[2000年7月]
【〜 西之表市の長期振興計画と九州農業試験場の取り組み〜】
沖縄県及び鹿児島県南西諸島において、 基幹作物となっているさとうきびは、 近年高齢化等によりその栽培面積は減少傾向を示しています。こうしたさとうきびを単に砂糖の原料作物として位置付けるのではなく、 その副産物等を有効に利用するためのネットワークが不可欠であるとのこと。そうしたネットワークを効果的に機能させるための品種開発が、 九州農業試験場では行われています。こうした、 品種開発の現状とそれに至る考え方等について杉本明氏に執筆していただきました。
九州農業試験場作物開発部
さとうきび育種研究室長 杉本 明
はじめに
世界の砂糖のおおよそ6割はさとうきびから作られる。南北回帰線の内側、 熱帯・亜熱帯の国々の多くはさとうきびの産地であり、アジア、 アフリカ、 南北アメリカ、 オセアニア各地でその緑を見ることができる (写真1)。製糖に化石燃料が不要なこともあって島々における生産も多い。
日本の場合、 砂糖消費量のざっと3割が国内産、 その3割すなわち消費量のおおよそ1割が南西諸島のさとうきびから作られる (写真2)。さとうきび栽培の始まりは沖縄、 産業化は1623年儀間真常(ぎましんじょう)による黒糖製造技術の導入に始まるといわれる。江戸幕府の督励によりかつては関東地方でも作られたというが、 現在では主産地南西諸島の基幹作物あるいは本土への地域特産品としてみることが多い。沖縄本島、 宮古島、 石垣島、 久米島、 大東島等沖縄県下でさとうきびの生産量が比較的大きな島々や、 鹿児島県下の南西諸島では分みつ糖が製造され、 与那国島、 波照間島、 多良間島、 伊平屋島等生産量の比較的小さな沖縄の島々、 鹿児島県南西諸島の一部、 静岡、 岡山、 宮崎などのさとうきびからは含みつ糖 (黒糖) が製造される。香川、 徳島は名高い和三盆の産地である。
台風・干ばつの常発、 機械の導入が困難で土砂流出が起こりやすく、 痩せて、 狭く、 傾斜した圃場など、 南西諸島の自然環境は農業生産には厳しい点が多い。第1図からは、 収量・品質の変動が大きく、 さとうきびが気象の影響を受けやすい状態にあること、 すなわちその栽培が地域の気象条件に十分に適応しえていないことが分かる。長期にわたり基幹作物として君臨してきたさとうきびも、 収益性の停滞、 機械化の遅れや高齢化による農作業遂行の困難等を背景に栽培面積は急速に減少している。
本土各地から種子島・奄美・沖縄へ、 機中から見る琉球弧の島々は青に浮かぶ緑の地、 海の花飾りのようである。視野に濃い緑は照葉樹の森、 淡い緑は牧草、 青みを帯びた緑はさとうきびの圃場である。その緑は島を護るのだろうか。琉球弧・日本列島にさとうきびがあることの意味、 食品として、 工業原料として、 家畜飼料として、 緑の風景、 草木染めの染料として、 さとうきびが地域社会に果たし得る役割を考えてみたい。
写真1 ジャワ島のさとうきび
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写真2 奄美大島北部のさとうきび圃場
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I.西之表市の長期振興計画とさとうきび生産
