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最終更新日:2010年3月6日
調査情報部調査情報第3課課長 | 大泉 和夫 |
国際情報審査役補佐 | 平石 康久 |
第Ⅲ章 スワジランドの砂糖産業について |
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本章のポイント | |
1.スワジランドの農業概況 | |
2.スワジランドの砂糖産業の重要性 | |
3.スワジランドのさとうきびおよび砂糖生産事情 | |
4.スワジランド砂糖産業の構造 | |
5.砂糖制度と砂糖販売先 | |
6.砂糖価格と生産コスト | |
7.スワジランド農家の事例(聞き取り結果) | |
8.スワジランドの砂糖産業の見通 し |
第Ⅳ章 スワジランドの砂糖産業について |
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本章のポイント | |
1.モザンビークの農業概況 | |
2.モザンビークの砂糖産業の重要性 | |
3.モザンビークのさとうきび生産事情 | |
4.モザンビーク砂糖産業の構造 | |
5.砂糖産業に対する投資 | |
6.砂糖の生産、販売と制度 | |
7.品質および価格 | |
8.マプト港砂糖ターミナル(Maputo sugar terminal) |
本章のポイント
1.スワジランドの農業概況
南部アフリカ開発共同体(SADC)のホームページによれば、スワジランドでは農業部門が7割の国民の主な収入源となっている。農業部門の2004年度の国内総生産額に占める割合は8.6%であり、主要生産品目はメイズ、さとうきび、綿花、かんきつ類である。
近年農林産物による外貨獲得額の比率は低下傾向にあるが、砂糖が他の工業製品等を含めた全輸出産品の中で外貨獲得額のトップ品目となっている。
同国の農業部門は公的農業(Formal agriculture,輸出や市場作物志向の商業的農業)と伝統的農業(Traditional farming,自給的な農業)に大別される。前者はさとうきび、かんきつ等が代表的な作物で、大規模農場で灌漑農業が行われている。これらの生産に利用される土地は農用地面積の4割程度と推察され、主として外国資本会社の私有地となっている。後者はメイズ、綿花、タバコ等に代表される作物を天水に頼った生産を行っている。
伝統的農業が行われている土地はスワジ国家所有地(Swazi Nation Land(SNL))とよばれ、伝統的法律や習慣に基づき、信託組織を通じて国王が所有している。近年SNL内でも、商業的に成り立つような農業を行えるよう各種援助が試みられており、小規模なさとうきび栽培農家の増加が見られる。
表Ⅲ−1 スワジランドの主要農産物の生産量や輸出量 |
単位:千トン、100万リランゲーニ |
資料:SADC, Country Profileのスワジランド農業ページ 原資料:スワジランド中央銀行Annual Reportによる 注:リランジェニは南アフリカ通貨ランドと1:1の交換レート。2007年4月のレートは約17円/リランゲーニ |
2.スワジランドの砂糖産業の重要性
砂糖協会の資料によると、スワジランドでは30%の労働人口が失業状態であり、成人人口の42%がHIV感染者である。スワジランドは1人当たり1,290ドルの収入がある一方、収入の配分は著しく偏っており地方では貧困が深刻な問題である。
こういった中でスワジランドの砂糖産業は59%の農業粗生産額、18%のGDP、35%の農業雇用労力、16%の民間部門での雇用労力、7%の輸出金額を提供している。また政府の重要な財源となっており、法人税や所得税の支払いが年間1億リランゲーニ(同国の健康や教育関連施設の年間の維持費と同等)に上っている。このほかにスワジランドはEU市場へ一定の価格で砂糖を輸出する権利を保障されており、EU向けの輸出から得られた利益から2980万リランゲーニの課徴金を政府に納入してきた。ただしこの課徴金については、EUの砂糖制度改革による輸出価格の削減により、2011年には1320万リランゲーニに減少する見込みであり、その代替となる収入の確保が大きな問題である。
経済的な貢献だけでなく、砂糖産業は砂糖生産地域の中でヘルスケア、教育、住宅、公共・社会的な便益も提供している。
3.スワジランドのさとうきびおよび砂糖生産事情
