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フィリピンの砂糖産業の概要

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2006年4月]

国際情報審査役

 フィリピンは、伝統的に砂糖の主要な輸出国であったが、1990年代には生産が低迷し、一時的に輸入国になったものの、最近になって生産が回復し、余剰分の砂糖について、注1輸出を再開した。また、国内では、砂糖統制委員会(SRA:The Sugar Regulatory Administration)が砂糖産業の管理・監督などを行っている。
 このようなフィリピンの砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとに、とりまとめたので紹介する。
注1:フィリピンは、輸入国であった時期も、関税割当制度に従って、米国には砂糖の輸出を続けていた。



はじめに

 フィリピンでは、8地方の17州が砂糖産業の拠点となっている。ルソン島とパナイ島、ネグロス島、ミンダナオ島、東ビサヤ地方の5ヵ所は、この国のさとうきびのほとんどを栽培する中心地である。また、政府が中心となり、輸入関税や国内市場に投入する砂糖の数量を規制することによって、砂糖の国内市場価格を高い水準に保っているため、同産業の受ける恩恵は大きいといわれている。

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生産状況

国内の需給バランス
 フィリピンの砂糖生産量は、1980年代初めの増減の激しかった時期を過ぎ、1985/86年度から1991/92年度にかけては堅調な伸びを示し、1992/93年度には210万トンにまで達している。ところが、これをピークに1990年代には低迷が続き、170万トン前後で推移した。この状況の下、概算で210万トンに上る砂糖のフィリピン国内消費や、米国への輸出割当(14万トン)の両方に対応することができなくなり、タイ、オーストラリア、ブラジルの3ヵ国から粗糖を輸入し、国内で委託精糖する仕組みをとった。
 同国の1990年代の国内砂糖生産の低迷の要因については、さとうきびより価値の高い代替作物との競合に、都市部の拡大によるさとうきび栽培地の減少が重なったことや、定期的な干ばつ(例えば、1998/99年度)、農家の生産性の低下を招く、萌芽茎の萎縮病の多発に悩まされてきたなどがあげられる。
 その後、高単収品種の普及と、砂糖産業の近代化に向けた継続的な取り組みにより、同国は2002/03年度、輸出国に戻ることができた。その反面、2002/03年度以降、余剰分が生じるようになったことにより、国内価格が引き下げ圧力を受けた結果、生産レベルは今年度に入って下がり、2005/06年度にはさらなる低下が予想される。

表1 砂糖の生産量と消費量、純輸出量の推移
(単位:生産量、消費量100万トン、純輸出量1,000トン、粗糖換算)


資料:LMC

表2 砂糖の需給バランス
(単位:1,000トン、粗糖換算)

注:2005/06は、予測値
資料:ISO、LMC概算値


砂糖の生産量および国内消費の実績
 表3は、フィリピンの国内の砂糖生産量の推移を示したものである。フィリピンでは、精製糖、ブラウンシュガー、粗糖と3種類の砂糖が生産されている。なかでも精製糖はここ数年間、全体の60%弱を占めるなど、最も生産量が多い。残りの40%強は、ブラウンシュガー(表では粗糖と表示)と、食用の洗糖、輸出用の粗糖である。ここ10年間、生産量に大きな増減が見られたにもかかわらず、フィリピンは、関税割当制度で特恵アクセスが認められているため、米国に粗糖を輸出し続けてきた。この期間、米国に輸出された砂糖の数量は、平均で生産量の8%にあたる。
 また、砂糖は1993/94年度から2002/03年度にかけて米国以外に輸出されていなかったが、2002/03年度にさとうきびの収穫量が増加したことで、翌年度から中国や韓国、日本といったアジア諸国への輸出も再開された。
 表4は、フィリピンにおける砂糖消費の内訳の推移を示した。過去5年間では、家庭用部門が全体の54%前後を占め、最大のエンドユーザーである。業務用部門では、様々な区分に別れているが、飲料が単独で消費量全体の21%を占めて最も多く、これにパン類と菓子類の順となっている。

表3 砂糖生産量の内訳の推移

注:2005/06は、予測値
資料:ISO、LMC概算値


表4 砂糖消費内訳の推移
(単位:1000トン)

資料:LMC

さとうきびの生産状況
 フィリピンのさとうきび生産状況は、表5によると1999/00年度から2004/05年度までの6年間の収穫面積と収穫量が堅調な伸びを示した。1999/00年度の1ha当たりの単収も54トンという期待はずれの水準から、2004/05年度には69トンと、高水準の輸出量を誇る隣国タイを凌ぐ水準にまで上昇したものの、オーストラリアには遥かに及ばない。