西之表市は渡瀬線 (日本列島周辺の動植物地理分布上の重要な境界線) の北、 温帯と亜熱帯との境界に近く、 海峡の向こうに大隅半島の山々が遠望できる種子島の北部にある。人口はおよそ1万9,000人、 農業、 漁業を主体とする第1次産業の地である。青壮年の出郷が多く、 高齢化・過疎化の亢進に悩む地の1つでもある。連なる丘は照葉樹に覆われ、 春は桜、 初夏には鉄砲百合が青い海に向かつて咲き、 秋には遠い南から来るうねりと北の風が出会ってできる白い波が踊る地である。若者にはサーフィンの町として名高い。4月中旬には茶の収穫が始まり、 5月の田に稲がそよぎ、 7月には早い収穫を迎える。サヤエンドウ、 ソラマメに始まり、 ツワブキ、 アザミ、 ハマセリ、 タケノコ、 ガジュツ、 フリージアの収穫が続く。秋は芋でんぷん、 芋焼酎の製造で賑わい、 12月から4月の間は製糖工場が甘い香りと煙を吐く。集落には畜舎が見え隠れし、 和牛 (繁殖用) 生産農家が多いことがうかがえる。酪農も盛んで、 冬の期間さとうきびの梢頭部を粗飼料とするおいしい牛乳を島外に移出している。海浜の恵みも豊かな西之表市は原料分みつ糖用さとうきびの最北端の産地である。
西之表市の2010年に向けた長期振興計画の柱は 「オーシャンプロムナード」、 「南海のアルカディア」、 「アイランドツーリズム」 の3本である。「オーシャンプロムナード」 は基盤整備・まちづくり、 「南海のアルカディア」 は健康・福祉のプロジェクト構想であり、 農林水産業を中心とする産業振興は 「アイランドツーリズム」、 ものつくり・仕組みつくり構想として計画されている。計画の基本理念は 「種をあかせば、 島は小さな地球、 ルネッサンス西之表」 とされ、 海で外界と隔てられた地域として物心の循環と交流の重要性をうたっている。
1. 「アイランドツーリズム」
西之表市の長期振興計画にある 「アイランドツーリズム」 とは、 産業間ネットワークによる価値の創造及び産業の多面的意義の評価と支援を軸とする産業振興構想である。半閉鎖系内での物心の循環と域外からの流入・流出の均衡をうたう長期振興計画の理念 「島は小さな地球」 を実質的に担う計画の中心的構想であり、 その基本の第1に、 西之表市における産業とは市民が行う価値創造活動の総体を指し、 福祉、 教育等への貢献も産業の本来的な任務の1つとして視野に入れるとうたっている。次に、 西之表市の産業は農・林・水産・商・工・観光業間のネットワークに基づく付加価値創造型事業として存在するとし、 さらに、 産業活動を担い、 かつ、 享受する主体は交流型市民 (他地域の定住者で物心の交流により西之表市と関わりを持つ者) を含む西之表市の住民であり、 行為の担い手と利益の享受者は合致したものとして存在するとしている。環境の保全と高齢者の参加を第1におき、 技術開発は労働負荷・環境負荷の低減を目標とし、 その成果を教育・文化の充実、 国際的な研究会の開催につなげるとしている。このことは、 農林水産・商・工・観光一体となった商品開発の推進及び景観創出・環境保全に寄与する技術開発・圃場・漁場・林地・工場・市場・事務所への支援、 高齢者等の健康維持・社会参加に寄与する産業の展開への支援、 児童・生徒の教材としての利用に寄与する食材・資材生産への支援など、 産業の多面的意義の評価と行政・業界一体での支援、 さらに、 滞在型観光を推進して交流型市民の生産・消費活動を活発化することにつながっていく。
アイランドツーリズム構想の下での農業振興は次のように読みとることができる。
第1に西之表市における農業は産業間ネットワークによって他産業と一体的に推進されること、 すなわち、 農林水産商工観光複合産業の基礎として、 健康的でおいしく廉価な自給作物、 地場産業の創出につながる加工作物、 観光宣伝に有効な域外との流通作物の産地を形成し、 それに対応した加工業、 流通業の育成と商圏の拡大を図ることである。また、 環境保全型生産を圃場のみではなく地域全体に拡大して考察し、 農業を通して西之表市全域の景観創出と居住環境の維持向上を図ることである。
