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メキシコの砂糖産業の概要〜岐路に立つメキシコの砂糖政策〜

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2006年6月]

国際情報審査役

 メキシコは、この10年間に純輸入国から純輸出国へとその基本的な立場を変えたことで、同国の砂糖産業の構造が大きく変化している。また、こうした変化を生んだ最大のきっかけは、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)の発効であり、これを契機に1990年代中盤から終盤にかけて、砂糖の生産増強に向けての取り組みが刺激されることとなった。
 このようなメキシコの砂糖産業の概要について、英国の調査会社LMC社からの報告をもとにとりまとめたので紹介する。 



生産状況

 94/95年度から純輸出国へ
 メキシコでは、砂糖の生産量が1990/91年度から2004/05年度の間に200万トン強増えた。一方で、消費量が同時期、それほど大きな伸びを見せていない。これは、マクロ経済の問題が原因であり、1990年代中盤から消費レベルは生産レベルを下回り、その結果、メキシコは1994/95年度に砂糖の純輸出国となった。
 その後、純輸出量は1997/98年度に110万トンに達したが、これをピークに、生産量と消費量の差が縮まったことで、減少し始めた。2004/05年度の純輸出量は8万6,000トン程度であったが、2005/06年度の需給バランスは依然として不透明である。
 表1に、国内の生産と消費、輸出入の推移をさらに詳しく整理した。生産量は1999/00年度の500万トンから2004/05年度に600万トンへと、6年間で20%増加した。メキシコでは、砂糖消費量も同じ時期、およそ18%の伸びを示した。2005/06年度の総消費量は510万トン弱と予想されている。


図1:砂糖の生産量と消費量、純輸出量の推移


表1:砂糖の需給バランス

(単位:1,000トン、粗糖換算)

注:2005/06は、予測値
資料:LMC


さとうきびの生産状況─湾岸部4州で全収穫量の半分

 メキシコにおけるさとうきびの生産地は、南部の国境にあるキンタナ・ロー、チアパス両州から北西部のシナロア州までの1,500キロ以上広がる主要産地を中心に、ほぼ全土で栽培されている。なかでも最大規模を誇るのは、オアハカ州とタバスコ州、プエブラ州、そして最も重要なベラクルス州から成る湾岸部である。
 過去15年間のさとうきび収穫量の推移を地域別にまとめた図2を見ると、湾岸部がさとうきび収穫量全体の半分近くを占めていることが分かる。太平洋沿岸部は全体に占める比率が20%ほどで2番目に多く、これに15%ほどの北東部が続く。
 全ての地域に共通する特徴としては、さとうきび供給の大半を小規模農家に依存している点が挙げられる。メキシコの平均的なさとうきび農家の栽培面積は4ヘクタール前後であり、さとうきびの栽培サイクルは平均6年間である。
 また、同国は、粗糖、estandar糖(工場から直接出荷される白糖)、精製糖の3種類の砂糖が生産されており、なかでもestandar糖が、年間生産量は全体の60%を超える。残りの30%を精製糖がほぼ占めており、メキシコでは粗糖はほとんど生産されていない。
 
 

図2:さとうきび生産の地域別推移
 

図3:砂糖生産量内訳の推移
注1:グラフ内の(%)は、砂糖総生産量に占める粗糖、Estandar糖・精製糖の比率
注2:この表のデータは、粗糖換算の表1のデータとは異なる。
資料LMC


砂糖の国内消費─1/3は家庭用、2/3は業務用
 メキシコの砂糖の国内消費は、ここ数年、一人当たり50kg前後で推移している。その消費の内訳は、家庭用消費が、全体の3分の1程度で、残りの3分の2を業務用が占め、過去6年間にわたりこの構造は変わっていない。業務用のなかでも、特に飲料用の割合が大きく、飲料用だけで業務用の50%を超える。次いで、砂糖消費全体の10〜11%ほどを占めるパン類、7%の菓子類の順となっている。乳製品と缶詰製品は、合わせても比率が全体の5%に満たない。


