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最終更新日:2010年3月6日
平成21年度てん菜輸入品種検定試験等の現地調査について
てん菜の優良品種の開発や栽培技術改善を促進するため、平成21年7月2日(木)〜3日(金)、社団法人北海道てん菜協会主催により、平成21年度輸入品種検定試験のうちの生産力検定試験および輸入品種予備試験ならびに同時に実施している国内育成系統のてん菜系統適応性検定試験に対する現地調査が行われた。調査対象ほ場は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター(芽室町)、北海道立十勝農業試験場(芽室町)、日本甜菜製糖株式会社(帯広市豊西町)、北海道糖業株式会社(大樹町、本別町)、北海道立北見農業試験場(訓子府町)、ホクレン農業協同組合連合会(大空町女満別)の各試験ほ場で、行政、研究機関、てん菜糖業者など約20名が参加して行われた。
今回の検定試験の供試品種は、全部で24品種あり、検定品種(優良品種候補として検定を受ける品種)として、北海道農業研究センターが育成した北海系統3品種(北海98号、北海100号、北海101号)と糖業が導入した輸入品種9品種(H137、H139、H140、HT29、HT30、HT32、KWS8R83、KWS9K55、KWS9R38)の計12品種と標準品種(広く普及している品種)のモノホマレ、比較品種(優良品種候補の特性を明確にするための優良品種)3品種(かちまる、レミエル、クローナ)及び対照品種(優良品種候補が置き換わる対象となる優良品種)3品種(カブトマル、ユキヒノデ、アニマート)参考品種5品種のスタウト、リゾマックス、リッカ、ゆきまる、えとぴりかとなっている。
優良品種として認定されるまでには、予備試験の1年と品種検定試験の3年(現地検定試験と特性検定試験は品種検定試験のなかで同時並行に行う)の早くても4年という長い時間がかかる。
これらの試験は、優良品種として検定するための基本データとなるので、特に慎重に生育を観察する必要がある。今回の現地調査では、各品種の生育状態や栽培管理などの確認が専門家によって調査された。
今年は、4月下旬の降雪、低温のために、移植が1週間程度遅れたところが多く、5月下旬以降も、降雨量は多いが気温が低く生育への悪影響が懸念されたが、その後、生育の遅れは取り戻されつつあり、6月下旬にはほぼ平年並みとなり、現地調査の検討会においても特に大きな問題点は指摘されず、精度の高い試験が期待されている。(角田)
シンポジウム
「サトウキビの昨日・今日・明日―持続的生産に向けた技術の望ましい未来―」が開催される
九州沖縄農業研究センター、国際農林水産業研究センター、鹿児島県農業開発総合センター、アサヒビール株式会社により平成21年3月6日に発足し、さとうきびを中心とする食料・エネルギー生産のための技術開発の迅速・効果的な推進を目指すことを目的とした「サトウキビ等熱帯糖質資源作物の未来指向型技術開発研究フォーラム」主催の第1回のシンポジウムが、平成21年5月18日(月)に那覇市で開催された。
今回のシンポジウムは、「サトウキビの昨日・今日・明日―持続的生産に向けた技術の望ましい未来―」と題し、さとうきびの技術開発の歴史、南西諸島でさとうきびが果たしている役割とその現状、さとうきび品種改良の可能性、未来型の利用技術の紹介等を通して、南西諸島における現在と将来にわたる技術的課題を明らかにすると共に、その克服に向けて、技術開発の望ましい方向を展望する趣旨で行われた。
同シンポジウムの概要は、以下のとおりであった。
(基調講演)
国際農林水産業研究センター 熱帯育種素材管理担当 杉本明氏
「サトウキビ等熱帯糖質資源作物の生産・利用技術の現状と今後の方向」
さとうきびが、(1)北インドを起源地とするさとうきび野生種を起源とし、長い進化を経て現在に至ること(2)紀元前から医薬用と思われる数種の砂糖が作られ、やがて15世紀以降には世界商品となって広がったこと(3)日本には奈良時代に砂糖が伝わり、17世紀前半には琉球において黒糖製造技術の導入と共に本格的なさとうきび栽培が行われるようになったこと−など歴史的経緯を紹介した。
また、今後のさとうきびの技術開発の方向性として、高ショ糖含有率さとうきび生産からの脱却、高度な工業力を背景にしたさとうきび利用の大幅な拡大および、それに対応する省力型栽培(株出し栽培)が必要であると説明した。