スワジランドのさとうきびの栽培面積は1992年度には37,384haであったものが、2005年度には52,196haに増加している。また収穫面積も1992年度の37,066haから2005年度の50,610haと同様に増加した。特に2000年度以降の面積の増加は新規に加入した小規模生産者の増加によるものが大きいと見られる。
さとうきびきびの単収は年によって若干変動があるものの、ほとんど全てのほ場で灌漑による栽培を行っていることから、単収は90トン〜100トン/haで安定して推移している。この結果2005年度のさとうきび生産量は面積の増加に比例する形で増加し、1992年度の3,884千トンから2005年度の5,165千トンに増加している。
現在は500以上の小規模生産者が参入し、さとうきび生産を行っている。技術的に不利になりやすい新規参入の小規模生産者の参入による単収等の低下が起こらなかった点をスワジランド砂糖協会は強調している。
協会や農家等からの聞き取りによると、栽培については、1年1作で火入れによる手収穫が行われる。収穫期は4月〜11月の期間。搬出は畑に束ねられたさとうきびを集める機械が利用される。植え付けを行う場合は収穫の翌日に行うが、多くは株出し栽培であり、生産者により差があるが平均して6回〜8回前後程度行われている模様である。品種は南アフリカの品種を利用している。
甘蔗糖度についても1992年度から2001年度までの10年間の平均13.95%に比較して、2001年度から2005年度の平均で14.3%と増加している。
さとうきび生産構造は、協会の資料によれば、製糖企業による生産が77%、大規模生産者(年間生産量1000t以上)によるものが17%、中小規模生産者によるものが6%であり、企業ほ場(99年間といった長期リース契約によるほ場)による生産が大部分を占めている。生産者数で言えば中小規模生産者のカテゴリーに分類される農家数が多く、貧困解決に重要であると思われる中小規模生産者の生産量の増加が今後重要な課題になると思われる。
砂糖の生産については2001年度以前は最大50万トンの生産にとどまっていたが、2002年度以降は60万トンの水準で増加している。これは上記の栽培面積の増加により達成されたものである。
資料:Swaziland Sugar Association“Annual Report 2005/06”より作成 |
図Ⅲ-1 スワジランドにおけるさとうきび面積と生産量 |
表Ⅲ−2 スワジランドの砂糖主要指標 |
単位:ha、トン/ha、トン |
資料:Swaziland Sugar Association “Annual Report 2005/06” 注 :砂糖輸出量はSACU以外への輸出量。スワジランド1国の国内消費量は3万トン程度。 |
4.スワジランド砂糖産業の構造
スワジランドには製糖工場が3つあり、年間の製糖能力は60万トンを超える。これらの3つの工場はRoyal Swaziland Sugar Corportation(RSSC,Mhlume工場およびSimunye工場)およびUmombo社(Ubombo工場)の2社によって所有されている。
3工場のうち、MhlumeとUbombo工場はVHP糖や粗糖の他、精製糖を製造することができ、Simunye工場は精製糖の製造施設を持っていないが、アルコールの醸造施設を所有している。
糖みつについては年間20万トン程度製造されるが、主として飲料および産業用のアルコール製造に利用されている。
RSSC社は2300人の従業員を抱え、株式の50%をTibiyo Taka Ngawane社、26%をTSB社(南ア資本)、その他ナイジェリア政府やコカコーラ社、Booker Tate社等により所有されている。
同社は産業全体の5割の収入を産出し、2万haのほ場で灌漑を行った自社のさとうきび栽培を行い200万トン以上のさとうきびを2つの工場に供給している。
工場の能力は毎時700トンのさとうきびを処理することができ、2工場合わせて年間40万トン以上の砂糖を供給することができる。またMhlume工場の精製糖製造能力は1シーズンに12万トンを供給する能力を持っている。Simunye工場は年間1,300万リットルの飲料用のアルコールを製造しているが、製造されたアルコールについてはRSSCの子会社であり、南アフリカのダーバン近郊にあるRoyal Swazi Distiller社を通じて8割が主としてEUやアフリカの他国に輸出されており、残り2割が南アフリカで販売されている。
