[2001年11月]
都市化、核家族化の進展等により、とくに子供たちの 「食」 や 「農」 に対する関心が希薄になっているといわれています。子供たちに「食」の大切さを理解させ、正しい食習慣を身に付けさせる上からも、農業体験学習は教育関係者からも高い関心が寄せられています。このような中、東海農政局では教職員や子供たちからの農林水産省や食べ物に関する質問や疑問に答えるため農林水産センターへ 「よろず相談窓口」 の設置や、ホームページには 「子供たちの農業体験学習広場」 を開設し情報交換や農業体験に協力してくれる農業体験学習関連施設リスト、農業体験学習優良事例集等収録されています。このような取り組みについて紹介していただきました。
東海農政局 統計情報部 企画情報課 課長補佐 土屋 重夫 |
1. はじめに
食料自給率の低下、農業者の高齢化、農地面積の減少、農村の活力の低下など我が国の食料・農業・農村を巡る情勢が大きく変化する中で、平成11年7月に制定・公布された 「食料・農業・農村基本法」 は、「食料の安定供給の確保」、「多面的機能の十分な発揮」、「農業の持続的な発展」、「農村の振興」 を基本理念とし、これまでの農業に重点をおいた政策から、消費者重視の政策を打ち出す一方で、消費者に対して 「食料、農業および農村に関する理解を深め、食料の消費生活の向上に積極的な役割を果たす」 ことを求めています。
我が国の食生活の実態をみると、飽食や脂質の摂取過多による栄養バランスの崩れ、これに起因する生活習慣病の増加、大量の食べ残しなど多くの問題が現れてきています。今後、食料自給率の向上という国民的課題に対応していくためには、生産者側の努力のみならず、消費者自らが、現在の我が国農業、農村の置かれている状況をきちんと理解し、食生活のあり方を見直すなど、消費者も積極的にその役割を果たしていくことが重要になっています。
しかしながら、消費者の 「食」 や 「農業」 に関する理解と関心は必ずしも高いものとはなっていません。
このような状況の中で、東海農政局としては、国民に対して食料、農業及び農村に関する情報をわかりやすく提供することにより、「食」 や 「農業」 に関する国民の理解と関心を深めていくため、子供たちを対象とした農業体験学習やグリーン・ツーリズム (都市生活者が農村で余暇を過ごそうという旅行形態) などの都市と農村の交流の推進等により、国民に農業・農村を直接体験してもらう取り組みも積極的に行っています。
2. 農業体験学習をめぐる動き
近年、子供たちの 「食」 に対する知識や関心の低下や 「農業」 に対するイメージが希薄になっているといわれています。これは、都市化、核家族化の進展等により、子供たちが農業を含めた自然体験や料理等の手伝いといった生活体験をする機会が大きく減少しているためです。
幼児期や年少期の体験は、人格形成や豊かな心の育成という面で大きな影響力を持っており、農業自体や農業が食と密接な関係にあるということに対して理解と関心を持ってもらうためには、この時期における農業体験学習が重要な意味を持っているといえます。
農作物を育てるという体験を通じて、子供たちにとってもっとも身近な食べ物や地域農業や農村文化について、見たり、聞いたり、調べたりしながら学習することは、子供たちの好奇心を刺激し、自発的な学習意欲を喚起するものであり、自然体験が持つ情操教育としての効果だけでなく、子供に 「食」 の大切さを理解させ、正しい食習慣を身に付けさせる上でも極めて効果が高いことから、学校教育の中に 「農業」 を教材として用いることに対して、教育関係者からも高い関心が寄せられています。
3. 東海地域における「農業体験学習等」の現状
東海農政局では、小学校等における農業体験学習の取り組みを推進し定着を図っていくための基礎資料とするため、平成12年と13年において、東海地域における農業体験学習等の取り組み状況等に関するアンケート調査を実施しました。
(1) 小学校における農業体験学習の実施状況
