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漬物作りと砂糖

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2000年5月]
 元々、旬の野菜を保存するために考え出された漬物は、塩や砂糖の浸透圧を利用して保存性を高めています。しかし、現在では物流システムの向上や新鮮野菜が1年中流通しているため、それだけにはとどまらず、これらの野菜をよりおいしく調理することが重要となっています。砂糖は最も標準的な甘味を呈するだけではなく、天然甘味料であるため消費者の天然志向と合致するもので重要です。しかし、漬物においては、甘味料の形状、甘味の質や色沢への影響等を総合的に判断し、いろいろな甘味料を組み合わせることも必要なようです。

全日本漬物協同組合顧問 農学博士 小川 敏男


漬物の歴史と現況
  漬物の歴史  生産の現況
漬物と甘味料
漬物の甘味と砂糖
  甘味料の甘味度  甘味の特性  甘味料と浸透圧


漬物の歴史と現況

漬物の歴史
 世界中どこに行っても漬物に類するものはあるもので、これを大きく分けると、塩と酢によるものに分けられる。
 わが国では、酢(酸)によるものは少なく、塩によるものが多い。みそ漬やしょうゆ漬のようなものも、含まれている食塩分によって、保存性が高まっている。西欧のピクルスは酢漬が主で、最初は野菜にワインをかけたサラダから始まり、やがてワイン酢を使って酢の保存漬になったという。
 塩がなくても、海水でも漬けられるので、漬物の歴史は古く、縄文の時代から、海辺に住んでいた先住民がカメに海水を汲んで、山菜などを漬けたに違いない。
 やがて6世紀の頃から大陸との交流が盛んになり、こうじを利用した醸造技術が伝来し、本格的な酒やみそ、しょうゆなどが作られるようになって、これを利用した粕漬、酢漬、醤漬ひしおづけ(みそ漬、しょうゆ漬)など旨味のある調味漬が作られるようになった。
 1,000年程前の平安時代に編纂された「延喜式」の「内膳の部」というところに、当時の宮中の宴に出された漬物49種が書かれ、原料は野菜のウリ、ナス、カブなどの外は、ナズナ、ワラビ、アザミ、セリ、フキ、ハス、ギョウジャニンニク、マタタビなどの山菜が多く、調味料としては酒粕、みそ、しょうゆが使われ、当時は甘味料は全く使われていなかった。江戸時代は「何はなくとも香りのもの」の通り、漬物の花盛りで、漬物を書いた文献も多いが、甘味料としては、米こうじ(甘酒)が使われ、砂糖は貴重で一部の高級品の甘露漬などに使われるにすぎなかった。
 砂糖が漬物に広く使われるようになったのは、明治に入ってからである。

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生産の現況
 漬物は主婦が自家用に漬ける家庭漬とメーカーが製造する市販漬に分けられる。30年程前には前者が多かったが、今では後者が主になっている。一夜漬、浅漬などは家庭漬とされていたが、包装の改善、低温流通の進展によって、今では市販漬が主流を占めるようになった。
 元来、漬物は季節性のある野菜の保存食品として生まれたが、今は年間を通じて新鮮野菜が出回るようになったので、漬物の役割も、これらの野菜をよりおいしく調味する役割を果たすことになり、低塩分の浅漬が大きな伸びをみせている。
 消費動向をみると総務庁統計局「家計調査報告」では図1のように健康志向の波に乗って、梅干しや低塩分の浅漬が伸び、古くからのたくあんが減少している。

図1 1世帯当たり年間の梅干・たくあん・白菜漬の3品目の購入数量
1世帯当たり年間の梅干・たくあん・白菜漬の3品目の購入数量

 図2は平成11年度のメーカーによる年間生産量で、114万トンとなっている。種類別をみると、新漬類とキムチで全生産量の43%を占めている。これら浅漬は、30年程前には全体の10%程にすぎず、塩分の高い古漬が大半であった。キムチは韓国では浅漬に類するものであるが、わが国の市販品では20年程前には極めて少量であったが、最近の健康、激辛ブームに乗って急速な伸びをみせ、種類別にみると、新漬を抜いて市販漬の22%を占めて首位になり、本場キムチとして韓国からの輸入も伸びている。

図2 平成11年の漬物生産量
平成11年の漬物生産量

 図3は近年の生産額の推移で、10年前までは伸びをみせていたが、近年は横ばい傾向で5,563億円となっている。府県別の生産額は、和歌山県が首位で、長野、愛知、栃木、埼玉、新潟、京都、宮崎などの順になっている。10年程前は愛知県がトップであったが、健康と地域特産志向を受けて、梅漬の和歌山県、野沢菜の長野県が脚光をあびて、上位にランクされるようになった。

