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最終更新日:2010年3月6日
国際情報審査役 |
オーストラリアは日本にとっての主要砂糖輸入先国の1つで、近年の砂糖生産量は450〜550万トンで推移し、その8割程度が輸出されている。Queensland(QLD)州、New South Wales(NSW)州、Western Australia(WA)州の3州で砂糖が生産されているが、オーストラリア産糖の95%がQLD産となっている。また、さとうきびの生産については、QLD州北東部からNSW州北部へ南北に伸びる沿岸地帯で行われている。
このようなオーストラリアの砂糖産業について、LMCからの報告をもとに国際情報審査役でとりまとめたので紹介する。
第1.オーストラリア砂糖産業の概要
オーストラリアは、世界最大の砂糖生産・輸出国の1つで、年間生産量がほぼ450万トンから550万トンで推移している(図1)。同国の砂糖産業は、さとうきびの割当面積の規制緩和をはじめとする政策改革によって1990年代以降急速に拡大し、1990年代には生産量がおよそ50%もの伸びを示した。しかし、1990年代終りから2000年代初めにかけて砂糖の国際価格が低迷し、激しい価格競争にさらされたこともあり、それ以降生産はあまり増加していない。
砂糖産業の自由化が進んでいる反面、オーストラリア政府は状況に応じて、砂糖産業を対象とする支援を行ってきた。例えば、2000/01年度から2003/04年度の4年間に相次いで干ばつ、洪水、虫害や病害などの天災及び世界価格の低迷に見舞われたことで、国ならびに州政府は、砂糖部門の構造改革を手助けすることを目的とした一連の支援策を打ち出した。
オーストラリアでは、7つある州のうち、Queensland州、New South Wales州、West Australia州の3つの州で砂糖が生産されている。しかし、さとうきびの栽培は、Queensland州北東部からNew South Wales州北部にかけて広がる全長2,100キロの沿岸地帯に集中し、Queensland州のさとうきびの収穫量は、オーストラリア全体のおよそ95%にあたる。
図1 1990/91年度〜2006/07年度の生産量、消費量および純輸出量の推移 |
1.砂糖産業の概略
(1) 国内需給バランス
図1が示すように、生産量は1997/98年度に過去最高の590万トンを記録し、翌年度の輸出量も460万トンに達した。しかし生産量はその後、干ばつ、台風や病害の影響で増減を何度か繰返し、特にこの8年間のうち3年間(2000/01年度、2001/02年度および2006/07年度)は、病害と天候不順で生産量が減少している。2006/07年度は、黒穂病に洪水と干ばつが重なったため、さとうきびの収穫量は生産量の減少した2000/01年度の水準にまで落ち込むことが確実の見通しとなっている。
オーストラリアではほぼ毎年、国内で生産される砂糖の80%から85%が輸出され、輸出量が過去5年間、400万トン前後で推移しているが、大部分が粗糖のまま輸出される。オーストラリア産粗糖は主として、輸出先の精糖企業との長期契約によって取引されている。
オーストラリア産粗糖の主な輸出先は東南アジアで(表2)、2000年から2005年の5年間を見ると、マレーシア、韓国、日本が主要な輸出先となっている。
2.生産量および消費量の内訳
(1) 砂糖の生産量
表3に、砂糖の国内生産量の内訳を精製糖と粗糖に分けてまとめた。この表を見ると、粗糖の生産量は、全体に占める比率が70%から80%の間で推移し、圧倒的に多い。
その一方で、オーストラリアで生産される精製糖の量も年間100万トンを超え、このうち10万トンから15万トン前後が主としてシンガポールに輸出されている(表2)。
オーストラリアには、独立型の精糖所が1ヵ所と、製糖工場に併設された精糖所が3ヵ所ある。
(2) 砂糖の消費量
表4は、精製糖の国内消費量と、その各部門別の内訳(推計値)を表している。精製糖の消費量は近年、横ばい傾向が続いているものの、国民一人当たりに換算すると年間50kg(粗糖換算)を超える。部門別で見ると、家庭用が全体の20%前後を占め、それ以外は加工用として消費されている。
加工用部門は、様々な区分に分かれているが、飲料が単独で加工用の半分近くを占めて最も多く、次に菓子類(全体の11%)が続く。
(3) 異性化糖および代替甘味料の位置づけ
表5に、異性化糖の需給バランスと砂糖に占める比率の推移を示した。オーストラリアではほんのわずかしか異性化糖を生産しておらず、有カロリー甘味料全体に占める比率は0.1%程度に過ぎない。国内で異性化糖の生産を行っているのは、国産の小麦を原料として使うManildra社1社のみである。