平成12年において、岐阜県、愛知県及び三重県の公立小学校を対象に、「平成11年度の農業体験学習の取組状況」 を調査したところ、全体の68%の小学校で農業体験学習が実施されおり、県別には、岐阜県81%、愛知県63%、三重県67%でした。
これを農業地域類型別に見ると、都市的地域58%、平地農業地域83%、中間農業地域79%、山間農業地域87%となっており、都市部における実施割合が他の地域に比べ低くなっていました。
農業体験学習の目的については、「作り育てる喜びを教えたい」(94%)、「共同作業・協調の必要性を教えたい」(72%)、「食べ物の大切さを教えたい」(66%) が上位を占め、「農業への理解を深める」 ことを目的として掲げている学校も半数程度ありました。農業体験学習によって得られた効果については、「自分たちが育てた農作物の収穫の喜びが実感できた」(96%)、「働くことの大切さが理解され、共同作業の喜びが実感できた」(66%) が上位を占め、学校側が期待する効果がおおむね得られていることがわかりました。「飽食の時代といわれる中で、子供たちに食べ物の生産にはいかに労力と時間がかかっているのかを実感させるには効果的」 との意見も多く、農業体験学習が食べ物や農業の大切さの理解に一定の効果を上げている実態が明らかになりました。
また、農業体験学習の指導は79%の小学校で教職員自らが行っており、農家や農業関係者が指導に当たっている学校は15%、PTA が指導している学校は5%でした (図1)。
図1 農業体験学習の指導者 (小学校)
(2) 幼稚園における農業体験学習の実施状況
平成13年には、東海3県の公立及び私立の幼稚園に対して、農業体験学習等に関するアンケートを実施したところ、87%の幼稚園において農業体験学習が実施されており、県別では、岐阜県95%、愛知県82%、三重県90%でした。
目的については、「作り育てる喜びを教えたい」(79%)、「食べ物の大切さを教えたい」(73%) が小学校同様上位を占めている一方で、「農業への理解を深める」(15%) ことを目的として掲げる割合は小学校に比べ低く、農業体験学習の持つ情操教育としての側面に重点がおかれていることがわかりました。得られた効果については、「自分たちが育てた農作物の収穫の喜びが実感できた」(83%)、「新鮮な農産物のおいしさが理解された」(46%) が上位を占めていました。
農業体験学習の指導については、先生自らが行っている幼稚園が94%ある一方、農家や農業関係者が関与するケースが29%、保護者会が関与するケースが15%ありました (図2)。
また、給食の際に食材についての話をよくしている幼稚園は21%あり、時々しているを含めると全体の約8割の幼稚園で給食の食材について説明が行われていました。さらに、お米や野菜ができるまでの農家の苦労話をしている幼稚園が55%あり、食べることを通じて食材に関する知識や「食」の大切さを教えるためのいろいろな取り組みが行われていました。
図2 農業体験学習の指導者 (幼稚園) (複数回答)
(3) 学校給食を通じた食農教育の状況
学校給食は、子供たちの食生活の改善にとって重要であるほか、食と密接に関係する農業に対する理解と関心を深める上で重要な役割を果たすことから、平成13年に小学校を所属校とする学校栄養職員に対し学校給食における取り組み状況をアンケートしました。
学校給食指導の目的としては、「好き嫌いをなくすという偏食の防止」、「食事に感謝する気持ちを養う」、「楽しく食べる社交性を育てる」 等が9割前後となっているほか、「食文化の伝承」 も64%ありました。
給食を通じて地域で育まれてきた食文化を伝承していくため、多くの学校で行事食や郷土食を給食に取り入れており、行事食については93%、郷土食については82%で取り入れられていました。また、74%の学校で行事食や郷土食の食材に関する説明を児童に対して実施していました。
4. 農業体験学習に関する情報提供の必要性