表5 さとうきび生産状況の推移

資料:LMC

表6 ショ糖の歩留まりの推移

資料:LMC

 また、さとうきびの生産額が農業生産額全体に占める比率は、4%から5%前後で、これも高いとは言えない。このように、フィリピンのさとうきびの生産効率は、平均レベルにあり、過去5年間のさとうきびの単収は平均で1ha当たり60トン前後と、世界の主要な生産国と比べて突出して高いとは言えない。
 このような背景には、フィリピンが、昔から小規模農家がさとうきびの栽培を担ってきたことによる。同国には、概算で3万戸のさとうきび栽培農家があるが、1戸当たりの平均栽培面積は10haほどしかない。こうしたさとうきび栽培農家のほとんどは、4つある主要なさとうきび栽培者組合のいずれかに加入している。その一方で、数百haから数千haの大規模なさとうきび園も、少数ながら点在する。
 また、ショ糖の歩留まりは、過去10年間にわたってある程度改善しており、ここ数年、ショ糖の歩留まりとさとうきびの単収が上昇した背景には、新しい高単収品種の普及が挙げられる。それでも他の主要な砂糖生産国に比べると、まだ低いのが現状である。

製糖産業の生産状況
 フィリピンでは、現在、29ヵ所の製糖工場が操業している。表7に、1998/99年度から2004/05年度の工場における主な生産実績の推移を示した。各工場の処理能力は、平均で1日当たりさとうきび約5,500トンであるが、その工場の規模によって大きなばらつきが見られる。現在操業中の29工場の中には、2,000トンと少ない工場もある反面、10,000トン以上に達する工場も5ヵ所ある。工場の操業期間は、1年当たりの平均が213日に上るが、やはり工場間のばらつきが大きい。この平均値から、収穫期が長いため、業界がその恩恵を受けていると見る向きもあるかもしれない。
 しかし、実際には、工場の処理能力を有効に活用できないがために、操業期間を長くせざるを得ないといった事情がある。表7を見ると、1日当たりの工場の平均処理量は1日当たりの平均処理能力を大幅に下回っており、処理能力がきちんと活用されていない実態がよく分かる。
 また、表8にあるように、1工場当たりの産糖量は1990年代後半から2000年代にかけて緩やかな伸びを示している。そして、工場の回収率は全体的に見て、過去10年間にわたり、わずかながら改善し、現在では80%程度に達するようになった。

表7 製糖工場の生産実績

資料:LMC

表8 1工場当たりの産糖量の推移

資料:LMC

その他の甘味料
 フィリピンでは、異性化糖(HFS)は、砂糖・甘味料の総生産量に占める比率が0.5%にすぎず、ごく少量しか生産ならびに消費されていない。表9は、同国における代替甘味料の消費内訳の過去5年間にわたる推移と、今年度ならびに2005/06年度の予測を示した。これを見ると、アスパルテーム(低カロリー甘味料)とサッカリン(飲食部門で使用)の消費量が圧倒的に多いことがわかる。

表9 味料消費の推移
(単位:1,000トン、白糖換算)

資料:LMC

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砂糖制度

砂糖制度の主な特徴
 フィリピンでは、砂糖統制委員会(SRA:The Sugar Regulatory Administration)が砂糖産業の管理・監督を行っている。SRAは、1986年に大統領により設置され、さとうきび栽培農家、製糖工場、政府の三者の代表者から構成される組織で、関係者への研究開発技術の提供に加えて、関係者を対象とした規制業務ならびに普及業務を行い、フィリピンにおける砂糖生産の経済的採算性ならびに高品質な砂糖の安定的かつ充分な供給を確保することを目的としている。
 また、SRAは、農業省が管轄する半独立的な政府組織で、自らの任務の遂行に努めるため、次のような方針を採用している。
(1)技術の新たな開発および移転によって、農家と工場の生産性の向上および維持を図る
(2)自らが提供する技術サービスの向上を図る
(3)砂糖の生産および割り当て、効率的なマーチャンダイジングに関するSRAの規則および規制基準の徹底を図る