Ubombo Sugar社は、株式の50%をTibiyo Taka Ngawane社、30%をIllovo社(英国資本)、20%をLonrho社(英国資本他)によって所有されている。同社が所有する工場は、毎時405トンのさとうきびを処理することができ、1ヶ月当たり23万トンの砂糖を供給することができる。
両社の大株主であるTibiyo社は前国王によって1968年に設立された法人であり、現在も全ての理事が国王から任命される等、王族の強い影響下におかれている。また、残りの株主のほとんどが多国籍企業からなり、同国の砂糖産業はスワジランドの王族と、砂糖関連の外国資本によって成り立っていることがわかる。
表Ⅲ−3 スワジランド製糖工場の実績(2005年度) |
資料:砂糖協会HPによる |
5.砂糖制度と砂糖販売先
スワジランドでは、1967年砂糖法およびそれに基づくSwaziland Sugar Industry Agreementによりコントロールされている。その内容は生産・製糖活動に対する割当制度と、販売におけるシングルチャンネルの維持である。
さとうきび生産や製糖活動は、スワジランド砂糖協会が発行するライセンスおよび生産割当制度によってコントロールされており、許可なく行うことができない。
また、スワジランド砂糖協会は、同国で生産された全ての砂糖について独占的に販売を行っている(シングルチャンネル)。これにより優位販売できるEUや米国、SACU市場で販売できる砂糖と、安価な世界市場で販売される砂糖の有利・不利を是正している。このシングルチャンネルは南アフリカのものと類似した役割を果たしていると思われる。また、協会独自収入分として、4.5万トンの砂糖が割り当てられ、その販売収入を得ている。
収益の配分については、生産者70:工場30であるが、3/4のさとうきびは工場自ら栽培していることに留意が必要である。
一部の砂糖については地域の取引業者が国内市場に販売するために特別に割り当てられている。これにより取引業者が経験を積み、将来輸出市場で取引できるための実力をつけるためである。
主な販売先はEUおよび南アフリカである。EU市場はロメ協定に基づき、今まで最も高価格で砂糖を販売できる市場であったが、今後砂糖制度改革により36%の価格削減が行われた後は、SACU市場が価格面で一番優位な市場となると見られている。このためSACU市場の維持がスワジランドにとっての重要な課題となるが、今後のSACUと他国との貿易交渉の進展、特にSACUとEUのEPA交渉によって、この市場が脅かされる懸念が生じている。
これは、南アフリカへ輸出されるスワジランドの砂糖はほとんどが菓子や飲料メーカーへの産業用途に使用されているため、EPA交渉によりEUからの砂糖を利用した製品の輸入について、2012年から関税が撤廃されると、スワジランド産の砂糖を利用しているSACU内の製品とまともに競合するためである。
EUの砂糖制度改革により、いままでの輸出単価が大幅に下落するだけでなく、ロメ協定からEPA協定に移行することによって砂糖を利用した製品の輸入に脅かされること、さらにEUのEBAスキーム(LDCと呼ばれる後発発展途上国からの武器以外の全ての輸入品に対する無税無枠の供与)により、他のLDC諸国との競争が激化することから、スワジランドの砂糖産業は当改革に強い懸念を示すとともに、十分な見返りの援助を求める根拠となっている。
特に近年増加した小規模なさとうきび生産者にとってはより深刻な問題である。彼らは資金を借り入れて新規に生産に参入しており、近年の石油価格の上昇、為替高等に苦しんでいるところへの価格の削減を受けることになるため、これらの生産者の影響を緩和する措置が急務である。
表Ⅲ−4 スワジランド砂糖の販売市場 |
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資料:スワジランド砂糖協会2005年度年次報告
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6.砂糖価格と生産コスト
表Ⅲ−5はスワジランドのさとうきび価格および小売価格の一覧表である。
さとうきびは世界でも有数の低コストとされており、さとうきび価格は1tあたり1,900円あまりと、日本の1/10に満たない価格である。一方で白糖の価格は南アフリカよりは安価であるが、それでも日本の45%の水準であり、さとうきびに比べると水準が高くなっている。