アンケート調査の結果、農業体験学習を実施していない小学校及び幼稚園では、農業体験学習を実施していない理由として、「適当な場所 (農地) がない」、「時間の不足」、「知識・情報の不足」 等をあげており、特に都市的地域においては 「適当な場所 (農地) がない」 が多くなっています (図3、4)。
これに対し、今後農業体験学習に取り組む上での要望として、「土地 (農園) の斡旋」、「先生に対する体験学習マニュアルの配布」、「体験学習の優良事例の紹介」、「外部指導者の紹介」 等が寄せられています (図5、6)。
また、農業体験学習を実施している小学校及び幼稚園においては、時間や地理的な条件等各種制約がある中で創意工夫を活かした取組が行われている一方で、より充実した農業体験学習の実施に向けて、「体験学習マニュアルの配布」、「優良事例の紹介」 等、農業体験学習に関する各種の情報提供の要望が寄せられています (図7、8)。
図3 農業体験学習を実施しなかった理由 (小学校) (複数回答)
図4 農業体験学習を実施しなかった理由 (幼稚園) (複数回答)
図5 今後取り込む上での要望事項 (小学校) (複数回答)
図6 今後取り込む上での要望事項 (幼稚園) (複数回答)
図7 今後農業体験学習を充実させる上での要望事項 (複数回答)
(農業体験学習を実施した小学校)
図8 今後農業体験学習を充実させる上での要望事項 (複数回答)
(農業体験学習を実施した幼稚園)
5. 農業体験学習の推進に向けた東海農政局の取り組み
農林水産省では、農林水産情報センターを統計情報組織の事務所、出張所等の各段階のすべての機関に設置し、生産者、流通・加工業者、消費者等国民各層に対して幅広く農林水産業・農山漁村・食料に関する統計情報・行政の新たな展開方向等の情報を積極的に提供するとともに、国民各層からの照会に対してきめ細かく対応し、地域の農林水産情報の受発信拠点としての役割を担ってきました。
今回、東海農政局は、アンケートで寄せられた要望に応えるため、平成13年7月、教職員や子供たちからの農林水産業や食べ物に関する質問や疑問に答える 「よろず相談窓口」 を、東海3県の22カ所の農林水産情報センターに設置しました。よろず相談窓口は、農林水産情報センターが国民各層に認知された存在となるため、積極的に PR していくこととし、13年度は、農業体験学習に関する要望に積極的に応えていく意味からも小学校に対して PR を行うこととし、小学生に親しみを持ってもらえるようにと名付けたもので、ポスターも作成し小学校に配布しました。
また、農業体験学習に関する情報を提供し支援を行うため、東海農政局のホームページに 「子どもたちの農業体験学習広場」 を13年7月に構築し、情報の受発信を行うこととしました。子どもたちの農業体験学習広場の内容は、意見を自由に書き込んでもらい情報交換をしたり、質問等に対して回答を行う 「掲示板」、農業体験学習を行うに当たり指導、協力のできる者の登録リスト 「アシスタント・ファーマーズ・ティーチャー」、農業・農村に関する基本的な事項について子供たちにわかりやすく解説した 「農業体験学習 Q&A」 のほか、農業体験学習に関する情報を収録しています。情報としては、農業体験学習関連施設リスト、農業体験学習優良事例集、農業体験学習に関するアンケート結果が収録されています。
6. おわりに
以上、東海農政局における農業体験学習の取り組みを中心に紹介してきました。東海農政局では、食料・農業・農村基本法に基づき策定された基本計画を実現するため、東海地域の農業の実状を踏まえて、食料自給率の向上に向けた土地利用型農業の推進、食生活改善や農業・農村の理解・浸透に向けた食農教育の普及・推進、農業・食品産業分野での資源循環利用システムの構築など9つの重点施策を設置し、積極的に推進しています。
このような状況の中で、農業体験学習を通して子供らを中心に、農業に対して理解を深めることは、子供らの情操教育上重要であることに加えて、麦・大豆、野菜等の地場の農業に理解を深め、地産地消に繋がるものと考えています。今後、このような底辺の広がりが重要であり、国民的な運動となることが一層望まれます。