さとうきびの振興も商工観光との一体的推進を前提とし、 分みつ糖製造原料の安定的確保とともに、 ジュース、 黒糖、 甘蔗酢、 ラム酒、 発泡酒等の食品生産、 梢頭部の飼料化、 製糖副産物の高付加価値化など、 多目的利用を進める。また、 高収益作物生産を環境保全型農業として推進するためのさとうきびの利用、 すなわち、 さとうきびとの輪作や間作による野菜・花卉生産態勢の整備、 特徴のある作物産地としての供給体制の整備が重要である。周辺の照葉樹林に映える圃場作り、 環境の多様性維持や景観形成・快適性向上への貢献も要点の1つである。米、 甘しょ、 野菜、 花卉、 茶等についても同様で、 安全でおいしいイモや茶が安く食べられ、 飲めるよう域内供給を改善することや食品加工業を活発化し商圏の拡大を図ることが重要である。「西之表市では夏においしい米があるので食が進む」 との評判を作ることも観光振興への隠れた貢献であろう。水田、 照葉樹林と海が彩なす美しい景観は西之表市の特徴の1つであり、 その維持は産業振興の重要事項である。乳用牛・酪農は、 地域内供給を基盤として域外に出荷するというモデルケースの1つであり、 粗飼料生産からの一貫飼養による種子島ブランド創出の可能性を追求する。今後は採草地、 放牧地、 畜舎を配したのびやかな景観形成を目指すことも重要であろう。流通対策としては、 市街化地域と生産地域の融合的発展を視野に入れ、 産業間ネットワークに基づく物産・文化複合施設、 情報広場型商店街としての機能を持つ市場の創出を検討し、 特徴ある農産物を常時商品化しうる態勢を整備することが求められる。
その推進には観光業への期待が大きいため、 「農林業活動」、 「環境保全活動」 など、 農業にも多様化する観光ニーズに応えうる展開が求められる。島での農業労働を滞在の原資とする観光商品に対応する場の創出、 すなわち 「農業体験」、 「山林 (海浜) 整備体験」、 さらに、 畜産、 圃場作業支援等について、 数年に及ぶ 「滞在型観光」 への対応が必要となろう。
II.構想の実現に必要なこと
―さとうきびの新しい生産技術と品種特性―
この構想の中で、 さとうきびには、 良質・安定・多収・機械化適応性等、 これまでの主要な目標に加え、 以下の事項について技術開発が求められる。
まず初めは産業間ネットワーク型さとうきび生産の推進である。その第1となる食品加工・副産物加工産業の創出には、 機能性・栄養性・嗜好性の探索・評価・利用技術、超多収・安定栽培技術、 副産物利用技術の開発が必要であり、 品種には、 安定極多収性、 高繊維分性、 機能性、 食品用高品質性等が求められる。農業内部のネットワーク機能の強化は高収益営農体系の確立に直結する。そのためには、高収益作物との輪作・間作の実施や農畜複合経営の確立に向けた植付け・収穫期間の拡大が重要であり、 極早期・梢頭部機械収穫適性や低温発芽・伸長性を備えた品種の育成が必要である。このような品種を育成することにより、さとうきびの収穫可能な期間が大幅に拡大され、 梢頭部の畜産飼料としての重要性が飛躍的に向上して、 梢頭部は製糖原料の夾雑物 (トラッシュ) から畜産振興の重要な資源にと生まれ変わる。収穫の早期化によって生み出される冬春季の圃場や労働力が、葉タバコ等の園芸作や早期水稲の振興に寄与することも想像に難くない。同時に、 製糖期間の延長や台風・干ばつ等の気象災害の軽減を通し、 製糖産業の安定にも大きく貢献するであろう。
さらに、 観光、 市民生活向上に向けた景観の創出には、 受光態勢の改善、 出穂性向上や小区画圃場における機械化栽培の確立が必要である。交流型人口の招致には、 機械化が困難な単純作業の摘出と作業システムの開発が重要であろう。
第2は環境保全型さとうきび生産である。物質循環機能の高い生産には少資材生産や窒素吸収機能を高めることを目的とした間作の実施が有効であり、 品種には良初期生育性、 多収性、 耐病性や環境適応性、 早期収穫適性等が求められる。また、 土砂流出抑制、 生物多様性の涵養かんよう (島における動植物の種類を減らさない) のためには、 小区画圃場における小型機械による省力・機械化栽培体系の確立が必要であり、 極早期収穫適性を介した小型機械適性品種の育成が求められる。
