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平成10年度農業白書の概要

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報


農林水産省から
[1999年7月]

農林水産大臣官房調査課 計量分析係長
市川 可幸


はじめに
1.食料の安定供給確保(第II章)
  (1) 世界の食料需給構造
  (2) 我が国の食料消費の現状と食料の安定供給の確保
  (3) 食料の安定供給を支える食品産業と安全・良質な食料の供給
2.我が国農業の持続的な発展の追求(第III章)
  (1) 農業労働力と農地の動向
  (2) 多様な担い手の活動とその確保・育成
  (3) 市場原理の一層の活用と農業経営の安定
  (4) 農業の自然循環機能の維持増進
3.農村の振興と農業の有する多面的機能の発揮(第IV章)
  (1) 中山間地域を含む農村地域の現状
  (2) 農業の有する多面的機能
  (3) 中山間地域等における活性化の取組み


 「平成10年度農業の動向に関する年次報告」(農業白書)は、平成11年4月16日に閣議決定のうえ、国会に提出、公表されました。
 本年度の農業白書は、21世紀の日本農業を展望する食料・農業・農村基本法案の国会審議を前に、食料・農業・農村をめぐる課題と農政改革への取組みについて広く国民の理解が深まるような内容とすることを基本として作成されました。
 白書の構成は次の4章からなり、特に第U章〜W章においては食料・農業・農村の3本の特集テーマを設定し、数多くの具体的事例を紹介しつつ、現状分析、今後の施策のあり方について分かりやすい記述に努めました。
 第I章 「平成9〜10年度の農業経済と我が国主要農畜産物の需給動向」
 第II章 「食料の安定供給確保」
 第III章 「我が国農業の持続的な発展の追求」
 第IV章 「農村の振興と農業の有する多面的機能の発揮」
 以下、特集テーマである第II章〜IV章について概要をご紹介します。

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1.食料の安定供給確保 (第II章)

(1) 世界の食料需給構造
 世界の食料需給は、世界の穀物の在庫水準の低下や異常気象等による作柄変動等により、短期的な不安定性が増大している。一方、現行WTO農業協定は食料輸入国における食料の安定供給確保への配慮が十分なされているとはいいがたい内容となっている。
 世界の穀物需要は開発途上国を中心とした大幅な需要増が見込まれる一方で、農業生産については農地の劣化や砂漠化の進行等種々の制約要因が明らかとなっており、世界の食料需給は中長期的にはひっ迫の可能性がある。開発途上国の食料問題解決のため、経済力や国際的地位に応じてできる限りの支援を行うことは、先進国の一員としての我が国の責務である。また、食料・農業分野の国際協力を通じ、世界の食料需給が安定することは、食料の多くを海外に依存する我が国の食料安全保障にも寄与するものである。

図1:世界の穀物需給と在庫率の推移
世界の穀物需給と在庫率の推移
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(2) 我が国の食料消費の現状と食料の安定供給の確保
 我が国の食料自給率は主要先進国の中で最低の水準となっており、平成9年度には供給熱量ベースで41%に低下している。
 食料自給率の低下は、特に自給品目である米消費の減少と輸入飼料穀物や輸入油糧原料に依存せざるを得ない畜産物、油脂類の消費の増加が大きく影響している。
 世界最大の農産物純輸入国である我が国が、食料の安定供給と食料安全保障を確保していくためには、国内農業生産を基本に位置付け、優良農地の確保とその有効活用、担い手の育成、農業技術の向上等を通じ可能な限りその維持・拡大に努力する必要がある。また、輸出国との相互信頼関係の醸成や主要食料等の備蓄制度の適正な管理・運営、輸入の途絶等不測の事態に備えた危機管理体制の構築が必要である。
 国内農業生産の維持・拡大を図るうえでは食料自給率の目標を策定し、生産・消費の両サイドから取り組むことが必要である。生産面では、主要品目ごとに、生産努力目標の策定やそのための具体的対応策を検討していくことが必要である。消費面では、食料消費や農産物の供給等食料自給率に関する情報提供、食べ残しや廃棄の削減、主食である米を中心に多様な副食品のバランスの良い摂取等望ましい食生活(「日本型食生活」)の実現のための啓発活動等を展開する必要がある。