オーストラリアでは異性化糖の輸入も輸出も行っておらず、生産された異性化糖はすべて国内で消費される。主な用途はコーディアル(強壮飲料)とManildra社のオリジナルブランド飲料で、一部はアルコール飲料にも使われている。オーストラリア政府が砂糖政策を大幅に転換させるとは考えられないため、異性化糖の生産量が今後増えることはないものと予想される。
異性化糖は生産量、消費量ともに極めて少ないが、ノンカロリー人工甘味料のなかには少ないながら一定の消費量を確保しているものもある。とりわけアスパルテームとサッカリンは人気があり、2006年には甘味料全体の、それぞれ7%と2%を占めている。
表1 2000/01年度〜2007/08年度の砂糖需給バランスの推移 |
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単位:1,000トン、粗糖換算 |
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資料:ISO “Sugar Year Book, 2005”、LMC
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表2 2000年〜2005年の粗糖の主な輸出先 |
単位:1,000トン、粗糖換算 |
資料:ISO “Sugar Year Book, 2005” |
表3 2000/01〜2006/07年度の砂糖生産内訳の推移 |
単位:1,000トン、粗糖換算 |
資料:LMC |
表4 2000/01年度〜2006/07年度の砂糖消費内訳の推移 |
単位:1,000トン、粗糖換算 |
資料:LMC |
3.主要な生産状況
(1) さとうきび栽培部門の生産状況
オーストラリアにはさとうきびを栽培する農家がおよそ5,000戸あるが、その大半がQueensland州に集中し、さとうきび全体の94%が同州で収穫されている。ほとんどが自営農家で、規模は農家によって40ヘクタールから250ヘクタールと差があるものの、平均すると110ヘクタールである。Bundaberg Sugar社は、さとうきびの栽培と製糖の両方を手がける唯一の企業で、Queensland州のさとうきび栽培面積全体の約16%にあたる6万ヘクタールの農地を所有している。
オーストラリアでは平年、気候に恵まれている上に、生産技術が高いことから、さとうきびは高単収で、しょ糖の含有率も高い。オーストラリアは高水準のしょ糖の歩留まりを誇るが、1998/99年度から2002/03年度の5年間については、サビ病と天候不順による影響でこの歩留まりが大きく落ち込んだ。
オーストラリアで高いしょ糖の歩留まりを実現できる要因としては、北部を除いて天候に恵まれていること、さとうきびの輸送体制が整備され、ほとんどのさとうきびを収穫後12時間以内に処理できることなど数多く挙げられる。そのため、さとうきびのしょ糖含有率やさとうきびの搾汁液の純度をはじめ、さとうきびの品質の低下を最小限に抑えることができる。
唯一のマイナス要因は株出し栽培の周期の長さで、そのため毎年、栽培面積の85%程度でしか収穫を行うことができない。これは、雨がいつ降るかによって、一部のさとうきびの植え付けが遅れることがあるためで、しかも、さとうきびが成熟するには18ヵ月かかる。その結果、1ヘクタール当たりのしょ糖歩留まりと年間の1ヘクタール当たりのしょ糖歩留まり(こちらが低い)に差が生じる。
搾汁液の純度の高さは、オーストラリア産さとうきびの大きな特長の1つであり、工場の生産性が高い要因ともなっている。搾汁液の純度は平均で86%近くに達し、工場は砂糖の高い歩留まりを実現できる。また、糖度が最も高くなる頃にさとうきびを収穫することができると同時に、輸送体制が整備されていることで、収穫後のさとうきびの品質の劣化を最小限に抑えることが可能である。一方、地域別で見ると、北部は降雨量が多いことがしょ糖の生成の妨げとなり、搾汁液の純度が最も低い。
表5 2000/01年度〜2006/07年度の異性化糖・砂糖生産量および消費量の推移 |
単位:1,000トン、白糖換算 |
資料:LMC 注:白糖換算は甘味度により行われている |
表6 2000/01年度〜2006/07年度の代替甘味料消費の推移 |
単位:1,000トン、白糖換算 |
資料:LMC 注:白糖換算は甘味度により行われている |
図2 1990/91年度〜2005/06年度のしょ糖歩留まりの推移 |