図3 全国漬物製造額
全国漬物製造額

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漬物と甘味料

 食品の味は5味と称される塩、甘、酸、苦及び旨味に加え、辛味や渋味があり、旨いかどうかはいかにこれらの味をおのおのの食品に応じてバランスをとるかにある。わが国の漬物は塩漬から始まっているが、薄塩で漬けると乳酸発酵でたちまち酸味が出てくるので、塩味と酸味が漬物の味で、その他の味は少なかった。
 奈良時代の正倉院の宝物に砂糖が貴重な薬剤として残されているそうだが、平安から江戸時代に入っても、漬物に甘味料はほとんど使われていない。昔は甘味といえば、飴と雨葛煎(あまづらせん)位なもので、とても漬物には回ってこない。甘味では、菓子が本命だが、そもそもは水菓子のような果物が菓子のはじまりで、やがて中国から砂糖が持ち込まれ、砂糖入りのものを唐菓子と言った程であった。
 江戸は中期の頃から、沖縄や鹿児島等で甘しゃが栽培されて黒砂糖が出回った。しかし、一般漬物には甘味としては米こうじ、甘酒などが使われる程度で、大根のこうじ漬がべったら漬のはじまりとされ、江戸時代中期からのものである。田舎漬に、熟柿や干した柿皮を使うものがあるが、生活の知恵から生まれた漬物の甘味漬であった。江戸時代の砂糖入り高級漬といえば、梅砂糖漬、梅干砂糖漬、甘露梅、甘露漬生姜、甘露漬ふきのとう、というのがあった。甘露梅は梅のしそ巻の砂糖漬で、お茶受け向きのもので、次のような江戸小咄がある。遊廊吉原でひいき筋にこの甘露梅を配ることが流行した。配られた家の女房が亭主の内緒ごとを知り、「焼きながら女房の食べる甘露梅」という川柳がある。
 漬物の調味技術になるが、表1のように、重点とする味には調味技術を集中しなければならない。しょうゆ漬、みそ漬等旨味を重視するものは旨味に富んだ風味のよいしょうゆやみそを使わなければならない。
 さて、甘味は漬物には多かれ少なかれ望まれる味である。特に福神漬、らっきょう甘酢漬、奈良漬、たくあん漬では甘味が風味を左右するので、甘味料の調味は重視する技術である。
 塩味は健康志向の中で、ナトリウム摂取過剰の問題となり、その低塩化が進み、甘味が塩味と酸味の調和に重視されるようになった。

表1 漬物の種類と風味の構成

種 類 塩 味 甘 味 酸 味 うま味 辛 味 香 味
しょうゆ漬
福神漬
らっきょう漬
みそ漬
奈良漬
わさび漬
辛子漬
山海漬
しば漬
うめ漬
たくあん漬A
  〃  B
  〃  C
キムチ





 
 
 





 








 
 








 
 
 



















 
 
 
 



 
 
 
 
 













注:◎○△の順に味の主体性をあらわす。

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漬物の甘味と砂糖

 ニューギニアを原産地とするさとうきびが7世紀の頃から急速に世界に広がったとされる。しかし、わが国では江戸時代の頃でも、砂糖は貴重な存在で、堺の輸入薬問屋が扱っていた程であった。
 やがて、江戸時代の中期、沖縄を通じて南九州に栽培が伝わり、黒砂糖が薩摩の高収益の特産になったと言われるが、とても一般には手に入らない代物であったろう。まして、毎食庶民が口にする漬物の調味に使える存在ではなかったようだ。
 明治に入り、外国との貿易が盛んになり、自由に大量の砂糖が輸入され、急速に菓子や漬物などに砂糖が使われるようになった。今は甘味といえば砂糖を指すようになったのだが、近年甘味物質の研究が進み、多様化した甘味料が出回り、漬物の調味にも新しい問題ともなっている。

甘味料の甘味度
 砂糖の甘味の強さを1として、他の甘味料の甘味を比較すると表2のとおりとなる。一般に、人工甘味料は甘味度が高いために、コスト軽減のために使われる場合が多い。人工甘味料は弱い甘味を出すには甘味度が高いところが発揮できるが、強い甘味を出す場合は甘味度が低くなる。言い換えれば、高い甘味を出す場合は、砂糖に比較してあまり効果がないということになる。サッカリンの場合、砂糖の3%の甘味を出す場合は、600倍近くの甘味度を発揮するが、10%の甘味を出す場合は、200倍以下の甘味度に落ちるのである。
 表のようにグリチルリチン(甘草成分)、ステビオサイドなども同じ傾向にある。これらの各種甘味料を併用することによって、お互いに甘味度の高いところが活用され、相乗効果が期待されるわけである。

