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最終更新日:2010年3月6日
国際情報審査役上席調査役 | 河原 壽 |
調査情報部調査役 | 廣垣幸宏 |
年度 |
作付面積 |
生産量 |
単位収量 |
2000/01 |
1,938(45%) |
1,061(36%) |
54.7(68.6) |
2001/02 |
2,035(46%) |
1,180(40%) |
58.0(67.4) |
2002/03 |
2,149(48%) |
1,209(42%) |
56.3(63.6) |
2003/04 |
2,030(52%) |
1,128(48%) |
55.5(59.4) |
2004/05 |
1,955(53%) |
1,187(50%) |
60.7(64.8) |
2005/06(P) |
2,156(51%) |
1,255(45%) |
58.2(65.6) |
注:( )は全国に占める割合。単位収量については全国の平均。 |
出所:INDIA METEOROLOGICAL DEPT |
図8 ラクノウ(ウッタル・プラデーシュ)とチェンナイ(タミル・ナドゥ)の気象 |
注1:株出しは1回〜2回 注2:栽培期間:10ヵ月、12ヵ月、14ヵ月 注3:現地聞取り調査により、機構で作成 |
図9 ウッタル・プラデデシュ(ラクナウ地区)さとうきび生育ステージ |
②製糖工場の生産状況
ウッタル・プラデーシュは、2005/06年度でインドさとうきび作付面積の65%を占める最大のさとうきび産地であるが、砂糖生産量は全国生産量の30%程度を占めるにとどまっている。
これは、さとうきび単収が少ないことおよびさとうきび圧搾量が非常に少ないことによる。
特にさとうきび圧搾量は、2005/06年度では、さとうきび生産量12,550万トンに対しさとうきび圧搾量は6,081万トンと、さとうきび生産量の48.5%しか圧搾されていない。
表15 州別砂糖生産量 |
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単位:1000トン、% |
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出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
表16 州別さとうきびの生産量と圧搾量 |
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単位:1000トン、% |
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出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
単位:% |
出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
図10 2002-2003年 グル・カンサリの主要生産州 |
表17 ウッタル・プラデーシュの製糖工場の実績 |
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出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
出所: INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
図11 ウッタル・プラデーシュの製糖工場の分布 Uttar Pradesh |
③ウッタル・プラデーシュでの民間製糖会社の事業拡大計画
ウッタル・プラデーシュ州政府は砂糖生産政策として、2007年3月までに着手された民間製糖会社の事業拡大計画のうち8,000万米ドルを超える投資をした事業者に対して、施設整備費補助金などの奨励策を講じる生産の促進政策を実施した。奨励策の主な内容は、次のとおりである。
このような州政府の手厚い総合投資促進策のなか、2006年には砂糖価格の上昇が重なり民間製糖会社による新たな投資が相次いだ。同州では2005/06年度に工場などが12ヵ所で新設されたことにより1日当たりの圧搾能力が約60,000トンに増加し、さらに2006/07年度には19ヵ所が稼動を開始し、1日当たりの圧搾能力は82,000トンに増大する見通しである。
同州は、さとうきび作付面積は全国の50%以上を占めるものの、単収が低いこと、グル・カンサリの生産量が多く圧搾量が少ないことから、砂糖およびエタノール原料の糖みつ生産が相対的に少ないが、同州でこのような生産効率が高い規模の大きな製糖工場が増加していることは、今後のインド砂糖・エタノール生産にとって、同州が大きな役割を担うことを意味している。