本フォーラムでは、(1)台風・干ばつ・低肥沃度・病害虫への抵抗力向上と株出し栽培の安定を目指した品種開発と品種の能力を活用した不良環境適応性の高い軽労的・省力・節資源・低コストな環境保全型農業技術(2)さとうきび生産と畜産の連携に基づく地力改良効果の高い循環型農業技術(3)土地・機械・作物・労働力の高度利用を可能とする周年操業・多段階利用に向けた品種開発と生産・利用技術(4)新生産技術の社会的・経済的評価と総合的実行システムの構築−などについて特に強化に努めていくとし、南西諸島の経済発展の基盤となる技術と共に、「南西諸島から世界を!」の旗の下に地球規模での環境保全・食糧・エネルギー需給事情の緩和に貢献したいと訴えた。
杉本明氏の講演 |
(話題提供)
九州沖縄農業研究センター バイオマス・資源作物開発チーム主任研究員
樽本祐助氏
「南西諸島の農業においてサトウキビはどういう作物か」
さとうきびの生産が地域経済に与える影響は大きく、沖縄県におけるさとうきび生産の経済波及効果は4.3倍であること、さとうきびの生産費全体に占める労働費の割合は高く、生産コストの低減は進んでいない状況にあること、高齢化に伴う担い手の育成などが課題となっていることなどを説明し、今後の技術開発の方向性として、機械利用度の向上、作業委託料の低減、作業の分担化などを進めその解決を図ることが重要であることを挙げた。
樽本祐助氏 |
鹿児島県農業開発総合センター 園芸作物部 部長 永田茂穂氏
「鹿児島県におけるサトウキビ生産の現状・問題点と技術開発の方向」
平成初期以降収穫面積・生産量が減少傾向であり、単収についても、特に株出しにおいて減少している。その要因としてハーベスタの踏圧や株の引き抜き、ハリガネムシなどによる萌芽不良の影響が考えられると説明した。
また、機械化の現状については、植え付け機や株出し管理機の導入台数が不足していることや、ハーベスタ収穫におけるトラッシュ率の高さと収穫ロスの増加などの問題点を挙げた。
今後の技術開発については、生産性の高い優良品種の選定と育成や、省力、低コスト、生産安定のため、ハーベスタ収穫に対応した株出し管理技術や、栽培技術の開発に取り組むと説明した。
さらに、生産者の高齢化に向けて、現状の栽培面積や生産量を維持・拡大するためには、1戸当たりの栽培面積の拡大や生産法人などの大規模生産者を育成と機械化体系の改善が必要であると訴えた。
永田茂穂氏 |
沖縄県農業研究センター 作物班 班長 出花幸之介氏
「沖縄県におけるサトウキビ生産の現状・問題点と技術開発の方向」
さとうきびの育種は、南西諸島の島々で栽培条件が大きく異なっており、広域適応性で台風や干ばつの条件下でも安定して生産性の高い品種を育成する必要がある。このような背景の中、九州沖縄農業研究センター、沖縄県農業研究センター本所(作物班)・名護支所・宮古島支所・石垣支所、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場・大島支場、沖縄・鹿児島両県の製糖工場が中心に実施する15の現地試験地からなる育種ネットワークが組織
され、それらの試験地で行われている選抜試験と系統試験の流れを紹介した。
さとうきびの植え付け経費が栽培コストの1/3を占める現状から、今後の品種の開発は、株出し栽培を多数回行うことが栽培コストを低減するために最も有利で、早期高糖で株出し多収の品種育成が求められていると説明した。
また、さとうきびの総合利用のためのケーンセパレーション技術(器官分離総合利用方式:さとうきびの処理工程に始めに表皮、外皮部、柔組織部に分離し、各部分を別々の工程に送る新しい加工技術)を利用した新規用途製品の開発、多用なさとうきび関連食品の商品化によりさとうきび産業の裾野を広げ、砂糖やエタノールと共に観光産業と結びつけて、「沖縄のさとうきび・さとうきびの沖縄」の国民的ブランドイメージを醸成することを提唱した。
出花幸之介氏の情報提供 |
九州沖縄農業研究センター さとうきび育種ユニット長 寺内 方克氏
「サトウキビはどこまで改良できるだろうか
―砂糖生産、そして多用途化に向けた新しい特性をそなえるサトウキビの開発―」
