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「畑作地帯におけるてん菜栽培の位置づけ」〜オホーツク網走第21営農集団利用組合を訪ねて〜
最終更新日:2010年3月6日
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生産地から
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[2005年9月]
札幌事務所次長 |
廣垣 幸宏 |
調査情報部審査役 |
田村 正宏 |
調査情報部調査情報第3課 |
平石 康久 |
はじめに
今後の政策推進の指針となる新たな「食料・農業・農村基本計画」が3月25日に閣議決定された。この基本計画の見直しの一環として、担い手の経営に着目した経営安定対策(品目横断的政策を19年産より導入する方向)への転換や、担い手への農地の利用集積の促進に取り組むことなどが示されている。また、一方、WTOやFTAへの対応も迫られている。
このような状況の中で、てん菜、ばれいしょ、麦類を中心に機械化された大規模な畑作農業を展開する網走支庁管内の斜網地域のオホーツク網走農業協同組合の営農集団利用組合(以下営農集団)の中から、大型機械の利用及び農作業を含めて共同化することにより、省力機械化栽培体系を確立し、単位面積当たりの労働時間の軽減及び土地生産性の向上がなされ、主力の後継者の平均年齢が20代後半で、とりわけ元気な営農集団の現状と今後について紹介する。
1.網走支庁と斜網地域の地域概要
網走支庁管内は、北海道の北東部にあって、オホーツク海と海岸線で接しており、総面積は10,690km2で、全道面積の12.8%を占め、新潟県に匹敵する。冬の寒さは厳しいが、比較的穏やかで、年間平均降水量も800ミリ前後と少ない。このような条件から、管内では、耕地面積で全道の14.4%を占める土地資源を背景に、作付面積、収量が道内の過半数を占めるたまねぎや、てん菜、ばれいしょ、麦類を中心とした畑作と酪農を主体とした大規模な土地利用型農業が展開されている。また、管内は、気象、土地条件により、斜網・北見・東紋・西紋に類別され、それぞれ特色のある農業が展開されている。
今回取材した営農集団のある斜網地域は、オホーツク海に面して、知床半島の勇姿を景観できる網走国定公園を擁する地域である。積算温度は、2,800〜2,900度、耕種期間平均気温が15.9度、耕種期間200日、雨量768.5ミリメートルと各作物の栽培が可能で、ほとんどが平坦な段丘であり、てん菜、ばれしょ、麦類を中心に機械化された大規模な畑作農業が展開されている。この地域の特色は、管内畑作作物の8割弱を生産し、1戸当りの生産農業所得は、1千万円を超え、10a当りの生産農業所得も高いところである。
表1 北海道に占める網走支庁管内農業の割合(平成16年)
資料:農林水産省「農業構造動態調査」「耕地面積調査」「作物統計」
注):生乳生産量・農業産出額は平成15年。その他は平成16年の数値。
表2 地域別農業の特色〜各農業統計数値
資料 :農林水産省「農業センサス」「耕地面積調査」「生産農業所得統計」
注1):農家戸数は「2000年農業センサス」の数値、1戸当たり耕地面積(平成16年)は上記の資料より算出。農業
産出額、1戸当たり生産農家所得及び10a当たり生産農業所得は「生産農業統計」(ただし、地域別の農業
産出額には、網走支庁農務課による推計を一部含む。)
注2):農業産出額(平成15年)のうち、「うち畑作」は麦類・豆類・ばれいしょ・てん菜など。「うち酪農」は生乳
及び乳用牛。「うち野菜」はたまねぎ・スイートコーン・かぼちゃ・にんじんなど。
注3):ラウンドの関係で、網走支庁と各地域の合計は必ずしも一致しない。
図1 オホーツク地域の地図
2.オホーツク網走第21営農集団利用組合の概要
(1)営農集団組織化の経緯
