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南アフリカ、スワジランドおよびモザンビークの砂糖・エタノール生産の現状と見通し(1)

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

機構から

[2007年7月]

調査情報部調査情報第3課課長 大泉 和夫
国際情報審査役補佐 平石 康久
  平成19年2月25日〜3月10日まで、日本の主要砂糖輸入先国である南アフリカおよびその周辺国であるスワジランド、モザンビークにおける砂糖・エタノール事情調査を行ったので、その結果を南アフリカの砂糖産業、南アフリカのバイオエタノール情勢、スワジランドおよびモザンビークの砂糖産業の3回に分けて報告する。
 

第T章 南アフリカ砂糖産業および砂糖関連政策について

本章のポイント

● 南アフリカは砂糖の生産・輸出国であるが、さとうきび生産にとって必ずしも理想的でない条件を、技術やシステムなどで克服している。そのため、生産コストは他の砂糖輸出国に比べ必ずしも安くはない

● 砂糖産業は、南アフリカにとって地域開発、雇用に大きな役割を果たしている。また、特に黒人への経済的利益の移転にとって、極めて重要な産業とみなされており、砂糖産業も協力している

● 生産量のうち半分を国内、半分を海外に出荷しているが、国際市場が各種補助金によりゆがめられているとの認識の下、国内市場を各種制度で保護することによって、国内では海外に比較して有利販売を行っている。そのため、同国砂糖産業にとっては国内市場(およびそれを維持する制度)を維持することが極めて重要である

● 南部アフリカ諸国と地域貿易協定が締結されている。砂糖は、自由化品目から例外扱いをされているが、別途取り決められた協定に基づき輸入量が増加しており、南アフリカへの砂糖産業の圧迫要因となっている。

1.概況

 南アフリカ砂糖協会の資料によれば、2005年度において、南アフリカは世界で10番目の砂糖生産国、6番目の砂糖輸出国である。さとうきびは、インド洋に面したクワズール・ナタール州(Kwa―Zulu Natal)とその北部ムプマランガ州(Mpumalanga、旧Eastern Transvaal州)の両州で栽培されている。全収穫量の80%ほどがクワズール・ナタール州で生産されているが、ここ数年、ムプマランガ州でさとうきびの栽培面積が増加している。クワズール・ナタール州では天水に頼った栽培である一方、ムプマランガ州では、すべてのさとうきびを灌漑により栽培している。
  甘しゃ糖の生産について、南アフリカと日本を比較した場合、次のような状況となる。面積や工場の規模については格段の差があるが、さとうきびの単収やしょ糖歩留まりには大きな差はない。これは、南アフリカが、さとうきび栽培の南限近くに位置し、冬季の気温が低く、降水量も少ないなど必ずしもさとうきび栽培に最適な気象状況でないこと、主要産地であるクワズール・ナタール州では天水栽培に頼っていることなどが影響しているためである。

図T―1 南アフリカ砂糖生産州
(クワズール・ナタール州とムプマランガ州)

2.国内需給バランス

 生産量は250万トン程度であり、そのうち半分が国内向け、残りが輸出に向けられている。生産量のうち6割が白糖で、5―6%が直消用のブラウンシュガー、35%程度が粗糖である。1人あたりの消費量は32kg/年であり、日本の2倍程度であるが、国際水準で見れば平均的である。南アフリカ砂糖協会の資料によると、消費量のうち6割が家庭内消費、4割が産業用途として利用されている。なお、異性化糖の生産はほとんど行われていない。
  粗糖の主要輸出先国はアジアおよび中近東の国々、特に日本と韓国であるが、この両国を合わせても総輸出量の4割程度で、多様な輸出先を持っている。特に2005年には前年の輸出量が0であったインドネシアに15万トン近くの輸出したことを見ても、輸出量の手当てに柔軟に対応できる能力があることが推察される。これは後述のように、シングルチャンネルを維持していることによって個別の企業をまたがった形で粗糖の手当てが行えること、巨大な原糖倉庫を所有していることなどが要因であると考えられる。
  白糖については、南アフリカが地理的に優位であることから、主として近隣のアフリカ諸国に輸出している。興味深い点は砂糖生産国であるモーリシャスにも輸出を行っていることであり、これはモーリシャスが自国で生産される砂糖をEUの特恵的なアクセスを利用して輸出する一方、自国で消費するための砂糖を近隣諸国から買い入れているためである。
  輸入については、主としてスワジランドからの輸入が協定に基づく一定数量の枠に基づいて年間20万トン程度行われている。

