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米国の砂糖政策をめぐる情勢と砂糖需給

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2006年11月]

調査情報部長
調査情報部調査情報第3課 課長代理 
国際情報審査役補佐
加藤 信夫
天野 寿朗
平石 康久


 今年8月に行われた米国砂糖連盟(American Sugar Alliance, ASA)の第23回国際甘味料シンポジウムへの出席及びミネソタ州の南部ミネソタ州ビート糖協同組合(Southern Minnesota Beet Sugar Cooperative)の訪問を通じて、米国の砂糖政策をめぐる情勢や砂糖需給状況などを調査する機会を得たため、その概要を報告する。

1 米国の砂糖政策をめぐる情勢

1.次期農業法をめぐる現況と関係者の意見
1)米国農業政策の概況
 米国の農業政策(砂糖を含む)は5年に一度制定される農業法(Farm Bill)によって定められており、現在の政策は2002年農業法に基づいている。
2002年の農業法は
● ローンレートによる作物の最低価格の保障
● 直接支払いによる農家の収入保障
● 価格低迷に対する価格変動対応型支払い
● 環境に関連する一定の基準を満たし、農業生産を伴わない農地に対する補助
が主な仕組みとなっている。具体的には図1のとおりである。
 現在2007年農業法については各関係者の間で議論が進められているが、この2007年農業法の内容如何では、米国の農業生産を始め、世界の農産物需給や各種の国際交渉に大きな影響を及ぼすと見られている。


図1 米国農業政策の主な仕組み
 
表1 米国農業利害関係者による新しい農業法制定についての観測

ASAシンポジウム会場(左:Morning Sessionの様子、右:スピーカー(ASA)発言の様子)

2)次期農業法に対する関係者の観測
 セーフティーネット対策や、ピーナッツプログラムの改革が成功事例となった2002年農業法は財政黒字を背景としたこともあり、全体的に評判がよかったとされている。しかし、2007年農業法は政府が巨額の財政赤字を抱えているという事情から、政府は支出削減を志向している模様である。
 ただし、本シンポジウムに出席した砂糖セクターを含む農業関係者によれば、現行の2002年農業の枠組みを維持する希望が多く、単純延長については否定的な意見もあるが、新しく制定するにしても2002年農業法の基本的な仕組みが継承されるべきとする見方が多かった。


表2 砂糖制度についての関係者の意見

2.現在の米国砂糖制度をめぐる現況と関係者の意見
 現行の米国砂糖制度は
(1) ローン・プログラム(Loan Program)による価格支持
(2) 製糖事業者への販売割当(Marketing allotments)による流通規制
(3) 関税割当(TRQ:Tariff rate quota)を通じた輸入規制
から成り立っており、原則として財政支出を伴わない形で、流通量を規制することによって国内市場価格の下支え(価格支持)を行っているプログラムであり、とうもろこし、小麦など他のセクターと異なる政策形態となっている。
 なお、米国の砂糖制度をめぐる情勢については砂糖類情報2006年4月号の記事も参照されたい。
 この制度について、原料である砂糖の高価格を招いているとして、製菓業界等の需要者側から強い批判が行われている。
 この砂糖制度について次期農業法でどのような取り扱いされるかが注目されているが、WTO交渉が中断された直後に行われた本シンポジウムにおける関係者の意見は表2のとおりであった。
 このように砂糖政策についても延長を望む声が多かったが、砂糖需要者の団体であるSweetener User Associationは、今後のFTAの進展による輸入の増加により、現行の「no cost」政策を維持するのが困難としている。すなわち、価格支持的な現行制度でなく、農家の所得を保証する直接支払いや収入保障等による政策への移行を提言している。これにより農家は生産を続けることができるとともに、砂糖価格が国際水準に下落することが期待されるからである。


 これに対し、ASAは、砂糖実需者が提案している「Subsidy Check System」(直接支払制)に関しては反対の立場をとっている。すなわち、農業予算が増加している状況であれば、直接支払いも可能性があるかもしれないが、現在の政治状況では多額な財政負担は困難であり、WTO規則違反となる可能性もあることから、ASAとしては直接支払いと言う手法は受け入れ困難という立場であった。また、小麦、とうもろこし、大豆、綿花などの作物と違い、ほとんどのビート糖工場や、4分の3のさとうきび製糖工場が生産者によって所有され垂直統合されているため、補償が生産者のみに限定されず、工場に対しても行わなければならないため、非常に多額の財政的裏づけが必要になってしまうことが背景にある。
 このように、ASAとしてはあくまでも国内補助金や輸出補助金といった財政支出を伴わないいわゆる現行の「no cost」による政策を支持しており、ASAの調査によれば、世論は3分の2が現行制度を支持していると言われている。