国内価格支持

 フィリピン政府による価格支持策は、砂糖産業に直接適用されるのではなく、輸入関税ならびに、その年の収穫されたさとうきびの市場間の流通に対する管理という形で行われる。これは、表10のように砂糖の国内価格は、国内市場への流通を管理すると同時に、輸入関税を課すことで、常に国内の卸売価格が極めて高水準に維持されている。
 また、国内価格の動向は、国産さとうきびの作柄の影響を受ける可能性があり、かつ、実際にその影響を受けてきたことから、価格の安定を維持するために、政府には砂糖の国内市場への投入および国内市場からの回収を行う権利が与えられている。その1例としては、国内価格の下落を受けて、大統領が価格の支持を目的とし2004年3月に、砂糖生産者から7万トンの砂糖を固定価格で買い上げることを国家食糧庁(NFA:National Food Authority)に命じる行政命令を発令したことがあげられる。

表10 さとうきびと砂糖の平均価格
(単位:USドル/トン)

資料:LMC

市場アクセス
 表11は、世界貿易機関(WTO)交渉の場で決定したフィリピンの関税に関連する内容である。フィリピンは、多国間貿易交渉のウルグアイラウンドの合意内容に従って、ミニマム・アクセスを設定した。アクセス量は、段階的に引き上げられ、現在は、その最終段階にあたり、年間6万4,050トンである。
 この表は、フィリピンの現在の関税率も示しているが、割当枠内(ミニマム・アクセス枠内)が50%、割当枠を超えた場合が65%である。インドネシアやマレーシア、タイ、ベトナムなど、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国から輸入された粗糖および精糖には、割当枠内か枠外かを問わず、48%の特恵関税が適用される。
 また、割当枠を超えた場合に適用される関税率65%は、WTOの約束表に記載される同国の最終関税率(上限税率80%)よりも低い。
 最恵国(MFN)関税率は、WTO交渉の場で同国が行った約束に沿って、2004年1月1日から50%に引き下げられる予定であった。
 しかし、関税局(BOC)による関税の見直しの結果を踏まえて、政府は2004年と2005年の2年間、(2003年12月30日の行政命令第264号に従って)関税率を65%に据え置く措置を講じた。
 また、同国には、関税割当制度によって米国市場への特恵アクセスが認められている。割当数量は、その年によって異なっていたが、ここ5年間は13万7,000トンで安定している。
 さらに、フィリピンでは、砂糖の密輸が横行して、国内価格の低下を招いているため、大統領が2004年8月、BOCに密輸対策の強化を命じたり、現行の貿易制度では、着色した砂糖を食品添加物(food input)として輸入すれば、わずか3%の輸入関税率しか課せられないとして、国内生産者らは、こうした制度の抜け道をふさぐよう、政府に働きかけたりしている。

表11 現在の貿易政策に関する情報

資料:WTO、LMCのデータベース
注:ASEAN諸国への適用税率は2006年1月22日現在で38%まで引き下げられた。



砂糖の販売制度
 フィリピンでは、販売割当制度を中核に据えた砂糖の販売体制が取られている。この割当制度とは、業界の収益分配協定に基づき、「ケダン(quedan)」と呼ばれる倉荷証券を栽培農家と製糖工場の両方に割り当てる仕組みである。砂糖は、次の5つの区分(ケダン)に分類される。
(1)“A”─米国の割当制度向け砂糖
(2)“B”─国内市場向け砂糖
(3)“B−1”─国内食品加工業者向け砂糖
(4)“C”─備蓄在庫用の砂糖で、必要に応じ“A”と“B”、いずれに分類することも可能
(5)“D”─輸出向け砂糖
 このように、ケダン別の砂糖の割合を決めることで、SRAは国内市場における価格の安定に寄与できる。最近は生産量が、純輸出国と純輸入国になるぎりぎりの水準にあるため、米国の割当制度向けの砂糖を対象とした“A”ケダンと、残りの国内市場向けの砂糖を対象とした“B”ケダンしか、生産者に発行されていない。
 こうしたケダン・システムによって、市場への砂糖の供給を調整できる一方で、このシステムには、ケダンを交換することで、自由な交易を可能にしてしまうといった問題点もある。ケダンの流通市場の人気が、これを裏付けている。例えば、ケダンの発行を受けた栽培農家は、それを直ちに(通常の慣行どおりに)取引業者に売るか、価格の上昇が見込まれる時など、手放さずに手元に置いておくか、のいずれかを選択することができる。
 また、ケダン・システムには、国内市場に供給される砂糖の数量を調整する働きがある反面、供給された砂糖を調整する機能がない。このため、価格は通常、生産がピークを迎える、その年の第1四半期に下落した後、製糖工場の処理作業が終わりに近づくにつれて上昇する。
 特に、密輸による引き下げ圧力に直面している時に、市場の安定を維持するため、政府は市場に積極的に関与しており、直接的な市場介入を行う権限を国家食糧庁(NFA)に与えることで、生産者に最低価格を保証している。