表T−1 南アフリカと日本との比較(甘しゃ糖)

注:南半球のため日本と季節が逆であることから、ダーバンデータは6ケ月ずらしてある
図T−2 那覇市とダーバンの気象条件の比較

表T−2 南アフリカ砂糖需給状況
単位:千トン(粗糖換算)
資料:ISO "Sugar Year Book 2005"
3.砂糖価格

 2006年度の南アフリカの各種砂糖関連の価格と日本の価格の比較を行った。さとうきび価格の比較で言えば、日本の価格水準の17%に過ぎない。しかし、粗糖の国内価格になると日本の価格の1/3水準まで差が縮まり、白糖の小売価格になると、日本の価格の半分を超えるまでに差が縮まっている。
  これは、後の政策面で説明するとおり、各種の制度により国内市場の砂糖価格が一定以上の水準に維持されるようになっており、製糖企業およびさとうきび生産者にとって国内市場が重要な収益源となっているためである。


4.南アフリカ砂糖産業の特徴

表T−3 南アフリカの粗糖主要輸出先国
単位:トン
資料:ISO "Sugar Year Book, 2005"による
注 :2005年の輸出量が1万トン以上の国を選択

表T−4 南アフリカの白糖主要輸出先国
単位:トン
資料:ISO "Sugar Year Book, 2005"による
注 :2005年の輸出量が1万トン以上の国を選択

1)南アフリカにとっての砂糖産業の重要性
  南アフリカ砂糖産業は国家経済への貢献、農業や産業への投資、外貨の獲得、雇用、食品産業との連携などにおいて重要な役割を果たしている。特に黒人への経済利益付与活動(Black Economic Empowerment,BEE)においては、販売体制が確立し、小農でも一定の利益が上げられる砂糖業界は重要な産業であり、業界もよく活動を支援している。

2)南アフリカ砂糖産業の強み
▼ 不利なさとうきびの生産条件を高い技術を持つ工場がカバーしている。コジェネレーション技術などによる効率的なエネルギー使用と浸出装置を利用した高い歩留りを誇っている
▼ 港に巨大な原糖倉庫(52万トン)を持っており、相場、フレート、為替などを見ながら有利に販売できる。また、随時行うサンプル検査により品質が管理され、トレーサビリティーも整っており、顧客に応じた品質の砂糖を貯蔵・出荷することが可能。
▼ 高品質の粗糖を生産。VHP糖(糖度99.4%)は国内でブラウンシュガーとして直消用に販売可能な品質である。
▼ 砂糖法に基づいたシングルチャンネルを維持しており、販売組織が極めて強固であること。海外へ顧客のニーズに対応した砂糖を安定価格で安定供給できる能力を持つ一方、価格の安定した国内市場に生産された砂糖の半分を販売できる。

表T−5 両国の砂糖価格の比較
注:さとうきび価格は、南アフリカは2006年度のさとうきび価格、日本は2006年度(平成18年度)のさとうきび最 低生産者価格
  :粗糖国内価格は、南アフリカは2006年度のRV価格(糖みつなどの収益込み)、日本は2007年1〜3月の輸入糖売戻価格を利用した
  :小売価格は南アは2007年2月末調査時の価格、日本は2007年2月総務省統計局の小売物価統計調査の東京の上白1kgの価格
  :ランドは南アフリカの通貨。1ランド17円で計算(以下同様)

