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最終更新日:2010年3月6日
第7回てん菜研究会の開催
平成21年7月24日(金)、札幌市の北農ビルにおいて、日本てん菜研究会の主催により、第7回てん菜研究会が道内の農業試験場、大学、糖業関係者など100名の参加の下、開催された。
図1 開会のあいさつを行う荒木陽一てん菜協会副会長 |
今回はてん菜研究会報第50号発行記念として、西尾敏彦氏(社団法人農林水産技術情報協会名誉会長)による「暖地てん菜栽培―研究回顧と展望―」および、玉田哲男氏(元岡山大学資源生物科学研究所)による「テンサイそう根病抵抗性品種と病原ウィルス(BNYVV)ゲノムの遺伝的多様性」と題した特別講演が行われた。
西尾氏は講演の中で、昭和29年暖地てん菜の栽培が民間の製糖会社の試作により始まり、昭和31年、農林省が「亜熱帯作物導入試験」の対象作物として暖地てん菜を採用し、鹿児島、宮崎、高知3県で試験研究が開始されたこと、その後、各地で栽培が開始され、昭和35年頃には最盛期(栽培面積2,000ヘクタール)を迎えたが、昭和38年砂糖の輸入自由化により栽培は衰退し始め、昭和40年鹿児島県・宮崎県がてん菜栽培の奨励を中止したことにより暖地てん菜は急速に終焉を迎えたことなどについて話され、まとめでは、暖地てん菜栽培試験研究の反省として、新しい試験研究の開始とほとんど同時並行的に一般的な試行ないし普及が未経験のままに、広範囲に強行されたこと、また、品種としてもきわめて低収なものが主体の上、不適地にまで無理な作付けをしたため、成績が上がらず、いっきに終焉を迎えることとなったことなどを回顧され講演を終えた。
続いて玉田氏は、てん菜そう根病がウィルスの感染によるものであり、北海道では昭和39年に確認され、昭和48年にウィルス病であることが証明されたこと。本病は近年世界中のてん菜栽培地域に急速に発生が拡大しており、てん菜栽培の最も重要な病害として注目されていること。そして、そう根病の病原ウィルス(BNYVV;ビートえそ性葉脈黄化ウィルス)は土壌中に長期間存在し、耕種的、化学的防除は困難であるため、そう根病を持ち込まない予防対策が重要であるが、汚染された地域における防除は、完全に抵抗性品種の栽培に依存している状況であること。しかしながら、最近、欧米では抵抗性品種を打破するウィルス系統が出現し、深刻な問題となっており、このような現状から、より強度の抵抗性品種を開発するためには、宿主由来の抵抗性遺伝子に加えて、病原菌由来の抵抗性遺伝子を加えた育種戦略が必要であることなどを述べ講演を終了した。
図2 玉田哲男氏の特別講演 |
また、この特別講演の前に行われた技術研究発表会(一般講演)では、
の8件の発表が行われた。
(角田)
第36回サトウキビ試験成績発表会が開催される
平成21年9月10日(木)、那覇市内において、「第36回サトウキビ試験成績発表会」(主催:沖縄蔗作研究協会)が開催された。沖縄県内外のさとうきびに関する研究者や関係者が一堂に会し、研究事例の発表と「先島地域における持続的高単収サトウキビ株出し生産体系の展開」をテーマにしたシンポジウムの2部で構成され、活発な討議が行われた。(同発表会の次第は別紙のとおり)
開会に先立ち、沖縄蔗作研究協会会長の村山盛一氏より、「平成19年産から市場原理を導入したさとうきび制度に関係機関が一体となって取り組んでいる。今後、制度がどうなろうと、いかにして生産量、単収を上げて収益の向上を図るかという目標に変わりはない。さとうきびの生産量を上げるには株出し管理が有効な手段のひとつ。また、島尻マージ地区では、土壌害虫問題などもあり、関係者一体となった取り組みがますます重要になってくる。」とのあいさつがあった。(図1)
図1 沖縄蔗作研究協会村山会長 |
次に、沖縄総合事務局農林水産部長の高柳充宏氏(根路銘総務調整官代読)より、「生産者を含めたすべての関係者の努力により、昨年度はさとうきび増産プロジェクトの年度目標84万トンを大きく上回る88万トンの生産量を達成したが、収穫面積の減少、春植え・株出しの普及の遅れなどの課題も多い。今後、干ばつ抵抗性や早期高糖性品種の開発、ハリガネムシなどの土壌害虫の防除技術の開発などの技術開発について試験研究機関に大きな期待が寄せられている。事務局として農家への周知、事業を速やかに実施することでさとうきび振興に取り組みたい。」とのあいさつがあった。
