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てん菜生産の現状と今後のコスト低減に向けて〜北海道虻田郡留寿都村の事例から〜
最終更新日:2010年3月6日
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生産地から
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[2006年10月]
1 地域の概要
北海道虻田郡留寿都村は、札幌市から南西に80kmの距離に位置し、羊蹄山の南山麓、海抜250〜500mにある。農耕地は、広大な丘陵地帯に広がり、緩やかな傾斜地となっている。土壌は火山性土壌が多く透排水性の良いほ場が多い。
気候は内陸型であるが、高地のため夏は涼しく、冬季は北西季節風の影響で降雪量が多く豪雪地帯となっている。初霜は10月上旬、積雪は11月下旬、融雪は4月下旬となり、無霜期間が約4カ月半と短い。春夏はおおむね晴天が多く、昼夜の温度差をいかし良質な農作物を生産している。
留寿都村の耕地面積は2,610ha、大半が畑地で、そのうち568haが牧草地である。ばれいしょ、てん菜、小豆を基幹に、野菜のだいこん、スィートコーン、ながいもなどを取り入れた「畑作+露地野菜」経営が多数を占める。中でもばれいしょ、てん菜、だいこんは経営の主要品目になっている。
農家は専業農家が多く、平均経営面積は20haに近く、経営規模は大きい。農家1戸当たりの農業所得は10,000千円に近く、農業所得は北海道内でも上位にある(表1、表2)。
表1 留寿都村の農家戸数及び耕地面積(H16年) |
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表2 留寿都村の作付状況(H17年) |
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今回事例紹介する武岡光男氏は、留寿都村の平均より経営面積は小さいが、土づくりや基本技術を励行することで安定的に生産を行っている。
2 経営の概要
・武岡氏の経営面積は留寿都村の平均よりやや小さいが、「畑作+露地野菜」部門に肉牛経営が入り、安定的な経営を進めている。
・主要作物は、ばれいしょ、だいこん、てん菜で、経営上重要な位置にある。
・基本管理技術を確実に励行することで、収量性を高めている。各作物の収量性は留寿都村平均より高い。
・作物の安定生産を進める上で、(1)輪作、(2)土づくりをポイントにしている。
・機械の有効活用を図るために、てん菜の収穫受託作業(14ha)を行っている。
(表3、4、5、図1参照)
表3 家族及び農業従事者 |
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表4 作付面積と収穫 |
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図1 作付比率 |
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羊蹄山麓に広がるてん菜ほ場 |
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表5 てん菜関係農業機械所有状況 |
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3 てん菜の生産実績
てん菜の生産実績は、表6のとおり。
4 輪作と土づくり
(1) 輪作体系
・てん菜、小豆、ばれいしょ、だいこんに、かぼちゃ・コーン類を合わせた4〜5年輪作をとっている(図2)。
・だいこんの前作または後作に緑肥(エン麦野生種)を作付している(だいこん作付の約70%)。
・コーン類と緑肥(エン麦野生種)を作付けることで、イネ科作物が必ず輪作に入るよう体系化している。
(2) 堆肥の施用
・てん菜の作付前年秋に、飼養している肉用牛の堆肥を10a当たり3〜4t施用する。
・堆肥は、2年間たい積したものを使用する。その間に腐熟促進のためバックホーを使用し、5〜6回の切り返しを行い、完熟させる。
・堆肥の敷料及び水分調整材は、小豆殻や近隣の水稲農家より譲り受けた籾殻を使用する。
(3) 緑肥栽培
・エン麦野生種をだいこんの前作、または後作に栽培する。だいこんの約70%の面積に導入することで、キタネグサレセンチュウの抑制と翌年のてん菜ほ場の地力増進を図っている(図3)。
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図3 エン麦野生種によるネグサレセンチュウの低減効果(平成17年、普及センター) |
・エン麦野生種の栽培は、だいこんの後作になる場合は、効果を最大限にあらわすためにできるだけ生育量を確保するようにししている。