第3は高齢者参加型さとうきび生産である。それにはまず、 省力・軽労化が必要であり、 環境適応性の高い機械化適応安定生産技術の確立が求められる。そのために必要な品種特性は環境適応性、多回株出性、 小型機械適性等である。作業受委託の推進も重要であり、 労働強度により作業を分類して分担体制を整備し、 軽作業の周年実施と高強度労働の機械化を進めることが重要である。そのためには極早期収穫適性、小型機械収穫適性、 低温発芽・伸長性等を備える品種の育成が必要である。
表4に国際貢献を念頭に置いた教育文化 (地球環境保全への西之表市からの情報発信) 型さとうきび生産を考えたい。地球環境保全の重要事項の1つに熱帯・亜熱帯半乾燥地における持続的物質生産があり、さとうきび栽培におけるその柱は不良環境条件下における安定多収栽培技術の確立である。それには不良環境適応性 (耐干性、 痩せ地適性)、 株出安定多収性等が必要であるが、 これらは種子島での生産にも重要な特性である。小区画圃場における省力機械化栽培技術の確立は、 島嶼部(とうしょぶ) 、 アジア各地における持続的農業技術確立の重要事項であると同時に、種子島におけるさとうきび栽培の中心的事項でもある。
III.さとうきびの作物としての特徴
―新品種育成の可能性を探る―
さとうきびの栽培起源種 (オフィシナルム種) は、 今からおおよそ1万年前、 ニューギニア島周辺で誕生したと言われる (第2図)。その直接の祖先とされるロバスタム種は、 長太茎、 多分げつで、 高い物質生産力が特徴である。さとうきび属にはこの他、 水中や海浜にも見られる野生種、 幼穂を食用にするエデュレ種、 かつての栽培種で和三盆の原料として今も栽培されるシネンセ種、インドで成立したとされるバルベリ種が知られる1、 3)。
第3図にはさとうきびの作物としての特徴を示す。さとうきびは、 吸収した二酸化炭素を濃縮して効率的に使うC4型光合成機能を備え、 要水量 (作物1gを作るために必要な水の重量) が低く根系の発達が比較的豊かであり、 高温強日射条件下ではネピアグラスやトウモロコシに次ぐ高い物質生産力を具えている。内生菌の働きによる窒素固定機能を持つことも明らかにされた。台風・干ばつ等の不良気象条件に比較的適応性が高く、圃場に残る有機物が豊富で地力維持機能が高い上に、 省力的な株出し栽培が可能なため、 南西諸島の基幹作物としても長い栽培の歴史を持つ。目的生産物は茎中の砂糖であり、 糖分の低い梢頭部や、 枯葉、 土壌中の茎は収穫残さとして圃場に残る。工場に集められたさとうきびは、 搾汁・濃縮・結晶工程を経て分みつ糖になる。搾汁残さ(バガス) は製糖工場の熱・電力需要を賄う循環型の自給エネルギー源となり、 余剰のバガスは畜産の敷き料を経て圃場に還元される。分離された糖みつや蔗汁中の不純物は、 飼料や堆肥として利用されることが多い1、3)。現在の実用品種はいずれも砂糖回収率が高いのが特徴であり、 旺盛な物質生産力や不良環境への適応性、 在圃期間調整機能、 副産物多収性、 食品としての高品質性の蓄積は不十分である。
IV.九州農試におけるさとうきび品種の育成
―西之表市長期振興計画への貢献―
1. 極早期型高糖性品種を利用した栽培の革新:農畜複合、 環境保全・景観創出、 高齢者参加による生産
九州農試では平成10年に極早期型高糖性品種 Ni12 を育成した。また、 Ni12 以上の極早期型高糖性を特徴とするKTn94-88、 '95GS系統等を作出し (第1、 2表)、 早期収穫による環境適応型安定多収栽培体系確立の可能性を明らかにした2) 。さらに、 早期出穂性さとうきび野生種の凍結貯蔵花粉を用いて極早期型高糖性のF1系統を作出した。現在、 高糖性実用品種への戻し交雑により、 秋季に収穫が可能な品種の育成を急いでいる。