また機構の計算によると、2004年度のさとうきび価格(112.6リランゲーニ/トン)、工場と生産者の利益配分率(2004年度推計値31:69)、さとうきびのTC:TSレート(8.17)等の数値を用いて計算を行った結果、砂糖1トンあたりの大まかなコストは1,333リランゲーニ/トン、1$=7リランゲーニで計算すると、8.6セント/ポンドとなる。このコストは極めて効率的な数字であるが、スワジランドは内陸国であり、輸出を行うためにはモザンビークのMaputo港まで鉄道やトラック、南アフリカへの出荷もトラックを利用しなければならないため、輸出向けFOB段階でのコストは増加する。
表Ⅲ−5 スワジランドにおけるさとうきび価格と砂糖小売価格の比較 |
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資料:スワジランド砂糖協会2005年度年次報告
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7.スワジランド農家の事例(聞き取り結果)
製糖工場やさとうきびの主要生産地は残念ながら訪問できなかったが、政府系金融機関のプロジェクトに基づき、2002年より新規にさとうきび栽培を行っている農家を訪問することができた。
農家の所有面積は37haでそのうち32haでさとうきびを栽培。残りは休耕地。収穫したさとうきびは北部のSimunye工場まで運ぶ。農家の所在地は製糖工場から遠く離れているため、運送費が高く収益を圧迫している(工場までのさとうきび運賃は農家負担)。
Fincorpという政府系の開発銀行より資金を借りている。ここが全ての金銭的な計算を行っており、農家では収益の詳しい話はわからないということであった。
年間3,800tのさとうきびを生産しているが、全て河川からの水で灌漑されている。
労働力は4人で、収穫時には6人増える。そのほかケーンカッターが35―40人雇用される。防除のときも雇用を行う。除草剤の散布は1回(草が枯れないときは2回)、きびの高さが1m以内のときに除草剤を撒くという。収穫は8―10月で時に9月が最盛期である。
初めての植え付けが2002年であったため、株出しが何回できるかわからないが5―10回の間であろうと予測していた。
収穫は火入れをして手収穫で行う。収穫のタイミングや収穫量については、工場から電話で指示が行われる。方法としては、一度に燃え広がらないようあらかじめ収穫しない区域のさとうきびに水を散布して、その後、収穫するさとうきびの部分のみ掻き分けて分離し、火をつける。手収穫の後、刈り取ったさとうきびを畑に並べ、それを機械により集めるという手順になる。
農家の話によれば、収益は全てFincorpの口座に振り込まれるが、費用を差し引くとほとんど残らないため、5年間、借金を返すために無収入で生活しなければならない。5年を過ぎると(収穫を5回行うと)、その他各種経費やリスクも負担することになるが、全て収穫物が自分のものになることになっている。
ただし火事が多く、収穫がなくなると返済が滞る。生育12ヶ月で収穫するところ9ヶ月で火事が起きてしまうと収入は0である。そのため5年で返済が終わるはずであったが、既に2005および2006年の2回にわたって火事が発生し、収穫ができなかったため、返済が遅れている。(乾燥による野火や、他の農家の火入れによる飛び火等が原因と思われる)
競合作物になるかどうかはわからないが、この地域ではメイズや缶詰用のパインナップルが作られている。
品種はN23という品種で、種ケーンは自分たちで作っている。
肥料は工場からも支給されるが、足りないため購入する必要がある。
この農家は、政府によるサポートを受けて2002年よりさとうきび栽培を行っているが、必ずしもうまくいっていない事例であった。原因としては石油価格高騰による運送費の高騰、自然災害時の補償の不備、農家の経営スキルの問題などが推定される。
8.スワジランドの砂糖産業の見通し
スワジランドの砂糖産業は同国にとって数少ない収益産業であり、他産業への代替は困難である。
しかし、その砂糖産業も、特恵的なアクセスを受けることができたEUにおける砂糖制度改革によって、価格削減及び競争の激化が予想され、深刻な影響が懸念される。このことはもうひとつの重要な市場であるSACU諸国、特に南アフリカへの砂糖輸出圧力の増大につながるものと見られる。現在は砂糖協定に基づき、輸出量は制限されているが、この見直しが行われた場合、南アフリカから世界市場、更には日本への輸出増加の一つの要因となる可能性がある。
1.モザンビークの農業概況
モザンビークでは1975年の独立以来内戦が続いていたが、1992年10月に包括和平協定の調印に至り、内戦は終結した。それ以降農業生産は回復に向かい、メイズなど主食作物の自給を達成している。