また、沖縄県農林水産部長の比嘉俊昭氏(赤嶺農業振興統括監代読)より、「さとうきび増産プロジェクトの取り組みや気象条件に恵まれたことにより、県内では3年連続のさとうきび増産となったが、これは糖業関係者が一丸となって努力してきた結果である。さとうきびの安定的な生産の確保には糖業関係者と生産農家との更なる良好関係が求められている。」とのあいさつがあった。
一般発表は、沖縄県内の各試験研究機関などによるさとうきびの栽培方法や育種などに係るさまざまな取り組みや試験成績など、一年間の研究成果の発表の場であり、今年は以下の14の発表が行われた。(図2)
(1)サトウキビ栽培における干ばつ影響評価のための土壌水分センサーの利用
(2)石炭灰加工品施用がサトウキビの収量・品質に及ぼす影響
(3)低収・高糖のさとうきびの原因探索とその改善
(4)南部地域におけるサトウキビ圃場を中心とした難防除雑草(ヤブガラシ)の防除技術の開発
(5)サトウキビ新品種「Ni27」の宮古における特性について
(6)大東島向けのサトウキビ新品種候補「RK96-6049」と「RK97-7020」の特性
(7)糖生産力が優れる高バイオマス量サトウキビ有望系統の開発
(8)プリンスベイト剤処理がサトウキビ株出収量に与える影響
(9)南大東島および久米島におけるFipronilベイト剤の施用効果について
(10)沖縄県下におけるわい化病の実態調査
(11)サトウキビわい化病における品種抵抗性評価の試み
(12)ケブカアカチャコガネの性フェロモンの開発
(13)品質評価NIRスペクトルデータの利用システムの構築に向けて
(14)NIRによる製糖プロセス管理に関する基礎的研究
図2 一般発表の様子 |
一般発表の後に、「先島地域における持続的高単収サトウキビ株出し生産体系の展開」をテーマに、これまで困難とされてきた先島地域における株出し栽培に向けた技術開発の状況、栽培環境からみた課題と対応などについて、関係者が共通認識を持ち、株出し栽培の着実な定着・拡大と単収向上を図るための討議が行われた。
初めに、沖縄県営農支援課広域技術班主幹の伊志嶺正人氏より「沖縄県の各地域における株出し栽培の現状」と題した基調講演が行われ、農家は単収をあげて、より多くの収穫量をあげることが大事。それには、株出し栽培が有効な手段である。株出しを継続するには補植が必要、また、収穫後のほ場管理も必要であるとの提言がなされた。次に、沖縄県農業研究センター病虫管理技術開発班の新垣則雄氏より「サトウキビ土壌害虫防除技術の現状と今後の課題」と題した基調講演が行われ、さとうきびの植え付け時におけるベイト剤の植溝土壌混和処理がハリガネムシの防除に効果的であり、さとうきびの不発芽防止や株出し不萌芽の回避に有効であるとの報告があった。
続いて、沖縄県農業研究センター宮古島支所宮城克浩班長より、宮古地域における増産には2年1作の夏植えから1年1作の株出し移行による収穫面積の拡大が有効であり、そのためには株出しの安定多収栽培技術の確立が必要であることの発表、沖縄県農業研究センター土壌環境班久場峰子班長より、土壌と肥料について、今後の取り組みとして品種特性を考慮した施肥、栽培管理の合理化に伴う施肥体系の再考、土壌改良指針への堆肥多投の組み入れなどが必要であることの発表、沖縄県農業研究センター研究企画班赤地徹班長より、機械収穫後の早期株出し管理が重要であること及び今後重要視されるであろう補植機や株割防除機の開発、などについての発表が行われた。(図3)
図3 シンポジウムの様子 |
最後に総合討議の場において、品種特性など解明しなければならない問題も残っているが、株出し移行に向けた基本技術は整いつつあるので、栽培管理の徹底や適正品種の選定が重要であるとの意見が出されるなど、活発な討議が行われた。(図4)
図4 会場の様子 |
今回のシンポジウムで紹介された事例、課題、提言などが出席した糖業関係者の共通認識となり、今後のさとうきび生産の改善に関する取り組みに活かされることを期待したい。