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【試験研究機関から】テンサイ黒根病の発生生態と防除対策

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最終更新日:2010年3月6日

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今月の視点
[2000年9月]
【試験研究機関から】

 北海道において輪作体系の中核をなすてん菜においては、近年、根部に黒色湿潤な病斑が発生するテンサイ黒根病の発生が問題となっています。昨年においては、7月下旬から8月上旬にかけての長雨等によって全道的に、黒根病が発生し、根部だけではなく地上部が黄化するなど甚大な被害をもたらし、根重・根中糖分ともに平年を下回る地域が多発しました。
 黒根病は過湿土壌、高温という環境において発生するため、わが国特有の病気となっています。こうした黒根病の病徴、発生環境及び防除対策における現在の研究の進行状況について、北海道立十勝農業試験場の清水病虫科長に執筆していただきました。

北海道立十勝農業試験場生産研究部 病虫科科長 清水 基滋


病 徴   病原菌と発生環境   防除対策



 北海道は昨年、夏場の気温が記録的な高温に見舞われた。このため、てん菜の糖分は全道的に低めとなったが、主産地である十勝や網走管内で根重が平年を上回ったことから、作況は「やや良」という結果となった。しかし、他の産地では同様の傾向とはならず、宗谷を除く道北地域と道央・道南地域では、根重も平年と比較して著しく低下した(図1)。これは、これらの地域で根部の腐敗症状が多発したことが主な原因であったが、昨年の根部腐敗の主体は黒根病であり、近年にない被害をもたらした。
 黒根病は、かつては転換畑を中心とした一部の排水不良地などで問題にされていた病害である。しかし、最近降雨の多い年には、程度の差はあるものの全道的に発生が認められている。さらに数年前、本病原菌によるてん菜根部の新たな症状が確認されたため、近年にわかに注目されるようになった。ここでは、黒根病の病徴、発生生態及び防除対策の概略についてふれてみたい。

図1 支庁別てん菜の根重・根中糖分(平年比) 支庁別てん菜の根重・根中糖分(平年比)

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病 徴

 黒根病の典型的な症状は、黒色で湿潤な病斑が主根の側面あるいは先端部に現れ、腐敗するのが特徴である(写真1、2)。病斑は主に6月下旬から7月に形成され、その後も発病に好適な条件が続くと主根の内部まで腐敗するようになる。重症個体では、地上部が黄化し、萎ちょうするようになる(写真3)が、通常は掘り取るまで発病に気づかないことが多い。最近の研究では、根部表面の褐変粗皮状も黒根病菌によって起こることが明らかになってきた。

テンサイ黒根病の根部症状
写真1
テンサイ黒根病の根部症状(梶山原図)
テンサイ黒根病の根部症状
写真2
テンサイ黒根病の根部症状(梶山原図)
(左から軽症〜重症)
テンサイ黒根病の地上部症状
写真3
テンサイ黒根病の地上部症状(梶山原図)
(激発のため、欠株が目立つ)

 てん菜の根部に発生する病害は数種類知られている(表1)。その中でも根腐病〔病原菌:Rhizoctonia solani (リゾクトニア ソラニー)〕は発生面積や被害の点で重要な病害であるが、外葉の葉柄基部や地際部から発病することが多いので、黒根病とは大まかに見分けることができる。しかし、腐敗が進行した場合には、両者の区別は困難となる。

表1 てん菜根部に発生する主な病害

病 名 病 原 菌 地上部の症状 根部の症状
黒 根 病 Aphanomyces
 cochlioides
軽症:変化なし
重症:しおれ、黄化、枯死
始め水浸状の病斑。後に黒色に腐敗。重症個体では内部まで腐敗するが、軽症では表皮の細かな亀裂。
根 腐 病 Phizoctonia solani 茎葉基部の腐敗、枯死 病斑部は黒褐色の乾腐症状で、表面は亀裂を生じ内部は褐色に腐敗する。地際部分からの発病が多い。
そうか病 Streptomyces spp. 特になし 病斑は始め褐色の斑点で、収穫期に大形の陥没、隆起、あるいはこぶ状病斑を形成。内部腐敗はない。
そう根病 BNYVV
(伝搬者
 Polymyxa betae)
退緑黄化、縮葉、葉脈黄化 細根が異常に増加し、根部維管束が褐変。重症個体では主根先端部がコルク状化する。