表7 2000/01年度〜2005/06年度のさとうきび生産状況の推移 |
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資料:LMC
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(2) 製糖部門の生産状況
オーストラリアでは2007年3月現在、12社が所有する27の製糖工場が操業しており(5ヵ所は協同組合)、このうち23ヵ所がQueensland州にある。製糖部門の2000/01年度から2005/06年度の主な生産状況を表8にまとめた。
表8と図3を見ると、工場の平均処理能力は1日当たりさとうきび1万トン弱で、国際的な基準から考えると突出して高いわけではなく、稼動日数も比較的短い。Queensland州だけを見ると、平均処理能力が1日当たりさとうきび1万1,000トンをわずかに下回る一方で、平均稼働日数には100日から140日とばらつきが見られる。
1990年代半ばには、設備の拡張を図る工場が相次いだ。また、1980年代終りから1990年代初めには、大部分の工場が、週7日稼動する体制に移行したため、新たに投資をしなくても処理量の拡大を図ることができた。しかし、ここ最近はさとうきびの収穫量が低迷しており、工場に設備の拡張を促す誘因に乏しい。製糖部門では、設備の合理化や稼働日数の延長などによってコストの節減を図っている。
オーストラリアでは従来から、圧搾の段階でしょ糖の抽出率が96%と高いことに加え、煎糖部門でも歩留まり率が93%を越えるため、しょ糖の歩留まり率が格段に高い。しかし、ここ数年間は、工場に納入されるさとうきびの質が低下し、歩留まり率がわずかながら低下している。
図3を見ると設備稼働率が上昇していることがわかるが、これは、1980年代半ば以降、稼働率が飛躍的に向上したことが大きい。1980年代終りから1990年代初めにかけて無休で稼動する体制を導入したことなどによって、時間稼働率は1985/86年度の60%からおよそ90%にまで上昇した。
表8 2000/01年度〜2005/06年度の製糖工場の主な生産状況の推移 |
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資料:LMC
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図3 1990/91年度〜2005/06年度の工場当たりの産糖量 |
第2.砂糖制度の主な特徴
輸入砂糖に対する関税は1997年7月に粗糖と白糖の関税が全面的に撤廃された。
一方で、政府は今まで、その場の状況に応じて時限的な支援措置を講じている。例えば、2000/01年度から2003/04年度の4年間に相次いで干ばつ、洪水、虫害や病害などの天災及び世界価格の低落に見舞われたことで、国ならびに州政府は、砂糖部門の構造改革を手助けすることを目的とした一連の支援策を打ち出した。
Queensland州では現在、「砂糖産業法」に基づいて、砂糖産業の監督・規制が行われている。この法律は、旧砂糖産業法(1991年制定)ならびに「砂糖産業の工場合理化に関する法律(1991年制定)」に代わるものとして1999年に制定された。
これから、オーストラリア産砂糖の95%を生産するQueensland州の砂糖制度に焦点を当て、国内砂糖産業に対する規制措置および現在進められている改革に関し、次の7つの項目に分けて説明する。
1.生産管理
1990年代初めには、1991年に制定された旧砂糖産業法によって、1995年までにさとうきびの割当面積を毎年最低2.5%ずつ拡大することが義務付けられ、これが、1990年代に見られた栽培面積の急激な伸びの要因となった。Queensland州の割当面積は1989年の36万3,000ヘクタールから、1996年には33%増えて48万4,000ヘクタール近くにまで達し、需要に見合った栽培地の供給を可能にした。灌漑農業が行われ、単収の高いBurdekin地方を中心に、こうした新たな割当の需要が高まり、1992年から2000年の9年間で、栽培面積は31%も増加した。
1996年に砂糖産業の現状の評価が行われた結果、さとうきび栽培地の拡大は、各地域のさとうきび生産委員会によって決定されるべきだとの結論が下された。これによって、それまでの一元的に決定を行う体制に比べ、より実情に合った対応が可能になっている。
2.国内価格支持
支持価格の設定や介入買い上げなど、政府による直接的な価格支持策は行われていない。こうした状況が国内価格に及ぼす影響は、粗糖と白糖で大きく異なる。