この営農集団は、昭和38年からの第一次農業構造改善事業の導入を機に、昭和41年に設立された。当初は5戸(現在は、7戸で、1戸当り2人が加入)で大型機械の共同利用のみを目的としていたが、昭和43〜44年頃より、関係機関の指導のもと、機械の共同化はもとより、農作業を含めた共同化を実現した。共同化の実現にあたっては大変な苦労があった。この営農集団の当初からの理念として、自分の土地で生産されたものは全て自分の収益となるようにしているため、お互いに最適な作業適期に機械を利用できないとすると、農家間でトラブルが生じることが考えられる。その問題を解決するために、組合では、文書化はしていないが、幾つかの約束事を取り決めている。
(2)営農集団運営に当たっての取り決め
(1)経営規模の平準化
営農集団内の農家間の経営規模の格差を平準化するようにした。営農集団の設立当初は、集団内でも規模の格差があり、このことにより、同じ時間作業しても収入に差が生じ、トラブルの原因となりかねなかった。このため、離職者や後継者がいない農家から農地がでた場合は、規模の小さい農家から優先的に購入できることとした。これにより営農集団内では、平均30ha(27.28ha〜32.3ha)まで規模が平準化した。
(2)機械はみんなで所有、個人で所有しない
次に気をつけたことは、機械は個人で所有しないことである。過剰投資を防ぐため、生産にかかる機械は個々の農家で持たないよう申し合わせた。現在は、全ての機械、施設、作物の播種、移植、収穫等を料金制にして、別表の営農集団利用組合機構図のように、各農家2人で各分野の仕事を受け持ち管理・運営している。この営農集団では、機械の共同化を円滑に進めるにあたり、それぞれの作業について個人に担当させる専任化を採用したことにより、経営効率のアップも図ることができた。
例えば、専任で従事することによって、収穫期に自分の収穫のみ作業(例:30ha)するのではなく、グループ全体を対象に作業する(例:210ha)ことによって、収穫作業や作業機械の取扱いに精通することができる。さらに、専属のオペレーターがノウハウを持つことにより、仲間に教えることもできるため、技術の移転も容易になる。また、新しい機械を導入するごとに、機械にあわせて最適な栽培方法(播種、畦幅、管理)に変えていかなければならないが、オペレーターが機械に精通していれば効率的に行うことができる。現在では、他の地域から機械の指導要請も受けるようにもなっている。その上、機械を共同利用することは経費節減になる。
例えば、単純に、30ha規模の農家では、80〜90馬力のトラクターが2台〜3台最低必要であるが、この集団は7戸であるので7台〜8台でたりる。その他の作業機械も同じように効率化が図られ経費節減になる。その他、種、肥料などの生産資材は、集団で一括購入するので、個別経営よりコストも安く、無駄がなくてすむようである。
写真1:大型のハーベスター
図2 営農集団利用組合機構図
3.営農集団の生産性向上に関する取り組み
(1) ほ場の地力対策について
この営農集団が、以前から力を入れていることはほ場の地力の向上であり、地力対策を30年以上行なっている。きっかけは、当時の道立試験場等の指導を受け、輪作体系を4年輪作から3年輪作に変えた時期であり、輪作体系を変える条件として、ほ場の地力向上を図ることがあったことである。最初は、後作緑肥導入からはじめ、次に国の事業でたい肥場(たい肥盤)を作る事業を活用し、自前のたい肥場を整備した。現在では、集団の地力維持の考え方として、単年度当り生産額の5%を地力に還元することを基本としている。
例えば、3,000万円の生産額があれば150万円はたい肥を作ることに投資している。この営農集団のある南部地区は、各集団がたい肥場を集団で持っており、三年に一度は必ず、たい肥(麦桿との交換により手に入れた牛のふん尿やでんぷん工場の廃棄物を利用したたい肥)を3トン/10a入れるようにしている。
また、秋まき小麦、春まきビール大麦の後作緑肥は、エン麦(ニューオーツ等)を作付し、2トン/10aを10月までにすき込むことをこころがけている。
この結果、かつて火山性灰土であまり肥沃でなかった土地であったが、近隣の肥沃であった地域に比べても遜色ないレベルに達することができた。
(2) 栽培品目の変遷と輪作の組み合わせ
(1)基本は3年輪作