3.WTOに対する砂糖関係者の見方
1)British Sugar(英国の大手ビート糖メーカー)による見方
(1) EUの状況
 砂糖改革(支持価格の削減と所得補償、C糖の廃止、生産の削減)により、EUは世界第2位の砂糖の輸出者から世界第2位の純輸入者へ転じることとなる。
(2) ドーハラウンド
 世界の砂糖生産の4分の3がさとうきびから生産され、その多くが途上国による生産であるが、途上国は自らの自由化には関心が低い。そしてG20の市場アクセス提案では、途上国の削減幅は小さい上、譲許表上の関税と実際の関税との間に相違があるため、実質的な削減を伴わない国がほとんどである(図2)。


図2 主要国の農産物の平均関税率

 さらにWTOでのLDC優遇措置(LDCは約50カ国)が決定され、そこからのEUへの砂糖輸入が認められることになっている。
 EUの砂糖の輸出補助金の削減についても、EUの輸出減少分を開発途上国ではなく、ブラジルが奪い、開発途上国を退去させることに利するのみである。さらに、先進国が関税を削減してもブラジルが先進国へのアクセスを伸ばすだけであり、他の貧しい国の利益にはならない。ドーハラウンドがもたらすものは、結局、
● 国際砂糖市場においてブラジルが一人勝ち
● 途上国のアクセスも改善されない。先進国が痛手を負う
● 砂糖市場が本来有する不安定性が増幅
するばかりである。

2)ASA(米国砂糖連盟)の見方
 WTO交渉の現況についてASAの関係者は以下のような見方をしている。
 WTOドーハラウンド交渉が暗礁に乗り上げてしまったことについては大変残念である。しかし、米国内の砂糖消費の3分の1は開発途上国から輸入で、WTOにより米国をはじめとする先進国へのアクセスが拡大させられる一方、途上国における各種補助金による砂糖輸出がなくならないのなら、WTOにかかわる意味がなくなってきている。ASAは哲学的に自由貿易を支持しているが、こういう状況では現在のWTO交渉を支持するのは難しい。
 そのためASAは米国がWTOについて現在の案を受け入れなかったことに安どしている。米国の農業界も60%の国内支持の削減に見合う市場アクセスの拡大がほとんどないため、米国が交渉テーブルから離れたことを喜んでいる。
 米国と日本は非常に大きな砂糖の輸入国であり、EUも砂糖輸出の削減を余儀なくされている。しかしブラジルからの砂糖輸出は1990年代の200万トンから今年には 1,800万トンと大幅に増加し、来年は2,000万トンに増加する見込みである。したがって、世界の砂糖市場を不安定にさせている原因は先進国の政策ではなく、ブラジルに帰するものであることは明らか。そのため、ブラジルが途上国の立場に立って、「先進国の政策によって途上国の農家が困っている」という論理で攻め立てるのは不満であるとASAの政策責任者は述べていた。

4.メキシコとのFTAについての現状と今後の見通し
1)背景と昨今の情勢
 米国とメキシコは2008年から砂糖の貿易の完全自由化を合意しており、2008年まで毎年輸入割当数量の拡大が行われることとなっているが、(1)米国はメキシコからの砂糖輸入を厳しく制限(サイドレターの問題)しており、(2)メキシコは米国からの異性化糖の輸入を厳しく制限(異性化糖を利用したソフトドリンク課税問題)などの問題が残されている。
 メキシコでは製糖工場の半分が経営難から2001年に国有化されていることもあり、米国の砂糖関係者は砂糖貿易の自由化において利益を得るのはメキシコ政府であるとして強く非難している。
 このような中、経過的な措置として、米国はメキシコに対する砂糖関税割当数量を50万トン認める代わりに、メキシコは米国からの異性化糖の輸入を50万トン認めるという相互互恵的な措置に同意した。