南アフリカの貿易産業省のホームページにあるモザンビーク経済概観によると、モザンビークは大きな潜在的な農業生産力を有しており、およそ3,600万haの耕作可能地があると推定されているが、実際に利用されているのは今でも1割程度に過ぎないとされている。現在の大部分の農業は天水に頼る農業であるが、国内には60以上の河川があり、潜在的な灌漑可能面積は330万haに上るとされている。
重要な商業作物は綿花、コプラ、茶、カシューナッツ、かんきつ類であるが、9割の耕作地は250万世帯に上る家族経営による小規模な農業が行われている。主な灌漑施設は6つあるが、そのうち5つはさとうきび生産のため利用されている。合計で59,000haが灌漑農地となっている。
砂糖産業は6つの企業(6工場)により成り立っているが、うち2つは操業が停止している。
表Ⅳ−1 モザンビークの主要農産物生産概況 |
単位:千ha, 千トン |
資料:Instituto Nacional de Estatistica "Anuario Estatistico, 2005" |
2.モザンビークの砂糖産業の重要性
国際的な水準からすれば小規模であるが、モザンビークにおいて砂糖産業は農業や農業関連産業への貢献、収入、外貨獲得、雇用に重要な役割を果たしている。特に雇用面ではモザンビークの中で最大の雇用を行っている産業である。
農業省農業促進局(CEPAGRI)が出している2006年度砂糖白書によると常時雇用が10,100人、季節労働・臨時雇用が11,532名が砂糖産業によって行われている。このうち女性は4,353名であった。
また、砂糖産業による収入は2005年度に2,000万ドルの収入をもたらしている。
3.モザンビークのさとうきび生産事情
1970年初頭のピーク時に290万トンの生産量があったが、内戦により激減した。その後1992年の和平協定締結以降、さとうきび生産はゆるやかに回復していたが、1999年末からの産業再生プログラム(後述)に対応する形で生産量が飛躍的に増大した。その結果2000年には50万トンに届かなかった生産量が2002年には150万トン、2005年には200万トンに達し、飛躍的に増大している。
データの入手が困難であったため、栽培面積と収穫面積の比較になるが、2002年度の栽培面積が24,747haであったものが、2006年の収穫面積は31,874haとなるなど、面積が増加していることが生産量の増加に繋がっているものと推察される。
モザンビーク国家砂糖販売組織によると、さとうきびの収穫は5月〜10月であるが、内戦前のさとうきび生産量があれば5月〜1月まで延長することは可能と見られている。収穫のサイクルは多くの場合12ヶ月の期間である。関係者の聞き取りによれば、18ヶ月の栽培期間が理想であるが、キャッシュフローの問題でさとうきびを早く収穫して、現金を手当てするため生育サイクルが短くなっているということであった。
収穫は火入れをした後、手収穫を行っている。手収穫のほうがコストが安いことと、政治的な要因として雇用を確保することが重要であるため、手収穫が続いている。植え付けは11―12月に行われる。平均的な単位収量は60トン〜70トン/haくらいであるが、地域によって差がある。
ただし、モザンビークでのさとうきび栽培は気候も恵まれている上、灌漑による栽培が可能であることから、単収は今後の技術的な改良を重ねることによって100トン/ha程度までに伸ばすことも可能とされ、生産量をさらに増加させる潜在性を持っている。
資料:CEPAGRIデータによる |
図Ⅳ-1 モザンビークのさとうきび地域別生産量 |
表Ⅳ−2 さとうきび地域別生産状況 |
単位:ha、トン、トン/ha |
注:生産量は粗糖換算数量。ただしMarromeu州の砂糖生産量には一部白糖が含まれる |
4.モザンビーク砂糖産業の構造
モザンビークのさとうきび生産は主として工場によるプランテーション(直接栽培)と海外の商業的農業者(南アフリカの製糖工場に関係している生産者と思われる)により栽培されている。下記の図によると、2002年度での栽培面積に占める割合は、プランテーションによるものが86%、海外の商業的農業者によるものが残り14%であり、その他わずかな小規模農家が含まれている。
モザンビークの国家砂糖販売組織(DNA。以下販売組織)に聞き取りをしたところでも、生産量ベースでは現在95%が工場のほ場によるものであるとしており、商業的農業者が実質的に工場と一体であるものと見ると、この状況は大幅には変わっていない。工場がさとうきびを栽培している土地は国からリースで借りているということであった。