表2:砂糖消費内訳の推移
(単位:1,000トン、粗糖換算)
資料:LMC


製糖の生産状況─1ha当たりの産糖量の著しい向上
 メキシコの砂糖産業は、2001/02年度から2004/05年度の4年間、さとうきびの単収が大きな伸びを見せたことで、産糖量も順調に増加した。2004/05年度には、収穫面積も7%増大し、これも収穫量の大幅な増加を支えている。ただし、この面積の増大は、栽培面積全体の拡大というよりも、通常であれば翌シーズンまでほ場に残しておくさとうきびを2004/05年度に収穫した結果であるように思われ、そのため、2005/06年度にはその反動として、収穫面積の減少が避けられないと予想される。


表3:さとうきび生産状況の推移
注:※さとうきびの生産額は、各年の砂糖の生産に使われていたさとうきびの数量に、農家が受け取る、砂糖に加工されたさとうきび1トン当たりの代価をかけて求める。
資料:LMC


図4:TC:TS比および1ha当たりの産糖量の推移

 また、図4により過去15年間にわたるTC:TS比と1ha当たり産糖量の推移を比較すると、この期間、1ha当たり産糖量は1990年代に著しい増減を見せるなど安定していないものの、2004/05年度の1ha当たり産糖量が1990/91年度を28%上回った。このように1ha当たり産糖量が格段に上がった主な要因は、収穫されたさとうきびのほ場から製糖工場への輸送手段が改善されたこによる。これによって、収穫から製糖までの間に生じる遅れが短縮され、さとうきびの劣化が少なくなり、歩留まりが上がった。
 その一方で、TC:TS比がこの期間、ほぼ一貫して低下し、10.5前後から9をわずかに下回るレベルになった。これは、製糖作業の効率性が向上して、それまでよりも少ないさとうきびで同じ量の砂糖を生産できることを意味する。
 同国における過去6年間の主な製糖工場数は、60から2ヵ所減り、現在では58であるが、この期間にすべて生産実績が改善した。例えば、工場の1日当たり平均処理能力が1999/00年度に比べ7%上昇し、1日当たりの平均処理量も14%増えた。操業期間は2003/04年度まであまり変化がなかったが、2004/05年度になると前年度に比べ平均で14日間増えた。この原因としては、収穫面積のところでも指摘したが、通常であれば2005/06年度に収穫するさとうきびを早く収穫した影響であり、今年度も同様の状況が続くとは考えられない。

表4:製糖工場の生産実績
資料:LMC


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その他の甘味料

異性化糖
 メキシコでは、甘味料消費での異性化糖の役割が政府の政策によって決定される。北米自由貿易協定では、米国とメキシコの市場の統合が求められているが、2002年以降、異性化糖を甘味料に使った清涼飲料に20%の税金をかけるなど、メキシコ当局は一連のダンピング防止税を課すことで国境を越えて異性化糖が流入することを抑制してきた。(編者注:NAFTAのサイドレターの問題により、同国の砂糖が米国に輸出することが困難になっている状況やメキシコの砂糖産業の保護が背景にあるといわれている。)このような状況では、米国からメキシコへの異性化糖の輸出が認められるようになったとはいえ、米国産異性化糖は価格競争力でメキシコ国内産砂糖に太刀打ちできない。その上、メキシコの清涼飲料税は異性化糖の国内生産の抑制にも効果を発揮している。
 メキシコ国内での異性化糖は、2000/01年度から2003/04年度までの4年間、生産量、消費量ともに減少している。その後、同政府による清涼飲料税に対して、一部の国内大手飲料メーカーから一連の法的な異議申し立てが2005年にあり、これを受けて政府はこの税の限定的免除を認めた。この申し立ては、一般的にアンパロ(Amparo:保護請求)と呼ばれ、この免税措置が講じられたことで、2004/05年度には異性化糖の生産量が回復した。2005/06年度にも引き続き伸びを示すものと予想される。
 また、メキシコ政府は、25万トンの米国産異性化糖を対象とした清涼飲料税の賦課を2005/06年度に一時停止すると発表した。アンパロが国産異性化糖の一部利用者にも適用される可能性が高く、そうなれば、生産量の更なる回復が見込まれる。そのため、異性化糖は2005/06年度、国産有カロリー甘味料の需要の9%ほどを占め、概ね2000/01年度の比率まで回復するものと思われる。


表5:異性化糖と砂糖の生産および消費の推移

(単位:1,000トン、粗糖換算/固形換算)