表T−6 南アフリカにおける砂糖産業の重要性
資料:南アフリカ砂糖協会パンフレットによる

3)さとうきびおよび砂糖生産の制約要素
▼ 水の制約から既存のさとうきび栽培エリアでの面積の拡大余地は少ない。
▼ さとうきび生産の8割を占めるクワズール・ナタール州は特に傾斜地が多く、また、さとうきび収穫に従事する労働者の雇用確保という政治的な意味合いも含め、大型機械の導入はできない。このため、収穫の効率化を通じた規模拡大やコスト削減は現時点では難しいと思われる。
▼ 同国はさとうきび栽培のほぼ南限に位置し、多くの栽培が天水に頼って行われている。メイガ幼虫、ネマトーダなどの病虫害の問題も抱えており、さとうきびの単収の劇的な向上は難しい。
▼ 地理的に主要な砂糖輸入国から離れていることから、フレートの上昇による不利益を被りやすい。
▼ ランド高による国際競争力の減少
▼ 圧搾法でなく、浸出法による製糖を行っているため、結晶阻害物質である水溶性のデキストリンなどの砂糖への混入といった問題を抱えやすく、それに対する特別な配慮が必要とされる。

5.今後の砂糖生産拡大の見込み(新規開発プロジェクト)

 現在さとうきび生産が行われている地域での生産拡大は見込みが薄いが、政府が進めている地域開発プログラムにより砂糖生産が拡大する可能性がある。
  さとうきび生産開発を伴う開発プロジェクトはムプマランガ州のHoedspruit、クワズール・ナタール州のMakhathiniやPondolandの3プロジェクトが公表されている。


図T―3 丘陵地に位置する さとうきびほ場の例

  これらのプロジェクトはエタノール製造による地域開発プロジェクトであるが、エタノール利用の見通しが必ずしも立っていない状況下では、砂糖生産にもシフトできるような形での工場建設が行われる可能性が強い。これらのプロジェクトによるさとうきびの生産量は、目標とするエタノール生産量から推測すると、下記の一覧表のとおりとなる。
  3つのプロジェクト合計にある砂糖相当分の最大50万トンは、南アフリカの現行の生産量250万トンの1/5にあたり、この計画が実現されたときのインパクトは極めて大きなものとなる。今回の調査で、南アフリカの貿易産業省の担当官にこのうちのMakhathini(マカティーニ)プロジェクトについて話を聞くことができた。
* マカティーニプロジェクトについて
  同プロジェクトは2011年度に開発を終了し、生産開始予定である
  1.6万haのさとうきび栽培ほ場とともに、当プロジェクトでは砂糖生産およびエタノール生産の両方を視野に入れているため、製糖兼エタノール製造工場および輸送インフラを整備する。
  生産されるさとうきびが全て砂糖生産に利用されれば、控えめな単収(1haあたり7.6t産糖量。灌漑なので10tを上回る可能性)で計算しても、年間生産量の5%程度を占める砂糖(12万トン)が市場に供給されることになる。ただし、国内市場が既存の砂糖企業によってすでに供給されていることを考えると、増加した砂糖はすべて輸出に回されるのではないかという観測に対して、担当官は同意していた。
  政府の支持を受けた新規工場と、砂糖市場での競争が起きる懸念から砂糖産業からの反対はあったが、インフラ整備という重要な目的がある上、地域開発や小農支援としても重要性を持つことから、すでに大統領からの認可が済んでいる。
  一番の問題であった水資源の確保についても水利省との調整が完了しており、Pongolapoortダムから当プロジェクトに対する6000万立方メートルの水の供給が可能とされている。
  ただし、このプロジェクトが経済的に引き合うか、再度検討が行われる予定である。