ただし一部ではXinavaneにおけるパイロットプロジェクトにより、85戸の農家にそれぞれ1.2haの土地を分け与え、製糖工場へ搬入させる試みなどが行われている。
製糖工場については、南アフリカからの投資が多く入っており、Illovo社とTongaat―Hulett社の2社が製糖工場の株式を所有している。その他はモザンビーク政府が大株主となっている他、外資の投資会社やモーリシャス4社からなる持ち株会社が株主となっている。
表Ⅳ−3 モザンビークの製糖工場 |
単位:%、トン |
資料:Proceedings of the FAO/Mozambique Sugar Conference, 2003年度 注 :データは2002年10月ベース :工場の製糖実績は2006年度ベース |
資料:Proceedings of the FAO/Mozambique Sugar Conference, 2003年度 |
図Ⅳ-2 2002年度のさとうきび栽培面積における農家類型 |
5.砂糖産業に対する投資
政府は1992年の和平合意以降、構造調整および安定プログラムに基づき、各セクターの私有化を推し進めた。その結果、海外からの資金、経営スキルを砂糖産業に導入させることが可能となり、砂糖産業の再構築が進んだ。
南アフリカ政府によるモザンビーク概況および各種報道などによると、砂糖産業に対する海外からの投資としてはまず、1996年にモザンビークと南アフリカの農業生産者の間でジョイントベンチャー(MOZAGRIUS)が形成され、さとうきび生産に経験を持つ南アフリカの生産者による経営が特にNiassa地域に生まれることになったことがあげられる。
その後、1999年末から2004年10月まで砂糖産業再生のための特別なプログラムが実行され、このプログラムに対して南アフリカのTongaat Hulett社、アフリカ地域経済発展アラブ銀行(BADEA)、OPEC、南アフリカが投資を行った。再整備事業については形を変えて現在も継続して行われている。
これらの海外からの投資の結果、モザンビークでのさとうきびおよび砂糖生産は飛躍的に増大した。
特に近年ではEUの砂糖制度改革による2009年のLDCからの砂糖輸入の自由化を見越して、砂糖生産増強のため、南アフリカのTongaat Hulett社によって大規模な投資が行われることが発表されている。これにより同社の関連する2工場の生産量は2009年には11.5万トンから27万トンに増強され、さとうきびの灌漑面積も6,500ha増加することになる。同社はEUの輸入価格(19.6セント/ポンド)に対して、輸送費を加えても国際競争力を持つ、8.5セント/ポンドのコストで製造するようにすることが目標であるとしている。
仮にFOB価格がこのレベルを達成できると、南アフリカより価格が安くなり、十分世界市場にも輸出できる水準となる。このことから万一EUの砂糖制度改革がなんらかの原因、たとえば国内の自主的な生産量の削減がうまくいかず、さらなる支持価格の削減により魅力がなくなった場合や、セーフガードが発動された場合、原産地規則で問題が生じた場合など、世界市場、特に中近東やアジア等の砂糖輸入国に輸出することが可能となる。
6.砂糖の生産、販売と制度
モザンビークの砂糖生産は毎年大幅に拡大しており、1998年の38,555トンから2006年の242,525トンまで6倍以上に大幅に増加している。この結果、以前スワジランドなどから輸入されていた粗糖については輸入量が大幅に減少している。ただし、モザンビークの精製の施設については国内に1箇所しかない上、国の中部に位置していることから(大消費地である首都マプトはモザンビークの南端)、精製糖は不足気味であり依然として南アフリカから数千トンの輸入が行われている。
販売組織によれば、2009年には生産量を50万トン以上に拡大しているとのことであった。国内市場の規模は15万トン程度と見込まれるため、増加した生産量はほとんど全てEUに輸出されることになる。その結果、2009年の輸出量は35万トン程度になる見込みである。
LMC社や販売組織からの聞き取りによれば、国内市場については、可変徴収金のような制度が存在し、一定価格以下の輸入は行われないよう国内市場を保護する役割を果たしている。それに加え、他国と同様に砂糖販売組織に独占的な権利が与えられていることから、供給量をコントロールして国内価格を輸出パリティー価格より高く維持することが可能となっている。
