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てん菜の種子生産(採種栽培)の現状(1)

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最終更新日:2010年3月6日

砂糖類ホームページ/国内情報

生産地から
[2005年6月]

(財)甘味資源振興会 札幌事務所長 永田 伸彦


まえがき
 てん菜は2年生作物といって、種子が生産されるためには2年かかる。一般に1年目に根部が肥大して養分を蓄積し、この根部が砂糖原料となる。この1年目は栄養成長期と呼ばれる。この根部の成長点(茎部あるいはクラウンと呼ぶ部分)を残して収穫し(この茎部のついた根部を採種用母根という)、冬期間の低温のもとで貯蔵され、生殖成長に転換された母根を翌春定植すると、その後の長日反応によって花芽が分化する。つまり2年目に抽苔・開花・結実する。
 根部肥大期つまり栄養蓄積期が短くても、幼苗に低温を与えた後、長日条件で育てれば採種は可能である。また母根の大きさにより種子生産量があまり変わらないので、1年目の栽培面積を節約し採種用母根として、小母根(これをステックリングと呼ぶ)を養成し、採種畑に5〜7倍に拡大移植する(移植方式)方法や、採種用母根は密植で栽培して小さい母根を育て、それを採種畑にそのままおいて採種する(直播方式)方法がある。
 北海道では、北海道農業研究センター(以下北農研という。)育成の国内育成品種とヨ−ロッパから導入された輸入品種が栽培されている。これらの種子はすべてハイブリッド(一代雑種)種子のため父親(花粉親)と母親(採種親)の交配で生産される。これらの花粉親、種子親の種子を原種、またこれらの原種を増殖するための種子を原原種という。
 写真では比較のために品種「モノヒカリ」の茎部(クラウン)はつけてあるが、このような一代雑種品種の母根から採種すると、両親の遺伝子が分離発現するので種をつけないものや、採種できても形質が雑ぱくなものしか得られないので、一代雑種品種からは採種しない。

モノヒカリの親子関係

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1.てん菜国内育成品種の原原種、原種採種およびてん菜国内育種研究のための系統や育成品種の増殖を目的の採種
 (1年目に母根養成を行い2年目に定植する移植栽培法)

(1) 品種開発材料の採種栽培
(1)母根養成
 砂糖原料用の栽培法とほぼ同じであるが、規模は小さく、かつ系統の種類が多いので材料が混合することを避けるため、人手による作業が多い。
 原原種、原種の母根養成は一般原料のてん菜生産力検定試験と同じ栽培法で養成され、収穫された母根は個体別に根重、糖分の調査により劣るものは淘汰される。育成系統の増殖は密植栽培して収穫後、貯蔵される。
(2)採種栽培
 育成された系統は、花粉をつけない系統(雄性不稔系統)と本来保有する形質である花粉を飛ばす系統に大別される。てん菜は風媒花なので、目的以外の系統と交雑しないように花粉親系統ごとに隔離し、1か所の隔離圃場では花粉親1系統のみしか使用できないが、種子親は多くの系統を栽植できる。

研究用種々の系統別母根

系統別に仕分けられた母根

冬期貯蔵後の母根

表1 隔離花粉親の飛散距離;てん菜(北農会1976)




 表1のように1,080m離れていても10a当たり花粉数は787個が飛来するという。従って交配する恐れのある家畜ビ−ト、フダンソウやほかのてん菜品種の採種畑から1,000m以上距離を置いて設置しなければならない。一応平地では安全を見込んで2km隔離することを心がけている。
 株同士が混合しないように、系統別に畦を分けて植え付ける。1系統のみ花粉親で、残りはすべて種子親雄性不稔系統(花粉を出さない系統)を植えるため、この種子親から採種すれば一つの花粉親からのみ受精することになり、すべて目的の親同士が交配されたハイブリッド種子が得られる。また花粉親の原種のみ増殖する場合は、1隔離圃場について花粉親1系統だけで栽培される。
 母根は垂直に植え、土でやっと隠れるように覆土し、周囲は土が密着して乾かないように踏み固める。この鎮圧が十分に行われないと乾いて活着が遅れることになる。
 各畦に定植する種子親♀と花粉親♂との比率は北農研や、甘味資源振興会は4畦:1畦としている。大規模採種では、風向きとか種子親と花粉親の花粉量、開花時期のずれなど考慮し、あるいは管理上の便利性を考えてこの比率は3畦:1畦とか5畦:1畦、欧州では6畦:2畦、あるいは6畦♀:空畦2畦:2畦♂、米国では大型機械が作業しやすいように12畦:4畦などで実施している。



