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波照間島におけるユイマール

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から
[2007年6月]
那覇事務所 所長補佐 緒方 芳明

はじめに
1.波照間島の概況とさとうきび生産状況
2.波照間島のユイマールについて
3.波照間島のユイマールの今後

はじめに
 波照間島では、ユイマールによるさとうきびの収穫が現在でも行われている。
 ユイマールは、「結い」を意味する沖縄の方言で、農作業、家屋建築、冠婚葬祭などにおける相互扶助をいう。ユイマールによるさとうきびの収穫は、かつては、沖縄県全体で見ることができたが、いまではほとんど見られなくなった。
 波照間島でユイマールについて取材したので、紹介する。

1.波照間島の概況とさとうきび生産状況
(1) 波照間島の概況
 波照間島は八重山諸島群の中にあって、石垣島から南西約60kmに位置する日本最南端の島であり、周囲は14.8km、人口は600人弱である。
 かつて波照間島の農家は水稲、雑穀類、芋などを自給し、カツオ漁とかつお節生産により現金収入を得ていたが、かつお節価格が低迷したため新たな現金収入源を求めて、製糖工場を誘致した。1963年、農家と大東糖業株式会社の出資により波照間製糖株式会社が設立された。これを機に自給作物の耕地はさとうきび畑に転換され、さとうきび畑は島の耕地面積の91%(平成16年度)を占めるまでになった。

波照間製糖(株)

(2) さとうきびの生産状況等
 平成18/19年期、さとうきびの収穫面積は181ha、生産量は11,511t、単収は6.4tであった(図1)。作型は、ハリガネムシなどによる虫害や台風、干ばつの影響を考慮した夏植えが主体であり、収穫面積の98%を占める。品種は、生産量比で、早期高糖性品種で可製糖量が多い農林15号が64.2%、農林8号が10.3%となっている。

図1 さとうきび生産量・収穫面積・農家戸数の推移

2.波照間島のユイマールについて
(1) 組織
 ユイマールは、1組が4〜13戸で構成された15の組により行われている(表1)。それぞれに原則として1年交代の組長が置かれ、組長は様々な事務処理を任されている。

表1 ユイマールの組別農家数(平成17/18年期)


(2) 賃金制
 波照間島におけるユイマールは、純粋な労働力の交換ではなく、賃金制のもとで行われている。この制度は、1963年の製糖工場設立時から導入されている。
 収穫時期の前に、全組長で収穫作業の標準的賃金(時給)について協議する。現在、これは、男性650円、女性550円である。これを基に各組により年齢、個人の能力などにより個人ごとの賃金が設定される。各人の勤務時間は5分単位で厳密に管理されているが、個人の都合により、作業時間帯を自由に選択できる。
 賃金制には、個人の作業時間の柔軟な調整、各自の経営面積とユイマールによる作業面積のアンバランスの解消、個人の作業能力差による不公平感の解消といったメリットがある。
 賃金は、10日ごとに各組で計算され、製糖工場が立て替えて支払う。これは、後日、製糖工場から農家に支払われる原料代金から差し引かれる。農家は、手持ちの現金がなくても収穫作業を委託できる仕組みになっている。

(3) 収穫作業
 さとうきびの収穫の85%〜90%は、ユイマールによる手刈りで行われており、残りをハーベスターで収穫している。収穫作業は原則として午前8時から午後5時までで、午前10時と午後3時に15分、昼に1時間の休憩がある。
 農家がひとつのほ場に集まり、収穫作業が始まる。島内のユイマールによる収穫作業全体の約7割は、初めに刈倒機を使用して、さとうきびの茎を根元から切り、左右に倒していく作業を行う。刈り倒したさとうきびを手作業で脱葉し、ほ場の道端までトラクターなどで運ぶ。刈倒機を併用しない場合は、すべて手作業で行い、ほ場の道端まで運搬する。
 刈倒機は、ハーベスターとは異なる小型の機械で、製糖工場に所属するオペレーターが操作する(委託料6,000円/1時間)。
 ハーベスターによる収穫に係る作業料金が製糖工場における脱葉処理料金を含め6,000円/tであるのに対し、ユイマールによる収穫は4,700円〜4,800円/tと安価である。製糖工場から受け取るさとうきび代金についても、原料が高品質であることにより、波照間島においては17/18年期で平均21,417円と、沖縄県全体の平均20,729を上回っている。

(4) 計画的な原料搬入
 製糖工場の製糖開始時期は、通常年の場合12月上旬と、他の地域より1カ月程度早い。これには、国内の黒糖市場にいち早く出荷できるといったメリットがある。しかし、12月ではまだ充分に糖度が上がっていないさとうきびがあるため、製糖工場の職員が製糖開始前に全てのほ場のさとうきびの糖度を測定し、製糖開始後約1カ月間は、各組の収穫能力や生産規模を勘案しながら、主に早熟性の農林15号などで糖度が上がっているほ場順に収穫を指示している。それによって、糖度の高いほ場から順に島全体の計画的な工場への原料搬入が可能となっている。
 また、1月中旬頃以降はほとんどのほ場でさとうきびの糖度が上がっているため、どのほ場を収穫するかは各組の裁量に任せられている。
 黒糖の製造は、原料の鮮度によって製品の出来を直接左右するため、新鮮な原料の確保に気を使う。手刈り収穫による天候に左右されない安定的な原料の搬入とトラッシュの低さが相まって、製糖工場は高品質な原料を確保している。また、計画的に収穫されたさとうきびは、原則として当日中に工場へ搬入・処理され、収穫後の時間経過による品質低下が回避されている。
 波照間製糖における平成17/18年期の甘しゃ糖度は平均15.2度と、沖縄県全体の平均である14.4度を大きく上回り、製糖歩留まりも14.05%と沖縄県の平均(含みつ糖)である13.89%を上回っている(表2)。

表2 17/18年期甘しゃ糖度等実績

刈倒機
収穫作業
   
トラックへの積み込み
製糖工場へ

3.波照間島のユイマールの今後
 波照間島においても他島と同様に高齢化や農家戸数の減少が進んでいるにもかかわらず、近年収穫面積を維持している要因として、ユイマールが収穫の負担を軽減していることや、これによる農家同士のつながりが農地の流動化を促進したことが考えられる。また、さとうきびの品質の維持という面からもユイマールによる手刈り収穫が保たれ、ユイマールは、農家と製糖工場の双方にメリットを生んできた。
 これまでは、現在の工場の生産規模や島全体のさとうきびの経営規模、農家数のバランスがユイマールによる手刈り収穫を可能にさせていたことによるものと考えられるが、他地域と同様にさらに高齢化が進めば、この収穫の維持は難しくなる。
 今後、波照間島においてはユイマールによる収穫をベースとしてハーベスター等の導入による機械化とのバランスを図ろうと考えている。
 さとうきびの収穫作業を効率的、組織的に行っていくためには、地域における共同利用組織等の設置や組織内での協力・信頼関係の確立が不可欠であり、波照間島のユイマールは、他地域においても学ぶべき点が多いと思われる。

参考文献
沖縄県農林水産部「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」(平成17/18年期)
沖縄県農林水産部「糖業年報」(第46号平成18年3月)
波照間製糖(株)統計資料
宮西郁美 東京大学大学院農学生命科学研究室
「沖縄黒糖生産地域における『ユイマール』の変容と現代的意義」
竹富町役場農林水産課資料

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