6.南アフリカの砂糖関連制度

表T−7 さとうきび生産を伴う新規プロジェクトの一覧と規模の推測
資料:南ア政府2007年4月10日付BuaNews "Five small towns to benefit R3.2 Billion biofuel project"
注 :さとうきび生産量は目標エタノール生産量から、さとうきび1tよりエタノール70-80Lできるとして計算。
注 :砂糖相当分はさとうきびの12%の歩留まりとして計算。

 南アフリカの砂糖産業は、輸入糖に対する関税、政府の認可と砂糖業界関係者によって規定される協定により規制されている。砂糖産業協定は、砂糖法により規定され、砂糖産業関係者を共通の制度的枠組みに拘束しているが、砂糖産業関係者に協力を求めるものであり本質的には任意の協定である。

1)関税
  現在の関税体系は、2000年9月より施行されたものである。砂糖に対する関税は、白糖および粗糖共通となっている。LMC社(英国の調査会社)の説明によれば、現行の関税システムは2000年9月に導入され、米ドル建ての基準価格を用いて、関税率を設定する仕組みである。基準価格は、ロンドン白糖No.5の価格の長期平均(300米ドル)が、世界各国の「保護貿易政策」により国際価格が下落していると仮定して上方に調整(+60米ドル)、かつ、輸入業者が負担している運賃を考慮して下方に調整(−30米ドル)した結果、1トン当たり330米ドル(1ポンド当たり14.97セント)に固定されている。
  この結果、通貨単位がドルで計算されることから為替変動の影響を受けないことに加え、南アフリカに輸入される砂糖の輸入価格が330米ドルを割り込むことがなくなるため、国内市場の保護に重要な役割を果たしている。

2)砂糖法
  現在の砂糖法は、主として下記のような柱から成り立っている。
  ■ 砂糖産業協定(Sugar Industry Agreement。以下協定)に基づいた規制を認めている。協定は産業関係者の自主的な協定であるが、大臣による認可事項となっており、締結された協定は強制力を持つことになる
  ■ 製糖企業と生産者間の固定的な比率による収益配分を定めている
  ■ 南アフリカ砂糖協会(South African Sugar Association,SASA)を、同協定の実施機関としている

3)砂糖産業協定
  砂糖産業協定によって、南アフリカ砂糖協会の主導の下、法的にすべての業界関係者を共通の制度的枠組みに拘束している。その主な役割は次のとおりである。
  ■ 国内市場で必要な砂糖の数量を見極めること。
  ■ 業界を代表して生産余剰分を輸出市場に回すこと。
▼ 上記の2つの働きにより、国内市場に対して供給が必要な砂糖の量が決定され、国内市場の砂糖価格について間接的にコントロールすることができる。
  ■ 砂糖と糖みつの販売に伴う純利益をさとうきび生産者と製糖企業間で分配すること。
▼ 価格水準の違う国内市場と海外市場が存在することから、利益をプールし、配分することが必要となる。配分は毎年決定される一定の比率に基づき行われる
  ■ さとうきびの価格を設定すること。
  収益の分配方式については、関係者の間で不公平が生じてはならないという制約の下で、市場原理を導入しようとしているため、複雑な仕組みとなっている。
a)販売主体
  1994年まで南アフリカ砂糖協会が国内及び国外向け全ての砂糖の販売を手がけていたが、1990年代終わりに実施された制度改革の一環として、国内販売に関しては、製糖企業に自由が認められるようになった。2000年の砂糖産業協定では、白糖、ブラウンシュガーおよび高品質の砂糖の国内販売は製糖業者が担うことになっている。
  また、白糖の輸出も製糖企業が行っているため、南アフリカ砂糖協会が独占的に行っているのは粗糖の輸出のみである。輸出用白糖の原料となる粗糖は、南アフリカ砂糖協会が白糖企業に販売する。