2)今後の注目点
 2008年から砂糖の貿易の自由化が本当に行われるのか、また、この貿易自由化にどのように対応するのかが今後の注目点である。米国とメキシコ両国の砂糖産業関係者は、昨年のシンポジウムの状況と異なり、無制限な砂糖貿易による両国市場の需給バランスの不均衡は避けなければならないという共通の認識を持っている模様であった。
 シンポジウムのある報告によれば、現在88%を占めるメキシコの飲料用途甘味料における砂糖のシェアが50%になると、60 万トンの余剰砂糖が発生すると予測されており、その砂糖が米国へ輸出されると、米国市場がかく乱されることが予想されている。これに対抗する手段として、米国関係者もメキシコに対する独占的な砂糖輸出貿易会社の設立を検討中であるとの発言もなされており、米国の砂糖がメキシコに輸出されると今度はメキシコの市場が混乱することもありえる。
 このように複雑で困難な状況を改善するためなんらかの「秩序」が求められており、現時点で考えうる具体的な選択肢は次の3つである。
(1) 両国横断的な異性化糖を含めた供給管理システム(Integrated Sugar Supply Management System)の導入
 -異性化糖の輸入自由化を行い、メキシコの砂糖市場においても米国と共通した販売割当数量を導入し、市場の均衡を図る。メキシコ側はNAFTAに認められている貿易自由化を制限するものとして難色。異性化糖の関係者の同意を得た形で合意形成ができるかどうかも不明。
(2) 関税割当数量の再配分
 -米国が砂糖のWTO約束数量のうち、関税割当数量の未消化分を全てメキシコに再配分。異性化糖の貿易は自由化。(前提条件:米国のとうもろこし製品の輸出がエタノール需要により減少。メキシコ国内での飲料用砂糖需要も異性化糖への代替は大規模に進まない)
 -異性化糖の流入により大量のメキシコ産砂糖が過剰となるという反対意見や、米国側の主張するサイドレターによる計算方法と一致しないケースが想定される。
(3) 消費量の増加分の輸入拡大
 -今後予想されている消費量の増加を考慮した形で、異性化糖や砂糖輸入を相互に増加させる。メキシコ側は反対していたと伝えられている。
 米国砂糖業界は(1)の選択肢を望んでいるが、実現するかどうかは今後の交渉の進展次第である。


表3 米国の砂糖需給動向


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2 近年の米国の砂糖需給事情とビート工場の事例

1.米国砂糖需給の現状
 米国における砂糖需給については表3のとおりである。
 近年において特徴的な出来事は2004〜2005年度にかけての天候不順やハリケーンカトリーナによる砂糖生産量の大幅な減少と、アトキンスダイエットの低炭水化物ダイエットが下火になったことによる砂糖消費量の回復である。

1)天候不順による生産量の減少
 近年の米国の砂糖生産量はおおむね700万トン後半〜800万トンで推移しており、生産量に占めるビート糖ときび糖の比率は 55:45程度で推移していた。
 しかし、2005年の夏時点でさとうきびが不作であった上、2005年8月29日(2004 砂糖年度終盤)に上陸したハリケーンカトリーナによる製糖工場の操業停止の影響及び2005年度の米国のビート主産地であるRed River(ノースダコタ州、ミネソタ州)の天候不順により2004年度から2005年度にかけて米国の砂糖供給に逼迫感が強まった。
 そのため、2004年度末の在庫率は通常の16〜20%ではなく、13%を割り込むとともに、2005年度の生産量も700万トンを大幅に下回る事態となった。
 米国農務省は国内糖の販売割当数量及び輸入糖に対する販売割当数量を大幅に増加させて対応したが、特に精製糖工場の停止によりきび糖について販売割当数量の増加に対応できなかったことから、きび糖に対する販売割当が再配分され、輸入に振り分けた。これにより04〜05年度にかけて輸入量が増加した。
 また、メキシコから関税割当数量外の砂糖輸入も行われたため、05年度には40万トン以上の枠外の輸入が行われた。

2)砂糖消費量の回復
 消費において特徴的なことは2001年度〜2003年度にかけて、アトキンスダイエットと呼ばれる低炭水化物ダイエットが流行したことから、砂糖の消費量も大幅に減少したが、当ダイエットの流行が下火になったことから、砂糖消費も回復している(この背景などについては別途報告予定)。


図3 米国の生産量と国内仕向量及び在庫率
 
 
図4 米国の02〜03年度にかけての消費量の特異的な落ち込み

2.米国の砂糖産業の概況
 ASAによると米国の砂糖産業は19州で14万6千人の雇用と100億ドルの経済効果をもたらしているとしている。
 ただし、工場の統合も進んでおり、2006 年3月の時点では19のきび糖製糖工場、8つの精糖工場、23のビート糖工場に集約されており、1996年と比較すると工場の総数は40%削減されている。
 2003年のデータであるが、ビート糖工場の平均のビート処理能力は6500トン/日、精製糖の平均溶糖能力は2355トン/日となっている。