・後志農業改良普及センターの調査から、エン麦野生種などの緑肥を鋤込むことで、だいこんやばれいしょの重要土壌病害バーティシリウム菌を抑制することがわかってきた(図4、5)。
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図4 緑肥によるバーティシリウム微小菌核の低減効果
(平成16年、普及センター)
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図5 緑肥によるバーティシリウム微小菌核の低減推移
(平成16〜17年、普及センター) |
(4) 土壌分析
・定期的に土壌分析を行い、ほ場の適正管理に努めている。
・てん菜の生育やばれいしょの土壌病害に影響のあるpH、y1(土壌中のアルミニウムイオン濃度)の検診結果を重要視している(図6)。
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図6 pHとy1の推移「沖積土壌、炭カル80kg/10a施用」
(平成12〜16年、普及センター) |
・てん菜作付前に石灰資材を施用している。
・近年、土壌のカリ含量が高い傾向にあり、カリ成分の低いカリ減肥肥料の使用を考えている。
5 てん菜の栽培技術
(1) 栽培品種
・平成13年にほ場の一部で、そう根病の発生が見られたことから、そう根病抵抗性品種「モリーノ」を栽培品種にしている。
(2) 健苗づくり
・多雪地帯であるが、健苗づくりのために早期播種(育苗)、早期移植(本圃)に努めている(図7)。
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・本葉が4〜5枚と多い。
・葉色が濃く肉厚である。
・生重が重く胚軸が太い。
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風害・霜害などに強い
健苗の姿 |
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図7 移植日と収量の関係
(平成17年後志管内、北糖調査) |
(3) 施肥
・近隣農家は窒素過多傾向にあるが、土づくりを行い、土壌分析結果をもとに、適正な施肥に努めている(表7)。
・適正施肥によって、土壌病害の発生は少なく、収量・糖分ともに高く、効率の良いてん菜作りを実践している。
育苗のポイント
○育苗期間:45日間以上
○播種日:3月10日〜15日
※平成18年は豪雪のため、3/15播種となった(留寿都村の18年平均3/18)
○移植日:4月下旬〜5月初旬
※平成18年は5/2移植(留寿都村の18年平均5/10)
○育苗のポイント
・育苗土は、てん菜の生産履歴のない土壌(山土)を使用する。
・育苗土は、pH6.2を目標に炭カルを施用する。
・苗枯病を発生させないために、育苗土にニューソイルメークなどの有機物を補給
する。
・発芽揃いを良くするために、暖かい日向水を十分に灌水する。
・スミセブンP液剤散布後、過乾燥させないよう適宜に灌水を行い根張りを良くし
ている。 |
(4) 除草(平成17年)
・ほ場の管理を徹底しているため、雑草量は少ない。
・雑草を少なく維持することで、除草剤費用、除草にかかわる手間をおさえている。
・除草剤使用回数は1回で、手取り除草(種草とり)も1〜2回程度である(表8)。
・除草を兼ねて、カルチを2〜3回実施する。
(5) 病害虫防除(平成17年)
・病害虫防除は、褐斑病の定期防除を基本にし、ヨトウガなどの害虫は発生状況を観察して行っている(表9)。
・平成17年は、高温で降雨量が多かったため、病気の発生が懸念されたこと、ヨトウガが目立ったことから、例年より防除回数が多くなった。
6 安定生産の要因
・多雪地帯であるが、育苗期間を確保し、健苗づくりを確実に行い、早期移植を実践している。
・堆肥投入や緑肥栽培で、気象変動に強い土づくりを進めている。
・石灰資材の施用で、生育の安定化を図っている。
・4〜5年の輪作体系により、土壌病害の発生を回避している。
7 コスト低減に向けての今後の取組
(1) てん菜の直播栽培導入へ
現在は留寿都村平均より経営面積は小さいが、今後経営規模の拡大を考えている。所得向上のために、だいこんなどの露地野菜部門の充実を図るとともに畑作部門の省力化、コスト低減に力を入れる。
てん菜では、ビートプランターの更新時期が近づいていることもあり、春作業の省力化とあわせ、直播栽培の導入を検討し、生産コスト低減をめざす。
(2) 肥料コストの低減へ
複合経営のメリットを生かし、肉牛部門から出る有機物を有効に活用し、てん菜生産など作物生産でウエイトの高い肥料費のコスト低減をすすめる。
(3) 機械費の低減へ
農業機械への投資をできるだけ抑えているが、作業の受託や機械の共同利用を拡大し、農業機械にかかわるコスト低減を目指す。