b)販売プール制度
  南アフリカでは、「歪曲化された」世界市場の価格から関税により国内市場が保護されている。さらに国内消費向けの砂糖については、砂糖協会が需要量を勘案して(「余剰分」を輸出向けに仕向けることによって)国内向けの販売量を決定し、供給量のコントロールによって国内市場価格を維持している。
  その結果、価格水準が高い国内市場と低い国際市場が生じることから、販売先による製糖企業間での不公平が生じないよう、販売金額のプールを行い、各々の産糖量に応じて案分するという役割を南アフリカ砂糖協会が担っている。これによって、1つの企業が圧倒的な国内シェアを誇るといった事態や、製糖企業間の競争で国内砂糖価格が下落する恐れを回避している。
  販売金額をプールする方法については、砂糖の仕向先(輸出向けか国内向けか)や種類(白糖か粗糖か)によって異なっているが、最終的に1つの勘定に集められプール計算される。
  ただし、海外へ輸出される菓子類などに対して、国内価格と世界価格の差額に相当する払戻金を支払う制度のほかに、国内で消費される製菓業界向け砂糖についても価格が高く、外国からの安価な砂糖を含んだ製品との競争に不利益になるとして、南アフリカ国内の砂糖需要者より過去に異議が申し立てられた結果、世界価格の水準に調整するための払戻金が支払われている。

c)業界内(製糖業界と生産者間)での収益の配分
  以前は各企業ごとに固定された国内向けおよび輸出向け販売割当数量が定められていたが、2000年の改定により、柔軟性を持つ市場シェア割当制度に変更されている。
  各会社の利益配分の基礎となるのは過去の販売量に基づく比率である。製糖企業の国内市場向けの販売量がその計算基礎となる割当数量(market entitlement calculated pro―rata to its production)を上回った場合、上回った数量にみなし価格をかけた金額が協会によって徴収され、国内向け販売量が割当数量より少なかった企業へ配分される。この再配分は四半期に一度行われている。
  配分の基礎となる単価はみなし価格(notional price)が利用されているが、これは製糖工場−生産者間で同意された協定的な価格である。

表T−8 販売される砂糖のプール計算の方法

d)個別の工場と農家間での収益配分
  さとうきび栽培農家に対しては、最終製品(砂糖および糖みつ)の回収可能数値(RV)に基づき支払いが行われる。この支払いシステムは、しょ糖としょ糖以外の成分に加え、繊維の含有率を踏まえていて、個々の栽培農家の意欲を高め、さとうきびの品質の向上を促すためのより効果的な仕組みである。
  つまり、しょ糖の含有率以外にも、繊維に含まれるしょ糖の損失やしょ糖以外の内容物と一緒に(糖みつとして)失われるしょ糖の損失が計算に入るため、しょ糖の含有率を高めるだけでなく、さとうきび生産者がより繊維や夾雑物を少なくするようインセンティブを働かせるものとなっている。
  ここ数年間、栽培農家に分配される利益の比率は増加しており、2005年度には63.77%に達しており、残りの36.23%を製糖企業が受け取っている。

4)政府による砂糖制度の見直しの可能性について
  南アフリカ政府は2001年2月、国内の砂糖市場で競争を高めることを目的に砂糖法を見直すと発表したが、それ以降大きな進展が見られていない。
  砂糖業界は新法も現在と実質的に同じ内容にするよう働きかけを行っており、同政府も改革案の中でも関税保護と輸出/国内市場の割当案分の2点を引き続き柱に据えている。
  ただし、政府はいくつかの変更案を提案しており、その主な内容は次のとおりである。

a)垂直統合(vertical integration)手法の導入
  現在みなし価格(製糖企業と生産者が話し合いで決定した価格)によりさとうきび生産者への利益配分を決定しているが、その代わりに実際に工場が販売した単価を用いて計算する手法。いままでのプールされた価格と違って工場は、価格の下落分を栽培農家に転嫁できるようになるが、生産者団体の反対が強い。
  LMC社によると、ここ数年のランド高で栽培農家が深刻な経済的苦境に立たされていることなどから、業界はこの案を歓迎しておらず、新法からこれを削除するよう働きかけている。南アフリカ政府は、この問題に対する立場を明らかにしていないが、国内市場における競争の激化は、2つの製糖工場の所有権を取得したばかりの新しいBEEグループをさらに圧迫することになると考えられるため、業界の主張が受け入れられる可能性が高いとしている。

