ホーム > 砂糖 > 機構から > 第7回さとうきび・甘蔗糖関係検討会の結果について
最終更新日:2010年3月6日
1.はじめに
当機構は、平成19年10月23、24日に鹿児島県において、第7回さとうきび・甘蔗糖関係検討会を開催した。
前回、「今後の検討会のあり方」をテーマに意見交換したところ、さとうきび増産プロジェクトが実践段階に入り、また今年10月よりさとうきびについて新たな品目別経営安定対策がスタートし、担い手育成への取組や高品質のさとうきびの生産がより一層重要となることから、生産現場において、両県の生産者をはじめ地域で増産・担い手育成を担っている方々の出席を得ての開催が検討された。
前回の検討を踏まえ、今回は鹿児島市内だけでなく、さとうきび生産に関して様々な取組を実行している種子島においても開催することとした。
その概要を以下のとおり報告する。また、検討会での説明・発表の内容については、各地域での取組の参考として活かしていただくため、本誌今月号の「今月の視点」での鹿児島県からの報告をはじめ、順次掲載していく予定である。
検討会第1部の様子 (23日、鹿児島県農業共済会館) |
研究施設の視察 (23日、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター) |
試験ほ場の視察 (23日、鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場) |
2.さとうきび増産に向けて
増産のためには、栽培面積、単収等の増加や、機械化一貫体系の確立、地力の増進の他、病害虫の防除、積極的な灌水、株出し管理も必要である。
(1)ハリガネムシ防除のための新技術(沖縄県農業研究センターの新垣主任研究員からの報告)
沖縄県南大東島でおこなった、ベイト剤やフェロモンチューブによる交信かく乱法による、ハリガネムシ防除の成果がある。
ハリガネムシは土の中深くに潜み、さとうきびの根を食い荒らすため、植付けた苗から発芽しない、株出しができない、など栽培の妨げとなる病害虫である。従来の方法では植付け時に農薬の粒剤を用いていたが、防除の決め手とはならなかった。
そのため、まず幼虫の防除としてベイト剤が用いられた。植付け時にベイト剤をほ場の土壌に混和させることにより、ベイト剤に幼虫が誘引され、殺虫されるというものである。実験ではさとうきび収穫後の株出し不萌芽数が減ったばかりでなく、分げつ茎数の増加、生長促進といった副次的な効果も確認された。
成虫の防除として、交信かく乱方法が用いられた。これはハリガネムシの性ホルモンをチューブに詰め、そのチューブをほ場に設置する。そうすることによってハリガネムシは交尾することなく死んでしまう。これにより、交尾率、卵の孵化率が減り、ハリガネムシが減少していくというものである。2001年から2007年にかけて行われ、大きな成功を収めた。
(2)積極的な灌水による増産(当機構の仁科那覇事務所長からの報告)
南大東島では、ほ場の規模拡大が進み、機械化一貫体系が確立されているが、生産性は低い状況にある。
灌水をしているほ場と島平均と比べてみると、単収では約1.8倍、10a当たりの収入では約1.9倍となっている。また、灌水のための資材類の購入を加算した上で、収益を比較してみると、約8.6倍の差が出ることが試算されている。このようにさとうきび増産が農家の収入増になり、そのためには灌水は有効な手段のひとつであることがわかる。
(3) 株出し管理のポイント(鹿児島県農業開発総合センターの藤田主任研究員からの報告)
種子島熊毛地域では株出しが栽培面積の7割を占めるため、収穫時期別に株出し管理時期の検討を行ったところ、株出し管理時期が生育や収量に及ぼす影響が明らかになった。
1〜3月収穫では収穫から1カ月以内に株出し管理を行うと萌芽や初期生育が良好で、原料茎数が安定して多く確保できる。株出し管理時期別の原料茎重は、収穫直後管理と1カ月後管理ではあまり差がみられないが、2カ月後に株出し管理を行うと、1〜4割減収することが分かった。しかし、株出し管理の時期によるブリックス・蔗汁品質には、差が見られない。このことから、1カ月以内に株出し管理を行うことが、株出し栽培の安定多収につながることが分かる。
3.担い手育成に向けた取組
今年10月より新制度が始まり、担い手を早急に育成することが必要となった。地域で担い手育成に取組んでいる方からの報告をはじめ、生産者同士の意見交換等を行った。