表18 国内製糖会社の事業拡大計画 |
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出所:LMC等 注:UP:Uttar Pradesh、TN:Tamil Nadu、K: Karnataka |
①製糖工場の概要
訪問した製糖工場は、ウッタル・プラデーシュの州都であるラクナウ市の郊外に位置し、インド全国で10ヵ所の工場を所有し、日量75,000トンの圧搾能力を持つインド大手のBalrampur社グループに所属する民営工場である。
当該工場は、砂糖価格の上昇と当該地域の主要作物の一つであったアヘン代替作物の導入政策を背景として2003年に設立された。設立当初はインド全土から熟練の労働者を集め、さとうきび栽培に誘導するための農家支援策を行い、現在では従業員200人で耕地白糖(亜硫酸法)を製造し、製品は飲料大手のペプシなどの業務用と家庭用として出荷され、輸出も行なっている。
さとうきびの平均圧搾能力は5,000トン/日、今年度は2006年11月15日〜2007年4月15日までの操業を予定し、さとうきびの年間圧搾量は2006/07年度で年間750,000トン、71,700トンの砂糖を生産する予定である。
また、当該工場はエタノールを生産する設備を有しておらず、糖みつは他のグループ工場へまわされる。しかし、バカスを燃料とした発電で工場の電力需要を満たすとともに、余った電力を州の電力機構に販売し収益を得ている。
さらに、副産物より農家有機肥料のバイオコンポストを製造し、廃液処理システムやバガス用ろ過装置、集じん装置など、廃棄物および排出に係る新たな技術を導入して環境にも配慮している。
表19 Haidergarh製糖工場の生産概況 |
注:06/07年度の産糖量と砂糖回収率は概算値であり、それ以外は07/1/31までの直近数値である。1MW(メガワット)=1,000,000W |
② 製糖工場による農家支援
工場設立当初は、工場周辺ではさとうきびがほとんど栽培されていなかったことから、農家をさとうきび栽培に誘導するため、次のような支援を行なってきた。
その結果、工場周辺農家のさとうきび栽培面積は、利用耕地面積の20%を占め、7万戸の農家からさとうきびを買入れている。工場では今後2〜3年で、さとうきび栽培面積を現在の20%から50%に拡大する計画である。
③ さとうきび農家と製糖工場の流通
農家は収穫後、工場が整備した50ヵ所の集荷場にさとうきびを搬入し、集荷場での計量後、工場がトラックで製糖工場に搬入する。また、近隣の農家では、直接製糖工場に搬入する。
工場は、農家が集荷場へ搬入する場合は、集荷場から工場への輸送経費として9ルピー/100kgをさとうきび売渡代金から差し引いているが、集荷場から工場への輸送費は30ルピー/100kgであることから、実質、工場が輸送費の一部を支援している。
この背景には、工場は半径90kmのさとうきび栽培地域をカバーしており、農家から工場までの距離が遠いことがある。
(4) さとうきび栽培農家の協同組合
工場は、州政府傘下のさとうきび栽培農家協同組合と栽培契約を締結しなければならない。その契約の内容は州政府が定めており、農家栽培面積と製糖工場の一定の品質のさとうきびの全量買い付け等である。
(5) 農家経営状況
当該地域のさとうきび単収は、70トン/haと州平均(約60トン/ha)に比べ高い。収穫は、全て手刈りで行われている。
当該地域では、さとうきび栽培以外に、ばれいしょ、からしな、小麦等が栽培されており、農家の純収入は74,100〜98,800ルピー/haである。一方、さとうきび栽培では、粗収入86,500ルピー/ha、生産費37,000ルピー/ha、純収入49,500ルピー/haと、さとうきび栽培は農家収入の50%以上を占める重要な品目となっている。
【さとうきびの1エーカー当たり生産費の内訳】
苗代 3,000 (7,400ルピー/ha)
地 代 1,500 (3,700ルピー/ha)
肥料・農薬代 4,000 (9,900ルピー/ha)
灌漑費用 2,000 (4,900ルピー/ha)
収穫および輸送費 3,000 (7,400ルピー/ha)
その他 1,500 (3,700ルピー/ha)
計 15,000ルピー(37,000ルピー/ha)
(3)病害虫
さとうきびの病害虫は、調査地域の栽培が処女地域であることから特に問題は出ていないが、対策としては、さとうきび品種の選択と蒸気による苗の殺菌消毒であった。
(4)製糖工場の問題点と対策
① 収穫後のさとうきび糖度劣化
当該地域の農家では、さとうきびの収穫時期である11〜12月が小麦等の他の作物の作付時期と重なり、さとうきび収穫の人手不足が生じ、刈り取ったさとうきびがほ場に放置されたままとなり、工場への迅速な搬入がなされないことからさとうきびの劣化が進み、糖分の1割程度が消失することが多い。