極早期型高糖性品種を活用した秋植・秋収穫体系は以下の利点によりこれまでのさとうきび栽培を抜本的に変革する技術となることが期待される。その第1は夏植え栽培の利点である台風・干ばつへの抵抗力を維持しながら栽培期間が短縮できることである。収穫早期化は萌芽環境の改善につながり、 株出し栽培の飛躍的な向上を実現する。萌芽の改善によってもたらされる良好な初期生育は、 梅雨時の圃場の植物被覆へと続き、 天水の最大限の利用と土砂流出の最小化を実現するであろう。また、 冬季園芸作への圃場や労力の提供、 家畜への梢頭部供給期間の拡張によって農畜複合体系の基盤が強化されるはずである。
在圃期間の短縮には大量増殖技術に裏付けられた移植苗栽培も有効である。この数年、 生長点培養や腋芽の生育を利用した機械移植栽培が試みられ、 増殖・栽培の基本技術や移植栽培に向けた機械開発が進んでいる。移植苗による多収栽培に有効な無分げつ・長太茎系統や細茎・多分げつの極多収系統は現行の育種操作の中でも数多く出現する。大量増殖・移植苗・密植による極多収栽培は、 在圃期間調整機能の大幅な向上を通して営農多様化への期待も大きいため、 沖縄県農業試験場では移植苗栽培に必要な高度耐干性や耐倒伏性を備える品種の育成を急いでいる。これらの技術開発によってもたらされる作業時期の分散、 栽培期間の短縮は、 労働密度の低減と小型機械による作業体系の前進を通し、 高齢者就農の展開にも寄与することが期待される。
第1表 生産力検定試験供試系統(株出)の10月収穫における特性
系統名
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原料茎長 cm |
茎 径 mm |
1茎重 g |
B X % |
糖度 % |
純糖度 % |
可製糖率 % |
原料茎重 kg/a |
可製糖量 kg/a |
同10月収穫 kg/a |
NiF 8
Ni 12 |
233 236 |
25 25 |
872 964 |
13.9 15.1 |
9.8 12.0 |
70.6 79.1 |
6.5 132 |
807 115 |
52 152 |
57 67 |
KF 92-93
KF 92 T-519
KF 93-174
KTn 94-88
KTn 94-181 |
255 276 244 283 203 |
22 25 27 25 28 |
882 1,094 1,025 1,346 1,071 |
15.3 15.1 15.5 15.9 15.3 |
11.4 11.2 12.3 12.5 11.4 |
74.3 74.4 79.1 78.5 74.6 |
118 117 138 137 122 |
132 137 112 78 102 |
156 160 155 107 124 |
148 85 167 168 99 |
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注1)黒ボク土壌における栽培(1998年10月1日収穫後の株出し)で栽培期間は12ヵ月
2)原料茎重は12月収穫の成績
3)可製糖量は原料茎重に収穫時(10月)の可製糖率を乗じて推定
4)可製糖量10月収穫は10月収穫の原料茎重を乗じて推定
5)可製糖率、原料茎重、可製糖量;NiF 8は実数、他の品種・系統は対Nif 8比
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第2表 スイートソルガムとの交配を利用して作出した多糖性系統('95年系統)の株出し栽培の成績
2.食品用高品質品種育成と加工産業の創出:産業間ネットワークによる付加価値創造
食品加工産業の振興に向けての品種開発も遅ればせながら始められた。九州農試畑作物変換利用研究室は黒糖、 キビ酢等について機能性の探索を始め、 キビ酢の高い抗変異原活性を明らかにした。琉球大学では含みつ糖加工品の開発を進めている。これらの知見を基に、 黒糖、 甘蔗酢、 ラム酒、 発泡酒、 ジュース等、 加工食品用品種の育成を実施したい。
