ホーム > 砂糖 > 機構から > WTO農業交渉の現状と今後の展望〜機構主催の講演会から〜
最終更新日:2010年3月6日
調 査 情 報 部 |
当機構では、関係機関の担当者も含めて、社会経済情勢の変化などの内外情勢への理解を深めるため、改革フォーラム(有識者による講演会、有識者との意見交換会など)を開催している。
平成18年8月25日に、農林水産省の村上農林水産審議官を招き、農政の緊急かつ重要な課題であり、関心が高い「WTO農業交渉の現状と今後の展望」をテーマとした改革フォーラムを開催した。今回はその講演の概要を紹介する。
講師の農林水産省 村上農林水産審議官 |
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1 ドーハ開発ラウンドの交渉の一時中断
2006年6月のスイス・ジュネーブにおける閣僚級会合では、米国の農業の国内支持、日本・EUの農業の市場アクセス、ブラジル・インドなどの途上国の非農産品・サービスの市場アクセスをめぐる「三角形」の対立状況というのが解消せず合意に至らなかった。そこで、ラミー事務局長が調整役という形で、各国と協議をしてもらうことになり、モダリティ確立促進のため、各国から腹の中を聞いてもらって、落ちどころを探っていくという作業をすることになりました。
それで何とかなるかという期待もありましたが、なかなかうまくいかないという状況でした。7月中旬にサミットがございまして、各国首脳が、加盟国がそれぞれ柔軟性を発揮すべきだということで、7月末に向け集中的に交渉するべきという合意があったわけです。それを踏まえまして、G6が7月23日、24日に集まりまして、ジュネーブで集中的に交渉をやりました。しかし、やはり三角形の問題を解消できなかったというのが実態です。 このまま続けていても、恐らく差は埋まらないということで、ラミー事務局長の提案を受け、交渉を一時中断するということをG6の中で合意をいたしまして、これを全体の貿易交渉委員会(TNC)に諮って了解を得たというところです。
ドーハ・ラウンドの交渉の分野は、農業、NAMA(非農産品)、サービス、その他幾つかありますが、やはり、農業とNAMAの市場アクセスが中心ということです。
決裂をしたときの構図ですけれども、1つはアメリカの国内支持を、特に全体的な国内支持の削減、即ち黄と青とデミニミスを合計した貿易歪曲的国内支持の全体の削減をどうするか。アメリカが実質的な削減をすべきであるというのが、途上国をはじめ、EUないし日本の主張でした。しかし、アメリカは実質的な削減に踏み込むということを非常に嫌ったということでございます。
それから、日本とEUについては、農業の市場アクセス、それから途上国グループについては非農産物品の途上国のスイスフォーミュラの係数を幾つにするかということが中心的な問題でございました。
それぞれ、防御するという形になりますけれども、そういう三角形の状態が打開できなかった。最終的に、一番問題になったのは、アメリカの国内支持です。実質的に削減して、いわゆる身を切るといいますか、血を流すというところまで持っていけるかというところが重要な問題だったというふうに考えております。
それについて、アメリカは、アメリカがそれをやるためには日本やEUなどのマーケットアクセスについて、非常に高い水準を出さないとできないということで、拒否をしたということ。これが、交渉が壊れた基本的な理由だと思っております。
交渉は中断しましたが、日本も、ほかの国もそうですけれども、できるだけ早く再開しようということで、コメントなり声明を出しているという状況です。8月1日に総理のコメントを出してもらい、交渉をできるだけ早く再開しようということに向けての日本の決意を示しました。それから、仮に中断が続いて交渉が進まなくても、香港の閣僚会議の際に「開発イニシアティブ」という途上国向けのパッケージを発表しておりますが、これを着実に実施していくことを明らかにしたわけです。特に、LDC向けの無税無枠というのがございますが、これは2007年から実施する予定で準備を進めております。
それからWTOとEPAは、これまでどおり車の両輪という形で進めていく。また、国内の農政の改革は引き続きスピードをゆるめないでやっていくということを総理からコメントとして出してもらったということでございます。
わが国のWTO農業に臨む基本方針については、もう何度もお聞きになっていると思いますけれども、基本理念として、「多様な農業の共存」ということです。もちろん、改革をしていきますし、自由化もしていかなければいけない。国内支持も削減していくけれども、それぞれの国の農業が生きていけて、構造改革が順調に進められるという形での交渉結果でなければならないという考え方です。