このようなことから、製糖工場は調査研究機関の協力のもと、工場主催の農家を対象としたさとうきびの糖度と品質の低下を防ぐ研究会の開催や糖度劣化低減技術の開発など、同研究所の協力のもと、品質保持の対策に取り組んでいる。
② さとうきびの品質向上
トラッシュ率2%以下のさとうきびを搬入する農家には、奨励金が与えられる。
しかし、現状は、検査を受ける外側に品質の良いもの、内部には品質が劣化したものを搬入するなど、その効果は上がらず、さらに、工場はさとうきびを全量買付する契約義務があるため、農家は十分な栽培管理を怠る傾向があるとしていた。
さとうきび栽培の歴史が浅く、農家の意識もまだ低いことが原因と推測される。
(さとうきびの工場への搬入) |
(さとうきびの工場内) |
(生産された砂糖) |
(1)マハーラーシュトラの砂糖産業の概況
① さとうきびの生産状況
マハーラーシュトラは、インド中西部の熱帯地域に位置し、さとうきび作付面積ではウッタル・プラデーシュに次ぐ産地である。
しかし単収は、灌漑施設の整備が進んでいるにもかかわらず58〜90トン/haと変動が大きい。これは、灌漑施設が整備されているものの、水の供給がモンスーンによる雨量に大きく左右されるためである。2003-2004年の干ばつ時には、マハーラーシュトラの単収が大幅に減少したのに対し、他州では大幅な減少が見られなかったことと対照的である。
一方、砂糖生産では、マハーラーシュトラおよびウッタル・プラデーシュが各々30%程度を占めており、ウッタル・プラデーシュにおけるさとうきびおよび砂糖の生産が比較的安定していることから、マハーラーシュトラにおけるさとうきびの作柄の変動が、インドの砂糖生産量に与える影響は非常に大きい(表15 、図12 参照)。
2005/06年度のさとうきびの作付面積は55万ha(13%)、生産量は3,620万トン(13%)、平均単収は66.4トン/ha(65.6)の予測である。
さとうきびの植付けは、7月から2月まで、株出は11月から翌年の4月まで続く。栽培周期は、12ヵ月、14ヵ月、18ヵ月で、収穫時期は概ね11月から翌年の5月までである。
表20 マハーラーシュトラのさとうきび作付面積、生産量、単位収量 |
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出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
出所:STATISTICAL DIARY 2007,MAHARASHTRA STATE CO-OPERATIVE SUGAR FACTORIES FEDERATION |
図12 マハーラーシュトラにおける さとうきび・砂糖の生産動向 |
出所:INDIA METEOROLOGICAL DEPT |
図13 プネ(マハーラーシュトラ)とチェンナイ(タミル・ナドゥ)の気象 |
注1:現地聞き取り調査により、機構で作成 |
図14 マハーラーシュトラ(プーネ地区)さとうきび生育ステージ |
②製糖工場の生産状況
マハーラーシュトラは協同組合の製糖工場が多く、全国の協同組合の製糖工場315の内、183が同州に集中している。協同組合の製糖工場は収穫作業から砂糖の製造、マーケティングまで自らこなす。また、これらの工場は、学校や医療施設など地域社会のために収益の一部を寄付するといった社会福祉活動も活発に行っている。
同州の2005/06年度のさとうきびの圧搾量は44,578万トン(24%)で、その内90%は砂糖の製造に使用されており、生産量は520万トン(27%)、砂糖回収率は11.66%(全国10.24%)と干ばつの影響から脱して全国平均を上まわる予測である。
表21 マハーラーシュトラの製糖工場の実績 |
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出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
出所: INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
図15 マハーラーシュトラの製糖工場の分布図 |
(2)マハーラーシュトラ州製糖協同組合
マハーラーシュトラ州製糖協同組合は、同州の協同組合製糖工場の最高機関である。
同州製糖協同組合によれば、全国で566の製糖工場があり19の州に製糖工場が点在しているが、その内の60%を占める315の工場が協同組合で、183の協同組合工場がマハーラーシュトラに集中している。
同州製糖協同組合には約376万人の農家が加入しており、平均して1工場に2万人の農家が組合に参加していることになる。
当該製糖組合の役割は、マハーラーシュトラの地理的不利益を克服するため、世界の動向や最新技術の情報を収集・提供することである。
