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最終更新日:2010年3月6日
さとうきびの手刈り収穫の手順 |
さとうきびの収穫作業には、ハーベスタなどによる機械収穫と人力による手刈り収穫がある。沖縄県においては、約4割が機械収穫、残りの約6割が手刈り収穫によるもので、いまだ人力によるところが大きい。
特に本島南部地域では、小規模農家や、急勾配や未接道などにより機械収穫が困難なほ場が多いため、手刈りによる収穫が多く、その割合は約9割にも及ぶ。
手刈り収穫には、刈り倒して
2月某日、南部地域で手刈り収穫(クリーンケーン)作業を体験する機会を得たのでその内容を紹介する。
○ ほ場について
・場所:八重瀬町東風平地区
・品種:農林17号(太く重量があり収量が多くて台風に強い。毛群(トゲ)がある)
・作型:株出し(4回目)
収穫を行ったほ場 |
○ 使用する道具
・二叉鎌(脱葉鎌):さとうきびの葉を落とす。農家が発明
・手斧:さとうきびを刈り倒す。
・ポリプロピレン(PP)縄:刈り取ったさとうきびを束ねる。
二叉鎌 |
手斧 |
PP縄 |
○ 服装 ・帽子 ・長袖、長ズボン、首にタオル ・軍手 ・長靴 基本的に動きやすい服装。さとうきびの中には、とげのある品種があり、また葉に触れて手を切ることもあるため、なるべく肌は露出しないようにする。また、ケガの防止と、日差しによる体力の消耗を防ぐため、帽子は必需品である。 |
(1) 梢頭部のカット
はじめに、糖度が低く、砂糖の結晶を妨げるため原料にならない
注:梢頭部とは、未出穂茎については帯の模様がついている葉(展開葉)から5葉目、出穂茎については最後の葉(止め葉)から7葉目の着生部から上の部分
梢頭部を見極めるため、まずはさとうきび上部の葉を落とす。
片手で上部を持ち、二叉鎌の二叉の根元を茎に沿わせるようにして下方向へ力を入れる。二つに分かれた刃がさとうきびの葉をきれいにカットしてくれる。腰を落として重心を下に置くとやりやすい。刃の位置を変えて2回ほど行うときれいに葉を落とせる。
梢頭部が露出したら、片手でさとうきびの先端を持ち、しなる方向に少し倒してから二叉鎌の二叉ではない部分でカットする。刃先は自分に向けず、外側に向け、手首を使って斜め方向に一気に切る。さとうきびのしなりの反動を利用すると楽にカットできる。
下へ向かって一気に下ろす |
ここのあたりをカット |
カット断面 |
(2) 刈り倒し
梢頭部をカットしたら、さとうきびを刈り倒す。
さとうきびを持ち、しなる方向に合わせて茎を倒して根元の部分を目がけて手斧で一気に刈り倒す(本来は、次の株出しを見越して地面から5cmくらい下を切るのが理想)。昔はくわで行った作業である。ここでもさとうきびのしなりを利用し、また手首を使って斧を使うとやりやすい。
刈り倒したさとうきびは、その後の作業がやりやすくするためなるべく先をそろえて同じ場所に倒しておく。
根元に向かって |
中腰で大変な作業 |
(3) 剥葉
刈り倒したさとうきびの葉をすべて落とす。二叉鎌などを使い、倒伏などで茎の途中についたひげ根、ねずみにかじられた部分や枯死茎、土などもこのときに落とす。
きれいなきびにしましょうね〜 |
全て
束にしたさとうきび |
(4) 縛って運ぶ
束にしたさとうきびを、PP縄で(根元と先の)2ヵ所を縛る(昔は稲わらを使用していた)。
縛った束をほ場の入り口付近1ヶ所にまとめる。PP縄で縛ったまま出荷されることになるが、PP縄は製糖工場でトラッシュとして回収される。
縄で縛るのも重労働 |
さとうきびを肩に乗せて運ぶ際、さとうきびの固い部分が直接肩の骨に当たって痛い時は、腕を上げて肩の位置を高くし、束をなるべく首に近い位置に乗せるようにすると運びやすくなる。
コツをつかんでらくらく |
積み上げられたさとうきび |
手刈りによる収穫は、想像していた以上の時間と労力を要する大変な作業であった。
生産者の高齢化が進む中、収穫作業の負担軽減は大きな課題である。ハーベスタなどの機械を利用することによって負担を軽減することができるが、南部地域では「手刈り隊」や「作業班」と呼ばれる無脱葉収穫請負班による収穫受託があり、この組織の労働力による高齢者の負担軽減効果も大きい。今後も生産性向上に向けた収穫作業の受委託の促進が望まれるところである。(新田)
この日も日中20度を超える暖かさであった |
沖縄県さとうきび競作会の全刈調査が実施される |