表2 甘味料の甘味度

 種 類   甘味度   種 類   甘味度 
砂 糖
ブドウ糖
果 糖
麦芽糖
ソルビット
1.0
0.6
1.2
0.4
0.6
甘草エキス
グリチルリチン
サッカリン
ステビオサイド
アスパラテーム
20〜60
200
70〜600
80〜250
200

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甘味の特性
 甘いと言っても、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ソルビット、各種人工甘味料等おのおのの甘味に特徴をもっている。砂糖が最も標準的甘味とされているが、他の甘味と併用すれば豊かな甘味にすることにもなる。
 図4は口中に入った甘味を感ずる経時的変化を示したものである。砂糖が標準的で、グリチルリチンは最も後に引く甘味をもっている。塩味や酸味は後に残る味であるから、これらとのバランスを取るためには、砂糖を主にして、持続性をもつ甘味料を併用することが望ましい。昔からしょうゆ漬や甘口たくあんに甘草が使われたが、これら持続する塩味とのバランスをとるために使われたものであろう。

図4 甘味の経時的な変化
甘味の経時的な変化

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甘味料と浸透圧
 塩、砂糖などの溶液は、高い浸透圧をもっている。この浸透圧は、食品の防腐、脱水、形状、色沢、歩留りなど多面に影響を及ぼす。漬物では塩漬、粕漬(アルコール)、砂糖漬などいずれも浸透圧によって保存される食品である。塩は最も浸透圧が高く食品の添加に向いていたので、漬物をはじめ、みそ、しょうゆ、塩辛、塩干物などに使われるようになった。梅の砂糖漬類、ジャム、菓子類には砂糖の浸透圧で日持ちするものが多い。
 漬物の浸透圧は塩によるものが主であるが、粕漬のように塩とともにアルコールと糖分が浸透圧の役割を果たすものもあり、福神漬は塩と糖分の浸透圧により保存性をもつ。食品の浸透圧は、これらに含まれている塩、アルコール、糖などの合計された浸透圧が保存性を左右する。表3は砂糖の浸透圧であり、図5は各種調味料の濃度と浸透圧を表したものである。糖の中でも単糖類は二糖類のショ糖、麦芽糖の約2倍の浸透圧をもっている。
 しかし、漬物の場合、必ずしも浸透圧が高い方が良いとは限らない。野菜を塩や砂糖で漬けた場合、急速に浸透圧を高くすると、野菜から水分が引き出され、脱水が激しく表皮の皺シワが多くなり、原形を損じ、歩留りも悪くなる。
 「青葉に塩」という言葉があるが、塩漬にすると、塩の浸透圧で野菜が脱水し、しんなりとなる状態を言ったものである。べったら漬には、甘味料として砂糖を20%近く使うが、急速に浸透圧を高くすると、大根の脱水が激しく、歯切れを害し、歩留りも悪くなるので、砂糖を数回に分けて調味することで解決する。徐々に浸透圧が高くなってくるからである。梅の焼酎漬に氷砂糖が使われるのも、氷砂糖は固形状なので、徐々に溶解し梅の収縮するのを防ぐからである。また、梅実の表皮に針で小穴をあけると梅実の原形を保つのも、浸透圧を和らげるための知恵である。

表3 ショ糖溶液の浸透圧
ショ糖(%) P30℃(気圧)
5
10
20
30
40
50
60
66
75
3.75
7.75
16.6
29.8
44.8
64.7
91.1
109.1
148.8

(20%までは小川氏の算出式に、30%以上はモーアの実測値によった)
図5 各種溶質の浸透圧
各種溶質の浸透圧

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むすび

  砂糖など天然糖甘味料は天然志向の中でますます漬物の調味に重要な役割を果たしている。 食品の調味には甘味料の特性を活かして、 合理的な製造と製品の品質の向上を図らなければならない。 甘味料の選択には、 液状、 結晶の大小、 甘味の質や色沢への影響等各面から検討される。  そして、 天然糖甘味料もこれらの用途面に対応した甘味の質、 溶解性など、 様々な甘味製品が望まれてこよう。

参考文献
 (1)小川敏男 「漬物製造学」 (1988) (光琳)
 (2)小川敏男 「漬物と日本人」 (1997) (NHK出版)

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「今月の視点」 
2000年5月 
砂糖の価格安定等に関する法律及び農畜産業
振興事業団法の一部を改正する法律案について

  農林水産省食品流通局砂糖類課
日本人の食と健康
  山梨医科大学第一保健学教室教授 佐藤章夫
漬物作りと砂糖
  全日本漬物協同組合顧問 農学博士 小川敏男

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