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最終更新日:2010年3月6日
第33回(平成20/21年期)沖縄県さとうきび競作会表彰式の概要 |
沖縄県では、さとうきび作農家の生産意欲を喚起して生産振興を図り、沖縄糖業発展の一助とするため、社団法人沖縄県糖業振興協会の主催で毎年さとうきび競作会が行われており、33回目となる今年は平成21年4月23日に那覇市内で表彰式が開催された。
沖縄県副知事の挨拶 |
受賞者代表挨拶 |
当機構理事長賞の授与 |
平成20年産さとうきびおよび甘しゃ糖の生産実績は、沖縄県全域でやや干ばつ気味であったが、晴天に恵まれ日照時間が長かったことや、大きな台風被害がなかったことなど全般的に気象条件に恵まれたことからかん水が適切に行われた地域を中心に単収と甘しゃ糖度の両方で前年を上回る良い結果が得られた。この結果、生産量も対前年比約4%増の約88万2千トンとなった。
表彰式に先立ち、沖縄県営農支援課の伊志嶺正人氏、アグリサポート南大東(株)の名嘉真茂氏、沖縄県農業研究センターの伊禮信氏による記念講演が行われ、原料茎数を増やすための早期株出し管理と欠株補植、ベイト剤(害虫の餌に殺虫成分を配合した薬剤)がさとうきび収量や株出し収量に与える影響、近年の品種の特性と次期品種候補についての講演が行われた。
記念講演 |
競作会の選考方法は、沖縄本島北部、中部、南部、宮古、八重山の5地区において、各市町村が関係者の意見を聞きながら予備審査を行い、成績の優れた生産者を地区優良事例調査委員会に推薦する。同調査委員会は、推薦された生産者について予備審査(立毛調査)を行い、各地区から2名以内を沖縄県さとうきび優良事例調査委員会に推薦する。県調査委員会は、最終調査となる全刈審査などを行い、最終的に沖縄県さとうきび競作会の優良農家が決定される。
以下、同競作会において表彰された代表的な優良生産者を紹介する。
≪農家の部≫
・沖縄県第一位(農林水産大臣賞)
照屋 勝弘氏(北部地区代表 宜野座村)
照屋勝弘氏 |
(1) 栽培品種 農林8号
(2) 作型 春植え
(3) 蔗茎重量 13,640kg/10a
(4) 甘しゃ糖度 17.0度
(5) 経営の特徴
さとうきびの栽培面積は54.7a。
欠株対策として、フィルターケーキ育苗床で養成された芽苗を補植している。また、作付け後の除草・施肥・防除などの肥培管理を徹底している。
(6) 今後の計画など
現在のさとうきび栽培面積を維持しながら、生産性を高める土づくりやほ場にあった品種を選定し、品質向上および単収アップを図りたい。
・沖縄県第二位(農林水産省生産局長賞)
新垣 好惟氏(南部地区代表 八重瀬町)
新垣好惟氏 |
(1) 栽培品種 農林15号
(2) 作型 夏植え
(3) 蔗茎重量 23,740kg/10a
(4) 甘しゃ糖度 15.4度
(5) 経営の特徴
さとうきびの栽培面積は72a。
共有で管理しているトラクター、耕うん機を使用し、収穫については、ハーベスターを使用せず、収穫作業請負班を雇い、手刈り収穫をしている。
(6) 今後の計画など
面積の拡大は難しいが、肥培管理を徹底させ単収の増加を目指したい。
・沖縄県第三位(沖縄県知事賞)
山内 晴美氏(中部地区代表 読谷村)
山内晴美氏(左) |
(1) 栽培品種 農林15号
(2) 作型 春植え
(3) 度蔗茎重量 12,800kg/10a
(4) 甘しゃ糖度 16.7度
(5) 経営の特徴
さとうきびの栽培面積は60a。
さとうきびと紅いもの輪作体系をとっている。
植え付け前にはバガス推肥などを投入し、干ばつ時にはかん水を実施するなど、単収向上に努めている。収穫作業は、機械刈りと手刈り作業を半々の割合で行っている。
(6) 今後の計画など
現在の耕作面積を維持しながら有機肥料などを導入し、早期高糖性の優良品種を積極的に導入したい。
≪多量生産の部≫
・一般農家沖縄県第一位(農畜産業振興機構理事長賞)
前川 守氏(北大東村)
前川守氏 |
(1) さとうきび生産量 892,706kg
(2) 今期の収穫面積 12.8ha
(3) 甘しゃ糖度 16.1度
(4) 経営の特徴
植え付け時に小型乗用トラクターで全畦にかんがいチューブを敷設し、平均培土や高培土時には葉の上にチューブを寄せ置きして作業し、11月までかん水を行っている。品種はF161を中心に栽培している。
(5) 今後の計画など
株出し栽培における単収および甘しゃ糖度向上を目指して、農林19号、20号、25号を試験的に栽培している。
≪さとうきび生産法人の部≫