2 農業交渉における各分野の状況
(1)市場アクセス
市場アクセスですが、全体の平均削減率をどの程度にするか。一般品目のそれぞれの削減率、重要品目の数とその取り扱いが議論の論点になっています。
階層方式ということで、例えば20%、50%、75%のところでそれぞれ切りまして、その階層に属する関税について、階層の高い関税ほど大きく削減するという方式です。その境界についてはいろいろな提案がございましたが、基本的にはG20の提案、20%、50%、75%という境で切ろうという方向になってきています。
それから、削減方式については、定率、リニアということでほぼ議論が収れんしつつあるという状況です。当然、上限関税も非常に大きい論点です。G20、アメリカは、上限関税をすべての品目に適用するということを言っておりますし、EUも最初は両方とも適用するような感じがございまして、重要品目については若干あいまいなところがあったわけです。その辺については現在では、重要品目については上限関税を入れないということについて、EUはほぼ了解をしていると理解しております。
現在、「平均削減率」という形で議論されているところがございます。いわゆるG20が平均削減率として先進国54%程度ということを言っております。それにどれだけ近づけるか、その上を行くのか、下を行くのかということで、G20のノースとかサウスという言い方をしておりまして、EUはG20の54%削減、これに近いところまで平均削減率を引き上げることが可能だと言っています。もちろん、その前提として、アメリカが国内支持の全体的削減についてG20提案水準までやることと、途上国が、NAMAのスイスフォーミュラの係数を20より下にするとか条件を付けておりますので、そういう意味では、正式の提案ではなくて示唆を出しているという状況です。アメリカがそれに対して国内支持で、例えば全体的削減で70%削減するというようなことが出せなかったということで、ある意味ではアメリカが守勢に回ったという状況で終わっています。
次に重要品目の件です。一般の品目については階層方式ですけれども、重要品目については、関税削減と関税割当の拡大の組み合わせで行うということです。重要品目の数については、G10はタリフラインの10%〜15%、EUが8%、アメリカやG20は、有税タリフラインの1%と主張しております。
この数については、わが国は非常に致命的な問題を抱えているわけですけれども、EUはこの数をかなり削減できるというようなことを示唆しているので、われわれとしても、強い懸念を持っておりまして、これに対してどう対応していくかというのが1つの大きいポイントです。
重要品目の取り扱いですが、関税削減と関税割当の組み合わせということで、その組み合わせの幅は、どれくらいの幅を持たせ得るのかということがポイントとなります。わが方としてはスライド方式ということで、関税削減が少ない場合には関税割当の拡大を大きく、関税削減が大きい場合には関税割当の拡大幅を小さくし、その組み合わせの幅を非常に大きく取るということを主張しております。
関税については一般品目の削減率の20%〜80%の幅を取って、それに関税割当の拡大を組み合わせる。EUについては3分の1から3分の2というようなことを言っておりますし、それに対して輸出国側は、関税削減をできるだけ大きく取る。それから、アメリカに至っては、関税削減は一般品目の半分、2分の1が原則であると主張し、それ以外の削減率については話し合いに応じてもいいというような言い方をいたしております。
ここで特徴的なことは2つございますが、1つは、何をベースに枠を拡大するのかということで、G20とアメリカは消費量の何%という形で拡大すべきだということ。G10とEUは、それでは非常に過大になってしまうので、輸入量ないし現在の関税割当の水準の何%という形で拡大をすべきだということを主張しております。
もう一つの大きな立場の違いは、いわゆるコア(基礎的部分)の拡大があるかどうかということです。例えばG20の場合ですけれども、まず、消費量の6%拡大しそれに加えて、一般品目との関税削減の乖離に応じてスライド的に増やすということで、まず6%拡大ありきということです。
アメリカは、最近は、消費量の3%拡大がまずベースとしてあり、これは関税との乖離をベースにした拡大をプラスするという考え方となりました。3%といいますと、例えばコメの場合は国内消費が900万トンとして27万トン、それに関税削減との乖離による拡大がついてくるということになります。さらに、関税の高いものほどより大きく拡大するという考えがアメリカの場合は入っておりまして、その部分がさらに加わっていくということで、アメリカの主張は、われわれの立場と大きな隔たりがあります。