b)国内需要者向けの払戻金の見直し
  今後とも各種貿易交渉の締結により砂糖を含んだ製品の輸入が増大することから、現在の国内需要者向けの払戻金に代わり、競争を高めるような措置による価格下落などの代替措置を検討。
 
c)含みつ糖や有機砂糖(オーガニック・シュガ−)のプール計算からの除外
  生産に当たって大掛かりな設備投資が必要なく、今後参入が期待される小規模黒人農家の重要な収益源となることが予想されるため、独自の収入源としたい。

d)砂糖協定の新しい実施機関
  現在砂糖生産者の代表である砂糖協会が実施機関となっているが、そこに需要者側の代表も交えた新たな砂糖執行組織(Sugar Authority)の設立を提案。


7.砂糖産業の貿易交渉上のポジション

 南アフリカは世界の砂糖輸出量の8割以上のシェアを占める砂糖輸出国の自主的な集まりである「砂糖貿易制度改革および貿易自由化のための世界連盟」(Global Alliance for Sugar Trade Reform and Liberalisation、平成19年5月時点の議長は豪州)の一員である。この連盟は特にEU、米国、日本の先進国の砂糖政策により、世界市場がゆがめられていると強く非難しているところである。
  しかし、今回の調査において、南アフリカ砂糖協会の対外部門責任者に日本の砂糖制度に対する印象について、あくまで個人的な見解としつつも、次のような意見を聞くことができた。
▼ 砂糖貿易の自由化による利点は支持(例として、発展途上国はEU改革により高価格の特恵的アクセスを失っても、自由化により輸出量を拡大できれば、雇用を増やすことができる)。
▼ FTAではなくWTOのスタンスを支持している(FTAでは本来生き残れるはずの国の産業が滅びる可能性。例:ブラジル―南アFTAを仮定すると、南アの砂糖産業は消滅する。しかしWTOで砂糖貿易が自由化になれば、ブラジルだけでは需要を賄えず、南アの砂糖産業も栄える)。FTAによるわずかな特恵的アクセス増加と引き換えに、国内市場を維持するための各種の仕組みを攻撃されるのは避けたい。国内市場は維持しつつ、世界市場の価格が好転することを望む。
▼ 日本の砂糖制度に悪印象なし。既に多くの砂糖を輸入している上、EUのような輸出補助金や米国の莫大な国内補助金に比べ、世界市場へ与えるゆがみはずっと少ない。

 これらの意見については、外交的な辞令であった可能性もある一方、相手国政府や他の利害関係者を間におかず、率直な情報・意見交換によって、各種摩擦を緩和させることができる可能性も示唆しており、今後の南アフリカをはじめとする海外砂糖産業との情報交換の重要性を示していると思われる。

8.現在の貿易協定

 多国間貿易交渉のウルグアイラウンドの合意内容に従って、南アフリカはミニマム・アクセスを定め、これを段階的に増やして行ったが、現在、この数量は最終段階の年間6万2,307トンとなっている。スワジランドを中心とする南部アフリカ関税同盟(SACU)加盟国(南アフリカの他、ボツワナ、ナミビア、スワジランド、レソト)から輸入する砂糖は、南アフリカのミニマム・アクセスの一部とみなされため、実際の輸入量は現在、ミニマム・アクセスを大幅に上回る状況にある。
  これに加え、南アフリカは、SACUおよび南部アフリカ開発共同体(SADC)(SACUの全加盟国に加え、アンゴラ、コンゴ民主共和国、マラウイ、モーリシャス、モザンビーク、セイシェル、タンザニア、ザンビアおよびジンバブエ。)の加盟国から輸入される砂糖の数量管理を図って、地域内の各市場の混乱を防ぐことを目的とした貿易協定に加わった。(LMC社による)