沖縄県では、さとうきび生産者の生産意欲を喚起し、生産振興を図ることを目的として、社団法人沖縄県糖業振興協会の主催により、毎年さとうきび競作会が開催され、4月下旬に優良農家を表彰し、経営状況などを紹介している。
平成21年2月17日、宮古、八重山の2地区に先立ち、沖縄本島の3地区において、選考対象ほ場の最終調査となる全刈調査が行われたので、そのもようを紹介する。
(1)対象地区
本島北部、本島中部、本島南部、宮古、八重山の5地区に分類した沖縄県一円を調査対象とし、以下の条件を満たすほ場を対象とする。
(2)資格
(1) | さとうきび収穫面積が40アール以上である生産農家で、1筆10アール以上のほ場であること。 |
(2) | さとうきびが沖縄県の奨励品種であること。 |
(3) | 平均甘蔗糖度が13.1度以上で、10アール当たりの単収が、春植えで8トン以上、夏植えで13トン以上、株出しで10トン以上であること |
(4) | ほ場の平均畦幅が120センチメートル(以下、cm)以上であること |
(5) | 原則として、過去5年以内に地区代表になっていない生産農家のほ場であること |
(3)選考方法
はじめに市町村が関係機関・関係団体の意見を元に、生産農家について予備調査を行い、適当と認められた生産農家を地区優良事例調査委員会に推薦する。次に地区優良事例調査委員会は、推薦のあった生産農家について調査の上、2点以内を県調査委員会に推薦する。最後に県調査委員会において、最終調査となる対象生産農家ほ場の全刈調査を行い、優良農家を選出する。
八重瀬町で実施された全刈調査は、本島南部地区の糖業・さとうきび関係者や生産農家などの収穫作業員約30人と、審査員として宮古島から派遣された4名によって実施された。
対象のほ場は約13アールで、収穫されたさとうきびは、平成19年8月に夏植えされた農林15号である。
調査対象ほ場 |
※農林15号:沖縄県全地域向けの奨励品種。早期高糖で、春植え、夏植え、株出しの3作型いずれにも向き、高糖度で可製糖量が多い。
調査対象ほ場の生産農家は、畜産農家から無償提供された牛ふん8トンを投入した土作り、除草やアブラムシなどの害虫駆除、夏場のかん水を徹底して行ったという。その結果、長さと太さを兼ね備えて力強く伸びた茎と青々とした美しい葉を蓄えたさとうきびが密集して育った。収穫の前から一見して生育の良さがはっきりと確認でき、収穫作業員から驚きの声が上がった。
全刈調査の対象は5アールとなっており、現地で調査員が計測を行ない、目印としてクイが打たれた。
クイ打ち |
午前9時半の作業開始の合図とともに、一斉に収穫作業が行われた。
梢頭部の切断 |
収穫作業でカットされた梢頭部は、畜産農家へ無償提供された。
梢頭部は畜産農家へ |
収穫作業員の作業に並行して、調査員は、ほ場内5カ所から10本ずつ、合計50本のサンプルとして抽出し、ブリックス、茎重、茎長、茎径、節数を計測する。
サンプリング |
ブリックスの測定 |
茎重の計測 |
茎長の計測 |
茎径の測定 |
節数の計測 |
茎径計測に使用したノギス(上)、ブリックス計測器(下) |
また、平均畦幅が120cm以上であることの確認や、0.1アール当たりの生育本数、健全茎、枯死茎、半枯死茎、遅発茎、
畝幅の計測 |
生育本数等の確認 |
積み上げられたさとうきびの束は、10トンを超える勢いで、10a当たりの単収は20トンを超えるものと予想された。
収穫されたさとうきび |
今回の全刈調査対象ほ場は収量が非常に多く、収穫作業は困難を極め、通常の全刈調査の場合、午後3時頃には収穫作業が終了するところ、途中で他のほ場の全刈調査作業員が応援に駆けつけたにもかかわらず午後6時近くまでかかった。
収穫作業を無事終えた収穫作業員からは、収穫の達成感を語ると同時に、農林水産大臣賞受賞(一位受賞)への期待がささやかれた。
各地域で行われた全刈調査で収穫されたさとうきびは、製糖工場において蔗茎重量と甘蔗糖度が計測され、そのデータを基にして、沖縄県による過去の収穫実績データから算出された作型補正係数より、夏植えに対する春植え、株出しの補正を行い、各調査対象ほ場の優劣を決定する。
20年産のさとうきびは、生産者や関係機関による増産への取り組みや天候に恵まれた結果、各地で収量・糖度とも高水準であるため、今年の競作会は例年以上の好成績が期待されている。
この沖縄県さとうきび競作会が、優良農家として表彰される生産農家の励みとなり、また、他の生産者の目標となることで、今後のさとうきび増産につながっていくことに期待したい。(緒方)