当初は、薬草、ハッカ、豆類等を栽培していたが、機械化を有効に進め、昭和47〜48年頃には、てん菜、ばれいしょ、麦類、豆類に一旦集約し、4年輪作を行っていた。しかし、豆類は、豊凶の差が激しかったので、当時の道立試験場等の指導のもと、「(1)3年輪作のローテーションを必ず守ること。(2)常にたい肥、後作緑肥を投入するなどして地力維持に努めること、(3)畑の防除に努めること」の条件で、3年輪作を始め、現在は、てん菜→ばれいしょ→麦(秋まき小麦、春まきビール大麦、後作緑肥)の3年輪作を行っている。また、輪作作物の中で、ばれいしょの面積が相対的に少ないため、だいこん等の野菜を作付けしている。
(2)だいこん等野菜を作付け
農家の所得向上を図る対策として平成に入り、各営農集団は必ず野菜を1品目導入するという試みがとられ、各営農集団で野菜の導入が行われた。初めは、だいこん、ながいも、ごぼう、たまねぎ、かぼちゃ、にんじんなどが各営農集団で導入されたが、2〜3年後には各営農集団合単位1〜2品目に絞られた。その当時、この営農集団は、野菜の選定については苦労したようである。最初はごぼうを導入したが、価格は良くないうえ、ごぼうの収穫時期の9月は、主力のばれいしょと収穫時期が重なり、10月はてん菜の収穫と重なったため、収穫時期が重ならないながいもに転換した。それでも一部余裕のある時期があったため、平成8年よりだいこんを導入し、現在では21haほど作付けしている。ここ2〜3年は、ながいもの価格が良くないうえに、手間がかかるのであまり儲からないという農家の話であるが、作付けは続ける予定である。
(3)てん菜の生産実績について
この営農集団の収量については、ここ5年間オホーツク網走農業協同組合内及び南部地区の平均を上回っており、上昇傾向にある。糖分については、平均的であるが、各農家の収量及び糖分が集団内で平準化していることは優秀であると思われる。
(3) その他
(1)収益性
この営農集団は、生産者からの聞き取りによれば、他の営農集団と比べて特に収入が多いわけではないが(中程度)、1戸(1〜3人)あたりの粗収益は、4,200万円程度であり、その内訳については、てん菜、麦類でそれぞれ1,000万円程度、ばれいしょで800〜900万円程度、野菜はバラツキがあり、700万円台のときもあれば1,500万円程度になるということであった。その他、ビート育苗プラントについては、この営農集団以外の農家分の委託を受けることや、また他の営農集団での機械作業なども請け負うことによる収入もある。
(2)労働時間
労働時間は、主要3品目の場合、男性で年間1,500〜1,800時間、女性で700〜800時間である。ばれいしょとビートなどの春作業期と野菜の作業期の一部に学生のアルバイトを活用している。
表3 平成17年の作付面積
表4 てん菜の生産実績(平成12〜平成16年)
図3 てん菜収量と糖分の推移
5.今後の見通し
現在の経営体制ではさらに他の品目を導入するのは不可能であると聞いた。その理由の一つは、てん菜、でんぷんについては工場が、小麦についてはカントリーエレベーターが存在しており、設備の上からその3品目を作らなくなるとは思えないからである。
その上、収益の面で言っても3品目は安定した収益の柱であり、その中でも特にてん菜は災害に強く、価格も安定しているため一番重要な作物である。(対照的にばれいしょは防除の失敗、台風などにより収量が激減する)。この営農集団が、畑作物の作付けを決定する際も、まず農協からの割当面積を元に、てん菜の作付けを優先的に決定し、次に他の品目の作付けを考えているとのことであった。
また、後から導入した野菜については、どちらかというと余剰労力の活用(経営委譲により余裕ができた親世代の労力を有効利用するための品目導入)が目的であり、価格のよい時と悪いときが極端であるため、極論すれば+αを期待する作物である。
現在農業に従事している中で感じていることを農家に尋ねたところ、
1 農家の生産意欲を支えるような政策に期待していること
2 隣の農家との競争から集団間での競争、地域間の競争を経て技術が向上してきたと感じており、農家にも競争が必要である
とのコメントをもらった。
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写真2:営農集団利用組合裏のてん菜のほ場 |
写真3:営農集団利用組合の方々 |