今日さとうきびが砂糖製造以外にも様々な用途(繊維部分からの家畜飼料、搾汁液からのエタノール、アミノ酸などの発酵原料、バガスからの燃料、枯れ葉からのたい肥など)に活用されており、さとうきび栽培も多様化していることを紹介した。
例えば、飼料用サトウキビは、飼料としての生産力がきわめて高いだけでなく、牛の嗜好が良く、収穫時期を選ばず畑で保管できる大きなメリットを有する。
また、糖+エタノールや全量エタノール向けには、生産性を維持しながら糖含有率を改善した極多収糖質さとうきび品種を利用することにより、バガスはエタノール製造時のエネルギーとして活用され、エタノール製造過程における石油エネルギーの使用を最小限に抑えた製造が可能であるとした。
また、収穫時期についても、従来は冬期に限られてきたが、飼料用サトウキビでは既に年2回の収穫が始められている。
製糖用さとうきびにおいても、現行の早期高糖品種では、早ければ10月から十分な糖度を満たしており、早期収穫が可能であるという。
今日さとうきびは栽培期間の多様化や、飼料、関連食品製造、エネルギー分野などとの連携による限りない可能性に期待が寄せられている。今後は固定概念を捨て、さとうきびを見直す必要があると強調した。
寺内方克氏 |
トヨタ自動車 FP部バイオラボ・グループ長 西村哲氏
「ゲノム情報を活用したサトウキビの効率的育種技術の開発」
将来のさとうきびには従来の砂糖の需要に加え、燃料や樹脂原料の用途で大幅な需要拡大が見込まれており、育種による生産性、環境性における向上が必要となる。
そこで、今後有望視されている育種法として、従来表現型データに基づいて実施してきた交配設計・選抜に遺伝子型情報を追加するDNAマーカー育種を紹介した。
DNAマーカー育種は、従来の交雑育種と比較して、
(1) 形質選抜に要する期間の短縮と作業量の縮減(2)優良特性導入時に懸念される不良特性 導入の可能性低減(3)優良特性の複数同時導入が可能−
といった特徴を持ち、他の多くの作物で活用されていると説明し、今後の育種の質的向上と期間の大幅な短縮を可能にすると提唱した。
西村 哲氏 |
アサヒビール(株) 豊かさ創造研究所バイオエタノール技術開発部 部長 石田哲也氏
「高バイオマス量サトウキビを用いた砂糖とエタノール同時生産の意義について」
アサヒビール(株)では、2002年より九州沖縄農業研究センターと共同で、高バイオマス量サトウキビを用いた「砂糖+エタノール複合生産プロセス」の技術開発に取り組み、伊江島において、農林水産省、経済産業省(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))、環境省、内閣府4府省連携プロジェクトとして、パイロットプラント規模の実証試験を行っており、その概要を説明した。
さとうきびを原料とした従来のエタノール製造法には、
(1) さとうきびからエタノールのみを製造する方法(ブラジルなど)(2) 糖蜜(三番糖蜜) を原料にする方法−
の2種があり、前者ではさとうきびが安価(約2,000円/t)で、糖とエタノールが等価かつ安価、広大で国土でエタノール用に生産地域を新規に拡大できることなどが必要であるとし、後者では製造可能なエタノールが少なく排水処理が困難なことや、化石燃料の投入が必要となることなどを説明した。
日本において、エタノール製造を事業として成立させるためには、製糖用のさとうきび品種と比較し単収が約2倍、繊維分が約3倍程度の高バイオマス量サトウキビを用いれば、1回の結晶化で従来と同量の砂糖を確保でき、三番糖蜜を原料とした場合に比べ約7倍のエタノールが生産でき、化石燃料の投入を必要としないプロセスが理論上可能であることが明らかになったことを紹介した。
「砂糖+エタノールの複合生産」を実現させることで、南西諸島の食糧需給、エネルギー需給、地域経済に貢献していきたいと訴えた。
石田哲也氏 |
今回のシンポジウムは、製糖用さとうきびに係る現状や今後の課題に加え、さとうきびの多面的な利用を視野に入れ、さとうきびを通じて地域経済全体の維持・発展に結びつけることによって、さとうきびの持続的な生産を確保するといった将来展望を踏まえた提言が多く見られた。
さとうきびの多面的利用に関しては、一関係者の間でも様々な見解があると思われるが、さとうきび産業の発展という共通の目標に向かい、今後も活発な議論を展開して課題について検討していくべきであろう。
今後、本フォーラムが大きな役割を果たしてくれるものと期待したい。(緒方)
会場の様子 |