(1)中種子における担い手育成の取組(種子島農業支援センターの石堂事務局長からの報告)
担い手育成を各機関が個々に行うことは(1)担い手育成の取組の見解・方策の情報が農家に伝わりにくい、(2)それぞれの機関の情報の共有化が難しい、(3)地域全体としての支援方策の展開が難しい、といった問題が予想されることから、地域の関係機関が一体となり、地域総ぐるみで行うことがより確実で、より効果的であると考え、地域の関係機関が一体となった種子島農業支援センターを設立した。
同センターでは、認定農業者の確保・育成のため、認定農業者のフォローアップ活動などを行っている。また、集落営農の組織化・法人化に向けて、研修会、地域リーダーの育成などを行っている。
(2)生産者間での意見交換
鹿児島、沖縄両県の生産者からは、単収アップのための、土作り、肥培管理など具体的な活動の発表があった。
意見交換では、共同利用組織などの組織化については、「経理の一元化が困難」、農作業の受委託については、「これまでできなかった堆肥散布や深耕などを委託することによって、単収が上がることが期待できる。前向きな気持ちも必要」、また、「「きびづくりは日本や地球のためになっているので頑張って」と関係機関が訴えれば、農家は頑張れると思う」などといった意見もあった。
また、鹿児島大学農学部の秋山教授からは、「現在はハーベスタなどの機械利用を核として生産者組合、利用組合が作られている。今後は地域としてまとまった機能集団に作り変えないといけないと思う。そして、公的機関の支援により機械を導入し、共同利用をする。支援を受けた以上、説明責任が求められるので、きちんと会計簿をつけ、公表する必要がある。それらは努力して身につけるしかない。また、集落営農の法人化については、農事組合法人の他、株式会社という選択肢があることも覚えておくべき」といったアドバイスも出された。
検討会第2部の様子 (24日、中種子町公民館) |
ほ場の視察 (24日、中種子町) |
精脱葉施設の視察 (24日、種子島農業公社) |
4.トラッシュ率低下・耕畜連携に向けた取組
トラッシュ率低下・耕畜連携についての新光糖業株式会社の林農務部次長からの報告は次のとおり。種子島ではトラッシュ率については、品質取引開始時には5.13%であったが、直近では3%前後である。それには農家のトラッシュ率の対する意識改革がある。「さとうきびは商品である」という認識・理解が農家から得られたことである。また、農家との信頼関係の構築、ハーベスタのオペレーターの競争的な取組(トラッシュ率順位表の作成)などの導入も、農家がトラッシュ低減に向け成功した要因でもある。
また、さとうきびと畜産の耕畜連携については、さとうきびの梢頭部・葉を畜産へ、畜産の堆肥をほ場へ還元する取組みを行ってきた。さとうきびの葉をサイロ化して保存する技術の普及が課題であるが、梢頭部は畜産には欠くことのできない飼料となっており、耕畜連携でさとうきび増産と高品質牛生産の取組を続けていくこととしている。
5.砂糖の国際情勢
当機構長谷川国際情報審査役から、世界の砂糖需給、各国の段階別砂糖価格の比較、WTO農業交渉やEPA・FTAをめぐる状況などの説明を行った。出席者は、わが国の砂糖を取り巻く国際情勢について関心が強かった。今後、機構としても多様なニーズに応え、手持ちの情報を提供していくことの重要性を再認識した。
6.まとめ
過去6回の検討会を開催してきたが、鹿児島・沖縄両県の生産者が参加したのは初めての試みである。また、行政、研究者の生産者の積極的な意見等を聞く機会は少ないと思われる。
さとうきび増産や担い手育成といった課題は、生産者の自主的な取組をどう促していくかが、品目別経営安定対策の特例措置期限を3年後に控え、最重要課題とされる。
当検討会では、生産者が自らの取組や自らが抱える問題を提示し、生産者同士で議論を行ったが、このことは、生産者の自主的な取組を活性化する上で有益であったと考える。
最後になりましたが、開催に当たって、鹿児島・沖縄両県、鹿児島県熊毛支庁、中種子町、JA種子屋久、新光糖業株式会社、鹿児島県農業開発総合センター、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター他関係者の多大なご協力をいただきましたことに感謝いたします。
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