さとうきび栽培農家と製糖工場の関係
 フィリピンの砂糖業界では、ケダン・システムによって砂糖および糖蜜の数量を栽培農家と製糖工場の間で割り当てる収益分配制度が採用されている。これは、個々の工場の総産糖量に応じ、砂糖および砂糖の副産物から得た利益を栽培農家と工場でどのように分配するか、その具体的な仕組みを整備しなくてはならないと1952年6月発布の共和国法(Republic Act−RA)第809号に定められている。この収益分配制度は、農家が栽培したさとうきびを原料とする砂糖と糖蜜に平等に適用されるため、糖蜜に対するケダンも、砂糖に対するケダンと同じ割合で栽培農家に割り当てられる。

表12 共和国法第809号に従った栽培農家とさとうきび工場の収益分配状況

注:1.RA第809号には、この数量がピクル単位で記載されている。
1ピクルは63.25キロ


 各製糖工場と、さとうきびを納品した栽培農家に適用される配分率は、ほんのわずかではあるが、その工場の産糖量に応じて変わってくる。表12は、栽培農家と工場間の収益配分の内訳であり、これによると砂糖の販売によって得た収益から栽培農家が受け取る配分は、比率にして最低60%、最高70%である。これは実際には、栽培農家がここ数年、平均で収益全体の65%程度を受け取っていることを意味する。
 個々の栽培農家が受け取る金額は、その農家が納品したさとうきびの重量と、一番搾りの糖汁の質(糖汁の純度と糖度)によって決まる。同国の砂糖業界では、こうしたデータをはじめ、様々な技術的実績の指標をもとに、砂糖の歩留まりを算定している。

砂糖政策の策定機関
 フィリピンにおいて砂糖政策の調整および実施で中心的な役割を果たしている機関は、砂糖統制委員会(SRA)である。古くは1937年から同様の行政機関が数多く誕生してきたが、1986年に、砂糖の流通を規制する一方で、企業による自由な売買を認める行政命令第18号を受けて設置された。
 毎年、その年に収穫されるさとうきびの内訳をケダン別に示す砂糖関連命令(Sugar Order)第1号が発布される。例えば2003/04年度には、ケダンB(国内消費用)向けを95%、ケダンA(対米国輸出用)向けをわずか5%に、SRAがそれぞれ設定したものの、その後、収穫量が予想を上回る見通しとなったため、ケダンB向けは92%で十分であるとみなされ、4%がケダンAに、4.0%がケダンD(輸出用)に回された。
 一年のいずれかの時期に、実際の収穫量に応じて、その年に生産される砂糖のケダン別流通量の修正を行う砂糖関連命令が発布されることも少なくない。国内価格の維持を目的とした国内市場からの砂糖の買い上げなど、政府から権限を与えられた直接的な市場介入を行う時にも、砂糖関連(または行政)命令が発布される。こうした介入措置は、国内価格の安定化を目指して、この2年度連続で講じられている。
 また、栽培農家に発行されたケダンは、貿易財となるため、大抵、地元の取引業者に売却された後、さらに大規模な取引業者へと売り渡される。これら取引業者は、ケダンを集めて、卸売業者や販売業者、加工業者に売り渡す。
 砂糖業界関連の重要な団体としては他に、フィリピン精糖業者組合(PSMA:Philippines Sugar Millers Association)がある。フィリピンの全さとうきび生産の78%を占めるこの組合は、訓練・研修や調査など、組合員に多様な支援サービスを提供するとともに、砂糖政策についての議論に対する組合員の興味を高める活動を行っている。


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砂糖産業の現状

製糖産業および精製糖産業の構造
 表13に、2003/04年度の製糖工場別の生産データを会社ごとに示した。表を見ると、現在29ヵ所のさとうきび工場が操業していることがわかる。フィリピンでは、製糖工場の圧倒的多数が個人所有であるため、さとうきび処理部門の整理統合は、ここ数年ほとんど動きがなく、今後も時間がかかり、難しい作業になるものと思われる。工場の数は、1996/97年度の37ヵ所からこの10年間で減少したとはいえ、これは整理統合の結果ではなく、最近の不景気の影響で一部の工場が操業停止に追い込まれたことによる。