資料:LMC


代替甘味料
 メキシコ国内での甘味料全体の消費量は過去6年間、白糖換算で、概ね530万トン前後で推移している。そのうち人工甘味料の消費量が、1999/00年度の19万9,000トンから2004/05年度には27万9,000トンと、一貫して増加している。そのなかで、最も多く消費されているのはアスパルテームであり、その比率は代替甘味料全体の50%を超える。残りの大部分をサッカリンが占める。一方、アセスルファムKやステビオサイド、スクラロース、ネオテームの比率は極めて小さい。
 また、有カロリー甘味料だけを見ると、最も顕著な伸びを示しているのは砂糖である。1999/00年度から2004/05年度の6年間で、砂糖の消費量が20%ほども増加したのに対して、異性化糖全体の消費量は80%も落ち込んだ。


表6:甘味料消費の推移
(単位:1,000トン、白糖換算)
資料:LMC



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砂糖制度

砂糖制度の特徴
 メキシコにおいて砂糖産業を支える最大の要素は、国内価格の高さである。輸入関税に加え、国内市場の販売割当システムの運営によって、砂糖の国内価格は高い水準に維持されている。
 また、同国は、さとうきびの栽培を対象とした生産規制は特にない。砂糖の生産も、さとうきびと同様に、特に規制されていないが、流通と販売は販売割当システムによって規制されている。

国内価格支持
 メキシコの砂糖生産者が受け取る代金は、国際市場の水準を著しく上回っている。表7に、白糖(estandar糖)ならびに精製糖の国内卸売価格と、粗糖ならびに精製糖の特恵市場輸出価格を示した。同表にあるように、2001/02年度から2003/04年度にさとうきび栽培農家が受け取った代金は平均で、さとうきび1トン当たりおよそ21米ドルに相当する。

表7:さとうきび及び砂糖の平均価格

(単位:USドル/トン)

注:※1 輸出価格はすべてFOBベース
  ※2 Estandar糖
  ※3 国内卸売価格と小売価格は税抜きの価格
資料:LMC


表8:貿易政策の現状
資料:LMC、WTO


市場アクセス
 表:8は、WTO交渉の場で決定したメキシコの関税に関する取り決めの内容である。現在の関税は、粗糖、精製糖ともに1トン当たり360米ドルで、従価税率にすると、それぞれ178%と124%に相当する。同表にあるように、WTOの取り決めに従い、メキシコは2004/05年度までに、補助金付き輸出数量を27万トン、輸出補助金額を26%、それぞれ削減する必要があった。

砂糖の販売制度
 メキシコでは、あらかじめ決められた割当を超えて生産者が砂糖を国内で販売することが法的に禁じられている。この割当を超えて生産された砂糖は、繰越在庫にするか、食品以外の用途用に販売するか、あるいは、輸出しなければならない。このように供給量の抑制を行うのは、砂糖の価格を高い水準に保つためであるが、砂糖に対する輸入関税もまた、価格水準の維持を助けている。
 北米自由貿易協定では、輸出可能なメキシコ産甘味料の余剰分の数量に応じて、米国市場への無税の関税割当をメキシコに認めることを米国に義務付けている。しかし、清涼飲料税の導入で、2002/03年度と2003/04年度には、砂糖の需要が増大したため、輸出可能な余剰分が実質的にゼロになった。その結果、米国当局は2年間、関税割当を行っていなかった。(ただし、メキシコ側は、メキシコ産甘味料の余剰の計算方法を定めたサイドレターの記述は無効であり、砂糖輸出することは可能であったと主張している。)
 ところが、最近になって、メキシコで砂糖の生産急増に、異性化糖の消費の伸びが重なり、再び余剰が生じたため、米国側はメキシコに2005/06年度分として25万トンの割当を認めた。