粗糖の国内価格≒輸出基準価格:粗糖の輸入関税が撤廃されたことに加え、Queensland砂糖公社(QSL)が国内市場で粗糖を販売する際には輸出基準価格を適用することが法律で義務付けられているため、粗糖の国内卸売価格は国際価格とほぼ同水準である。
精製糖の国内価格>国際価格:オーストラリアが精製糖の主な輸出国から離れた場所に位置することが保護策の役目を果たし、国内の精糖企業はこの恩恵を受けている。この地理的条件のため、精製糖の国内価格は国際価格に比べて著しく高い。
Queensland州では1999年まで、砂糖産業がプール価格制度を実施していた。国内で販売される粗糖と輸出される粗糖の価格には、大きな差がないため、1999年にこの制度が廃止されても、実質的な影響はほとんど見られなかった。ただし、これが撤廃されたことで、新規栽培農家や生産を拡大した栽培農家以外も、(オーストラリア産砂糖に唯一特恵的扱いを与えている)米国市場向けの特恵輸出価格の恩恵を受けることができるようになった。
製糖企業には、各市場の売上を加重平均した金額から、販売費や、バルク扱い/保管費、管理費など、QSLの負担経費を差引いた金額が支払われている。
表9は、2000/01年度から2005/06年度のさとうきびの販売平均価格も示しているが、この対象期間における平均価格は、1トン当たり16米ドル前後であった。
表9 2000/01年度〜2005/06年度のさとうきびおよび砂糖の国内平均価格 |
単位:米ドル/トン |
資料:LMC 注:1. 粗糖価格はすべて工場渡し価格。 |
3.市場アクセス
オーストラリアの砂糖の輸入関税は撤廃されている。
オーストラリアとタイは2005年、自由貿易協定(TAFTA)に調印した。この協定では、砂糖に関して、タイ側が直ちに、オーストラリアに追加の割当を認め、割当数量を毎年10%ずつ引き上げ、2020年に関税と割当を撤廃して貿易の自由化を図ると定められている反面、オーストラリア側はすでに輸入関税を撤廃しているため、こうした約束をしていない。
現在までのところ、両国の砂糖産業とも、この自由貿易協定による目立った影響を受けていない。しかし、タイが今後、白糖に対する関税を引き下げていけば、オーストラリアからタイに白糖が輸出される可能性は高くなる。
オーストラリアは現在、中国とも自由貿易協定締結に向けた交渉を進めている。中国では砂糖の関税割当制度が導入されており、関税率は割当数量内であれば15%だが、割当数量を超えると50%になる。オーストラリアにとって中国はすでに粗糖の重要な輸出先の1つであるが、今回の交渉で砂糖がどのような扱いを受けるかは予断を許さない。
4.販売制度
Queensland州では2005年まで、Mackay Sugar社やBundaberg Sugar社などのように併設の精糖所を所有していても、製糖工場は生産した粗糖をすべて、業界が運営する組織Queensland砂糖公社(QSL)に販売しなければならず、QSLも、独占状態を維持するために、国内市場で粗糖を販売する際には、その時の輸出基準価格(すなわちFOB価格)を適用することが法律で義務付けられていた。一方、New South Wales州とWestern Australia州は、砂糖産業の規模が小さいため、こうした規制措置の対象とはなっていなかった。
2006年にQueensland州は、法令によって砂糖の販売を管理することを止め、砂糖産業改革の一環として、法令を改正し、それまでQSLが握っていた州内における粗糖の売買の独占権を取り消した。
QSLによる一元販売に代わって、自由に販売することのできる制度が導入されたが、自ら生産した砂糖の販売を行うことを選んだ企業はMossmanとMulgraveの2社だけで、Queensland州から輸出される粗糖の大部分をQSLが販売する状況に変わりはない。法令に基づく一元販売体制から、自由に販売することのできる制度へとスムーズに移行できるよう、オーストラリア製糖工場協議会(Australian Sugar Milling Council―ASMC)、さとうきび栽培農家、政府の代表者から構成される作業部会が立ち上げられた。
すべての砂糖が輸出基準価格で販売されているものの、砂糖の販売をほぼ独占し続けるQSLが輸送費込みのCIF価格で販売する方針を取っており、これがある程度の間接的な価格支持の効果をもたらしているのが現状と言える。この販売方針によって輸出先の仕向地を自ら選択・決定できるため、QSLはこれを最大限活用し、粗糖のアジア太平洋地域以外への出荷を上手く調整して、砂糖の価格を押し上げている。その結果、オーストラリアの粗糖産業は、アジア太平洋地域内に粗糖を輸出すれば、高値の恩恵を受けることができる。