G6の閣僚レベルの交渉と並行して、G6のSOMレベル(高級事務レベル)でも交渉をやっており、私はこのSOMレベルの交渉に参加しておりました。後半のほうではこの重要品目の取り扱い、関税割当拡大の方式をどうするかということが議論の中心でございました。この問題が決まらないと関税の削減率もなかなか決めづらいし、それから、重要品目の数も決めづらいということで、これをまず固めないとどうしようもない。またこれを固めないといわゆる特別品目(SP)の方も決まってこないということで、これがいわゆるゲートウェイ・イシューといいますか、そういうことでかなり議論したのですけれども、立場はなかなか埋まらなかった。
途中の段階で、G10とEUは関割の拡大方式について共通ポジションをつくろうということで、EUとG10は共同提案を作って対応してきたということがございます。
これは参考ですが、一般品目の関税を階層的に削減するというのは、関税割当がある場合は二次税率の削減を言っております。
一次税率についてはどうするかということはまだ何も決まっておりません。アメリカなどは一次税率を撤廃すべきだと言っております。また、関税割当の運用の問題などはまだ議論の途中段階であります。
(2)国内支持
もう一つは、国内支持の分野です。国内支持についても、香港の閣僚会合で階層方式による削減ということが決まったわけです。現在、一番多く国内支持を持っているEUが一番上の階層で、日本とアメリカが2番目の階層、その他が3番目の階層ということになっております。
黄色の政策につきましては、日本、スイスなど、相対的に支持水準が高い先進国は、その同じ階層の中で追加的な約束をします。例えば、アメリカと日本は第2階層に入っておりますが、日本のほうが相対的に支持水準が高いので、アメリカよりも多めの削減をしますということを約束しているわけです。
G10は、EUが70%、日米が60%、その他の国は40%という削減率の提案をしております。アメリカは、昨年の10月に国内支持の提案を出しまして、EUは83%、日本・アメリカが60%、その他が37%ということで提案を出しております。EUに過重になっているというのは一目瞭然というところです。
その次に全体削減。全体削減というのは、黄色の政策と、デミニミスと、青、これを併せたものです。要するに、黄色の政策は減らすけれども、それが青に行ってしまうとか、デミニミスで使うとか、いわゆるボックス・シフティングが行われるのを防ぐために、黄色の削減だけではなくて、全体削減もやりましょうということになったわけでございます。これも同じようにEU、日米、その他という3つの階層で、日本は75%、65%、45%の削減、一方アメリカは75%、53%、31%の削減を提案しています。アメリカ提案の中で黄色は60%削減すると言っていますが、全体削減は53%の削減ということで、全体的削減の方がゆるめになっております。
先ほど言いました、三角形の問題で全体的削減、特にアメリカの全体的削減が問題になったと言いましたけれども、アメリカは昨年の10月の提案で53%という提案を出しております。一方EUは、EUが関税の平均削減率でG20の提案に近づくのであれば、アメリカも、国内支持の全体的削減でG20提案に近づくべきであると言っています。G20の提案で、真ん中の階層にあるアメリカ・日本の削減率が75%ですけれども、例えば70%程度までアメリカが国内支持で削減しないとバランスしないという主張をしたということです。
アメリカは、議会との関係、あるいは国内の農業団体との関係で、この全体的削減について若干の動きは可能かもしれないけれども、実質的に削減するような大きいものはできないと思っています。現在、アメリカの全体的な支出は、たしか190億ドル程度だと思います。190とか200億ドル程度ですけれども、それを140億ドルとか、それくらいまで削減すべきだということを主張しているわけです。それに応じることができないというのがアメリカの立場です。
それから、アメリカは新しい青の政策として価格差変動支払い(CCP)のためのボックスを提案していますが、これが自由勝手に使われては困る、あるいは、これを理由として特定の品目にたくさん金をつぎ込まれては困るということで、新青に対して規律を強化すべきだということも1つの論点になっております。これについても、アメリカはかなり抵抗をしておりますが、守勢に回っているという状況です。詳しいことは控えますけれども、そういう構図になっております。青の政策については、農業生産額の2.5%を上限とするという方向で議論が進んでおります。昨年の7月の枠組み合意では5%ということでしたけれども、これがその半分になったということでございます。
これについては、実施期間の終了時に2.5%にすればいいというふうにわれわれは言っておりますが、途上国などは2.5%からさらに削減すべきだというようなことを言っております。