図2:供給熱量の構成の変化と品目別供給熱量自給率
供給熱量の構成の変化と品目別供給熱量自給率
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(3) 食料の安定供給を支える食品産業と安全・良質な食料の供給
 食品産業は、農業とともに食料の安定供給にとって大きな役割を果たしており、両者の連携強化が重要な課題である。
 中小企業の比率が高い食品産業にあっては、産学官の連携等による技術力の向上等による経営体質の強化が必要である。また、事業活動に伴う環境負荷の軽減を図るため、食品残さ等のリサイクルの促進等の環境問題への積極的な対応が必要である。
 消費者の食料品の安全性に対する関心の高まりに対処し、生産から消費の各段階における安全性・品質確保対策の充実を図るため、生産段階での生産ガイドラインの策定、製造段階でのHACCP手法の導入促進、流通段階での生鮮食品等の取扱ガイドラインの策定、消費段階での情報提供・啓発等の対策が必要である。

図3:国産食用農水産物の部門別仕向状況
(平成7年)
  図4:食品製造業の加工原材料の内訳
(平成7年)
国産食用農水産物の部門別仕向状況 食品製造業の加工原材料の内訳

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2.我が国農業の持続的な発展の追求(第III章)

(1) 農業労働力と農地の動向
 農業従事者の減少と高齢化の進行は、農業生産の維持・拡大と農業の有する多面的機能の十分な発揮にとって深刻な問題であり、幅広い担い手の確保が極めて重要な課題である。新規就農者数は近年増加しているものの、我が国の農業を安定的に維持していくには不十分であり、支援の強化が必要である。
 農業の基礎的な資源である農地の減少傾向、特に耕作放棄地の増加は重大な問題である。優良な農地を確保していくためには、農業振興地域制度のもとに国の基本方針を明確にしたうえで、地元市町村における具体的な有効利用計画の策定等適切な対応が必要である。また、農地の保全を図るうえで、ほ場整備は有効な手段であり、今後とも着実な実施が必要である。
 平成9年の農地の権利移動面積は過去最大となっており、また、農作業受委託も増加傾向にあるが、農業構造を大きく変えるに至っていないことから、引き続き農地流動化を促進し、地域農業の担い手に農地の利用集積を図ることが必要である。

図5:農家戸数と農家人口の推移   図6:耕地の拡張とかい廃
農家戸数と農家人口の推移
注:5年ごとに調査が行われる農業センサスの数値である。
耕地の拡張とかい廃

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(2) 多様な担い手の活動とその確保・育成
 経営感覚に優れた効率的・安定的な農業経営を育成し、意欲ある担い手に施策を集中するに当たって、「認定農業者」等の確保・育成が重要な課題である。その他、様々な農業経営が相互に補完しながら集落ぐるみで営農を展開している「集落営農」、地域の実情に応じた多様な農作業サービスの提供により個別経営を補完する「農業サービス事業体」、公的主体が参画する「第3セクター等」の多様な担い手を地域の実情に応じて確保・育成することも重要である。
 担い手の経営形態の選択肢を拡大させる観点から、農業生産法人の一形態としての株式会社に限り、土地利用型農業への導入を認めることとしたが、投機的な農地取得等株式会社形態の導入につき指摘されている懸念を払拭するため、農業者、農業団体等関係者が納得できる形で、所要の措置を講じることが必要である。

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(3) 市場原理の一層の活用と農業経営の安定
 需要に即した国内農業生産の維持・増大を図るためには、消費者・実需者のニーズ等の農産物の需給事情が価格に適切に反映されるよう市場原理を一層活用することが必要である。この場合、価格変動が意欲ある担い手の経営を阻害しないよう、農業経営の安定を図るための所得確保対策も併せて措置することが必要である。