さとうきび栽培農家
 メキシコのさとうきび栽培農家は、革命の後に大規模民間所有者の土地を小作農に再配分する計画が実施され、その中で生まれたのがエヒード(ejido:大規模共有農場)で、そのエヒードでさとうきびを栽培しているエヒダタリオ(ejidatario)とそれ以外の小規模農家の2つに大きく分かれる。
 エヒダタリオのさとうきびの栽培面積は平均で1戸4ヘクタールほどであるが、エヒードでは、こうした個々の農家が所有する小区画が多数集まって、大きな区画を作り、そこでさとうきびの栽培が行われることが少なくない。
 一方、小規模農家の多くは、個別農家で営農を行うか、農家組合に属している。小規模農家も栽培面積は平均で4ヘクタールほどだが、農家組合の中には、全体の面積が700ヘクタールに上るところもある。エヒードとは異なり、概して、小規模農家が所有する小区画が集まり、大きな区画を形成して、さとうきびを栽培するということはない。
 全国レベルで見ると、さとうきびの供給量に占める比率は、エヒダタリオが61%、小規模農家が残りの39%である。

農家と製糖工場の関係─信用供与
 メキシコのさとうきび栽培農家は、特定の工場と契約を結び、その工場にさとうきびを納入する。この契約の最大のポイントは、栽培サイクル全体にわたる整地、さとうきびの植付け、管理、収穫、積み込みおよび輸送のコストをカバーする信用供与を、工場が栽培農家に保証する点にある(信用供与は平均6年間である)。同国には、代替作物を対象とした同様の制度がまだないため、このような信用供与は、農家のさとうきび栽培の意欲を高める大きな要因となっている。
 しかし、信用を受ける引き換えとして、栽培農家は、工場と農家の代表者から構成される、さとうきび生産委員会(Cane Production Committee)が示す、さとうきびの管理についての提言に従わなければならない。その代わり、状況によっては、植え付けたさとうきびの収穫物を対象に、一部の信用の返済免除というさらなる奨励措置を農家は受けることができる。ただし、その後の株出し栽培の収穫物は除くようである。
 この条項が工場と栽培農家の間の契約でよく盛り込まれるのは、ベラクルス州のコルドバである。ここは全国で最も工場が密集している地域で、工場間でさとうきびを巡る争奪戦が起きている。

さとうきび支払制度
 メキシコでは、1996/97年度から2003/04年度までの間、さとうきび支払制度に関する法律において、工場に納入したさとうきび1トン当たりから抽出可能な数量の標準的砂糖(estandar糖)の価額の57%を栽培農家の受取額とすることが規定されていた。工場が工場効率水準(Eficiencia Base de Fabrica)である82.37%以上のショ糖歩留まり率を達成できなかった場合、栽培農家は工場の砂糖収益の57%を超える分配を受けることができた。 精製糖工場でさえも、KARBE(さとうきび1トン当たりから抽出できる標準的砂糖[estandar糖]の量という意味)制度に基づいてさとうきびの支払いが行われ、estandar糖の基準価格に応じてさとうきびの価格が決められていた。これは、工場がestandar糖ではなく精製糖を生産することで、精製糖の価格の割増分を100%自らの収益にできることを意味する。
 メキシコ政府は、2004/05年度の収穫が始まる前に、さとうきび支払制度に関する法律の施行を一時停止すると同時に、工場に有利な制度の導入を示唆した。ところが、これを受けて、栽培農家の間から広く抗議の声が上がったため、2004/05年度には新しい法律が整備されないまま、前の制度に従ってさとうきびの支払いが行われた。
 同政府は、2005/06年度に先立ち、大きな変革の着手に必要な政治的支持が明らかに得られていないことを認識し、今までのさとうきび支払システムを実質的に再び採用する内容の法案を可決した。