それから緑の政策ですが、これが非常に今後の政策の上で大事でございますし、これをきちっと確保していくということが重要です。緑の政策について、G20などは直接支払いの単価などについて、基本的に変更しないということを明確にしようとしております。われわれとしては、現行の緑の基本的な基準は変えず、新たな規律を加えるべきでないという主張をしています。
各国の国内支持の水準の現在の状況ですが、日本は、ウルグアイ・ラウンド約束水準に対して2割程度まで削減をしているという状況です。アメリカは約束水準の75%。そういう意味であまり削減をしていない。むしろ一時期はかなり増やしたという状況がございます。EUは64%の水準にあるということ。わが国は、削減余地という意味ではかなりあるということでございます。
(3)輸出競争
次は輸出競争の関係です。これが3番目の柱です。輸出競争については、わが国との関係は大きくないわけですけれども、1つは、輸出国と輸入国の権利・義務のバランス。輸入国サイドの関税あるいは輸入の仕組みについての規律に比べると、輸出補助金とか国家貿易とか、食料援助に対する規律がゆるいのではないかということで、この辺の強化ということを、わが国としては基本的に主張しているという状況でございます。
従来、輸出補助金の撤廃、この廃止ということが農業交渉の最大の焦点でございました。香港の閣僚会議で、これが大きな議論になりまして、2013年までに輸出補助金を撤廃する。全ての形態の輸出補助金を撤廃するということで、合意をいたしております。それで、実施期間の前半、2010年までに実質的な大部分をやるということで、それをどういう時間配分でやっていくか、数量を配分していくかということが1つのポイントになっております。
その際に、すべての形態の輸出補助金、いわゆる古典的な意味での輸出補助金だけではなくて、輸出信用、国家貿易、食料援助についても、これを、いわゆる古典的な意味の輸出補助金とパラレルで撤廃をするということが原則として決まったわけです。
では、そのパラレルというのは一体何かというのが議論の中身になって、輸出信用、国家貿易、食料援助、それぞれの分野について細かな議論を行ってきております。かなり技術的な作業が進んでいて、いろいろ残された論点はございますけれども、ほかの分野に比べると技術的作業が進んでいて、EUとしてもこれ以上、パラレリズムの中身を突き詰めようとしてもそれ以上はなかなか無理だというような感じがだんだん出てきており、現在は輸出競争の分野はそれほど大きな論点になっていない状況でございます。
わが国の場合は、輸出信用はほとんどありませんし、国家貿易はありますけれども、いわゆる輸入国家貿易は論点になっておりませんので、大きな問題ではありません。食料援助において若干の問題がございまして、例えば現物による援助とか、有償による援助というようなものを、一定の場合、緊急の場合に認めるべきではないかということを主張しています。
3 WTO農業交渉の今後の見込み
先ほど言いましたように、7月23日、24日のG6の会合におきまして、中断ということになりました。これを早く立ち上げようということで、いろいろな動きが行われております。
客観的に言いますと、アメリカが国内支持、いわゆる全体的削減の部分で動きが出せるかどうかということがポイントだろうと思います。その場合に、アメリカの政治状況というのが大きいポイントになるわけですけれども、11月に議会の中間選挙がございます。上院の3分の1と下院の改選がございますが、ここでどういう結果になるか。その前後で、その結果を踏まえてアメリカは動きができるかどうかというようなところ。その辺をよく見ていく必要があろうかというふうに思っております。
仮に、来年初めから、何か大きな動きがないとなかなか難しいということになるかと思います。もう一つの節目としてアメリカのTPA、従来ファースト・トラックと言っていましたけれども、この包括交渉権が6月末で切れます。これが延長できるのかどうかという問題がございます。
延長するためには、ある程度成果が見えていないと議会を説得できないというところがあると思いますので、延長する直前までに、何か大枠としてこういう方向になっているということをつくり上げようとするのだと思います。仮に中間選挙後または来年の初めに、大枠についても成果が見えるような形ができるか、そういうことでないと、TPAの延長は難しい状況になると思います。
仮にTPAが延長できないと、これは現政権のもとで新しい包括交渉権限というのを議会が与える見込みはほぼなくなるということで、次期政権を待たないといけないということが予想されます。