地図 フィリピンのさとうきび栽培地域


 また、砂糖産業が盛んな地域はいくつかの島に点在しているが、国産砂糖の大半はネグロスとルソン、パナイ、ミンダナオの4島で生産されている。なかでもネグロス島は最大の生産地域で、この島に15ある工場がフィリピンの総生産量に占める比率は近年54%ほどに上る。これに続くのが、4つの工場を擁するミンダナオ島(総生産量の20%)と、8つの工場が建つルソン島(総生産量の15%から19%)である。ネグロス島の製糖工場は、1日当たりの処理量も平均で5,900トンを超え、最も多い。
 フィリピンで操業する精製糖工場と、それを所有する会社、その2003/04年度の生産量を表14にまとめた。フィリピンには現在、操業中の精糖所が12ヵ所ある。精糖はすべて製糖工場に併設された精糖所で生産されている。個々のさとうきび工場/精糖所が本質的に独立した組織であることなどから、精糖産業の構造に近年、変化は見られず、産糖量もほとんど変動していない。

砂糖産業の現在の問題
 砂糖産業で、政府がここ数年間、最も力を入れてきたのは、国内価格の安定の維持であり、密輸とさとうきび収穫量の上昇にともない、余剰砂糖がだぶついたため、政府は現在、介入を余儀なくされている。砂糖の生産量が増加に転じた背景には、高単収品種のさとうきびの普及と農場経営の近代化、さとうきびの栽培面積の増加がある。しかし、昨年には、供給過剰に陥った結果、国内価格が下落したことから、さとうきびの栽培をやめて、とうもろこしやバナナ、パイナップルなど、より価値の高い作物への転換を図る農家が出てきた。

表13 製糖会社が所有する工場および生産状況

資料:LMC

表14 精製糖会社の所有地および生産状況

資料:LMC

 また、砂糖の国内価格の下落に加え、石油の輸入コストの上昇に対応して、燃料用エタノール生産へのさとうきびの利用と、バガス(さとうきびの絞りかす)を燃料とした発電の拡大を促す計画が現在、進められている。こうした計画の達成を目的とする投資はすでに開始されており、その一貫として、ネグロス島にさとうきびを燃料とした30メガワットの発電所を建設し、2007年までに電力の販売をスタートさせる予定である。さらに、同様の発電プロジェクトが後に続くことも期待されている。バゴ市では、燃料用アルコールの蒸留所の建設が着手された。糖蜜を供給原料として使う、この新しい蒸留所も2007年に操業を開始する予定である。
 ところで、エタノールの生産のさらなる推進を図るため、政府は、2007年までに5%のエタノールをガソリンに混入させることを義務付ける法案を議会に提出する方針である。この法案が可決されれば、エタノールの混入率は2010年までに10%に引き上げられることになる。政府には、こうしたプログラムを導入することで、砂糖産業の生産を活性化できるだけでなく、さとうきびの需要が高まって、国内市場に度々介入し、砂糖価格を支持する必要がなくなるとの思惑があると思われる。
 将来的には、生産単価の引き下げが、政府ならびに砂糖産業の優先課題になる。これに対応するため、いわゆる「砂糖マスター・プラン」(およそ7億米ドル規模)の一環として、2015年までに砂糖の生産レベルを350万トンに到達させることを目指した、野心的な再活性化プログラムにSRAは2003年に着手した。このプログラムでは、研究開発に加え、28の製糖工場・精糖所の設備の整備から、農家の機械化、さとうきびの生産体制および運搬体制の充実まで、いくつかの主要な分野に重点が置かれている。
 このような砂糖産業の近代化と単価の引き下げが求められる一因に、アセアン自由貿易協定に伴う同国の義務がある。この協定では、加盟国間の関税を3年毎に10%ずつ引き下げて、2010年までに最高でも5%にすることを全加盟国に義務付けている。
 フィリピンは、この1年間、WTOのミニマム・アクセス枠の33%をタイから輸入することに同意するとともに、砂糖を年間2万トン輸入する約束を行うなどして、この義務の実行の先送りを認めてもらうよう尽力してきた。ただし、そのタイは、砂糖の国内価格の下落と国内産業の弱体化といった面で、最も脅威となる存在であると思われる。


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