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砂糖産業の現状

製糖産業および精製糖産業の構造
 メキシコで2004/05年度に砂糖を製造した工場は、合わせて58ヵ所である。このうち23ヵ所は、2001年に民間経営者から政府が強制的に収用し、管理している。
 この再国営化が行われるまで、メキシコ最大の製糖グループは、その頭文字CAZEで一般的に知られるConsorcio Azucarero Escorpionであった。CAZEは、合計で9ヵ所の製糖工場を運営し、平均で国内産出量の22%ほどを占めていた。これに次ぐ規模を誇ったのは、全体に占める比率が10%強のGrupo Azucarero Mexico (GAM)であった。しかし、2つのグループとも、再国営化が進められるなかで、完全に政府の支配下に置かれることになった。これは、膨らんだ累積債務を抱える民間工場経営者が多く、こうした経営者がさとうきびの代金を栽培農家に支払えなくなるのではないかとの懸念が強まったことをきっかけに、2001年に強制的な収用が行われたためである。
 しかし、このような強制収用の適法性に異議を唱える一連の申し立てがあり、メキシコの最高裁判所は、これが憲法違反であるとの判定を下した。これらの工場を民間経営者にどのように返却するのか、その仕組みはまだ決まっていない。
 ところで、2004/05年度に操業していた工場のうち、精製糖を製造できる所は合計で19ヵ所あり、メキシコには独立型精糖所がない。これは、国内の精糖能力の利用率は近年、増減が激しいことによる。この増減は、estandar糖に対する精製糖の相対的な需要の動向におおむね沿っており、また、この需要の動向に影響を与えているのは、国内における異性化糖の供給力を決定する政策環境である。
 2002年以降、清涼飲料税導入による異性化糖の消費の抑制で、2001/02年度から2002/03年度の2年間、精製糖は比較的豊富に出回るようになり、精糖の利益幅が圧縮される傾向にあった。これを受け、政府は2003/04年度、自らの管理下にある精糖所のうち4ヵ所の操業を一時停止し、精製糖の供給量の削減と、白糖のプレミアム価格の支持を図った。


表9:メキシコの砂糖産業- 政府が管理する工場(2004/05年度)
注:1.Consorcio Azucarero Escorpion SA de CV から強制収用
 2.Consorcio Machado から強制収用
 3.Grupo Azucarero Mexico SA de CV(GAM)から強制収用
 4.Ingenios Santos SA de CV から強制収用
 5.Fideliq から強制収用
資料:LMC

表10:メキシコの砂糖企業の概要(2004/05年度)
資料:LMC

砂糖産業の現在の問題点
 メキシコの砂糖産業は現在、多数の差し迫った課題に直面しており、そのほとんどは、今後の砂糖の国内政策および貿易政策を巡る環境が不透明であることに起因する。メキシコ政府が強制収用した工場を再民営化するとの意向を示していたが、それをどのように実現するのかが、つい最近になるまで、未解決の大きな問題の1つであった。現政権が、工場にとって魅力のあるさとうきび支払制度の導入に失敗したことで、この再民営化を進めるにあたり、同政府がより一層難しい対応を迫られことになると見られていた。
 ところが、メキシコの最高裁判所が先日、今回の強制収用は憲法違反にあたるとの判決を示したことで、これら工場を再民営化する必要がなくなり、その代わりに、同政府は工場を元の経営者に戻すという難題を抱えることになった。その上、工場を所有していたグループが最早存在していないケースもあるなど、これは、単に返せばよいという簡単な話ではなく、債務を再び負うのを嫌がるケースも考えられる。
 また、元の経営者がこれに応じたとしても、その債務の規模と返済条件で合意に達するまでに、かなり時間がかかる可能性が高い。このため、収用された工場の所有構造が今後、安定するのか、あるいは、タイムリーな投資を行うことができるのか、その先行きが不透明である。
 貿易政策の面では、米国政府が2005/06年度分のメキシコ用の関税割当を25万トンに設定した時、米国側は自国の「北米自由貿易協定を完全に履行する義務」について述べた。この言明は、2008年に米国とメキシコの間で甘味料の貿易が自由化されることを示唆しているのに他ならない。これが自由化されると、異性化糖がメキシコの砂糖の需要のかなりの割合を奪い、国内の輸出可能な余剰分の増加を招く恐れがあり、メキシコにとっては脅威となる。
 また、余剰砂糖は米国に輸出できるが、そうなるとメキシコ産砂糖の流入で、すでにメキシコの国内価格を下回っている米国内価格がさらに下落するものと予想される。米国において、次期農業法の施行にともない国内支持策が縮小された場合には、メキシコの砂糖産業が受ける打撃はより一層大きなものになる。
 メキシコにとって、輸入品か、国産品かに関わらず、メキシコ市場を異性化糖に完全に開放するかどうかが最大の課題となる。WTOは2005年、メキシコの清涼飲料税が同国の貿易義務に違反するとの判定を下した。しかし、この税はまだ廃止されておらず、メキシコが難しい選択を迫られる現状を浮き彫りにしている。米国の砂糖市場に対する無制限のアクセスを得るためには、その見返りとして、同様のアクセスを米国に許可しなければならないのは確実と見られ、メキシコは岐路に立たされていると言える。


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