・生産法人沖縄県第一位(農畜産業振興機構理事長賞)
農業生産法人 アグリサポート南大東(株)
アグリサポート南大東 |
(1) さとうきび生産量 3,081,658kg
(2) 今期の収穫面積 44.8ha
(3) 甘しゃ糖度 14.4度
(4) 経営の特徴
植え付けと収穫作業はJAに委託するとともに、点滴チューブを全畦に設置し、発芽を揃えるため植え付け直後からかん水を行っている。
(5) 今後の計画など
早熟性、晩熟性の品種構成の適正化を図り、早期高糖で株出し多収の新品種の普及に貢献する。
表彰された生産者は他にも多数おられる。今回紹介した方々は、表彰者一部であり、表彰された生産者の方々は、今後も地域の模範的存在として、さとうきび生産に大いに貢献されることと思われる。
今後も、このさとうきび競作会が、さとうきび生産者の良い目標であるとともに、優良生産者として表彰される方々の励みとなることを期待したい。
平成21年度 南部地区「さとうきびまつり」開催 |
沖縄県では、沖縄県糖業振興条例により毎年4月の第4日曜日を「さとうきびの日」としている。この「さとうきびの日」にちなんで、さとうきびの重要性についての認識と理解を深めるための様々な行事が各地域で行われている。ここでは、4月26日に沖縄本島にある翔南製糖株式会社で行われた南部地区「さとうきびまつり」について紹介する。
さとうきび生産は、農家の高齢化や都市化の進展、遊休農地の増加などで年々減少している。特に本島地域では、ほ場が狭く、機械化の遅れなどにより収穫面積や単収も減少している。平成20年産は、農家や関係機関の努力と天候に恵まれ豊作となったが、担い手への農地の利用集積が進んでおらず、適期の肥培管理の徹底についても充分に農家へ浸透していないのが現状である。
このため、さとうきびを広く地域住民へPRするとともに農家と関係機関が連携を深め、新たな経営安定対策と増産運動に取り組むことを目的に沖縄県南部農業改良普及センターと南部地区さとうきび生産振興対策協議会の主催で、「さとうきびまつり」が開催された。
「さとうきびまつり」では、生産組合別による黒糖作り競争や広報車による「さとうきびの日」広報活動が行われた他、さとうきび機械、肥料、農薬の展示コーナーが設けられた。また、平成22年度からの特例要件の廃止に伴う本則要件移行を推進するため、沖縄県糖業農産課と機構が経営安定対策制度相談コーナーを設けて生産者に機構リーフレットを活用しながら制度を説明したり、本則要件充足についての相談を受けるなどの活動を行った。
図1 黒糖作りの様子 |
図2 経営安定対策制度相談コーナーの様子 |
「さとうきびまつり」の開催に当たり、主催者として南部地区さとうきび生産振興対策協議会の中村会長から「今年は天候にも恵まれたが豊作だった。これも農家や関係機関が一致団結した証だ」とのあいさつが、続いて沖縄県南部農業改良普及センターの澤岻所長から「さとうきびは、地域にとって4.7倍の経済波及効果がある大切なものだ。しかし、WTOやFTA交渉、高齢化や担い手の確保など、難題が山積しているが関係機関が連携して頑張ろう」とのあいさつがあった。また、広報車の出発式において沖縄県農林水産部赤嶺農業振興統括監、JAおきなわさとうきび振興部志良堂部長、翔南製糖株式会社許田社長から激励の挨拶があり、その後、南部地区さとうきび生産振興対策協議会の中村会長の号砲を合図に、さとうきびを広く地域住民へPRするため市町の広報車7台が出発した。
図3 式典の様子 |
図4 出発を待つ広報車 |
7つの生産組合がチャレンジした黒糖作り競争では、味、色、香りなどによる審査が行われ、佐敷さとうきび生産組合がわずか1点差で2位の大里さとうきび生産組合を抑えて優勝した。審査委員長である沖縄県南部農業改良普及センターの真栄城地域特産振興班長から、総合評価として「どの組合の黒糖も味は甲乙つけがたいが、生産組合ごとに仕上がり色や硬さの違いがあり、その中でも佐敷の黒糖は中身が均一で、色も硬さも一番黒糖らしい」との講評があった。
図5 黒糖作り審査 |
図6 出来上がった黒糖たち |
今年の「さとうきびまつり」は雨が降る中で始まったが、やがて陽が差し、来場者も徐々に増えてきて、約200名の参加があった。参加者から「来年もまた来たい」という声も聞かれたほか、新聞掲載やテレビ放映もあり、新たな試みとしては成功だったと思われる。
さとうきびの増産を図るため、生産農家や関係機関などが一体となった生産体制の整備を図ることが重要であり、さとうきびの日の関連行事は、さとうきびの生産振興に向けた行事として浸透してきているので、「さとうきびまつり」が今後の増産運動の一助となることを期待する。