畦ごとに系統別に区分して母根を配置する
   
定植作業 周囲を踏み固める作業
   
 
出芽後の状況  

種子親単胚雄性不稔系統 花粉親多胚系統

 葯が退化して花粉を作らないという遺伝子を組み入れた系統を雄性不稔系統と呼ばれる。花粉親としては、てん菜本来の形質である花粉を出す多胚系統を用いる。この花は一か所の葉腋に多くの花をつけ、結実すると花托が結合して一つの種子(種球)となる。これは1粒播くと数個の芽がでるので間引き作業が必要であり、品種にするには間引きの要らない単胚系統にすることが条件で、普及用種子として種子親雄性不稔の花から採種すると、花粉親との交配種子ハイブリッド単胚種子が得られることになる。

単胚雄性不稔種子親系統×多胚花粉親系統

単胚ハイブリッド品種(種子親のみから採種して単胚種子を得る)


収穫前の原種採種圃場の状況
左の畦は花粉親。

 てん菜の花茎は主茎のはっきりした直立型や側枝が多い複枝型がある。生育後期には程度の差はあるが倒伏しやすいので、研究用系統採種や原原種などは枝が絡まないように、また蒸れないように手間をかけて支柱を立てる。

<刈取り後の隔離圃場における日干し乾燥>

ニオ積み隔離圃場

 収穫適期は子実別にみると中心が飴色になった時といわれる。しかし株全体で見ると、てん菜は無限花序のためすべてが同時に完熟するのでなく、茎の下から順次開花・結実する。また完熟すると脱粒しやすくなるので通常は3分の2が熟した時期を適期(開花期から40〜50日)とする。
 収穫が早いと未熟種子が多く発芽率が低いし、貯蔵による発芽率低下が早い。逆に遅いと脱粒が激しく収量が少ないが、熟度の進んだ種子が多く得られ、発芽率は良好で、温湿度を調整した種子貯蔵庫では長期保存が効く。ただし常温下では種子寿命は短い。

表2 収穫時期と種子発芽率(てん菜試験成績:北農試1991)

 収穫は系統ごとに混合しないように刈り取ってニオ積みにして日干し乾燥を行う。条件が良ければ水分11%くらいまで乾燥できる。その後脱穀前に隔離圃場から各系統を網袋に入れて搬入し、乾燥棚でさらに日干し乾燥を継続する。

乾燥棚での乾燥風景 乾燥した種子茎

隔離圃場から搬入してきた種子茎はある程度乾燥していても室内に放置すると吸湿するので、脱穀前にさらに日干 し乾燥を続ける。

<乾燥機による調整>
簡易乾燥機 通風乾燥機

 乾燥状態が脱穀に不十分な場合は脱穀前に人工乾燥する。また脱穀精選した粗選種子も種子が吸湿していると不具合が生じるので、研磨処理など精選作業には通風乾燥機を用いてさらに乾燥する。

<脱穀、精選作業(唐箕精選、研磨後再唐箕選、比重選など)>
 一般に精選には下記のように多くの作業工程がある。

 種子茎乾燥→脱穀→篩による夾雑物除去→空胚、風選による未熟胚の除去→粗種子・乾燥→研磨→風選、比重選→発芽試験→比重選など再精選

脱穀作業 唐箕による風選 研磨種子
乾燥した種子茎を脱穀し、篩で夾雑物を除き、唐箕などを用いて風選により空胚、未熟胚を除去、研磨して種子のとがった部分を削りとり丸味をつける。

<単胚種子(雄性不稔種子親系統、品種などの種子の形状)>
単胚種子(種子親系統) 多胚種子(花粉親系統)
 単胚種子と呼ばれるものは扁形で中に真性種子を一個含んでいる。多胚種子は球形に近く、中に真性種子を数個含んでいる。

<発芽試験>
置床 発芽調査 発芽試験器

 発芽試験簡便法:ひだ濾紙〔(東洋濾紙NO.1(90cm×90cm)を四つ切り15cm×60cmを十の山のひだ折り〕に5粒ずつ10列計50粒を入れ、一般に1系統について6反復を準備し、1濾紙について15ccの水を加え発芽試験器(25℃定温、)に入れる。3、7、10日目の発芽率を調査する。3日目の発芽率を発芽勢という。

多胚種子の発芽 単胚種子の発芽

 種子の品質評価の中では特に発芽率、単胚率が重要である。発芽率は採種条件の影響が大きく、一般に開花期から収穫期まで雨量が少ないと発芽率は高い。発芽率の低下度合いをみると、比較的乾燥条件で経過する北海道の室温貯蔵(比較的低湿場所で温湿度は成行)でも3〜5年間は初期の発芽率を保つが以後急激に落ちる。早期収穫の種子の劣化は高く、適期収穫の種子の劣化はこれに比べて低い。温度2℃、湿度40%以下の貯蔵では30年以上経っても発芽率は落ちない。
 単胚系統といっても、完全な単胚種子のみを生産するとは限らない。枝の先端部分に2胚種子が比較的多く見られるし、遺伝的に2胚種子の多い系統もある。

採種栽培法

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