他方、わが国はいま申し上げましたような中で、G10とともに、EUとインドと連携をしながら、G6の中で頑張ってきています。しかし今議論されている削減の水準なども見ますと、平均削減率で50%、最上級の階層の削減率がEUの場合は60%です。ですから仮に穏やかな交渉結果になったとしても、関税の削減の幅も、ウルグアイ・ラウンドのときよりかなり大きくなると思います。
それから、重要品目に指定された場合も、関税の削減に関税割当拡大というのが当然ついてまいりますので、「除外」とか「例外」がない世界です。したがって、それに対応できるように国内のほうも努力をして引き続きやっていく必要があります。農林水産省でも、今回、品目横断対策を導入して、平成19年度から担い手に政策を集中する、あるいは担い手づくりをしていくというようなことを政策として打ち出しておりますけれども、これをしっかりやっていかなければいけませんし、それで満足していてはいけないというのが私の偽らざる感じでございます。
改革をやっている間は世間一般、消費者、マスコミ、国会は、農林水産省の交渉姿勢を応援してくれると思いますけれども、その辺がどうも十分でないなということになると、矛先がかなり変わってくる可能性があるので、そこは心してやっていく必要があろうかと思っています。
ウルグアイ・ラウンドのときは、マスコミなどとの関係では、交渉をやっている人間にとってはかなり辛い交渉だったと思います。いまの段階では、経済界もマスコミも、日本の交渉姿勢について、そんなに批判的ではないというのは、やはり農林水産省が国内の改革もやっているというのが背景にあるのではないかなと思っているところでございます。
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質問者:いまご説明いただいた国内支持の水準について、日本はAMSの約束水準の18%の水準まで削減したのにアメリカは75%とか、EUは64%にすぎない。この約束水準と実績についてもう少し詳しく説明してください。
それから、最近ASEANで経済産業相会合があって、日本が東アジアFTA構想を提案し進めようとしているという報道を見るわけですけれども、特にオーストラリアとのFTAは日本の農業への影響が大きいと思うのですが、こういった動きについて、農業分野としてはどう対応していくかについても教えてください。
村上審議官:国内支持の約束水準と実績値との関係ですけれども、日本は8割ぐらい削減している。それから、EUは36%削減して、アメリカは25%しか減っていない。しかしアメリカは2001年では、2兆3,216億の約束数字に対して、1兆7,516億ということで、約束水準を上回ってはいないという状況です。EUはCAP改革をやってきておりますし、日本もコメの改革が効いていますけれども、コメの価格支持をやめたということが約束水準を大きく下回っている理由だと思います。EUも日本も大きな改革をやっている中で、アメリカは十分ではないのでないかということ。それから、いわゆる直接支払い導入をしましたけれども、結局、2002年の農業法でCCPを導入した。これは黄色ではないかということで議論になって、自由化の方向に逆行しているのではないかと主張しています。
そういう背景もあって、アメリカに対する国内支持の削減要求というのが、途上国からも強く出されており、EU・日本も強く言っているという状況にございます。
国内支持の黄色の政策の削減については、アメリカの黄色の60%削減というのは、アメリカにとっては結構痛くて、たしか170億ドルくらいの水準に対して75億ドルくらいまで削減しなければいけないということで、かなり大きな削減であることは事実だと思います。
ただ、青の政策、新青の政策を認めたり、それからデミニミスを、これは品目ごと、それから全体デミニミスと両方ございますので、ここに逃げ込みますとかなりの余地がある。このためアメリカに対しては、全体的削減をもっと大きくやるべきだという、実際上切り込むような形にすべきだということを日本も各国と歩調を合わせて、改革が遅れているアメリカに対して強く当たっているところです。
それから、EPA、あるいはFTAの問題です。豪州については昨年の4月に首脳会議で、FTAなりEPAについて、メリット・デメリットを両国間で研究しようということで、現在その研究を2年間かけてやるということで進んでいるところでございます。
その中でわれわれが主張していますのは、豪州とは農産物の貿易のウエートが非常に大きいということですし、その農産物の貿易の対象になっている品目は、いずれも日本にとって困難な重要な品目であるということ。コメもありますし、小麦、乳製品、牛肉、砂糖、どれをとっても非常に難しい品目です。一方豪州が各国と結んでいるFTA、EPAを見ますと、ほとんど例外がない。アメリカとの間では若干ありますが、関税撤廃というのが基本になっているというようなところがございまして、これは、交渉する中で工夫すればいいではないかという人もいますが、先が見えない中で、そう簡単に交渉に入れないというところがございまして、われわれとしてはその影響の大きさを非常に強く主張しているところでございます。