白糖市場について見ると、オーストラリアが地理的に主要な輸出国から離れた場所に位置するため、砂糖の輸入コストがかさむ。精製企業は、その輸入コストを踏まえて国内販売価格を設定するため、精糖企業にプラスの作用をもたらしている。
表10 現在の貿易政策の内容 |
資料:LMC |
5.栽培農家と製糖業者の関係
Queensland州では栽培農家と製糖業者が収益分配協定(revenue―sharing agreement)を結んでいる。この協定では、さとうきびの価格が、さとうきびの質と製糖工場の生産性に基づき設定される。さとうきびの評価基準となる回収可能な糖分は、可製糖率(CCS)と呼ばれ、しょ糖含有率、繊維含有率および搾汁液の純度によって決まる。
従って、栽培農家の収益分配率は固定されていないが、最近は平均66%前後で推移している。さとうきびの運搬費用は、収益分配金のなかから製糖業者が支払わなければならないが、2003/04年度から2005/06年度の3年間の平均で、1トン当たり約4米ドルであった。
1989年以降、製糖業者と農家は粗糖の販売にともなう収益しか分配していない。そのため、現在は精製糖の製造および販売から生じる利益の100%を精製糖企業が得ており、糖蜜とバガスも製糖企業だけの収益となる。
農家は、さとうきびの収穫に責任を負うが、収穫手当という形で、製糖業者から何らかの資金援助を受けることができる。この手当は、工場が週7日休まずに操業を続けるために、農家に負担を強いた追加の人件費を補償する目的で支払われる。
収穫したさとうきびに関しても、農家は、工場内のさとうきび運搬路線の、両者が合意した受渡し地点か、工場まで運搬する責任を負う。ただし、受渡し地点から工場までの運搬費は工場の所有者が負担する。工場によっては、さとうきびを納入する農家に、運搬手当を別途支払うところもある。この手当の金額などについては、栽培農家と工場所有者の間の話し合いによって決められている。例えば、合意された受渡し地点からある程度距離が離れた場所に、新たな栽培割当地を設ける場合、その支援策として、さとうきび運搬路線を整備する代わりに、このような手当が支払われることもある。農家がさとうきびを直接工場に届けると、工場はこの補償としても運搬手当を支払う。
6.砂糖産業の利害代表組織
政策決定プロセスで、さとうきび栽培農家と製糖業者の利害を代表する団体は数多くあるが、そのなかでも、New South Wales、Queensland両州のさとうきび生産者団体である「さとうきび生産者連合(CANEGROWERS)」と「さとうきび生産者協会(Australian Cane Farmers' Association)」、そして27の製糖業者が所属する「オーストラリア砂糖生産工場連絡会(Australian Sugar Milling Council)」の3団体が中心的な役割を果たしている。
オーストラリアでは、国と州、2つのレベルで砂糖政策が実施されている。国レベルでは財務省もしくは第一次産業エネルギー省が、関税の撤廃やその他の税制の変更など経済面の施策を進めるのに対して、州レベルでは、Queensland州を例に取ると、第一次産業省が、Queensland砂糖公社(QSL)を通して政策決定を行っている。
砂糖産業改革プログラム(SIRP)は、予算が2004年から2007年の3年間にわたって配分されている。SIPRに盛り込まれた支援策は一部がすでに完了し、残りも間もなく期日を迎える。SIRPの主な支援策は下記の3つである。
砂糖生産持続のための援助:プログラムに参加する栽培農家と製糖業者を対象に、2004年6月と2005年1月の2回に分けて、補助金が給付された。
再構築援助:砂糖産業からの撤退を望む生産者が対象で、2006年6月30日までに応募すれば10万豪ドル、2006年7月1日から2007年6月30日までに応募した場合には5万豪ドルの補助金が一度に限り給付される。
地域・地域社会開発プロジェクトへの資金提供:砂糖産業から撤退はしないが、事業の大規模な統廃合を行うことに同意した生産者が対象で、各プロジェクトには資金がすでに3回、投入されており、現在、最後となる4回目の受給申請を受け付けている(資格があるのは、2008年6月までに全面実施が可能なプロジェクト)。3回目の資金提供を受けた一部のプロジェクトを下に示した。
血糖インデックスが低い食用の砂糖および糖蜜エキスの開発
さとうきびの複合型処理施設の設置
さとうきび輸送システムおよび農業管理施設の整備・充実
第3.砂糖産業の現状