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病原菌と発生環境

黒根病の卵胞子
写真4
てん菜の病細根に形成された
黒根病菌の卵胞子
皮のう胞子塊の形成
写真5
てん菜の病細根における
皮のう胞子塊の形成(矢印)
 黒根病の病原菌は、Aphanomyces cochlioides (アファノマイセス コクリオイデス)という土壌糸状菌(カビ)の一種で、北海道内の畑作地帯に普通に存在している。本菌は畑作物では主にてん菜に感染し、それ以外では、ホウレンソウ、雑草のスベリヒユ、シロザなどに感染する。てん菜やその他の寄主植物がなくても、黒根病菌は卵胞子(写真4)という耐久体で7年以上にわたり土壌中で生存が可能であり、通常の4年輪作程度では、本菌は死滅することはない。卵胞子は、てん菜などの宿主の根から分泌される物質に刺激を受けて発芽し、水分や温度条件が良好であれば遊走子(写真5)を形成して根に感染する。感染部位ではさらに遊走子が形成され、感染を繰り返す。したがって、特に連作をしていなくても、通常てん菜の根、特の側根(肥大する主根の側部から伸びる細根)には黒根病菌が感染している。しかし、本菌の感染が常に被害につながるわけではなく、感染の時期や土壌環境条件に大きく左右される。例えば、発芽後間もないてん菜では、黒根病菌は胚軸 (首の部分)に感染して腐らせ、その株は枯死するため大きな被害となる。この症状は、苗の時期に見られることから、苗立枯病という別の病名で呼ばれているが、黒根病菌が起こすひとつの症状である。主に直播栽培で大きな問題となるが、現在では移植技術の普及のおかげで、このような症状が本畑で見られることは少なくなった。しかし、立枯れ症状にはならなくても、移植後に黒根病菌はてん菜の細根に感染する。このとき感染時期が早いほど黒根病が発生する危険性が高く、発生したときの被害も大きくなるようである。調査事例が少ないので、まだ十分な解析はされていないが、昨年の発生実態調査では直播栽培や移植の遅れた場合(地温が高くなるので移植直後から病原菌が活動しやすい)で発生が多い傾向にあるのは、このことも関係しているかもしれない。
 次に環境条件としては、本病は土壌の過湿条件下で多発することはよく知られている。これは本病菌が、水分の多い条件で遊走子を大量につくり、てん菜への感染を繰り返すためである。しかし、土壌の過湿条件だけでは発病には十分ではない。黒根病菌の活動は、25℃前後で最も盛んとなり、これ以下では温度が低くなるほど活動が抑制される。したがって、土壌が過湿条件であっても、地温が高くなければ発生は少ない。北海道農業試験場の実験によると、土壌の過湿条件下で、かつ、地温(−5cm)が20℃以上の場合に、激しい発病が認められている。このように、地温が高い時期に土壌が過湿条件となると黒根病は多発する。
 昨年の黒根病の発生は、7月下旬から8月上旬にかけて集中豪雨や長雨に見舞われた地域で多い傾向にあり、さらに排水不良土壌地帯で深刻な被害に見舞われた。このことは、土壌水分条件が本病の発生に大きく関わっていることを裏付けている。しかし、他の多雨年と異なる点は、この集中豪雨の前後7月から8月にかけて異常な高温が続いたことである。北海道では、夏期に降雨の多い年は冷害年になることが多いが、昨年は例外的であった。このため、土壌の過湿と高い地温という黒根病の発生に最適の条件が揃い、近年にない大発生につながったものと考えられる。