1)南部アフリカ関税同盟(Southern African Customs Union,SACU)
  スワジランド(南アフリカ以外でSACU加盟国唯一の砂糖生産国)は、関税同盟の加盟国として、南アフリカ市場に無関税で砂糖を輸出できるが、この輸出量を年間22万トンに制限することで南アフリカと合意している。この数量枠は、南アフリカの砂糖消費量の増加率に合わせて引き上げることができる。

2)南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community,SADC)
  SADCの自由貿易協定の締結に従い結ばれたSADC砂糖協力合意(SADC Sugar Cooperation Agreement)により、砂糖は貿易の自由化から例外扱いされた一方、SACU加盟国は、砂糖の生産量が消費量を上回るSADC加盟国に、SACU市場への段階的かつ非互恵的なアクセスを与えている。このアクセスの柱は下記の2点である。
  (1)砂糖の生産量が消費量を上回る各SADC加盟国には、SACU加盟国の砂糖消費量の年間増加幅に相当する割当量を案分し、それぞれに該当する数量の輸出が認められる。初年度の関税割当(関税ゼロ)は4万5,000トンであった。
  (2)追加の関税割当(関税ゼロ)年間2万トンを、SACU加盟国以外で砂糖を過剰に生産しているSADC加盟国間で割り当てる。

 これに伴い国内の生産者は、SACU加盟国およびSADC加盟国からの輸入品との競争にさらされている。
  しかし、南アフリカで操業している製糖企業は、他の加盟国内での操業も同時に行っているグループ企業となっている場合が多いため、南アフリカだけでなくグループ全体での利益を考えていることに留意する必要がある。つまり南アフリカの企業が利益を上がることができなくても、周辺国内のグループ企業が利益を上げることができればグループ全体としては差し支えないことになるためである。

図T―4 SACU 及びSADC 加盟国
9.南アフリカの砂糖生産コスト

 関係者からの聞き取りによると、2006年度の各国の粗糖の生産コストをNY粗糖価格で言えば、一般的にブラジルが10セント/ポンド、タイが品質にもよるが11セント/ポンド、豪州が11―12セント、南アは13セント程度(輸出経費込み)が世界市場に出せる価格ではないかとされている。(ただし各国通貨の為替相場により大きく変動することに注意が必要)
  なお、2005年度のさとうきび価格(173.59ランド)、工場と生産者の利益配分率(36.23:63.77)、さとうきびのしょ糖歩留まり(13.6%)などの数値を用いて筆者が簡単な計算を行った結果、砂糖1トンあたりのコストは2000ランド/トン(1ドル:7ランド計算で13.0セント/ポンド)となり、関係者からの聞き取りと一致する。このことから、現在の南アフリカの砂糖の生産コストはこの13セント/ポンド付近であると推察される。
  このため、ニューヨークの粗糖価格が13セント/ポンドを割り込む場合は、南アフリカは国内市場での販売額をプールして初めて産業が成り立つことになる。このコスト計算からみても南アフリカの砂糖産業にとって国内市場の価格の維持が極めて重要なことが明らかである。
  また、さとうきび生産者団体(South African Cane Growers' Association)の行った大規模農家に対するサンプル調査のさとうきびコスト計算がホームページで公開されているが、天水栽培で130ランド(2080円)/トン、灌漑で140ランド(2240円)/トン程度となっており、前述のさとうきびの価格から見てもつつじまの合う数字となっている。コストの内訳は下記の図のとおりである。

資料 South African CANEGROWERSのGrower Surveyのページによる
図T−5 南アフリカの大規模農家におけるさとうきび生産コスト内訳

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