このように豪州とのFTAはいままでのFTAと質的にかなり異なる可能性が非常に強いので、われわれとしては非常に慎重に対応している。もちろん、豪州との交渉に入れば、アメリカとの関係をどうするのかという問題が出てきますし、豪州とやればカナダがまたやってくれというふうになるでしょうし。いずれにしても、豪州とのFTAについては非常に慎重に対応しているということで、その品目の困難さというようなことをいま研究会の中で強く主張して、仮に交渉に入るのであればそういうものが特別扱いになるということが予めわかっていないと、これは難しいということを主張しているところでございます。
もちろん、豪州と日本との関係というのは、非常に重要な2国間関係でございますし、それをわれわれも否定するものではございませんけれども、以上申し上げたような点で慎重に対応していきたい。
それから、東アジアEPA構想というのがございます。現在、ASEAN+3については、民間における研究が進められ、その報告が出てきたという状況です。そういう中でASEAN+6、ASEAN+3というのは、ASEAN10カ国に日・中・韓を加えたもの、ASEAN+6というのは日・中・韓にさらにインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたものです。
これは経済産業省が中心にそういう構想を練って、世の中に明らかにしてきているわけですけれども、政府の中では東アジアにおける経済統合の一つの考え方として、今後議論の一つの素材とするという位置付けになっております。ASEANの経済閣僚会合におきましても、民間における研究をまず始めようではないかという提案を二階大臣のほうからなされたと理解しております。
新聞の報道ではいかにもすぐ交渉が始まるような印象を受けられるかもしれませんが、民間の研究を始めるということでございます。ASEAN側の反応ですけれども、これは新聞ではきちんと報道されていませんが、ASEANとしてはまず、ASEAN+1といいますか、すでにASEANと日本、ASEANと中国、ASEANと韓国のように交渉しておりますけれども、ASEAN+6を検討する前にそれをまずちゃんとやってほしいということであった、というふうに聞いています。
質問者:G10の重要品目の数の提案は10〜15%ですね。これは幅があるのですけれども、例えば、重要品目はどこの国も守りたいわけですから、幅を持たせると15%になるに決まっているというような感じもするのですけれども、どうしてこういう幅がついているのでしょうか。
また、わが国は、約束水準をはるかに超えて国内支持を削減しているわけですけれども、先立って削減してしまうと、基準年の取り方によっては次の削減幅を決めるときに約束の開始年の水準が下がってしまうので、不利になるのではないでしょうか。
村上審議官:G10の重要品目の数の提案の10%、15%ですね。これは、いわゆるスライド方式と関税削減の方式と、全部セットで提案をしておりますけれども、15%というのは関税の削減方式に柔軟性がない場合。いわゆる、各階層にリニアで削減するか、それから、ウルグアイ・ラウンド方式のように最低と平均を、その柔軟性があるかどうか。各階層の削減の方式に柔軟性がある場合は10%、柔軟性がない場合は15%ということで、重要品目の数を変えているということです。
先ほど言いましたように、いまの議論では、リニアという形になっております。ただ、そこは、重要品目の数の相場としてかなり厳しくなってきておりますので、15%は若干、厳しくなっているかなと思っております。
AMSの削減の基準年をどうするかというのが大きな議論の1つになっておりまして、いわゆる実施期間の95年から2000年を取るべきであるということをアメリカ以外の国はみんな一致して主張しております。そうしますとかなり、日本の場合は大丈夫ということでございます。削減の影響がほとんど出てこない。
アメリカは、99年から2001年ということで、ごく最近の年を取ろうとしております。これは、まさにアメリカは最近支出を増やしているわけで、そういう年次を取らないと現在のプログラムなり支出レベルを維持できないということで、これと異なる提案には、アメリカはものすごく抵抗しております。ただ、それ以外の国は全部95年から2000年ということで、この点ではアメリカが孤立しているという状況です。
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