沖縄本島内で地域情報交換会を開催 |
平成21年3月26日(木)、沖縄本島南部地区の生産者などを対象にした地域情報交換会を、当事務所と南部地区さとうきび生産振興対策協議会の共催により開催した。
同交換会は、20/21年期の沖縄県さとうきび競作会において選出された優良農家ほ場を中心とした視察会と、優良農家新垣好惟氏とJAおきなわ島袋さとうきび生産振興アドバイザー両氏による講演会の2部構成で開催した。
(1) 照屋勝弘氏ほ場(宜野座村)
(競作会沖縄県第一位・農林水産大臣賞受賞)
手刈り収穫を行っている照屋氏のほ場には稚茎が残されていたが、このことについて島袋アドバイザーから、手刈収穫後に残された稚茎は次期収穫茎になることから、次期収穫時の収量は、稚茎が残されていないほ場より次期収穫時の収量は多くなることが見込まれ、このような株出し栽培は伝統的な手法であるとの説明があった。
照屋勝弘氏 |
収穫されたさとうきび |
稚茎 |
(2) 一芽苗育苗ほ(宜野座村惣慶区)
北部地区さとうきび生産振興対策協議会が管理する補植用一芽苗の育苗ほにおいて、北部地区さとうきび生産振興対策協議会金城指導員から、フィルターケーキを用いた一芽苗の育苗方法と、ハーベスタ収穫後の株出し不萌芽の箇所に一芽苗を補植することによって増産を図ることができるとの説明があった。
一芽苗育苗ほ |
(3) 大城善徳氏ほ場(南城市)
梢頭部苗の植え付け直後の状態を視察した。
大城氏から、梢頭部を苗として使用することにより原料茎を無駄にしないで済むこと、梢頭部苗が一般的な二節苗に比べて発芽率や初期生育が良い特性があること、斜め挿しにすることで湿害による根腐れやメイチュウなどの害虫の食害を回避できることなどの説明があった。
大城善徳氏 |
梢頭部苗の植え付けの様子 |
(4) 新垣好惟氏ほ場(八重瀬町)
(競作会沖縄県第二位・農林水産賞生産局長賞受賞)
新垣氏から、植え付け前に畜産農家から譲り受けた牛糞たい肥を10アール当たり約5トン投入する徹底した土作りなどの肥培管理により、夏植えで単収約23トンの驚異的な収量が実現したとの説明があった。
(5) 知念亀吉氏ほ場(八重瀬町)
知念氏から、収穫後の株の浮き上がりを防ぐために、地ぎわから下の部分を丁寧に刈り倒していること、収穫後には枯れ葉を除去し、土壌に太陽光が当たりやすくすることにより、初期生育を促進するように努めているとの説明があった。
知念亀吉氏 |
(6) 大城栄一氏ほ場(南城市)
(競作会奨励農家・沖縄県糖業振興協会理事長賞受賞)
大城氏から、日頃の肥培管理に加え、さとうきびの連作障害を防ぐために野菜農家とほ場の交換を行い、安定的に高い収量を保てるように努めているとの説明があった。
(1) 新垣好惟氏(沖縄県さとうきび競作会沖縄県第2位)
徹底した土作り、発芽率100%を目指した丁寧な植え付け、十分なかん水、適期の病害虫対策と雑草防除といった肥培管理の説明を行った。
また、A級品でなければ満足のいく価格で売れない野菜と同様にさとうきびを商品としてとらえ、高品質で高収量のさとうきびの栽培を目指していること、生産者は常に畑に出向くことが重要で、さとうきびの生育状況を把握することが大切であるとし、「自分の暇に合わせて畑に行くのではなく、さとうきびに合わせて畑に行かないと、良いさとうきびはできない」と語った。
新垣好惟氏 |
(2) JAおきなわ さとうきび生産振興アドバイザー 島袋正樹氏
安定多収を図る上で重要なポイントとして、土作り、 株数確保、良好な初期生育、分げつの確保、良質な最終施肥培土、晩期施肥+かん水、雑草防除・野ネズミ防除を挙げ、そのための適期の肥培管理の重要性を呼びかけた。
島袋アドバイザー |
今回の地域情報交換会には、さとうきび生産者ら約60人が出席した。視察先のほ場は、それぞれの優良農家によって、栽培法に独自の工夫がなされており、参加者はその説明に耳を傾けていた。また、講演会においては、新垣好惟氏のさとうきび作にかける姿勢と、島袋アドバイザーによるさとうきび栽培理論を熱心に聞いている様子が印象的であった。
出席者から、「優良農家の熱心さが伝わってきた」「紹介された栽培管理法の工夫の中に、自分でも実践できるものがあった」「年に数回開催してほしい」といった感想が多数寄せられた。
さとうきびの増産に向けて、担い手の育成が大きな課題であるが、優良農家などの優れた栽培技術をいかにして継承していくかという点は、今後の増産に向けてに大きく影響していくものと考えられる。
当事務所では、今後もこのような地域情報交換会を各地域で開催し、担い手の育成に寄与したいと考えている。