社など)と兼業しており、作業の多くを委託していることから、農家が圃場で作業している姿をほとんどみかけない。また、自分でできる作業能力以上の面積のため十分な管理ができないことが、単収が低迷している原因の一つと思われる。管理が十分に行える自分の適正な面積で単収を上げ、農家の実力を上回る面積については、他の優秀な農家に貸すなり作業を委託するなどして、島全体として捉えて、土地集積などを図っていくことが重要であろう。

3.基本技術の励行とフォロー
 やるべき基本管理を農家だけでなく、島の行政、JAを含めた関係者が、圃場ごとに異なる条件の中で具体的な支援・指導を行い、農家任せにするのではなく結果をフォローすることが緊要な課題である。(既に、北大東では、営農パトロールを実施)。
 機構としては、15年度の予算を活用して単収に大きく影響する基本技術を紹介した「さとうきびの栽培改善で収益アップを!!」を作成した。また、昨年農林水産省に設置された「さとうきび増産プロジェクト」にも対応するため、今年度改訂を行いさらに、「品種」についての冊子「日本のさとうきび品種」も現在作成中である。 地域の指導者が個々の圃場の状況を確認しながら、そのメニューから選択した対応策を考えたり、また農家が栽培品種の選定の時などに活用していただければ幸いである。

道を隔てて異なる生育良好な圃場と
不良圃場 (北大東島)
生育不良な圃場(北大東島)
生育良好な圃場(北大東島)


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6 地域情報交換会開催後の島での動き

 今年の1月に南北大東島に赴き、複数の農家などに話を聞いてみた。
 講演後の具体的な取り組みなどの反応について聞いてみたところ、(1)高培土を行った農家、(2)植え付けの時、ビィレット・プランターの苗の量を半分に減らしその代わり自分の目でみながら手で苗を植えなおすことなどを行っている農家、(3)苗を植え付ける前に、その苗を水につける作業の際に、浸け置きするケースに覆いをかぶせ温度を上げ発芽を促進させる試みなど、河脇さんや島袋アドバイザーの指摘や指導を聞きヒントを得て具体的な行動に移す動きも相当でているようである。
 また、「経営的面にもっと関心を持つようになった。」など、講演は農家に具体的な行動を起こさせる刺激になっているとともに、農家自身の意識に変化ができつつあるように感じた。
 一方、工場、役場、JAは、今やるべきこととして、北大東島では、JA・工場、役場が一体となって、2月中に植え付けを終わらせたいと頑張っていた。また製糖終了後は、工場職員も植え付けを手伝うことになっている。このように、工場と役場、JAが一体となった取り組みが見られる。厳しい状況をバネに北大東島は一体感が出てきていると感じた。
 また、南大東島では、「早期の植え付けには年内操業が欠かせない」という声に「農家が、早期植え付けや肥培管理をしっかりやってくれるなら年内操業を検討する」との来期に向けた工場の積極的な動きもでているようで、お互いの役割・責任を果たそうと協力体制ができつつあるように思う。

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おわりに

「負のスパイラルからの脱却」
 今の状況は、甚大な気象災害があった低単収の畑→生産意欲の低下→圃場の準備の怠り→適期の植え付け、管理作業の遅れ→圃場の荒廃→生産意欲の減退→低単収→資金難→管理作業の遅れ、→低単収、という「悪循環」に陥っている。
 これを断ち切るために、正に今、何を畑で実行するかを考えなくてはならないのであり、今年の最悪の生産状況が次年以降も継続されることがあってはならない。
 島を支えるのは、「さとうきび農家と工場との共存共栄」は必須条件のことだと考える。
 河脇氏から「収益性の限界値を常に頭においている」旨の話があり、会場から具体的な数値を教えて欲しいとの質問があった。質問者の意図は「農家の収益性」の観点であったと思われたが、彼の答えは、「工場の収益性の限界値」であった。すなわち、利益を上げるためには最低、○○トンのさとうきびの収量がないと工場がつぶれ、その結果、農家も生き残れなくなり、土地価格は暴落し、島が無人島化する。
 だからこそ、「農家は島のため、将来を担う子供達のために必死になって、必要な数量を供給しなくてはならない。」数量だけでなく、トラッシュ率を自ら最小にして、『農家はさとうきびという「商品」を工場に届ける義務がある。』と、力説したことが印象的であった。
 これからのさとうきび生産を考える上で、まさに、いまこそさとうきびを「島の基幹作物」として島で暮らす一人一人が共通認識として持てるかが、最大の課題と言える。
 那覇事務所と調査情報部は、本年8月に河脇氏とともに南北大東島を訪れ、改善状況のフォローアップとさらなる指導を行うこととしており、結果については本誌において報告する予定である。

*河脇さんの夢
 河脇さんは、生産目標を1,500トンとしている。この1,500トンという数字は種子島の製糖工場である新光糖業の原料処理量の1日分に相当する。
 つまり、河脇さんは、「自分の原料だけで工場を1日動かしたい(動かせる量を生産したい)。」という夢をもっている。キビ作に夢を持って取り組みましょう!!

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〔参考文献〕

「砂糖類情報」
(1) 2005年5月号 干ばつ・台風と南・北大東島─2004年夏・秋─(16年度専門調査員)
  九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部長 杉本 明
(2) 2002年9月号 琉球弧の少収地域、低糖度地域におけるさとうきび栽培改善〜沖縄県下の島々〜
  九州沖縄農業研究センター 作物機能開発部長 杉本 明
(3) 2002年4月号 沖縄県におけるサトウキビハーベスターの歴史とこれからの方向
  沖縄県農業試験場農業機械研究室 室長 赤地 徹
「2005年9月 第32回サトウキビ試験成績発表会資料」
 (1)「さとうきび小型機械化体系の現状と今後の方向」
  沖縄県農業試験場農業機械研究室 室長 赤地 徹
 (2)「サトウキビ小型トラクター栽培体系」
  沖縄県農業試験場作物部蔗作研究室 室長 新里 良章
 (3)沖縄県のサトウキビ担い手の現状と生産振興
  沖縄県糖業振興協会 島袋 正樹



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