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(4) 農業の自然循環機能の維持増進
 国内の資源を有効に活用しつつ、農業の持続的な発展を図るためには、農業が本来有する自然循環機能の維持増進が必要である。
 環境と調和した持続性の高い農業生産方式に転換していくためには、農業者が目指すべき高度な生産方式を明確化し、農業者、消費者、行政等が一体となった取組体制の強化を図ることが必要である。
 近年の農業生産方式のもとでは農業内部の物質循環が円滑に行われない面もあることから、様々な有機性資源の循環利用システムの構築等が課題である。また、農業分野においても、二酸化炭素、メタン等の温室効果ガスの削減など、地球規模での環境問題への対応とともに、ダイオキシン類、内分泌かく乱物質問題への対応の強化が必要である。

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3.農村の振興と農業の有する多面的機能の発揮(第IV章)

(1) 中山間地域を含む農村地域の現状
 中山間地域では高齢化と過疎化が進行し、既に全国で1.6%の農業集落が過去に消滅している。中山間地域では、一般に耕作条件が不利なことから耕作放棄地が増加している。
 全国で約14万に及ぶ農業集落は、非農家の急増や混住化の進行等により変容し、集落機能も大きく変化した。混住化の進む市町村ほど各機能の弱体化が顕著であり、特に、社会コミュニティーの維持機能が著しく低下している。
 集落の混住化が進む中で、非農家の住民や女性、高齢者等を含め地域が一体となった活性化への取組みを強化し、集落機能の維持に努めることが重要である。

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(2) 農業の有する多面的機能
 農業は、食料の安定供給という役割に加え、洪水防止、水資源かん養等の多面的機能の発揮を通じ国民の生命と財産を保全しており、これらの外部経済効果の額は全国で6兆9千億円との試算(中山間地域では3兆円)もある。このような農業が有する多面的機能が都市生活者にも正しく理解され、適正に評価されるよう情報提供や啓発活動を強化することが必要である。
 近年、いくつかの地方自治体ではその重要性を踏まえ、多面的機能の発揮のために様々な支援・助成を行ったり、平坦地との農業生産条件の格差を補填するなどの助成を実施している。
 国としても、中山間地域等において、耕作放棄地の発生を防止し公益的機能を確保するという観点から直接支払いを導入することとし、その具体化に向けた検討に着手している。

表:多面的機能の計量評価(代替法)
機  能 評価の概要 評価額(億円/年)
全   国 中山間地域
洪水防止機能 洪水被害の軽減 28,789  11,496 
水源のかん養機能 河川流況の安定化及び安価な
地下水の供給
12,887  6,023 
土壌浸食防止機能 土壌浸食による被害の軽減 2,851  1,745 
土砂崩壊防止機能 土砂崩壊による被害の軽減 1,428  839 
有機性廃棄物処理機能 食物残さ等の廃棄物処理費用
の軽減
64  26 
大気浄化機能 大気汚染ガスを吸収し大気を
浄化
99  42 
気候緩和機能 夏期の気温低下 105  20 
保健休養・やすらぎ機能
(文化的機能)
都市住民訪問による価値 22,565  10,128 
合   計   68,788  30,319 
農業粗生産額(9年)   99,886  36,707 

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(3) 中山間地域等における活性化の取組み
 中山間地域は耕作面積、農業就業人口等で我が国の約4割を占めており、農業生産活動の維持・確保とともに、集落の再編等も視野に入れた生活基盤の整備や定住の促進等を図り、地域社会として維持・発展させることが重要である。
 中山間地域に賦存する地域資源は多種多様であり、これを活用して農業生産のみならず、地場産業の育成等活性化に向けた創意工夫が重要である。
 今後、グリーン・ツーリズム等都市住民が農業体験や農村生活に接する機会を増やすことにより、農村と都市との相互理解を深めていくことが必要である。

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 農林水産大臣官房調査課調査分析第2係長 田中弘明

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