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防除対策

 黒根病の防除対策に関しては、現在道立農業試験場を中心に、国立農試、製糖各社が試験に取り組んでいる。検討されている具体的な防除対策は、抵抗性品種の選抜、有効薬剤の探索とその効果的施用法、透・排水対策などである。
 抵抗性品種の利用については、これまで積極的にこれを選抜し、普及させることはなされてこなかった。これは先にも述べたように、もともと本病が、一部の転換畑などにおける突発性病害であったことによる。しかし近年、主要畑作地帯でも本病は散見されるようになり、さらに軽症の粗皮症状に至っては潜在的にかなりの面積で発生していることが明らかとなった。このため、製糖会社が品種を導入する際には、本病に対する抵抗性に関しても考慮するようになってきた。その結果、最近の品種の本病に対する抵抗性は、かつてのものに比べるとやや高いものが多くなってきている。一方、道立農試では根部腐敗に関連した品種抵抗性の特性検定として、これまで耐湿性や根腐病抵抗性に対して試験を行ってきたが、近年の黒根病の発生状況を受けて、黒根病抵抗性の検定に対してもその必要性が高まっている。しかし本病は、発生の年次間差や圃場内におけるむらが大きいことから、抵抗性の判定が安定的に行えるよう検定法の確立が今後必要である。
 次に薬剤防除については、いくつかの殺菌剤でその効果試験が行われているが、現在のところ特効性を示すものはない。そのなかで比較的効果が認められた殺菌剤については、より防除効果を高めるような施用の方法が検討されている。しかし、本病は気象条件によって発生時期及び量ともに大きく左右されるため、予防的な薬剤施用は無駄になることが多い。また、地上部から病徴が確認できないことは、効果的な施用時期の判断を困難にしている。なによりも、本病の罹病部位が地下部であることは、安定的な薬剤による防除を難しいものにしている。
 これまでに述べたように、黒根病菌は北海道内の畑作地帯に広く分布している。通常の栽培条件でもてん菜の側根に感染しているが、土壌中の緊密度が輪作によって低い状態にある場合には、通常の気象条件では実害をみることはない。本病は、土壌の高温と過湿という病原菌の活動に最適な条件が整ってはじめて主根が侵され、被害を生じるというタイプの病気である。元来てん菜は湿害に弱い作物なので、土壌水分が高い条件が続くと、黒根病の被害以外にも複合的に障害を受けやすくなるものと考えられる。したがって、少量の降雨で過湿状態が続くような畑では、特に透・排水性の改善が重要である。
 ひとくちに透・排水性の不良といってもその原因は様々であり、それに合致した対策が必要となる。本来浸水性が良好な畑地でも、プラウ耕やロータリー耕などの機械作業を長年続けると、作土の直下に不透水層ができる。これを耕盤層と呼ぶが、この耕盤層による透水不良対策には、サブソイラーなどの耕盤層の破壊耕が効果的となる。一方、地形的な条件や土壌的条件により透・排水性が不良な畑では、明渠・暗渠の整備、有材心土破壊や客土施工が必要な場合がある。しかしこれらは、施工に当たって高い投資が必要となるので、簡単に実施できないのが現状であろう。そこで現在、対処療法的ではあるが、より簡易に透排水性を改善させる方法についても検討が始められている。
 以上、てん菜の黒根病の防除対策について、概略を述べた。現在試験中の課題も多く、本病の防除体系はいまだ確立されてはいない。しかし、いずれにしても本病に対しては、単独での特効的な防除手段は望めないことから、種々な発病軽減対策を組み合わせた総合的な防除法の検討が必要である。

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「今月の視点」 
2000年9月 
甘いものはうまいもの
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【試験研究機関から】
テンサイ黒根病の発生生態と防除対策

  北海道立十勝農業試験場生産研究部 病虫科科長 清水基滋

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