同州の砂糖協同組合は、最低11人の農家が出資して設立され、農家がさとうきびを栽培し、組合の製糖工場が加工・販売し、その利益を出資者に対し出資額に応じて配分する。
また、組合製糖工場のさとうきびの買入れ価格は、政府の法定最低価格よりも高く設定し、農家経営の安定に寄与している。
①マハーラーシュトラの砂糖産業
同州製糖協同組合による最新データによれば、同州のさとうきびの栽培面積は95万ha(年1回収穫、翌年に株だしを1回)、さとうきび生産量7,000万トンである。その内90%が砂糖生産に使用され、年間750万トンの砂糖が生産される。
インドの白糖は、98%が100〜150 ICUMSAのインド白糖、2%が45 ICUMSAの精製糖であり、200 ICUMSAの粗糖は生産されていない。
インド全体では、砂糖生産量は2,000万トン、消費量は1,900万トンとみられている。
②農民とさとうきび栽培
インドでは、さとうきび栽培は農家にとって儲かる作物であると考えられており、農家は、機会があればぜひ栽培したい作物であるとしている。
さとうきびは、非常に頑丈な作物であり、農薬の使用量も少なく、全生産量が買取られる保障があり、最低価格も決まっている。このことは農家にとって、大きなメリットとなっている。
しかし、生産の安定には灌漑設備の整備が必要であり、また、栽培期間が平均15ヵ月と長いデメリットがある。
他作物であれば3回の収穫が可能であり、さとうきび栽培に比べ他作物がより高い収益性を期待できるため、一般の農家のさとうきび栽培は、他作物を組み合わせたローテーションにより栽培されている。
(3)Yeshwant協同組合製糖工場
①製糖工場の概況
訪問した製糖工場は、ムンバイ市の東のプーネ市郊外に位置し、1971年に設立された協同組合の製糖工場である。
現在の従業員は850人、耕地白糖(亜硫酸法を2回)を製造し、製品はムンバイ市までトラックで運ばれ90%は国内で消費され、残りの10%が輸出される。ただし、2005-2006年は国際価格が国内価格を下回り、補助金無しでは輸出もできない状態である。
さとうきびの平均圧搾能力3,500トン/1日、年間圧搾量60万トン、産糖量7万トン/年、砂糖の平均回収率11%であり、今シーズンは2006年11月から始まり翌年の5月、原料が無くなるまでの操業を予定している。冬季は糖分ののりがよく、砂糖回収率は12%台である。
2003-2004年は、干ばつ、病気等によりさとうきびの収穫量が急減したが、2005-2006年は豊作年となっていた。
また、当該工場ではエタノール工場を併設しており、原料から糖みつ4%が生産され、1日当たり3万リットルのエタノールが生産可能である。10ヵ月操業で、900万リットル〜1,000万リットルのエタノールが生産され、産業用、飲料用、燃料用として出荷されている。
また、原料の30%がバカスとして排出されるが、このバカスで工場のボイラー燃料をほぼまかなっている。
表22 Yeshwant 協同組合製糖工場の生産概況 |
出所:Maharashtra State Co-operative Sugar Factories Federation Ltd. |
②砂糖工場生産コスト
2005-2006年は、砂糖国際価格の下落に加え、国内生産の増加により国内販売価格が1,400ルピー/トンまで下落し、砂糖からの収益はほとんど無く、エタノールなどの副産物の販売により工場を維持しているとのこと。2004-2005年の販売価格は1,700ルピー/トンであったことから、2004-2005年の砂糖からの収益300ルピー/トンとエタノールなどの副産物の販売により工場を維持しているとのこと。
【2005-2006年工場砂糖生産コスト】
原料コスト:1,000ルピー/トン
加工費用 : 400ルピー/トン
計 1,400ルピー/トン
③さとうきび農家と製糖工場の流通
当該工場は、組合員18,000人、136の村からさとうきびを買入れている。さとうきびの運搬は、農家が輸送会社と契約を結び輸送会社が行なっているが、通常はトラクター、牛車で運ばれ、遠隔地はトラックで運ばれる。輸送会社は10台のトラックと200台のトラクターと800頭の雄牛を所有し、農家は800台の牛車を所有している。料金は1km当たり65〜70ルピー/トンであった。
(さとうきびの搬入) |
(収穫作業:男性が大きな鎌でさとうきびの株もとを刈り取り、 ケーントップや余分な葉をそぎ落とす。) |
(刈り取ったさとうきびをきれいに掃除されたケーントップで縛る。余ったケーントップは牛の餌となる。 |
(1)製糖工場の規模拡大