3.ビート工場の事例(Renville工場)
 ミネソタ州は全米で最大のビート生産州であり、州内では2,680の生産者が750万トンのビートを16万5千haで生産している。ビート加工はRed River Valleyと呼ばれるミネソタ州とノースダコタ州の州境で操業しているAmerican Crystal Sugar社の3工場と州南部で操業しているSouthern Minnesota Beet Sugar Cooperativeの1工場で行われている。
 今回訪問した南部ミネソタ州ビート糖協同組合(Southern Minnesota Beet Sugar Cooperative)は、ミネソタ州南部周辺のビート加工を行っており、ビート工場を同州のRenvilleに所有している。
 同工場での聞き取り結果については次のとおりである。

1)訪問先ビート糖工場の概要
 今回訪問した工場は農家による協同組合形式で所有されている。農家は所有する1株につき、1acre(約0.4ha)のビート納入権利を持つ。年間に235万トンのビートを加工し、34万トンの砂糖を生産している。操業期間は8月下旬〜7月中旬で330日間。従業員は330名の従業員のほか、収穫期には季節労働者を雇用している。
 販売先は菓子、製パンメーカー向中心で小売は行っていない。そのため、最小の販売パックが50ポンド袋となっている。顧客はMMN、ゼネラルミル、クラフト等の菓子メーカーや、製パンメーカーである。飲料は異性化糖を利用するため、大きな顧客ではない。Cargill Sweetenersという販売会社に販売集約。販売額は2億5千万ドル程度で、そのうち副産物による収入は2割以下である。

2)ビートの生産体系
 工場に納入されるビートの面積は 48,600haで、納入権利を持つ生産者は587である。平均すると1戸当たり82haとなるが、実際は20〜2000haの幅がある。納入権利を持つ最低限必要なビートの栽培面積は10haである。
 輪作体系はとうもろこし→大豆→とうもろこし(アルファルファ、スイートコーン、豆類)→とうもろこし→ビートが一般的である。
 工場による生産指導は、ビート品種の選定、GAPの義務化、施肥の制限、使用する農薬や肥料の種類の指定などを行っている。また、独自の研究施設も保有している。

3)砂糖の製造工程
 製造工程の概要はほぼ日本と同じであるが、二酸化硫黄による浄化を行うことが日本のビート糖工場と違っている点である。
 洗浄→切断→計量→消毒→抽出(diffuser)→石灰乳・炭酸ガス(第一)浄化→炭酸ガス(第二)浄化→二酸化硫黄(第三)浄化→濃縮(スチーム熱による蒸発)→(シックジュース貯蔵)→結晶化(3段)→分蜜・遠心分離→(糖蜜再脱糖)→乾燥・冷却→貯蔵→出荷
 工場の操業体制は1シフト50人で2シフト/日。施設は1975年の設備が残っているが、抽出工程以降は1999年に設備を刷新した。

4)収益配分方式
 総売上―コスト=利益となる。利益のうち理事会で工場に再投資が行われる分を決定後、残りを生産者に配分している。配分の基礎は砂糖にできた量に応じて、1人あたり、1ポンドあたりの単価を生産量に掛けて配分する。この5年間では、1株(share)当たり0〜1200$の配分(0円〜355千円/ha)を行った。
 ビートの輸送費は、工場の経営が協同経営によっており生産者を公平に取り扱うことが原則であるため、基本的に全て会社が支払う。圃場からパイルステーションまではフレートを支払い、パイルステーションから工場までは工場が輸送を行う。集荷範囲は南北176km、東西160kmの範囲でパイルステーションは12あり、工場から19kmから48kmの距離の位置にある。
 ただし集荷範囲を超えた圃場からの運搬は、集荷範囲外の輸送費を農家が負担する。

5)生産量の調整
 生産者は所有する株1株につき、1エーカーから生産されるビート全量を納入する権利を持っているため、単収が増加した場合、工場への納入数量が増えることが考えられる(=過剰生産の危険)。工場の販売割当は固定されており、砂糖の製造量を増やすことはできないため、考えられる選択肢としては
1.競合他社を買収することによって、その会社が持っていた販売割当を利用する
2.輸出を行う
3.非食用用途として、エタノールや酵母等を生産するための材料とする。ただし価格は半分になる
4.工場と生産者により協約を結び、面積調整を行う。たとえば、生産者に面積を減少させたり、1株あたりのビートの納入量を減少(たとえば90%)にするよう指令を行う
5.貯蔵を行って、翌年度以降の販売にまわす
などが工場関係者よりあげられた。
 ただし現在は砂糖逼迫基調であり、さらにカリフォルニア州の競合他社の販売割当を買収したため、販売割当を超えて砂糖を生産してしまう懸念はない。緩和基調に転じた場合、カリフォルニア州の工場を閉鎖することによって対処する予定であるとのことであった。


主な副産物
 


Southern Minnesota Beet Surar CooperativeのRenville工場


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