ただしモザンビークの砂糖産業が抱える問題のひとつに密輸の問題があるとされる。密輸される砂糖はジンバブエから運ばれるとされ、その数量は2002年10月での推定で7万トンに上るとされる。密輸される背景は、FAOの会議資料によると、公的な為替ルートと闇の為替ルートの乖離が激しく、ジンバブエで砂糖が安く入手できることから、モザンビークが課している輸入糖に対する調整金を密輸により支払わずにモザンビーク国内で販売することにより大きな利益を得ることができる。ただしモザンビーク政府の取締りの強化、国内産糖の販売量の増加、ジンバブエの為替レートの調整により数量は減少傾向であるとFAOは推定している。
また販売組織によれば、灌漑施設などが盗難の対象となるため、生産がうまくいかない実情があるということであった。
このほかにも隣国ジンバブエの不安定な政情や、EUに対する特恵的なアクセスの権利がいつまで続くかわからないといった不安を抱えている。
表Ⅳ−4 モザンビークの砂糖需給表 |
単位:トン(粗糖換算) |
資料:ISO Sugar Year Bookおよび2006年度砂糖白書等 |
7.品質および価格
モザンビークで製造される粗糖は全てVHP糖であり、最高で99.4%の純度のものを製造することができる。ただし現在のEU向けは99.2%で、工場における最低基準は98.6%となっている。聞き取りによれば、ブラウンシュガーの卸売価格が15.99メティカイス/kgで、小売価格になると20.00メティカイス/kgになり、全国一律である。これらは1kg小袋の値段である。
8.マプト港砂糖ターミナル(Maputo sugar terminal)
今回の出張において、マプト港砂糖ターミナルを訪問し、聞き取りを行うことができた。
港湾施設は2003年、鉄道施設とともに政府所有から私有化されたMPDC社の所有によるものである。2003年以降4,000万ドルをかけて港湾施設の設備の改良を進めていく予定となっている。
このターミナルは砂糖専用であり、APAMO(モザンビーク)、SASA(南ア)、SSA(スワジランド)、ジンバブエの4カ国の砂糖産業協同所有による施設である。MPDCとの関係で言えば大家と店子の関係であり、毎月定められた土地の使用料を支払うとともに、砂糖関係の積み出しが行われるごとに手数料が支払われている(手数料については不明)。
1995年からの稼動しており、当時はスワジランドとジンバブエだけの施設であったが、2005年にさらに2カ国が加わった。
貯蔵倉庫は4つあり18万トンの能力を持つ。1965年に作られた1番と2番は4万トン、1973年に作られた3番は4万5千トン、2006年に作られた4番は5万トンの能力を持つ。今までは1番〜3番の倉庫を4カ国が使用しており、国によって中で仕切りをして置き場所を分けていた。現在は4つの倉庫をそれぞれに国が使用することになるが、多少の融通はきく模様である。
4月から今年2月までに1万トンから4万トンの船が19船寄港した。喫水(ドラフト)は問題ないが、砂糖のローディングの施設に問題があり、一度に積み込めるのは3万トンまでとなっている。
港までの搬入手段は、鉄道が9割、トラックが1割である。トラックはスワジランドやモザンビークが利用することが多い。鉄道からの積み下ろしは1時間で320トンの能力で、貨車の下部が開く形で荷が降ろされる。トラックからの積み下ろしは1時間あたり28tトラック6台を扱う能力がある。1時間に750tの砂糖の船積みが可能で、2万トンの船を2日で船積みができる。
年間操業しているが、2―3月はメンテナンス時期であり、荷物は少ない。
扱っているのはbulk sugarである粗糖であり、袋詰めの白糖も一部輸出しているが、扱いは他の会社である。倉庫に空きがある時は、以前は袋詰め白糖の貯蔵なども行っていたが、現在は行っていないということであった。
すべてのトラック、貨車からサンプリングを行い、船積みの時もサンプリングを行う。ただし、サンプルの分析施設は同国になく、南アフリカのダーバンに送られる。
列車は国によって違うが30―35台編成の貨車である。例えば南アは38t×40台、ジンバブエは44t×30―34台である。3交代制で、3列車を1日で下ろすことができるが、繁忙時には4列車まで大丈夫であるとのことであった。同時にトラック12台/日も受け入れ可能である。
2つの砂糖ローダーがあるが、技術的な問題があり、同時に1つの船に積み込むことはできない。
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