主要産地であるウッタル・プラデーシュでは、気象条件等によりさとうきび単収が低い、グル・カンサリ(含蜜糖)製造業者との競合により砂糖生産量が相対的に低いなどの問題を抱えながらも、近年の砂糖価格の上昇や州政府の振興政策により、規模の大きな民間製糖工場が増加し、また、訪問工場のようにグループ傘下の工場も増加している。このことは、今後、製糖工場において規模の経済が働き、砂糖生産コストが低下することを意味している。
一方、もう一つの主産地であるマハーラーシュトラでは、周期的に起きる干ばつによりさとうきび生産量の変動が大きく、また、協同組合の製糖工場が多く大規模な工場が少ない(2007年6月号 表5参照)。
ウッタル・プラデーシュとマハーラーシュトラの製糖工場の加工費の試算値を比較すると、2001-01年ではマハーラーシュトラがウッタル・プラデーシュを下回っているものの、2001-02年以降ではウッタル・プラデーシュがマハーラーシュトラを下回っており、ウッタル・プラデーシュにおける規模の大きな民間製糖工場の増加による生産性の向上が伺える。
表23 製糖工場の砂糖加工経費試算 |
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1/ ウッタル・プラデーシュ州は東・中・西部の、マハーラーシュトラ州は北・中・南部の単純平均 |
(2)砂糖消費の動向とウッタル・プラデーシュの砂糖生産
1992-93〜2002-03の10年間の砂糖・グル・カンサリの一人当たり消費量は、砂糖が増加、グル・カンサリが減少しており、需要はグル・カンサリから砂糖へシフトしている(2007年6月号 表4参照)。
一方、州別のグル・カンサリ生産量を見ると、最大の生産州であるウッタル・プラデーシュが大幅に減少しており、同州においてグル・カンサリ生産が砂糖生産に大きくシフト(さとうきび圧搾量の増加、表16を参照)していることがわかる。
地下水の利用によりさとうきびの生産が安定しているウッタル・プラデーシュにおける砂糖生産の増加は、マハーラーシュトラにおける定期的な干ばつによる砂糖生産減少の影響を相対的に小さくし、ひいてはエタノール原料である糖みつの安定供給につながるものである。
表24 グル・カンサリの主要生産州 |
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単位:1000トン、% |
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出所:HAND BOOK of Sugar Statistics, September, 2006. INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION |
表25 主要生産州の単収 |
単位:トン/ha |
(3)今後のインド砂糖生産の展望
インドにおける砂糖生産は、中央政府の国内農家保護政策により国内供給が最優先とされていることから、今後も人口増加に見合って増加することが予想される(2007年6月号 (3)砂糖、グル・カンサリの消費動向と生産動向を参照)。
現段階では、主産地マハーラーシュトラにおける干ばつ等によるさとうきびの作柄変動による砂糖および糖みつの生産量の変動が非常に大きい(図12 参照)が、単収が安定し、グル・カンサリの消費減少により砂糖生産が増加しているウッタル・プラデーシュにおいて、州政府による民間製糖会社の事業拡大計画(6.(1)-③を参照)が実施され、製糖工場の規模拡大が進み、生産効率の高い砂糖および糖みつの安定供給能力が高まっていることから、今後、マハーラーシュトラにおける砂糖生産量の変動を補うとともに、砂糖の輸出余力も拡大すると推測される。
(訪問先)
在インド日本国大使館 | :ニューデリー |
インド消費者問題・食料・公共配給省 | :ニューデリー |
石油天然ガス省 | :ニューデリー |
インド砂糖技術者協会 | :ニューデリー |
全国協同組合砂糖工業連盟 | :ニューデリー |
インド砂糖輸出輸入(株) | :ニューデリー |
砂糖技術委員会 | :ニューデリー |
INDIAN SUGAR MILLS ASSOCIATION | :ニューデリー |
インド農業調査研究会議 | :ニューデリー |
インドさとうきび調査研究所 | :ウッタル・プラデーシュ(ラクノウ) |
Haidergarh 製糖工場 | :ウッタル・プラデーシュ |
Maharashtra State Co-operative Sugar Factories Federation Ltd . | :マハーラーシュトラ(ムンバイ) |
ヴァサンダダ砂糖研究所 | :マハーラーシュトラ(プネ) |
Yeshwant協同組合製糖工場 | :マハーラーシュトラ |
SHRI VIGHNAHAR協同組合製糖工場 | :マハーラーシュトラ |
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