3.極多収性、 副産物多収性、 長期多回株出多収性品種の育成と新産業の創出:産業間ネットワークによる付加価値創造と国際貢献
第3表には、 物質生産力の高い実用向け系統、 種属間交雑で作出した多糖性系統、 長期多回株出し多収性を具えた F1 系統の収穫調査成績を示した。可製糖率は低いが普及品種を上回る糖生産力を具えた系統や、 既存品種の生育が不良である痩せ地において高い糖生産力を発揮する系統が作出されていることが分かる。それらの多くは繊維分が高いことが特徴であるため、 今のところ評価は高いとは言えない。しかし、 副産物利用技術の開発に伴い、 それらが南西諸島の特徴である不良環境に適応性が高く、 副産物多収性を備えた安定多糖性品種に生まれ変わる日は近いのではないだろうか。
第3表 さとうきびの主な実用品種、及び種属間交雑系統の収量関連特性
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注)第1段は黒ボク土壌で春植1月収穫後の株出、第2段は赤ホヤ土壌で春植10月収穫後の株出、
第3段は赤ホヤ土壌で春植9月収穫後の株出、栽培期間は第1段が12カ月、他は11カ月
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注)第1段は黒ボク土壌で春植1月収穫後の株出、第2段は赤ホヤ土壌で春植10月収穫後の株出、
第3段は赤ホヤ土壌で春植9月収穫後の株出、栽培期間は第1段が12カ月、他は11カ月
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おわりに
―新技術の共同開発・開放型共同研究の実践に向けて―
九州農試ではさとうきび及び近縁植物の多収性や不良気象適応性の基盤となる特性を活かし、 多様な特性を持つ系統を育成している。それらの中には、 高温期に収穫が可能な極早期型高糖性系統、 極多収性に基づく多糖性系統、 多回株出多収性系統等、 従来の製糖原料用品種にはみられない特性を備える系統が数多く含まれる。しかしながら、 これらの特性を持つ系統はこれまでのように全てを満足する品種を待望する立場の中では実用化し得ない。実用化のためには副産物利用技術、 新形質を利用した栽培技術、 新類型の機械開発など、 栽培から利用加工に至る多様な技術の開発が必要である。
新技術の効率的な開発には利用者の角度からの検討が有効である。すなわち、 作出された新特性さとうきび品種を用いた実用技術の開発には、 これまでの製糖原料用さとうきびの技術開発ネットワークの充実に加え、 機能性成分、 糖、 繊維分の利用・加工に関する機関、 飼料生産に関する機関等へのネットワークの拡張と連携の強化が必要である。九州農業試験場作物開発部さとうきび育種研究室(種子島) では、 種属間交雑で作出した育成系統の特性をできるだけ早い時期に公開し、 製糖関連企業を中心とする外部機関と共同で技術開発を進めること、 すなわち開放型共同研究の推進を検討している。
参考文献
1.杉本明、1994、さとうきび南西諸島に故郷を探す、砂糖類月報、151、152:17-26、蚕糸砂糖類価格安定事業団
2.杉本明、下田聡、氏原邦博、前田秀樹、2000、サトウキビの株出し栽培における初期生育に及ぼす早期収穫の効果、日本作物学会九州支部会報(印刷中)
3.杉本明編、2000、そだててあそぼうサトウキビの絵本、農山漁村文化協会
「今月の視点」 2000年7月 |
●海外最新お菓子事情 マキコフーズステュディオ主宰 料理研究家 藤野真紀子
●島を飾るさとうきび 九州農業試験場作物開発部 さとうきび育種研究室長 杉本 明
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