1.さとうきびの製糖産業および精糖産業の構造
(1) 製糖産業
表11に、オーストラリアの製糖企業と各企業が所有する工場の一覧を示した。製糖産業では諸問題に対応するため、とりわけ2000年以降、構造改革が進められ、国内企業の工場間における整理統合や、外国企業の進出が見られる。
オーストラリアでは12社が27の製糖工場を運営しているが、このうち23工場がQueensland州にある。最大規模を誇るのはCSR Limited社で、7工場を所有し、オーストラリア全体の年間生産量の40%に当たる220万トンを生産している。
オーストラリアに進出している外国企業は、ベルギーのグループFinasucre社と韓国の企業CJ Corporation社の2社である。
Finasucre社は、オーストラリア第2位の製糖企業Bundaberg Sugar社を2000年中旬に買収した。Bundaberg Sugar社の砂糖の年間生産量は70万トン強で、これはオーストラリア全体の15%ほどに相当する。
CJ Corporation社は2000年10月に、New South Wales州のOrd River MillをCSRから取得し、この工場で生産される粗糖をやはりCJ Corporation社の子会社で、インドネシアで発酵製品を製造するPT CSIに納入していたが、同社はオーストラリア事業からの撤退を発表した。
(2) 精糖産業
表12に、オーストラリアの精糖企業と各企業が所有する工場の一覧をまとめた。
オーストラリアでは現在、Sugar Australia Pty Ltd.社、Bundaberg Sugar Co.Pty Ltd.社、Manildra Harwood Sugars社の3社が4つの精糖工場を運営している。
規制緩和を受けて、精糖産業は1990年代に最初の成長期を迎えた。最も注目を集めた動きとしては、Sugar Australia社の設立が挙げられる。同社は、CSR社、Mackay Sugar協同組合、ED &F Man社の3社が出資し、CSR社とMackay Refined Sugars社の精糖設備を結集させて作った合弁企業だが、ED&F Man社の持ち株は2003/04年度にCSR社が全株取得した。
表11 製糖会社:所有する工場および生産状況に関するデータ1 |
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資料:LMC
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表11(続き):製糖会社:所有する工場および生産状況に関するデータ1 |
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資料:LMC
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表12 精糖会社:所有する工場および生産状況に関するデータ1 |
資料:LMC 注:1.能力と産糖量は2005/06年度のデータ |
2.砂糖産業の現在の問題
2006年6月に黒穂病の発生が確認され、Queensland州南部のさとうきび農家も被害を受け、植え替えを余儀なくされている。黒穂病にかかりやすい品種から、これに強い品種への切り替えが進められているものの、黒穂病に強い品種を原料にすると砂糖の歩留まりが低くなるため、いずれの品種を植え替えに使うかは、バランスを取るのが難しい。
2006年第一四半期にサイクロン「ラリー」および洪水の被害にあったQueensland州の地域では、収穫の完全な回復に2008/09年度までかかる見通しである。
EUの白糖輸出が減少したため、世界各地の白糖不足に陥る地域で独立型製糖所が相次いで建設されている。独立型製糖所の場合、ブラジルで大量に生産される高品質のVHP粗糖を好む傾向が見られる。これは、VHP粗糖ならば精製コストが低く、精糖企業にとって大幅な経費削減につながるからである。Queensland州でも現在の品質よりさらに高品質の粗糖を生産することができるが、コストがかかる。このことからブラジルとの厳しい競争に面している。
2001年から2006年の7年間で、豪ドルが米ドルに対して70%も値を上げたことも、オーストラリアの砂糖産業にマイナスの影響を与え、生産者は輸出と国内販売、両方における国内通貨に換算した後の収益悪化に直面している。最近、粗糖の国際価格が下落しており、豪ドル高の影響が今後さらに厳しさを増すのはまず間違いない。
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